画像の見方

会員制 隔月刊誌
特集
看護実践につながる
画像の見方
創刊号 記事見本
企画・編集・監修 質保証コーディネーター
社会医療法人医仁会 中村記念病院
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師
久松正樹
まずは5枚のスライスと
5つの画像の種類を覚えよう
●脳画像に隠れている錘体路をイメージする。
●画像は難しく考えない。特徴的なシンボルをみつけるところからスタートする。
●画像の種類によって,みるべきポイントが分かってくる。
函館脳神経外科病院
SCU 主任看護師
脳卒中リハビリテーション看護
認定看護師
山田拓也
2006年医療法人社団函館脳神経外科病院入職。
2012年大阪府看護協会脳卒中リハビリテーショ
ン看護認定看護師教育課程修了。2013年脳卒中
リハビリテーション看護認定看護師資格取得。
「画像の読影は医師が行うもの」
,そんな考え
したらよいのか分からないことも多いと思われ
が一昔前では当たり前でした。もちろん診断す
ます。そこで本稿では,多くの画像の中から5
るのは医師ですが,脳はどんな状態にあるのか
枚のスライスをみつけることを第一の目標にし
外部からみることのできない頭蓋内の状態をイ
ます。また,画像を覚えるのと同時に,運動神
メージするために,CTやMRIなどの画像は多
経伝達路である錐体路を提示していきながら解
くの情報を与えてくれます。
剖学的要素をちりばめて説明していきます。
脳疾患は症状が多彩であり,機能局在も複雑
まず覚えるのは,①中心溝レベル,②ハの字
で,患者に現れている症状の理解を難しくして
レベル(脳室の天井),③基底核レベル,④脳
います。一方で,その奥深さが脳の看護の魅力
幹レベル(中脳)
,⑤小脳レベルのスライス5
でもあります。脳疾患患者の症状を理解するた
枚です。これらは,脳の主要な構造が描出され
めには,神経学的所見を理解し観察することが
ており,また病巣が多い部分でもあります。こ
重要であり,かつ基本ではありますが,
「みえ
れらの5枚の共通点は,錐体路(運動神経の通
ない症状を予測する」には,看護師も画像読影
り道)を確認できることです。
の基礎を知ることが重要であり,症状の理解に
も役立ちます。
錐体路の位置関係を
5枚のスライスで理解する
本特集では,脳画像の見方について,また脳
画像1は冠状断(Coronal:コロナール)と
画像を活用した看護実践事例を通じて臨床での
言われ,平面で切断している画像です。ペン
ケアを行う上でのアセスメントの指標となるよ
フィールドの運動野は画像1のような位置関係
うに解説し,得られた情報から何を読み取るべ
になります。冠状断でみると,ペンフィールド
きかを考えられることを目標とします。
の運動野がよく分かります。
学習編
画像からみえない症状の
予測が可能に
錐体路は中心前回からスタートします。中心前
回からはその局在部より無数の神経線維が伸び,
まずは5枚のスライスを覚える
やがて束になることがイメージできます。この錐
脳の画像を見慣れないうちは,多くの画像の
体路の位置関係を5枚のスライスから理解できる
中からどの画像をみたらよいのか,どこに着目
ようになれば,臨床で皆さんが「なぜ上肢に麻痺
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1
画像1●運動神経(錐体路)の走行
が出ているのか?」
「麻痺はよくなるのか?」と
いった疑問を解決するのに役立つと思います。
一次運動野の
「手」
錐体路については,脳の運動を司る大切な神
経経路としてご存じかと思います。例えば,口
の場所にある上位運動ニューロンの場合,ここ
放線冠
から出ている運動線維は,下降していくと神経
核のある橋(きょう)にたどり着きます。その
内包後脚
橋に下位運動ニューロンがあり,口を動かす筋
大脳脚
肉とシナプス(神経細胞が別の神経細胞と接し
橋
て活動電位を伝える部分)をつくります。
このように,大脳皮質の命令が筋肉へと伝え
られて口が動きます。身体の各筋肉へ命令を伝
巻頭カラー
ページで
ご覧いただけます
える神経は,必ず1対1の対関係で大脳皮質の
中に存在しています。画像上のイラストをみると,
顔や手の割合が他と比べて大きいことが分かる
と思います。大きいということは,それだけ神経
部位である「放線冠」が分かります。また,
「中
細胞がたくさんあるということを示しています。
心溝レベル」でも紹介した「頭頂連合野」は,
人間の顔や手はいかに細やかに動かせるように
このスライスでも確認できます。
つくられているのかが理解できるかと思います。
まずは,画像の真ん中に注目してください。
5枚のスライスを特定するポイント
黒く「ハの字」になっている部分が側脳室です。
ここでは,5枚のスライスを特定するポイン
そして,
「ハの字」部分のすぐ隣にあるのが「放
トを簡単に説明していきます。スライス画像は
線冠」です。
皆さんがよく目にしているCT画像を基に説明
放線冠は,運動線維を含む錐体路や感覚線維
をしていきます。
が通っています。
「ハの字」の後方には,中心
●中心溝レベル(画像2)
溝レベルで確認された頭頂連合野も確認するこ
まずは脳のシワがみえるところを探してくだ
とができます。
さい。そこが中心溝レベルと言われるスライス
●基底核レベル(画像4)
です。このスライスは頭頂部の脳溝が目立つレ
基底核レベルのスライスでは,主に「視床」
ベルです。脳の頭頂部の大脳皮質には,主に
「中心前回」「中心後回」
「頭頂連合野」の3つ
2
「被殻」
「内包」
「言語野」など,重要な部分の
確認ができます。
があります。「中心前回」は錐体路のスタート
まずは,「Y」をみつけましょう。その下の真
地点に当たり,
「中心後回」は感覚神経のゴー
ん中にダイヤ型にみえる黒い部分があります。
ル地点に当たります。
ここが第三脳室と言われる場所です。そして,
●側脳室天井(ハの字)レベル(画像3)
第三脳室を両側から挟むように卵型にみえる部
次のスライスは,側脳室の天井部分のスライ
分が「視床」です。「視床」は感覚の中継点の他,
スです。このスライスでは,脳梗塞などの好発
意識の維持など重要な役割を担っています。
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覚えるべき5枚のスライスはこれ!
画像2●中心溝レベル
矢状断スライス
画像2
大脳
画像3
画像4
画像5
画像6
中心前回
中脳
橋
中心後回
小脳
延髄
頭頂連合野
では,次に「被殻」をみつけましょう。視床
●脳幹(中脳)レベル(画像5)
を内側とすると「被殻」は少し外側と考えてく
まずは,
「ネズミ」の形をしたところをみつ
ださい。側脳室とシルビウス裂の間にあるのが
けましょう。その部分が「中脳」です。このス
「被殻」です。錐体路の通り道ではありません
ライスでは,脳幹の中でも「中脳」がメインで,
が,脳出血の好発部位ですので覚えておきま
前頭葉と側頭葉の下部,脳底槽を確認できます。
しょう。そして,視床と被殻を確認できたら,
中脳には,動眼神経核があり,中脳の腹側
その間に「くの字」になっている部分を探して
(ネズミの耳の部分)には大脳脚があり,錐体
みてください。それが「内包」です。「内包」
路の通り道です。そのため,中脳が障害される
は錐体路の通り道であるため,小さな病変でも
と,動眼神経麻痺を生じ,大脳脚の損傷では対
内包を損傷した場合は麻痺が出現します。被殻
側の麻痺を生じます。
出血の場合は,隣接している内包が損傷される
また,中脳は鉤ヘルニアで圧迫されると同側
ことが多いため,程度はさまざまですが麻痺が
の瞳孔が散大してきます。どのような原因で中
残存することが多いです。
脳が障害されているかによって重症度や緊急性
次に「言語野」についてですが,「言語野」
は異なりますが,脳ヘルニアや切迫破裂の動脈
は優位半球(通常は左)の側頭葉に存在し,大
瘤による瞳孔異常は危険なサインです。中脳が
きく分けて運動性言語野(ブローカ野)や感覚
損傷されていなくても,中脳から眼球方向に伸
性言語野(ウェルニッケ野)の2つが存在しま
びていく動眼神経が内頸動脈―後交通動脈分岐
す。画像でみると,シルビウス裂という脳の溝
部(IC-PC)の動脈瘤によって圧迫されている
を挟んで前方にあるのが運動性言語野,後方に
場合は,動眼神経麻痺が出現します(切迫破裂
あるのが感覚性言語野です。損傷部位や程度に
の動脈瘤)
。
よって失語の症状やかかわり方などは多彩です。
さらに,中脳のすぐ前の黒い部分が脳底槽で,
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