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様式8の1の1
別紙1
論文の内容の要旨
専攻名
システム創成工学
氏
若園
名
毅
近年、光学設計の最適化機能向上により、従来の共軸回転対称光学系の範疇にない光学
系の設計事例が増えてきている。折れ曲がった基準軸(共軸回転対称光学系における光軸
に相当)に沿って屈折面、反射面が配置され、その偏向面が一般的に自由曲面形状である
光学系をオフアキシャル光学系と呼ぶ。光学系の空間配置と自由曲面形状の自由度を用い
ることにより、既存の共軸回転対称光学系では得られない仕様、結像性能を達成すること
が可能である。近年における自由曲面加工技術の向上に伴い、オフアキシャル光学系はヘ
ッドマウントディスプレー(HMD)や超短焦点プロジェクター等、様々な機器、製品に搭載
されている。また、次世代の天体望遠鏡の設計において、自由曲面ミラーを使用すると従
来のTMA(Three-Mirror Anastigmat)に対して結像性能が大幅に改善された事例も報告され
ている。上述のようにオフアキシャル光学系には多くの利点がある一方で、光学系の対称
性の欠如により共軸回転対称光学系には存在しなかった非対称な収差が発生する。非対称
な 収 差 を 補 正 す る た め に 光 学 系 の 空 間 配 置 や 自 由 曲 面 形 状 を 変 数 と し 、 ス ポ ッ ト RMSや
MTF( Modulation Transfer Function)を設計ターゲットとして最適化を実行し、 トライ&エ
ラーを繰り返すことがオフアキシャル光学系の設計として日常的に行われている。しかし
ながら、光学系の構造と結像性能との間の基本的な関係を把握せずに最適化に依存した自
動設計を行うことは、原理的に出来ないことをコンピュータに任せて労力と時間を空費す
るだけであり、仮に結像性能が改善されたとしても、設計者自身が何故改善されたか、ど
こまでが限界なのか判断を下すことが出来ないことは自明である。従来の共軸回転対称光
学系では近軸理論、収差論といった近似理論を使って収差補正に最適な光学パワー配置や
レンズ構成を解析し、設計指針を立てることが可能であり、オフアキシャル光学系におい
ても同様の理論体系、設計手法が必要となる。
オフアキシャル光学系の収差解析として、Hamiltonの特性関数(Eikonal)を用いた1次収
差、2次収差の解析手法が報告されている。また、この解析手法を面対称性なオフアキシャ
ル反射光学系の設計に使用した事例が報告されている。具体的には1次、2次収差が全てゼ
ロとなるような光学系の空間配置や面形状を解析的に求め、求まった複数の解の結像性能
を比較し、光学系の初期形状探索を行っている。しかしながら、上記理論及び設計手法に
おいては1次収差、2次収差がどのような性質、特徴を持つ収差なのか具体的に明記されて
いない、近似理論として最も実用的な3次収差については一切明記されていない、自由曲面
形状は対応していないという課題があった。
一方で共軸回転対称光学系の収差論の拡張理論として、折れ曲がった基準軸に沿った近
軸展開によるオフアキシャル収差論が荒木より提案されている。この理論を用いれば自由
曲面形状に対応した一般的なオフアキシャル光学系の高次収差を含めた収差解析を行うこ
とが可能となり、上記課題を解決できる可能性がある。
本研究ではこの理論を出発点として、オフアキシャル光学系を設計する上で、より実用
性のある理論へ拡張し、最終的にはオフアキシャル光学系の設計手法を確立することを目
敵とした。
まず、第1章は序論であり、研究の背景と意義を述べ、続く第2章で、オフアキシャル光
学系の表現方法を述べた。
第3章では、オフアキシャル収差論におけるオフアキシャル収差表示テンソル成分をアジ
ムス依存性の無い収差係数に分離し、更に収差の性質、特徴が理解しやすい形に収差係数
を変形した。
第4章では、各収差係数に起因する収差の形状を光路図、スポットダイアグラム及びチャ
ートを用いて図式化した。これにより1次~3次収差の性質、特徴が明らかになっただけで
なく、3次以降の高次収差について具体的に求めなくても形状の見通しが立てられるように
なった。
第5章では、光学系の対称性による発生、消失する収差を明らかにした。1平面対称光学
系では対称性の全く無い光学系に対して発生する収差の数が半分になる。2平面対称光学系
では偶数次の収差は完全に消失し、奇数次の収差は1平面対称光学系と変わらない。回転対
称光学系で残存する収差は、共軸系のザイデル収差に帰結する。これによりオフアキシャ
ル収差論が従来の収差論の拡張概念であることが確認出来た。
第6章では、光学配置、構成の異なる2タイプの2枚構成オフアキシャルミラー反射光学系
を実際に設計し、3次までの収差解析を行った。光学配置、構成の違いにより収差特性が異
なることが明らかになった。この検討結果は、オフアキシャル収差論が光学系の初期形状
探索に有効活用できることを示唆している。更に基準面が偏向前後で合致しない所謂”ひね
り”が発生した場合の収差特性への影響についても考察を行った。
最後に第7章で、研究のまとめを述べた。
本研究の最終目標であるオフアキシャル光学系の設計手法の確立までには幾つかの課題
が残っているが、本研究で得られた成果はオフアキシャル光学系の収差解析、設計指針を
得る上で十分に役に立つと考えられる。