(IPO)を見直す - 株式会社資本市場研究所きずな

改めて新規株式公開(IPO)を見直す
平成27年5月1日
株式会社資本市場研究所きずな
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回復するIPOと様々な期待
また、民営化案件においても、IPOは国有資産(民営化
企業の株式)を市場で投資家に売却する方法として利用さ
株式市場の活況とアベノミクスに後押しされるように新規
れ、日本郵政グループの場合も株式の売却資金は東日本
株式公開(IPO=Initial Public Offering)が回復している。
大震災の復興財源(復興財源確保法)に充てられることが
昨年のIPOは2007年(117社)以来の水準で82社となり、
決まっている。
今年も4月末まで既に33社が上場されていて、久々に年
間100社以上の新規公開を業界関係者は予想している。
一方、新規上場企業にとってIPOは成長資金調達の場で
また1998年10月のNTTドコモ以来17年ぶりとなる大型
もある。ただし、下図の年別新規公開による調達額のグラ
民営化案件の日本郵政グループ(3社)が、今秋にも予定
フの様に、株式市場の回復期では増資(企業の資金調達)
されている。株式市場における関心が一段と高まっているI
より売出し(ファンドなど大株主の売却)が多いのも事実
POについて、改めて見直してみたい。
だ。企業側のIPOに対する期待については、帝国データバ
ンクが行った“新規株式上場企業に関するアンケート調
昨年実施されたIPOでは、リクルートや西武・スカイラー
クなど大企業の再上場案件が目立ったが、これらはガバ
査”(〈2014年4月公表)によると次のような回答(複数選
択可)となっている。
ナンスや業績面で問題があり一旦は市場から退場、その
後ファンドなどが資本面で支えて事業再生を果した。また、
・知名度や信用度の向上・・・74.7%
IPOを行う成長企業に対してベンチャーファンドなどが投
・人材の確保・・・51.4%
資を行っている場合も多い。これらファンドの立場から見る
・資金調達力の向上・・47.6%
と、IPOはEXIT(投資資金を回収するという意味)の一つと
・従業員の士気向上 ・・・37.7%
言われている。
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勿論、IPOに対する投資家の関心も高く、新しい成長企
見做すこともできるが、アジアのコア・マーケットを目指す
業に投資するのに重要な方法であることに昔から変わり
日本市場にとって、国内外企業のIPO数を拡大し、他のア
はない。特に、個人投資家にとって、IPOの対象となる企
ジア諸国の成長企業やリスクマネーを取り組んでいくこと
業は証券会社や取引所による上場適格性や成長力にた
の必要性も市場関係者間では意識されている。
いする審査が行われているといった安心感がある。またIP
Oを実施するタイミングでは、マスコミや証券会社などから
も企業に関する多くの情報提供がなされる為、一般の個
人投資家の関心も高まることが多い。
以上の様なことに加え、IPOは政策的にも支援されてる。
成長戦略の一環として、新規・成長企業へのリスクマネー
供給強化が謳われており、クラウドファンディングや地域に
おける資本調達を促す仕組みと共に、新規上場の為の負
担軽減策が実施された。具体的には新規公開時に必要な
財務諸表を過去5年から2年に軽減し、新規上場後3年間
に限り「内部統制報告書」に対する公認会計士監査を免除
した。また新興市場における最低必要株主数も引き下げ
た。
なお、IPO数の増加は経済環境の回復の一つの指標と
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新規公開社数
社
140
120
117
100
82
80
60
48
37
40
20
19
54
46
23
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
億円
新規公開による調達額
14,000
12,000
増資
売出し
10,000
8,000
6,000
7,009
4,000
2,000
2,226
0
2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
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課題その1:IPOに係る株価について
ベースに合意
○{類似会社の株価×(配当金の一株当たり新規公開会
投資家にとって最も関心が高いのはIPO銘柄の株価だろ
うが、このことを見直した時に、IPOに係る現状の幾つか
社と類似会社を比較した比率+純利益の同比率+純資産
の同比率)/3}
の課題も浮かびあがる。
なお、類似会社の選定は、主要事業や製品・売上げや利
個人投資家やマスコミが最も注目するのはIPO銘柄の
益・成長性・資本規模などを参考に主幹事証券が決定し、
初値だが、昨年は上場された銘柄の8割近くが公開価格
株価は直前1ヵ月の平均株価を使用する。また、全般的な
を上回った。市況環境も良かったということもあるが、IPO
市況や当該企業の人気などを調整項目とするが、よく使
銘柄を手に入れた投資家にとって、短期的な株式投資とし
われているのは「IPOディスカウント」だ。これは、上記計
てみた場合、普通では考えられないような勝率となってい
算式で利用する類似会社に比べ、新規公開企業の流動性
る。
の無さを理由に、理論価格から何割かディスカウントして
想定価格とすることを指している。
この公開価格は、以下の様なプロセスを経て決定され
ていく。(日本証券業協会“会員におけるブックビルディン
【仮条件価格帯の決定】
グのあり方等に関するワーキング・グループ報告書”200
新規上場企業は価格算定力のある複数の機関投資家に
7年11月より)
対して自社の説明(ロードショー)を行い、主幹事証券会社
は上記の想定発行価格をベースに、投資ニーズ等のヒア
【想定発行価格の算定】
主幹事証券と企業・主要株主の間で、以下の算式を
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リングを実施(プレマーケティング)して、○○~○○円と
いった仮条件の価格帯を決定する。
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【ブックビルディングによる公開価格決定】
上記の仮条件価格帯をベースに、主幹事証券を始めと
IR活動の社内体制整備が整っていない場合がある。ま
た、上場時には主幹事証券より、当該企業に関する多くの
する引受証券会社は、自社の投資家に対して当該新規公
情報が投資家に伝えられるが、上場後はアナリストがカ
開企業の株式に対する需要調査を実施。これにより公開
バーしない場合、投資家への情報発信力は大きく落ちてし
価格が決定される。
まう。これをカバーする為に、取引所のアナリストレポート
プラットフォーム(42社カバー)や証券リサーチセンターの
IPOの株価に係るもう一つの課題は、上場後の株価推
移だ。
下表は、昨年3月に新規上場した銘柄の一覧だが、10
銘柄中半数の初値は公開価格の2倍以上となっている。
問題はその後の株価推移だが、“初値天井”という言葉が
あるとおり、新規公開した直後の株価の天井を付け、その
後、株価の低迷期に入ってしまうIPO銘柄が多いことが指
摘されている。この原因は、主に次の2点と見られている。
レポート(125社カバー)があるが、現状では充分な情報
発信とは言い難い。
●上場直後の業績低迷=IPO後におけるいくつかの
ケースで、予想されていた業績を上場後に下方修正する
場合がある。業種によっては景況感や市況に影響される
ものもあるだろうが、やはり上場後それほど時間が経たな
い時点での業績下方修正は問題が多い。上場までのプロ
セスにおいて、主幹事証券や取引所において上場審査を
実施しているので、企業の予算管理チェックや成長力評価
の審査能力が問われる場合もある。
●上場後の情報発信力の低下=企業側と主幹事証券及
び証券業界側の2つの要因から、上場後の企業の情報発
信力が低下することがある。上場したばかりの新興企業に
とって、適時開示などの情報発信に慣れていなかったり、
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2014年3月新規上場銘柄の株価
銘柄
公開価格
(A)
初値(B)
乖離率
(B/A)
上場1ヵ月後
株価(C)
乖離率
(C/B)
3/27株価
エスクロー・エージェント・
ジャパン
2,700
8,090
300%
4,785
59%
5,830
72%
7779 CYBERDYNE
740
1,702
230%
1,282
75%
3,090
182%
3686 ディー・エル・イー
400
804
201%
1,163
145%
800
100%
2,800
3,560
127%
2,525
71%
829
23%
3190 ホットマン
520
871
168%
536
62%
530
61%
6740 ジャパンディスプレイ
900
769
85%
816
106%
412
54%
6810 日立マクセル
2,070
1,971
95%
1,887
96%
2,030
103%
4246 ダイキョーニシカワ
1,600
1,799
112%
1,611
90%
3,345
186%
580
1,311
226%
1,292
99%
503
38%
9414 日本BS放送
910
970
107%
923
95%
1,228
127%
3683 サイバーリンクス
800
2,183
273%
1,313
60%
1,320
60%
コード
6093
3685 みんなのウェディング
6092
エンバイオ・ホールディン
グス
※株式分割は株価修正
公開価格割れ
乖離率
(D/B)
初値より上昇
約1年後の
株価
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課題その2:より多くの投資家に
その為、引受証券会社が新規公開株の配分を行うことに
ついて業界内の自主規制を定めており、現行のルールは
日本のIPOは、個人の投資を促進する政策的な意向も
あって、上場時に販売される新規公開株の6~8割(小型
2006年7月から施行されたものだ。その概要は次のとお
り。
の銘柄ほど、割合が高い)が個人投資家に販売されてい
る。実際に、昨年10月~12月に野村証券が扱った新規
公開株(J-REITを除く)22銘柄1,919億円の内、71.
6%が個人に販売され、その内10%が抽選による方法で
割当てられた。
・個人への新規公開株配分は、10%以上を抽選とする
こと
・抽選以外の方法で配分を行うときは特定の顧客への過
度な集中配分及び不公正な配分を禁止
・配分の基本方針を規定し、公表すること
等
この新規公開株の配分に関する個人投資家の関心は
高い。一般の個人投資家にとって、なかなか抽選に当たら
なお、機関投資家や法人に対する配分についても、新
ないということがあるが、そもそも抽選の対象となる新規公
規公開・公募増資などの公募ファイナンス全般に係る配分
開株は、全体の1割にも満たないし、小型のIPOにおいて
の公正性や適正な配分を、引受証券会社が行うことは、
は、投資家に供給される株式自体が少ない。ある意味で
個人に対する場合と基本的に変わらない。但し、経済環境
需要と供給がマッチしない世界である為、過去に投資家へ
や市場環境の変化に合わせて、2012年11月より以下の
の配分では様々な問題が発生した。古くはリクルートコス
配分ルールの実質的緩和が実施されている。
モス株事件(上場を前提とした未公開株譲渡)があったし、
その後も特定の投資家への実質的利益補填や投資信託
との抱き合わせ販売(独金法でも禁止)の懸念については、
常に業界内外から指摘されていた。
・原則禁止されていた親引け(発行会社による公募株式
等の売り先指定)は、実質的に主幹事の裁量余地が拡大
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されたことで、実質的に緩和された。(これによって、発行
会社は業務提携先への配分を行い易くなった。)
全て抽選に回してはどうかとの意見もあった。しかし、個
人の人気の高いことを理由に、公正性の確保を全て抽選
・機関投資家や海外投資家など大口の配分を実施した
に委ねることは、証券会社にとってのIPOビジネスモデル
情報を主幹事証券に集約し、発行会社にも大口配分先情
を揺るがしかねないというのが大手証券の感覚だろう。IP
報(個人は除外)を提供することとした。(本来の目的は、
Oは、発行会社に同様に主幹事証券にとって時間と手間
証券会社同士で大口投資家の需要が重ならないようにす
(公開指導、上場の為の審査、取引所審査サポート、そし
ること)
て新規公開株の引受け)が掛かる。まして、小口のIPOな
ら、一層収益性が問題となる。
個人投資家の人気が高い小型銘柄のIPOについて、
実際の個人向け抽選で割当てられる部分は、大手ネット
証券が主幹事を行う場合以外、やはり全体の1割弱だ。こ
の原因は、IPO時の販売シェアについて主幹事が7~9割
程度確保してしまうことが多く、その中から個人への配分
部分の1割程度を抽選に回す配分方針を殆どの対面営業
のリテール証券会社が行っている為だ。主幹事証券が協
会自主規制に配慮して、引受証券に大手ネット証券を招
集するケースも多いが、この場合のシェアは殆ど2~3%程
度に留まっている。
現行の配分ルールを導入した時、業界内においては
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各主幹事証券の最近のIPO案件
上場日
新規上場銘柄
主幹事
主幹事比率
他の引受証券
3月27日 sMedio
SMBC日興
86%
その他6社(内、ネット証券2社)、各
2.1%
3月26日 プラッツ
大和
80%
その他5社(内、ネット証券1社)、
5.2~2.6%
3月26日 モバイルファクトリー
SBI
100% ---
3月25日 Aiming
野村
100% ---
3月24日 ファーストコーポレーション
みずほ
61%
その他5社(内、ネット証券1社)、
28%と残り各2.5%
3月17日 エムケイシステム
岡三
73%
その他7社(内、ネット証券1社)、7.0
~1.7%
日本証券業協会IPO配分ルール
個人への配分の1割以上を抽選
集中配分・不公正配分の禁止
各証券会社は、配分方針を公表
IPO株は、全体の1割弱が
抽選で個人投資家へ
そして誰の為のIPOか
◎理想的なIPOの形の追及
確率が少ない新規公開株の抽選に賭けるより、どの個人
市場において参加者間の利益が相反するのは当然の
事だが、少なくともIPOにおいては各参加者や市場関係者
投資家でも買える上場後の投資が成果を上げる仕組み作
りが重要だ。その為には、IPOモデルとして
が求める共通の目標があるはすだ。それは、IPOによって
①上場時には、企業の新規資金調達のみとする。
企業が一段と成長することと、その成長の為のリスクマ
②調達した資金で、更なる成長を目指す事業計画を明確
ネーを市場(投資家)が供給する機能が中心にあるべきだ
ろう。ファンドのEXITや個人トレーダーの短期取引は、あく
までも副次的な事象に過ぎない。その為にも、我が国にお
けるIPOの一層の拡大とIPO市場機能の充実が必要に
なっている。
にし、上場後の情報発信体制も整える。
③大株主の売却(ファンドのEXITを含む)は、上場後1年
後以降とする。
ような取組みを証券業界や取引所が推進することで、現
在より新規上場の成長企業が企業価値を向上させていく
確率が高まるだろう。
世界のIPO数は、米国が主導する形の世界的な株式
市場の上昇を受けて、2012年970社、2013年1142
社、2014年1410社(世界取引所連盟調べ)と増加傾向
を強めている。昨年の主要取引所におけるIPO数を下図
に示したが、中国市場のIPOは、昨年6月から再開された
ものだ。日本市場でのIPOも増加しているが、このまま嘗
ての年200社ベースを目指すには、次の様な目標を明確
にした市場機能の充実も求められるべきだ。
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◎分業と協働、そして国際化対応
証券会社にとってIPO業務は装置産業とよく言われてい
る。企業がIPOを目指す営業活動を行い、IPO準備の為
の支援を行い、そしてIPOで取引所に上場推薦・新規公開
株引受け其々の審査を行い、投資家の需要を掘り起こし
て上場させる。これらを1社で全て行う場合、現行のルー
ルでは必要な社内組織・組織間の業務隔壁・IPO業務の
10
態勢整備において証券会社のコストは相当な負担となっ
成長企業のIPOを増加させるために、市場の裾野拡大は
ている。その為、実際のIPO時において、主幹事証券は出
重要なテーマだが、その前に先ず東証の新興市場である
来るだけ多くの引受けシェアを確保しようとするバイアスが
マザーズとジャスダックの市場位置付けにおける整理が必
かかってしまう。既に一部では始まっているが、これらのIP
要だろう。更に、地方取引所の新興市場の役割やプロ向
Oプロセス実務を明確化し、地域金融機関や監査法人等
け市場の位置付け、今年後半にも予定される未公開株取
との分業を進めることで、社内コストを低下させ、投資家需
引制度である株主コミュニティ制度の在り方など、資本市
要をより拡大する為の同業他社との協働も推進することが
場の裾野拓大に向けた課題は多い。
可能となる。なお、最近のIPOにおいて、上場後の業績下
方修正が相次いでいることが再び問題となっているが、上
結局、誰の為のIPOかという問いには、出来るだけ多く
場審査を厳格化する為に主幹事証券に重装備を求めるの
の関係者の為にというのが模範解答で、その関係者を多く
は本末転倒に思われる。大事なことは、審査判断や引受
する取組みが必要だという処に落ち着く。
判断を明確に行うことで、その判断材料の一部を外部専
門家に委託することは問題ではない。
また、我が国のIPOでは海外企業や海外投資家の参加
が少ないことが時として問題視されるが、アジアのコア
マーケットを目指すなら、IPOにおいての英文開示対応を
進めるべきだろう。
◎裾野拡大と一層の市場整備・整理
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IPO市場機能充実の為に
理想的IPOの追求
上場一年間株価推移イメージ
分業・協働
地域金融機関、同業他社
裾野拡大
国際化対応
海外企業・海外投資家
・新興市場整理
・プロ向け市場や株主コミュニティ制度
の活用
2014年の世界のIPO社数
250
217
200
150
100
50
163
129
115
103
82
43
28
0
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