Page 1 Page 2 Page 3 Page 4 Page 5 Page 6 今村 ・ ほか ニ 複雑尿

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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複雑な尿路感染症に対するsulbenicillin(リラシリン)の使
用経験
今村, 一男; 丸山, 邦夫; 池内, 隆夫; 越野, 豊; 斉藤, 豊彦
泌尿器科紀要 (1976), 22(8): 931-938
1976-12
http://hdl.handle.net/2433/122021
Right
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
931
〔轡聾欝鋪
複雑な尿路感染症に対するsulbenicillin(リラシリン)の
使 用 経 験
昭和大学医学部泌尿器科学教室(主任 赤坂 裕教授)
男
今
村
丸
山
邦
夫
池 内
隆
夫
攻
野
斉
藤
豊
豊.
彦
CLINICAL TRIALS WITH SULBEN工C工LLIN(LILACILLIN)
IN COMPLICATED URINARY TRACT INFECTION
Kazuo IMAMuRA, Kunio MARuyAMA, Takao IKEucHi,
Yutaka ’IS’.osHiNo and Toyohiko SAiTo
F2一・m漉θエ)ePartmen彦・f Urogog♪・, Sh・wa∼Yniver吻, SchoolげM羅6ゴηθ
(Director’Prqf. H. Akasaka,ムエDり
1) Reletively large dose (3一一・8 g, average 5 g) of SB−PC was administered to 15 hospitalized cases
with complicatecl urinary tract infection.
2) There were 6 markedly effective cases (400/6), 5 effective cases (33.30/,) and 4 ineffective
cases (26.70/.) out of 15 cases and the clinical effective rate was approximately 730/..
3) No special side effect was observed except for pain at the site of injection.
緒
言
最近,弱毒性グラム陰性桿菌による尿路感染症がし
だいに増加の傾向にある.とくに泌尿器科領域の合併
症を伴う複雑な尿路感染症においては,その占める割
合が非常に高くなっている.Pseudomona∫, Ktebsielta,
Pr・teu∫等に加えて,以前あまり問題にされなかった
Citrobacter, Acinetobacter等が起炎菌としてみられるよ
うになり,合併症を伴った,これらの細菌による複
雑な尿路感染症の治療に,われわれ泌尿器科医は非常
に困難を感じてきた. これらの治療にはgentamicin
(以下GMと略す), colistin(以下CL)等がしばし
SB−PC(製品名リラシリン)は1968年,武田薬品工
業株式会社の研究所において開発された新広域合成
penicillinで,その特性はCB−PCに類似している.
SB−PCはPseudomonas, Proteus, Klebsielta等のグラム
陰性菌およびグラム陽性菌にも比較的広い抗菌力を示
す.また腎毒性が低いといわれており,したがってか
なり大量の投与が可能となり,MICの値が大きくて
も,その治療効果が期待できる.筋注,静注いずれに
よっても,速やかに高い血中濃度を示し,諸臓器に高
濃度で移行する.おもに腎より排泄され高い尿中濃度
が得られるという.SB−PCはβ一lacta皿aseに対し
ば用いられるが,しかしGMやCしには腎毒性があ
てGB−PCより比較的安定である.一一一L方SB−PC単独
り,泌尿器科領域の感染症,とくに腎機能の悪い患者
投与より,GMと併用することにより,さらに高い
に使用するのには難がある.そこにわれわれの期待を
抗菌力が得られるといわれている.
担って登場したのが,合成penicillinのcarbenicillin
今回,われわれは合併症を伴う複雑な尿路感染症に
(以下CB−PC)であり, sulbenicillin(以下SB−PC)
対して,SB−PCの比較的大量を投与して治療を試み
である.
たので,その臨床成績について報告する.
932
今村・ほか:複雑尿路感染症・sulbenicillin
Table 1.
1
No.
症
例
1
年齢 性別 診
断
1 T.T.44 男 慢性腎孟腎炎
投与
﨎
投与量
尿所見(前→後)
投与
@
蛋 白
起
赤血球 白血球 細 菌
炎
菌
Pseudomonas
29
i292×)筋酬t”冊→冊
冊→辮
惜→十1
2 ’T.S. 53 男 急性腎孟腎炎
・、ll)翻一側一・
帯→±
惜→一
3 F.y.42 男 急性腎孟腎炎
9
,嚢)諮一網+一・
十一〉十
一什→十
(幾鰹一一升一・
十一〉±
一十一一 1 Pseudomonas
5 T.M, 74 男 急性腎孟腎炎
・、萎隅一・十一借
措→+
”一〉一 1 Pseudomonas
6 K.A。54 男 急性腎孟腎炎
唯物・一・+一一
1十一〉十
“十一一〉一 1 Pseudomonas
7 Y.M.65 男 急性漕釣腎炎
2g
・1§離柵一一什一一
lH一ト→±
柵→一謬織:盤㌍∫
惜→+
結→一
帯→一書8欝。鰯
一一〉一
冊→一
一一〉一 1 Pseudomonas
十一・十
惜→一
・S・K.67男運耀灘
1エ1
1ア
↓
Klebsiella
P. mirabilis
Pseudomonas
(3×)
巳 N.T. 82 男 急性長里腎炎
9 U.Y.46女急性膀胱炎
・8隻)輔“一
・6
A1菱,鍵・一一
Pseudemonas
10
11
0。M.66 男
1.Y. 76 男
急性腎周囲炎
急性解止腎炎
・・(鴇点酬→一
慢性膀胱炎
・6
A鱗
Citrobacter
Enterobacter
+→甘 +→柵
A。T.23 男
難難灘 13(鴇輔一一
13
Y.T. 5Q 男
慢性腎孟腎炎
14
A.H.62 男
急性膀胱炎
帯→冊P、,ud。m。器096〃θ∫
工5
K.H. 60 女
慢性義塾腎炎
一一
一.一 1 Pseudomonas
帯→+
一H十一〉十 1 Pseudomonas
惜→→十
+ 一〉一
A!一〉十 1 Pseudomonas
紐→+
冊→+.
HHH一一〉十 1 Acinetobacter SP.
十一〉一
石→十 冊→+
・、重婆,籍一+
49
20 49点滴甘→十
(2X)
帯→帯
e磁s
E. coli
12
・・(鴇備
1升→一」‘初励α
933
今村・ほか:複雑尿路感染症・sulbenicillin
症
イ列
腎機能自覚症状
血液像 肝機能
感受性試験(デスク法)
晶合併症
S髭艦cEzl・M・・騰帥球・・TG・・卜・昭・uNI(前→後)
雄
ti i
354
#
$
372 11400
措1幽
389
】惜
ミ
申
410
,
372
’1・1’↓8「1↓Ql∵
惜→一1無
↓
7200{25
エア ユコアほコユ ユ コヨ
1。1.5]T.。l14.、
をア
ヱら
一u
] 1
二陣
症
右残腎結核
前立腺肥大症NA 1・59
.術
有L有効
後
?O立腺結石1
園無効
一・
=無i願立腺肥大覆1GM・2・m・[
、畜。隈、 おi、!。l!ll。。i
[一1
131、.3石5,.,[
.,幽1314い810噸、}、
i↓,↓}
1 610.9ilO.O
■i389i5800i至.23i・
一t”1一
効果
ミ
ヨ
ミ
、障害
3i7 1 276 [i7. OI 9.18.2一. .41
68QQ 21
↓
1395 i
F
一ト
J
轟尿 毒
,L .1 .」. iL一“ +’+
.1 1 」・
・
併用薬剤7vア
1右 腎 痩
2.2 1 ip ls,gls.slsQ.21
7500
投揃薬剤騨
’2u 7i
一姻墓:i:駕:「鰍:臆
回著効
; 糖 尿 病
”→一.
一
コ■ 「∴]・!・幽15目!
ウ1強記響EZ39
lrm1
i有i有効
エヨ らミ
1。12.エITI.’En.
「「14,,98。。1τ.1[
P認
ii i 1
叝u,1翻皆→+1 無煙三二1
↓[
三吟効
1一
蝋1恥1 :翻耐熱ま:■無厩姻
一!’ 1!’ i
有1著効
[一,
1
塑器膨艦i二9Le.;//gl”一雨唖
±1二F陣
辮i一一■晋 i4。8罵i劃竃 1蕗:臆躯一一
1壷塵尿管膣劉
1一
3tsl,
j1 l1 1a−1一一
l
:’一’i術 後1
1
P有罰
一 ‘.
一.一一i有:著効
I L
甚匝騨驚熊illl[羅惜一「細腎蝿欝噛
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笹1≡…寵
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:1ト
十 一i−1帯1帯
1 1 1 1
−1
−1一 一 十← 畳
i一…1,
■一一井井
1 1 1!i
…二細雨1塑5量→ii墾蕪
1
一
有 無効
囎鞍1蕪1∵廼 鞠・墜
ォ0・瓢一一{礪轡雛1』璽aPl有
、4t・岡垂[・.・1・.・]・.・一
1有効
・・1
1‘co
・訓声
2↓2生↓411㌃.
isi・ii2
1?II?gl??IIAigl 1’4・1!gig・1!/・i1
1塁
10300[ 22 1 24
e iSIS
8900 1 20 1 19
C・→一…
C腺厚巴大副[CER19
有・
無効
有
有効
1隠隠:i掛→一難lkP側妻管媛ドET 59
934
今村・ほか:複雑尿路感染症・sulbenicillin
薬
年齢(Table 3)は23歳∼82歳で,40歳台∼70歳台
剤
がそのほとんどを占めている.性別(Table 4)は男
Sulfobenzylpenicillin(sulbenicillin, SB−PC)はFig.
1に示す構造を有する分子量458.4,分子式CI6H16N2
性13例,女性2例である.
Tablc 4.性別構成
Na207S2の白色粉末で,水,メタノールによく溶け,
エタノールには二二の物質である.
(〉騨7ゴ二二
数
半
性
男
性
女
性i
13
2
15
計
Fig・1・SB−PC(リラシリγ)の構造式
用量と用法
対
象
対象が合併症を伴う複雑な尿路感染症であるので,
対象は当科に入院した合併症を伴う尿路感染症患者
(Table 1)である、本剤の抗菌力はグラム陰性菌,グ
投与量は3∼89(平均59)と比較的大量を用いた.
投与方法は点滴静注および筋注でおこない,1日1∼
ラム陽性菌いずれにも有効であるとされているので,
3回に分けて投与した.投与日数は5日より最高111
とくに菌種別に分けての検討はおこなわなかった.
日間である.症例1の人工透析による菌血症,敗血症
投与対象疾患(Table 2)は,急性膀胱炎,慢性膀
予防もかねてlll再臨投与した特殊例を除けば平均
胱炎,急性腎孟腎炎,慢性腎孟腎炎,急性腎周囲炎で
13.4日である.1投与量,投与回数は,起炎菌種および
あり,その基礎となった合併症は,残腎結核,腎結
感染症の重症度によって増減した.
石,のう胞腎,尿管結石,尿管膣痩,両側尿管痩の状
なお,併用薬剤としてGM 40 mg, L日2回同時
態(膀胱腫瘍,卵巣癌),膀胱結石,尿道狭窄,前立
併用した症例も2例ある(Table!).
腺肥大症,前立腺癌である.15例中14例において,留
効果判定基準
置カテーテルをおいていた.
合併症を伴うような複雑な尿路感染症の効果判定の
Table 2.対象疾患
Xt ,.,en X
急 性 膀 胱 二炎
基準を定めることは非常にむずかしい.われわれは便
宜的に投与を,終った時点における尿所見,他覚的所
見,自覚症状などをもとにして著効,有効,無効の3
段階に分けて判定した.
慢 性 膀 胱 炎
著効:投与終了時において,尿所見,他覚的所見,
急性腎孟腎炎
慢性腎孟腎炎
急性腎周囲炎
自覚症状が全く正常になったもの.
有効:尿所見にある程度の所見が残っているが,自
斜高童黙i
覚症状,他覚症状が改善されるかまたは消失したも
の.
無効:投与終了時においても尿所見,自覚症状,他
覚的所見の改善が全くみられないもの.
併発症も含む
なお,採尿方法は留置カテーテルをおいた患者がほ
Table 3.年齢構成
とんどであるので,とくにその点は特別な方法はとら
”t watsU it
20 ∼ 29歳
1
30 一一 39
40 一一 49
3
50 一一 59
3
60 N 69
5
70歳以上
3
計
15
なかった.
分離菌の種類
分離同定された菌種はTable 5に示すごとく9菌
種22株であった.この中でPseudom・nasが12株と最も
多く,E・c・li, Acinetobacterがそれぞれ2株,その他
Klebsiella, Proteus mirabilis, Citrobacter, Enterobacter,
StaP妙IOCOCCU∫epidermidi∫, StrePt・COCCUS説伽2∫が各1
株であった.
935
今村・ほか:複雑尿路感染症・su1benicillin
Table 5・分離菌数
分
菌
離
菌
Table 7.薬
株
剤 効 果
数
Pseudomonas
著
効1
E.60距
有
心
5 (33.3%)
Klebsiella
無
密i
4 (26.7%)
6 (40.0%)
Proteus禰7αゐ戴∫
15
計
Acinetobacter
α〃。加6彪7
対するSB−PC感受性と臨床効果はTable 9に示す
Enterobacter
ごとくで,著効5例(4L7%),有効3例(25%),無
5’‘ψ妙.ゆ伽痂廊
効4例(33.3%)であった.
StrePto. viridans
Table 8.主感染症に対するSB−PCの効果
22
計
患i著効i有効
疾
各面数はいずれも105以上であったので,起炎菌と
考えた.
4例において混合感染を認め,また1例において菌
交代現象が認められた.この菌交代現象はPseudom・一
nasよりKlebsiellaに代っていた.
分離菌のSB−PCに対する感受性は, Table 6に示
すごとく,感受性のあるもの(惜∼一H一)11例,感受性
のないもの(+∼一)ll例とその比率は各50%であっ
た.感受性試験は3濃度法デスクによっておこなっ
急性腎孟腎炎
慢性二二腎炎
3
急 性 膀 胱 炎
2
無
効
3
1
2
1
1
慢 性 膀 胱 二炎
1
急性腎周囲炎
1
“,
Table 9. PseudomonasのSB−PC感受性と臨床効果
twtpt,x.i!k:g kthr)fl ’fxth’pa.. ’fSi」rfi’+
た.
惜
Table 6.分離菌のSB−PC感受性
十1
感 受 性
菌
種
Pseudomonas
十
冊甘+1
214]2141
工
2.
計
計
1
2
5
2
2
3
4
[2i
E. coli
Klebsiella
Proteus珈7αろilis
2)検査成績
1
血中白血球の変化は著効例においては,増加した白
!
Acinetobacter
1
C伽。うacter
,1
血球は投与終了後に非常に改善されていたが,無効例
1ii
ではむしろ白血球は増加の傾向がみられた(Fig.2),
Enterebacter
GOT, GPTの変化については,1例を除きその変
StaPh“.8翅87加ゴピ∫
化は正常範囲であった.高値を示した1例は,症例1
S彦砂’o.viridans
計
の残腎結核から慢性腎不全となり,人工透析をおこな
6
5 12 i9
22
っていた患者で,輸血を多量におこなっていたので,
SB−PC投与により起こったものとは思われない(Fig・
臨 床 成 績
3, 4).
1)臨床効果
アルカリフォスファターゼの変化については,症例
前記した効果判定基準により,著効6例(40%),
1の人工透析中の患者では高値を示し,また症例8の
有効5例(33.3%),無効4例(26.7%)であった.
前立腺癌で骨転移のある患者では,かなり高い値を示
著効,有効を臨床的有効例とすると,約70%が臨床的
しているが,その変化は原疾患によるものと思われ
に有効であった(Table 7).
る.その他の症例では,アルカリフォスファターゼの
SB−PCの主尿路感染症別の効果はTable・8に示す
変化は正常範囲内であった.ただし症例15の卵巣癌の
ごとくである。起炎菌の中で最も多いPseud・motlasに
再発の患者では,やや高値を示していたが,投与終了
936
.今村・ほか:複雑尿路感染症・sulbenicillin
(u)
22,000
276
20,000
270
1’
15,000
40
30
10,000
20
!0
5,000
。
4,000
o[===== =.
投
豊
刷
投
与
後
投
量
則
Fig.4. GPTの変化
投
与
後
(u)
Fig・2・白血球数の変化
21
(u)
317
2e
310
19
18
17
6
5
4
3
2
投
豊
投
与
後
削
Fig.3. GOTの変化
後には正常範囲の値になっていた(Fig.5).
クレアチニンおよびBUNの変化については,症例
1
o
投
豊
肘
Fig. 5.
投
与
後
アルカリフォスファターゼの変化
1の人工透析中の患者では非常な高値を示し,症例10
は投与後,感染症が改善.されて腎機能が回復し,その
ののう胞腎の術後の患者,症例8の前立腺癌末期の患
値は正常となっていた.しかし,上記3症例のクレア
者では,やや高値を示した.他の症例では正常あるい
チニン,BUNの変化は原疾患による変化であって,
937
今村・ほか:複雑尿路感染症・sulbenicillin
(mgfdl)
9.7
(mg/dl)
q.,o
8.5
3.・
u一 Tフ
3
30
2,5
25b ×
2
2.0
×
ユ.
15 こごここ∼
1
誌
一一一 @!iiiS:$
10
5
投
投
与
後
1
削
Fig.6.クレアチニンの変化
SB−PC投与のためではないと思われる(Fig.6,7).
副
作
投
豊
投
与
後
胴
Fig.7. BUNの変化
学療法剤は非常に限定されるようになった.今回われ
われがおこなった治験でも,分離菌種のほとんどはこ
用
れらの弱毒菌であった,最近までは,そのような複雑
副作用として,とくに著明なものは認められなかっ
な尿路感染症に対して,われわれはしばしばGM,
たが,筋注時に局所の耳痛を訴える患者が多かった.
CL等を使用してきた.しかしそれらの薬剤は腎毒性
前記の検査成績によっても, SB−P(〕による肝機能,
があり,大量にかつ長期に使用できないという不便さ
腎機能に対する明らかな障害は認めなか6た.また本
があった.最近合成penicillin系の発展はめざましい
剤の化学構造式中にはNaが2個あり,大量に投与す
ものがあり,前述の弱毒菌感染症に対しても,従来の
る場合Naによる害が予想されるので,血中Na, Cl
合成penicillin系よりも強い抗菌力をもつCB−P(〕が
を測定したが,異常を認めなかったので,表に示すこ
作られ,次いで武田薬品工業株式会社で開発された
とは省略した,
SB’PCが登場した. SB−PCは基礎的実験ではCB−PC
なお血中赤血球は手術症例が多いため,その値は指
標とならないので除いた.
考
と同等の抗菌力を有し,尿中にCB−PC同様高濃度に
排泄されるといわれており,いっぽう副作用は大量
察
投与によっても現われないとされている.加えてSB−
PCはCB−PCよりβ一lactamaseによる不活化が少な
合併症のない単純性尿路感染症に対しては,各種の
いとされている.以上の点より,われわれはSB−PC
有効な抗生剤,化学療法剤がある.しかし合併症を伴
を使用して難治性尿路感染症の治療にあたったわけで
う複雑な難治性尿路感染症においては,起炎菌として
ある.投与量が1日1∼29ぐらいでは期待したぽど
Pseudomonas, ProteUS, Klebsieglaあるいは以前は問題に
効果が上がらず,CB−PCの大量投与による臨床成績
ならなかったCitrobacter, Acinetobacter, Enterobacter等
から考えて,SB−PCも大量投与が必要であるとの報
の弱毒性グラム陰性桿菌がかなりの高比率を占めて存
告もあるので,今回われわれは比較的大量を投与して
在するので,それを治療する場合の有効な抗生剤,化
治験をおこなった.その有効率は著効例,有効例合わ
938
今村・ほか:複雑尿路感染症・sulbenicillin
せて73%であり,じゅうぶん満足すべきものであっ
特記すべき副作用はなかったが,筋注時に局所に疾
た.しかし大量投与といっても,IOgL/上というよう
痛があるので,そのような患者では静注に変えるよう
な大量は使用せず,症例によっては89を使用した
にしたい.
が,平均投与量約59ぐらいであり,その程度の投
以上より種々の合併症を伴う複雑な尿路感染症に対
与量でもじゅうぶん効果を発揮するものと考えられ
して,SB−PC 3∼89,平均59の投与でじゅうぶん
る、
その治療効果をあげうるものと思われる.
SB−PCの主尿路感染症別の効果は,急性のものに
結
有効率が高く,慢性のものではその効果が低い傾向
がみられた(Table 8). また起炎菌の中で最も多い
語
1)昭和大学病院泌尿器科入院患者のうち,合併症
Pseudomonas 12例のSB−PC感受性と臨床効果は,あま
を有する複雑な尿路感染症15例に対し,比較的大量
り相関関係がないよ励こ思われた(Table 9).
(3∼8g,平均5g)のSB−PGを投与した.
菌交代現象は症例1の11旧間投与した例でSB−PC
2) 15例中著効6例(40%),有効5例(33.3%),
感受性(升)のPseudomonasがSB−PC感受性(一)
無効4例(26.7%)で,臨床有効率は約73%であっ
のKlebsiellaに変っていた.使用期間が長いので当然
た,
の結果といえよう.混合感染も複雑な尿路感染症であ
るので,4例にみられた,
なお,GB−PCとGMとの併用,とくに同時併用
すると相乗効果があるといわれている.SB−PCも同
様のことがいわれているので,とくに重症と思われる
症例(症例10,12)にSB−PC 59とGM 80 mgと
の同時併用を試みた.両症例とも著効を示し,併用し
た価値はじゅうぶんあったと思う.GMは40 mgを
1日2回,5日∼7日間で,投与:量はとくに多いとは
思われないし,SB−PCも5g程度で効果が著明であ
った.したがって,重症尿路感染症に対してSB−PC,
GMの同時併用療法は試みられるべき方法と考える.
3) 副作用としては,注射部に落痛を訴えた以外に
とくに認めなかった.
文
献
1)SB−PC参考資料:武田薬品工業KK.
2)中沢昭三・ほか:Chemotherapy,19:867,1971.
3)清水保夫・ほか:(】hemotherapy,19:1030,1971.
4)石神裏次・ほか:Ghemotherapy,19:1037,1971.
5)新島端夫。ほか:Chemotherapy,19:1047,1971.
6)熊沢浄一。ほか:Chemotherapy,19:1053,1971.
7)大越正秋・ほか:最新医学,29:859,王974.
(1976年7月1日受付)