企業統治(Corporate Governance)と経営管理 企業統治(コーポレート・ガバナンス: corporate governance)問題とは何か? →経営者は誰の利益のために経営すべきか? →経営者を誰が,いかに監視・チェックすべきか? →如何にして企業の競争優位性・企業価値を向上すべきか? ① ② ③ ④ 株主主権論 従業員主権論 「企業=公器」論 経営者主権論 背景: ① 大規模株式会社における所有と経営の分離→専門経営者の登場と経営者支配 ② 相次ぐ企業の不祥事→企業不祥事への対応→経営者に対する監視・監督 ③ 経営のグローバル化(株式市場のグローバル化・会計基準の国際化) ④ 構造的な低収益構造→企業競争力の強化 「強い現場と弱い本社」 伝統的な日本の大企業のトップ・マネジメント組織と企業統治 二元監督システム ドイツ法→戦前商法→監査役制度 英米法→改正商法→取締役会制度 会計監査 業務執行機関である取締役会自身が業 務執行を兼任する取締役や代表取締役 を監督するとともに,監督を任務とする監 査役(会)によっても監督されている。 従来の「日本型」ガバナンス の長所:メイン・バンクに支え られた経営の安定性・長期的 視野 短所:1)株式市場(投資家) から見た経営の透明性・経営 情報の開示機能の弱さ 2)取締役会・監査役会の無 機能化(①内部経営者に対 するチェック機能の弱さ,② 意思決定の遅鈍化) 大きな取締役会規模 内部承認型 取締役会の形骸化 企業間関係=「系列」 =長期・固定的取引 =長期・継続的取引 (長期安定保有) 所有者別の持株比率 93年度 外国人(6.7%):個人(23.7%):事業法人(23.9%):金融機関(43.8%) 03年度 外国人(19.7%):個人(22.7%):事業法人(25.1%):金融機関(31.1%) 金額ベース:外国人(21.8%):個人(20.5%):事業法人(21.8%):都長銀・地銀(5.9%) 04年度 外国人(23.4%):個人(21.9%):事業法人(24.3%):金融機関(28.5%) 金額ベース:外国人(23.7%):個人(20.3%):事業法人(21.9%):金融機関(32.7%) 2004年度の数字についてはライブドアをのぞく。 http://www.tse.or.jp/data/examination/distribute/h16/distribute_h16a.pdfを参照した。 法人株主 1政策投資目的(他企業との関係強化など) 1株式の相互待合 1株式保有目的 純然たる投資目的 短期的な値上がり益などを狙う投資 機関投資家 経営業績 の低迷 株式売却 株価低迷 敵対的M&A の脅威・証券市場による監視 乗っ取り(敵対的M&A) 経営者への規律付け 経営者更迭 株主重視経営 2006年末,外国人株式保有比率は28.7% と4年連続過去最高を記録 日本でも敵対的企業買収の動きが表面化 1) 株式市場での株式の買い集め→グリーン・メーラー(株の買占め屋) グリーメーリングとは,「脅迫」を意味する“blackmail”と「現金」を意味する“greenback”の 合成語であり,大量の株式を買い集めた後,経営陣に圧力をかけて高値で買い取らせ る行為 2) 委任状争奪(proxy fight, proxy contest) 株主総会ではある株主が提出した提案の賛否を,議決権を持つ他の株主が選挙のよう に投票で決める。選挙では原則的に投票権を代理人に託すことはできないが,総会で は議決権を他の株主に託すことができる。その代理権を証明するのが委任状である。会 社側とは違う意見を持つ株主が,自分の提案に賛同してくれる他の株主から委任状を集 めることは「委任状勧誘」と呼ばれる。双方ができるだけ多くの委任状を獲得しようと「多 数派工作」を繰り広げることを「委任状争奪戦」と呼ぶ。 3)テイク・オーバー・ビット (Take Over Bid,通称「TOB=株式の公開買付け」) 日刊の新聞2紙以上に,買付け期間・価格・株数・目的を公示し,不特定多数の株主か ら一挙に株式を買い取り,会社の支配権を獲得する方式 ①短期間で実行可能 ②一定数の株式が買い付けられない時にキャンセル可能 ③証券市場で株を買い集めるよりも買収費用が少なくて済むケースが多い 日本型ガバナンス改革の動き ① 取締役会のスリム化・執行役員制度の導入→業務執行の効率性と決定のスピード ② 経営の透明性向上とチェック(牽制)機能の強化 従来型→社外監査役の拡充による監査役の機能強化 米国型→ 「委員会設置会社」への移行 ③ 株主利害の強化 (1)経営者報酬制度の変更(株価・業績連動型)の導入→経営責任の明確化 株価型:ストックオプション(株式購入権)制度の導入→株主の利害と経営者の利害の一致 業績型:会社の期間利益や経営指標の達成度に連動する報酬制度 (2)四半期配当の実施(ホンダ・東京エレクトロンなど120社を超える企業が定款変更) (3)株主総会の活性化 (4)自社株買いの積極的導入 ⑤ 株主代表訴訟制度の合理化と取締役・監査役の責任の軽減化 取締役の損害賠償責任限度額:代表取締役 6年分,社内取締役 4年分,社外取締役 2年分 (定款規定もしくは株主総会決議) 「会社法」では,訴訟の提起により,株主が自己もしくは他人の不正な利益を図り,または会社に損害を加える目的 を有する場合には,株主は株主代表訴訟を提起できないとされ,この点で企業統治の見地,すなわち,経営者に対す る健性機能という点からは著しく後退したものと見なさざるを得ない。 「会社法」の下での会社機関設計のルール 全ての株式会社 株主総会と取締役を設置することが必須 株式譲渡制限会社(=株式を譲 渡するには,取締役会または株主 総会の承認を必要とする会社) 取締役会の設置は任意(取締役会を設 置しないときは,監査役会・委員会を設置 できない) 株式譲渡制限をしない会社 取締役会の設置は必須 株式譲渡制限をしない会社・監査 役会設置会社・委員会設置会社 取締役会を設置しなければならない 大会社は従来どおり会計監査人 の設置が必須 会計監査人を設置するためには,監査 役・監査役会または委員会のいずれかを 設置することが前提 出所:蓮見正純・六川浩明編著『誰でもわかる新「会社法」』エクスメディア,2005年183頁参照。 (株式会社) 出所:あずさ監査法人「新会社法のポイント」http://www.azsa.or.jp/b_info/letter/76/01.html ☆会社法における株式会社の機関設計 非公開で非大 会社 非公開で大 会社 公開で非大 会社 公開で大会社 ①取締役 ○ × × × ②取締役+監査役 ○ × × × ③取締役+監査役+会計監査人 ○ ○ × × ④取締役会+会計参与 ○ × × × ⑤取締役会+監査役 ○ × ○ × ⑥取締役会+監査役会 ○ × ○ × ⑦取締役会+監査役+会計監査人 ○ ○ ○ × ⑧取締役会+監査役会+会計監査人 ○ ○ ○ ○ ⑨取締役会+3委員会+会計監査人 ○ ○ ○ ○ 注)「非公開」は全ての種類の株式に譲渡制限をつけている会社。「会計参与」は全てのパターンに設置可能。 「大会社」とは資本金5億円以上,負債200億円以上の会社のことで我が国は約1万社存在する。 出所:『日本経済新聞』2006年4月26日付け記事。 ☆ 「大会社」(公開会社)の会社機関 (1)監査役会設置会社 株主総会 (経営監視権) 監査役会 取締役会 会計監査 業務監査 公認会計士 監査法人 代表取締役 (経営監視権) (経営権) 会計監査 :監査役は3人以上。うち半数以上が社外監査役 :常務会,執行役員制度,社外取締役は商法上位置づけがないが採用可能 :監査役の任期は4年,3人以上のうち過半数は社外監査役選任 :「社外性」の要件から「就任前5年間」という規定を削除 :監査役の取締役会への出席義務付け :法律の規定にはない「執行役員」は設置可能 (監査役設置会社に再移行した24社を除く) (2)委員会設置会社(2009年11月までに111社が導入済み) 株主総会 選任 取締役会 指名委員会 報酬委員会 選任・解任 監査委員会 適法性監査 妥当性監査 代表執行役(CEO) 執行役 :執行役の任期は「1年」とされる。 :執行役制度を導入するときには取締役会や執 行役が決定した事項について会社を対外的に 代表する機関である「代表執行役」(CEO:取締 役を兼務)を置く。 :取締役が執行役を兼任することは禁止されてい ない(但し,監査委員には就任不可)。 :3つの委員会(メンバー3名以上)と執行役は 必置。監査役会は設置不可 : 各委員会間の取締役の兼務は可能。 :各委員会は取締役3名以上で構成。うち過 半数(2人以上)が社外取締役 「社外取締役」=「現に業務執行をせず,過 去,現在においてその会社や子会社の取締 役,執行役,支配人,その他使用人ではな い者」 :取締役の任期は一年(執行役の兼務可能) ;利益処分案の承認は総会決議事項ではな く取締役会決議事項となる :取締役と使用人を兼務することは禁止 :新株発行,社債募集,株式分割の決定,重 要財産の処分及び譲渡,多額の借財,支配 人その他の重要な使用人の選任・解任,支 店その他の重要な組織の設置・変更・廃止な どは執行役が決定できる。 ドイツのトップ・マネジメント組織 監査役会(従業員2000名以上) 監査役の人数:法律により規定され、12・16・20名 (うち半数は労働側代表) 任期は4年 任務 : 業務執行の監督機関 1) 執行役会役員の選任・解任 2) 業務執行の継続的監督 3) 会計の監査および年度決算書の確定 4) 業務執行措置に対する事前同意権(定款の規定による) 監査役会が取締役の業務執行を監督する手段 1)情報入手権(取締役の報告義務・取締役への情報請求権) 2)会社の帳簿・財産の閲覧・調査権 3)決算書の監査権(取締役から提出された決算書および利益処 分案等を監査し、その結果を株主総会に報告) 執行役会(Vorstand) ①執行役会の構成 1)人数は2名以上(資本金300万€以上) 2)監査役会により、1名の執行役会会長の指名 3)監査役と執行役の相互兼任禁止 4)任期は5年 ②執行役の任務:業務の執行 1)執行役は自己の責任で会社を指揮する 2)業務執行および会社代表に関して、複数の執行 役が共同して行うことを原則とする ドイツの労使共同決 定 資本会社=株式会社と有限会社 拡大共同決定法 (1976年) モンタン共同決定 (1951年) 経営組織法 (1952年) モンタン産業以外の、 従業員2千名以上の 資本会社 石炭・鉄鋼 従業員5百名から2 千名未満の資本会 社 労資同数方式1) 労資同数+1(中立 代表)方式 3分の1方式 監査役会の規模 12名・16名・20名 (従業員数に応じて) 労働側:6・8・10 資本側:6・8・10 11名・15名・21名労 働側:5・7・10 資本側:5・7・10 中立 :1・1・1 3名・6名・9名 労働側:1・2・3 資本側:2・4・6 適用分野 人事・労務担当執 行役については労 働側代表監査役の 承認 1)但し、監査役会会長は必ず出資者側代表から選出され(副会長は労働側 から選出)、この会長は2票目の投票権を保持する。 Volkswagenのトップ・マネジメント組織 執行役員の選・解任 年次決算書の承認 重要事項に対する同意権 監査役会(Aufsichtsrat) 出資者代表 1976年拡大共同決 定法適用対象企業 業務執行監督機関 労働側代表 選・解任権 執行役会(Vorstand) IGメタルの 組合員 業務執行機関 17 年4回定時+ 臨時3回会議 開催 多元的企業統治モデル VW監査役会(Aufsichtsrat)メンバー 出資者側代表 労働側代表 1 会長 F・ピエヒ(元VW執行役会会長) 副会長 J. ペータース(IGメタル会長) 2 M.フレンツェル(TUI執行役会会長) B.フレーリッヒ(IGメタル本部役員) 3 H.M.ガウル(E.ON執行役会役員) O.クンツ(IGメタル本部役員) 4 J.グロスマン(Georgmarienhuette Holding CEO) B.オスターロー(VWコンツエルン事業所評議会議長) 5 H.P.へルター(ポルシェ執行役会役員) B.ヴェーラウアー(VWコンツエルン事業所評議会副議長) 6 W.ヒルヒェ(ニーダーザクセン州大臣) P.ヤコブス(エムデン事業所評議会議長) 7 R.エクター(ドイツ有価証券保護連盟会長) H,ゼフィア(VW商用車部門事業所評議会議長) 8 H.v.ピエラー(ドイツ銀行監査役) J.シュトゥンプ(カッセル事業所評議会議長) 9 W.ビィーデキング(ポルシェ執行役会会長) P.モッシュ(アウディ事業所評議会議長) C.ヴルフ(ニーダーザクセン州首相) W.リトマイヤー(VWマネジメント執行役会会長) 10 , 出所:VW Geschäftsbericht 2007,S.193ff. 18 監査役会内各種委員会 幹部会(Präsidium) F・ピエヒ(委員長) W.ビィーデキング C.ヴルフ J. ペータース(副委員長) B.オスターロー B.ヴェーラウアー 仲裁委員会(Vermittlungsausschuss) F・ピエヒ(委員長) C.ヴルフ J. ペータース(副委員長) B.オスターロー 監査委員会(Prüfungsausschuss) H.P.へルター (委員長) H.M.ガウル B.ヴェーラウアー (副委員長) B.フレーリッヒ IR委員会(Ausschuss für Geschäftsbeziehungen mit Aktionären) R.エクター (委員長) M.フレンツェル W.リトマイヤー (副委員長) B.ヴェーラウアー 出所:http://www.volkswagenag.com/vwag/vwcorp/content/de/investor_relations/corporate_governance/organe.html(2008 19 年5月10日アクセス)
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