008_PQプロット

[8] P-Qプロットとゲート・システム設計
Dr. Xiaojun YANG, C3P International Software Co. Ltd.
翻訳編集: 鹿取 貞夫 鹿取事務所
はじめに
Cast-Designerは迅速にゲート・システム設計とカスティングの解析を遂行し、必要に応じてフル金
型システムの解析をするソフトウエアである。
ゲート・システム設計には独特のウィザードを利用する。ユーザーはウィザードに、モデルのマス(体積)、
平均肉厚、アロイのタイプなど、およびカスティングの基本的な情報を入力する。システムはインナゲート
の適正面積を自動表示し、充填時間を自動計算する。また、インナゲートの最小、最大速度を自動
表示する。ユーザーはデータベースからカスティング・マシンを選択し、ピストン直径、充填比率、第一と
第二速度および合計加速比率を選択する。
最後のステップで、P-Qプロット・ボタンをクリックしてP-Qグラフをチェック、操作点が「操作ウィンドウ」
の内側に位置しているかどうかを評価する。設計のネライを考慮して、操作点が適切に位置するよう、
設計を修正する。このようにP-Qプロットは設計の適性度をチェックして、ゲート・システム適正化の示
唆を提供する有用性の高いツールである。
P-Qプロットとは何か?
P-Qプロットは、閉じた空間にある液体の、圧力と流量
の間の関係を記述する数式である。ダイカスト・プロセスで
は、インナゲートを通過するメタル圧力とメタル流量の関係
を定義するのに使われる。圧力(P(MPa))はマシンの力で
あり、流量は速度(L/sec)でもある。P-Qプロットはグラフ
ィックで垂直軸のメタル圧力(P)と水平軸のメタル流量(Q)
の関係を比較する。
コンピュータ利用以前は、ユーザーは2つの直線をグラフ
に描いた。一つはマシン能力でもう一つは金型能力である。
2つの直線が交わるところは操作点である。そこから圧力
(P)と流量(Q)が決まる。しかし、流量は直線的ではない
ので、直感的な図表示にならない。
図1はHPDCの典型的なP-Qグラフであ
Cast-Designerは現代のコンピュータ・ソフトウエアの作
図能力を利用して、両方が直線尺度を持つ圧力対流量 る(Cast-Designerが生成)。
の図を作成した。これによって、データ点がスムーズな一連
の曲線を形成する。入力の値が変わると、曲線は割合を変える。流量軸が直線化されているので解
釈が容易になった。
金型ライン
金型ライン(図2)はメタル・フローの、圧力(P)ゼロと流量(Q)ゼロを始点として、右上方へ伸びて行
く。この曲線がゼロ点から出て行く角度は、金型とマシンの組合わせから、摩擦が低減する係数によっ
て決定される。摩擦の低減係数が小さいほど、金型ラインは上向きになる。大きいほど金型ラインは右
へ傾く。
プランジャ・フェース上の圧力(P)は流量の二乗に比例し、流量(Q)を増やすと圧力(P)が増加する。
一方、圧力(P)はインナゲート面積(Ag)の二乗に反比例する(メモ1参照)。
金型ラインは下記を変更することで変わる:
1) インナゲート深さ
2) インナゲート幅
3) フロー角度
4) キャビティ数
(メモ1)
流量と圧力(P)との関係は次のように導かれ
る。キャビティのインナゲートでの速度項(vg)を、
流量(Q)とインナゲート面積(Ag)の関数とする。
Vg=Q/Ag
(1)
圧力の数式は次のようになる。
P = Ct*Q^2/(Ag^2)
(2)
合成解放係数(Ct)は一般的にはダイカスティン
グ工程の効率の尺度と考えられるが、特にインナ
ゲートの効率を示す。
図2:このP-Qグラフは様々な流量
に対する金型ラインを示している。流
量軸Qは直線尺度化されている。
マシン・ライン
上述のように、P-Qグラフはプランジャ・フェース上にかかる圧力と流量の間の関係を示すので、それを
利用して、金型が必要とする圧力がマシンから得られる圧力とどのように関連するかが判る。このアプロ
ーチで目的のカスティングを良好に作るマシンの能力を知ることができる。
マシン・ライン(図3)は、①左上方の開始点が最大圧力(P)、②右下方の終了点が、プランジャ面
の圧力(P)がゼロとなる最大流動量(Q)である。
(ア) 上述の左上方の極点では、アキュミュレータからの最大可能圧力があるが、プランジャの動きを
伴わず、従って溶湯のフローは無い。流量が大きいとアキュムレータ圧力は減殺されて圧力は低
下する。このとき、スリーブ面積の大きさが油圧に関係する(数式はメモ2参照)。
(イ) 上述の右下方の極点は、ドライショットすなわちショット・スリーブに溶湯が無いときである。流体
抵抗はない。プランジャに対する抵抗が無い。この場合、射出システムが供給するエネルギーは、
溶湯ではなく、プランジャだけを動かす。この極点で、プランジャ速度は最大可能値に達する。こ
れはまた、ショット・サーキットのフロー効率の尺度になる。
(メモ2)
P=Pacc * Ah/A – Kt.Q^2
(3)
Pacc: アキュミュレータ圧力
Kv:
油圧システム係数
A:
ショット・スリーブの面積
Ah:
ショット・シリンダの面積
Kt= Kv/A^2
図3 カスティング・マシン能力は、流量によって
変化することを表す。大きい流量には、プランジャ
を所定の速度で動かすマシンからのパワーが大き
いことが必要である。
図3:マシン・ラインを(青)で示す。
(稼働圧力対流量は(赤)で表示(後述)。
P-Qグラフのマシン・ラインは次の要素に影響される:
1) アキュミュレータ圧力
2) ショット速度コントロール・バルブの開口
3) プランジャの直径
アキュミュレータ圧力が増加するとき、プランジャ・フェース上の圧力も増加する。使われる射出システ
ムからのパワーが大きいと、ドライ・ショット・フローレートは高くなる。
その一方で、プランジャ直径の値が大きいと、ショット・スリーブの面積も大きくなる。これはドライ・ショ
ット・フローレートを増やす。結果として、プランジャ・フェース上の全体圧力は減少する。(ただし、プラン
ジャを動かす質量の変化と慣性力が考慮されていないので、この解析の有効性には限界がある。)
射出システムでは、ショット速度コントロール・バルブが流体フローの抵抗に影響する。バルブが最大
に開いている場合、ロスは最小でドライ・ショット速度はその最大値に達する。バルブを回す毎に、ロス
が増加し、ドライ・ショット速度は減少する。
次の点も留意が必要である。ドライ・ショット速度においての、ショット・スリーブ・コントロール・バルブの
影響に拘わらず、アキュミュレータからの圧力は不変のままである。
操作ウインドウ
操作ウィンドウとは最適条件の範囲を示す四角形の領域である。①キャビティ充填計算で決定され
た流動量(速度)を計算して、その最大と最小をそれぞれタテ線に示す。次に②マシン圧力の最大と
最小をそれぞれヨコ線に示す。この①と②の4本の線で囲まれた領域が操作ウィンドウである(図4)。
上図の赤の四角形は、下記の2つの限界線で囲まれた範囲を示す。
① 2本のタテ線=キャビティの充填計算で決定された流動速度の上限と下限
② 2本のヨコ線=キャビティの充填計算で決定された圧力の上限と下限
ブルーで示された曲線(ユーザー曲線)は、充填時間、インナゲート面積、プランジャ直径によって決
定された圧力と流量である。
(メモ4)
圧力軸はゲート速度を記述するのに使われる。圧
力ラインの項に既述の等式から得られる、プランジャ・
フェース上の圧力とゲート速度の間の関係を使って、
インナゲート速度が次のように計算される:
Vg = SQRT(Pacc*(Ah/A)*(1/Ct))
(5)
流量軸は充填時間の特性を示すのに使える。この
変換は次の数式の方法によって達成される。
Q=A*v = Vol/tf
(6)
ここでは:
Vol:インナゲートを通過する溶湯の総量
図4 操作ウィンドウ
tf: 充填時間
稼働するマシンの圧力と流量の曲線(ブルーで示すユーザー曲線)と金型ライン(紫色)が赤い四角
形であらわした最適条件ウィンドウの内側で交差することが最適の状態である。範囲内なら良好、範
囲外なら工程設定を見直す必要がある。四角形の窓の内側にある金型ラインは出来る限り長い方
がよい。
操作ウィンドウ内の操作点(交点)は充填時間、ゲート速度および最終溶湯圧力によって左右され
る。これらの変数は最終製品の品質と加工性に強い影響を及ぼす。それらの実際の値を得るために、
Cast-Designerの熱伝達、凝固、フロー・シミュレーションが利用できる。シミュレーションでなければ実
験データが必要である
なお、圧力軸(垂直)と流量軸(水平)の関係式は(メモ4)を参照。
操作ウィンドウの拘束事項
「操作ウィンドウ」境界ボックスと、カスティング生産に対する効果は上記図4を参照。
Zone Iは最大充填時間のリミットである。この値は停止時間より小さくなければならない。このリミット
を犯すと、カスティングの表面品質が不良となり、コールド・シャットと充填不良が発生する。溶湯がキャ
ビティを満たす前に停止するからである。
Zone IIは最小許容ガス速度である(i.e.アルミで30m/s)。この値はフローを微粒化するのに必要で
ある。溶湯は噴霧としてキャビティに来る。ゲート速度がこのリミットより小さいと、多孔質のカスティングと
なる。
Zone IIIは最小充填時間である。この値はダイのベント(排気)状態から得る。たとえば、キャビティ内
のエアは溶湯がダイ・キャビティに入るに従って、キャビティから押し出されるはずである。この値はプランジ
ャからの最大圧力によって制限される。
Zone IVは最大ゲート速度のリミットである。その値は最大インナゲート速度(i.e.アルミで60m/s)より
絶対に小さいことが必要である。それより高いゲート速度値は溶着と侵蝕を起こし、金型寿命を減少
させる。
変数の弾力性
「操作ウィンドウ」はカスティング条件最適化の開始点である。
金型ラインとマシン条件設定ラインの交点は金型とマシンの条件が組み合さった「操作点」である
(点O)。これは、キャビティが充填される間の、流量と圧力のコンビネーションを決める。長方形ABCD
はその「操作点」を見付けるための覗き窓である。
操作点の位置はアロイに大きく依存する。高密度亜鉛アロイはゲートを通るためにより高い圧力を
要する。そのため、操作点は左上の区画に向かう。
反対に、アルミとマグネシウム・アロイは、少ない圧力で良い。しかし、充填後は高いパッキング圧力を
要する。

操作点が左上極点にあれば、フローに阻害があることと、高い圧力ロスを意味する。

操作点が右極点にあれば、大きいゲート面積、高い流量、低い圧力状態を意味する。

操作点が最大マシン・パワーに近かければ、ダイとマシン・ショット・エンド・パワーの間が良好にマ
ッチしていることを意味する。
P-Qチャートは金型とマシンのコンビネーションの操作状態のクイック・ビューである。これは設計工程
で有用なツールとなる。
カスティング工程変数のグローバルな最適条件は、現在のレベルの知見では実現できない。それに
向かっては、製造要素全体とそれらの相互関連を考慮して、コストを最小化し、生産性を最大化する
努力が必要である。それには、多くの実験とモデリング作業の蓄積も必要である。
ダイカスティングの変数は、変えることができる容易さに従って、ソフト変数とハード変数にグループ分
けできる。
ソフト変数は工程操作の中で、容易に変えることができる。いろいろあるが、アキュムレータ圧力、
注入温度、金型温度とサイクル・タイムなどである。
ハード変数は金型またはマシンで変更が必要なものである。プランジャ直径、ゲート面積、エア排
気の場所とサイズおよびクーリング配置などである。
弾力性があるのは、「操作ウィンドウ」の境界内だけでする、充填時間とゲート速度変数の変更
である。これらはソフト変数を更新するだけである。
P-Qグラフでの設計の最適化
P-Qグラフを活用する設計の一例として、Cast-Design
erのゲート・システム設計ウィザードの利用から紹介する。
Cast-Designerはカスティング工程設計とシミュレーション
を実行するソフトウエア・パッケージである。C3P Software
社が開発した。
ユーザーはカスティングとゲート・システムの基本的な情
報をゲート・システム設計のインタフェース(図5)から入力
する。デフォルトの充填時間はNADCA法で計算され、何
時でも修正が可能である。システムはインナゲートの最小、
最大速度を提示する。
入力結果を得た後、P-Qプロット・ボタンをクリックしてP
-Qグラフをチェックする。
図5:Cast-Designerのゲート・システ
ム設計インタフェース
●P-Qグラフが良好な結果を示さなかった場合、設計とP-Qプロットを調整する。
下記はそのための一般的な知識である。
A. プランジャ直径を増やす
B. プランジャ直径を減らす
a) 溶湯圧を減らす
a) 溶湯圧を増やす
b) マシンの静止溶湯圧能力を減らす
b) マシンの静止溶湯圧能力を増やす
c)
マシンの必要トン数を減らす
c)
マシンの必要トン数を増やす
C. 充填時間を増やす、
D. 充填時間を減らす
a) ゲート面積を減らす
a) ゲート面積を増やす
b) 最大ショット速度パーセンテージを減らす
b) 最大ショット速度パーセンテージを増やす
c) 最初のショット速度を減らす
c) 最初のショット速度を増やす
E. ゲート速度を増やす
E. ゲート速度を減らす
a) ゲート面積を減らす
a) ゲート面積を増やす
b) 最大ショット速度パーセンテージを増やす
b) 最大ショット速度パーセンテージを減らす
c)
溶湯圧を増やす
c)
溶湯圧を減らす
現場での対策例
パーツにミスランまたは充填不足がある場合、P-Qを使って、次の一つ以上の方策を考える。
a) 最初のショット速度を増やして、充填時間を減らす(Note: 最初のショット速度を増やすと、ゲ
ート速度も増える。従って、ゲート面積を増やして過剰なゲート速度を避ける必要がある。)
b) 溶湯温度を増やして金型への熱を増やす。
c) 内部および外部クーリングを減らすか、ホット・オイルを追加して、問題のエリアの金型温度を増
やす。
一方で、パーツに過剰な内部収縮ポロシティがある場合は、P-Qを使って、次の一つ以上の方策を
考える。
a) ゲート面積を減らすか、最初のショット速度を増やすかでゲート速度を増やす(Note: 最初の
ショット速度を増やすと、充填時間も減る。)
b) プランジャ・チップ直径を減らして、溶湯圧力を増やす(Note: ユーザーはプランジャ直径を減ら
した影響を検証して、調整する必要がある。)
c) 溶湯温度を減らして必要な増圧を減らす。
d) 圧力を増やす。
e) インパクトからピーク圧力までの圧力増加時間を減らす。
さらに、パーツに過剰なガス・ポロシティがある場合、P-Qグラフを使って、実際の低速ショット速度が
限界低速ショット速度と同じであることを検証すること。ユーザーは次の方策を試みることができる。
a) 限界低速ショット速度より少し高いか、少し低い低速ショット速度をテストする。
b) プランジャ・チップの潤滑油を減らす(コールドチャンバ)
c) 問題のエリアの金型スプレイを減らす。
d) 問題のエリアの金型温度を増やす。
おわりに
P-Qプロットが有益であることは熟知されていて、いまさら解説するまでもないほどである。しかし、多く
のユーザーは、これを日常的に、頻繁に繰り返す習慣を確立していない。おそらく、ゲート設計と解析に
時間が掛かり過ぎていることがその原因のひとつであろう。Cast-Designerは短時間に複数の設定を試
み、その結果をP-Qプロットで容易に適否確認、修正することができる。解析と設計の間を直結できる。
カスティングの外観品質と機械的品質の最大限の実現をはかり、それらと生産性の間のバランスに
ベストを得ることは必須の課題である。P-Qプロットの習慣は、カスティングの基本に戻って、それらの検
討を助けることができる。学習者にも優れた経験と豊かな知識を提供する。
鹿取事務所:
〒222-0002 横浜市港北区師岡町1062-3
メール:[email protected]
開発元(資料提供):
C3P International Software Co., Ltd.
USA, Hong Kong, Quanzhou