低周波数送電用インバータに関する一考察 中田 篤史 (静岡理工科大学),鳥井 昭宏,植田 明照 (愛知工業大学) A Study on an Inverter Used for Extremely Low Frequency Transmission Atsushi Nakata (Shizuoka Inst. of Science and Technology), Akihiro Torii, Akiteru Ueda (Aichi Inst. of Technology) 1. まえがき 近年,海洋国家である我が国では洋上風力発電等,海か ら得る自然エネルギの利用法が模索されてきている。我が 国の排他的経済水域は広大であり,ここで得られたエネル ギを効率よく電力消費地へ送電できることが望ましい。高 効率な送電法として直流送電がある。線路のリアクタンス を無視できるため電圧降下が少なく,最大電圧が直流電圧 であるためケーブル耐電圧まで利用できるといった長所が ある。その一方,大容量の直流遮断が難しい,サイリスタ 変換器が発する高調波を除去するためフィルタが大型化す Fig.1. System configuration. る,素子冷却に純水循環装置を必要とするなどの欠点があ Table 1. %ZL and %YC of CV cable in 30MVA system. る。また,安価な CV ケーブルは直流電圧を印加すると絶縁 体内に空間電荷が蓄積し絶縁破壊を引き起こすため(1),高価 な無機充填剤入りの CV ケーブル(2)や油入りケーブル(OF ケーブル)を用いる必要がある。 これらの問題を解決するために,5-10Hz 程度の低周波送 電が提案されている(1)。周波数が低くなるため変圧器が大型 化する問題があるが,線路リアクタンスによる電圧降下を のオープン巻き線とし,それぞれの出力電圧を 1.5kV とす 低減し,交流であるため電流がゼロになる点があり遮断器 る。変圧器の短絡インピーダンスは漏れインダクタンス分 の製作が容易となる。また,系統に連系する箇所の PWM 整 10%,巻き線抵抗分 1%を想定している。 流器を多重化させることで高調波フィルタを必要とせず, Rec1-6 及び Rec7-12 の PWM 整流器は 4.5kV の IGBT を並 空冷による素子の冷却が可能で,安価な CV ケーブルを用い 列接続して使用し,三角波キャリア 540Hz を 60 度ずつずら たシステムの構築が可能となる。 して多重化を行う。Rec1-6 は直流電圧を 3kV の一定値に制 本論文では,低周波インバータとケーブル特性について 御するが,Rec7-12 は必要な電力を系統に流す分だけ直流電 検討を行い,ケーブルによる LC 共振を抑制する方法につい 圧を低下させる制御を行う。6 多重化制御を行うため,等価 て報告を行う。 2. スイッチング周波数は 3.24kHz となり,変圧器 1 次側に高調 波除去用フィルタを必要としない。 システム構成 低周波用インバータ INV1,INV2 も 4.5kV の IGBT を並列 Fig.1 に低周波送電システム構成を示す。このシステムの 接続して用いる。INV1 は周波数が 5Hz,ピーク値が 3kV の 容量は 30MVA で,双方向に電力を融通可能であるが,説明 120 度導通の方形波インバータとしての動作を基本とし, を単純化させるため,左側の発電機から右側の電力系統へ INV2 はすべての IGBT をオフ状態とし還流ダイオードによ の流れで考える。発電機と電力系統に接続されている 60Hz る整流器動作とする。方形波による送電(3)を用いることによ の変圧器は 2 次側(Rec1-6 側、Rec7-12 側)をそれぞれ 6 つ り,変圧器を介してケーブルの最大絶縁電圧まで昇圧する ことができる。 * 静岡理工科大学 〒437-8555 袋井市豊沢 2200-2 Shizuoka Institute of Science and Technology., 2200-2, Toyosawa, Fukuroi 437-8555 ** 愛知工業大学 〒470-0392 豊田市八草町八千草 1247 Aichi Institute of Technology., 1247 Yachigusa, Yakusa-Cho, Toyota 470-0392 使用する CV ケーブルは,抵抗分が無視でき,1km あたり のインダクタンスと線間静電容量が 350µH/km,0.3µF/km で, 長さが 50km であると仮定する。送電周波数(5Hz)におけ るケーブルインピーダンスを ZL,アドミタンスを YC とし, 各送電電圧に対する%インピーダンスと%アドミタンスを 50km の CV ケーブルを用いても十分な送電能力を持つこと Table 1 に示す。長距離 CV ケーブルが 5Hz の低周波用イン を明らかにした。本研究の一部は,財団法人浜松電子工学 バータの LC フィルタとして機能するため、低周波送電で使 奨励会,高柳研究奨励賞の助成を受けたものである。 用する送電電圧は%インピーダンスと%アドミタンスが大 きすぎることのない 22kV とする。 低周波用変圧器の漏れインダクタンス分%ZL は 2.5%(抵 抗分無視)と仮定し, インバータが発生する線間電圧 2.45kV, Fig.2. Simulation circuit. 周波数 5Hz の 120 度導通の方形波電圧を 22kV に昇圧する。 受電側は 22kV の電圧を 2.45kV に降圧する。周波数が低く なるため低周波用変圧器には,(1)巻き線数が増大する,(2) 鉄心の断面積が大きくなるなどの問題がある。しかし,以 (a) Inverter output voltage waveform. 下の利点が考えられる。(1)直流送電に用いる直流リアクト ルやサイリスタ変換器が発生する高調波除去用フィルタが 不要,(2)サイリスタ変換器の位相角変化による力率改善用 調相設備や純水冷却装置を必要としない,(3)安価な CV ケ (b) Receiving-end voltage waveform. ーブルを用いることが可能である。したがって,低周波用 変圧器が大型化してコストが増大する問題点は相殺できる と考えている。 3. シミュレーション (c) DC voltage waveform. Fig.3. Voltage waveforms in the case of square inverter at 120° 本論文では,Fig.1 に示した 30MVA 送電システム構成の conduction mode. うち,低周波インバータ INV1 と受電整流器 INV2 の間の動 作をシミュレーションにより検討する。シミュレーション 回路を Fig.2 に示す。低周波インバータのキャリア周波数は 500Hz とし,低周波送電部分は T 型等価回路で表現した。 低周波インバータ INV1 の出力電圧 VINV,受電端電圧 Vend, 受電側の直流電圧 Vdc の波形を Fig.3 に示す。 低周波インバータの出力電圧波形は方形波状で,立ち上 Fig.4. Block diagram of inverter control. がりと立ち下がりが急峻であるため Fig.3 ではケーブルの LC の共振周波数で振動が発生する。これは定格容量時より も軽負荷時で顕著となる。そこで,低周波インバータの出 力電流を用いて、電圧振動の抑制制御を行う。インバータ (a) Inverter output voltage waveform. の出力を 120 度導通の方形波出力電圧とするために,0 クロ ス点付近のみスイッチングする過変調制御を用いる。方形 波電圧の 0 付近でのみスイッチングするため,出力電流を 取り込んだ電圧振動抑制が可能となる。その制御ブロック (b) Receiving-end voltage waveform. 線図を Fig.4 に示す。 Fig.5 にシミュレーション結果を示す。立ち上がりと立ち 下がり部分に PWM 制御を行うことで, 120 度導通の方形 波電圧の 0V 区間付近を PWM 波形に,それ以外の部分は方 (c) DC voltage waveform. 形波とすることができた。受電端電圧が台形波状になるも Fig.5. Voltage waveforms in the case of over-modulation のの,変動の小さい直流電圧を受電側で得られた。 4. inverter by using vibration suppression control. まとめ 文 本論文では,長距離送電を行うための低周波インバータ について検討を行い,ケーブルのインダクタンスと静電容 量により生じる電圧の振動を抑制する方法について報告し (1) (2) た。方形波電圧による送電が望ましいが,ケーブルの LC 共 (3) 振による電圧振動が顕著に表れる。電圧振動を抑制する制 御を行い,受電端電圧が台形波状になるようにした結果, 献 舟木,松浦: 「低周波ケーブル送電方式の提案」,電気学会論文誌 B, Vol.120,No.8/9,pp.1077-1083(2000-8/9) 前川,山中,木村,村田,片貝,松永:「直流 500kV 海底 XLPE ケ ーブル」,日立電線技報,vol.21,pp.65-72,(2002-1) 鬼頭,渡邉,竹下,西田: 「三相方形波配電システムにおける変圧器 絶縁不可ダイオード整流回路の解析」,電気学会論文誌 D,Vol.130, No.5,pp.639-645(2010-5)
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