イボ天神様

落合昔ばなし紙芝居③
おちあいあれこれ作
おちあいあれこれ
岡本和代作
篠田邦子画
イボ天神様
イボ天神様
(新宿区西落合)
一
昔、西落合が、くずがや(葛が谷)と呼ばれていた
頃のお話です。
村の先達勝五郎おじいさんの昔語りによりますと、
葛が谷村の坂下の天神山と呼ばれた小高い丘の雑木
林の中に天神さまが祀られていました。
村人はいつの頃からか、なぜか
「いぼ天神さま」
と呼ぶようになりました。
二
隣村の江古田村に、コブ長さんというお方がいて、
顔に大きなコブがあり大変悩んでおりました。
そんな時、風の噂で、
「葛が谷村の天神様は、いぼに似たできものには大変
ご利益があるらしい」
という話を小耳にはあさんだコブ長さんはさっそく、
「わしもこのコブがとれるようお願いしてみよう」
[
三
コブ長さんは、葛が谷の天神様に、雨の日も風の
日も、くる日もくる日もお願いに通いました。
そしてある日のこと、いつものように天神様にお願い
しようとお賽銭をあげました。すると…。
四
「アレ!アレ!」
お賽銭と一緒にコブ長さんのコブが、
「コロコロッ」
と賽銭箱の中に落ちました。
五
「アレ!とれた!とれた!コブがとれた!」
コブ長さんは信じられないという気持ちで天神様に、
「ありがとうございました!
ありがとうございました!」
と何度もお礼を言って江古田村にとんで帰っていきまし
た。
六
それから、
「葛が谷村の天神様に願掛けしたら、コブ長さんのコ
ブがころころと落ちたんだってよ」
「エエ!ホント!ホントかね」
と噂は広がり、やはり葛が谷の隣村の長崎村に住んで
いるコブ源さんにも届きました。
七
コブ源さんも、コブ長さんと同じように、
「どうかこの腫れ物がなくなりますように」
と一心に念じながら雨の日も風の日も、くる日もくる
日も、川筋を歩き、雑木林をくぐりぬけて小高い丘
の上の天神さまに通ってお願いしました。
八
八
そしてある日、不思議なことに、正直者のコブ源さ
んにも、天神さまはみごとにお賽銭と一緒にコブを賽
銭箱の中に落としてくれました。
九
コブ源さんも、
「コブがとれた!コブがとれた!」
と叫びながら大喜びで長崎村にとんで帰っていきまし
た。
十
その後、天神様は天神山から移されて、葛が谷御
霊神社の奥の院に祀られるようになりました。時代が
変わっても、
「いぼ天神さま」
の噂は現在に至るまで人々に伝えられています。
「できものができたら、葛が谷の天神様にお願いしてご
らん。天神様の前に積んである小石をいぼにあててお
願いすると、いつのまにかとれてるよ。
願いが叶えられたら、新しい小石をきれいに洗ってな。
天神様の前にお供えしておくんだよ」
おしまい