博士論文要旨 神谷美恵子の実践の研究 ―1960 年代の長島愛生園を中心にして― 立命館大学大学院先端総合学術研究科 先端総合学術専攻一貫制博士課程 タナカ マミ 田中 真美 本論文の目的は、精神科医としてハンセン病者に向き合ったことで知られる神谷美恵子が、 長島愛生園(国立ハンセン病療養所)を中心にして岡山県長島で行った諸実践を明らかにし、 その意義を検証することである。 神谷に関しては、その数多い著作の分析や、ハンセン病の隔離政策との関係を扱った研究は あるが、精神科医師としての側面に焦点を当てた研究は存在しない。 本研究は、著作の内容、筆者が長島愛生園で行ったインタビュー調査の結果、愛生園所蔵の資 料、神谷家所蔵の資料、神谷が記した未公開の診療録を用いて、神谷が医療の枠をこえて行っ た実践を明らかにした。 第1章と第2章では、神谷の全体的な人間像や、思想的特質なども明らかにするために、精神 科医として誕生するまでの神谷の生い立ちを時系列で丁寧に辿った。 第3章では、神谷が精神科医として実践をした長島愛生園の1960年代の医療の実際と、当時、 現場で起こっていた難治らいの問題について、一次資料と、当時仕事をしていた医師の聞き取 りも行って明らかにした。第4章では、神谷の精神科医としての具体的な実践、第5章では、精 神科医として実践を超えた入所者との交流について明らかにした。第6章では、長島愛生園の実 践で生まれたと言われている『生きがいについて』が生まれた背景を辿り、神谷が引用した文 芸作品を整理した。第7章では、長島愛生園に通いながら研究を深めていき、その途上で急逝し、 完成をみずに終わった『ヴァジニア・ウルフ研究』について時系列で辿った。
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