略歴 1979 年 東京都歯科医師会付属歯科衛生士学校卒業 2003 年 ロンドンおよびイエテボリにて 4 ヶ月間留学 2004 年 有限会社ハグクリエイション設立 2007 年 日本口腔インプラント学会認定 専門歯科衛生士 2009 年 日本歯科大学東京短期大学 非常勤講師 2011 年 東北大学大学院歯学研究科博士課程 口腔生物学卒業 口腔科学修士 柏井 伸子 先生 インプラント周囲炎 -その実態と対処法- 有限会社ハグクリエイション 代表 柏井 伸子 歯科衛生士として口腔外の感染対策である使用済み器材の洗浄・消毒・滅菌に取り組むと同時に,口腔内 の感染症対策として SPT(Supportive Periodontal Therapy)にも科学的見地からのアプローチが必要です。 歯科臨床において,これまでなされてきた経験や習慣に基づいた処置では,なかなか解決できないことがで てきており,その一つがインプラント周囲炎に関する問題です。口腔内における疾患の多くが感染症であり, それに対しエビデンスに基づき継続的に管理しなければなりません。天然歯もインプラントもより長期的に 活用するためにはどうすればよいのか,歯牙喪失原因や生活習慣,家族構成や社会性など一人一人の患者さ んの特徴を把握して,「必要な事を必要な時に必要な処置を実施する」設定を行います。しかしその実践には 定期的な通院が不可欠で,インプラント治療に着手する前からのコミュニケーションが重要で,その際には 長期にわたる管理が必要であることを十分に認識させなければなりません。なぜならば何かリスクがあるか らこそ歯牙を喪失し,インプラント治療が選択されることになっているからで,患者さんに寄り添い心を通 わせるためのコミュニケーション力が求められてきます。 患者さんにとっては天然歯もインプラントも同一口腔内に存在し,どの部分が天然歯でどの部分がインプ ラントかわからなくなっていることもあります。それほど無意識に体の一部として活用されているというこ とは嬉しい限りですが,より QOL(Quality of Life)向上のために,その機能性・審美性・社会性を維持し 続ける必要があります。天然歯は齲蝕や歯周疾患から,そしてインプラントはインプラント周囲粘膜炎や周 囲炎から守るために,その要因となるバイオフィルムをいかにコントロールするかに重点をおいた提案・契 約型の指導を行います。まず歯牙喪失原因を糸口に,個々の患者さんに合わせたメインテナンスプログラム を考えます。セルフケアとしては歯ブラシ・歯間ブラシ・フロス・歯磨剤などのツールの選択と使用方法の 説明・習得,食事指導などです。またプロケアとしては来院時における処置内容や通院間隔について説明し ます。これまでの慣習や思い込みから脱却したセルフケア&プロケアの立案・説明・理解・約束という手順 を組立て,患者さん自らが問題意識を持ち,他人事でなく自分自身のことであるという認識のもと,積極的 に取り組むことで,インプラント周囲炎の恐怖から脱却していくことができるのです。 ― 105 ―
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