鳥インフルエンザのリスク評価

鳥インフルエンザのリスク評価
第6班
永井義朝
仲里英晃
永村建索
目次





背景と目的
SIRモデル
・ルンゲクッタ法
パラメータの推定
シミュレーション
考察・まとめ
インフルエンザとは
インフルエンザ:
・インフルエンザウイルスによる急性感染症の一種であ
り流行性感冒とも言われる.
・症状は風邪とは異なり,比較的急速に出現する悪寒,
発熱,頭痛,全身倦怠感などを伴う.
・潜伏期間は1日から2日.
過去の大流行:
・スペイン風邪(1918~1919)
・アジア風邪(1957)
・香港風邪(1968)
スペイン風邪の大流行
スペイン風邪:
 1918~1919年に世界的なパンデミック(大流行)を引き起こす



アメリカのシカゴで発生し,米軍のヨーロッパ進軍とともに大
西洋を渡りヨーロッパで流行する
全世界で感染者約6億人,死亡者数4,000~5,000万人ともいわ
れ人類が遭遇した最初のインフルエンザの大流行
日本でも,5500万人が感染し,39万人が死亡
鳥インフルエンザウイルスから突然変異で生まれた新型ウイ
ルスによるものと考えられている.
池田一夫,日本におけるスペイン風邪の精密分析より
過去のインフルエンザ
時期
スペイン風邪
アジア風邪
香港風邪
ソ連風邪
1918-1919
1957
1968
1977-
死亡者数(
日本)2000-6000万(
39万)200万人以上(
8000人)5万人以上(
2000人)
感染者数(
日本) 6億人(
5500万人)
(
300万人)
50万人(14万人)
中国
発生源
米国シカゴ付近
中国南西部
病原体
A 型インフルエンザ
A 型インフルエンザ
亜型
H 1N 1
H 2N 2
中国/ロシア
A 型インフルエンザ A 型インフルエンザ
H 3N 2
H 1N 1
近年における鳥インフルエンザの流行
2003年以降
・133人が鳥インフルエンザに感染し68人が死亡
・人から人への感染は確認されていない
2005年東南アジアにおける流行
・各国で鳥インフルエンザにより計62人が死亡
年
1997
1999
2003
2004
亜型
H5N1
H9N2
H5N1
H9N2
H7N7
H5N1
N5N1
H7
発生地
感染者数 死亡者数
18
6
香港
2
0
香港
2
1
中国,香港
1
0
香港
83
1
オランダ
12
8
タイ
22
15
ベトナム
2
10
カナダ
鳥インフルエンザが発生した場合の危険性

ワクチン開発は臨床試験の段階で存在しない.また,ワクチンの開
発には新型インフルエンザが発生してから半年はかかる

スペイン風邪の流行時(1918年)と比べ,現代の人,物の流通量は
はるかに大きい.
航空機利用者は全世界で年間18億人(1日約500万人) (BOEING
社HP)
JR新宿駅の1日平均乗降者数:約430万人(2,004年度)
鳥インフルエンザとは?
・ A,B,Cの3属を持つインフルエンザのうちA型インフルエ
ンザウイルスが鳥類に感染して起きる鳥類の感染症.
・一般的にはニワトリや家禽類に感染して宿主をしに至
らしめる高病原性鳥インフルエンザをさす.
本来は鳥インフルエンザは鳥から鳥に感染するもので
あり,まれに人に感染することがあった.
近年鳥インフルエンザが突然変異し,人から人へ感染
する可能性が高まっている.
目的




高度な交通・物流システムを有し,人や物が集積する
東京で鳥インフルエンザが発生した場合,感染が一気
に広がる可能性が高い
鳥インフルエンザの脅威に対する認識は十分ではない
モデルを使ったシミュレーションを行いどれほどの感染
が広がるのか予測する
鳥インフルエンザの脅威を認識し,かつ感染防止に有
効である方策を探る
SIRモデルとは?
・ケルマック,マッケンドリックが提起した伝染病流行モデル
・人口を3つのコンパートメントに分けて分析を行う
S:Susceptive I: Infected R: Recovered
特徴:
局地的な封鎖人口における伝染病の急速かつ短期的な流
行に関するモデル
S: Susceptive
I:Infected
R:Recovered
SIRモデル
(1)
(2)
  感染力
  隔離率
I  感染力
(3)
1. 総人口一定 :
N  S+I+R  総人口一定
2. 一度感染し回復した者は再感染しない
3. 閾値の設定 : R0 
N

R0  1 でないと感染は広がらない
定常解(固定点)としては以下の解が考えられる
S (t ), I (t ), R(t )  ( N ,0,0), (S ,0, R), (0,0, N )
数値計算の流れ
(1)式と(3)式で変数Iを消去すると,
d
 d
S  S R
dt
 dt
(6)
自明な解以外ではS>0であるので,(6)の両辺をSで割れば
d
 d
log S  
R
(7)
dt
 dt
(7)式を時間について積分すると

log S (t )  log S (0)   ( R(t )  R(0))

S (t )

 log
  ( R(t )  R(0))
S (0)

(8)
数値計算の流れ
S (t )  S (0)e


R (t )

(9)
R ( 0)  0
(10)
が得られる.総人口一定の制約条件より
I  N S R
(11)
(11)を(3)に代入し,(9)でS(t)も省略すると

 R (t )
d
R   ( N  S (0)e 
 R(t ))
dt
(12)
過去の事例とSIRモデルによるシミュレーションの比較

右図はボンベイにおける
1905-1906 年のペスト流行
による死者の推移。黒丸は
週あたりのペストによる死
者数、曲線はSIRモデルか
ら導かれる理論曲線
(Kermack and McKendrick
1927) を表す。
(図の出典:Fig 19.2 of J.D. Murray,
“Mathematical Biology, Second,
Corrected Edition”, Springer, p616)
Runge-Kutta Method


数値解析において,
常微分方程式の近
似解を求める一連
の方法
4次のRunge-Kutta
Methodの場合,全
体の推定誤差がh4
のオーダーになる
h
yn 1  yn  k1  2k 2  2k3  k 4 
6
k1  hf '  xn , yn 
k1 
h

k 2  hf '  xn  , yn  
2
2

k2 
h

k3  hf '  xn  , yn  
2
2

k 4  hf '  xn  h, yn  k3 
SIR Model using Runge-Kutta Method (1/2)
SIRモデルの式を変形して,以下の式を得る


 R t 


d


R   N  S 0e
 Rt 


dt


この式に4次のRunge-Kutta Methodを適用する


 x


f x     N  S 0e   x 




k 
k 


k1  hf xn  k 2  hf  xn  1  k3  hf  xn  2  k4  hf xn  k3 
2
2


yn 1  yn 


1
k1  2k2  2k3  k4 
6
求めたR(t)の値を S t   S 0e


 R t 
に代入してS(t)の値を得る.
総人口一定の法則より, I t   N  S t   Rt  に
R(t),S(t)の値を代入してI(t)の値を得る.
パラメータの推定

アメリカにおけるスペイン風邪の基本再生産数R0をもとにする
推定結果より Ro=1.5~3.5 とされている
( Modeling the Transmission of Pandemic Influenza to Estimate the Basic Reproductive Number)

上記のRoを用いて,日本におけるスペイン風邪の死亡者数の推移のデータ
をもとに,パラメータを推定

R0=1.5, 2.5,3.5で日本における実測値と比較
使用データ:スペイン風邪の患者数 内務省衛生局「流行性感冒」
実測値
R0=1.5
R0=2.5
R0=3.5
総数
257,363
249,012
387,419
437,859
ピーク時
約45,000
約42,954
約158,464
約212,015
シミュレーション

対象:
首都圏(人口4200万人)を想定

パラメータ:
過去の事例に即した値と,首都圏の都市環境を考慮しR0を設定
R0=1.5,3.5

設定項目:
日本におけるスペイン風邪流行時の死亡率
0.0122(一回目),0.0529(2回目)
シミュレーション結果(1)

R=1.5
[千万]
5
4
S
I
R
3
2
1
0
1 4 7 10 13 16 19 22 25 28 31 34 37 40 43 46 49 52 55 58
シミュレーション結果(2)

R0=3.5
[千万]
5
4
S
I
R
3
2
1
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23
25
致死率別に見た死亡者数の推移(1)

R0=1.5
[万]
20
15
10
5
0
1
4
7
10
13
0.0122
16
19
22
25
28
31
0.0529
34
37
40
43
致死率別に見た死亡者数の推移(2)

R0=3.5
[万]
80
70
60
50
40
30
20
10
0
1
2
3
4
5
0.0122
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17
0.0529
経済損失

国家・・・ 治療費の負担
インフルエンザの一般的な治療費15,000×感染者×0.7

企業・・・ 労働力(所得)の損失
就業者,非就業者を統一して算出東京都の平均年収685万から
1日あたりの収入を算出.
平均収入/日×感染者数×感染期間(7日)

家計・・・ 治療費
インフルエンザの一般的な治療費15,000×感染者×0.3
R0=1.5
R0=3.5
国家
1,607億
2,835億
企業
3,749億
6,615億
家計
689億
1,215億
合計
6,044億
10,655億
対策と効果

ワクチン開発には時間がかかるため効果的な対策とはいえない

未感染者との接触を少なくする(例:学級閉鎖)
・対策なし :1,530万人
・γ=4.0 : 773万人
・γ=6.0: 550万人
[十万]
30
25
20
γ=6.0
γ=4.0
対策なし
15
10
5
0
1 4 7 10 13 16 19 22 25 28 31 34 37 40 43
考察とまとめ





過去の鳥インフルエンザの事例について整理した
過去の事例に即してSIRモデルを使用しシミュレーションを行い,これから
起こりうる鳥インフルエンザの被害予測を行った
首都圏に鳥インフルエンザが発生した場合,甚大な被害が起こりうる
それに伴い,経済も莫大な損失を受ける
未感染者の接触を少なくする対策は被害軽減に有効な対策である
今後の課題
 新たなコンポーネントを加えるなどのモデル改良
 都市環境を考慮したパラメータの設定