展望台 デュアルユース技術に関する新しい イノベーション・エコシステムの必要性 角南 篤 小山田和仁 政策研究大学院大 学教授、学長補佐 政策研究大学院大 学 科学技術イノ ベーション政策研 究センター専門職 戦後のわが国の技術開発の歴史を俯瞰する のですが、そのような状況でも防衛装備品の研 と、米国をはじめとする先進国から導入した技 究開発が行われるのは、そこで開発された技術 術をもとにしたキャッチアップに始まり、その の民間転用(スピンオフ)に対する期待がある 後、徐々に独自技術の開発能力を高め、現在は からです。また逆に民生品で培われた技術や開 諸外国と並ぶ、あるいは一部については凌駕す 発能力が防衛装備品の開発に活用される(スピ る技術をもつような段階に至ったと思います。 ンオン)の場合、グローバル企業によるオープ 今後は、他の先進国や急速にキャッチアップし ンイノベーションの影響を直接受けることか てくる他国と競争しつつ、フロントランナーと ら、新たな制度が求められています。このよう しての立場を確保していくことが求められます なスピンオフとスピンオンのサイクルを効果的 が、そこで必要不可欠であるのは、ハイリスク に推進していくことがまず必要です。 ではあるが、将来ゲームを変えるような最先端 また急速に発展している、ライフサイエンス 技術を獲得することではないでしょうか。欧米 や脳科学、無人機・自動操縦、ロボット、3D では、こうした技術をデュアルユース技術(民 プ リ ン タ ー と い っ た 新 興 技 術(Emerging 生・防衛の両面において利用可能な技術)とし Technology)についても民生面だけでなく、防 て産学連携で戦略的に取り組んでいます。 衛面でも大きな影響を与えることが想定されて 一方、わが国においては、ハイリスク技術開 います。例えば、あらゆる製品がネットを介し 発を中心とするフロンティア型イノベーション て接続する Internet of Things(IoT)の時代に システムへの転換はまだやっと途に就いたとこ おいて、サイバー攻撃やサイバー犯罪はそのよ ろであるといえます。とりわけデュアルユース うなシステムに対する重大な脅威として認識が 技術について課題をいくつか列挙しますと、ま 高まっています。一方、現在の防衛システムも、 ず、わが国の防衛産業を支える企業は、売り上 個々の機器・装備品がネットワークを通じて結 げ、人員配置ともに圧倒的に民生部門が大きい びついたシステムとして構成されたものであ 2 防衛技術ジャーナル May 2015 り、このシステム化という流れは、限られた装 保障技術研究推進制度)も、大学や研究機関に 備品と人員を最大限効果的に活用する観点から おける日進月歩の研究動向を把握することによ 今後ますます進展していくものと考えられま り、新たな科学的知見と新興技術がもたらす影 す。 響に早期に対応していくためにも重要です。 その一方で、こういったシステムそのものを また、これらのデュアルユース技術の動向を 対象としたサイバー攻撃もますます高度化・拡 把握し、それを踏まえてわが国としての防衛技 大することが想定され、従来の物理的攻撃とは 術の戦略を策定するような司令塔機能が必要で 違った次元で新しい課題を提示してくるでしょ あると思います。米国では国防総省に対して、 う。こういった新興技術の動向とそれが民生・ 独立した形で技術戦略に関する助言や提言を行 防衛に与える影響を把握し、かつそれを活用し う国防科学委員会(Defense Science Board)が ていくことは、他国主導による技術サプライズ あります。国防科学委員会は政府、軍、民間企 を防ぐ上でも必要不可欠です。 業、大学・研究所等での経験をもつメンバーに また民生・防衛の両面で非常に重要であり、 よって構成され、独自のスタッフと調査予算を かつわが国として確保すべき技術である核心技 もち、40年以上にわたりその時々での将来を見 術(Critical Technology)を特定することも重 据えた米国の軍事技術戦略に関する助言・提言 要です。特に現在は、人材の越境移動や情報の を行っていますが、わが国でも同様の役割を担 共有が飛躍的に拡大かつ容易になり、他国の う制度の創設が望まれます。具体的には内閣官 キャッチアップも容易になっています。また流 房の国家情報局と内閣府の総合科学技術・イノ 通している民生品や3Dプリンターで作った部 ベーション会議の連携を核とし、防衛省、経済 品を組み合わせることにより、一定の能力をも 産業省、文部科学省などの主要官庁がうまく つ武器や無人機などを構築することも可能と コーディネートされる仕組みが必要です。 なっています。そのような状況ですべての技術 さらに、これらの制度を実際に担う人材を育 をコントロールすることは困難であり、むしろ 成・確保することが急務です。特に防衛の実務 特定の核心技術を早期に特定し、その用途も含 や運用面での課題および民間の市場や民生品の めて開発を進め、他国より先んじて民生・防衛 ニーズなどについて理解があり、かつ当該技術 両面で活用していくという戦略が必要です。 における明確な将来ビジョンをもって研究開発 このような観点から、わが国のデュアルユー プロジェクトをリードするプロジェクトマネー ス技術に関して研究開発から産業までを視野に ジャー人材をどう育成し確保するかは喫緊の課 入れた新しいイノベーション・エコシステムを 題です。 構築することが必要です。今年秋に発足予定の このような取組はいずれもハイリスク技術開 防衛装備庁では、防衛装備品に関わる技術開発 発を支えるデュアルユース技術を戦略的に育 から、最終的な装備品の調達まで一貫した体制 成・活用する新しいイノベーション・エコシス により、デュアルユース技術とそれを担う産業 テムの構築に不可欠です。本学においても関係 の育成という役割も果たすことが期待されま 各所と連携しつつ、引き続きこのような課題に す。また現在、準備が進められている大学等に ついての研究を進めて参りたいと思います。 おける研究に対するファンディング制度(安全 3
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