ICAO RPAS会議に参加して - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会

平成27年5月 第737号
ICAO RPAS会議に参加して
平成27年3月23日から3日間、カナダ・モントリオールのICAO会議場で、RPAS
(Remotely Piloted Aircraft Systems)に関する会議が開催された。規制当局・メーカな
ど関係者が参加し、運航の実態なども併せて聴講したので、製造業に関係のあるところ
を中心に報告する。
会場全景
1.はじめに
ングをする面もあった。実態として、無人機
従 来、無 人 機 は UAV(Unmanned Aerial
の規制が部分的ながら出来ている国では、す
Vehicle)と称されていたが、有人、無人とい
でに運航を始めており、無人機の製造業者や
う区別でなく、遠隔操縦による航空機として
国を超えた運航を考えている運航者から見れ
ICAOがRPASという名称で新たな定義づけを
ば、早く国際ルールを作ってほしい、という
した。今回の当該会議は、ICAOが作成しよ
要望をICAOや各国の規制当局にお願いする
うとしている無人機に対するガイドライン
場所となった。約500名の参加があり、その
SARPs(Standard And Recommended Practices)
1/3は初めてICAOにやってきた方々で、ICAO
の作成に当たり、規制当局、製造業者、運航者、
に馴染みのない方も多かった。日本からは
大学、研究機関、空軍、関係団体などを招集
JCABのほか、JAXA、大学、地上管制基地局
して、意見交換を行うものである。従来は、
メーカなどの参加が見られた。
ガイドラインのSARPsを受けて、詳細な手順
(マニュアル)が作成され、更に付属書(Annex)
に法律として記載されるという手順を取る
2.基調講演
①FAA, Deputy Administrator, Michael Whitaker
が、今回は、マニュアルがSARPsに先行して
無人機の利用は、映画撮影、パイプライン
作成されており、これから逆に遡って、SARPs
の常時監視、報道など幅広いが、安全性と効
を作ることになっており、このためにヒアリ
率の両方が成り立つことが必要である。FAA
41
工業会活動
の規制の状況として重量が15ポンド以下と、
う、3)技術と標準はその統合が重要、4)公
それ以上の2つに分け、前者はパブリックコ
衆の了解が必要、5)運航者がその利用につ
メントを求める段階にある。小型機では、運
いて責任を持つ、である。
航者の認証は2年ごと、Risk Base Approachに
よる安全性確保などを挙げており、個人のプ
ライバシーなどへの対応が課題としている。
③グーグル社 Head of Project Wing, Dave Vos
Google社の中でProject Wingが立ち上がり、
農薬散布などは除外項目とし、アマゾン社の
交通渋滞を避ける迂回路情報の提供のため、
宅配は実験的な扱いにするなどと述べた。大
無人機を使った情報収集を始めようとしてい
型機では、パイロットの教育、他省庁との連
る。使用ヘリは、垂直用1枚プロペラと推進
携、耐空性、ライセンスなどに課題があり、
用2枚プロペラを持った形態で、衝突防止に
ICAOが中心となった国際的な協調を求めた。
ADS-Bを用い、管制との連携を取りながら、
高速道路情報をデータセンターに地上局を介
②欧州委員会 Head of Unit in charge of Aviation
し送る。責任、安全性、信頼性、コンプライ
Safety, Filip Corneils
アンスの他、取得したデータのセキュリティ
従来の航空機は列車、車などと限定された
が特に重要であるという。
接点を持ってきたが、無人機を利用すること
になれば、道路渋滞情報、精密な農業、建設
3.来賓挨拶
機械の看視、危険地帯の警戒、エネルギー探
①EASA, Strategy and Safety Management, Luck
索などにその利用範囲が広がる。欧州では
Tygat, Director
150㎏以下の無人機の規制について検討を始
欧州では、重量150㎏以下の無人機の運航
めており、プライバシーやセキュリティなど
は 2,495 社、製 造 は 114 社 が 関 わ っ て い る。
が課題で、規制には時間がかかる。一方、今
16ヵ国が独自の規制を持ち、11ヵ国が準備中
年3月に欧州はリガ宣言を採択し、5つの原則
であるものの、相互の調整はとれていない。
を確認した。それらは、1)無人機(Drone)
欧州委員会の運輸大臣は、1)無人機が欧州
は新しい航空機として扱う、2)欧州が無人
の空域に入るには合意が必要、2)実体のあ
機サービスの安全な対応のルール作りを行
る規制とリスクに応じた規制の維持、3)課
来賓の紹介を行うICAO Director Nancy Graham氏(左)
42
平成27年5月 第737号
題は安全、セキュリティ、プライバシー、デー
の中小企業が担っており、大手企業は研究開
タ 保 護、と 述 べ、EASA の 役 割 と し て、1)
発のみを行っている。分類として、有視界運
RPAS統合に関する影響調査、2)RPASに関
航の場合、1)重量25㎏以下で高度150m以下
する特殊な規制も将来可能にする基本的な規
のもの、2)重量4㎏以下で高度150m以下のも
制案、3)リスクベースの運航概念、を求め
のがある。視界を外れる場合には、3)通信
ている。また、具体的な検討は、1)FAAと
距離1㎞以内で、重量25㎏以下で高度50m以下
EASA、Eurocontrolを中心に当局32ヵ国の航空
のもの、4)重量2㎏以下で高度150m以下のも
当局(カナダ、ブラジル、ロシアは加入してい
のに分けている。考えられるリスクに対応し
るが日本は参加していない)から成るJARUS
た処置を取るとしたRisk Based Approachを採
(Joint Authorities for Rulemaking on Unmanned
用して安全性を確保している。規制の構築は、
Systems)や 2)EU Implementation Coordination
1)運 航、規 制、利 用、2)技 術 と 安 全、3)
Group、3)SESARでの検討・研究開発などを
産業界の支援と促進の3つの面から進める。
活用するという。
セキュリティのリスクとして、居住区では不
法な無人機は多くの人が見ており、警察など
② FAA, Deputy Associates Administrator for
無人機を使った活動に市民の理解が必要で、
Aviation Safety, John Hickey
制御不能の場合に機材を自動廃棄するといっ
米国の無人機は、1)FAAがリーダシップ
たことまで想定しておかねばならない。既に
を取るUAS Integration Officeが無人機の統合
仏国では、企業と当局が一緒になって、2つ
戦 略 を 構 築 し、2)FAA、DoD、ASA、DHS
のプロジェクトが進行し、グライダーを母機
(Department of Homeland Security)が UAS
とした空中衝突装置の試験や単発機による通
Comprehensive Planを作成し、3)FAAがロード
信不能モードでの試験などが2014年秋から開
マップを作成し、4)小型UAS基準を作成する、
始されている。
といった分担が出来ている。運航は、1)民
間運航、2)官公庁による運航、3)模型航空
④ICCAIA議長 Marion Blakey, Chairperson of
機(趣味)の3つに分類している。規制は1)セク
Council
ション333の例外条項、2)FAA小型UAS、3)
今年1月にオバマ政権が発表した無人機の
セクション336の模型航空機に分けて検討を
輸出に関するコメントを後押しし、今後無人
進める。試験空域は6ヵ所あり、それぞれの
機市場が大きくなる可能性があり、製造業者
空域に試験目的を割り付けている。国際的な
も一体となった検討が必要であると述べた。
協 力 と し て、RTCA Special Committee 228、
米国での小型無人機は居住区を夜間飛行でき
ASTM International Committee(F38)、JARUS
ないとしているが、イタリア、日本、ドイツ
などの協力を挙げている。
などすでに進んだ分野がそれぞれにあるの
で、これを参考にして世界共通のルールとベ
③フランス航空局 航空局長 Patrick Grandil
ストプラクティスの構築をICAOに求めた。国
仏国での状況として、2012年に運航業者は
際的な協力は不可欠で、使用する周波数帯の
50社であったが、2015年に1,300社に増え、2,250
割り付けやその拡大などが不可欠で国際的な
機を使い、3,000人を雇用し、売り上げとして
調整を要する。
5,000万ユーロとなっている。製造は主に45社
43
工業会活動
⑤ICAO, Deputy Director Aviation Safety, Air
数える。津波や火山爆発など災害時の状況撮
Navigation Bureau, Catalin Radu
影の他、動物保護、旅行のマーケッティング、
ICAOの無人機に対する取り組みは、1)空
教育、農業、探索、不動産、その他調査など
域や飛行場を分割せずに無人機を取り込むこ
幅広い適用を示唆した。課題としては、空域
と、2)有人機と同じレベルの安全性を確保
の管理、居住地上空での安全性などを挙げた。
すること、3)環境への影響を最小にすること、
をあげた。航空管制の近代化としてAviation
③JAXA, Senior Researcher, Masaaki Nakadate
System Block Upgradesプログラムが6年刻みで
日本原子力開発機構に協力して、福島第一
2030年まで進行中であるが、これと並行して
原発の隣接地域における放射能レベル調査を
無人機は2022年までの耐空性証明、ライセン
4種の無人機を使い高度150m以下から計測し
ス、通信などを含む22個からなるプログラム
た結果を報告した。機体として、有人ヘリ、
を紹介した。航空当局、国際電気通信連合、
無人航空機、無人ヘリ、超小型ヘリを使い分
産業界、ICAO環境グループなどと協調して、
けることで有効なデータを取得でき、高度を
各国での重複作業や発散を防ぐ役割を、ICAO
一定に保ち地形に沿う飛行を行うことが放射
が受け持つという。
能計測制度を向上させる、と述べた。
4.無人機の運航例
④International Consortium of Aeronautical Test
①米国General Atomics Aeronautical Systems社
Director Strategic Development, Scott Dann
Sites
(ICATS)
, Executive Director, Marc Moffatt
ICATは米国、英国、フランス、カナダ、ス
同社は、1,000馬力クラスのAvenger、3,000
ペインの飛行試験機関から構成され、モント
馬力クラスのPredatorなど20機種で約720機の
リオールに本部を置く国際航空機試験サイト
無人機をここ25年で出荷し、飛行時間は累計
である。5ヵ国は無人機のための試験場をそ
で300万時間を超え、従業員は7,000人以上で
れぞれ用意し、実用化に向けた取り組みを始
ある。Predator Bの海軍仕様がGuardianで、内
めている。
蔵カメラにより地上パイロットはコクピット
を模擬した操縦装置で外部の景色を見ること
⑤英国EasyJet, Ian Davies
が出来る。有人機に装備されているスロット
LCCのEasyJet社が英国ブリストル大学と共
ル、操縦桿の他、昇降ペダルも用意されてい
同で無人機による機体点検の試みを発表し
る。また、無人機の課題として、大型、小型
た。落雷、雹、地上機材との衝突などによる
といった分類が安全の統合に寄与するか、誰
機体の損傷についての点検が必要となるが、
がどうやって経済発展しながら安全の規則を
機材の検査時間を短縮することを目的とし、
守らせるのか、などを挙げた。
マルチコプタ―を使った外観検査を始めた。
課題として、1㎜以下の損傷の発見を実証す
②中国DJI Innovations社 Policy Lead, Jon Resnick
ること、機体にできるだけ近づくも、機体や
DJI社は中国深セン市に本社を置き、空中
人と衝突しないこと、訓練が簡単なこと、デー
撮影をするとともに搭載カメラなど搭載機器
タベースの構築などのほか、格納庫内のみで
を無人機と共に製造する会社である。日本、
なく、屋外の点検にも天候に左右されず使用
欧州、米国に支店を置き、従業員は2,800名を
できることなどを挙げた。
44
平成27年5月 第737号
無人機による機体外部点検
⑥NASA, Human Systems Integration Lead, Jay
加型式証明(STC)、製造認可、耐空証明(AC)の
Shiveley
維持、サービスブリテン(SB)
等の手順は、ほと
NASAからは、無人機の運航に際して人間
んどの項目において、RPASにも有効であり適
の特性に懸念が有るとの発表があった。有人
応できる」と記述されている。ただし、RPAS
機は安全性を重視して発展してきたが、事故
は、航空機のみならず、地上装置やその他の構
の7-8割が人為的なものである。無人機と人間
成機器などから構成され、国際運航されるた
のインターフェースはまだまだ不十分で、無
め、これらについても、TC、ACが必要となる。
人機の運航時間が長くなることを想定すれ
今後、RPASパネルWG1において、RPASの分
ば、更なる安全性が必要との見解を示した。
類、AC・TCの細部規定等を定めると述べた。
⑦国際運航協会 ATM Infrastructure, Rob Eagles
②スイス民間航空局 Markus Farner
IATAからの講演では、無人機の運航につい
AC取得のためには安全運航を最優先する
てはやや批判的な意見が出された。有人機も
としている。そのために、申請者には、運航
無人機も安全性が第一であり、ルールと規制
形態を明確にして、安全管理に焦点をあてた
がきちんとなされることが必要である。新し
レビューを行い、事故を想定したシナリオを
い航空輸送には安全な航空輸送が不可欠だと
策定するよう求めている。また、認可する機
の見解を示し、無人機が有人機の領域に入る
関には、基準となる運航形態を示し、安全を
ことの懸念を表明した。
阻害する障害を明確にすると同時に排除する
ための予算を用意するよう求めている。
5.Workshop
(1)耐空性
①ICAO, RPAS Panel 耐空性パネル委員 Stephan
③ イ ギ リ ス 民 間 航 空 局 Manager Aircraft
Certification, Mike Gadd
George and Bruno Moitre
タレス(イギリス)社 manager ISTAR Air
耐空性については、RPAS Manualの第4章に
Operations, Andrew Jones
おいて、「有人機に関する型式証明(TC)、追
英 陸 軍 ISTAR(Intelligent, Surveillance,
45
工業会活動
Target Acquisition & Reconnaissance)構想で使
と、テロ対策をシステムのソフト・ハード両
用される無人機 Watchkeeperは、軍の仕様を
面でとること、多機種管制機能を持たせるこ
満たしている。しかし、民間機のTC取得にむ
と、システムの高度な自動化を行うこと等が
けて、安全性が民間基準を満たすか、設計保
求められる。
証の手順が民間基準を満たすか、設計・製造
の組織が民間基準を満たすか、自動化とパイ
⑦イスラエルIAI社 IAI- MALAT Airworthiness
ロット介入の比率の妥当性はどうか、などの
manager, Michael Allouche
課題等があると述べた。
IAI 社 は、ICAO、NATO/FINAS、FAA、
EASA、RTCA、等の各国の機関に協力して、
④ Former JARUS Chairman, Ron van de
Leijgrraaf
無人機に関する規則作りに参画し、実証試験
を実施してきた。システム設計に関しては、
JARUSは参加の32ヵ国で、無人機の規則作
機体構造、推進系統、データリンク、リスク
りを実施している。6つの委員会で構成され
評価、緊急手順、不具合探知システム、電磁
ており、その中の耐空性委員会では、小型無
干渉等の基準を制定した。さらに、空域での
人固定翼機、小型無人回転翼機に関して検討
共存に関しては、衝突防止燈火、ATC通信、
を行っているが、基本的には従来の設計基準
MPR、EOセンサー、IFF、ATCトランスポン
を適用するものの、有人機にはない構成品に
ダー、DAA用機器等の基準を制定した。これ
関する基準作りについては、時間がかかると
らの基準は、実証試験の成果が取り込まれる
している。
とともに、ICAOのRPASマニュアルにも反映
される予定である。
⑤Schiebel社 Head of Airworthiness Department,
Otmar Leitner
同社製無人ヘリCAMCOPTER S-100のAC取
得状況について紹介した。安全運航が最優先
され、地上の要員、第三者に被害を与えない
ことを前提とし、同機の実証試験は、無人地
注:ATC(Air Traffic Control)
MPR(Multi-Platform Radar)
IFF(Identification Friend or Foe)
DAA(Detect And Avoid)
(2)運航
① ノ ル ウ ェ ー Norut 社 Senior Scientist, Rune
域に限定された空域での有視界内での試験か
Storvold
ら始まり、3段階で順次空域を拡大し、最終
AMAP(Arctic Monitoring and Assessment
的には、人口密集地域での有人機との共存運
Program)は、北極の環境変化を計測、評価し、
航を目指している。
汚染物質源やその動きを監視し、動植物や住
民に与える影響を監視する機関であり、その
⑥イスラエル航空局 Head, Unmanned Air System
観測手段としてRPASを運用している。運用
Department, Benny Davidor
にあたっては、北極圏内国家間の相互認証の
イスラエルのRPASは軍での運用が主だが、
上実施しているが、その中で一番重視されて
今後民間国際運航を実現するには、管制装置
いるのは安全確保であり、地上及び上空の
設計に人間工学的要素を取り入れること(機
人々に危害を与えないことである。その達成
長∼操縦者∼ペイロード管理者間の連携等)、
のため、ICAOが制定したSafety Management
有人機同等のRNP(航法精度)を確保するこ
Manual(Doc9859)に 沿 っ て、SMS(Safety
46
平成27年5月 第737号
Management System)およびSRM(Safety Risk
である。したがって、今後、DAAシステム整備、
Management)を実践し成果を得ている。
RPASパイロット資格制度と航空機AC制度の
確立、データリンク・通信機能喪失時の対応、
②ICAO RPAS 運航パネル委員 Gerry Corbett
RPASマニュアルにおいて安全運航という
観点で、操縦士ライセンス、C2リンク、機長
の責任、疲労管理、安全性マネージメント、
自律運航への慎重な移行などが必要である。
注:DAA(Detect And Avoid)
⑤FAA, Manager, Unmanned Aircraft Systems
環境や目視内外運航、RPASの管制切り替え、
Integration Office, Jim Williams
セキュリティなど規定されるべき、と述べた。
米 国 内 で 無 人 機 に よ る 運 航 を 行 う 場 合、
今後これらは、ICAOの委員会で議論し、2018
ICAO RPASマニュアルに準拠し、パイロット
年にANNEX6に反映される予定である。
はFAAの資格認証を得ること、RPAはAC・
TCを受けかつ登録されていること、運航許可
③ フ ラ ン ス 航 空 局 Director, RPAS Program,
Muriel Preux
を得ること、などが必要と述べた。
その上で、運航形態として、民間の運航・
フランスでは、商用目的(空撮、農業、監
官公庁の運航・趣味目的の模型航空機の飛行
視等)にあわせて運航形態を設定している。
に区分される。また、今後様々な形態の無人
そして、製造業者側には、設計・運航・空域
機の出現が見込まれるため、認証については、
基準を設定し、基本構成部品データ、安全性
特殊機のTCや制限事項を加えた型式承認、
解析結果、運航基準等の提出を求めている。
R&D、乗員訓練用、市場調査のための実験機
運航者には、遠隔操縦者への実技を含む教育
用の耐空性証明、量産前の試作機に対する特
計画、運航計画、整備基準等を提出し、運航
別飛行許可などのステップごとの検討が必要
許可を得ることを求めている。そして、年度
になるとしていた。このように状況に応じて、
毎に運航実績の提出、事故・インシデント報
複雑な手続きを簡素化する動きはあるが、小
告を求めている。ただし、2014年は、20件の
型のUASであっても、登録とその表示、パイ
報告しかなく安全性確保の認識の徹底が望ま
ロット資格を有すること、重量は55ポンド以
れるとした。
下で飛行高度は500ft以下であること、昼間か
つ目視内のみの運航であること、居住地域は
④航空機オーナー・操縦士国際協会 Secretary
general, Craig Spence
GA(General Aviation)側から見て、同じ空
域でRPASが運航されることを容認するには、
飛行不可であること、などが必要としている。
注:RPA(Remotely Piloted Aircraft)
⑥InSitu社 Vice president, Government Relations
飛行安全が確認されるとともに、航路の確保・
and Strategy, Paul McDuffee
保全、RPAS対応のための追加費用が無いこ
無人機の民間運航への取り組み状況を紹介
と、RPASとの相互通話が可能となることな
した。産業界は、無人機のACやTC取得にむ
どが前提となる。なぜなら、GAは基本的に
けた規則及び手続きの見直しと確立に向け2
低高度運航であり、非管制空域の飛行が多く、
種類の無人機、PumaとScanEagleを使用して、
草地や水上を含む飛行場などで運航するた
ベーリング海、チュクチ海、ボーフォート海
め、RPAや鳥との衝突等のリスクが多いため
での流氷や海棲動物、オイル監視等の試験運
47
工業会活動
航を行っている。運航に関しては、人および
ただし、無人機を専用の空域で運航するなら
その財産に危害を与えないことが前提であ
ば、その限りではない。現在、空港は、過密
り、FAAおよび関係航空当局と密接な連携を
状態なのである。」
とっている。運航で得られた飛行データ、乗
員運航記録、不具合・事故・墜落等記録、修理・
整備記録などはFAAに提出し、実績を蓄積し、
今後の恒久的運航を目指している。
(3)民間・防衛
①フランス空軍 顧問 Alban Galabert
中高度域において、イタリアとフランス空
軍が国境を越えた無人機の運航を救難探査の
⑦ロシア無人機協会 President, Amir Valiev
ロシア無人機協会は無人機の用途として、
地図作成、捜索・監視(森林火災、航空機等
目的で行ったとういう紹介があり、衛星通信
を使った場合の周波数の互換性や外交調整な
どの課題を挙げた。また、500ft以下の、民間
交通事故)、自然監視(農地/森林、植生)、エ
と防衛の無人機が混在する空域では、小型無
ネルギーインフラ監視(パイプライン、送電
人機の状況認知、フライトプラン、衝突防止
線、鉄道、道路)、輸送等(郵便、農薬散布)
システム、空中での識別システムなどを課題
などを想定している。
として挙げた。
そして、UAS運航の手順として飛行5日前
に申請し、主な航空当局と調整し1日前に飛
② 米 空 軍 Director of 5 AF Aviation Affairs
行計画を提出することになる。そのためには、
Branch, Mike Bishop
ATCや航空当局とのデータ/音声通信のネット
三沢基地に於けるグローバルホークの運航
ワ ー ク(e-mail、電 話、FAX、衛 星 通 信 等)
実態について米空軍から説明があった。2010
を確立しなければならない。また、既存ATM
年にグアムに同無人機を展開したが、夏場に
と の 共 存 / 飛 行 安 全 の た め に は、ADS-B・
台風などで運航が出来ないことが判り、夏場
VDL-4・UAT等の装備が必要だが、その重量・
の代替基地を探していた。2011年日本政府は
大きさがUAS搭載への障害となっている。
三沢基地を候補として挙げたが、日本政府の
注:ATC(Air Traffic Control)
VDL-4(VHF Digital Link)
UAT(Universal Access. Transceiver)
⑧世界空港協議会 Director, Safety & Technical,
無人機に対する規則が無い、耐空性証明をど
うするか、日本での運航実績が無い、空港が
官民共用、空域がどこでどうやって飛行させ
るかなど数々の問題があった。2013年に日本
David Gamper
政府が同機の配備を承認したが米国側の予算
国際空港団体からは、地域ごとの国際空港
の問題もあり、2014年3月に日米間政府で「同
の数は、アフリカ:249ヵ所(50ヵ国)
、アジ
機は三沢で他の航空機同様に飛行できる」と
ア−太平洋地域:580ヵ所(47ヵ国)、欧州:
した覚書の調印を行った。同機は三沢基地及
463ヵ所(45ヵ国)、南アメリカ:213ヵ所(29ヵ
び米国Beale空軍基地の両方から運航され、空
国)、北アメリカ:350ヵ所(2ヵ国)と存在
域は太平洋側である。6月∼8月の飛行キャン
していて多いように見えるが、無人機の運用
セル率はグアムが93%であったことに比較
については、次のように否定的な見解を示し
し、11%にまで減少している。ここまで改善
た。
した理由は、夏場の気候が良好であったこと
「我々は、無人機との共存を危惧している。
48
に加え、両政府の協力、ミッションの絞り込
平成27年5月 第737号
み、日本政府も同機の導入に関心が高かった
たい、と述べた。
こと、などを挙げた。今後三沢基地での運航
には、冬場の気象条件における運航、長時間
運航などに課題がある。
⑤英国防衛省 RPAS expert at Military Aviation
Authority, Nichola Rennet
英国では、アフガンでの無人機運航が終了
③ 豪 州 空 軍 Wing Commander, Jonathan
し、平時の運航に切り替ったことを契機に無
McMullan
人機の規則について、レビューが開始された。
オーストリラリア空軍は、アフガニスタン
重量別に6つの分類(200g以下、2㎏以下、20
で 無 人 機 Heron(イ ス ラ エ ル 製:翼 弦 長 約
㎏ 以 下、150 ㎏ 以 下、600 ㎏ 以 下、600 ㎏ 超)
16.5m、重量1,150㎏)を27,000時間以上運航
とし、規則を定めるための条件、空域の扱い
した実績を紹介した。離陸・着陸はGPSを用
などを検討するため、MoDおよび英国航空局
いて自動操縦で行い、カンダハル基地から
は産業界と民間の無人機の条件設定などを共
3,000回を超える発進を行った。帰投ルートと
同で行っている。技術開発、規制の制定、運
待機場所が機体にインプットされており、通
航者の要望の3つは相互に連携しており、相
信リンクが損失すると帰投し定められた場所
互間の障害を取り除く努力が必要と述べた。
で旋回し、設定された残燃料以下になれば、
着陸を行うシステムにしてある。空港は単滑
走路で官民共用のため混雑しているが、空域
では地上レーダーでコントロールされ、通信
(4)技術
①ICAO RPAS 管制パネル委員 Michael Neal
無人機とデータを交信し、機体を制御する、
も良好で、ミッションが達成できた。学んだ
位置情報を知らせる、衝突防止データを送受
ことは、自動操縦を信頼することや運航シス
信するといったCommunication & Control Link
ステムは信頼性が高いこと。しかし、ソフト
(通称C2 Link)を通した無人機側の情報は、
の一部に技術的統合が欠けており、27,000時
ICAOでは規則の対象として扱われるが、搭
間の運航はエンジニアリング的に十分な実証
載カメラなどからの情報は管理外としてい
と言えない、などである。
る。C2 Linkは安全上致命的な機能を支えるも
ので、このリンクが喪失しても無人機の安全
④Eurocontrol, RPAS senior expert, Dominique
性が失われることがないようにする必要があ
Colin
る。データ送信速度は遅いほど高信頼性があ
全欧州の航空管制の管理と計画を行ってい
り、50Kbpsを超えるものであってはならない。
るEurocontrolから、無人機に対する見解が示
C2 Linkの損失は、機器故障、人的エラー、電
された。1つは、短期的対応ではあるが、軍
磁干渉、天候による無線電波伝搬特性などに
事的飛行は現在の防衛空域に限定して行われ
依ると考えられる。今後C2 Link基準を策定す
るべきで、この期間に民間との調和を図って
るに当たり、C2 Link信号の優先順位、無線の
いく。もう1つは、中長期的な対応で、防衛機、
パラメータ、リンクの監視、セキュリティ、
民間機が混合して飛行できることに取り組む
危機への対応などが検討されるべきと述べ
が、効率的な衝突回避システムの構築が必要
た。
である。民間市場では大型無人機の市場は顕
著でない故、軍用機の活動を参考にしていき
49
工業会活動
② ICAO コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン・パ ネ ル 委 員
GPS制御だが、制御不能になれば降下すると
Vaughn Maiolla
いった対策を取っている。今後は、2羽(2機)
SARPsの設定をするため、相互運航の面か
による連携で空港近くの鳥を効率よく追い払
ら、2つのアプローチがあり、1つは性能基準
いたいという。
(Performance Based)によるもの、もう1つは
規範なもの(Prescriptive)である。前者は革
④SESAR, Senior Advisor for Military Affairs,
新的で実運航に沿った調整ができる反面、シ
Denis Koehl
ステムが増えすぎる、周波数調整のむつかし
European Commissionが進めているSESAR
さなどに課題があり、後者は複数の機体と複
(Single European Sky ATM Research)からの講
数の遠隔操縦基地との相互運航が可能である
演で、ConOps
(Concept of Operation at a Glance)
一方、複雑な基準設定が必要といった欠点を
とういう発行物のなかで触れているように、
持っている。しかし、どちらかに決めて、前
無人機を重要と認識している。SESARプログ
進させる必要がある。次の課題はトレードオ
ラムの中で無人機が現在の航空システムに入
フで、C2リンク性能vs監視と回避、周波数
るようにすることを目的にしており、無人機
vsC2リンクパラメータ、C2リンクパラメータ
の運航に向け、研究開発として500ft以下での
vs実用性などがあり、技術だけの領域で解決
運航を考えている。この高度以下では目視外
できない。
B-VLOS(Beyond Visual Line of Sight)での無
人機の飛行は航空分野での新しい試みとな
③オランダClean Flight Solutions社 Co-founder
る。市場の成立と産業界のアプローチ、そし
&CEO, Nico Nijenhuis
てルール化が整備されなければならないし、
農地に周囲を囲まれたスキポール空港はエ
課題として、無人機関係者の更なる理解や体
ンジンの鳥吸い込みが多発しており、その解
系的な安全性、経済効率、人間の能力、環境
決に鳥の形をした無人機を使用している状況
への影響などへの取り組みが必要と述べた。
が紹介された。鷹、鷲といった猛禽類の形を
し、翼を動かすことであたかも生体の鳥が飛
⑤ EUROCAE, Technical Program manager,
行するように見え、Robot+Bird=Robirdとい
Alexander Engel
う名称を付けている。カモメを追い払うに
50年以上にわたり、欧州で航空安全に関す
50-95%の確率で有効という。安全策として、
るドキュメントの発行などを手掛けてきた団
滑走路のすぐ外で250m以内の通信範囲で運航
体で、2007年から無人機の検討を開始してい
すること、これを超えると自動的に帰還する、
る。WG-73の分科会とWG-93の分科会を持ち、
カモメを追い払う無人機(疑似鳥)
50
平成27年5月 第737号
前者は耐空性、指令、制御と通信、探知と回避
しなければならないため、航空規則制定に
などを扱い、後者は25㎏以下の機体について
むけ各国は指針を示さねばならない。そし
の検討を行っている。また、米国の団体RTCA
て、航空規則の国家間協調によってはじめ
(Radio Technical Commission for Aeronautics)
とも連携した検討を行っている。
て国際運航が可能となる。そのために、
(2)産業界は、共通の目標にむけ、国の機関
と情報を共有しなければならないし、従来
⑥General Atomics社 Engineer, Brandon Suarez
無人機Predator Bの衝突防止装置として、
ADS-B、TCAS II(Traffic alert and Collision
の航空機開発経験のない無人機製造企業
は、開発のプロセス等を先発企業から学び、
連携をとらねばならない。
Avoidance System)、Transponderなどの複数の
(3)各国は、軍・JARUS・航空工業会などの
システムを用いて近接飛行機の状況を把握す
既存組織・機関と協調するとともに、運航
る試験飛行を行い、また、空対空レーダー
者、製造者、サービスプロバイダー等から
AESA(Active Electronic Scanned Array)の小
の情報を収集・分析し、安全管理を行わな
型化も研究している。
ければならない。
(4)地域間国家同士は、軍民双方共通の課題
⑦ドイツ アーヘン大学 Professor RWTH, Dieter
解決に向け、情報を共有し、協調しなけれ
Moormann
ばならない。そして、世界規模で、標準化
離島へ無人機を使って薬品を届けるプログ
されたRPAS基準の策定にむけ協調せねば
ラムで、DHLとアーヘン工大などが協力して
デモフライトを行った。ドイツ北部で約12㎞
ならない。
(5)今 後 の ICAO の 計 画 と し て、現 時 点 で、
離れた島に、全備重量6㎏の4枚翼の無人機が
ANNEX2, 7, 13は、改訂済であるが、約50
薬品1.2㎏を搭載し、陸側と島側のステーショ
の課題がRPASPで議論され、2018年までに
ンからの指示で薬品を運ぶものである。
A N N E X1, 6, 8, 19 と R P A S M A N U A L
(Doc10019)が改訂される予定である。そ
⑧イスタンブール工科大学 Professor, Gokhan
して、その実現にむけて、政府と産業界の
Inalhan
協 調、RPAS 用 語 の 定 義 づ け、運 航 手 順、
運動競技場を使い、無人機が縦横に交差す
周波数配分、安全監督手法、安全管理手順
る場合の機体内蔵の衝突防止システムと地上
からの指示による衝突防止の試験を行った紹
介があった。
などの必要性が再度強調された。
(6)なお、上述のワークショップ報告以外に、
ATM統合、地域規制、ライセンス、安全管
理、セキュリティ、法律がありましたが、
6.まとめ
(1)最終日は、Stephan Creamer氏(Appointed
重複したため聴講できていません。なお、
当日の発表資料は全て以下に掲載がありま
Director, Air Navigation Bureau, ICAO)が、
すので、興味のある方は参照されたい。
以下のようにシンポジウムを総括した。
http://www.icao.int/Meetings/RPAS/Pages/
今後、無人機は、あらゆる地域に混在す
RPAS-Symposium-Presentation.aspx
ることになる。この状況において、無人機
は、現状の有人機航空管制システムに対応
51
工業会活動
7.所感
似鳥(無人機というよりロボット)を用い
(1)ICAO主催の今回の国際会議の中でいろ
てスキポール空港で鳥を追い払う、Google
いろな方から繰り返し語られていたこと
社は無人機により道路混雑状況を把握し、
は、無人機に対する安全性、各国が独自に
迂回路をスマートフォンなどに知らせる、
規制を進めるのでなく国際協調に基づくも
といったことが発表された。振り返ると、
のであること、住民の理解を得ること、公
日本はこういった分野へビジネスを考えて
益性を確保することなどであった。課題は
いる方は少なく、相当遅れている感じがす
山積しているが、運航者の大きな発言力が
る。欧米が規則やルールなど決めてしまい、
ある国では、製造者や規制等国がすでに積
気が付いた時には、例えばC2コントロール
極的に動き出していたのが印象的であっ
のソフトを世界標準と称して海外から購入
た。
させられる、といった日本の製造業の足か
せにならないよう、いろいろな面から検討
(2)海外では民間向けの無人機は研究の領域
を進めることが必要と感じた。国際協力と
を超えて、部分的に実用化が進み、商用化
いったことになりやすいテーマだが、技術
が間近になってきている状況を伺うことが
開発と並行して国内市場など運航者の声も
出来た。LCCのEasyJet社が機体の外観検査
取り込んだ日本の戦略が必要と思われる。
を小型ヘリ無人機で行いたいとか、鷹の疑
〔(一社)日本航空宇宙工業会 技術部長 亀田 明正、国際部長 板原 寛治〕
52