稲作の水管理を便利にし、節水にも役立つ ため池からの取水システム

農産物の生産性向上を目指した
新たな事業
に対応するため、暗渠排水、水路の緊急
補修等の整備を促進する﹁農業基盤整備
堤体を傷つけず
取水が可能なサイホン方式
児島県霧島市での農業用水路改修工事も
整備事業が行われた。今回、取材した鹿
島県でもこの事業を利用し、さまざまな
農業産出額で国内トップクラスの鹿児
取水フロートから仕切弁までの間で、取
る。サイホンの原理が適用されるのは、
部に上がり、堤頂部から仕切弁へと下が
水は取水フロートから管路を通って堤頂
が採用された。サイホン方式では、池の
いためサイホン式フロート取水システム
現王池からの取水は、ずい道が使えな
その一つである。施工現場は、鹿児島空
促進事業﹂を推進している。
港 か ら 北 西 に 5 ㎞ほ ど の 霧 島 市 溝 辺 町 。
水フロートと仕切弁の高低差を利用して
水が流れる。ここで重要なことは、管路
号線沿いのため池﹁現王池﹂から
の用水路をパイプライン化する工事で
県道
の気密性を高め、サイホン状態︵空気が
け、空気量を常時監視し、抜気フロート
め堤頂部に気体捕捉タンクと水位計を設
入らない状態︶を維持すること。このた
無効放流をなくし節水ができる
から溜まった空気を排気することで、サ
ある。
フロート取水システム&パイプライン化
イホン状態を長期間維持する。
鹿児島県姶良・伊佐地域振興局、農林水
このサイホン方式の採用にあたって、
合、堤体に斜樋を設け、上から順番に水
ため池の水を農業用として利用する場
抜き栓を抜いて用水路に水を流すケース
産部農村整備課の若松宣孝さんは、﹁現王
が多く見られる。このとき流量は水深で
池ではずい道が使えず、この池の水をパ
スクを考えると、若干の維持費用はかか
決まるため、余った水は無効放流せざる
っても堤体を傷めないサイホン方式が有
を得ない。田植えの時期ともなると用水
﹃ため池の水をもっと有効利用できない
効だと考えました﹂と語った。また、﹁鹿
イプラインでほ場に送るためには堤体に
か﹄という要望に応えて、クボタシーアイ
児島県でも農業人口の減少と高齢化によ
穴を開けるなどの工事が必要です。しか
が推進しているのが、取水フロートでため
って、用水路の維持管理が大きな負担に
の使用がピークとなるため、水は無駄な
池の表面水を取り、パイプラインでほ場へ
なっています。用水路をパイプライン化
く使いたいが、このようなため池では無
送るシステム。取水方式にはサイホンの原
することで農家の負担を減らし、さらに
し、漏水や大雨などで事故が発生するリ
理を利用した﹁サイホン式フロート取水シ
節水もできますから鹿児島県としても増
効放流が大きな課題であった。
ステム﹂と堤体内のずい道︵トンネル︶を
加していくと思われます﹂とパイプライ
ずい道内の配管と排気弁
ン化の可能性も示唆した。
利用した﹁ずい道配管式フロート取水シス
堤体内のずい道が使用できる場合、
ずい道内に管路を設置して、
池に浮かべた取水フロートから水を取り出すシステムです。
政府は、戸別所得補償制度の本格実施
40
テム﹂の2方式を用意している。
ずい道配管式フロート取水システム
の生産拡大の支障となっている排水不良
取水フロートの組立
にあたり、麦・大豆といった戦略作物等
ほ場給水栓
や、施設の老朽化等による用水の不足等
気体分離型
排気弁装置
信頼性の高い下水道用
ポリエチレン管でスピード施工
ため池
工事を担当した南建設株式会社の阿多徹
也さんは、
﹁田植え時期の前に余裕をもっ
て工事を終わらせたかったので、ハイペー
スで工事を進めました。それを可能にした
接続継手
のが、本管部で採用した下水道用ポリエチ
レン管の優れた施工性です。EF接合やバ
ット融着は機械的に作業ができるのでスム
ーズに工事が進み、結果的に想定より早く
工事を終わらせることができました﹂と語
既存の取水施設(ずい道、取水
口)がそのまま利用できる。
堤体や構造物の改修が少ない。
メンテナンスフリーで維持費が
かからない。
った。
表面水を取水するので冷水害が回避できる。
無効放流がない。
高密度ポリエチレン管の使用で漏水を防ぐ。
取水作業が従来に比べて容易になる。
農家の人々にとって、用水路の維持管理
ずい道式の特長
は大きな負担。定期的な清掃はもちろん、
台風や大雨の後には必ず周辺農家総出で流
用水路へ
サイホン式&ずい道式 共通の特長
仕切弁
ずい道
木や泥の清掃を行わなければならない。工
フロート部分はVP管に発
泡体を入れて浮力をアップ。
通水テスト
気体分離型
排気弁装置
サイホン用
仕切弁
ほ場への配管途中の給水栓から
勢いよく排水された。
奥が仕切弁で、手前2つが排気弁。ほ場
側の管路に溜まった空気を排気する。
信頼性の高い下水道用ポリエチ
レン管(φ250)が使用された。
事を見ていた
パイプライン
末端仕切弁
水位計
取水システムの完成と供用開始状況
仕切弁と排気弁の設置
本管部
地元農家の一
サイホン制御盤
負圧計
抜気フロート
人は、﹁初めて
なので、まだ
よく分からな
いが、維持管
理が楽になる
のは本当にあ
霧島市栗下池での採用例
斜樋
取水フロート
りがたい。ま
た、自分のほ
場入口で水道
本管部
取水ホース
サイホンの原理
ため池
管路に溜まった空気を排出
する。
堤体
池
本管部
接続継手
取水ホース
の蛇口をひね
る感覚で田ん
ぼに水をはれ
ると思うとわ
くわくする﹂
斜樋
PAL/ Vol.171 11
12 PAL/ Vol.171
と顔をほころ
管路内の負圧、水位を計測、制御
してサイホン機能を維持する。
鹿児島県霧島市
サイホン式フロート取水システム
ばせた。
水抜き栓
サイホン式の
概略図
制御部
抜気フロートの組立
稲作の水管理を便利にし、節水にも役立つ
ため池からの取水システム
斜樋タイプの取水方式
ほ場
気体捕捉タンク
取水フロート
水抜き栓を抜くとその段の高さの水は
全て用水路に送られる。
南建設株式会社
土木部
鹿児島県
姶良・伊佐地域振興局
農林水産部 農村整備課
阿多徹也さん
施工現場
レポート
若松宣孝さん