ナバックレター 養豚版Vol.85

ナバックレター 養豚版 Vol.85
豚における精油(エッセンシャルオイル)とその消化特性
Luis Mesas Mora, Norel SA, Barcelona, Spain
精油は、複雑な化学組成を持つ植物由来の揮発性成分を含む液体で、葉、茎、花、樹皮や果皮、根、またはそれ以外の植
物部位から抽出されます。精油は、本来、化学的な情報伝達物質として働きます。精油は植物の行動や生存に関する情報
や具体的なメッセージを含むと考えられています。精油には次のような作用があります:
● 有害な微生物、真菌および昆虫に対する防御
● 受粉に寄与する動物や昆虫の誘引
● 葉、果実などの成熟および熟成過程の調節
● 脱水および日焼け防止効果
工業的には精油は、全草または一部(葉、根、実、樹皮や果皮)から蒸留または化学的抽出によって得られます。抽出法は
使用される植物原料の種類によります。最も代表的な方法は次のようなものです:
● 水蒸気蒸留法:本法は、水を入れた抽出槽内で植物原料と水を混合して加熱する工程と、コイルまたは冷却コンデンサー
に蒸気を通す工程からなります。芳香成分が濃縮された蒸気を別の容器(フローレンスフラスコ)に入れます。精油は
水面に浮くので、ガラス製またはアルミニウム製容器に採取します。
● 溶媒抽出法:水蒸気蒸留法と同様ですが、溶媒抽出法ではあらかじめ材料を破砕、粉砕、または水に浸した後、溶媒中
で撹拌し、精油の溶出を促進します。通常、エタノール、ヘキサン、メタノールなどが溶媒として使用されます。その後、
溶媒を除去し、ソックスレー装置を用いて濃縮します。溶媒抽出法で得られた精油は、最終製品に溶媒残留物が残る可
能性があるため、植物療法には使用できません。
● 圧搾法:原材料をプレス機またはスクレーパーで圧搾します。かつては手で圧搾し、スポンジにしみこませて抽出して
いました。オレンジ、レモン、みかんから精油を採取する場合には本法が用いられます。これらの精油には芳香性と味
覚特性の両方があります。
● 超臨界流体抽出法:これは新しい方法で、抽出槽内に原材料を入れる工程と、ガスを加える工程があります。不活性で
ある炭酸ガスがしばしば使用されます。高圧にすると炭酸ガスは液化し、溶媒のように作用します。炭酸ガスを除去す
るには維持していた圧力を解除するだけです。炭酸ガスを回収すれば、精油が得られます。
動物栄養学的に、またヨーロッパにおける家畜の増体促進用の抗生物質の禁止により、衛生状態の改善(殺菌剤、抗菌剤、
抗生物質)や飼料摂取の促進(抗真菌薬、抗酸化剤、食欲増進剤、消化剤)には精油の特性を利用し、適用できる可能性が
あります。精油の中には消化器系に作用して食欲や消化液の分泌を亢進するものもあり、酵素分泌や蠕動を刺激して食物
の消化および吸収を改善します。精油を用いた実験を行い、食欲を刺激する芳香成分が子豚飼料摂取量および育成成績に
及ぼす影響について検討しました。21 日齢で早期離乳した子豚を供試しました。
本 試 験 は Norel SA1)の 農 場(Onzonilla, León, Spain)で 実 施 さ れ ま し た。子 豚 は、対 照 飼 料 群 ま た は Fluidarom
1003 添加(1 回あたり 300 g)飼料群のいずれか一方に割り付け、各群あたり 3 回の反復試験を行いました。試験期間
は 4 週間で、NRC の飼養標準(1994 年版)によるこの日齢の子豚の必要量と栄養学的に同等またはそれ以上の飼料を給
与しました。Fluidarom 芳香成分添加飼料給与群では出荷時体重に増加傾向が認められ(10.80%)、芳香成分添加飼料
給与群では子豚の飼料摂取量が 3.3%増加し、増体量は 19.28%高く、飼料効率は 14%改善しました。
この実験により、子豚の生産性の改善を目的とする精油飼料添加の有効性が示されました。統計学的な差は認められませ
んでしたが、飼料摂取量、体重、1 日平均増体量(ADG)および飼料効率が増加しました。この結果は、精油の飼料添加
により消化および家畜の状態が改善したことを裏付けている可能性があります。
1)www.norel.es/home.htm
これは「International Pig Topics, Vol.27, Number8」を抄訳したものです。
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ナバックレター 養豚版 Vol.85
表 1 精油とその消化特性 出典:K. Charis
(2000)
植物名
有効成分
薬効
ニンニク
アリシン
消化促進、殺菌
アニス
アネトール
消化促進、泌乳促進
セロリ
フタリド
食欲および消化促進
シナモン
ケイ皮アルデヒド
食欲および消化促進、殺菌
トウガラシ
カプサイシン
止瀉、抗炎症、強心
カルダモン
シネオール
食欲および消化促進
クローブ
オイゲノール
食欲および消化促進、殺菌
クミン
クミンアルデヒド
消化、泌乳促進
コリアンダー
リナロールおよびボルネオール
消化促進
フェヌグリーク
トリゴネリン
食欲増進
ローレル
シネオール
食欲および消化促進、殺菌
ミント
メンソール
食欲および消化促進、殺菌
ナツメグ
サビネン
消化促進および止瀉
パセリ
アピオール
食欲および消化促進、殺菌
コショウ
ピペリン
消化促進
ローズマリー
シネオール
消化促進、殺菌、抗酸化作用
セージ
シネオール
消化促進、殺菌、消化管内ガス排出作用
タイム
チモール
消化促進、殺菌、抗酸化作用
表 2 試験用スターター飼料
原材料
含有率(%)
大麦
30.0
小麦
36.9
小麦粉
3.0
大豆 47.5(挽き割り)
20.3
スイートホエイ
4.0
大豆油
2.3
L−リジン
0.56
DL−メチオニン
0.15
L−トレオニン
0.14
炭酸カルシウム
1.11
第一リン酸カルシウム
0.76
塩化ナトリウム
0.23
ビタミン−ミネラル調整剤
2
0.3