Title シバヤギを用いた牛の分娩後における鈍性発情に関する研 究( 内容と審査の要旨(Summary) ) Author(s) 永井, 淸亮 Report No.(Doctoral Degree) 博士(獣医学) 甲第391号 Issue Date 2013-03-13 Type 博士論文 Version publisher URL http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/48017 ※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。 (28) 永 氏名(本(国)籍) 主 指 導 教 員 井 滴 名 東京農工大学 亮(東京都) 教授 学 位 の 種 類 博士(獣医) 学 位 記 番 号 獣医博甲第391号 日 平成25年3月13日 学位授与年月 加茂前 学位授与の要件 学位規則第3条第1項該当 研究科及び専攻 連合獣医学研究科 秀 夫 獣医学専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 塵 東京農工大学 目 シバヤギを用いた牛の分娩後における鈍性発情に関する 研究 審 査 委 貞 論 主査 東京農工大学 教 授 田 谷 副査 帯広畜産大学 教 授 石 井 副査 岩手大学 教 授 居在家 義 昭 副査 東京農工大学 教 授 加茂前 秀 夫 副査 岐阜大学 教 授 村 哲 磨 文 の 内 容 の 要 瀬 一 善 三都夫 旨 近年,牛の分娩後における繁殖成績の低下が指摘されている。その要因の一つとして鈍性 発情や発情徴侯の微弱化さらには発情時間の短縮などの発情の異常が挙げられている。牛の 分娩後における鈍性発情の発生については,妊娠末期の高エストロジェン環境の影響が示唆 され,プロジエステロン(P4)前感作が発情発現に必要であることが示唆されている。しかし, 血中性ホルモン濃度を測定して鈍性発情の発生機序を検討した研究はなされていない。そこ で本研究では妊娠末期の高エストロジュン環境が鈍性発情をもたらす可能性とP。が発情中枢 のエストロジェン反応性を回復させる可能性についてシバヤギを用いて追究した。 まず,卵巣摘出したシバヤギに妊娠末期を模倣した商用量安息香酸エストラジオール(E2B) 処置(200FLg/kg BW/日,筋注;13日間)とP.処置(腹内徐放剤,P40.3g含有;10日間)を 行い,その20日後に卵胞期を模倣した低用量E2B処置(2〃g/kg洲,筋注;.1回)を行って調 べ,さらに,卵胞期を模倣した低用丑E2B処置前に黄体期を模倣したP。処置(前感作;8日間) を行なって検討した。その結果,商用丑E2B処置期間にE2-17β沸度は2,000-3,000pg/ml, 低用丑E2B処置後に65pg/ml前後の最高浪度をもたらすことが認められた。さらに,商用丑 E2B処置は,低用量E2B処置による発情発現率を減少させ,LHサージの発生率には影響を及ぼ すことなくLHサージの最高浪度を低下させること,さらに,発情を示すことなくLHサージ が発生する鈍性発情に相当する状態を高率に惹起することが明らかになった。しかし,P4前 感作による発情発現の促進効果は確認できなからた。これらのことから,高エストロジェン -188- 環境は,発情中枢と LHサージ中枢のエストロジェン反応性を異なる程度に低下させること が示唆された。また,P。前感作の発情発現促進効果が認められなかったことについては,発 情中枢のエストロジェン反応性に対する抑制が強い場合には,P。の効果が十分に発揮されな い可能性が推察された。 次に,健常なンバヤギにおける分娩後の卵巣周期の再開に伴う発情発現状況とその内分泌 背景を検討した。その結果,P4強度は妊娠初期から6-12ng/mlで推移した後,分娩前2日か ら急激に低下した。E2-17β濃度は妊娠中期から分娩前5日まで20-30pg/mlで推移した後,急 増して分娩前日に100pg/mlのピークを示し,急減した。分娩後の初回排卵は8例において 分娩後8-20日にみられ,その内4例は5-7日後に第2回排卵が起こり卵巣周期を開始した。 鈍性発情は初回排卵時に1例において認められ,その場合のE2-17βおよびLRサージの最高 濃度は9.9pg/ml,9.9ng/mlであり,第1,2回排卵時を全平均した各々22.1±5.5pg/ml (平均値±SD),132.9±16.8ng/mlに比べて低い値であった。これらのことから,鈍性発情 には発情中枢のエストロジェン反応性の低下ならびにE2-17β感作量の不足が関わっている 可能性が示唆された。また,第1,2回排卵時の発情持続時間は12-54時間(平均32.9±16.8 時間)と暗が大きく,発情持続時間と発情開始からLHサージ最高濃度までの経過時間との間 に正の相関(R=0.98,Pく0.01)が認められたことから,発情持続時間の長短には発情開始 時期とLHサージ発生時期の時間的相互関係の長短が係わっていることが示唆された。加えて, 発情発現と LHサージ発生には発情中枢ならびに性腺刺激ホルモン放出ホルモンサージ中枢 におけるエストロジュンレセプター(ER)αの発現程度が関与している可能性が推測された。 そこで,高用量E2B処置を施した卵巣摘出ヤギの視床下部を含む脳領域を採取し,ERαの 免疫組織化学染色を行って調べた。その結果,ERα免疫陽性細胞数は高用量E2B処置により, 発情発現に深く関与することが示されている腹内側核(Ⅴ岨)で減少する傾向が克られた。この ことは,高エストロジェン環境が発情中枢のエストロジェン反応性を低下させることを支持 する。 以上のように,本研究において,妊娠末期における高エストロジェン環境は発情中枢のエ ストロジェン反応性を低下させて発情発現率を減少させるが,LHサージの発生率には影響を 及ぼさないことが明らかになり,分娩後の鈍性発情の発生要因となることが示された。また, 鈍性発情にはE2-17β感作畳の不足が係わっている可能性が示唆されキ。さらに,高エストロ ジェン環境は発情発現に関与することが示されているⅤⅦ1のERα免疫陽性細胞数を減少させ る傾向が認められたことから,発情中枢のエストロジェン反応性低下にはERα発現丑の減少 が係わっている可能性が示唆された。 審 査 結 果 の 要 旨 牛の分娩後における繁殖成績の低下が近年指摘され,その要因の一つとして 鈍性発情などの発情の異常が挙げられている。牛の分娩後における鈍性発情の 発生には妊娠末期の高エストロジェン環境の影響が示唆されているが,鈍性発 情の発生機序を血中性ホルモン濃度を測定して検討した研究はない。本研究で ー189- は妊娠末期の高エストロジェン環境が鈍性発情をもたらす可能性についてシバ ヤギを用いて臨床内分泌学的に追究した。 まず,卵巣摘出シバヤギに妊娠末期を模倣した高用量安息香酸エストラジオ ール(E2B)処置とプロジエステロン(P4)処置を行い,その後に卵胞期を模倣し た低用量E2B処置を行って調べた。その結果,高用量E2B処置は低用量E2B処置に よる発情発現率を減少させ,LHサージの発生率には影響を及ぼすことなく最高 濃度を低下させることが明らかとなり,鈍性発情に相当する状態を高率に惹起 することが示された。また,高エストロジェン環境は発情中枢と性腺刺激ホル モン放出ホルモン(GnRH)サージ中枢のエストロジェン反応性を異なる程度に低 下させることが示唆された。 次に,健常なシバヤギにおける分娩後の卵巣周期の再開に伴う発情状況とそ の内分泌背景を調べた。その結果,鈍性発情は初回排卵時に8例中1例に認め られ,その場合のE2-17βおよびL日サージの最高濃度は他の第1,2回排卵時に 比べて低い値であった。このことから,鈍性発情にはE2-17β感作量の不足が関 わっている可能性が示唆された。また,発情発現とLHサージ発生には発情中枢 ならびにGnRHサージ中枢におけるエストロジェンレセプター(ER)の発現程度 が関与している可能性が推測された。 そこで,高用量E2B処置を行なった卵巣摘出ヤギの視床下部を含む脳領域を 採取し,ERαの免疫組織化学染色を行って調べた。その結果,ERα陽性細胞数 は発情発現に深く関与することが示されている腹内側核で減少する傾向が見ら れ,高エストロジェン環境が発情中枢のエストロジェン反応性を低下させるこ とが示唆された。 以上のように,本研究において,高エストロジ土ン環境は発情中枢のエスト ロジェン反応性を低下させて発情発現率を減少させるが,LHサージの発生率に は影響を及ぼさないことが明らかとなり,分娩後の鈍性発情の発生要因となる ことが示された。また,高エストロジェン環境i手よる鈍性発情にはE2-17β感作 量の不足や発情中枢のERα発現量の減少によるエストロジェン反応性低下が係 わっている可能性が示唆された。 以上について,審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院連合獣医学研究 科の学位論文として十分価値があると認めた。 ー190- 基礎となる学術論文 目:Exposureto、eStrOgenmimickingtheleveloflatepregnancy 1)題 estrus suppresses levelof follicular the phasein the estrogenat subsequentlyinducedby ovariectomized Shiba goats 著 者 名:Nagai,K.,Endo,N.,Tanaka,T.and 学術雑誌名:Journalof Kamomae,H. Reproduction and 巻・号・頁・発行年:59(2) Development ,2013(発表予定) 既発表学術論文 目:Comparisonbetweenlactatingandnon-1actatingdairycows 1)題 on 著 者 follicular growthand endocrine patterns hormonein the corpusluteum of ovarian estrous Science 巻・号・頁・発行年:134(3-4):112∼118,2012 -191- andluteinizing cycles 名:Endo,N.,Nagai,K.,Tanaka,T.and 学術雑誌名:AnimalReproduction steroids development,and Kamomae,H・
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