線形代数学の発展的内容

1
線形代数学の発展的内容
瓜生 等
2014 年 7 月 25 日
目次
平面ベクトルの発展的内容
1
1.1
諸量の成分の変化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2
双線形汎関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
1.3
双対空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
1.4
相反基底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
1.5
行列の積による分解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
空間ベクトルの発展的内容
11
テンソル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
11
一般ベクトルの発展的内容
13
3.1
部分空間への射影作用素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
3.2
2 つの部分空間の和集合と共通集合の基底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
14
1
2
2.1
3
1 平面ベクトルの発展的内容
1.1 諸量の成分の変化
1.1.1 ベクトルの成分
R2 の基底を v 1 , v 2 とするとき、任意の R2 の元 u は, ある x1 , x2 が存在して,
u = x1 v 1 + x2 v 2
と表現できる. この x1 , x2 を u の基底を v 1 , v 2 における成分という。
基底の変換式が正則行列 C を用いて, (v ′1 , v ′2 ) = (v 1 , v 2 )C であるとき,
(
ベクトルの成分の変換式は
x1
x2
)
(
=C
x′1
x′2
)
である.
線形代数学の発展的内容 2 / 16
(
ただし,
x1
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)
x2
(
は基底 {v 1 , v 2 } の成分であり、
x′1
)
は基底 {v ′1 , v ′2 } の成分である。
x′2
この性質をベクトルは反変ベクトルであるということもある.
1.1.2 行列の成分
2 行 2 列行列 A と v, w ∈ R2 に対して,w = Av が成立しているとする.
R2 の元 v, w は,

(
)
x1


 v = x1 v 1 + x2 v 2 = (v 1 , v 2 )
( x2 )
y1


 w = y1 v 1 + y2 v 2 = (v 1 , v 2 )
y2
と表現できる.
このとき, 以下が成立する.
(
y1
y2
)
(
=D
x1
x2
)
ここで,D = P −1 AP, P = (v 1 , v 2 ) である。
基底の変更式が正則行列 C を用いて, (v ′1 , v ′2 ) = (v 1 , v 2 )C であるとする. 前節のことから,
基底 v 1 , v 2 を用いると A の行列の成分は D = P ′−1 AP, P = (v 1 , v 2 ) であり,
基底 v ′1 , v ′2 を用いると A の行列の成分は D′ = P ′−1 AP ′ , P ′ = (v ′1 , v ′2 ) である. これより, 以下が成立
する.
故に
A = P ′ D′ P ′−1 = P DP −1
D′ = P ′−1 P DP −1 P ′ = C −1 DC
✓
✏
基底の変換式が正則行列 C を用いて, (v ′1 , v ′2 ) = (v 1 , v 2 )C であるとき,
行列の成分の変換式は D ′ = C −1 DC である.
ただし,D ′ は基底 {v ′1 , v ′2 } の行列の成分であり, D は基底 {v 1 , v 2 } の行列の成分である.
✒
✑
この性質を行列は混合テンソルであるということもある.
1.1.3 線形汎関数
R2 から
.
( R への線形写像を線形汎関数という
)
u1
u=
= u1 e1 + u2 e2 に対して,f (u) = u1 f (e1 ) + u2 f (e2 ) であるので,a1 = f (e1 ), a2 = f (e2 ) と
u2
おくことにより,
f (u) = a1 u1 + a2 u2
となる. さらに A = (a1 , a2 ) とおき、
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線形代数学の発展的内容 3 / 16
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Au = a1 u1 + a2 u2
と定義することにより、
f (u) = Au
と表わすことができる。
注意 1.1 A = (a1 , a2 ) は 1 行 2 列の行列 (行ベクトル) と考えられるので、Au = a1 u1 + a2 u2 が 1 行 2 列の
行列 A と平面ベクトル u の積を定義をあたえている。
R2 の基底 v 1 , v 2 に対し, 線形汎関数がどのように表現されるかを考えてみる.
u ∈ R2 , w ∈ R に対して,w = Au であるとする. このとき,u = x1 v 1 + x2 v 2 より,
(
)
x1
w = Au = A(x1 v 1 + x2 v 2 ) = x1 Av 1 + x2 Au2 = (Av 1 , Av 2 )
x2
これより、線形汎関数 Au の基底 v 1 , v 2 ∈ R2 の成分は (Av 1 , Av 2 ) である。
✓
✏
線形汎関数の成分の変換式
基底の変換式が C を用いて,
(v ′1 , v ′2 ) = (v 1 , v 2 )C
であるとき, 線形汎関数の成分の変換式は
(a′1 , a′2 ) = (a1 , a2 )C
である. ここで、(a1 , a2 ) = (f (v 1 ), f (v 2 )), (a′1 , a′2 ) = (f (v ′1 ), f (v ′2 ))
✒
この性質を線形汎関数は共変ベクトルであるということもある.
1.1.4 行列式
行列式 D(v, w) がある.
(
任意の R2 の元 v, w は, 基底 {v 1 , v 2 } の成分
{
x1
x2
) (
,
y1
y2
)
を用いて,
v = x1 v 1 + x2 v 2
w = y1 v 1 + y2 v 2
と表現できる.
D(v, w) =
x1
x2
y1
y2
D(v 1 , v 2 )
以上より、行列式の基底 {v 1 , v 2 } の成分による成分は D(v 1 , v 2 ) となる。
基底の変更式が正則行列 C を用いて, (v ′1 , v ′2 ) = (v 1 , v 2 )C であるとする. このとき、行列式の性質を用い
ると以下が得られる。
3
✑
線形代数学の発展的内容 4 / 16
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D(v ′1 , v ′2 ) = |C|D(v 1 , v 2 )
このようにして、行列式の成分の変化がわかるが、この性質を擬スカラーということがある。
1.1.5 内積
(
x1
u, v ∈ R は, 基底 {v 1 , v 2 } の成分
2
) (
,
x2
)
y1
を用いて,
y2
u = x1 v 1 + x2 v 2 , v = y1 v 1 + y2 v 2
と表現できる.
(u, v) = x1 y1 (v 1 , v 1 ) + x1 y2 (v 1 , v 2 ) + x2 y1 (v 2 , v 1 ) + x2 y2 (v 2 , v 2 )
である。これを
(
A=
(v 1 , v 1 )
(v 2 , v 1 )
(v 1 , v 2 )
(v 2 , v 2 )
)
(
,x =
x1
x2
)
(
,y =
y1
y2
)
を利用して表現すると、
(u, v) = (Ax, y)
(
(v 1 , v 1 )
したがって、基底 {v 1 , v 2 } に対する内積の成分は A =
(v 2 , v 1 )
(v 1 , v 2 )
)
(v 2 , v 2 )
である。
なお、以下に注意しよう。
(
A=
(v 1 , v 1 )
(v 2 , v 1 )
(v 1 , v 2 )
(v 2 , v 2 )
)
= t (v 1 , v 2 )(v 1 , v 2 )
✓
✏
基底の変更式が正則行列 C を用いて,
(v ′1 , v ′2 )
= (v 1 , v 2 )C であるとき、
A′ = t (v ′1 , v ′2 )(v ′1 , v ′2 ) = t C(v 1 , v 2 )(v 1 , v 2 )C = t CAC
が成立している。ここで、A′ は基底 v ′1 , v ′2 の内積の成分であり、A は基底 v 1 , v 2 の内積の成分である。
✒
1.1.6 外積
前節でみたように u に対する外積 n は任意の v ∈ R2 に対して、以下が成立している。
det(u, v) = (v, n)
基底 {v 1 , v 2 } として、n の成分を求める。v = v 1 , v 2 と置くことにより、以下が得られる。
det(u, v 1 ) = (v 1 , n), det(u, v 2 ) = (v 2 , n)
4
✑
線形代数学の発展的内容 5 / 16
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n = ξ1 v 1 + ξ2 v 2 , u = x1 v 1 + x2 v 2 とおくと、ξ1 , ξ2 の連立方程式が得られる。
(v 1 , v 1 )ξ1 + (v 1 , v 2 )ξ2 = x2 det(v 2 , v 1 )
(v 2 , v 1 )ξ1 + (v 2 , v 2 )ξ2 = x1 det(v 2 , v 2 )
✓
✏
P = (v 1 , v 2 ) とおくと、u の外積 n = ξ1 v 1 + ξ2 v 2 に対して、以下が成立する。
(
ξ1
ξ2
)
t
= det P ( P P )
−1
(
0 −1
1 0
)(
x1
x2
)
ここで、u = x1 v 1 + x2 v 2 である。
✒
✑
1.1.7 内積と線形汎関数
ベクトル u ∈ R2 を固定するごとに、以下のように線形汎関数 gu が定義できる。
gu (w) = (u, w)
このように、内積を媒介として、平面ベクトル全体と線形汎関数全体を対応をつけることができる。
||v 1 || = ||v 2 || = 1 であるとき、w = xv 1 + yv 2 を代入すると、
gu (w) = x(u, v 1 ) + y(u, v 2 )
である。(u, v 1 ) は v 1 方向の変化率、(u, v 2 ) は v 2 方向の変化率を表している。(u, v) = 0 である方向 v
への変化率は 0 であり、(u,
u
||u|| )
= ||u|| となるので、方向 u は最大変化の方向であり、そして変化率は ||u||
となる。このようにして、内積で定義される線形汎関数より唯一のベクトルを導きだすことができる。これを
勾配ベクトルという。
ここで、ベクトル u の基底 {v 1 , v 2 } に対する成分を u1 , u2 としたとき、汎関数 gu の成分を u1 , u2 であら
わしておく。
(
u = u1 v 1 + u2 v 2 = (v 1 , v 2 )
(
であるので、D =
(v 1 , v 1 ) (v 1 , v 2 )
u1
u2
)
)
とおくと、以下が成立している。
(v 1 , v 2 ) (v 2 , v 2 )
( (
) (
))
u1
x
(u, w) = D
,
u2
y
ベクトル u から内積をとおして定義される線形汎関数の成分 (a1 , a2 ) は以下で与えられる。
✓
✏
ベクトルの成分と線形汎関数の成分の変換
(a1 , a2 ) = (u1 , u2 )D
✒
✑
5
線形代数学の発展的内容 6 / 16
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この関係式はベクトルを線形汎関数としてみなしたり、逆に線形汎関数をベクトルとしてみなしたいときに
用いられる。これをうまく使用することがベクトル解析運用の鍵となっている。
なお、B = (v 1 , v 2 ) とおくと、D = t BB となっている。{v 1 , v 2 } が正規直交系であるときは B が直交行
列となり、D = I であるので、ベクトルと線形汎関数は成分として区別する必要がない。従って、直交軸のみ
を扱うときはベクトルを横に書いても問題にならないのである。
最後に {v 1 , v 2 } の相反系 {u1 , u2 } を用いると、以下が成立していることに注意しよう。
f 1 (w) = (u1 , w), f 2 (w) = (u2 , w)
1.1.8 行列式と線形汎関数
ベクトル u ∈ R2 を固定するごとに、以下のように線形汎関数 hu が定義できる。
hu (w) = D(u, w)
ここで、D(u, w) は行列式である。このようにベクトル u に対して、線形汎関数が対応している。
||v 1 || = ||v 2 || = 1 であるとき、w = xv 1 + yv 2 を代入すると、
hu (w) = xD(u, v 1 ) + yD(u, v 2 )
である。D(u, v 1 ) は v 1 方向の変化率、D(u, v 2 ) は v 2 方向の変化率を表している.
(
D(u, u) = 0 であるので、方向 u の変化率は 0 であり、D(u, w)2 =
(u, u)
(u, w)
(w, u) (w, w)
)
であるので、
v 2
(u, v) = 0 である方向 v で最大または最小となる。D(u, ||v||
) = ||u||2 であるので、最大の変化率は ||u||
で、このときの v は D(u, v) > 0 を満している必要がある。つまり、最大を与える方向 v は u と直交してい
るだけでなく、方向も考慮することが必要である。
ここで、ベクトル u の基底 {v 1 , v 2 } に対する成分を u1 , u2 とし、この汎関数の成分を調べておく。
(
u = u1 v 1 + u2 v 2 = (v 1 , v 2 )
u1
u2
)
であるので、
(
D(u, v) = D(v 1 , v 2 )(−u2 , u1 )
x
y
)
となり、行列式で定義される線形汎関数の成分 (a1 , a2 ) は以下で与えられる。
✓
✏
(a1 , a2 ) = D(v 1 , v 2 )(−u2 , u1 )
✒
✑
1.2 双線形汎関数
u, v ∈ R2 にたいして,f (u, v) ∈ R が定義されているとする. この u, v の変数それぞれについて線形であ
るとき f は双線形汎関数という.
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線形代数学の発展的内容 7 / 16
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これまで登場してきた, 行列式 det(u, v), 内積 (u, v) はこの性質をもつ. では, このふたつの関数を区別する
性質はなんであろうか.
• det(u, v) = − det(v, u)
• (u, v) = (v, u)
を満していたことに注意しよう.
定義 1.2 f を双線形汎関数とする.
• f (u, v) = −f (v, u) を満しているとき, 交代であるという.
• f (u, v) = f (v, u) を満しているとき, 対称であるという.
さて, 交代双線形汎関数と対称双線形汎関数はどのような形をもつであろうか.
f を双線形汎関数とするとき,u = u1 e1 + u2 e1 , v = v1 e1 + v2 e1 と表わされているので, 以下までは共通に
成立している.
f (u, v) = f (u1 u1 e1 + u2 e1 , v1 e1 + v2 e1 )
= u1 v1 f (e1 , e1 ) + u1 v2 f (e1 , e2 ) + u2 v1 f (e2 , e1 ) + u2 v2 f (e2 , e2 )
定理 1.3 f を交代双線形汎関数とするとき, 定数 c ∈ R が存在して,
f (u, v) = c det(u, v)
証明 f が交代であると, f (e2 , e1 ) = −f (e1 , e2 ), f (e1 , e1 ) = f (e2 , e2 ) = 0 であるので,
f (u, v) = u1 v2 f (e1 , e2 ) − u2 v1 f (e1 , e2 )
= f (e1 , e2 )(u1 v2 − u2 v1 )
= f (e1 , e2 ) det(u, v)
このようにして、交代双線形汎関数の標準基底による成分は f (e1 , e2 ) であると考えられる。f (e1 , e2 ) = 1
まで要求すると,f (u, v) = det(u, v) が従う.
いま基底 {v ′1 , v ′2 }, {v 1 , v 2 } の関係よりの行列式の成分の関係式を導いておこう。
✓
(v ′1 , v ′2 )
✏
= (v 1 , v 2 )C に対して、以下が成立している。
✒
f (v ′1 , v ′2 ) = f (v 1 , v 2 ) det C
問題 1 以上を示せ。
定理 1.4 f を対称双線形汎関数とするとき, 対称行列 A が存在して,
f (u, v) = (Au, v)
7
✑
線形代数学の発展的内容 8 / 16
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証明 f が対称であると, f (e2 , e1 ) = f (e1 , e2 ) であるので,
f (u, v) = u1 v1 f (e1 , e1 ) + u1 v2 f (e1 , e2 ) + u2 v1 f (e1 , e2 ) + u2 v2 f (e2 , e2 )
(
)
f (e1 , e1 ) f (e1 , e2 )
A=
とおくと,A は対称行列であり,
f (e1 , e2 ) f (e2 , e2 )
f (u, v) = (Au, v)
(
このようにして、対称双線形汎関数の標準基底による成分は A =
f (e1 , e1 )
f (e1 , e2 )
f (e1 , e2 )
f (e2 , e2 )
)
であると考え
られる。
f (e1 , e1 ) = f (e2 , e2 ) = 1, f (e1 , e2 ) = 0 まで要求すると, f (u, v) = (u, v) が従う.
いま基底 {v ′1 , v ′2 }, {v 1 , v 2 } の関係より内積の成分の関係式を導いておこう。
✓
✏
(v ′1 , v ′2 ) = (v 1 , v 2 )C に対して、以下が成立している。
(
t
C
f (v 1 , v 1 )
f (v 1 , v 2 )
f (v 1 , v 2 )
f (v 2 , v 2 )
)
(
C=
f (v ′1 , v ′1 )
f (v ′1 , v ′2 )
f (v ′1 , v ′2 )
f (v ′2 , v ′2 )
)
C が直交行列であれば、成分がすべて一致している。
✒
問題 2 以上を示せ。
1.3 双対空間
R2 から R への線形写像 (線形汎関数) 全体を E と書くことにする.
そして, 線形汎関数に和とスカラー倍の演算を以下の様に定義する.
定義 1.5 f, g ∈ E, k ∈ R に対して,
• (f + g)(u) = f (u) + g(u), u ∈ R2
• (kf )(u) = kf (u), u ∈ R2
また,f (u) = 0, u ∈ R2 を満す写像 f を零写像といい,0 と書く. これから, 以下が成立していることがわ
かる.
定義 1.6 f, g ∈ E, k ∈ R に対して,
• 0∈E
• f +g ∈E
• kf ∈ E
8
✑
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すなわち,E は和とスカラー倍について閉じた集合である. このような性質をもつ集合をベクトル空間と一般
的によぶ.
E には幾何学的な平行という概念がないので, これに対応した別の言葉が必要となる.
定義 1.7 ベクトル空間 E の部分集合を {f1 , f2 , · · · , fm } とする. k1 , k2 , · · · , km ∈ R に対して,
k1 f1 + k2 f2 + · · · + km fm = 0
が成立していることから k1 = k2 = · · · = km = 0 が従うとき,{f1 , f2 , · · · , fm } は一次独立という.
定義 1.8 ベクトル空間 E の部分集合を {f1 , f2 , · · · , fm } とする. {g1 , g2 , · · · , gm } が一次独立で, 任意の元
f ∈ E に対して,k1 , k2 , · · · , km ∈ R が存在して,
f = k1 f1 + k2 f2 + · · · + km fm
であるとき,{f1 , f2 , · · · , fm } は E の基底であるという.
E の具体的な基底を考えてみよう. e1 (u) = u1 , e2 (u) = u2 なる u の座標をとりだす関数を e1 , e2 とする
と, あきらかに e1 , e2 ∈ E
また,k, l ∈ R に対して,ke1 + ke2 = 0 とすると, 定義から,
ke1 (u) + le2 (u) = 0, u ∈ R2
故に ku1 + lu2 = 0 となるが,u1 , u2 の任意性から k = l = 0 が従うので e1 , e2 ∈ E は一次独立である.
また,
f (u) = f (u1 e1 + u2 e2 ) = f (e1 )u1 + f (e2 )u2 = f (e1 )e1 (u) + f (e2 )e2 (u) = (f (e1 )e1 + f (e2 )e2 )(u)
より,f = f (e1 )e1 + f (e2 )e2 が従う. 以上より,{e1 , e2 } は E の基底である.
問題 3 e1 = (1, 0), e2 = (0, 1) と表現できることを示せ.
R2 の基底 u1 , u2 に対して, R2 の線形汎関数 f 1 , f 2 で以下をみたすものを考える.
f 1 (u1 ) = 1, f 1 (u2 ) = 0, f 2 (u1 ) = 0, f 2 (u2 ) = 1
このような線形汎関数を R2 の f 1 , f 2 を双対基底という.
問題 4 R2 の線形汎関数 f 1 , f 2 が線形汎関数の基底となっていることを示せ.
R2 から R への線形写像 f を線形汎関数という。f の表現行列 (線形写像の成分とよんでもよい) を求めて
おく。
(
f (w) = xf (v 1 ) + yf (v 2 )) = (f (v 1 ), f (v 2 ))
9
x
y
)
線形代数学の発展的内容 10 / 16
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であるので、f の表現行列は (f (v 1 ), f (v 2 )) である。以後これを (a1 , a2 ) で略記する。
(a1 , a2 ) = (f (v 1 ), f (v 2 ))
このように、線形汎関数は横ベクトルであらわされていると考えることができる。
また、f 1 (v 1 ) = 1, f 1 (v 2 ) = 0 を満足している線形汎関数 f 1 はベクトルの v 1 成分を取り出す関数であり、
同様にして、f 2 (v 1 ) = 0, f 2 (v 2 ) = 1 を満足している線形汎関数 f 2 はベクトルの v 2 成分を取り出す関数で
ある。
1.4 相反基底
R2 に基底 {v 1 , v 2 } があるとき、
(ui , v j ) = δij が成立するように u1 , u2 ∈ R2 を求めることができる。u1 , u2 ∈ R2 を基底 {v 1 , v 2 } の相反
基底という。
問題 5 u1 , u2 ∈ R2 を基底 {v 1 , v 2 } の相反基底とするとき、u1 , u2 は一次独立であることを示せ。
✓
✏
V = (v 1 , v 2 ), U = (u1 , u2 ) とおくと、以下の関係がある。
t
✒
VU =I
✑
1.5 行列の積による分解
(
行列
a11
a21
A=
a12
a22
)
が正則であるとき, 以下のような成分どうしの変換があったとする.
(
x1
x2
)
(
=
a11
a12
a21
a22
)(
u1
)
u2
|A| = a11 a22 − a21 a12 ̸= 0 である. まず a22 ̸= 0 の場合を考える. このとき以下の分解ができる.
(
a11
a21
a12
a22
)
(
=
|A|
a22
a12
a22
0
1
)(
1
a21
0
a22
)
これにより, 正則行列での成分の変換は片方の成分を動かさない 2 つの変換の合成で書くことができる.
a22 = 0 のときは,a12 ̸= 0 であるので, このときは u1 , u2 をとりかえることにより, 同一のことを考えるこ
とができる.
これは重積分の変数の変換に用いることができる.
10
線形代数学の発展的内容 11 / 16
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2 空間ベクトルの発展的内容
2.1 テンソル
簡単のため R3 で説明することにする.
2.1.1 直交軸の変換
e1 , e2 , e3 と e′1 , e′2 , e′3 の二組のたがいに直交する単位ベクトルの組があり, それぞれが直交座標軸の方向を
表わすとする.
このとき, これらベクトルのいずれの組も R3 における基底となるので, つぎの関係で結ばれる.
ei =
3
∑
aji e′j
j=1
このとき,e1 , e2 , e3 と e′1 , e′2 , e′3 の直交性から
i = j のとき
i = j のとき
3
∑
k=1
3
∑
aji
aik ajk = 1 であり,i ̸= j のとき
aki akj = 1 であり,i ̸= j のとき
k=1
に対してつぎの関係式が成立していることがわかる.
3
∑
k=1
3
∑
aik ajk = 0.
aki akj = 0.
k=1
さてこのような座標軸の変換がおこなわれると, 空間上の点の座標は変化する.
点 A の e1 , e2 , e3 による座標を (x1 , x2 , x3 ) とし,e′1 , e′2 , e′3 による座標を (x′1 , x′2 , x′3 ) とする.
点 A を二組の基底と座標成分でそれぞれ表わすことにより,
3
∑
xj ej =
j=1
3
∑
x′i e′i
i=1
となる. これに先の基底の変換式を代入をし,e1 , e2 , e3 が 一次独立であることを用いると,
x′i =
3
∑
aij xj
j=1
が得られる. これを直交座標の変換式という.
2.1.2 直交軸の変換と矢線ベクトル
空間内に 2 点 A, B があり,e1 , e2 , e3 に対する2点の座標が (y 1 , y 2 , y 3 ), (z 1 , z 2 , z 3 ) で,e′1 , e′2 , e′3 に対する 2
点 A, B の座標が (y ′1 , y ′2 , y ′3 ) ,(z ′1 , z ′2 , z ′3 ) であるとする.
−−→
このとき, 矢線ベクトル AB はそれぞれの座標を用いて (z 1 − y 1 , z 2 − y 2 , z 3 − y 3 ) = (v 1 , v 2 , v 3 ) と
(z ′1 − y ′1 , z ′2 − y ′2 , z ′3 − y ′3 ) = (v ′1 , v ′2 , v ′3 ) と 2 様に表わされるが, これらはつぎの関係式で結ばれている
ことが直交座標の変換式からわかる.
v ′i =
3
∑
j=1
11
aij v j
線形代数学の発展的内容 12 / 16
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2.1.3 ベクトルとスカラーの定義
前節の考察より, 直交座標の変換を介入して,3 つの量の組 v 1 , v 2 , v 3 が
v ′i =
3
∑
aij v j
j=1
の様に変換されるとき v 1 , v 2 , v 3 をベクトルと定義する流儀がある. 現在我々が学んでいるベクトルは単に
数の組として定義しているが, 矛盾するものではない.
これに対し上記変換により, 変化しない量をスカラーと呼んでいる.
例
1
u , u2 , u3 と v 1 , v 2 , v 3 がベクトルであるとする.
このとき,u1 + v 1 , u2 + v 2 , u3 + v 3 はベクトルであり,u1 v 1 + u2 v 2 + u3 v 3 はスカラーである.
これはベクトルの和はベクトルであること, またベクトルの内積はスカラーであることを主張している.
2.1.4 テンソルの定義
テンソルは一般に 2 つ以上の添字をもつ量の組をあらわすが, ここでは 2 つの添字をもつ量に話を限定する
ことにする.
T 11 , T 12 , T 13 , T 21 , T 22 , T 23 , T 31 , T 32 , T 33
直交座標の変換により,
T ′i,j =
3 ∑
3
∑
aik ajl T kl
k=1 l=1
と変換される 9 個の量の組を 2 つの添字をもつテンソルと呼んでいる.
この定義に従えば, ベクトルは一つの添字をもつテンソルと言うこともできる.
例
1) T ij がテンソル,v i がベクトルであるとき, つぎはいずれもベクトルとなる.
3
∑
j=1
T ij v j ,
3
∑
T ji v j
j=1
これより素朴な定義による行列 (T ij ) は添字が 2 つのテンソルであると理解してもよいこととなる.
2) クロネッカーのデルタ δ ij はテンソルである.
これについて質問を受けたことがこの文章を書く直接のきっかけであったので, 特に証明をつける.
証明
座標系 x1 , x2 , x3 に対するクロネッカーのデルタを δ ij と書き, 座標系 x′1 , x′2 , x′3 に対するクロネッカーの
デルタを δ ′ij と書く.
12
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3 ∑
3
∑
aik ajl δ kl =
k=1 l=1
すでに注意したように i = j のとき
り,
3
∑
3
∑
3
∑
aik ajk
k=1
aik ajk = 1 であり,i ̸= j のとき
k=1
3
∑
aik ajk = 0 であったことよ
k=1
aik ajk = δ ′ij となるので, テンソルであることがわかる.
k=1
2.1.5 補足
直交座標系の変換により, 諸量の座標は変化をする. この変換法則により量を区別することにより, スカラー,
ベクトル, テンソルなどが現われる. しかし, ベクトルや行列に話を限れば, 座標変換を表に出さなくとも理論
は展開できる. テンソル等の概念は直交軸の変換による座標の変化に注目したいとき必要となる考え方である
と理解した方が解りやすい.
ここで説明した概念はのちに習う正規直交系の理論を学んでからの方がより理解しやすいと思う.
3 一般ベクトルの発展的内容
3.1 部分空間への射影作用素
命題 3.1 Rn の部分空間 S に対して, 一次独立であるベクトルの組,v 1 , v 2 , · · · , v p ∈ Rn (p ≤ n) が存在して
S = S[v 1 , v 2 , · · · , v p ] であるとする.
このとき, このベクトル v 1 , v 2 , · · · , v p に,n − p 個のベクトル u1 , u2 , · · · , un−p を適宜追加することによ
り, S[v 1 , v 2 , · · · , v p , u1 , u2 , · · · , un−p ] = Rn とできる.
証明 まず標準ベクトル,e1 , e2 , · · · , en を一挙に追加すると,
S[v 1 , v 2 , · · · , v p , e1 , e2 , · · · , en ] = Rn
となる. 最初の v 1 , v 2 , · · · , v p は一次独立であるので, 次に v 1 , v 2 , · · · , v p , e1 が一次独立であるかどうかを調
べる. 一次独立であったら,u1 = e1 を追加する. 一次従属であれば, v 1 , v 2 , · · · , v p , e2 が一次独立であるかど
うかを調べる. このようにして, 一次独立な元をつぎつぎに追加していくことができ, この操作は有限回で終了
する. 結果として,n − p 個の一次独立な元が追加されることになる.
この命題はこれから後の理論的な証明に効果的に用いられることになる.
定義 3.2 直和集合
S, T ⊂ Rn 部分空間であり,S ∩ T = {0} であるとき,
S ⊕ T = {u + v : u ∈ S, v ∈ T }
命題 3.3 Rn の部分空間 S で dim S = p となるものがあるとき, Rn の部分空間 T で dim T = n − p である
ものが存在し,
Rn = S ⊕ T
とできる.
13
線形代数学の発展的内容 14 / 16
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このような T を S の補空間という.T を補うと全体となるからである. この命題の証明は前命題からあきあら
かである.
定義 3.4 S ⊂ Rn 部分空間とし, その補空間を T とする, このとき,Rn = S ⊕ T である, 従って, 任意の
u ∈ Rn に対して,us ∈ S と ut ∈ T が一意的に存在し u = us + ut とあらわすことができる,us を S の上へ
の T に平行な射影という, また写像 PS : Rn → S を P (u) = us で定義する, この写像 PS を部分空間 S のの
射影作用素という,
問題 6 S, ⊂ Rn 部分空間とする, また,PS を部分空間 S への射影とする, このとき PS は線形写像であ
り,PS2 = PS であることを示せ,
3.2 2 つの部分空間の和集合と共通集合の基底
いま,u1 , u2 , · · · , um と v 1 , v 2 , · · · , v n がそれぞれ一次独立であるとする. A = S(u1 , u2 , · · · , um ) と
B = S(v 1 , v 2 , · · · , v n ) があるとき,A ∪ B と A ∩ B の基底の求め方を解説する. 今後重要となる行列を
Q = (u1 , u2 , · · · , um , v 1 , v 2 , · · · , v n ) と置く.
3.2.1 和
A ∪ B の計算は容易である.
A ∪ B = S(u1 , u2 , · · · , um , v 1 , v 2 , · · · , v n )
であるので, 行列 Q を階段行列に変形をし, 基底を選択すればよい. 実際にすることは u1 , u2 , · · · , um , v 1 , v 2 , · · · , v n
の中の一次独立なベクトルがどれであるかを判定することと同じであるから,
m
∑
λi u i +
i=1
m
∑
µj v i = 0
h=1
を出発として,λi , µj の連立方程式を解くことになるからである.
3.2.2 共通集合
A ∩ B については次のことに最初に注意する.
命題 3.5 A ∩ B と KerQ は線形同型である.
u ∈ A ∩ B であると,
u=
m
∑
xi ui =
i=1
n
∑
yj v j
j=1
となる,xi , yj が一意的に存在する. この式を変形すると,
m
∑
i=1
xi u i −
n
∑
j=1
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yj v j = 0
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となり, つぎが成立している.
t
(x1 , x2 , · · · , xm , −y1 , −y2 , · · · , −yn ) ∈ KerQ
u → t (x1 , x2 , · · · , xm , −y1 , −y2 , · · · , −yn )
の対応により
A ∩ B → KerQ
なる写像が定まるが, この対応が全射であり, 線形写像になっていることを確認することは易しい (省略).
この定理より, 以下の様に A ∩ B の基底をとりだすことができることになる.
x = (x1 , x2 , · · · , xm ), y = (y1 , y2 , · · · , yn ) と置くと Qt (x, −y) = 0 を t (x, −y) の連立方程式とみて, 掃き
∑m
出し法を用いると x, y が満すべき関係式が得られるが, この x を用いて表現された u = i=1 xi ui が求める
べき u ∈ A ∩ B である. これから一次独立なベクトルをとりだせば, 基底を得ることができるわけである.
3.2.3 結論と例題
この結果わかることは A ∪ B を求めるにせよ,A ∩ B を求めるにせよ, 鍵はまず行列 Q を階段行列とするこ
とである. なぜなら, もとの連立方程式と変形された階段行列の連立方程式は同値であるからである.
例題

4 2
Q = (u1 , u2 , v1 , v2 ) =  0 3
0 0

0 0
−6 0 
0 1
Q はすでに階段行列であるので,A ∪ B の基底は u1 , u2 , v 2 または u1 , v 1 , v 2 にとれる. これにより
A ∪ B = S(u1 , u2 , v 2 ) = S(u1 , v 1 , v 2 ) であり,dim A ∪ B = 3 が従う.
さらに,Qt (x, −y) = 0 より (x1 , x2 , −y1 , −y2 ) = (y1 , −2y1 , −y1 , 0) なる関係式が得られる. ただし,y1 は任
意定数である.
これより,u = y1 u1 − 2y1 u2 = y1 (u1 − 2u2 ) がわかる.y1 は任意定数であるので,u1 − 2u2 が基底とな
り,A ∩ B = S(u1 − 2u2 ),dim A ∩ B = 1 が従う.
参考文献
[1] 線型代数学 佐武一郎 裳華房
[2] 線型代数入門 斎藤正彦 東京大学出版会
[3] 線形数学 I,II 入江昭二 共立出版
[4] 線型代数学入門 福井他 内田老鶴圃
[5] 線形代数とその応用 G. ストラング 産業図書
[6] 線形代数学 増補版 寺田文行 サイエンス社
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線形代数学の発展的内容 16 / 16
11:17am 2014 年 7 月 25 日 Uryu Hitoshi
[7] 線形代数概説 内田伏一 浦川肇 裳華房
[8] 入門線形代数 三宅敏恒 培風館
[9] 2 次行列の世界 岩堀長慶 岩波書店
[10] 線型代数 長谷川皓司 日本評論社
[11] 線形代数 佐武一郎 共立出版
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