優秀賞 茶の湯とは 中川 あかり

優秀賞
点て方を学び、やがて休日には、家族にお茶を振舞うようになった。
私は、茶道が大好きになっていった。作法を次々に学んだ。棗・
茶杓・茶碗の清め方、茶巾たたみ、茶筅通し、柄杓の扱い、お茶の
家族の中でも、祖父母は特に喜んだ。
茶の湯とは
京都女子高等学校三年(京都府)
私が点てたお茶は「一番美味しい」と、そして、家族でこのよう
な時間を持てることが「最高に幸せだ」と、祖父母はそう言って喜
んだ。私はそのような家族の喜ぶ姿をみることが、何より嬉しかっ
私は中学入学と同時に茶道部に入った。それから六年間、毎週茶
道部へ通った。良き先生や先輩、後輩との出会い、そして茶道の作
思う。
のか、今日までの茶道の歩みを通じて、私なりに解釈してみたいと
今から六年前、私が中学に入学した時に、初めて先生から教わっ
た歌だ。今、高校卒業を前にして、この歌に込められた真意は何な
「茶の湯とはただ湯をわかし茶を点ててのむばかりなることと知る
べし『利休百首』
」
やった。季節に咲く花の名前は一緒に調べた。茶道具にまつわる想
しかし、お茶を点てられるようになったことから、私が家族を喜
ば す 時間 が で き た。窓 か ら 見 え る 生 い 茂 っ た 草木 に は 一緒 に 目 を
ごしてきた。
家族から与えられる愛情の中で、それを受けることを当たり前に過
も私を心配して、力になってくれた。私はいつも家族に見守られ、
思えばこの六年間、いつも家族は、私の幸せを願ってくれた。文
化祭の茶道部には毎年顔を出してくれた。進路に悩んだ時には、一
中川 あ かり
法を一つ一つ丁寧に習った。
みせた。すると、いつもは厳しい祖父が、一服する度に微笑んだ。
た。
茶道部に入ったのは、単なる憧れからだった。先輩達が着物を着
て、お点前をしている姿が格好よく見えた。私もあんな風にできた
優しい祖母はいつもよりさらに目尻が下がった。忙しい母は、深呼
「茶の湯とはただ湯をわかし茶を点ててのむばかりなることと知る
べし」・・・ただ湯を沸かして茶を点て、飲むだけのことの中に、私
茶室でのひとときは、今の私が唯一、家族を喜ばすことのできる
時間となった。
吸をして寛いだ。
い出を色々と語り聴いた。新たな作法を習う度に、一つずつやって
緒になって考えてくれた。そしてトラブルに遭った時には、誰より
らいいな、そんな憧れが最初の動機だった。
茶道部では、まず始めに帛紗の捌き方を学んだ。帛紗捌きは簡単
そうに見えて、なかなか難しかった。何度教えられても、うまくい
かなかった。家で何度もお稽古した。毎日お稽古した。週末のお稽
古で、先生に誉められた時には、とても嬉しかった。コツコツと努
力しそれが認められることの喜びを、ここから学んだ。
は自然や時間との一体感を感じることができた。そのことを家族と
共感し、そこで家族が喜ぶ姿に出会うことができた。家族の喜ぶ姿
は、私にとって何よりも幸せなことになった。喜びや幸せとは、与
えられるものではなく、自分がその時できる範囲で、相手のために
精一杯すること、させていただけることなのだと感じとることがで
きた。茶道と出会ったこの六年間で、私が学んだことは実に大きい。
と同時に、やっと茶道の入り口に立ったという思いである。
この春、私は大学へ進学する。私はこれからも茶道を学び続け、
「茶の湯とはただ湯をわかし茶を点ててのむばかりなることと知るべ
し」と、この歌の中に込められた真意への理解がさらに深まるよう、
日々精進していきたいと、今、決意している。