中食2025 - 日本惣菜協会

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中食 2025
中食・惣菜産業の将来を展望する
「刊行に寄せて」
ありがとうございます。
少子高齢化、女性の社会進出、単身世帯の増加を背景に、惣菜産業は今や8兆 7,000 億
円を超える大きな産業に成長してまいりました。
おかげさまで 2014 年に一般社団法人日本惣菜協会は創立 35 周年を迎えることができ、
会員(賛助会員含め)も 421 社( 2015 年 2 月現在)と社会的に評価いただけるまでになり
ました。期待の大きな反面、社会的な責務も大きくなってまいりました。
先人は、こうした成長を予見し業界全体の健全な発展を期して日本惣菜協会を発足さ
せ、特に人材育成に注力して「惣菜管理士資格制度」の礎を築いてくださいました。今や
2万名弱までの方々が食品産業で活躍されています。さらに、デリカアドバイザーやホー
ムミールマイスターの教育事業や HACCP 支援、近々では、外国人技能実習制度の「惣菜
製造業」職種認定の実現も見込めるまでになりました。あらためて先人の英知と関係各位
のご協力に心より感謝を申し上げる次第です。
「世界に広げよう SOUZAI 文化・地域(惣菜)を究めよう・健康に役立とう」をテーマ
に掲げて協会活動を進める下で、アジアでの SOUZAI の人材育成や和食の世界文化遺産
指定、本年開催のミラノ万博への連携や、初午いなりイベント推進での地域惣菜文化への
取組み、また健康な惣菜への意識高揚なども年々進化しており、既存の惣菜概念の枠を超
えた「SOUZAI・中食」の発展速度も加速していると感じています。
今般、35 周年記念事業として、惣菜産業の新たな社会的役割を見据え、10 年後の中食・
惣菜産業の課題や方向性を探り、業界指針となるような「中食 2025 」の策定をすること
にいたしました。
2013 年9月に「惣菜産業 2025(仮)」準備委員会を立ち上げ、その後、一橋大学名誉教
授の片岡寛先生に委員長をお願いし、さらに中央大学商学部教授の木立真直先生と高千穂
大学大学院教授の新津重幸先生のお二方に各部会長をお願いし、中食 2025 検討委員会と
して白熱した議論を積み重ね、多くの検討会委員の皆さまと執筆者の先生方に甚大なるご
協力を頂戴し、このたび発刊の運びとなりました。誠にありがとうございます。
おかげさまで「中食 2025 」は、これからの中食「SOUZAI」の行く末を見据えた、素
晴らしい内容にまとまりました。中食「SOUZAI」を利用される多くの消費者の皆さまを
はじめ、産業を支える多くの事業者のお役に立つ一冊と信じております。
一般社団法人 日本惣菜協会会長 堀 冨士夫
Japan Meal
Replacement Association
一般社団法人
日本惣菜協会
─第 1 章、第 2 章─
「変貌するライフスタイルと中食産業の基本課題」
1.はじめに ─
『中食産業 2025 』前半(第 1 章、第 2 章)の課題 ─
本書の課題は、2025 年の中食産業のあるべきビジョンと戦略を提示することにある。日本の社会
と食ライフスタイルは 2025 年に向けてどう変化していくのか。食関連産業においてその地位を高め
つつある中食産業は、この変化にどう対応しつつ、かつどうこれをリードすべきなのか。この点につ
いての多面的な考察が行われる。
前半(第 1 章、第 2 章)は、日本社会や経済、食ライフスタイル、食関連産業の「過去・現在・近
未来」を踏まえつつ、中食産業のビジョンと社会的責任を含む基本課題を提起する。すなわち、業態
革新や情報化、グローバル化といった現代的変容の下での中食事業者の経営・マーケティング戦略に
焦点を当てたミクロの分析を展開する後半(第 4 章、5 章)に対し、歴史的かつマクロ的なアプロー
チを試みるものである。
前半には、各分野の専門家である中村丁次氏(神奈川県立保健福祉大学学長)
、江原絢子氏(東京
家政学院大学名誉教授)
、松原豊彦氏(立命館大学副学長)
、大浦裕二氏(東京農業大学国際食料情報
学部教授)
、戸田裕美子氏(日本大学商学部専任講師)による論稿ならびに拙稿が収められている。
これらを俯瞰しながら、本書前半の内容を要約的に紹介したい。
2.変貌を遂げる日本社会と食ライフスタイル
2025 年問題と人口動態の変化
すでに超高齢社会を迎えた日本は、2025 年には団塊の世代が 75 歳以上の後期高齢者となり、より
一歩、深化したステージに入る。65 歳以上の高齢者のうち、要介護者の割合が一気に高まる後期高
齢者が過半を超える。一方、少子化により現役世代は大きく減少し、総人口も着実に減っていく。
2010 年に 1 億 2,806 万人まで増加した日本の総人口は 2025 年には 700 万人以上の減少が見込まれる。
戦後、曲がりなりにも福祉国家の実現を目指してきた日本社会が医療や介護などの社会保障負担の激
増という深刻な事態に直面するのが「 2025 年問題」である。
食についていえば、人口の減少により日本の食市場の縮小が予想される。しかし、世界的には人口の
爆発的な増加が続き、世界の食料需要は急増するであろう。食料をめぐる争奪戦が熾烈化する可能性
は否定できない。
女性の就労化と単身世帯の増加
最近における日本の社会構造の特徴的な変化の1つは女性の就業化である。高度経済成長期に増加
した専業主婦は、1970 年代の低成長経済への移行後、減少に転じ、90 年代にはむしろマイナーな存
在となり共働きが一般化した。2013 年4月には 15 ~ 64 歳の生産年齢の女性の就業率は 62.5%と過去
最高を更新した。今後とも労働力不足が懸念される中、女性労働力への期待はより高まるであろう。
いま一つの変化は一人暮らしの増加である。1980 年代に 4 割を超えていた核家族(夫婦と子)世帯
が 2010 年には 3 割を下回り、2025 年の予測では 23%まで低下する。これに対し、単身世帯割合は
1980 年の 20%から 2010 年の 32%に高まり、2025 年には 36%に達するという。
高齢化や女性の就業化、単身世帯の増加は、食の外部化を加速化させる。この変化には所得・価格
─2─
要因よりも、時間要因が強く作用する。食の外部化は、時間価値を重んじる主婦層にとっては積極的
な意義をもつ。単身者にとっては、みずからの食を維持していく上での「必需財」的なツールにほか
ならない。今後、多くの加工食品や生鮮食品への支出額が押並べて減少する一方で、調理食品いわゆ
る中食市場は着実な増加を示すことになる。
ただし、単身者の食のあり方には、若者での「朝食抜き」や、高齢者における単調な食事などの問
題点が指摘される。食の外部化によって生じる問題もある。
デフレ脱却を目指す日本経済
日本経済は 1990 年代初頭にバブルが崩壊し、長期のデフレ局面に入った。物価の持続的下落の下
で企業業績の悪化、賃金引下げによる消費者の購買力の低下、そして低価格競争の激化という負のデ
フレ・スパイラルが常態化した。所得格差の拡大も進んだ。高まる高所得者層の購買力が実体経済の
活性化に寄与するところは小さい一方で、子どもを含めて十分な食を摂ることのできない層が拡大し
ている。1990 年代半ば以降おおむね上昇してきた子どもの相対的貧困率は 2009 年には 15.7%となっ
た。近年、日本でもフードバンクなど貧困者の食を支援する活動が広がりをみせる。
もっとも、現代の消費市場の縮小が非所得要因による面も大きい。お金があっても時間がなかった
り、立地的な制約で消費が顕在化しない現象が増えている。買い物弱者問題はその一例である。また、
20 歳代では 4 人に 1 人が朝食をとらず、その市場規模は1 兆 5 千億円にも達するという問題もある。
生活ライフラインとして食の供給
成長一辺倒の時代は終焉し、地方の都市や過疎地、高齢化した郊外などでは、いかにして食供給を
含む地域の生活インフラを守っていくのかが課題となっている。青森市や富山市におけるコンパクト
シティ化は街をダウンサイジングする戦略である。北海道赤平市では、生協が地元バス会社と連携し
買い物バスを運行し、地域住民の買い物条件の確保に成功している。その際、高齢者や単身者に対し
ては、生鮮食品よりもむしろ弁当などの中食食品を提供することが重要になっている。
春夏秋冬と風光明媚な自然をもつ日本は、甚大な自然災害に繰り返し遭遇してきた「自然災害大
国」でもある。直近では 2011 年の東日本大震災が日本列島に甚大な被害をもたらした。必需財であ
る食のサプライチェーンも寸断された。食関連事業者は、災害時であっても地域住民に食を供給し続
けるみずからの役割の重さを再認識することとなった。
21 世紀に入り商品の倫理品質を重視する消費者が増えつつある。中食食品においても、環境や資
源、労働者福祉、生産や地域の持続性などの倫理的価値を備えた商品・サービスの提供が問われるこ
ととなる。この取組みは、長期的に食供給のサスティナビリティ(持続可能性)を高めることにな
り、食関連事業者としての社会的責任を果たすことになる。
3.食の外部化と食品加工業の発展
農から食にいたる付加価値形成と食の外部化
日本の農業・食関連産業の構造をみてみよう。2005 年の食用農水産物生産は国内が 9.4 兆円、これ
に 1.2 兆円の輸入を加えると 10.6 兆円となる。これが消費者の飲食消費額では 73.6 兆円と約 7 倍にな
る。つまり、生産者の手を離れて消費者の手元に届くまでに、食関連事業者によって多くの付加価値
形成がされていることがわかる。
最終飲食消費額について 1975 年から 2005 年の変化をみると、生鮮品比率が 31.5%から 18.4%に大
─3─
幅に低下する一方で、加工食品は 45.7%から 53.2%に、外食は 22.7%から 28.5%にその比率を高めて
きた。この外食に中食(調理食品)を加えた食の外部化率は 42.7%と 4 割を超えるに至った。
食品加工業の発展と農業との関係
食品加工は、食品の保存性や可食性、簡便性、嗜好性を高め、食生活の改善に大きく貢献してき
た。20 世紀とくに戦後は、大規模メーカーが成長していった。食品加工業の生産額は 2005 年に約 30
兆円を誇り、食関連産業における最大部門の位置を占めている。
農水産業にとって、食品加工業は最大の販路である。2005 年農水産業国内生産のうち直接消費向け
の31.7%に対し、加工業向けは61.6%に達する。食品加工業にとっても、輸入の増加がみられるものの、
依然、国産農水産物が原料調達の約 4 分の 3 を占める。食の安全・安心、フード・マイレージが益々
注目される中で、食品加工業にとっても国内農林水産業との連携は重要な課題の1つとなっている。
冷凍食品の普及と最近の展開
高度経済成長期以降、食生活の中に急速に受け入れられていった食品は消費者に利便性を提供する
冷凍食品であった。これは、物流におけるコールドチェーンをはじめ、小売店の冷凍ショーケース、
そして家庭での冷凍庫の普及という基盤が前提条件であった。
冷凍食品は家庭用と業務用に大別される。1970 年代後半から伸びていったのは外食・中食産業向
けの業務用市場であった。1980 年代後半には、冷凍食品メーカーの中国をはじめとするアジアへの
進出が本格化していった。しかし、近年、輸入調達は、安全・衛生管理や残留農薬問題のほか、為替
リスクやカントリーリスク、長期的には現地に生産コストの上昇などの課題が生じている。グローバ
ル戦略における適正配置問題がある。
冷凍食品をめぐる最近の新たな動きでは、2014 年 11 月にイオンが自店内にフランスの冷凍食品ス
ーパー「ピカール」のコーナー展開を始めたことが挙げられる。2016 年には路面店の展開も視野に
入れており、調理に手間のかかる高級冷凍食品の提供を通して、日本の家庭用冷食市場に一石を投じ
る可能性がある。
4.中食産業の発展プロセス
惣菜の長い歴史
中食産業の出発点である惣菜業の歴史は古い。江戸時代には、団子や餅菓子などを振り売りする商
人や、煮物、すし、麺類などを屋台で販売する業者が存在した。大正期には、カレーライスととも
に、とんかつ、コロッケが「三大洋食」として普及し、大都市を中心に惣菜業者も増加していった。
だが、惣菜が大衆に広く普及するのは 1970 年代以降のことである。
中食産業化・第1期 中食産業への新規参入
1970 年からの外食産業化を牽引したのはファミリーレストランとファストフードであった。持ち帰
りが主体のファストフード店は、実態としては中食ビジネスである。
「速い」
、
「おいしい」
、
「安い」な
どの価値を提供し消費者の支持を獲得した事業者は、チェーン化による多店舗展開を実現していった。
この時期、元来、生鮮食品と加工食品を中心的な品揃えとするスーパーで、揚げ物やポテトサラダ
などの惣菜が販売されるようになった。また、フランチャイズ展開をはじめたコンビニエンス(CVS)
では、おにぎりなどの即消費型食品が必須定番とされた。
─4─
中食産業化・第2期 中食産業の本格的発展
1980 年代中食産業は本格的な成長期を迎え、中食という言葉も使われるようになった。持ち帰り
弁当チェーンや回転ずしチェーンが数多く新規参入し、80 年代後半には宅配ピザのチェーン展開も
始まった。
CVS 各社がこぞって中食食品の品揃えを強化していった。最大手のセブン - イレブン・ジャパンで
は 1980 年代初頭に温度帯別に物流を統合し、80 年代後半には米飯類の 1 日 3 回配送をスタートさせ
ることで、中食の商品力を高めた。これに歩調を合わせる形で伸長していったのが CVS ベンダーで
あった。
中食産業化・第3期 多様な展開と MS の提唱
1990 年代初頭にバブル経済が崩壊すると、外食を含む食市場は頭打ちに転じていった。それを横
目に、中食事業者が百貨店の食品売場にテナント方式での出店をはじめ、いわゆる「デパ地下」ブー
ムが巻き起こった。
スーパーでも惣菜部門を本格化する動きが広がっていった。その契機に 1996 年米国 FMI 大会で
MS(Meal Solution)が提唱され、ウエグマンズなどの先進的スーパーが日本に紹介されたことが挙
げられる。それは、スーパーは単に食品や食材を販売するのではなく、レディ・トゥ・イート(Ready
to eat)の調理食品を提供しなければ、競争に生き残れないとの警鐘だった。
2000 年代に入ると、高齢者を主要顧客とする食事の宅配サービス業の立ち上げがみられるように
なった。生協の弁当宅配事業やオフィスでのランチの訪問販売など、多様な新規参入者や新業態の展
開が続いている。
中食産業の重層的なサプライチェーン
こうして現在の中食産業は、多種多様な業種・業態が併存するにいたっている。中食産業の多様性
と複雑性は、店頭や宅配の背後にあるサプライチェーンについても妥当する。
中食サプライチェーンを大別すると2つのタイプに分けられる。地域の食材を用いて調理・製造
し、地元の消費者に提供する小商圏での地域密着型ビジネス・モデルである。これに対し、全国や海
外から調達した食材を大規模工場で集中調理し、広域の多数の店舗で販売するマス・マーケティング
型のビジネス・モデルがある。
スーパーの中食品揃えにあたっては、①イン・ストア調理、②専用工場での集中調理、③調理済み
食品の購入、という3つの方式がある。これらは、中食食品の商品特性に応じて使い分けられ、また
品揃えが拡大するほどアウト・ソーシング比率が高まることになる。これに対し、CVS では、地域
別に中食製造業者を専用工場化し、商品開発から製造、供給、場合によっては利用原材料にいたるプ
ロセスを垂直統合的に管理する仕組みが構築されてきている。
後方支援機能を果たすメーカー・卸
加工食品メーカーが供給する業務用食品は、すでに中食事業者を支えるバック・システムとして不
可欠の重要な位置を占めている。これらのメーカーは、冷凍や包装などの技術革新を基礎に、保存性
や味覚など革新的な新商品の開発・提供に継続的に挑戦している。
加工食品卸の一般的な業務は、様々な食材を中食事業者に販売する機能にある。しかし、中には、
部分的とはいえ、中食食品の製造を内製化しているケースもある。最近、注目されるのは、中食事業
─5─
者にメニューを提案し食材や食材キットを供給する、いわばコーディネート機能を果たす戦略であ
る。中食部門を強化したいものの、資金力やノウハウの蓄積が不十分な中小スーパーにとって、きわ
めて魅力的な提案となっている。
原料調達と産地との連携
中食事業者の食材調達は、かつては国内調達が主体であった。しかし、1990 年代前後から、大規模
な中食チェーンを中心に、大量の原料を安定的かつ安価に調達するため海外調達ルートを開拓する動
きが広がっていった。もっとも近年は、国外調達の価格メリットが調達先国でのコスト上昇により縮
小しつつあり、安全性やトレーサビリティ確保にも課題が残る。これに対し、国内調達は、鮮度の維
持や物流費削減、あるいはトレーサビリティの確保の容易さなどのメリットが再評価されつつある。
食材調達の選択は中食事業者の製品戦略に大きく依存する。高鮮度や高品質を訴求する中食事業者
では、国内生産者との契約方式で調達した一定の仕様の食材を自社工場で半加工処理し最終調理を店
舗で行う「自社一貫生産」方式を採用している。また、地産地消や伝統的料理の継承の観点から、地
域の農林漁業者、JA や JF との連携が重視されつつある。
画一的な価値からの脱却と価値提案の深化
中食事業者によって、提供する中食食品の価値は大きく異なる。元来、惣菜にとって「つくりた
て」の魅力は最大の価値であった。現在も、デパ地下への出店にあたり店内厨房を必須の条件とし、
「つくりたて」の価値を自社のプライオリティとする事業者がある。
これに対し、最近、注目されるのが CVSなどで品揃えが広がりをみせるレトルトパウチ惣菜であ
る。賞味期限の長さに加え、個食パックによる使い勝手の良さが支持され、
「プラス一品」や「プチ
ぜいたく」など様々な食シーンで利用されつつある。
個々の中食商品がもつ価値のバラエティは、消費者の多様化する千差万別なニーズにそれぞれ呼応
するものである。保存性を重視する消費者や場面がある一方、それよりも「つくりたて」の価値を最
優先する消費者や場面がある。欠品を低サービスとみる消費者がいる一方、希少性と歓迎する消費者
もいる。現代の多様化する食の市場では、唯一無二の画一的な価値は存在しない。現代の中食事業者
は、多様化する消費者ニーズを踏まえ自社のポジショニングを明確にし、提供する独自の価値をより
深化・進化させる挑戦を求められている。
5.日本の食文化と歴史的変遷と中食の位置
飽食の時代と食の不安定性
人類の歴史のほとんどは、食料の生産力が人口を規定する食料不足の時代であった。だが、今日の
日本はすでに供給過剰の時代へと移行した。日本の食生活は、平均としてみるかぎり「飽食の時代」
にある。これに伴い、すべての食料の生産・流通主体は、プロダクト・アウトからマーケット・イン
への転換を迫られることになった。消費者は、平常時においては食を自由に選択できる時代を迎えた
のである。
もっとも、日本における豊富な食料供給はあくまで輸入を前提としている。日本の食料自給率(カ
ロリーベース)は 2013 年に 39%にとどまる。フランスの 129%、アメリカの 127%、ドイツの 92%と
いった海外の先進国の食料自給率と比べても、その低さは際立っている。豊かな食の基盤には不安定
性が伏在している。
─6─
食における固有性と融合性
食ライフスタイルはその国・地域の自然環境を基礎に異文化と融合しながら時代ごとに進化してき
た。日本の食における魚介類の利用は海に囲まれた国土ゆえのものである。豊富で良質な水は、だし
の文化を築き、茹でる、蒸す、煮るなどの調理法を発達させた。酒や豆腐などの製造技術は中国から
伝来したが、日本酒ややわらかな豆腐は日本独自のものである。
平安後期にはすでに、
「飯・汁・菜・漬物」という食事の基本形がみられ、今日に継承されている。
もっとも、「第 2 期成熟」段階に入った日本の食生活は様々な変容をみせる。主食については、若い
世代ほど米からパンや麺への移行が進み、食卓構成メンバーにあわせた選択行動がみられる。牛乳・
乳製品は朝食への登場が多く、パン食との結びつきが強い一方で、和洋の別では整理できない牛乳・
乳製品の浸透がみられる。
惣菜による手作りの代替
独り者の男性が多かった江戸では、当時から簡易な食べ物屋や惣菜屋が成立していた。明治以降の
東京で惣菜は広がり、忙しい商家などで食事の手間を省くために積極的に利用された。もっとも、全
国的に惣菜店が展開していくのは、第 2 次大戦後の食料難が解消され人々の生活が安定してくる
1955 年以降のことである。
高度成長期には専業主婦が増加し、食事作りは主婦の役目といった風潮が定着していった。1980
年以降、共働き世帯は増加したが、
「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という性別役割分担に関する
意識はあまり変わっていない。手作りが家族への義務という意識は根強い。また、書店に並ぶ料理本
の多さからは手作りへの関心の高さが読み取れる。
中食利用の多様なパターン
中食食品の利用は、基本的には、簡便性の価値を基礎に拡大してきている。もっとも、食卓での具
体的な利用方法には様々なタイプがある。
例えば、調理済み食品の購入量が多い消費者であっても、野菜購入量が少ない場合には、食事のメ
ニュー数が限られ、
「主食的調理食品」など食事の中核をなすメニューで調理食品が利用されている。
一方、野菜購入量も多い場合には、食事のメニュー数が多く調理時間も長く調理に積極的である。こ
のタイプの消費者は、例えば「揚げ物」は一貫して調理済み食品を利用し外部化することで、野菜な
どを使ったメニューを手作りし、食卓の品数を充実させる手間をかけている。
日本食文化の発展に向けて
2013 年 12 月和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、日本の食文化は世界的に高く評価された。
その特徴は、季節感や美しさ、長寿につながる栄養、様々な農水産物を無駄なく利用し尽くす調理法
などにある。さらに、伝統料理として地域の行事と結びつき、家族や地域の絆を深める役割も軽視で
きない。
高度成長期以降の大量生産・大量消費の時代を迎え、日本の伝統的な食文化が後退してきた。だ
が、バブルの崩壊や東日本大震災などを契機に、
「自然の尊重」や「地域の絆」の価値が重視されつ
つある。改めて、日本のすぐれた食文化を見直し、これを孫や子の世代に継承していく問題意識が高
まっている。
もちろん、伝統の継承は革新を否定するものではない。一例を挙げると、乳・乳製品は、なかなか
─7─
和食と馴染まず、簡単に和食化は難しいとされてきた。しかし最近、牛乳をだしとして使うことで、
わずかな塩分でも満足度が高く、和食としての違和感がほとんどない料理が「乳和食」として提案さ
れている。今後、新しい和食の広がりが想定される。
6.健康長寿と中食産業の役割
栄養からみた食の歩み
自然界に存在する個々の食物は人間にとって必要なエネルギーと栄養素を部分的に供給するが、その
全てではない。人間は、単一の食物では生きていけないから雑食性を選択した。この雑食により必要な
栄養を摂取する必要から、人間は「栄養を考えて食べる」という宿命を背負ったのである。
かつての日本人の食は質素なものであり、多種多様な栄養欠乏症を起こしていた。日本人は現在の
ような長寿でなく、むしろ短命だった。しかし、戦後、伝統的和食に欧米食などを導入し、栄養指導
による国民の食生活改善運動が展開され、栄養のバランスのとれた現在の優れた日本食が形成され、
日本人の健康と長寿に寄与している。
過剰栄養と低栄養が混在する現在
超高齢化社会の日本にとっての課題は単なる「長寿」ではなく「健康長寿」の実現にある。このた
めには、子どもの頃から、よく動き、しっかり食べることが基本である。
日本における今日的な栄養問題は「栄養障害の二重負荷」にある。過食と運動不足により肥満など
の生活習慣病が増大している一方で、若年女子や高齢者にやせが出現し、過剰栄養と低栄養が混在す
る状態にある。こうした現象は、個人間ではなく、一人の個人においてもみられる。例えば、30 ~
60 歳までは栄養過剰を避けるメタボ対策が重要であっても、60 歳以上になると低栄養による衰弱を
防ぐためにしっかり食べなければならない。
健康な食の実現に向けての中食産業の役割
2025 年には、日本の高齢者は 3 分の1になると推計されている。高齢者にとって、調理への意欲
や技能の低下とともに、日々の食事をいかに用意するかが大きな課題となる。このことは一人暮らし
の若者などにも当てはまる。
中食産業にとって、消費者の健康と QOL(Quality of Life)の維持・向上に貢献することが求めら
れる。消費者一人ひとりでそれぞれの食をめぐるニーズや問題は異なるため、年齢や好み、必要な栄
養価に対応できるメニュー開発を行い、消費者が選択出来るような提供が求められる。各地域の食材
や好まれる味を研究し、栄養的なサポートを含めた食事の提案が必要である。そのためには栄養や調
理法の専門家との協働が必要となる。
7.2025 年の食ライフスタイルと中食産業の基本課題
食ライフスタイルにおける中食のポジショニング
2025 年には高齢化、女性の就業化や単身世帯の増加を受けて、食に対する簡便化・外部化ニーズ
はより一層高まる。とりわけ中食市場の着実な拡大が予想されている。中食産業にとってはまたとな
いビジネスチャンスにほかならない。だが、このことは中食産業に対し消費者や社会、あるいは地域
が寄せる期待がいかに大きいかを物語っている。この期待に応える事業者のみが生き残っていくこと
になる。2025 年の日本社会・地域・消費者の食の支える一環を担っていく中食産業に求められる基
─8─
本課題とは何であろうか。
やや一般化していえば、第 1 に、食による栄養確保と健康長寿の実現、第 2 に、現代的食と伝統的
食の両面での食のバラエティと文化的価値の提供、そして第 3 に、環境や資源、労働者福祉、生産や
地域の持続性などの倫理的価値に則した事業活動である。
消費者が中食に期待すること
「お惣菜」という言葉には「これで 1 品おかずが増える ・・・」という心安らぐ響きがある。一方で、
惣菜に対してネガティブなイメージを抱く人たちも存在している。
「手作りをしない罪悪感がある」
「食品添加物をとりすぎるのではないか」
「添加物の安全性が気になって買うのをためらう」
「栄養的
によくないのではないか」など挙げることができる。惣菜に関する情報は錯綜しており、適正な情報
の発信啓蒙が中食産業の課題といえよう。
中食食品のマーケティングと産業構造
中間層や核家族層が縮小し、高齢世帯や単身世帯など多様なセグメントに細分化する現代の食市場
では、成長市場期の画一的なマス ・ マーケティングはその有効性を失いつつある。個々の消費者や場
面に応じた商品提案が求められている。明確なポジショニングがあってはじめて、中食の市場創造は
可能になる。
冷凍食品に代表される新しい技術を使った利便性の高い食品が食の簡便化に貢献するところは大き
い。同時に、日本食や地方の独自の食などの伝統料理を継承することの文化的価値も重い。例えば、
地域で継承されてきた伝統食をメーカーの技術力により現代風にアレンジし、これに纏わる「物語」
とともに提案する取組みが考えられる。伝統食の提案も単なる伝統の継承ではなく、新たな革新なの
である。その際、地域の料理を守り続けてきた人々と技術者や栄養士、マーケッターとの連携が欠か
せない。
中食のこうした多様なビジネス・モデルは、当然、それぞれに適合的な企業規模や業態、組織が担
うことになる。多様なニッチの食市場への対応を持続的に行うためには、中食の産業構造は、一人勝
ちではない、棲み分け型を維持・強化する必要がある。
サプライチェーンの高度化と社会化
食関連事業者が安全で高品質の食品を適切な価格で消費者に提供するためには、原料調達から供
給・物流、小売販売にいたるサプライチェーンの統合的な管理が必須の課題となる。とくに、消費期
限が極端に短く、製造から販売までを短時間で完了しなければならない中食食品の場合、効率性のみ
ならず、商品力や安全性などの点で決定的な重要性をもつ。
もっとも、「自然災害大国」日本では、被災時であっても食を安的に定供給できる体制が求められ
る。BCP(事業継続計画)の策定とともに、食供給の公共性からも効率偏重のサプライチェーンの一
定の見直しが必要である。また廃棄などの食品ロスの削減や環境負荷の低減への対応も欠かせない。
さらには、CSR(企業の社会的責任)活動の一環として、子どもの欠食問題に対し、行政や地域の組
織と連携して食の支援活動を展開することも考えられる。地域で収益を上げる食関連事業者には地域
に利益を還元し社会に貢献する活動の実践が求められる時代を迎えている。
組織間協働と食材調達
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品揃えを拡大する中食事業者にとって、加工食品メーカーや加工食品卸の後方支援機能は今後、
益々重要になる。優れた経営資源をもつメーカーや卸との連携により、消費者の多様なニーズに適合
する中食食品を開発し市場を創造することが可能になるからである。
一方、中食事業者にとって核となる商品の調理製造技術や独自原料の調達は自社の差別的競争優位
の源泉にほかならない。差別化された食材の安定調達は競争優位性を維持していく上で不可欠である。
国産生産者との連携は、鮮度や物流費、トレーサビリティ、さらにはフード・マイレージや地産地
消への社会的関心を受けて強化されつつある。他方、近年の日本の「買い負け」現象にみるように、
輸入調達の困難性は増していく。とはいえ、国外調達には、新奇性のある食材や新たな価値の提供に
結びつく未開の産地は無限に残されている。国内外を問わず、地域の農水産業の支援と発展に貢献す
る連携関係の構築が求められている。
情報機能と食リテラシー
中食食品をはじめとする食の外部化は、消費者に食の簡便性と選択性を提供する反面、消費者によ
る食の自己完結性を低下させる面がある。消費者が中食食品を適切に、かつ安心して利用できるよう
にするには、栄養やアレルギー、食材の素性などの様々な情報の提供が欠かせない。ハラール認証も
インバウンドの消費者には必須である。
食のリテラシーは、食関連事業者と消費者の双方に求められる。究極的には、消費者自らが食に関
する知識を身につけなければ食の自律性は確保し得ないからである。そのためにも、中食事業者には
適切な情報提供とともに食教育機能を果たすことが期待される。そのための出発点は、中食産業にお
ける人材の確保と育成にこそある。
─第 3 章、第 4 章─
中食事業未来への展望 2025
1 .食ライフスタイルの変革と中食消費の動向
食のライフスタイルは少子高齢化の進展を背景に、今後、ますます「省時間」
「省労力」を求める
簡便志向は高まるだろう。そして、日本の高齢者人口は、2025 年には 30% 超に達すると予測され、
人口の減少と共にマーケットボリュームは縮小傾向にある。この 2025 年とは、団塊世代が後期高齢
者となる年代であり、こうした高齢化へのハイペースな進行も要因と言える。
つまり、マーケット自体が少子化による人口減少や高齢化による摂取量の減少で、食のボリューム
は減少傾向にある。相対的に、食市場は減少傾向にある。さらに、若年層だけでなく高齢者の単独世
帯の増加や、子育て世代に対する施策面からも女性の社会進出は増大すると考えられる。
こうした環境変化への対応は、これまでのマーケティングアプローチでは不可能と言える。ただ、
これらの事象をマイナス要因と捉えるべきではない。むしろ中食事業としては、プラス要因として捉
えるべきであろう。
少子化傾向のもと、一人の子どもにかける食のアプローチの感覚的重要度は増す。男女ともに平均
初婚年齢が高まり晩婚化が進み、可処分所得も高く子育ての環境が整う中、子どもに対する食への気
遣いは増大する。そして、女性の社会進出や高齢者の栄養問題など、食の栄養バランスや健康食への
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願望はさらに強まると思われる。
こうした環境やライフスタイルの変化から、食卓のもう一品(サイドディッシュ)としての「惣
菜」の重要性は高まると同時に、時間価値の追求の中での安心・安全な「惣菜」の要求は高まってこ
よう。さらに、こうした追及は、出来立て感の美味しさに及び、
〝冷めても美味しい〟
〝レンジアップ
でも美味しさが損なわれない〟等、サプライチェーン上の技術はさらに進化してこよう。また、盛り
合わせた「惣菜」の演出や栄養バランスの追及も、消費者のニーズに合わせアソートできる提供手法
などの進化が見込まれる。
2 .消費者に近づくアプローチの進化
高齢化の進展や女性の社会進出は、これまでのように店舗で顧客を待つ業態構造から、顧客に近づ
く業態構造への変化が求められてこよう。店舗での購入は、五感を使って実感・体感するシズル感に
影響される。しかし、ネット社会の進化によるコンテンツや宅配リーフレットの閲覧で購入する場
合、視覚のみで商品を判断している。こうした現実は、店頭と同一の商品を掲載するだけでは通用し
なくなる。むしろネット独自の商品開発が求められる。アプリケーションの進化は、同時にコンテン
ツの進化を容易とし商品の全体像だけでなく、中身や調理加工の画像を掲載することで、実感・体感
を感じさせることが可能となる。当然、宅配リーフレットにも同様な掲載内容が求められてこよう。
つまり、コンテンツやリーフレットには、
〝美味しさの秘密〟や〝美味しく食べるための食べ方の秘
密〟など、これらの実感・体感を感受させる競争となるだろう。
さらに、人口減少や高齢化の影響で進んだ過疎地域の買い物弱者への支援の一環として、移動販売
車によるアプローチが始まっている。そして、これからは単に商品を提供することに留まらず、その
場で調理し出来立てを提供するような移動販売車が全国の地方都市を駆け巡る世界が見えてこよう。
こうした試みにも、もちろん旬を意識することや栄養バランスを前提とした提供の仕方での提案は当
然のことと言える。
今後、多くの宅配事業者が「惣菜」事業に参入してこよう。宅配事業の先駆者「生協」等これまで
の宅配提供業態だけでなく、ネット事業を展開していた異業種の参入も続き、消費者に近づく中食宅
配事業の競争は激化する。
3 .情報技術の進化による購買促進の変革
様々なネットアプリケーションの進化により、これまで大手チェーンしか対応できなかった購買促
進によるアプローチが、中小の単独店舗でも簡単に提供できる仕組みが構築されよう。特に、大型店
舗に駆逐されてきた地方都市や大都市の商店街でも、こうした情報技術の進化を利用することが可能
となる。近年注目されるマーケティング手法の一つ、
「O2O(オンライン to オフライン)
」サービス
の進化は、スマートフォンアプリを通じて特典やサービスの情報を消費者に提供することで、店舗へ
の誘導促進を図り、売上拡大を助長することになるだろう。
シニア層( 60 歳以上)のスマートフォン保有率は年々拡大しており、無くてはならないツールと
して活用されてくるだろう。つまり、これからの競争はアプリケーションにどう対処するかではな
く、高速化するアプリケーションを通じてどのような実感・体感型コンテンツを提供できるかにあ
る。もはや ITは、中小店であっても有用に活用できるツールとなり、顧客データを詳細かつ迅速に
管理することで重要顧客への購買促進も可能となる。
こうしたネット活用は、消費者に近づく宅配事業や移動販売のアプローチを容易とし、多彩な日替
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わりの惣菜や弁当の提供も可能となる。つまり、中食事業者として地域オンリーワンのポジションの
確立は、ネット社会の進化でより容易となってくるであろう。
さらに、情報化の進展は “お客様の声 ”を商品や提供メニューに反映させることを可能とし、Just
in Timeな調理提供技術を進化させる。店内加工のみではなく、サプライチェーン上のアウトソーシ
ングメニューの開発技術が進むことで、安心・安全で健康な食の提供や旬を彩る季節感を取り入れた
提供も可能となる。
また、これからの宅配弁当も高齢者対応だけでなく、育児が大変な人、仕事が忙しく食事づくりが
大変な人、日頃から栄養バランスを気にかけている人、単身赴任・一人暮らしの人への提案が求めら
れ、そのメニューの多様化が期待されている。
“美味しく食を楽しむ”コトへの提供の核として、中食事業者が貢献する時代となってこよう。
4 .時間消費業態としての中食事業の役割の進展
高齢化社会の進展の中で、既にショッピングセンター(SC)は物販機能から時間消費業態として、
その役割を果たしている。特に、その地域に根差した欲求をくみ取りながら、様々なターゲット層の
時間消費欲求を満たすために、多くのテナントを導入している。もちろん、これまで地域の中食事業
者も SCに出店することによって、そのブランドを確立してきた。
しかし、高齢化の進展は、より地域に根差した時間消費業態を求めている。日常生活に必要な品を
近くて便利に購入できるのが CVSだが、モノ売りとしてはニーズに応えるものの、時間消費業態と
しては機能していない。
ところで、高齢者の朝は早く、中でも早朝からウォーキングや散歩を日課としている健常高齢者は
多く見られる。高齢者にとって遠くのスーパーより近くの CVSが人気だが、こうした高齢者がウォ
ーキングや散歩の途中で CVS に立ち寄り朝食を買い求めている。しかし、食べるのは一人住む自宅
である。ならば、CVS の店内の一部や駐車場の隅にエクステリアを設置するなど、購入した商品を
楽しめる時間消費の空間を提供することは、決して難しいことではない。こうした展開は、独立惣菜
店にも同様のことが言える。
未来型惣菜店には、高齢者の朝食のあり方の一つとして、店頭エクステリアで仲間とコミュニケー
トする姿が見られよう。その発展型として、健康・簡単メニューの提供の進化も予見できる。単に、
モノ売りの業態から時間消費としてのコト売り型の業態に脱皮する姿を予見する。地域におけるオン
リーワンの中食業態は、こうした地域独自の生活者のコト対応の拡大によって進化してこよう。
今日、幾つかの外食レストランでは、厳選された素材を用いた料理教室や誕生日イベント等、様々
なコトの提案で顧客化を図っている。こうした単なるモノ売りからの脱皮は、中食事業者にとって今
後の命題と言える。“ モノからコトへ ”、これは簡単な標語だが、地域オンリーワン中食業態として独
自の食への顧客サポートと支援を前提としたコト型業態化が求められてこよう。
5 .日本型中食事業システムのグローバル展開
既に日本型 CVS の海外進出は、チェーンシステムとして拡大してきている。もちろん、現地ニー
ズに合わせた中食メニュー開発で対応しているが、日本型おにぎりやサンドイッチ等、中食メニュー
は定着してきている。
「イオン」の SCもグローバル展開する中で、中食テナントや日本型メニューを
ベースとした展開が急速に進んでいる。
清潔で、鮮度出来立て感、サプライチェーンの進化による欠品防止策、品揃えアイテムの適時性、
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お客様への日本型フレンドリー対応、等々、日本で開発された店内加工・サービス対応やサプライチ
ェーンのシステムは、中食事業の世界的優位性を確立できるまでに進化している。これらグローバル
現地化のチャンスは、ますます進展している時代が予見される。
我が国は少子高齢化によって人口は減少するが、東南アジアや中国を始めとする新興国の成長は、
所得の向上と共に人口増は続く。日本型素材(米・パン)を含む現地生産システムの指導や確立もよ
り進化し、ASEANで日本型農産品ブランドも現地ブランドとしての地位を確立しているだろう。し
かし、イスラム教に準じたハラール食品の認証取得や、現地型味覚メニューへの変革等々、課題は山
積しているが、日本型中食事業システムの優位性はグローバル化のチャンスを拡大する。また、従業
員の日本型サービス教育や安心・安全な素材を確保するパートナーシップについても、課題はあるも
のの今後の進化と発展を予見できるものである。
日本の伝統的食文化 “ 和食 ”の無形文化遺産登録は、日本の中食事業者のグローバル化のチャンス
であり、このことは欧米先進国の進出も可能としよう。しかし、日本の食文化が国際的に評価される
一方で、現地適応化が課題となるだろう。グローバルな観点から、製品・サービスを提供する地域の
消費者ニーズを満たす適応力が重要であろう。
そして、様々な食材の加工を行なうキッチンセンター化は、店内加工の人材不足を解消し、食材の
現地化によりコスト削減が図られ、低価格で提供することを可能とする。このことは、グローバル進
出への低コスト化をも可能としよう。
6 .社会的課題の解決
「出来立てで、美味しい中食を提供する」は、事業者側にとっても、消費者側にとっても共通の命
題であり、ニーズと言える。食品スーパー・CVS を始めとする中食事業者全て、この志向を継続し
て追及する課題と言える。また、幼児・児童および高齢者に対する食育への貢献も、中食事業者の命
題となってくる。
おいしさと鮮度への要求と同時にそのおいしさをより長持ちさせたいというニーズから「常温」
「チルド」
「冷凍」
「レトルト」と製造技術が発展し、温度帯による商品カテゴリー幅が広がってそれ
に伴う製造技術の革新は日々進化している。
さらに、国内素材を活用するためには、国産の原素材を調達するだけではなく、生産協力や農・
水・畜産に対する事業支援が命題と言えよう。特に、大手中食事業者の役割は大きく、国産ブランド
化とグローバル地域での日本素材ブランドの生産育成が大きな命題となってこよう。
また、消費者からの鮮度要求に対する過度な対応で、余った食材・食品の廃棄は世界的な見地から
も大きな課題と言える。
食のライフスタイルが、中食事業者の成長に大きな役割と期待をもたらすが、そこから派生する社
会的命題の解決は、中食事業者の社会貢献への大きな役割と言えよう。
消費者の中食利用が高まる中、食の健康と安心・安全の追及、さらに食育アプローチはもちろんだ
が、廃棄物の削減や再利用等、循環型システムの構築、また正しい食の在り方の啓蒙活動、等々、中
食事業者の更なる社会的進化が求められてこよう。人材育成も単にパート・アルバイトによるコスト
削減のみを指向するのではなく、正規労働者としての従業員確保システムの確立は、中食産業として
の社会的ポジションの向上をもたらすと考える。
また、中食商品のカジュアルギフト化等、新しい生活シーンへの対応と生活創造も大きな命題と言
えよう。
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中食 2025 からピックアップ
米国追随の終焉、日本型消費革新求められる
米国と日本の人口動態
変化において、シニア構
成比に大きな違いがあ
る。米国は現時点におい
ても、65 歳以上の構成比
は 14%を切る高齢化社会
であり、日本のような超
高齢社会ではない。また、
高 齢 化 速 度 に 関 し て も、
シニア構成比が7%を超
え、14%に達するまでに
70 年程度の時間がかかる
ことなど、日本と異なる
要因は多い。そうした中
で、将来の変化を考える
時には 2025 年の日本の生活者とは一体どのような人々であるのであるかを想定する必要がある。
2人以下世帯の高齢化で変わる食卓
現在の環境は、人口は既に減少を始めているものの、総世帯数に関しては2020年程度まで増加傾向を
示し、その後減少に転じるものと考えられている。
全ての消費に関しては、個人に帰属するものと、世帯に帰属するものがあると考えられるが、食に
関しては特に世帯に帰属する部分と、世帯を構成する人員のライフステージ、構成人員に帰属する部
分が多いものと言える。
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縮む食品小売市場 SM の中で惣菜の果たす役割
総務省は、2012 年春に食品の小売市場規模の将来予測を取りまとめているが、それによると 2020
年には、14 兆円( 2012 年実績)だった SM 業態の売上規模が 10 兆円まで減少すると予測している。
伸びる「おかず」市場とは
2025 年の市場の成長性
を予測した表である。
「他
の調理食品(冷凍調理食
品除く)
」に関しては増大
となる。このカテゴリー
に含まれるものは一部の
例外はあるもののサラダ、
カツレツ、天ぷら・フライ、
しゅうまい、ぎょうざ、焼
き鳥、ハンバーグ、焼き魚、
きんぴらなどの惣菜、カ
レーなどの缶詰、レトル
ト食品などである。一言
で言えば「おかず」とい
うものである。それ以外
の 特 筆 す べ き 項 目 は、
2000 年以降長期減少傾向にある米、魚介類、果物、野菜海藻(特に生鮮野菜)が増加基調に転じるこ
とである。
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一般社団法人 日本惣菜協会とは
一般社団法人日本惣菜協会は創立 35 周年を迎えた
「中食」産業の中核となる全国規模の業界団体です。
業界の発展と課題解決の為に活動しています!
★ 400 社を超える会員企業 ★
■正会員(惣菜の製造及び販売をする企業)
→惣菜製造卸、惣菜製造小売、など
■賛助会員(中食産業を応援して下さる企業)
→食品、調味料、包材、設備等のメーカー、流通、卸など
食の安全・安心に貢献する教育事業
惣菜の製造・品質管理・流通に必要な知識を修得
惣菜の製造・接客に必要な知識を修得
ホームミールマイスター
食生活や食文化などを食全般の基礎的な知識を修得
入会などのお問い合わせは下記へご連絡ください。
(内閣府認可)
一般社団法人 日本惣菜協会
〒102-0083 東京都千代田区麹町 4-5-10 麹町アネックス 6F
TEL: 03-3263-0957 / FAX: 03-3263-1325 / e-mail: [email protected]