米科学雑誌「mBio」掲載 H5N1 鳥インフルエンザウイルスは急速に人への感染性を獲得しつつある 研究代表者 京都府立医科大学大学院医学研究科感染病態学 大阪大学微生物病研究所難治感染症対策研究センター (現、一般財団法人阪大微生物病研究会) 講師(学内)渡邊洋平 教授 中屋隆明 教授 生田和良 論文名 Characterization of H5N1 Influenza Virus Variants with Hemagglutinin Mutations Isolated from Patients 著者 渡邊洋平 1,2, 荒井泰葉 2, 大道寺智 1, 川下理日人 2,3, Madiha S. Ibrahim4, Emad El-Din M. El-Gendy4, 平松宏明 5, 纐纈律子 6, 高木達也 2,3, 村田健臣 7, 高橋和郎 8, 奥野良信 6, 中屋隆明 1, 鈴木康夫 5, 生田和良 2 著者所属 京都府立医科大学医学研究科感染病態学 1, 大阪大学微生物病研究所 2, 大阪大学大学院薬学研究科 3, エジプト国 Damanhour 大学 4, 中部大学生命健康科学部 5, 一般財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所 6, 静岡大学農学部 7, 大阪府立公衆衛生研究所 8 責任著者 京都府立医科大学大学院医学研究科感染病態学 講師(学内) 渡邊 洋平 掲載雑誌 mBio (vol.6 no. 2 e00081-15, 7 April 2015) 研究概要 H5N1 亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス (H5N1 ウイルス)は、1997 年頃に中国で出現し、 鳥類の間で蔓延化して現在までにアジア・中東地域 に感染分布域を拡大しています。通常の鳥インフル エンザと異なり、H5N1 ウイルスの高濃度暴露によ って、人に重度の呼吸器疾患を引き起こして 60%が 死に至る重篤な感染症です。人で毎年流行する季節 性インフルエンザウイルスは、全て鳥や豚由来イン フルエンザウイルスを起源としており、人に対する 感染性と飛沫伝播性を獲得することで、初めて世界 流行(パンデミック)を引き起こします。そのため、 H5N1 ウイルスが、感染を繰り返すうちに遺伝子変 異を獲得して、将来的に世界流行する可能性が危惧 されています。一方で、H5N1 ウイルスが、どのよ うな遺伝子変異を獲得することで人に対する感染性 と飛沫伝播性を獲得して、パンデミック化するかは 未だ不明です。 本研究では、インフルエンザウイルスの感染性に 関わる HA 蛋白質に着目して、H5N1 ウイルスが感 染患者体内でこれまでに獲得した遺伝子変異をデー タベースサーチにより網羅的に探索しました。 また、 リバースジェネティクス法によって変異を導入した ウイルスを作製して、人に対する感染性と飛沫伝播 性を解析しました。変異ウイルスは、細胞表面への 結合力と細胞内への侵入力を同時に高めることで、 ヒト呼吸器上皮細胞に対して感染しやすく変化する と共に強い細胞傷害を起こしました。一方で、飛沫 伝播性を高める変異は今回確認されませんでした。 フェレットを用いた動物実験では、継代によって HA 蛋白質に変異が蓄積されることで、H5N1 ウイ ルスが感染性と飛沫伝播性を高めて飛沫感染能を獲 得したと報告されています。本研究成果は、H5N1 ウイルスが、実際に感染患者体内において、少なく とも感染性を高める変異を急速に獲得しうることを 示しています。今後、より詳細な研究を実施するこ とで、生体内で、飛沫伝播性を高める変異がさらに 蓄積されうるのか慎重に評価する必要があります。 これらの研究成果は、H5N1 ウイルスのパンデミッ ク化について、その潜在性評価や分子メカニズムの 解明に重要な知見を提起しています。
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