単相 PWM インバータにおけるインピーダンス 電圧補償と電圧振動抑制制御の実験結果 正員 村松 真希* 正員 中田 篤史** 上級会員 鳥井 昭宏*** 終身会員 植田 明照*** Experimental results of Impedance Voltage Compensation and Voltage Vibration Suppression Control in a Single-phase PWM Inverter Maki Muramatsu*, Member , Atsushi Nakata**, Member, Akihiro Torii***, Senior Member , Akiteru Ueda***, Life Member キーワード:単相 PWM インバータ,インピーダンス電圧補償,電圧振動抑制制御 Keywords:single-phase PWM inverter, impedance voltage compensation, voltage vibration suppression control 1. 無停電電源システムの規格(JEC-2433)(2)では,ダイオード まえがき 整流器の交流側(または直流側)に 4%の抵抗 Rrec を挿入し, 近年,家庭用小型発電機などに高周波スイッチングの単 直流電圧リプルを 5%にすると定められている。実験では抵 相 PWM インバータが用いられている。一般的に,出力過電 抗 Rrec を 0.3Ω(4.5%),コンデンサ容量 Crec を 9,100µF,また 圧と過電流保護のために検出器を必要とする。本論文では 整流器の負荷 Irec は電子負荷を用いて 0.65A の電流源とし この 2 つのセンサを用いて,単相 PWM インバータにコンデ た。 ンサインプット型整流器を接続した場合のインピーダンス 電圧補償及び電圧振動抑制制御による実験結果と,フィー ドバック制御を追加した場合の実験結果を報告する。 2. 回路構成と制御定数 Fig.1 に主回路構成,Fig.2 に制御ブロック線図を示す。直 流電圧 Vdc が 200V,定格出力 Vo, Io が 100Vrms,15Arms の装 置を想定しているが,ここでは 20V,10Vrms,1.5Arms のミニ Fig.1. Inverter main circuits. モデルにて実験を行う。 負荷電流 Io が流れると,フィルタリアクトル Lf による電 圧降下 VL が発生し,出力電圧 Vo がひずむ原因となる。また, LC フィルタの共振により出力電圧 Vo に振動成分が生じる。 本論文では,Fig.2 に示すようにインバータ電流 Iinv と出力電 圧 Vo をセンサで取り込み,不完全微分を用いてフィルタリ アクトル Lf による電圧降下 VL とコンデンサ電流 Ic を推定す Fig.2. Configuration of control. ることで,インピーダンス電圧補償と電圧振動抑制制御を Table 1. Parameters. 行う。 回路定数および制御定数を Table.1 に示す。50Hz,60Hz の 周波数を出力するために,キャリア周波数はそれらの整数 倍である必要がある。また,一般的に出力電圧のひずみ率 は 40 次まで測定されるため,2.4kHz まで制御可能なキャリ ア周波数を選定する。さらに「キャリア周波数/出力正弦 波周波数≧9」 (1)の関係から,2.4kHz までを制御するには 21.6kHz 以上のスイッチングが必要となる。キャリア周波数 を 12kHz としユニポーラ変調をすると,インバータ出力の スイッチングリプル周波数は 24kHz になる。サンプリング 時間は,キャリアの山谷で割り込みを行うと 41.67µs とな る。 ASTI 株式会社 〒432-8056 浜松市南区米津町 2804 番地 ** 静岡理工科大学 〒437-8555 袋井市豊沢 2200-2 *** 愛知工業大学 〒470-0392 豊田市八草町八千草 1247 3. 実験結果 Fig.3 にオープンループ制御(TL, KDe, KC, P=0)の電圧電流 波形を示す。出力電圧は 7.00Vrms,THD は 12.2%である。定 格電圧 10Vrms に対して 3Vrms 低下している。これはフィルタ * リアクトル Lf による電圧降下,デッドタイム電圧による電 圧降下,スイッチング素子の順方向電圧が主な原因として 考えられ,これらの要因により THD が大きくなると考えら れる。 (a) Output voltage waveform. (a) Output voltage waveform. (b) Inverter current waveform. Fig.3. Voltage and current waveforms in the case of open-loop control. (b) Inverter current waveform. Fig.5. Voltage and current waveforms in the case of Feed-forward Fig.4 に,インピーダンス電圧補償,電圧振動抑制制御, control(KDe=0.15). デッドタイム電圧補償(理論値 KDe=2fc・Tdt=0.072)によるフィ ードフォワード制御(P=0)を行ったときの電圧電流波形を示 す。THD は 7.2%まで改善した。JEC-2433 では,THD は 8% 以下と定められており,その基準を満たすことができた。 しかし, 定格出力に対して 2Vrms 低下している。 この結果は, 著者等が以前報告したフィードフォワード制御でのシミュ レーション結果(3)97.1Vrms(9.71Vrms 相当),THD が 4.31%と差 (a) Output voltage waveform. 異がある。この要因を,還流ダイオードの順方向電圧 VF が 原因であると考え,デッドタイム電圧補償ゲインを大きく することで対策した。THD が最小となる実験結果から,デ ッドタイム電圧補償ゲインを KDe=0.15 とした。Fig.5 に KDe=0.15 としたときの電圧電流波形を示す。この結果,出 力電圧は 8.8Vrms,THD は 5.6%まで改善した。シミュレーシ (b) Inverter current waveform. ョン結果に対して出力電圧が低いのは,IGBT のコレクタ・ Fig.6. Voltage and current waveforms in the case of Feed-forward and エミッタ間飽和電圧 VCE によるものと考えられる。 Fig.6 に Fig.5 の制御条件にフィードバック制御を追加し Feed-back control(KDe=0.15). 4. まとめ たときの電圧電流波形を示す。提案制御ではフィードフォ ワード制御にてできるだけ正弦波へ近づけ,フィードバッ 単相 PWM インバータにコンデンサインプット型整流器 ク制御を補助的に用いる。この意図としては,サンプルア を接続した場合における,インピーダンス電圧補償及び電 ンドホールドの遅延によりゲインを大きくできず,また 圧振動抑制制御の実験結果を示した。フィードフォワード 様々な負荷条件で制御の安定を保つためである。この結果, 制御のみで,出力電圧は 8.8Vrms,THD は 5.6%まで改善され 出力電圧はほぼ定格電圧となり,THD は 3.3%に改善できた。 た。また,フィードフォワード制御で補償しきれない部分 を補助的なフィードバック制御を追加することでさらに改 善できることも確認できた。 文 (a) Output voltage waveform. (1) (2) (3) (b) Inverter current waveform. Fig.4. Voltage and current waveforms in the case of Feed-forward control(KDe=0.072). 献 杉本,小山,玉井:「AC サーボシステムの理論と設計の実際」,総 合電機出版社,p.44(1990-5) 電気学会電気規格調査会 2003: 「JEC-2433 無停電電源システム」,電 気書院(2003-10) 中田,藤永,鳥井,植田:「不完全微分を用いた単相 PWM インバ ータのインピーダンス電圧補償と電圧振動抑制制御」,電気学会産 業応用部門大会,1-60,(2014-8)
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