第2回講義メモ

15 年度「比較経済史」第2回講義 Resume
近代市場経済の成立ー中世における「商業の復活」と「地理上の発見」
2015/04/11
(はじめに)
11 ~ 12 世紀の西ヨーロッパにおける「商業の復活」と、15 世紀末の2つの「地理上の発見」に伴う近
代市場経済の成立と、世界的規模での貿易の展開。特に、ポルトガルによる海路による「東方貿易」と、
スペインによる「新大陸貿易」は、封建制システムから資本主義システム(I.ウオラースティンによると、
「古代帝国システム」から「近代世界システム」)への移行の転機となった。
Ⅰ.「商業の復活」
4 世紀末(395 年)にローマ帝国が二つに分裂し、5 世紀後半(476 年)の西ローマ帝国の滅亡によって古
代奴隷制時代は終わる。それに代って北方からゲルマン民族がヨーロッパに南下して、8 世紀にはフラン
ク族がフランク王国を形成する。ここに中世封建社会が始まるのであるが、西ローマ帝国の滅亡以来の混
乱で貿易は途絶え、併せて封建社会は基本的に自給社会であったので西ヨーロッパは自給経済。貿易はビ
サンティン帝国(東ローマ)首都コンスタンティノープールを中心に細々と行われていた。
ところが封建制社会の安定と共に 10 ~ 11 世紀西頃西ヨーロッパに二つの貿易圏(地中海貿易圏・北海
=バルト海貿易圏)が復活する。それがコンスタンティノープール(イスタンブール)を挟んでアラビア商
人を介してインド、中国など「東方貿易」と結びついて、ヨーロッパ世界と東方世界が陸路を通じて結び
つき、「商業の復活」となった。
しかしながら、15 世紀後半のトルコ勢力の地中海進出と 1453 年コンスタンチノープル陥落によって地
中海を中心とした中世の世界貿易は一つの幕を閉じることになる。その後、2つの「地理上の発見」によ
って、「東方貿易」と「新大陸貿易」が始まり、世界的な規模での貿易が始まることになる。
1、遠隔地間商業の発展ーヨーロッパにおける2つの貿易圏の成立
1)、地中海貿易:11 世紀初頭の十字軍遠頃から地中海沿岸都市国家商人を中心に活発になる。
2)、ハンザ貿易: 10 世紀末頃からバルト海を中心にドイツ商人が活躍。
2、南北商業を結ぶ「国際商業都市」
(14 世紀)シャンパーニュ→(15 世紀)ブルージュ→(16 世紀)アントウエルペン
主な取引商品①地中海貿易によってイタリアに集まるオリエンタル・グッズ(特に胡椒などの香料)②フラ
ンドルとイタリアなどの都市で生産された上質の毛織物及びその原料であるイギリス・スペイン産の羊毛
③北欧の魚類(鯡と鱈)、毛皮、蝋、木材④南欧のぶどう酒、塩⑤内陸各地の織物、鉱産物(銀と銅)や金物
(武器)、穀物、染料
3、「中世の世界経済」(レーリヒ)あるいは「フッガー家の時代」
中世のヨーロッパ貿易と東方貿易を結ぶ重要な商品は「銀」であった。銀を産する南ドイツはこれととも
に繁栄し、15 世紀は「フッガー家の時代」と呼ばれる。
ドイツのフッガー家、イタリアのペルツィ家、バルディ家、メディチ家などはヨーロッパ中に商業・金融
業の網をはりめぐらして、貿易の繁栄をさせた。
4、中世商業の限界
*地中海貿易圏→トルコ帝国の地中海への進出。東方貿易の途絶。
*北海=バルト海貿易圏→ 15 世紀に入りオランダ商人はライバルとして登場。イギリスやロシアの重商
主義的貿易政策によりハンザ商人の特権剥奪。各地の商館も 16 世紀頃から閉鎖に追い込まれた。
Ⅱ.「地理上の発見」とそれに伴う「商業革命」⇒世界的規模での市場経済の出現!
スペイン、ポルトガルが東方貿易に参入出来たのは、15 世紀後半におけるトルコ人勢力の進出と 1453
年のコンスタンティノプールの陥落に伴いイタリアのジェノバ系商人が活動範囲を地中海西岸に移したこ
とによる。
1、ポルトガルによる「東方貿易」と「新大陸貿易」
1385 年:ジョアン1世(在位 1383 ~ 1433 年)ヨーロッパで最初に絶対王政成立
1394 ~ 1460 年:ヘンリー航海王子による探検時代
1415 年:モロッコの侵略、以後マディラ諸島、カナリア諸島、アゾレス諸島など大西洋の島々を支配下
におく
1)、アジア進出
1498 年:バスコ・ダ・ガマ喜望峰周りでインドカリカッタに到着
1515 年までホルムズ、ゴア、マラッカといった(インド)占領
1543 年:ザビエル日本に到着
1557 年:マカオに居住許可
{ポルトガルがアジアの国々を征服出来た背景には、絶対王政による国家的な軍事力と、火砲の優越が上
げられる}
[貿易商品]
輸出:金、銀、銅、毛織物
輸入:胡椒、シナモン、ナツメグ
その他にも、マカオを拠点に、そこで絹織物や生糸、陶器を仕入長崎の商館で銀と交換し、その銀で持っ
てアジアの香料を買い付けヨーロッパで売るという「三角貿易」にも従事した。
2)、アメリカ大陸への進出
1500 年:ペドロ・アルヴァレス・カブラル、「ブラジル」バイア州ポルト・グレーセ島到着
1532 年:サン・ヴェインテ植民地建設
1532 年:カピタニア制の成立(封建的土地制度)⇒ファゼンダ(大土地所有制)
1570 年:アフリカから砂糖生産地帯へ労働力として黒人奴隷の輸入が本格化!
1580 年:スペインによるポルトガル併合(1640 年には再独立)この頃から、スペインやオランダがブラ
ジルに進出し始める
1702 年:イギリスとの間に「メシュエン条約」を結び、貿易権を奪われる
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[貿易商品]
輸出:毛織物
輸入:ブラジル木(染料)、砂糖、タバコ
3)、ポルトガルの衰退
16 世紀の世界貿易において国際的中継都市となていたのは、スペイン領の「アントウェルペン」であっ
た。ポルトガルは、東方貿易・新大陸貿易ともに拠点を築いていたが、世界貿易を支配することが出来ず、
次第に衰退していった。ついに、アントウェルペンを抜くことが出来ず、さらに中継貿易に徹したため国
内に生産的な基盤を持たなかった。毛織物産業の欠落と、銀生産の不在。
2、スペインによる「新大陸貿易」
1)、 スペインの領土拡大
1492 年イザベラⅠ世による国家統一:1519 年スペインのカルロス1世は、同時に「神聖ローマ帝国」(
カールⅤ世を襲名)を継承し、スペインはネーデルランド・ドイツを含むハプスブルグ帝国と合体された。
1580 年にはポルトガルをも併合して、イベリア半島を支配するとともに、東方貿易を支配しポルトガル
の植民地を継承した。こうしてスペインは16世紀空前の大帝国を形成する。
2)、 1492 年コロンブスの新大陸発見
[銀鉱山開発とヨーロッパへの輸入増大]
1545 年ペルー・ポトシ銀山発見
1546 年以降メキシコ北部・ツァカテスその他で有力銀山発見
1560 ~ 70 年代水銀アマルガム精練法と水力砕石機の導入
1503 ~ 1660 年(約 160 年間)1,600 万㌔(当時ヨーロッパ銀保有量の 3 倍) がセビリア港に輸入されたと言
う(1580 年代以降年間 20 万キログラムの銀が流入)→価格革命・インフレーションの引き金になった。
3)、国際貿易におけるスペインの占める役割
①東方貿易においてはヨーロッパ産の「毛織物」は好まれず、唯一「銀」が取り引きの対照になった。
②新大陸貿易はスペインの「毛織物」とスペイン植民地で生産される「銀」が取り引きの対象になってい
た。
③スペインは「毛織物」工業の分野でも当時の先進国であり、新大陸の「銀」と合せて、世界に君臨する
ことが出来た→ 16 世紀はスペインの覇権時代!
4)、スペイン経済の繁栄
新大陸より流入する財力(40%は王室の所有) と海軍力( スペイン無敵艦隊) で 16 世紀のヨーロッパに
君臨, さらにそれを経済的に支えていたのは 16 世紀初頭スペインに組み込まれたオランダの通商・金融
活動であった「アントウェルペン」の繁栄であった。
☆新大陸貿易はスペインの「セビリア港」・「リスボン港」(1580 ~ 1640 年はスペイン領)を中心として展
開するが、ヨーロッパからの輸出商品は「毛織物」が重要な地位を締め、スペインで毛織物工業(セコビ
ア、クエンカ、トレド)が盛んになるとともに、当時のヨーロッパ毛織物工業の先進地帯だったフランドル
・フラバンドルを要する国際的な中継市場であった「アントウエルペン」(16 世紀はスペイン領であった
が後にオランダ、今日ではベルギー領である)。
5)、 16 世紀末済的衰退の原因
*スペインは 1560 年代を頂点に以後衰退を始める。
①人口の減少:16 世紀末~ 17 世紀末に人口は 5 分の1程度減少
②価格競争の不利: 新大陸から銀の流入に伴う物価と賃金の上昇のズレ(実質賃金の下落)がオランダ・
イギリスなどのヨーロッパ諸国(物価上昇→賃金・地代のラグ→利潤上昇(利潤インフレ)に有利に展開し
た。所謂「ハミルトン・テーゼ【1848 年マルクス『賃労働と資本』、1930 年ケインズ『貨幣論』でも同様
の指摘】この時期イギリスは飛躍的に工業力を付けた(資本家の台頭!)
③ギルド制の弊害: 蘭・英の毛織物業者に対して不利
④政策の無能と財政破綻: 領土の拡大、戦争の連続、国民への増税
1581 年:オランダの独立、1585 年:アントウェルペンの陥落、1588 年:スペイン無敵艦隊イギリスに破
れる!
スペインがオランダ・イギリスに追い抜かれたのは、国内に工業の生産基盤を持たなかったことである。
《参考文献》
F.ブローデル『地中海(1)~(5)』(藤原書店)⇒コンメンタール本が多数出ている
高橋理『ハンザ同盟―中世の都市と商人たち』(教育社歴史新書)
【HP 開設のお知らせ】
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