第8章 車いす等の姿勢保持装置について

第8章 車いす等の姿勢保持装置について
本校の児童生徒が学校に来ている間・・・一番長く時間を過ごすのは,多くの場合,
車いす等に座っている状態ではないでしょうか?
一言で車いすといっても使用法や目的などは様々です。肢体不自由の児童生徒
の多くは,車いす等で学校生活をおくっています。したがって,車いすの機能は学
校生活を充実させる上で重要な要素です。
この章では,車いすや姿勢保持装置について概論をまとめたもの,及び自立活
動だよりの記事から構成しています。また,併せて肢体不自由特別支援学校である
本校が保有している様々な姿勢保持用具一部を活用事例とともに紹介しています。
※保管場所,保有数については平成 27 年2月現在
1 車いす等,座位保持(姿勢保持)装置について
2 ウォーカー(歩行器)類について
3 立位台類について
4 その他の姿勢保持装置,用具について
5 車いす等使用の留意点(自立活動だよりより)
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1
車いす等,座位保持(姿勢保持)装置について
ア 車いす等について
車いすは,移動を主たる目的に利用されるもので,自走タイプと介助タイプに分類されます。自走タイプは車輪の径
が大きく,ハンドリムが装着されており,自力で移動することができるように作られています。片方のハンドリムのみで両
輪を駆動するタイプや,簡易のモーターユニットとバッテリーを装着した簡易型電動車いすというタイプもあります。介
助タイプはリムが無く,利用者の手が車輪に届かないように小径化したり,車輪カバーで覆うなど,安全に配慮してあり
ます。ブレーキは自走タイプでは利用者自身が操作しますが,介助タイプでは介助者のみが操作できるようにしてあ
るものがほとんどです。
実際に子どもが利用するには,完成された規格品では子どものニーズに応ずることが難しいために,各種パーツを
組み合わせて作るモジュール型車いすといわれるタイプをベースに,個人のニーズに応じたオーダーメイドで製作さ
れています。
自走タイプ
イ
介助タイプ
簡易型電動車いす
モジュール型車いす
座位保持(姿勢保持)装置について
一定の姿勢(座位等)を自力では保つことが困難な人が,適切な姿勢を保持するための装置です。これらの活用に
より心肺機能の活性化を図ることや,様々な反射や筋緊張を抑制しリラックスした状態を保ちやすくし,身体各部の変
形や拘縮を予防することができます。また適切な姿勢を保つことにより,運動感覚機能の向上や平衡反応をはじめ,
姿勢反射の維持,認知や上肢の操作性の向上などが期待されます。
車いすと同様に既製品もありますが,大半は,子どもの状態に応じた多くのオーダーメイドパーツの組み合わせから
構成されたモジュールタイプで製作されています。構造的には座面背面が一体成形されたモールドタイプと,布張り
で構成されたスリングタイプ,両方の要素を兼ね備えたものなどに分類されます。モールド,スリングとも一長一短があ
り,状況に応じて適切な構造を選択することが重要です。リクライニングやティルト機能を備えているものがほとんどで,
長時間,快適に姿勢を保持し続けることができるように工夫されています。また屋内での使用を前提としており,金属
が多用されている車いすとは異なり,木製の部品が使われることが多いことも特徴のひとつです。従来は土台となるフ
レームはいす状の形しか認められていませんでしたが,現在は車いすを土台として座位保持装置を製作することも可
能になりました。
また,平成 13 年度には交付基準の大幅な改革が行われ,座位に類似した姿勢(立位,膝立ち,臥位など)を保つ姿
勢保持装置も座位保持装置として認定されることになりました。
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2
ウォーカー(歩行器)類について
ウォーカー(歩行器)は,ある程度自力での移動が可能な人を対象として自力歩行を支援する
タイプと,自力での座位や立位が困難な人の立位姿勢を保持し移動を支援する 2 種類に大別さ
れます。ここでは本校で活用されているSRCウォーカーとPCウォーカーについて解説します。
名称
使
ウォーカー
用
例
SRC ウォーカー【Spontaneous(自発的)Reaction(反応)Control(調節) Walker(歩
行器)】は,下肢で十分に体重を支えることができない子どもでも立位姿勢が可能
(SRC ウォーカー)
となる移動補助具です。サドルと体幹パッドで上半身を支えることにより,安定した
体幹直立前傾姿勢を維持することが可能となり,様々な抗重力姿勢を経験するこ
とができます。従来の歩行器が下半身で体重を支え,上肢でバランスを取ることが
求められていたのに対して,臥位レベルの子どもであっても,これを活用すること
により,両下肢を後方に蹴り出して移動する体験ができます。多くの子どもがこれ
に跨ると,移動の手段ばかりではなく,生活や学習に対して意欲が高まり,全般的
に自発的な活動が高まります。また身体を起こした姿勢を維持することによる様々
な刺激が,精神的,身体的に良好な影響をもたらします。
SRC ウォーカーのメリットとしては次のようなことが考えられます。
・
容易に体幹直立前傾姿勢を保持することができ,様々な抗重力姿勢を経験
することができる
・
立位の刺激により覚醒レベルが向上し,周囲へ対しての認知力が高まる。
・
頭部が正中の状態を支援することで,視覚が有効に活用しやすくなり,注視
が可能となり,意識集中して外部の情報を取り込むことが可能となる。
・
頭部が正中に保たれることで,前後左右上下,傾斜水平といった周囲位置
環境の知覚が正常化する。
・
下肢の屈伸による移動体験は,成功体験となり,自発的な移動をすること
で,生活や学習に対する意欲が高まる。
・
肩甲帯,上肢の肢位を改善し,上肢の操作性が向上する。
・
頚部の後方への伸展が改善され,正常な嚥下運動を可能にする。
・
頭部や上肢などに随意の動きが表出しやすい。
・
認知力の向上,上肢の操作性向上などの相乗効果により,学校での教育活
動全般において,課題を遂行する能力が向上する。
しかし,その一方で,地面を蹴ることにより移動することから,下肢の筋緊張が
高くなりがちで,強い緊張や過伸展の状態に陥りやすく,股関節へ悪影響を与え
たり,足首の変形や痛みの要因となったりすることも考えられるので,使用にあた
っては医療関係者と連携し,その指示に従うことが必要です。
(PC ウォーカー)
PCウォーカー【Posture(姿勢)Control(調節) Walker(歩行器)】
は,従来の前方支援による歩行器の前にもたれかかった丸まっ
た姿勢を改善し,後方と左右のサポーチにより
歩行に適した姿勢を保つことができます。 イラ
ストのように手で左右の支持バーを持つことによ
り丸まりがちな上体(胸回り)を伸ばし,安定した
立位姿勢を保ちながら歩行することができま
す。
保管場所
小学部
中学部
高等部
その他
計
数(台)
5
1
2
5
13
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3
立位台類について
傾斜起立台(ゆるやかな臥位から起こす)プローンボード(腹臥位から立位へ起こす)
スタンディングテーブル(立位台,角度はほぼ直角)などがあります。適切な体幹のサポ
ートにより,自立困難な状況でも立位姿勢を保持することが可能となります。身体状況
や頭部,体幹のコントロール性から,必要に応じた立位台の種類を選択します。
これらを活用することで,体重をある程度体幹で支えることによる各部の筋力増強や,
ストレッチ効果,心機能の向上(起立性低血圧症の改善),垂直方向の重力刺激により,
姿勢反射や身体感覚の獲得,さらに頭部のコントロール性の向上,脊柱の伸展など
様々な効果を狙うことができます。
既存の立位台にキャスターを取り付け移動可能とし,本校
PT と連携しテーブルや握り棒を取り付けた立位台。
名称
使
立位台
用
例
写真の例は,頭部,体幹のコントロールに困難をかかえている子どもが,実態に
応じた適切な立位台のサポートによって,立位姿勢を安全に保持することができて
いる例です。本例ではさらに足首に補装具を装着しています。
このように,立位の姿勢を保持させることで,その結果,頭部が正中に保たれて
視界が広くなります。また,視界が活用しやすくなったことで周囲を見回すような頭
部のコントロールが生まれ,上肢の支持性,操作性も向上し,全般的に姿勢保持能
力が向上するといわれています。
また,足裏や下肢に体
重で負荷をかけることにな
り,下肢の支持筋力の増
強 ,姿勢 反射の向 上,ま
た,下肢の支持性を高め,
立位感覚を養うということも
目指すことができます。
ウォーカー類と同様に,
使用にあたっては,安全
に留意して医療関係者の
指示に従うことが必要で
す。
保管場所
数(台)
小学部
0
中学部
0
高等部
0
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その他
5
計
5
4
その他の姿勢保持装置,用具について
名称
使
クッションチェア
用 例
クッションチェアは,全体がとても柔らかいスポンジ素材で作られており,体全
体を包み込み,下半身の関節を深く曲げて座ることができます。筋緊張のコント
ロールが難しい子どもでも,ボールポジション様の姿勢となるため,比較的緊張
の抑えられたリラックスした姿勢で座位を保持することができます。
実際の使用では,写真例のように,
クッションやタオル類を補助的に多用
して,子どもの姿勢保持能力に応じた
支援が必要となります。
安定した姿勢が保持できますが,長
時間の同じ姿勢は避け,適宜姿勢変
換を行うことは必要です。
保管場所
保有数(個)
小学部
10
中学部
4
高等部
2
名称
使
三角マット
その他
5
計
21
用 例
スポンジでできた三角マットは,姿勢保持に
最もよく活用される用具の一つです。子どもの
体に合わせて刺激が少ない柔らかい素材で作
られており,体の下に直接敷いて使用します。
仰臥位(あおむけ)の際に少し体幹を起こし
た姿勢を取らせる。あるいは伏臥位の際に,こ
の写真の使用例のように伏臥位で胸の下に三角マットを入れることで,体幹を斜
めに起こした肘這い位(パピーポジション)に近い姿勢を保つことが簡単にでき
ます。この姿勢をとると,手が無理なく前面に伸ばしやすくなり,視界も遮られな
いため頭も動かしやすくなります。手元に教材を提示して指導する際にも,目と
手に近い距離で安定して提示できるため興味関心を高くなり,作業的な内容で
は手と目の協応が引き出しやすくなります。
比較的安楽な姿勢ですが,長時間の同じ姿勢は望ましくありません。15~30
分を目安に姿勢を変えるように配慮が必要なことは言うまでもありません。
保管場所
保有数(個)
小学部
15
中学部
9
高等部
12
名称
使
ニーリングアクション
その他
9
計
45
用 例
ニーリングアクションは,クッションチェアと同様のソフトで低刺激な素材ででき
ており,不随運動がある子どもでも比較的安全に使用することができます。複数
のモジュールから成っており,組み合わせを変えることによって,簡単に膝立
ち,もしくは四つ這い位に近い姿勢をとることができ,ベルトやサポートによって
身体を対照的に整えることができます。また,両手を前に出しやすく頭部の支持
もできるため,この姿勢での遊びを通じて主体的に手と目の協応を促すことがで
きます。安全に姿勢保持できるため,一人で遊べるチャンスが広がり,また,子ど
もと正面で向き合うことができるため,コミュニケーションがとりやすくなります。障
害が重く仰向けの姿勢ばかりで過ごしがちの子どもにとって,姿勢のバリエーシ
ョンを増やすことのできる,画期的な姿勢保持用具です。
保管場所
保有数(個)
小学部
1
中学部
1
高等部
1
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その他
0
計
3
5 車いす等使用の留意点・・・子どもが,学校で一番長く時間を過ごす乗り物
車いすとは移動を主たる目的に利用されるもので,手押し(介助)タイプと自走タイプに分類されます。本校で
は,一人一人のニーズに応じて,オーダーメイドの“姿勢(座位)保持機能付き車いす”を利用される方が大半を
占めます。従来は座位保持装置としては“イス型”のみでしたが,現在は座位に類似した姿勢(立位,膝立ち,
臥位など)を保つ姿勢保持装置も車いすとして認定されることになり,様々な形の車いすが活用されています。
車いす
手押し(介助)タイプ
自走タイプ
安全のため車輪が小さい
後方ブレーキ
車輪の径が大きい
ハンドリムを装着
前方ブレーキ
姿勢保持機能あり
姿勢保持機能無し
姿勢(座位)保持機能付き車いす ← 移動+姿勢保持機能
姿勢保持機能により長時間の利用も可能となり,日常生活での様々
こんな形も OK
な場面での活動が高まります。一定の姿勢(座位等)を自力では保つこ
とが困難な人が,適切な姿勢を保持するための装置です。この保持機
能により,心肺機能の活性化を図ることや,様々な反射や筋緊張を抑
制しリラックスした状態を保つことで,身体各部の変形や拘縮を予防す
ることができます。また適切な姿勢を保つことにより,運動感覚機能の
向上や平衡反応をはじめ,姿勢反射の維持,認知や上肢の操作性の
向上などが期待できます。
本校で一般的な姿勢(座位)保持機能付き車いすの各部の名称
☆ 休むから支持へ ☆
従来は各部の名称には,安
静・休息を意味するレスト(rest)
が多用されていましたが,現在
は,支援・支持を意味するサポ
ート(support)が一般的になりつ
つあります。
車いすを単なる移動手段で
はなく,活動を支援する観点で
とらえることが大切です。
フットレスト→フットサポート
ヘッドレスト→ヘッドサポート
バックサポート
(バックレスト)
点滴ポール
肘受けクッション(パッド)
ヘッドサポート
(ヘッドレスト)
テーブル
グリップ
シート
アームサポート
(アームレスト)
レッグサポート
(レッグレスト)
主輪
フットサポート
(フットレスト)
ティッピングレバー
キャスター
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吸引器台
姿勢保持のためのベルトやサポートの名称
※車いす・シーティング用語委員会,2005 より
☆こんなことになっていませんか?これでは本来の力が発揮できません!
いつも,床ばっかり・・・
支えて欲しいなあ・・・
胸ベルトがきついよ
周りがよく見えるよ
呼吸も楽だよ
長時間だって
へっちゃらだよ
らくちんだよ
集中できるね
足はベルトで
止めて欲しい
なあ・・・
この車いす
きついなあ・・
なんか傾くなあ・・・
しっかり支えて
欲しいなあ・・・
フラフラするよ
天井しか見えない
よ
左も見たいなあ・・
緊張緩まないかなあ
お尻がずれるなあ・・・
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サイズは適切ですか?ベルト類の位置・張りは適切ですか?
身体の成長や日々の体調の変化によって,姿勢は大きく変化します。また季節によって服の厚みも異なりま
す。さらには製作後暫く時間が経過すると,車いすのスポンジが劣化して潰れたり,生地が伸び縮みすることも
あります。また分解清掃後に組み立ててみると,大きく位置関係が変わっていることも珍しくありません。体に合
っているかを常にチェックしましょう。
調整や分解清掃前にはデジタルカメラ等で何枚かの写真を撮っておいて,部品や位置関係を確認しておく
ことを薦めます。
骨盤が後傾し,前方向にずれる
骨盤が回旋する
骨盤の位置に気を配りましょう
座位姿勢では腰で体重を受けとめています。楽に長時間
座るためには,できるだけ正しい骨盤の位置を保つことが必
要です。使っていると,姿勢や緊張,地面からの振動によっ
ても骨盤の位置は変わっていきます。
骨盤の位置が変わると(後傾,回転,傾き・・・),すべり座
りや,肩の位置が下がり,左右に傾いたりもします。常に骨
盤の位置に気を配り,直してあげましょう。
一方へ傾く
出所:「高齢者の車いす座位能力分類と座位保持装置」
Rehabilitation Engineering (13) 2
長時間の同じ姿勢(角度)は避けましょう
長時間の同一角度の座位姿勢は,車いすの姿勢保持機能のために,同じ場所に同じ方向の圧力が加わり
続けます。特定の場所に力が加わり続けると,褥瘡(じょくそう)[床ずれ]の原因にもなります。
長く安楽に過ごすためにも最大でも 30 分,できれば 15 分程度で,姿勢の転換をはかりましょう。車いす上で
はティルトを多用して,起こしたり寝かせたりするだけでも,重力の向きが変わり,同一場所への負
担が減ります。さらに時々は,車いす上でも腋に手を入れて体幹を引き上げたり,左右にねじった
りして接触面を変えると効果的です。
車いす上でリラックスできることが基本です—目的動作のために
抱っこされたリラクセーション状態を車いす上で再現できることが理想です。抱
っこはソファのようにふわりと受け止めているだけではありません。実際には常に
子どもの動きに合わせて,体をしっかり抱きしめることで筋力を補い,座位姿勢を
保持させています。この安定した座位姿勢から動作の支持面が生まれ,「見つめ
る」,「周囲を見回す」,「声を出す」,「手を伸ばす」といった様々な動作が育まれ
てきます。
一見,きつそうに見えるベルトを活用した方が,かえってリラックスできたりする
理由はここにあります。動作の基底面を作り,姿勢保持の筋力を補うために,しっ
かり包み込むように体幹を保持し,リラックスした状態を維持して,自由に動かし
たい部位をしっかり開放してあげることが大切ではないでしょうか?
活動に応じた姿勢が無理なくできていますか?
学校では色々な活動の場面があります。テーブルをつけて体をしっかり起こ
し,肩の上に頭をのせ,手を胸の前に置き,目と手の距離が 30cm 以内にある
ことが,高い活動を支える姿勢となります。反対にティルトやリクライニングを深
く倒して,ヘッドサポートに頭を預けて仰向けになる姿勢は休息姿勢となります。
車いす上で,様々な活動(活動・休息・介助・・・)に応じて,適切な姿勢を保持
できることは,とても重要なことです。
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