HVDC 連系システムの揃速制御

HVDC 連系システムの揃速制御
E98085 玉川亜希子
1.
はじめに
近年のパワーエレクトロニクスの技術進歩は著
しく,HVDC(High Voltage DC:直流送電)連系
は世界で約 80 ヶ所の普及に至っている[1]。我が
国では北海道系統と本州 50Hz 系統間を直流連系
している北本連系で,周波数制御が実施されてお
り,良好な運転実績が得られている [2]。その他に
も,交流系統の大規模化にともなう安定度問題,
短絡容量問題を解決しつつ,系統間の送電容量を
増加させる BTB(Back to Back)方式が,南福光
BTB として 1999 年 3 月より運用を開始している。
これは我が国初の同一周波数内直流連系設備で,
中部電力と北陸電力間を連系する目的で設置され,
可能性が検討されている[3]。
この様な系統構成においては,何らかの事情に
より,交流連系線のルート事故などで交流側ルー
トが解かれた緊急時に,BTB の潮流制御能力を
活用することで,再同期投入を容易にできる可能
性がある[4]。
そこで本研究では,負荷周波数制御に加え,再
同期投入タイミングのあり方について検討を行っ
ている。
2.
負荷周波数制御検証モデル
負荷周波数制御検証モデルとして,図 1 のよう
に 2 地 域 HVDC 連 系 モ デ ル を MATLAB の
SIMULINK にて作成した。A 地域(System A)
は小容量系統,B 地域(System B)は大容量系統
を表しており,両系統は HVDC により連系され
ている。これは図 1 では’HVDC Gain Kr’によって
示され,そのゲインは最適レギュレータ理論を用
いて求めている。ここで,両系統の周波数及び電
気的トルクをフィードバックしているが,後者は
直接測定することができないため,オブザーバを
用いて推定を行っている。
両系統には,LFC 対象火力発電所モデル,LFC
対象水力発電所モデル,LFC 非対象火力・原子
力発電所モデルがそれぞれ含まれている。各々の
設備容量は表 1 に示す。また Load A,Load B は
負荷変動模擬ブロックである。 HVDC の容量制
約を模擬するために’saturation’ブロックを用い,
指導教員
藤田吾郎
その制約を±1 とした。
60
In1
Load A
0
Out1
Display
Standard Deviation A
Out1
1
In1
Out1
10s+1
Rotor Inertia & Load A
60
System A
300/5100
K
Out1
Saturation HVDC Gain Kr
In1
300/82500
Out2
Subsystem
1
In1
Out1
60
In1
0
Out1
10s+1
Rotor Inertia & Load B
System B
Display1
Standard Deviation B
Out1
Load B
図1
負荷周波数制御検証モデル
表1
系統
A
系
統
B
系
統
設備容量
設備名称
容量
負荷容量
5100MW
LFC 対象火力機
3300MW
LFC 対象水力機
1400MW
LFC 非対象火力・原子力機
400MW
負荷容量
82500MW
LFC 対象火力機
59400MW
LFC 対象水力機
13200MW
LFC 非対象火力・原子力機
9900MW
3. 揃速制御の検討
<3.1> 揃速投入の重要性の検証
交流連系
系統のルート断により発生した単独系統において
は,LFC(Load Frequency Control:負荷周波数制
御)による周波数調整が可能であるが,BTBの調
整能力には主に容量面での限度があることから早
期連系状態に戻す必要がある。その際に,両端の
電力系統はBTBによる非同期連系であるため,過
渡現象を抑えるために同期並入が必要である。し
かし,LFCが起動していると両端の周波数を一致
60
In1
Out1
5. まとめ
本研究において,ルート断により発生した単独
系統を早期連系状態に戻す際の,両系統の位相を
揃えることの重要性について説明することができ
た。引き続き,HVDC を活用した揃速制御につ
いて検討を進める予定である。
5
4.5
潮流変動[pu]
させる方向に制御が働くため,位相がずれたまま
の状態が継続し,同期並入がねらい通りに行えな
い可能性がある。
そこで本研究では,まず早期連系状態に戻す際
の揃速投入の重要性について調べることにした。
<3.2> 揃速制御検討モデルの考え方
モデ
ルは負荷周波数モデルと同じ要領で作成する。そ
こへ交流連系線を追加し,適当なタイミングでそ
れ を 投 入 す る た め に , ス テ ッ プブ ロ ッ ク’Tie
Closing Signal’を設定する。相差角を求めるため
に,相差角計算ブロックを交流連系線に接続する。
揃速制御を適当なタイミングで投入するための設
定 は , ス テ ッ プ ブ ロ ッ ク ’Frequency Reference
Setting’で設定する。そのモデル図は図 2 に示す。
<3.3> 検討方法
両系統の位相差が 0 度か
ら 20 度ずつ 180 度まで,それぞれのタイミング
で両系統を連系投入した場合の潮流変動の最大値,
及び周波数変動の最大値を求めることにした。そ
の結果は図 3,4 に示す。
4
3.5
3
2.5
2
0
50
100
相差角[deg]
150
200
0.1241
Load A
図 3 潮流変動
Standard Deviation A Frequency A STD
Out1
1
In1
1
Out1
omega A[pu]
10s+1
2*pi*60
delta A[pu]
s
Randam Load
Rotor Inertia & Load A
Tie Closing Signal
1.4
System A
300/5100
Frequency
1.2
Reference
Ground
60
Shifting
300/82500
Switch
1
周波数変動[Hz]
K
HVDC Gain Kr
Out1
In1
Out2
Tie line Power
HVDC Power
Obsever
0.5
Synchronizing
In1
Torque
Coefficient
Out1
difference
Phase Difference
Out1
In1
Out1
Load B
1
1
2*pi*60
10s+1
omega B [pu]
s
delta B [pu]
omega B [pu]
In1
Out1
Standard Deviation B
図2
A系統
B系統
0.6
0.4
Rotor Inertia & Load B
System B
60
0.8
0.04989
Frequency B
0.2
揃速制御検討モデル
0
0
50
100
相差角[deg]
図4
周波数変動
4. 検討結果
図 3 から相差角が大きくなるにつれて,潮流変
動が大きくなることがわかり,比例の関係にある
のが分かる。
また図 4 から相差角が大きくなるにつれて,A
系統の周波数変動は大きくなっており,B 系統の
周波数変動も僅かではあるが大きくなっているこ
とがわかる。B 系統の周波数の変動がこのように
僅かであるのは,A 系統に比べ B 系統がはるか
に大規模な系統であることが原因だと思われる。
文
[1]
[2]
[3]
[4]
150
200
献
A. H. M. A. Rahim, I. M. El. Amin, “Stabilization of a high
voltage ACDC power system”, IEEE Transactions on Power
Apparatus and System, Vol. PAS-104, No. 11, November 1985
M. Sanpei, A. Kakehi, H. Takeda, “Application of multi- variable
control for automatic frequency controller of HVDC transmission
system”, IEEE Transactions on Power Delivery, Vol. 9, No. 2,
April 1994
道上勉, 大石孝穂, 「負荷変動モデルと BTBの AFC 解析」,
電気学会論文誌, Vol. 120-B, No. 7, 2000
林政義, 望月宏悦, 野呂康宏, 苅部孝史, 古川伸比古, 高木
喜久雄, 「南福光直流連系設備における周波数安定化制御
の検証」, 電気学会論文誌, Vol. 121-B, No. 9, 2001