意欲的に外国語活動に取り組む高学年児童を育成する指導の工夫

平成20年度 移動教育センター共同研究(八重山地区)2009年2月
〈へき地教育〉
意欲的に外国語活動に取り組む高学年児童を育成する指導の工夫
-へき地校における「担任力」を高める取り組みを通して-
石垣市立真喜良小学校教諭
石垣市立新川小学校教諭
石垣市立宮良小学校教諭
県立総合教育センター研究主事
Ⅰ
磯
木
仲
山
部
下
本
川
大 輔
かおり
英 男
満 夫
テーマ設定の理由
グローバル化が進展する中で,我が国においても約60年ぶりに教育基本法が改正され,教育界は大きな
転換期を迎えている。それに伴い,改訂された新学習指導要領おいては,小学校高学年(5・6年生)に
おける週1時間の「外国語活動」の必修化が位置づけられた。その外国語活動の目標として「外国語を通
して,言語や文化について体験的な理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成
を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う」こ
とが明記され,外国語活動(英語活動)を通しての幅広いコミュニケーション能力の育成が重視されてい
る。
へき地校を多く抱える八重山地区では,全国的な傾向と同様に全ての小学校において,国際理解教育の
一環としての外国語活動が実施されてきた。しかし,へき地における地理的・物理的な不便性からALT
等の学校訪問回数が著しく少ない等,様々な課題が生じているのが現状である。また,学級担任単独の授
業においても,英語が苦手な教師にとっては授業づくりに苦慮しているのが見られる。これまでの八重山
地区における外国語活動の全体的な課題をまとめると,以下のことが挙げられる。
(1) ALTとのティーム・ティーチングでは,ほとんどALT主導の授業になりがちである。
(2) 外国語活動の年間計画は20~30時間となっているが,実際の指導計画は学校間または学級担任に
よってばらつきが見られる。
(3) 学級担任は英語に対する不安が大きく,効果的な活動の進め方がわからない。
(4) 具体的な実践事例が少なく,また授業に活かせる教材が不十分である。
このような状況を改善するとともに,小学校外国語活動の「教育の機会均等の確保」という観点を踏ま
え,また平成23年度からの必修化に向けて,へき地教育における小学校外国語活動の充実を図る必要があ
ると考える。さらに,小学校外国語活動の望ましい指導形態については,中央教育審議会の答申の中で「A
LTや英語に堪能な地域人材等のティーム・ティーチングを基本にすべきである。」と示されているが,
前述のように,本地区の現状を考えると,学級担任の資質向上が現実的かつ最優先課題だと考える。
そこで,外国語活動を進めていく学級担任に必要な指導力を「担任力」と言うキーワードに置き換え,
「担任力」を高める方法を研究していくこととする。ここでいう「担任力」とは,具体的には拠点校との
連携やいろいろな研修の機会を通して高めることができると思われる。「担任力」を活用して外国語活動
の学習内容を他の学習や活動と連携させることは,コミュニケーションの楽しさを子どもに味わせながら,
意欲的に外国語活動に取り組む児童を育成することにつながっていくと考える。
この「担任力」を向上させるために,上記の4つの課題解決を念頭に取り組みながら,その一環として
インターネット(県立総合教育センターの「教育情報共有システム」等)の効果的な活用を図ることが,
へき地における教師の資質向上の在り方についても提言できると考えている。よって,この「担任力」を
高める取り組みの工夫を行うことにより,意欲的に外国語活動に取り組む児童の育成につながると考え,
本テーマを設定した。
〈研究仮説〉
高学年の外国語活動において,インターネットの効果的な活用等を通して「担任力」を高める取り組み
を工夫することによって,意欲的に外国語活動に取り組む児童を育成することができるであろう。
- 1 -
Ⅱ
1
研究内容
インターネットの効果的な活用で「担任力」を高める
(1) 沖縄県立総合教育センターホームページの活用を通して
具体的な実践事例が少ないへき地校において,英語活動の情報を得るためにはインターネットの
活用が有効である。本地区でも,小学校英語活動の理論・実践事例を検索し,それを自分達の授業
に活かすことが少なくない。
なかでも沖縄県立総合教育センターホームページは,本県での様々な実践事例を参考にすること
ができる貴重なサイトとなっている。
① 「教育情報共有システム」について
「教育情報共有システム」とは,学校現場における各教科等の授業の実態を踏まえ,学習指導
要領に基づく教員の具体的なニーズに対応したコンテンツを収集,整理,配信し,広く活用しな
がら,同時にコンテンツの評価を通して,より良質なコンテンツの配信を目的に開発されたもの
である。授業や調べ学習に役立つ良質なコンテンツを利用しやすいように分類・蓄積し,ネット
ワークを通じて各学校で共有することができる。現在,約4万点余りの教材が蓄積され,インタ
ーネットを介して,いつでも,どこからでも利用できるようになっている。「教育情報共有シス
テム」を活用することにより,教員一人一人の抱える教育課題の解決や授業改善に結びつくヒン
トが発見できると考えられる。
② 「教育情報共有システム」の活用方法について
「教育情報共有システム」にあるコンテンツを活用するには,3つの検索方法がある。1つ目
は,トップページにある「情報共有システム」から検索する方法。2つ目は,同じくトップペー
ジにある「カリキュラム支援センター」,3つ目はIT教育センターの「OEEC小学校英語活
動応援サイト」からそれぞれ検索する方法である。
「教育情報共有システム」は,『教育素材』,
『指導案等』,
『e-ラーニング教材』,
『研究報告書
等』,『学習教材』,
『教育行政関係資料』
,という6つのカテゴリに分かれており,それぞれのカ
テゴリの中からキーワードで検索することができる。
「カリキュラム支援センター」は,離島・へき地の小規模校が多いという現状から,ICTを
活用した協同学習e-ラーニング及び教職員研修資料等の提供など遠隔教育機能を充実させるこ
とを目的としている。コンテンツは,「情報共有システム」の中からカリキュラム作成に直接役
立つもの(研究報告書や指導案等)を抜き出して,学校種・各教科別にデータベース化されてい
るため,他の検索方法よりも利用しやすくなっている。例えば,「小学校」の「外国語」のタブ
を開くと,46の研究タイトルがある。「○年度□学年の実践」と書かれているため,学年にあっ
た実践を探しやすい。
「OEEC小学校英語活動応援サイト」は,本県総合教育センター研修員の研修成果を公開す
るために平成18年10月から開設されたものである。『英語活動指導案』,『イマージョン指導案』,
『ワークシート』,
『教材』,『用語表現集』,『英語の歌』,
『研修報告書(日本語)』,
『研修報告書
(英語)』の8つのカテゴリに分かれているため,目的にあった検索ができる。また,
『リンク集』
があり,児童英語,教科サイト,教師のためのサイト等,英語活動に関する120余りのサイトが
紹介されている。
③ 「教育情報共有システム」のカテゴリ別内容について
「教育情報共有システム」の6つのカテゴリの中で「小学校 英語」のキーワードで検索する
と166件のデータが見つかる。カテゴリごとに「英語」のキーワードで検索すると,以下のよう
になる。
表1 カテゴリ別の内容
◇
教育素材
「国際理解」のカテゴリでは,世界の国のお金・気候・食べ物・様子
など様々な静止画や動画が見つかる。
◇ 「動作で学ぶ初めての英会話」のカテゴリでは,動画を見ることがで
き,ネイティブな発音に触れることができる。
◇ 動物・果物などのイラストがたくさんあり,印刷するとピクチャーカ
- 2 -
ードとして使用することができる。
指導案等
◇
8件のコンテンツが見つかる。
◇
「はいさい!イングリッシュ」が書体の違いで2件見つかる。
各学年にあった児童用ゲームや読み聞かせ等があり,音声を聞くこと
ができる。
◇
52件のコンテンツが見つかる。
様々な実践研究があり,研究内容は様々な理論を知るためにも有効で
ある。
e-ラーニング教材
研究報告書等
◇
学習教材
113件のコンテンツが見つかる。
「小学校英語活動」では『英語活動指導案』,
『イマージョン指導案』
,
『ワークシート』,
『教材』
,
『用語表現集』,
『英語の歌』,
『研修報告書(日
本語)』,
『研修報告書(英語)
』の7つのカテゴリに分かれている。
学習指導案やワークシート,掲示用資料,アンケートなど,様々な教
材がある。
教育行政関係資料 ◇
該当データ無し
以上のコンテンツの中から,担任力を高め,意欲的に外国語活動に取り組む児童を育成すために
活用したものは次のコンテンツである。
表2
タイトル
自ら進んで取り組も
うとする態度をはぐ
くむ英語活動
(2008)
進んでコミュニケー
ションを図ろうとす
る児童を育てる英語
活動の工夫
(2008)
コンテンツの活用事例
コンテンツ
コ ン テ ン ツ
の 活 用
研究報告書
クイズを取り入れたTOA(タスクを志向した活動)に
ついての実践である。クイズを取り入れる際の工夫とし
て,段階的な導入の仕方や単元の展開を参考にした。ま
た,実際にクイズを取り入れたTOAの有効性について
の検証もなされている。
指導案
単元名「Who am I ?」は5年生のクイズ大会の実践で
ある。外国語活動指導案を作る際に,教材観・指導観,
単元の評価規準等を参考にすることができた。
アンケート
児童用の「英語活動についてのアンケート」である。
情意面とスキル面に分かれている。4段階の選択肢から
選ぶようになっている。アンケートを作成する際、参考
にすることができた。
指導案
3 Promises
単元名「クラスのなんでも1,2,3」は,5年生の
実践である。友達の好きなものを英語でインタビューし
てまとめて英語で発表する,体験的なコミュニケーショ
ン活動だったので,インタビュー活動の授業で参考にし
た。
「Speak loudly・Listen carefiy・Say good job」の3
つの約束を授業の中で活用した。3つの約束を絵と文字
- 3 -
で表したカードをつくり,授業の始めには授業中のルー
ルとして必ず確認した。このような覚えやすいルールを
学年の始めに確認しておくと,学習活動を進める際,非
常に役立つことがわかった。
英語表現集
小学校英語活動
用語表現集
クラスルームイングリッシュや学校に関係する単語が
全部で397紹介されている。さらに,ALTとの打ち合わ
せをするための会話が英語・日本語・ローマ字の3種類
で書かれているので,お互いにこの表現集を見ながら打
ち合わせをすることができる。
小学校英語活動で使えるゲームが100以上紹介されてい
英語活動
る。活動方法及びバリエーション,準備物についても示
ゲーム集 されているので,様々な英語活動の場面で活用すること
ができる。
研究報告書
児童が慣れ親しむ
英語活動の工夫
(2007)
児童が英語に慣れ親しむために,インプットの機会を
増やすこと・楽しい活動・リラックスした雰囲気づくり
が挙げられている。特に,学級でのインプットの機会を
増やすために「クラスルームイングリッシュの掲示」,
「絵
本コーナーの設置」などの英語活動の学習環境作りにつ
いて参考にすることができた。イングリッシュルームや
学校内の環境作りについても写真があり,参考にしやす
い。4学年の指導案「Body Parts」がある。
1時間の授業の流れに沿ってクラスルームイングリッシ
ュが示されているので,教材研究から実際の授業の中で
教室英語表現集 も活用できる。クラスルームイングリッシュの精選の際
に参考にすることができた。児童から先生,そして児童
同士の会話のための英語も示されているので,教室の中
の掲示物の参考にできた。
担任を中心とした
授業作りの工夫
(2007)
研究報告書
「何よりも児童のことがわかるのは学級担任であり,
教師も英語を話し,努力する姿勢見て,学級担任を英語
を学ぶモデルとして感じるはずである」と書かれている。
学級担任が英語活動を進めるに当たっての教材の選び方
や環境作りの参考にすることができた。3年生の年間指
導計画,「1週間(7days)」の指導案もある。
児童が自主的にインプット活動できるように『トピッ
児童が進んでコミュ
ク別 日めくり』の掲示物になっている。
「あいさつ」
「数
ニケーションを図る
・色・形
」
「ハロウィン
」
「お正月」等,10のトピックか
Daily English
英語活動の工夫
らなる。1枚1枚が会話形式になっていて,すぐに学級
(2007)
掲示として使用できる。教室掲示物の参考にすることが
できた。
2
学級担任に役立つ教材・教具の開発や工夫,共有化で「担任力」を高める
(1) 教室環境の工夫
担任,そして児童にとっても,より英語に接する機会,親しむ機会,意欲的に活用する機会を増
- 4 -
やすため,日常の教室環境の工夫として以下のような掲示物を活用した。
① 厳選したクラスルームイングリッシュ
学校生活や授業で,主に日常的に活用する用語を教室後ろの壁面に掲示をすることにより,教
師が場に応じたクラスルームイングリッシュを積極的に活用することができた。
クラスルームイングリッシュと一口にいっても教室で使用される基本的な用語だけでも数はと
ても多く,意識していてもその場でとっさに活用できないことも多々ある。そのため今回は項目
を20項目に厳選し,目につきやすい大きさで掲示することにより,担任も自信を持ち場面に応じ
てタイミングよく活用できるようになった。また,同じフレーズを繰り返し使用する機会が増え
たため,児童への浸透も早かった。
今回は「教育情報共有システム」で紹介されていたクラスルームイングリッシュから20用語を
厳選したが,「わかっていてもなかなか使えていない」という現状から,あえてごく基本的な用
語も取り入れた。また,これらは学年にとらわれることなく使用できる用語がほとんどであるた
め,全学年で実施すればさらに深く浸透することが予想される。
表3
掲示したクラスルームイングリッシュ
その通り
That's right.
なんだかあててごらん
Guess what?
いいね
Good job!
繰り返して言ってみよう
Repeat after me.
おめでとう
Congratulations!
誰か希望者はいませんか
Any volunteers.
すごいね
Excellent!
右手をあげて
Raise your right hand.
すばらしい
Great!!
あなたの番よ
It's your turn.
完璧
Perfect!!
ペアを作って
Make pairs.
おしい
Close!
向かい合って
Face each other.
拍手
Give a big hand!
丸くなって
Make a circle.
静かに
Be quiet!
そこまで
Time is up.
急いで
Hurry up!
今日はこれで終わりです
That's all for today.
② 「ひとくち英語」日めくりカード
黒板の小スペースに“ひとくち英語”のフレーズをのせたカードを常に掲示することにより,
児童が意欲的にそのフレーズを活用しようとする場面が多く見受けられた。
カードのワンフレーズは教師が主に活用するクラスルームイングリッシュとは違い,児童が授
業中や学校生活の中でも積極的に活用しやすい,“It's mine.”や“Ready, go!”など,簡単な
ワンフレーズを選ぶようにした。また,日めくりで毎日違うフレーズを掲示するするため,児童
も新鮮さを感じながら英語に接することができた。担任もそのフレーズの活用を意識し,児童も
一日そのフレーズを目にすることになるため,活用する機会を積極的に探す姿が見られた。休み
時間や掃除時間,係活動の時間など,担任の授業以外の場所で児童同士がそのフレーズのやりと
りをする姿や,前日のフレーズ,またそれまでに掲示されたフレーズを積極的に活用する児童も
いた。
ベースとなる型のみ,パソコン(Wordや一太郎等)で作っておけば,フレーズを書き換え,プ
リントアウトするだけなので,毎日一枚ずつプリントアウトするという準備しやすい教材でもあ
る。また使用したカードを月ごとに保管し,数ヶ月ごとに使用するのも効果的である。
- 5 -
写真1 掲示用クラスルームイングリッシュ
写真2
「ひとくち英語」日めくりカード(明治図書)
(2) 教材・教具の共同作成,共有化
外国語活動に必要な教材を準備するのは,大変な時間と労力がかかる。そのため,担当教師のみ
ならず教職員全体で取り組む必要がある。全体で取り組むことにより,外国語活動への雰囲気作り
にも役立つ。
今年度は,夏季休業中に校内研修としてピクチャーカード作成に取り組んだ。これは,「もっと
充実させたい教具は何ですか。」の質問に対する回答で,ピクチャーカードが最上位にあったこと
を受けてのことである。校内研修の一環として全体で取り組んだ結果,活用方法を紹介し合ったり,
他の活用の仕方についてアイディアを出し合ったりすることができた。
ピクチャーカードは,市販されているものも数多くあるが,写真やイラスト画像をプリントアウ
トし,ラミネートするだけで容易に作成することができる。この際,「教育情報共有システム」か
ら画像素材をダウンロードし,活用することも可能である。動物,乗り物,果物,文房具などカテ
ゴリも多いが,何人かで手分けし協力すれば効率的に多くのカードを準備できる。今回は,本地区
ALTや英語アドバイザー,そして小学校英語教育条件整備事業の本地区拠点校である大浜小学校
も利用している,"MES - English.com" のフラッシュカードをダウンロードして作成した。
作成した教材・教具は,イングリッシュルームや職員室の決まった場所に単元やカテゴリ別に整
理し,いつでも誰でも活用できるようにすることで,授業に積極的に取り入れる教職員が増えた。
(3) 「すき間時間」でのゲーム紹介
校内研修が毎月2回あることに着目し,最初の5分間を利用して英語活動に役立つゲームの紹介
を行っている。これは,アンケート調査から,「英語活動に興味はあるが,どんなことをしていい
のかがわからない」教員が相当数いることが伺えたことから取り入れたものである。
「道具無しで」,
「少しの説明で」,
「すぐに」できる精選されたゲームを教師自身が実際に体験す
ることで,そのゲームの楽しさや難しさを理解することができる。そこからそれぞれの学級,学年
に応じたルールを取り入れたり,さらに他のアレンジゲームへとつなげる教材研究のきっかけとも
なる。今回紹介したのは以下のようなゲームだが,「実際に学級ですぐに使えた」「児童にもスムー
ズに説明できた」という声も多く,学級担任等,指導者の心理的不安を軽減することにつながって
いる。
英語研修はあるが,なかなか参加できない教員が多い現状から,このような形で外国語活動研究
員や研修を受講した者が実践内容を紹介し,広げていくことは,今後さらに求められていくと考え
られる。
(例) 「キーワードゲーム」,
「ハイド&シークゲーム」,
「ドンジャンケン」,
「ミッシングゲーム」
Ⅲ
1
2
指導の実際
単元名
クイズ大会をしよう
単元設定の理由
(1) 教材観
- 6 -
新学習指導要領「外国語活動」の指導計画と作成の取り扱いで「第5学年における活動は外国語
を初めて学習することに配慮し,児童に身近で基本的な表現を使いながら,外国語に慣れ親しむ活
動や児童の日常生活や学校生活にかかわる活動を中心に友達とのかかわりを大切にした体験的なコ
ミュニケーション活動を行うようにすること」と述べられている。
本教材「クイズ大会しよう」は,「ブラックボックス・クイズ」や「ジェスチャー・クイズ」な
どのクイズを出し合う活動を通して,“What's this?”“It's ~.”という基本的な表現を使いなが
ら,外国語に慣れ親しむこと,また,グループでのクイズ作成やクイズ大会によって,友達とのか
かわりを持ち,コミュニケーション能力の素地を高めることをねらいとしている。
(2) 児童観
本学級の児童は,男子のほとんどが活発であるが,女子はおとなしい子が多い。素直な児童が多
く,男女の仲も良い。
事前のアンケートによると,「英語活動は楽しいと思っている子は79%」「英語活動の授業で恥ず
かしがらずに話せる子は58%」
「英語活動の中で,友達と英語で話したいと思っている子は61%」
「英
語を話すのが上手になりたいと思っている子は84%」である。このことから英語活動に興味を持ち,
英語を話せるようになりたいと思っている児童は多いが,人前で発表したり,話したりすることに
不安を感じていることがわかる。(別紙アンケート結果より)
児童は普段の生活の中でよく「これ何。」と尋ね,好奇心が旺盛である。そこで児童の好きなク
イズを行い,楽しみながら英語活動に取り組ませたい。
(3) 指導観
従来の小学校英語活動は,歌やゲームなどの楽しい活動を中心に授業が行われていることが多い。
しかし,高学年の実践においては,「単純なゲームでは満足しない」「英語を発話することに抵抗感
のある児童がいる」などの課題もある。そこで,本単元では,高学年の子ども達の知的好奇心を刺
激し,日本語で行っても意欲的に取り組む授業内容を目指す。
本単元では,数種類のパターンのクイズを体験させ,その後友達が作ったクイズに答えること,
自分で作ったクイズを発表することで,意欲的に英語活動ができるようにしたい。
まず,第1時目では指導者からクイズを出し,“What's this?”が表す意味を理解させたい。さ
らに,キーワードゲームを通して,
“It's ~.”の表現にも慣れさせたい。また,
「海月」や「海星」
などの2字熟語を取り上げ,それらは何を表しているか考えるクイズをする。漢字を用いることで
児童の知的好奇心を高め,日本語に2つの漢字の組み合わせで意味を表す言葉があるのと同様,英
語にも単語が組み合わされてできている言葉があることを知り,併せて言葉のおもしろさにも気づ
かせたい。第2時では,ブラックボックス・クイズやジェスチャー・クイズをやりながら,必然性
を持って“What's this?”の表現に楽しみながら慣れさせる。第3時では,クイズ大会に向けてそ
の準備をさせる。クイズ作りを通して,児童が互いに助け合い,学び合う場としたい。第4時では,
自分達で作ったクイズを出し合う中で,児童がより積極的にコミュニケーションすることを楽しみ,
英語でのコミュニケーションに少しでも自信を持たせていきたい。
3 単元の目標
(1) 英語と日本語の表現のおもしろさに気づき,英語への興味・関心を深める。
(2) 積極的に相手にこれは何かと質問したり,尋ねられたときは答えたりする。
(3) 「What's this ?(これは何)」という表現に慣れる。
4 単元の指導計画
時
学習目標
学習活動
評価規準
○英語と日本語の表現のおも ○漢字クイズを通して,
「海星」
「海 ○積極的に英語を使い,先生や友
しろさに気づき,積極的に
月」などの漢字が何を表してい
達とコミュニケーションをとろ
英語を使おうとする。
るか考える。
うとしている。
本
○キーワードゲームをする。
時
○ハイド&シーク・クイズをする。
1
○What's this?という質問
○チャンツをする。
- 7 -
○クイズに答えたり,発表したり
2
の仕方や答え方の表現に慣 ○ブラックボックス・クイズをす
れ親しむ。
る。
○ジェスチャークイズをする。
3 ○What's this?を使って尋
ねるクイズを作る。
○チャンツをする。
○クイズ大会の準備をする。
○友達と協力してクイズを作ろう
としている。
○What's this?を使って尋 ○クイズ大会をする。
4 ねるクイズを作り,互いに
尋ねたり,答えたりしなが
らクイズ大会をする。
5
して,積極的に英語を使い,先
生や友達とコミュニケーション
をとろうとしている。
○クイズを発表したり答えたりし
て,積極的に英語を使いコミュ
ニケーションをとろうとしてい
る。
単元の評価規準
観
判 断 基 準
評価規準
点
関
心
・
意
欲
・
態
度
評価方法
A 十分満足
・クイズの作成や
発表,また回答な
どに進んで取り組
むとともに,積極
的に英語を使い,
コミュニケーショ
ンをとることがで
きる。
6
・積極的に英語を使
い,先生や友達とコミ
ュニケーションをとろ
うとする。
B
概ね満足
C への支援
・英語を使い,先生
や友達とコミュニケ
ーションをとろうと
する。
・英語での表現がわか
らないときは日本語で
発表させ,その後英語 行動観察
で一緒に表現する。
振り返りカ
・グループで積極的に ・グループで協力し ・クイズで使う英語表 ード
クイズ作りに取り組も ながらクイズ作りに 現や作成方法などをア
うとする。
取り組もうとする。 ドバイスする。
本時の学習指導案
(1) 本時の活動名 「これは何かな」
(2) 本時のねらい
英語と日本語の表現のおもしろさに気づき,積極的に英語を使おうとする。
(3) 授業の仮説
児童にとって身近な漢字や海の生き物を使ってクイズにすることで,意欲的に外国語活動に取り
組むことができるであろう。
(4) 言語材料
What's this? It's a ~.
sea star moon horse pig old seahorse starfish jellyfish shrimp dolphin
(5) 本時の指導過程
過程
児 童
の 活 動
教 師 の
活 動
○留意点 ☆教具
挨拶 ・始めの挨拶をする。
・笑顔で気楽な雰囲気を作り,挨拶を
(5) Let's start.
する。
I'm fine/happy/hungry/sleepy. How are you?
・3つの約束を確認する。
Listen carefully. Speak
loudly. Say good job.
導入 【Activity 】
(8) ・一枚の漢字カードを見て,英
・クイズをすることを告げる。
Let's play KANJI Quiz.
- 8 -
☆漢字カード
語でなんというのかを考える。・漢字カードを見せ,それをなんと読
むのか尋ねる。
海(sea) 星(star)
What's this?
月(moon)馬(horse)
How do you say ~in English?
豚(pig) 老(old)
That's right.
展開 【Activity 1 】
・漢字カードを組み合わせ,それをな ☆漢字カード・写真
(10) ・2枚の漢字カードを組み合わ
んと読むのかを尋ねる。
せると,どんな生き物なのか
What's this?
○それぞれ2つ目の漢
考える。
How do you say ~in English?
字に注目させ,英語
海星(ヒトデ)
That's right.
と漢字の表現のおも
海馬(タツノオトシゴ)
海星(starfish) 海馬(seahorse) しろさに気づかせる
海月(クラゲ)
海月(jellyfish) 海老(shrimp)
ようにする。
海老(エビ) 海豚(イルカ) 海豚(dolphin )
展開 【Let's Chant & keyword game】 ・CDを聞きながら,チャンツを紹介 ☆CD・ラジカセ・絵
(10) ・チャンツをする。
する。
カード
Let's do the chant together.
○絵カードを使い,手
拍子を付けながらチ
What's this? What's this? It's a book. It's a book. It's a book.
ャンツすることによ
What's this? What's this? It's a pen. It's a pen. It's a pen.
り,英語のリズムに
What's this? What's this? It's a cap. It's a cap. It's a cap.
慣れさせる。
What's this? What's this? It's a pencil case!
・キーワードゲームをする。
・ゲームの仕方をデモンストレーショ
ンで示し,理解させてから進める。
Make pairs and face each other.
Put one eraser between you and
your partner.
When you hear the keyword, take
the eraser quickly.
The keyword is ~.
Are you ready?
○チャンツで練習した
ことを意識して進め
させる。
展開 【Activity 2 】
(7) ・ハイド&シーク・クイズをす
る。
・様々な形に切り抜いた画用紙でピク ○提示の仕方を工夫し,
チャーカードをかくし,What's this? What's this?という
と質問する。
質問に意欲的に答え
られるようにする。
まと ・振り返りをする。
め
・挨拶をする。
(5)
Let's finish.
・終わりの挨拶をする。
Time is up.
That's all for today.
- 9 -
☆振り返りカード
写真3 漢字カードのクイズ
7
写真4 キーワードゲーム
本時の評価
判 断 基 準
学習活動
評価規準
A
十分満足
B
概ね満足
C への支援
○2枚の漢字カード 積極的に英語を ・それぞれ2つ目の ・それぞれ2つ目の ・2つ目の漢字の意
を組み合わせると,使い,先生や友 漢字に注目し,こ
漢字に注目し,こ 味や形に注目さ
どんな生き物なの 達とコミュニケ れらをヒントにど
れらをヒントにど せ,まず日本語で
か考える。
ーションをとろ んな生き物なのか
んな生き物なのか 考えさせる。その
うとしている。 を考え,さらに英
を考えようとす
後英語での言い方
語での言い方を考
る。
を一緒に表現させ
えようとする。
る。
○キーワードゲーム
やハイド&シーク・
クイズをする。
8
Ⅳ
1
・大きな声で発音し ・声を出して発音し ・なかなか声が出な
たり,大きな動作
たり,リズムにの い児童には,そば
で手拍子を付けた
ってみんなと一緒 で声かけをしなが
りしながら,英語
に表現したりしよ ら一緒に表現させ
で表現しようとす
うとする。
る。
る。
児童の感想
(1) 漢字を組み合わせて読み方をあてたり,いろいろな英語のクイズがあっておもしろかった。
(2) みんなノリノリで英語を学習して,“Good job !”と言って楽しかった。
(3) 今までにもやったことがあるけど,キーワードゲームが楽しかった。
仮説の検証
「担任力」を高める取り組みの工夫について
(1) インターネットの効果的な活用による「担任力」の高まり
効果的な検索をすることによって,膨大な実践例から本当に欲しい情報を得るのに要する時間が
飛躍的に短縮された。以前は,「英語活動 小学校」,「英語 指導案」などの漠然としたキーワー
ドでインターネット全体から検索し,目的の情報にたどり着くまで相当な時間を費やしていたが,
「教育情報共有システム」を活用することで,検索に要する時間が短縮され,その結果,教材研究
に力を入れることができるようになった。
具体的には,「カリキュラム支援センター」の一覧が探しやすく,実際に活用しやすい内容とな
- 10 -
っている。また,「教育情報共有システム」やその他のインターネットサイトにある優れた実践を
実施することで,子ども達が意欲的に取り組む質の高い授業をすることができた。
「教育情報共有システム」についての学級担任へのアンケートによると,「聞いたことがある」,
「中を見たことがある」の回答は過半数を超える。しかし,「実際に外国語活動の指導案やワーク
シート,アンケート用紙等を利用したことがあるか」との質問に,「利用したことがある」の回答
は1割もいない状況であった。本研究を進めるにあたり,
「カリキュラム支援センター」の一覧や,
「OEEC小学校英語活動応援サイト」を紹介することで,授業の進め方がわかったという声が聞
かれた。これら本県総合教育センター内のコンテンツ,そして本地区拠点校である大浜小学校の指
導案や教材・教具をより広く紹介する必要性を感じる。
(2) 学級担任に役立つ教材・教具の開発や工夫,共有化による「担任力」の高まり
学級担任として,他の教科・活動の時間においても,英語と関連づけた展開が可能となった。道
徳の国際理解の単元においては,外国でのマナーやエチケットについての発展的な学習として,
“Thank you.”“You're welcome.”などの練習も取り入れ,児童の興味を引き出しながら学習を展
開することができた。
また,学級担任だからこそ見ることができるのが,日常の学校生活で英語を活用しようとする児童
の姿であり,学習の深まりをより意識して確認するようになった。例えば,朝の健康観察で,時々
“How are you ?”と担任が尋ねると,“I'm fine, thank you.”のように決まり切った返答だけで
なく,“I'm sleepy.”“I'm hungry.”“I'm happy.”などと答える児童が増えている。逆に,突然
児童に質問されたときは,様々な表現で返答をすることも度々である。これは,掲示された「クラ
スルームイングリッシュ」や「ひとくち英語」に児童,そして学級担任が慣れ親しんできた結果と
考えられる。
指導後の児童アンケートにおいても,「学校生活の中で,先生はよく英語を使いますか?」,「教
室の中に英語の掲示物はありますか?」の項目で,「より使うようになった」,「掲示物が増えた」
という意見が顕著に見られた。
ALT任せではなく,実際に使用する学級担任が他の職員とも協力し,教材・教具を作成するこ
とで,その教材を使用する学習のねらいや,さらなる教材研究への手立てとなり,多くの実践につ
ながった。
10. 教 室 の 中 に 英 語 の 掲 示 物 は
あ りま す か ?
9 . 学 校 生 活 の 中 で 、先 生 は よ く英 語 を
使 い ます か ?
0%
7月
20%
8
40%
60%
39
12月
26
よ く使 う
ま あま あ使う
80%
37
42
あま り使 わ な い
0%
100%
7月 0
16
26
12月
5
40%
32
60%
80%
42
39
た くさ ん あ る
ぜんぜん
図1 指導前後のアンケート結果1
2
20%
100%
26
55
まあまあ
あ ま りな い
50
ぜんぜん
図2 指導前後のアンケート結果2
意欲的に外国語活動に取り組む児童の育成について
中学年までは元気良く歌ったり,大きな声で発表したりする児童が,高学年になるにつれて意欲的
に取り組まなくなるという状況をよく耳にする。これは児童の発達段階と活動内容が合っていないた
めと考えられる。本研究の取り組み前後のアンケート結果からは,「英語活動の授業を楽しいと感じ
ている」,
「友達と英語で話したい」,
「授業中,恥ずかしがらずに話せる」児童が全て増加しており,
意欲的に取り組む高学年児童が増えたことがわかる。
これは前述の「担任力」を高める取り組みの工夫の結果,外国語活動の学習内容と他の学習や活動
と連携させたことが大きく関係している。つまり,担任が進める外国語活動であることを活かして,
国語や社会など他教科の内容と関連させた題材を用いることにより,日本語で行う授業としても魅力
のある授業となって,児童が意欲的に取り組んだといえる。
- 11 -
(題材例)「漢字の組み合わせ」,
「ローマ数字の読み方」,
「世界の建物や山の高さ」
6.英 語 をじょう ず に 話 した い で す か ?
4.英 語 活 動 の な か で 、友 だ ち と英 語 で
話 し た い で す か ?
0%
0%
7月
12月
はい
20%
39
40%
60%
80%
21
51
ど ち ら か とい え ば 話 した い
29
41
あ ま り 話 し た くな い
7月
11
8
3
12月
いいえ
はい
図3 指導前後のアンケート結果3
Ⅴ
20%
40%
60%
80%
100%
100%
74
76
ど ち ら か とい え ば 思 う
11
8
18
あま り思 わ な い
8
33
いいえ
図4 指導前後のアンケート結果4
まとめと今後の課題
今回,「担任力」をキーワードにしながら,「意欲的に外国語活動に取り組む高学年児童を育成する指
導の工夫」をテーマに研究を進めてきた。教育情報共有システム等の効果的な活用や教材・教具の開発
・工夫を図りながら実践を行うなかで,次のような成果と課題を得ることができた。
1 成果
(1) 「担任力」を高める様々な方策に取り組むことで,学級担任が日常のコミュニケーションをベー
スにしながら,効果的に外国語学習を進めることができ,児童が意欲的に外国語活動に取り組むよ
うになった。
(2) 教育情報共有システムをはじめ,優れた実践例をインターネットを通して短時間で検索し,教材
研究の時間を確保することで,他教科や領域と連携した授業ができるようになった。
(3) 教室掲示物の工夫により,児童,学級担任ともに授業時間以外でも英語を口にする機会が増え,
英語を話すことに対する抵抗が少なくなった。
(4) 学校内に限らず地域全体で情報共有を行うことにより,拠点校を中心とした連携が深まり,八重
山地区小学校英語活動研究会発足への動きに結びついている。
2 課題
(1) 全般的にわかりづらいため,一目で内容がわかるようなアイコン等の工夫が必要。また,「教育
情報共有システム」,
「カリキュラム支援センター」
,
「OEEC小学校英語活動応援サイト」内のコ
ンテンツは基本的に同じものとなっているが,名称の相違,教材の有無などの違いがある。
(2) 「教育情報共有システム」のコンテンツで「二次加工を許す」となっていても,一般的なファイ
ル形式でないため,実態に合わせて手を加えることが困難である。
<主な参考文献>
大城 賢・直山木綿子 編著 2008 『小学校 学習指導要領の解説と展開 外国語活動編』 教育出版
文部科学省 2008 『小学校外国語活動研修ガイドブック』
岡 秀夫・金森 強 編著 2007 『小学校英語教育の進め方』 成美堂
- 12 -