1. RLC回路の交流特性

1. RLC 回路の交流特性
1 目的
応用物理学実験 A において,RC 回路の過渡現象と LC 回路の共振現象について学んだ。本実
験では,それらを発展させて,RC 回路の交流特性と RLC 回路の位相特性について学ぶ。
2 RLC 回路の交流特性
2.1 複素数表示と複素インピーダンス
2.1.1 交流信号の複素数表示
振幅 V0 ,角周波数 ω (= 2πf , f は周波数)で振動する正弦波交流信号は,三角関数を用いて
V (t) = V0 cos(ωt)
(1)
と書くことができる。このとき,オイラーの公式
exp(iθ) = cos θ + i sin θ (i は虚数単位,i2 = −1)
(2)
V (t) = V0 exp(iωt)
(3)
を用いて
とすると,計算が楽になる場合が多い。(3) 式を交流信号の複素数表示といい,実部が物理量を表
すと約束する。これに対して (1) 式は実数表示という。抵抗 R,コイル L,コンデンサ C におけ
る実数表示と複素数表示の例を表 1 に示す。表中の Re[Z] は,複素数 Z の実部をとることを表す。
また,複素数表示を用いたときの電圧 V と電流 I の比 V /I = Z を複素インピーダンスといい,交
流回路において抵抗のような働きをする。(単にインピーダンスということもある。また,複素イ
ンピーダンスの実部を抵抗(レジスタンス),虚部をリアクタンスと呼ぶ。)
表 1 回路素子の複素数表示と複素インピーダンス
素子
抵抗 R(レジスタ)
IR (t) R
コイル L(インダクタ)
コンデンサ C (キャパシタ)
IC (t) C
IL (t) L
記号
VR (t)
電圧と電流
の関係
実数表示
複素数表示
複素イン
ピーダンス
VL (t)
dIL (t)
dt
VR (t) = RIR (t)
VL (t) = L
IR (t) = I0 cos ωt
IL (t) = I0 cos ωt
VR (t) = RI0 cos ωt
VL (t) = −ωLI0 sin ωt
IR (t) = I0 exp(iωt)
IL (t) = I0 exp(iωt)
VR (t) = RI0 exp(iωt)
VL (t) = iωLI0 exp(iωt)
Re[VR (t)] = RI0 cos ωt
Re[VL (t)] = −ωLI0 sin ωt
ZR = R
ZL = iωL
RLC 回路 – 1
VC (t)
IC (t) = C
dVC (t)
dt
IC (t) = I0 cos ωt
I0
VC (t) =
sin ωt
ωC
IC (t) = I0 exp(iωt)
I0
VC (t) =
exp(iωt)
iωC
I0
Re[VC (t)] =
sin ωt
ωC
ZC =
1
iωC
2.1.2 正弦波定常状態解析
RLC 回路(抵抗 R,コイル L,コンデンサ C で構成される回路)では,信号が入力された後,
過渡状態を経由して定常状態となる。(“応用物理学実験 A:RC 回路を用いた過渡現象” 参照。)
RLC 回路に交流信号を入力した場合には,定常状態での応答が重要となる場合がある。このよう
なときには,電圧,電流を複素数で表し,回路素子の複素インピーダンスを用いると解析が楽に
なる。
例として,図 1 の RC 直列回路に交流電圧 V (t) = V0 cos ωt が接続されているときのコンデン
サの両端電圧 VC (t) を求める。
VR (t)
実数表示では,回路方程式は
dVC (t)
1
1
+
VC (t) =
V0 cos ωt
dt
RC
RC
R
(4)
∼ V (t)
VC (t)
C
I(t)
となり,三角関数を含む微分方程式となる。(4) 式を解くことで,
µ
VC (t) = VC0 exp −
図 1 RC 直列回路
¶
1
V0
cos(ωt + φ),
t +p
RC
1 + (ωRC)2
φ = − tan−1 (ωRC)
(5)
を得る。ここで,VC0 は初期状態で決まる定数である。(5) 式の右辺第 1 項が過渡状態を,第 2 項
が定常状態を表す。
一方,複素数表示を用いると,図 1 は直列回路であるから,全複素インピーダンス Z は各素子
の複素インピーダンスの和となり,
Z =R+
1
1 + iωRC
=
iωC
iωC
(6)
となる。回路を流れる電流 I(t) は I(t) = V (t)/Z(ここで V (t) は (3) 式より V (t) = V0 exp(iωt))
であるから,VC (t) = ZC I(t) より,
V (t)
exp(iφ)
1 − iωRC
=
V0 exp(iωt) = p
V0 exp(iωt)
2
Z
1 + (ωRC)
1 + (ωRC)2
V0
exp (i(ωt + φ))
=p
1 + (ωRC)2
VC (t) = ZC
(7)
と求められる。ここで φ は (5) 式と同じものである。(7) 式の実部は (5) 式の右辺第 2 項(定常項)
に一致することから,簡単な代数計算で VC の定常状態を求められることがわかる。このように,
複素インピーダンスを用いて交流回路の定常状態を求める手法を正弦波定常状態解析という。
RLC 回路 – 2
2.2 RC 回路の交流特性
2.2.1 ローパスフィルタ
R
(7) 式(または (5) 式)より,図 1 の回路における VC (t)
+
+
入力
は,V (t) に対して振幅が角周波数 ω に依存して減衰し,
Vi
位相が φ だけ進む(これも角周波数に依存する)ことがわ
かる。V (t) を入力信号 Vi ,VC (t) を出力信号 Vo と考えて
Vo
−
(a) ローパスフィルタ回路
力信号 Vi の比 Vo /Vi を HL (ω)(伝達関数と呼ぶ)と書く
|HL (ω)|
Vo
exp(iθL )
=q
,
Vi
1 + ( ωω0 )2
µ ¶
ω
1
−1
φ = − tan
,
ω0 =
ω0
RC
HL (ω) =
θL = φ,
C
−
回路を描き直すと図 2(a) のようになる。出力信号 Vo と入
と,(7) 式より
出力
(8)
1.0
√
1/ 2
0.5
0 −2
10
10−1 100
となる。HL (ω) の大きさ |HL (ω)| と位相 φ を角周波数の
関数として描いたグラフを図 2(b) に示す。図 2(b) より,
ω ¿ ω0 では出力は入力にほぼ等しく,ω0 < ω では出力
101 102
ω/ω0
θL / rad
は ω の増加とともに減衰することがわかる。つまり,図
0
2(a) の回路は,ω0 よりも低い角周波数の信号のみを通過
させる回路であり,このことからローパスフィルタと呼ば −π/4
√
れる。ω0 は出力が 1/ 2 に減衰する角周波数で,対応す
る周波数 f0 (= ω0 /2π) はカットオフ周波数と呼ばれる。 −π/2
また,図 2(b) より,位相 φ は ω の増加に伴って 0 から
10−2 10−1 100
−π/2 へと変化し,この間 φ < 0 であることから出力の位
101 102
ω/ω0
(b) 周波数特性
相は入力に比べて遅れることがわかる。
図 2 ローパス・フィルタ回路
2.2.2 ハイパスフィルタ
図 2(a) の抵抗 R とコンデンサ C を入れ替えた回路を図 3(a)
に示す。出力は抵抗 R の両端電圧 VR (t) である。全インピー
C
+
ダンスは (6) 式に等しく,Vo = VR = ZR I = ZR Vi /Z である。
Vi
伝達関数 HH (ω) は,(8) 式と同じ φ を用いると
ω
Vo
ω0 exp (iθH )
HH (ω) =
= q
,
Vi
1 + ( ωω0 )2
µ ¶
π
ω
1
−1
θH = φ + , φ = − tan
, ω0 =
2
ω0
RC
(9)
+
入力
出力
R
Vo
−
−
(a) ハイパスフィルタ回路
図 3 ハイパス・フィルタ回路
で表される。この場合は,図 3(b) に示すように,ω0 よりも高い周波数の信号を通過させるハイパ
スフィルタとなる。VR (t) は V (t) に対して位相 φ +
π
2
(> 0) だけ進む。
RLC 回路 – 3
|HH (ω)|
1.0
θH / rad
π/2
√
1/ 2
0.5
π/4
0 −2
10
10−1 100
101 102
ω/ω0
0
10−2 10−1 100
101 102
ω/ω0
(b) 周波数特性
図 3 ハイパス・フィルタ回路
2.3 RLC 回路の位相特性
図 4 に RLC 直列共振回路を示す。図 4 の回路の
VR
VL
R
L
全インピーダンスは
1
Z = R + iωL +
iωC
(10)
C
∼ Vi
I
であるから,回路を流れる電流は
I(t) =
VC (t)
Vi (t)
iωC
=
Vi (t)
2
Z
1 − ω LC + iωRC
図 4 RLC 直列共振回路
(11)
となる。各素子の両端の電圧を出力と考えて伝達関数を求めると,
VR
ωRC exp(iφR )
HR (ω) =
,
=p
Vi
(1 − ω 2 LC)2 + (ωRC)2
φR = tan
µ
1 − ω 2 LC
ωRC
¶
¶
ωRC
φL = tan
−1 + ω 2 LC
µ
¶
−ωRC
−1
φC = tan
1 − ω 2 LC
ω 2 LC exp(iφL )
VL
p
=
,
HL (ω) =
Vi
(1 − ω 2 LC)2 + (ωRC)2
VC
exp(iφC )
,
HC (ω) =
=p
Vi
(1 − ω 2 LC)2 + (ωRC)2
|HR (ω)|
µ
−1
−1
(12)
(13)
(14)
φR / rad
1.0
π/2
0.5
0
0 −2
10
10−1 100
101 102
ω/ω0
−π/2
10−2 10−1 100
101 102
ω/ω0
図 5 RLC 共振回路の周波数特性
となる。HC (ω) は “応用物理学実験 A:LC 回路による共振現象の観察” の結果と一致する。こ
こでは,例として HR (ω) の大きさ |HR (ω)| と位相 φR を図5に示す。既に学んだように,共振周
波数 ω0 (=
√1 )
LC
で出力は極大となる。また,位相 φR は ω0 を中心に +π/2 から −π/2 まで変化
する。
RLC 回路 – 4
3 実験
3.1 実験を行う上での注意
• 本実験の実験装置は,
「RC 回路の交流特性」× 2 組,
「RLC 回路の位相特性」× 2 組が用意
されている。実験グループを a1 ,a2 ,b1 ,b2 の 4 グループに分け(1 グループは 2∼3 人)
,
表 2 のスケジュールで実験を行うこと。
表 2 実験スケジュール
第 1 週目
第 2 週目
グループ
前日まで
a1 ,a2
予習
3.2 RC 回路の交流特性
3.3 RLC 回路の位相特性
b1 ,b2
予習
3.3 RLC 回路の位相特性
3.2 RC 回路の交流特性
• 測定したデータは,「4.結果の整理」,「5.課題」,「6.考察」で使用する。測定する前
にテキストを最後までよく読んで,必要なデータを取り忘れることが無いように気をつける
こと。
• 測定はグラフ用紙にプロットしながら行うこと。片対数グラフ用紙が必要な時はTAまたは
先生に申し出ること。
• オシロスコープによる位相差の測定法
オシロスコープを用いた位相差の測定方法について説明する。オシロスコープの基本的な
使用方法は応用物理学実験 A のテキストを参照すること。
一般のオシロスコープは2つ以上の入力チャンネルを持っており,複数の信号を同時に画
面上に表示することができる。2つの交流信号 V1 ,V2 をそれぞれオシロスコープの CH1,
CH2 に接続すると,画面上には図 6 のように2本の輝線が表示される(図 6 では V2 を破線
で描いたが,実際はどちらも連続した輝線である)。図 6 において T で示したものが信号の
周期 T [s] であり,位相でいうと 2π rad(または 360°)に相当する。図 6 の例では,V2 は
V1 に対して時間 ∆T (> 0) だけ遅れており,交流信号 V1 ,V2 をそれぞれ V1 = V10 cos ωt,
V2 = V20 cos(ωt + θ) で表せば,V1 に対する V2 の位相の進み(位相差)θ は,
θ=−
∆T
∆T
× 2π rad または θ = −
× 360◦
T
T
(15)
で求められる。V1 と V2 を混同すると位相差の符号を間違えることになるので注意するこ
と。なお,画面上に表示される波形の 上端から下端までの幅 は信号の 振幅の 2 倍 となる。
T
V1
V2
2|V1 |
2|V2 |
電圧 / V
∆T
時間 / s
図 6 位相差の測定
RLC 回路 – 5
3.2 RC 回路の交流特性
3.2.1 ローパスフィルタの周波数特性の測定
(1) 図 7 のように発振器,抵抗 R,コンデンサ
C を接続せよ。回路に用いた R と C の値を
記録し,カットオフ周波数 ωc および fc (=
ωc /2π) を計算により求めよ。
+ a
(2) a-b 間(入力電圧)をオシロスコープの CH1,
c-d 間(VC :出力電圧)を CH2 に接続し,
発振器
−
R
b
入力・出力波形がオシロスコープ上で観測
できるように調整する。オシロスコープの
COUPLING は ACとする。
C
+
c
d
−
回路基板
図 7 RC 交流特性の実験回路
(3) 発振器の出力電圧(回路の入力電圧)の振幅 Vin [V] を一定に保ったまま(※ 1)周波数 f [Hz]
を変化させ(※ 2)
,“出力電圧の振幅 Vout [V]” と “入力電圧に対する出力電圧の時間の遅れ
∆T [s]” を測定せよ。このとき,∆T の符号に注意すること(前頁参照)。結果は 4.1 (2) を
参考に記録し,片対数グラフにプロットしながら測定すること。図 2(b) のような周波数特
性が得られるはずである。このとき,発振器の周波数 f [Hz] は,f0 [Hz] の約 1/100 から約
100 倍まで,対数的に変化させること。(例: 1, 2, 3, 5, 7, 10, 20, 30, 50, 70, · · · )
※ 1 一般に発振器の出力電圧は周波数を変えると変動する。発振器の出力電圧(図7の
回路では,a-b 間の入力電圧)が一定になるよう調整しながら測定すること。
※ 2 発振器の周波数ダイアルは目安である。実際の周波数f [Hz] は,オシロスコープの
画面上に表示される入力信号波形(CH1)の周期 T [s] により求めること。
3.2.2 ハイパスフィルタの周波数特性の測定
(1) 図 7 の回路で,抵抗 R とコンデンサ C を入れ替えた回路を作り,a-b 間(入力電圧)をオ
シロスコープの CH1 に,c-d 間(VR :出力電圧)を CH2 に接続する。
(2) 3.2.1 と同様の測定をせよ。図 3(b) のような周波数特性が得られるはずである。
3.3 RLC 回路の位相特性
3.3.1 測定に用いる共振回路
図 8(a) に,実験で用いる RLC 共振回路を示す。発振器の出力によってコイル 1 に交流電流が
流れ,コイル 1 で発生した交番磁束がコイル 2 を貫くことでコイル 2 に誘導起電力が生じ,コイル
2 側の回路で RLC 共振現象が起こる。このときコイル 2 は,図 8(b) のように,誘導起電力による
電圧源 V 0 とコイル L を直列につないだものとみなせる。実験では,コイル 1 側の抵抗 R0(600 Ω
)の両端電圧 VR0 [V] を入力信号 Vin ,コイル 2 側のコンデンサ C の両端電圧 VC [V] または抵抗
R の両端電圧 VR [V] を出力信号 Vout とする。コイル 1 に流れる電流を I1 とすると,VR0 = R0 I1
である。コイル 2 に生じる誘導起電力 V 0 は,相互インダクタンスを M として
V 0 = −M
M
dI1 (t)
= −iωM I1 = −iω VR0
dt
R0
RLC 回路 – 6
(16)
コイル 1
+
600 Ω
VR
−
+
R
VR0
R0
C
VC
L
+
発振器 ∼
I1
−
コイル 2
0
∼ V
−
(a) 実験で用いる共振回路
(b) コイル 2 の等価回路
図 8 RLC 位相特性の実験回路
となる。よって VR0 を入力としたときの伝達関数は
VR
M
ω 2 RC
p
exp(iφR ),
HR (ω) =
=
VR0
R0 (1 − ω 2 LC)2 + (ωRC)2
M
ω
VC
p
=
HC (ω) =
exp(iφC ),
VR0
R0 (1 − ω 2 LC)2 + (ωRC)2
µ
−1
φR = tan
µ
−1
φC = tan
−ωRC
1 − ω 2 LC
1 − ω 2 LC
ωRC
¶
(17)
¶
(18)
となる。ここで用いた φR , φC は,(12), (14) で用いた φR , φC と異なることに注意せよ。
3.3.2 RLC 直列共振回路における位相特性の測定(共振現象を含む)
(1) R 端子に抵抗(R = 10 Ω)を接続する。発振器の出力をコイル 1 側の ∼ に接続し,VR0
をオシロスコープの CH1 に,VC を CH2 に接続する。発振器とオシロスコープの電源を
入れ,オシロスコープの画面上に VR0 ,VC を表示させる。発振器の出力を調整し,VR0 が
振幅 2 V,周波数 10 kHz となるようにする(※ 1,※ 2)。
(2) 発振器の周波数ダイアルを左右に回して “VC の振幅 VC [V]” と “位相差 φC [rad]” が変化す
ることを確認せよ。
(3) 発振器の周波数 f [Hz] を変化させ(※ 1,※ 2),“VC の振幅 VC [V]” と “入力電圧に対する
出力電圧の時間の遅れ ∆T [s]” を測定せよ。結果は 4.2(1) を参考に記録し,片対数グラフ
にプロットしながら測定すること。特に,共振曲線の頂上付近(共振周波数付近)は非常に
シャープになるので,周波数を細かく刻んで測定すること。
※ 1 一般に発振器の出力電圧は周波数を変えると変動する。発振器の出力電圧(図 8 の
回路では,抵抗 R0 にかかる電圧)が一定 になるよう調整しながら測定すること。
※ 2 発振器の周波数ダイアルは目安である。実際の周波数f [Hz] は,オシロスコープの
画面上に表示される入力信号波形(CH1)の周期 T [s] により求めること。
(4) オシロスコープの CH2 に接続する電圧を VC から VR に替え,(3) と同じように,周波数
f [Hz] を変えて “VR の振幅 VR [V]” および “時間の遅れ ∆T [s]” を測定せよ。
RLC 回路 – 7
4 結果の整理
4.1 RC 回路の交流特性
(1) 実験 3.2.1(1) で回路に用いた抵抗 R [Ω],コンデンサ C [F] の値と,計算により求めた
ωc [rad/s],fc [Hz] の値を表にまとめよ。
¶ 例
³
RC 回路のカットオフ周波数
表○○
R/Ω
C /F
ωc / (rad/s)
fc / Hz
µ
´
(2) ローパスフィルタおよびハイパスフィルタそれぞれについて,入力・出力電圧 V [V],周期
T [s],および遅れ時間 ∆T [s] 等の測定値を表にまとめ,出力電圧と入力電圧の比の大きさ
|H(f )|,位相差 θ [rad] を求めよ。
¶ 例
³
表△△
ローパスフィルタの周波数特性の測定結果
周波数
入力電圧
出力電圧
伝達関数
周期
遅れ時間
位相差
f / Hz
Vin / V
Vout / V
|HL (f )|
T /s
∆T / s
θL / rad
µ
´
4.2 RLC 回路の位相特性
(1) VC ,VR それぞれについて,“振幅 V [V]” および “位相差 φ [rad]” の測定結果を表にまと
めよ。
¶ 例
³
表○△
VC の位相特性の測定結果
周波数
振幅
周期
遅れ時間
位相差
f / Hz
VC / V
T /s
∆T / s
φC / rad
µ
´
RLC 回路 – 8
5 課題
(1) (9) 式を導け。
(2) (12) 式を導け。
(3) (17) 式を導け。
(4) 4.1 (2) の表から,ローパスフィルタおよびハイパスフィルタそれぞれについて,|H(f )| と
周波数 f [Hz] の関係を片対数グラフにプロットせよ(周波数を対数軸にとる)。また,グラ
√
フから,カットオフ周波数(1/ 2 に減衰する周波数)f0 [Hz] を求めよ。
※ ローパスフィルタおよびハイパスフィルタのグラフは 1 枚のグラフ用紙に描いてもよ
いが,記号を区別するとともに凡例を付すこと。
※ 図 2,図 3,図 5 では横軸に角周波数の比 ω/ω0 をとっているが,作成するグラフの
横軸は周波数 f [Hz] とすること。以下,課題 (5),(6),(7) も同様。
(5) 4.1 (2) の表から,ローパスフィルタおよびハイパスフィルタそれぞれについて,位相差
θ [rad] と周波数 f [Hz] の関係を片対数グラフにプロットせよ。
(6) 4.2 (1) の表から,VC および VR それぞれについて,振幅 V [V] と周波数 f [Hz] の関係を片
対数グラフにプロットせよ(周波数を対数軸にとる)
。また,グラフから,共振周波数 f0 [Hz]
を求めよ。
(7) 4.2 (1) の表から,VC および VR それぞれについて,位相差 φ [rad] と周波数 f [Hz] の関係
を片対数グラフにプロットせよ。
6 考察
(1) 課題 5 (4) でグラフから求めたカットオフ周波数 f0 [Hz] と,結果の整理 4.1 (1) で計算から
求めたカットオフ周波数 fc [Hz] とを比較し,結果について考察せよ。
(2) 課題 5 (7) で作成したグラフから,VC の位相 φC [rad] と VR の位相 φR [rad] の間にはどの
ような関係があるか述べよ。
(3) RLC 直列回路において,VR ,VL ,VC の位相 φR ,φL ,φC [rad] は互いにどのような関係
になるべきか,式に基づいて述べよ。
(4) その他,気づいた点があれば自由に考察せよ。
RLC 回路 – 9
MEMO
RLC 回路 – 10
2. トランジスタの静特性と増幅器の設計
(1) 目的
半導体素子であるトランジスタを用いた増幅器を設計・製作し、特性を測定
することでトランジスタの基礎特性を理解する。
(2) トランジスタについて
トランジスタは 3 つの端子、ベース(B)、コレクタ(C)、エミッタ(E)を持つ半
導体素子で主にスイッチング素子や増幅素子として利用される。スイッチング
素子の例として、LED 点滅回路のような簡単なものから数十億個ものトランジ
スタからなっているパーソナルコンピュータの CPU などまで様々な用途で利用
されている。
本実験では、実験一週目にトランジスタの静特性(直流特性)を測定し、その実
験データを元に増幅器設計を行い、実験二週目に増幅特性についての実験を行
ってトランジスタの基本動作や増幅素子としての特性を理解することにする。
実験一週目に必要な実験を行っておかないと二週目の実験を行えないので注意
すること。
トランジスタの構造を図 1 に、本実験で用いる npn 形トランジスタ 2SC372 の
外観写真を図 2 に示す。
p
コレクタ C
n
エミッタ E
p
n
p
n
エミッタ E
コレクタ C
ベース B
ベース B
E
C
E
C
B
B
(a) pnp 型トランジスタ
図1
(b) npn 型トランジスタ
トランジスタの構造と回路記号
トランジスタ‐1
図 1(a)のように n 形半導体の両側を p 形半導体で挟んだ形の pnp 形トランジス
タと図 1 (b)のように p 形半導体の両側を n 形半導体で挟んだ形の npn 形トラン
ジスタの 2 種類がある。両者のトランジスタは回路記号も区別されており、図 1
のように電流の流れる方向を示した矢印
の向きが異なっている。pnp 形トランジス
タと npn 形トランジスタは、この電流の
流れる向きが逆になるだけで基本的な動
作は同じである。トランジスタの名称が
2SA、2SB で始まるものが pnp 形トランジ
スタ、2SC、2SD で始まるものが npn 形ト
ランジスタである。本実験では npn 形ト
ランジスタを用いる。図 1 では回路記号
E
に○記号が描かれているが、○記号を省
C B
略している場合も多い。また記号ではベ
ースが中央になっているが、実際のトラ
図 2 トランジスタの外観写真
ンジスタ(2SC372)では図 2 のようにベー
スが中央ではないことに注意すること。
負荷抵抗
図 3 は npn 形トランジスタを二つのダ
イオードを用いて等価的に表現した図
である。トランジスタを動作させるとき
にはベース・エミッタ間(エミッタ接合)
IE
IC
に直流電圧を順方向にかけ、ベース・コ
E
C
レクタ間(コレクタ接合) に直流電圧を
逆方向にかけて使用する。このように直
IB
流電圧をかけることをバイアスすると
B
いう。図 3 の場合、順方向にバイアスさ
れたベース・エミッタ間には電流 IE が
図 3 npn 型トランジスタの等価表現
流れ、逆方向にバイアスされたベース・
コレクタ間には電流 IC が流れないことになる。しかし、実際のトランジスタで
はベース領域の厚さが非常に薄いため、エミッタからベースに流れ込んだキャ
リア(この場合は電子)のほとんどはベース領域を通り抜けコレクタ領域に到達
する。このためベース・コレクタ間は逆バイアスされているにもかかわらずコ
レクタ電流 IC が大きく流れる。コレクタ領域に到達しなかったわずかな電子は
ベース内でホールと再結合し消滅する。この消滅したホールを補うためベース
に新たなホールを供給することになる。このようにベース電流 IB を流すことで
コレクタ電流 IC を流し、制御することができる。
コレクタ電流 IC はコレクタからエミッタに向かって流れ、またベース電流 IB
もエミッタに向かって流れる。したがって、エミッタ電流 IE とコレクタ電流 IC、
ベース電流 IB の関係は、
IE = IC + IB
・・・
(2.1)
トランジスタ‐2
となる。また、エミッタ電流増幅率 とコレクタ電流増幅率 は、
=
IC /
IE
・・・
(2.2)
= IC /
IB
・・・
(2.3)
で定義される。この と はトランジスタの特性を決める定数で、 ≒1 の値で、
= 1 / (1 - )
・・・
(2.4)
の関係である。これより、 は 100 程度の値を持ち、トランジスタを用いるとき
に重要なパラメータである(電流増幅率 は hfe の記号を用いる
こともある)。
【設問 1】
図 4 のような pnp 形か npn 形かが不明な未知トランジスタあ
るとする。このトランジスタが pnp 形か npn 形なのか
を回路テスタだけを用いて判別する具体的な方法を考
図 4 未知のトランジスタ
えよ。
IC
(3) 静特性実験
mA
RC
実験 1
図 5 に示す回路を作製し、ト
IB
RB
VCC
ランジスタの静特性(直流特性)
を測定する。トランジスタには
A
npn トランジスタである 2SC372
VCE
を用いる。
VBB
VBE IE
ベース電流 IB を 0 A、20 A、
40 A、60 A、80 A、100 A と
し、それぞれのベース電流一定
の場合について、コレクタ電流
図 5 トランジスタの静特性実験回路
IC を変化させて IC と VCE の関係
表 1 実験 1 のデータ整理例
(IC - VCE 特性)を表 1 のように整理し、
作図する(図 6 参照)。RB には 56k を、
RC には 510 を接続し、RE 部分は必ず
短絡(ショート)する。VCE が 0V~1V
の範囲で IC が急激に変化するので詳
細に測定すること。なお、コレクタ電
流 IC は mA 計で、ベース電流 IB は A
計で測定すること。
次に、VCE を 3V に固定してベース
電流 IB を変化させ、VBE の値を、デジ
タルマルチメータを用いて測定し、IB
- VBE 特性の図を作成すること。
トランジスタ‐3
【設問 2】
実験 1 で測定した IB - VBE 特性は、半導体のどのような特性を表していると考
えられるか。図 3 の等価表現を参考に考えよ。
IC1
IC
実験 2
図 5 の回路において、
RC=510 を RC=1k に
取り替え、VCC を 10V
に固定する。ベース電
負荷直線
流 VBB を変化させると
IC と VCE が変化する。こ
動作点
の IC と VCE の関係を測
定する。このときの測
定点は 4 点、5 点ぐらい
をとること。
同様にして RC=2k 、
RC=3k の場合でも IC
VCE
VCE1
VCC
と VCE の関係を測定す
図6
IC - VCE 特性
る。この IC と VCE の関
係を実験 1 で求めた IC VCE 特性の図中に記入する。RC=1k 、RC=2k 、RC=3k の実験データがそれぞ
れ直線的に変化していることを確認すること。もし、測定点が直線上に乗って
いない場合には測定し直すこと。この直線を負荷直線(負荷抵抗直線)と呼ぶ。
【設問 3】
この負荷直線の傾きは何を意味しているのかを考えよ。
(この後の実験 3 で必要になる。)
負帰還 (negative feedback)
図 5 の回路にて、エミッタに直列に抵抗 RE を接続した図 7 の回路を考える。
≒1 の値であるから、(2)式より
IC≒IE ・・・ (3.1)
となる。ここで図 7 より
IC= (VCC -VC)/RC
・・・
(3.2)
であるから、RE の両端子間の電圧は
VC - VCE = RE・IE≒(VCC - VC )・RE / RC ・・・ (3.3)
トランジスタへの入力電圧を Vin とすると、Vin は VBB より RE の両端子間の電圧
を差し引いた電圧になるので、
Vin = VBB - (VC - VCE) = VBB - RE・IE
・・・(3.4)
となる。
トランジスタ‐4
ここで、IE ≒ IB 、IB = VBB / RB より
Vin = VBB - RE・IB ≒VBB - RE・VBB / RB ・・・ (3.5)
となる。
(3.5)式を見てみ
IC
mA
ると、トランジスタ
への入力電圧 Vin は
RC
VBB から入力電流に
比例し た電 圧を差
IB
VCC
し引い た値 になっ
RB
ている こと がわか
A
VCE
る。出力の一部ある
いは全 部を 入力に
VBE
VC
戻すこ とを 帰還と
VBB
IE
言い、このように入
RE
力電圧 から 入力電
圧に比 例した値を
差し引きし、入力電
図 7 エミッタ抵抗を接続した回路
圧より 小さ な値を
帰還す る場 合を負
帰還(negative feedback)と言う。
実験初日はここまでの実験を全て終え、実験データより図を作成、下記の負荷抵
抗値および k 値を決め、次週の「(4) 増幅器の設計」準備をすること。
(4) 増幅器の設計
実験 2 までで求めた実験値を用いて、トランジスタを用いた増幅器を設計し、
設計値に基づき回路を組み立てて増幅実験を行う。負荷抵抗 RL として下の表よ
り各グループで一組の RC と RE の組み合わせを選択し、この後の実験では選択し
た抵抗器を用いて回路を作製する。RC と RE の組み合わせは各一組しかないので、
他のグループと同じ組み合わせを選択しないようにすること。
No.
RC
表2
RE
1
2
3
1k
1.2 k
1k
680
620
510
4
5
6
7
1.2 k
1.2 k
1k
1.2 k
390
300
200
200
負荷抵抗値
負荷抵抗
トランジスタ‐5
RL=RC+RE
選択(○印)
実験 1 で求めた IC - VCE 特性グラフ中に、各グループで選択した負荷抵抗 RL
の負荷直線を引く(【設問 3】を参考にすること)。ここで VCC=10V とし、負荷直
線上で VCE1= VCC /2= 5V との交点を求め、その縦軸値 I C1 を読み取る。この交点
を動作点と呼ぶ。
I C1 = (
) mA ・・・
(4.1)
また IC - VCE 特性グラフから、この動作点を通ると考えられる I B の値を見積もり、
これを I B1 とする。(VCE1= 5V の直線と各 I B の交点の値から見積もる。)
I B1 = (
)
A ・・・
(4.2)
実験 1 で求めた IB - VBE 特性より、この I B1 を流すのに必要な VBE を求め、これ
を VBE1 とする。
VBE1 = (
) V ・・・
(4.3)
図 8 における VB は、
VB = VBE1 + RE・IE ・・・ (4.4)
で与えられ、(3.1)式の IC≒IE を用いると、
VB≒VBE1 + RE・IC
= VBE1 + RE・IC1・・・ (4.5)
となる。この(4.5)式に上で求めた値をそれ
ぞれ代入することで VB を決めることがで
きる。
VB = (
) V ・・・ (4.6)
この VB をベースバイアス電圧という。VB
を供給するには、図 9 に示すように分割抵
抗 RX、RY を用いて VCC を分割して行う。
図 9 の B 点においてキルヒホッフの第 1
法則を適用すると、
IX = IB + IY
・・・ (4.7)
となる。また、
VB = RY・IY
・・・ (4.8)
VCC = VB + RX・IX ・・・ (4.9)
となる。方程式が(4.7)、(4.8)、(4.9)の 3 つ
であり、未知変数は IX、IY、RX、RY の 4
つであるから、このままでは解を求めるこ
とができない。そこで経験的に
I X = k・I B ・・・ (4.10)
とおいて、k の値を与えてそれぞれの値を
求めることにする。ここでは k の値を 5~
8 程度の整数値に設定する。(各グループで
k の値を決定すること。)
k = (
) ・・・(4.11)
IC
RC
IB
VCE
VBE
VB
VC
IE
図8
VCC
RE
増幅器の設計
IX
RX
B
RC
IB
VCC
IY
トランジスタ‐6
RY
図9
VB
RE
設計用回路図
(4.7) 、(4.10)式より
I Y = I X - I B = (k - 1)・I B
・・・(4.12)
(4.10) 、(4.9)式より
RX = (VCC - VB) / (k・I B)
・・・ (4.13)
(4.12)式を、(4.8)に代入して、
RY = VB / { (k - 1)・I B}
・・・(4.14)
となり、RX、RY を決定できる。(4.2)、(4.6)、(4.11)および(4.13)、(4.14)より RX、
RY を計算すると、
RX = (
)
・・・(4.15)
RY = (
)
・・・(4. 16)
となる。各グループで数値を代入して実際に計算し、RX、RY を求めること。
レポートにはこの RX と RY の導出過程を整理して記載すること。
実験 3
上記「増幅器
の設計」で求め
RC
RX
た RX、RY および
選択した負荷抵
2.2 F
B
VCC
抗 RC、RE を用い
て図 10 に示す回
路を組み立てる。
Vout2
発振器
V
b
R
R
求めた抵抗値 RX、
Y
E
Vout1
RY と 同 じ 抵 抗
値の抵抗器がな
い場合には最も
図 10 交流増幅実験回路
近い値の抵抗器
を使用すること。コレクタ電流計部分と RB 部分を短絡するのを忘れないこと。
VCC=10V とし、発振器の電源を OFF にして①ベース電圧(Vb)、②out1(Vout1)、
③out2(Vout2)の 3 点における直流電圧を測定する。この測定値から「増幅器の設
計」で用いた値 VBE1 と VB を求め、設計値と比較をすること。両者が明らかに
異なる場合は回路を見直すこと。
実験 4
設計した抵抗値が正しく、実験 3 で Vout2 の直流電圧が適正なとき、この回路
は交流動作をする。発振器の電源を ON にし、発信周波数を 1kHz として、オシ
ロスコープを用いて①ベース電圧 Vb、②Vout1、③Vout2 の 3 点の交流電圧の大き
さを測定し、このときの波形を測定すること。①B 点の電圧 Vb が入力電圧で、
電圧②Vout1、③Vout2 が出力電圧である 。それぞれの出力での増幅度、位相差を
求めよ。ここで③における増幅度≒RC / RE とすることができる。増幅度の測定結
果と比較せよ。
トランジスタ‐7
図 10 の回路に対して、RE と並列に 10 F の電解コンデンサ CE を接続し、図
11 に示す回路を作る。このとき、電解コンデンサには極性(+と-)があるので間
違えないで接続すること。先ほどと同様に電圧を測定し増幅度を求めよ。電解
コンデンサを接続していないときと比較して③out2 の増幅度が増加しているは
ずである。このように out1 と GND の間に RE と並列に接続したコンデンサをバ
イパスコンデンサとよぶ。
RC
RX
2.2 F
B
VCC
発振器
RY
Vb R
E
CE
Vout2
10 F
図 11
バイパスコンデンサを付加した回路
【設問 4】
「1. RLC 回路の交流特性」実験の表 1 を参考にして、図 11 の抵抗 RE とコン
デンサ CE を並列に接続した回路部分のインピーダンスを角周波数 (= f )、RE 、
CE を用いて表せ。また RE 、CE は実際に用いた値、周波数は f =1kHz として、
この並列回路のインピーダンスを計算せよ 。
実験 5
図 11 の回路で発振器の周波数を 100Hz~1MHz の範囲で変化させながら、out2
の増幅度の変化を測定し両対数グラフ上にプロットせよ。このとき発振器の周
波数を対数軸上で等間隔になるように変化させて測定すること。
(5) 設問 1~設問 4 の解答をふまえて、実験全般にわたって実験結果について考
察せよ。
(6) 参考文献
はじめての電子回路
はじめて学ぶ電子回路
大熊康弘著 技術評論社
谷本正幸著 ナツメ社
トランジスタ‐8
3a. 熱起電力による電流がつくる磁場
1.目的
熱電効果のひとつである熱起電力(ゼーベック効果)と,電流により磁場が発生する現象
について,簡単な実験で視覚的に体感して理解を深める.
高温
低温
2.熱起電力
温度計には多数の種類があり,測定環境や方法に応じて使い分ける.ある物質(素子)の
測定可能なある物理量が温度によって一義的に決まっていれば,その素子は原理的には
温度計となり得るので,多種類あることも納得できると思う.実験・研究において汎用的に使
われる温度計のひとつに熱電対(ねつでんつい;thermocouple)がある.
金属中の自由電子が示す物理現象の多くは,この自由電子を容器中の気体分子と同様
に取り扱うことにより説明できる.ある金属の一
端を高温に,他端を低温に保持した状況を考え
高温
低温
る.気体は暖められると密度が減少し,冷やされ
(a) 気体分子や金属中の自由電子は高温
ると密度が増加する.このことはストーブ等で暖
側から低温側に移動する.色の濃淡で
これらの密度をあらわしている.
房中の室内において,暖められた空気が軽くな
って上昇し,対流が起こることから理解されるで
金属 A
あろう.金属中の自由電子も気体分子と同様に
振る舞い,高温側の自由電子は低温側へ流れ
ようとする.この温度差に応じた電子の流れや
すさは金属の種類によって異なる.したがって,
異種金属の両端を接合し,一端を高温に他端
金属 B
正味の自由電子の流れ
を低温にすると,差し引きの結果としてどちらか
(電流は逆向き)
の向きに自由電子が流れる(電流は逆向きに流
(b) 金属 A と金属 B とでは同一の温度差で
も,電子の移動しやすさに差があるの
れる).この現象のことをゼーベック効果
で,正味の電子の流れができる.
(Seebeck effect)という.この回路の一部を切断
するとその間に電圧が生じていることが判るが,
V
熱電対
この電圧を熱起電力(thermoelectric power)とい
う.この熱起電力を測定し,両端の温度差から
冷(零)接点
被測定物の温度を測定する温度計が熱電対で 電圧計
熱起電力
ある.図 1 には熱起電力および熱電対の原理を
(c) 熱起電力を利用した熱電対の原理.温
示している.
度測定点の他端は基準の温度にする
のが一般的で,例えば氷水を用いて
本実験では,市販の「熱電対」を用いた温度
0℃にし,そこでの熱起電力を電圧計
測定をおこなうわけではないが,この機会に図1
で測定し,規格との比較により温度を
(c)に示した一般的な温度測定原理についても,
求めることができる.
よく理解しておくこと.
図 1:熱起電力および熱電対の原理
温度測定点
熱起電力 - 1
3.実験原理
本実験では,鉄と銅で作製した熱
電対の両端に温度差をつけたときに
電流が流れ,かつその電流が温度
差に応じて変化することを確認する.
この熱電対は図 2 に示すようなヘ
ルムホルツ型コイルの形状に仕上げ 鉄
ている.ただし図は理想的な形であり,
𝑎
𝑎
銅
𝑦
2𝑎
2𝑎
𝜃
𝑥
銅
ヘルムホルツ
作製上の制約から実際には多少い
型コイル
鉄
びつな形をしている.実験セットは A,
(b)
(a)
B の 2 セットあり,それぞれの熱電対 図 2:銅と鉄で作製した熱電対.(b)は(a)を上から見た図
の写真を図 3 に示す.
で,中心に方位磁針を据えた状態を示している.
ヘルムホルツ型コイルとは直径2𝑎
の円形コイルが𝑎だけ離れており,電
流の向きが同じコイルである.ヘルム
ホルツ型コイルは,その中心部付近
に発生する磁場が一様(𝑥,𝑦が多少
ずれても値が変わらない)という特徴
を持つ.中心部の磁場の大きさ𝐻は
コイルに流れる電流の大きさ I に比例
し,比例定数を K とすると,
図 3:実験に用いる熱電対(A と B)
A
𝐻 = 𝐾𝐾
と表される.比例定数 K はビオ・サバールの法則を用いて計算すると,
𝑎2
1
𝐾=
3 = 0.716
𝑎
1 2 2
�𝑎 + �2 𝑎� �
B
(1)
(2)
となる.ここで,𝑎は図 2 に示したコイルの半径である.
コイルの中心部に図 2(b)に示すように方位磁針を置く.このとき磁針が地球磁場(地磁気)
の水平成分𝐻0 により北を向くので,磁針とコイルが平行(図において𝜃 = 0)になるように実
験装置の向きを調整する.この調整により𝐻0 の向きは𝑦軸に平行となる.ここで 2 カ所ある銅
と鉄の接合部に温度差をつけると一方向に電流が流れ,中心部に𝑥軸方向の磁場𝐻をつく
る.𝐻0 は磁針を𝑦軸方向に,𝐻は𝑥軸方向に向けようとし,磁針に働くモーメントが釣り合った
ところで磁針は止まる.このとき磁針が𝑦軸と成す角を,図 2(b)に示すように𝜃とする.
磁針の両端の磁荷(磁気量,磁極ともいう)の大きさを𝑞𝑚 とし(N 極に+𝑞𝑚 ,S 極に−𝑞𝑚 ),
磁針の長さを𝑙とすると,磁針は S 極から N 極に向かって
(3)
𝒎 = 𝑞𝑚 𝒍
の磁気モーメントを持つ.ここで太字にした𝒎, 𝒍はベクトルを意味しており,その向きはとも
に S 極から N 極の方向を正とする.磁場𝑯の中に置かれた磁気モーメント𝒎には回転させよ
熱起電力 - 2
うとする力,トルクが働く.このトルク𝑻は,
(4)
𝑻= 𝒎×𝑯
で与えられる.磁針が静止しているということは,地球磁場によるトルク𝒎 × 𝑯0 と,電流の作
る磁場によるトルク𝒎 × 𝑯とが釣り合っている(大きさが等しく向きが反平行),
(5)
𝒎 × 𝑯0 + 𝒎 × 𝑯=0
ことを示している.ここで𝒎は𝑥𝑥平面内のベクトル,𝑯0 は𝑦軸に,𝑯は𝑥軸に平行なベクトルな
ので,𝒎 × 𝑯0 も𝒎 × 𝑯も𝑧軸(紙面に垂直で紙面の裏から表の方向)に平行なベクトルであ
ることに注意すると,
𝒎 × 𝑯0 = 𝑞𝑚 𝒍 × 𝑯0 = �
0
0
0
0
�
𝑞𝑚 𝑙𝐻0 sin 𝜃
0
0
𝒎 × 𝑯 = 𝑞𝑚 𝒍 × 𝑯 = �
�=�
�
𝜋
−𝑞𝑚 𝑙𝑙 sin � − 𝜃�
−𝑞𝑚 𝑙𝑙 cos 𝜃
2
となる.従って(5)式より
(6)
(7)
(8)
𝐻 = 𝐻0 tan 𝜃
の関係が成り立つ.熱電対全体の抵抗を𝑅,発生した熱起電力𝑉によって流れる電流を𝐼と
すると,オームの法則より𝑉 = 𝑅𝑅であるから,(1),(8)式を用いて
𝐻 𝑅
(9)
= 𝐻 tan 𝜃
𝐾 𝐾 0
となる.(9)式より,𝑅,𝐾,𝐻0 が既知の場合,𝜃を測定することで熱起電力𝑉を求めることがで
きる.
𝑅,𝐾は以下に挙げる作製した熱電対の形状に関する値や,銅,鉄の電気抵抗率から推
定することができる.𝐻0 については,下の 7)で与えた数値を用いよ.
1) 銅,鉄の丸棒の直径:8 mm
2) 銅棒の長さ A セット:0.888 m,B セット:0.902 m
3) 鉄棒の長さ A セット:0.167 m,B セット:0.138 m
4) ヘルムホルツ型コイルの半径:𝑎 = 30 mm
5) 銅の室温での電気抵抗率:1.8×10–8 Ω m
6) 鉄の室温での電気抵抗率:1.2×10–7 Ω m
𝑉 = 𝑅𝑅 = 𝑅
𝑆
※ 電気抵抗率𝜌は導体の長さ𝑙,断面積𝑆と𝜌 = 𝑅 𝑙 という関係にある.
7) 室蘭での地球磁場水平成分:𝐻0 = 21.5 A/m
〔参考〕磁束密度𝐵 = 𝜇0 𝐻を磁場と呼ぶ流儀もあるので注意せよ.その場合,地球磁場水平成分は
𝜇0 𝐻0 = 4𝜋 × 10−7 H m × 21.5 A⁄m = 27 × 10−6 Wb⁄m2 = 27 µT
となる.cgs 単位系では𝐵 = 𝐻という関係があり,𝐵0 =0.27 gauss,𝐻0 = 0.27 Oe である.
単位名称の確認-H:ヘンリー,Wb:ウェーバー,T:テスラ,Oe:エルステッド.
磁気の単位系は非常に複雑であり混乱するかもしれないが,一歩ずつ確かなものにしていってほ
しい.
熱起電力 - 3
4.実験
次の手順に従って,熱起電力による電流がつくる磁場が温度差によってどのように変化
するかを調べよ.なお,電動ポットと氷かき器は 2 グループ共同で使用すること.
実験 1
(1) 熱湯の準備
電動ポット内部に示されている上限まで水を入れ,電源コードを接続せよ.水道の
蛇口から直接入れられないときは,紙コップなどを使用して数回に分けて注水するこ
と.電源コードを接続すると,自動で湯沸かしが開始する.保温設定キーを 1 回押し
て,保温温度を 98 ℃に設定せよ(初期設定
は 90 ℃になっている).なお電動ポットに関
熱電対
する詳細は,机上の資料を参照すること.
(2) 支持台への設置(またはその確認)
青色のポリスチレン断熱材でできた支持台
方位磁針
に,2 個のビーカーを設置せよ.次にビーカ
ーにあてないように注意し,コイルの下半分
が支持台に埋まるように熱電対を設置せよ
(図 4 参照).熱電対と支持台はセットになっ
支持台
ているので,A は A に B は B に合わせて使
ビーカー
用すること.
図 4:支持台への設置方法
(3) 方位磁針の設置
方位磁針をコイルの中心部に設置し,N 極(赤く塗られた磁針の先端)が北を指すこ
とを確認せよ.実験室から見て H 棟の方角がほぼ南である.もし南北を正しく指して
いなければ,環境磁場の影響が考えられる.実験机の場所は,最も環境磁場が小さ
いところを選択しているので,付近に鉄製のもの(例えばペンチなど)が無いか確認
し,あれば遠ざけて再度磁針の向きを確認すること.
(4) 支持台の方向調整,方位磁針の目盛り方向調整
磁針の方向とコイルが平行になるように(図 2(b)において𝜃 = 0となるように),支持
台の向きを調整せよ.このとき両者が平行でさえあれば,支持台が北向きであっても,
南向きであっても構わない(実験のし易さで選択せよ).次に,方位磁針の N 極と方
角目盛りの N が合致するように,方位磁針を回転させる.
(5) 確認
以上の調整で,現在の状態から磁針が東西どちらかの向きに振れた場合,その角
度を方角目盛りで読み取れるはずである.角度を読み取る時は,最小目盛りの 1/5
程度まで読み取ること.確認して,良ければ先に進むこと.
(6) 氷水の注入(必ず熱湯より先に氷水を入れること)
実験室に置かれている冷蔵庫の冷凍室から製氷器を 4 個程度(2 グループで)と,
冷蔵室から水の入ったペットボトル(各グループ 1 本)を出してくる.流し台で製氷器
熱起電力 - 4
(7)
(8)
(9)
(10)
にたっぷりと水をかけ,氷を容器から取り出す(力は不要,容器との密着部を解か
す).氷かき器を用いて氷をかく.かき氷を西側のビーカーにペットボトルの冷水とと
もに入れ,攪拌できる程度のシャーベット状にする.ガラス棒で攪拌し,温度計(–
20℃~+50 ℃用)で 0 ℃を確認する.氷水は熱電対の銅と鉄の接合部がしっかり浸
かるまで入れること.実験中,0 ℃をキープするように,かき氷の補充,攪拌などをこ
まめに行う.水があふれそうな場合は駒込ピペットで底の方の水を吸い上げる.
磁針の確認
熱電対の 2 つの接点は片側はほぼ 0℃,もう片側は室温と温度差がついているので,
この時点で熱起電力が発生し電流が流れているはずである.この状態で方位磁針
を確認してみよ.もしどちらかに振れているのならそれはソレノイドコイル流れた電流
により磁場が発生したためだと考えられる.その角度と方向を記録しておくこと(東西
あるいは,氷水側(or 逆方向)という具合に).
熱湯注入前の準備
熱湯は最初の冷め方が早い.熱湯を注いだ後はすぐに測定を開始する必要がある.
以下の文章を熟読して記録の準備をした上で,熱湯を注ぐこと.98 ℃の保温設定を
していても,ビーカーに注ぐ過程ですぐに 80 ℃程度まで温度が下がってしまう.測
定は 80 ℃程度から 40 ℃程度まで 2 ℃間隔で行うこと.ノートに測定予定温度を書
き入れ,その横に磁針の振れ角を書き込めるように準備する.先ほどとは逆,即ち東
側のビーカーに温度計(0~+100 ℃用)と攪拌用ガラス棒を入れて準備する.
熱湯の注入
熱湯が 98 ℃で保温されていることを確認し,紙コップを用いて 2 回程度に分けて東
側のビーカーに熱湯を注入する.この時,火傷に十分注意すること.熱湯は熱電対
の銅と鉄の接合部がしっかり浸かるまで入れること.電動ポットは自動で給湯ロック
機能が働くタイプなので,ロック解除キーを押した後給湯キーを押せば,お湯が出る
ようになっている.
振れ角の測定
熱湯注入後,80 ℃程度から 40 ℃程度まで 2 ℃間隔で方位磁針の北方向からの振
れ角を測定する.このとき,振れの方向(東・西,あるいは熱湯・氷水側)も記録して
おく.お湯の温度を横軸に,振れ角の絶対値 θ を縦軸にとって,ラフで構わないの
でプロットしながら測定すると実験の流れがモニタできる.測定中,各ビーカー内の
温度が均一になるように,ときどきガラス棒で攪拌すること.いつでもかき氷が補充で
きるように,準備しておくこと.
実験 2
氷水と熱湯を注入するビーカーの位置を,実験 1 とは逆にして同様の測定をおこなう.
・ 温度計や方位磁針,熱電対などを支持台から外し,40 ℃以下のお湯が入ってい
るビーカーを支持台から抜き取って,お湯を流し台に捨てる.
・ 電動ポットのお湯が不足しそうであれば補充して再沸騰,98 ℃で保温しておく.
・ 氷水が入ったビーカーを西から東に移し換え,かき氷を足すなどして 0 ℃に調整
熱起電力 - 5
する.温度計を入れ替えることも忘れないこと.
・ お湯を捨て空いたビーカーを西側に設置する.
・ 実験 1 の手順に従って同様の測定をおこなう.
5.後片付け
・ 使用した製氷器,ペットボトルに水を満たし,それぞれ冷凍室,冷蔵室に戻す.
・ ビーカーのお湯・氷水を流し台に捨てる.
・ 電動ポットのお湯を流し台に捨てる.この際,学内の下水管は途中に塩ビ管を使
用している場合がある.塩ビ管に熱湯を流すと穴が開く恐れがあるのでので,水
道水を流しながら温度を下げて捨てること.
・ ビーカーの水気を布で拭き取る.
・ 熱電対の鉄の部分に赤さびが浮き出てくる場合があるので,これを布で拭き取る.
・ 布を水洗いし,絞って実験机の隅に掛けておく(掛けるのは退室時で構わない).
・ ビーカーと熱電対を支持台に設置しておく.
6.課題(結果の整理)
1. 低温側の温度が測定中 0 ℃に保たれていたと仮定すると,高温側(お湯)の温度𝑇H が
そのまま温度差∆𝑇 (𝑇H = ∆𝑇) になる.実験 1,2 の振れ角の絶対値 𝜃を∆𝑇に対してプ
ロットし,図 5 の様に整理せよ(Set A or B を明記すること).
2. 振れ角 𝜃から(8)式を用いて発生した磁場の大きさ𝐻を計算し,これを温度差∆𝑇に対し
てプロットし,図 6 のように整理せよ.
3. 温度差が 40 K,50 K,60 K,70 K,80 K のときの発生磁場𝐻を実験 1,2 の結果の平均
値として求め,また各温度差での電流𝐼および熱起電力𝑉を計算し,表にまとめよ.この
時,𝑅,𝐾の計算過程と結果も合わせて示すこと.𝐼,𝑉,𝑅,𝐾の単位も忘れずに示すこと.
図 7:発生磁場の温度差依存性
図 6:振れ角の温度差依存性
熱起電力 - 6
7.設問
(1) 実験 1,2 において磁針が振れたのは,お湯側か,氷水側か?またその結果から,
高温側接点から見たときに,電流は銅,鉄のどちらに向かって流れていると結論され
るか?電流と電子の流れの向きが逆であることや,コイルが巻いている向きに注意し
て答えよ.
(2) 今回の実験で,高温側の温度が𝑇1 の時𝜃 = 30°であったとする.熱電対を構成して
いる銅,鉄丸棒の直径が今回のものの半分である 0.4 cm の場合について考える.コ
イルの形状等が全く同じである場合,𝑇1 における振れ角𝜃 ′ を推測せよ.
ヒント:熱起電力は導体の材質が均質であれば,両端の温度差だけで決まり,導体
の長さや太さに依存しない,つまり𝑉は変化しない.一方丸棒の径が変わると𝑅は変
化するので,𝐼,𝐻,𝜃が変化する.
(3) お湯が冷める速度について,気がついたことを述べよ.
(4) ヘルムホルツ型コイルが中心部付近に作る磁場を計算せよ.
8.考察
実験全般にわたって,自由に考察せよ.例えば次に挙げる事項も考察の題材となり得る.
・今回の実験でデータのばらつきが大きかったのは,何に起因するのだろう?
・何故,今回の実験では銅と鉄を用いたのだろう?
・物質の冷却のされ方には,何か法則のようなものがあるのだろうか?
・どういう物質が大きな熱起電力(熱電能)を発生させるのだろう?
・温度測定用の熱電対を作成する場合,どういう組み合わせが有利なのだろう?
・熱電効果には,他にどのようなものがあるだろうか?
・熱電効果は他にどのようなことに利用され得るだろうか?
9.レポートの関して
 本実験レポートに限らず人に提出する文章とは,提出した相手に読んでもらう為に提
出するものであることを心得よ.こちらが(私が)読む気になるかどうかも採点対象であ
る.
 レポートは手書きでもワープロ書きでも構わないが,ワープロを使用した場合,体裁の
美しさに関して当然のごとく,手書きのレポートより高い完成度が求められる.『自分の
使っているソフトでは出来ない』,『やり方が判らない』のならば,そんな機能が不十分
な or 自分が満足に使いこなせないソフトなど初めから使うな.
 グラフは紙を縦方向に使用し,1 ページに 1 枚,紙の中央に大きく描くこと.
 物理量の表記の仕方や単位の取り扱い方に関して,実験テキストの『物理量の表記』
に従うこと.
 装置の図などを実験テキストからスキャナで取り込んでいるレポートを頻繁に拝見する.
『綺麗な図をレポートに載せよう』という態度はある程度評価したいが,学生実験のレポ
ートの目的の 1 つに君らの教育がある.図を単にスキャナで取り込むのと,実際に用い
熱起電力 - 7
た実験装置を思い出しながら実験テキストの図や参考文献の図を参考に自分で装置
の図を描くのとでは,どちらがより君らの勉強になるのか,よく考えること.
 近年いわゆるインターネットの発達に伴い有用な情報が web に掲載されることも多くな
った.しかし一方,web に掲載される情報の多くは誰かに査読された訳でもなく玉石混
淆の状態にあるともいえる.レポートを書く際に参考にするのは構わないし,参考にし
たのならそれはそれで参考文献として挙げるべきだが,どのような文献や web サイト
を参考にしたかということ自体,君らの評価の対象となっていることを気に留めよ.もし
情報の良し悪しを見極めるだけの知識を持ち合わせていないのなら(そして君らの大
半はそれだけの知識を持ち合わせていないからこそ高い授業料を払ってわざわざ大
学に通っているのではないか?),web サイトの情報だけを参考にレポート etc を作成
するのはやめておくことをお勧めする.
 グラフを描くのに何故か皆さん Microsoft Excel がお好きなようだが,グラフが美しくな
いので代わりとして例えば Plots32 や gnuplot というフリーウェアを挙げておく.
 『定義値』,『理論値』,『文献値』etc といった言葉を正しく使い分け文章を書くこと.
定義値:言葉通り,その値であると定義されている物理量.真空中の光の速度
𝑐 = 2.99792458 × 108 m/sや,標準重力加速度の大きさ9.80665 m/s2 など.
理論値 何らかの理論から予言される物理量の値.狭義には一切の観測値を用いず理
論からのみで予言される値.広義には理論から予言される関係式の中に実験から決め
られるべき物理量が 1 つまたは複数含まれており,実験から決められるべき物理量とし
てある値を採用した時に予想される値.いずれの場合も理論値と言う言葉を用いる時は
どのような理論に基づいた理論値なのか記述がなければ何の意味もない.
文献値 信頼の置ける論文,便覧,データ集に収録されている,実験から決定された物
理量.その論文や便覧やデータ集が出版された時分には充分吟味された信頼の置け
る値だったかもしれないが,その後の科学の発展により値が変化していることもある.
熱起電力 - 8
3b.気体の熱容量比
1.目的
気体の体積を急激に変化(断熱圧縮)させ,定圧熱容量𝐶𝑝 と定積熱容量𝐶𝑉 との比
𝛾 ≡ 𝐶𝑝 /𝐶𝑉 を実験的に求める.また,真空関連装置の取り扱いにも慣れる.
2.実験のねらい
自転車のタイヤに空気を入れるとき空気入れの筒の根元が熱くなる.また,ディー
ゼルエンジンの点火には断熱圧縮が利用されている.これらの現象と類似した,風船
を用いた断熱圧縮モデルの実験を行い熱力学の基礎を学ぶ.風船内の気体の圧力と温
度を断熱変化の前(A)と後(B)で測定し,圧力と温度に関するポアソン(Poisson)の関係
を用いて熱容量比𝛾 ≡ 𝐶𝑝 /𝐶𝑉 を求める.
3.測定原理
圧力-温度(𝑝- 𝑇)状態図において断熱変化の前
後の A,B 点において圧力𝑝と温度 𝑇とを測定する.
4.実験装置と測定手順
図 2 に示すようにガラス容器中に風船が入って
おり,この中の気体に注目して実験をおこなう.
以下の実験(1 回のスマッシュ)を一人一人が順
番に行い(他のメンバーは補助),別紙のデータ計
算・記録表にまとめること.全員が 1 スマッシュの実
験を行い,𝛾の計算を終えてなお時間に余裕があ
るときは,時間の許す範囲で実験を繰り返すこと.
C
𝑇 = 一定
熱容量比
(1)
(2)
B
𝑝
Poisson の関係
𝑝A1−𝛾 𝑇A 𝛾 = 𝑝B1−𝛾 𝑇B 𝛾
𝑝A 𝑉A 𝛾 = 𝑝B 𝑉B 𝛾
ln(𝑝B /𝑝A )
γ=
ln(𝑝B /𝑝A ) − ln(𝑇B /𝑇A )
A
𝑝1−𝛾 𝑇 𝛾 = 一定
T
図1:𝑝- 𝑇状態図
[1] バルブ C1 を通して測定用の気体を風船内に閉じ込める.
C5(ゴム栓)を外した状態で,C1 に付いているゴム管の先から空気入れ(手動ポン
プ)を用いて空気を入れ,風船を小さく膨らませて C1,C5(ゴム栓)を閉じる.
[2] 真空ポンプにより風船の外部を減圧し,風船を膨張させる.
バルブ C2,C3,C4 を閉めて真空ポンプのスイッチをオンにする.バルブ C2 を開ける.
バルブ C3(圧力調整減圧バルブ)を数分かけるつもりで徐々に開け,風船がガラス
容器内の壁に接する程度まで膨張したら(圧力が 90 kPa 程度になる方が早ければ
熱容量比 - 1
T:温度計
C2
C4
C5
P:圧力計
C1
C3
真
空
ポ
ン
プ
風船
ガラス瓶
図 2:実験装置
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
そこまで),バルブ C3 および C2 を閉じる.この状態まで来たら,C2 から真空ゴム管を
外してもう一方のグループの装置の C2 につなぎ変えることができる.
風船内の気体の温度がほぼ一定に(ほとんど変化しなく)なるまで待ち,その時(図
1 の状態 A)の温度𝑇A と圧力𝑝A を温度計 T と圧力計 P でそれぞれ測定する.
バルブ C5 を全開し風船の外部に空気を急激に注入し,風船を収縮させる.C5(ゴ
ム栓)をためらうことなく,一気に外す.
このとき,図 1 の状態 B に対応する最大値の温度𝑇B およびこれに対応する圧力𝑝B
を温度計 T と圧力計 P で読み取る(机上の資料の「温度計について」,「圧力計に
ついて」を参照).
操作者を変えて[1]~[5]の実験を繰り返す.真空ポンプは 2 グループで交互に使
用すること.
全実験が終了したときは,真空ポンプのスイッチをオフにし,C1~C5 の全バルブを
開ける.C5 のゴム栓はその後,軽くはめておく.
5.実験結果の整理
𝑇A と𝑝A および𝑇B と𝑝B を記録し,(2)式を用いて𝛾を計算せよ.別紙のデータ記録・計算表を
利用し,計算の過程も全て埋めること.また,レポートにはデータ記録・計算表を添付するこ
と.これを「実験結果」と「課題」(「課題・設問」の半分)に充当して評価する.レポート本文中
には実験結果,課題の項目を記さなくてよい.
6.測定例
測定例を下に示す.装置が理想的な断熱容器でないため,(2)式から得られる𝛾の値は理
論値から外れると予想される.理論値と異なるからといって実験が失敗だと安易に決めつ
熱容量比 - 2
けないようにせよ.断熱圧縮と熱容量比について理解し,実験装置の不完全さが測定結果
にどのような影響を及ぼすのか体感できればよい.
𝑇A = 273.2 K + 18.0℃ = 291.2 K,
𝑇B = 273.2 K + 40.0℃ = 313.2 K
𝑝A = 101.3 kPa − 65.0 kPa = 36.3 kPa, 𝑝B = 101.3 kPa + 1.0 kPa = 102.3 kPa
熱容量比𝛾 = 1.08(𝛾の値は不確かさを含むが,1 との違いをはっきりさせるために少数点
以下第二位まで示すこと).
7.設問 (「課題・設問」の半分に充当して評価)
[1] (1)式より(2)式を導け.
[2] 理想気体に限らず,一般の物質(気体,液体,固体)全てにおいて𝐶𝑝 > 𝐶𝑣 ,すなわ
ち𝛾 > 1となる.その定性的な理由を説明せよ.
[3] 本実験を,理想的な断熱容器を用いて行ったとする.用いた気体が理想気体だっ
た場合,気体の比熱比𝛾は以下の様になることが理論的に知られている:
5
単原子分子:𝛾 = 3
7
2 原子分子:𝛾 = 5
7
直線状の多原子分子(3 原子以上からなる分子):𝛾 = 5
4
非直線状の多原子分子:𝛾 = 3
その理由について,『気体分子の自由度』,『エネルギー等分配則』,『気体の比熱
比』等をキーワードに熱力学や物理化学の教科書で調べ,1~2 ページ程度にまと
めよ.
8.考察
今回の実験で得られた空気の𝛾は 1.1 程度だったのではなかろうか?この得られた値に
対し 2 つの立場,
A) 空気の𝛾の精確な値は 1.1 程度なので,今回得られた値はほぼリーズナブル
B) 空気の𝛾の精確な値は 1.1 とは大きく異なるので,実験装置や実験手順に何らかの
問題がある可能性がある
が考えられる.今回得られた実験結果からは A)と B)の考え方,どちらがより妥当と考えら
れるのか,以下の考察の指針に従って考察してみよ.
[1] 空気の𝛾の精確な値はどの程度だと理論的に予測されるのか?空気は窒素約
78%,酸素約 21%,アルゴン約 1%の混合気体であることを踏まえて予想せよ.
[2] 今回,本実験で用いた装置は理想的な断熱容器でない.従って本実験で得られ
た空気の𝛾は精確な値からずれてしまう.この時,この原因が単なる測定誤差なら
大きい方にも小さい方にもずれると考えられる.しかし,この装置(理想的でない断
熱容量比 - 3




熱容器)では必ず小さい方にずれる.その理由を以下のヒントを参考に考察せよ.
理想的な断熱容器なら風船が収縮する時,気体がなされた仕事は全て風船内の
気体の温度の上昇に使われる.
しかし,本実験で用いた容器は理想的な断熱容器ではない.従って気体がなされ
た仕事の一部は熱として外界に逃げる.その分気体の温度の上昇は小さくなる.
ではもっと極端に,風船が収縮する時気体がなされた仕事の全てが熱として外界
に逃げてしまった場合はどうなるだろう?風船の収縮前後の温度をそれぞれ𝑇A ,
𝑇B とすると,全てが熱として外界に逃げているので𝑇A = 𝑇B ,即ち等温変化となる.
この時,風船の収縮前後の変化を(1)式のように𝑝A 𝑉A 𝛼 = 𝑝B 𝑉B 𝛼 と書くと,𝛼の大き
さはどうなるのだろうか?
本実験における風船の収縮は,理想的な断熱変化でも理想的な等温変化でもな
い.このような変化(ポリトロープ変化と呼ばれる)の場合,(1)式のように𝑝A 𝑉A 𝛼 =
𝑝B 𝑉B 𝛼 と書くと,𝛼の取り得る範囲はどうなるのだろうか?
9.参考
[1] 圧力の単位
圧力(pressure)は,『単位面積当たりに加わる力の,その面に対する法線成分の大きさ』で
定義され,国際単位系(Système International d'Unitès;SI)では N m–2 や Pa 等が単位として
良く用いられる.圧力は古くから人々の関心の高い物理量の 1 つであり,SI が広く普及する
以前には各分野にとって使いやすい単位が用いられてきたし,現在でも SI 以外の単位も
様々な場面で用いられている.
・kg m–1 s–2,N m–2,Pa,J m–3
SI では圧力は,圧力の定義により SI 基本単位である kg m s–2 / m2 = kg m–1 s–2 を単
位として表される.SI では力の単位として SI 組立単位である N がよく用いられるので,
これを用いて圧力の単位を表すと N m–2 となる.SI ではさらに,これをあらためて Pa と
定義している.高圧力を扱う分野では SI 接頭語の G (109)や M (106)をつけた GPa や
MPa がよく用いられる.また気象の分野では後述の mbar との換算がし易いため,SI
接頭語の h (102)をつけた hPa がよく用いられる.又,Pa = J m–3 であり,『圧力は単位
体積当たりのエネルギー』と考えることも出来る.従って,理想気体の状態方程式
𝑃𝑃 = 𝑛𝑛𝑛は両辺ともエネルギーの次元を持つことがわかる.
・bar (バール)
cgs 単位系で用いられてきた圧力の単位で,その定義は 1 cm2 当たり 106 dyn の力
が加わった時の圧力を 1 bar ≡ 106 dyn cm–2 とするものである.SI ではないが,IUPAC
(International Union of Pure and Applied Chemistry,国際純正・応用化学連合)により
標準状態圧力(standard-state pressure,SSP)が 1 bar と定義されているので,熱測定の
分野では現在も盛んに用いられている.以前,気象の分野では mbar = 10–3 bar がよ
熱容量比 - 4
く用いられた.bar の定義により,1 mbar は正確に 1 hPa に等しい.
・mmHg,Torr (トール)
元々の定義は,『地球上にある,高さ 1 mm の水銀柱の底面に生ずる圧力を
1 mmHg』としたものであったが,この定義では用いる水銀の純度や測定地点におけ
る重力加速度の違い,水銀柱のメニスカス etc に起因する不確かさをある程度以上小
さくすることが大変困難となる.現在では正確に 760 mmHg = 101325 Pa と定義されて
いる.Torr も古くは様々な定義があったが 現在では正確に 1 Torr = 1 mmHg と定義さ
れている.mmHg と同じような考えの下で作られた単位として,cmHg や mH2O,inHg
といった単位(それぞれ 1 cm の水銀柱,1 m の水柱,1 inch (1 インチ = 25.4 mm)の水
銀柱)もある.
・atm,気圧
元々の定義は地球の地表における大気圧を 1 気圧(1 atm)とするものであったが,
当然このような素朴な定義では曖昧さが残る.現在の定義では 1 atm のことを標準大
気圧(standard atmosphere)と呼び,1 atm = 760 mmHg と定義されている.従って正確
に 1 atm = 101325 Pa でもある.
・kgf cm–2,kgw cm–2,kg cm–2
重力単位系に由来する単位であり,1 cm2 当たり 1 kgf の力が加わった時の圧力を
1 kgf cm–2 と定義する.kgf は kgw とも書かれる.又,重力単位系では力の単位である
kgf と質量の単位である kg とが長年混同されて用いられてきたこともあり,誤って
kg cm–2 と書かれることも多い.1 kgf cm–2 はほぼ 1 atm なので昔は盛んに用いられ
た.
・psi
ヤード・ポンド法に由来する単位で,その定義は,1 平方インチ(1 in2)当たり 1 重力ポ
ンド(1 lbf)の力が加わる時の圧力を 1 psi とするものである.psi は"pound per square
inch"の頭文字をとったものである.アメリカ等から装置やガスを輸入した場合,圧力の
単位として psi 又は inHg が使われている場合が殆どであるので,そういった装置を見か
けても吃驚しないように.
[2] 絶対圧力とゲージ圧力
絶対圧力とは,圧力の定義通り『単位面積当たりに加わる力の,その面に対する法線成
分の大きさ』で測られる圧力であり,完全に真空な容器では容器内の圧力は 0 である.一方
日常生活では,『容器の中の圧力が大気圧より高いのか or 低いのか or 等しいのか』の情報
の方が重要な場合もある.この様に大気圧を基準にして測られる圧力のことをゲージ圧力と
呼ぶ.大気圧はおよそ 0.1 MPa なので,ゲージ圧力 ≈ 絶対圧力 − 0.1 MPaとなる.
熱容量比 - 5
[3] 急激変化と断熱変化(空気を急に圧縮すると熱くなる)
本実験のように『風船内の空気を圧縮する』ということは,『風船内の空気が外界から仕事
をされる』ことと等しい.熱力学第 1 法則より,『風船内の空気の内部エネルギーの変化∆𝑈』
は『風船内の空気が外界からされた仕事𝑊』と『風船内の空気に加えられた熱𝑄(または風
船内の空気から外界に逃げていった熱−𝑄)』の和に等しい(∆𝑈 = 𝑊 + 𝑄).本実験では
『急激に(= 短時間で)風船内の空気を圧縮』したが,より理想的な場合,即ち『時間 0 で風
船内の空気を圧縮』した場合,その間に風船内の空気が外界とやり取りした熱は0(𝑄 = 0)
と考えることができる.従って∆𝑈 = 𝑊であり,外界からされた仕事𝑊の分だけ内部エネルギ
ーが上昇することが判る.理想気体では内部エネルギーは温度の単調増加関数なので,
内部エネルギーの増加は温度の増加に繋がる(断熱圧縮).
一方,ゆっくりと風船を圧縮した場合を考えよう.仕事をした分内部エネルギーが上昇し
温度が上昇するが,風船の内外で温度差がつくため風船の中から外へ熱が移動し(熱は温
度の高い方から低い方へ移動する),温度差が 0 になったらその熱の移動は止まる.理想
的にゆっくり(準静的に)風船を圧縮した場合,風船内の空気の温度は外界(熱浴)と等しい
まま圧縮される,即ち風船内の空気は温度変化しないこととなる(等温圧縮).理想気体で
は内部エネルギーは温度のみの関数なので,この場合圧縮の前後の内部エネルギーの変
化はで∆𝑈 = 0となる.従って−𝑄 = 𝑊となり,外界が風船にした仕事𝑊は全て熱となって風
船から外界に移動したことが判る.
断熱圧縮とは逆に,断熱膨張を繰り返し利用して極低温を生成することができる.どのよう
な断熱変化の現象があるか,気象観測などにも注目して注意深く観察してみよう.
[4] Poisson の関係式(1)は次のようにも記述される.
𝑝1 𝑉1 𝛾 = 𝑝2 𝑉2 𝛾 = 一定
𝑉1 (𝛾−1) 𝑇1 = 𝑉2 (𝛾−1) 𝑇2 = 一定
理想気体の断熱変化
理想気体の性質
𝐶𝑝 − 𝐶𝑉 = 𝑛𝑛
𝜕𝜕
� � =0
𝜕𝜕 𝑇
理想気体では内部エネルギー𝑈は𝑇だけの関数なので
𝜕𝜕
𝜕𝜕
𝜕𝜕
𝑑𝑑 = � � 𝑑𝑑 + � � 𝑑𝑑 = � � 𝑑𝑑
𝜕𝜕 𝑇
𝜕𝜕 𝑉
𝜕𝜕 𝑉
となり,𝐶𝑉 の定義より
𝑑𝑑 = 𝐶𝑉 𝑑𝑑
が成り立つ.ここで,断熱変化では𝑞 = 0なので
𝑑𝑑 = 𝑤 + 𝑞 = −𝑝𝑝𝑝 + 𝑞 = −𝑝𝑝𝑝
熱容量比 - 6
であり
𝑝𝑝𝑝 + 𝐶𝑉 𝑑𝑑 = 0
となる.理想気体の状態方程式𝑝𝑝 = 𝑛𝑛𝑛より𝑝 = 𝑛𝑛𝑛/𝑉を代入すると
𝑛𝑛
𝑑𝑑
𝑑𝑑
+ 𝐶𝑉
=0
𝑉
𝑇
ここに𝐶𝑝 − 𝐶𝑉 = 𝑛𝑛を代入し,𝛾 = 𝐶𝑝 /𝐶𝑉 を代入すると
𝑑𝑑 𝑑𝑑
+
=0
𝑇
𝑉
状態 1(体積𝑉1,温度𝑇1 )から状態 2(体積𝑉2,温度𝑇2 )への断熱変化を考える.上式を状態
1 から状態 2 まで積分して
(𝛾 − 1)
𝑉2
𝑇2
𝑑𝑑
𝑑𝑑
(𝛾 − 1) �
+�
=0
𝑉
𝑇
𝑉1
𝑇1
𝑉2
𝑇2
∴ (𝛾 − 1) ln � � + ln � � = 0
𝑉1
𝑇1
𝑉2 (𝛾−1) 𝑇2
∴ ln �� �
� �� = 0
𝑉1
𝑇1
𝑉2 (𝛾−1) 𝑇2
∴� �
� �=1
𝑉1
𝑇1
∴ 𝑉1 (𝛾−1) 𝑇1 = 𝑉2 (𝛾−1) 𝑇2
従って断熱変化では𝑉 (𝛾−1) 𝑇は変化しない,即ち𝑉 (𝛾−1) 𝑇 = 一定であることが判る.さらに
𝑝𝑝 = 𝑛𝑛𝑛の関係を用いることにより,
であることが判る.
𝑉 (𝛾−1) 𝑇 = 一定
𝑝𝑉 𝛾 = 一定
𝑝(1−𝛾) 𝑇 𝛾 = 一定
10. レポートに関して
『3a. 熱起電力による電流がつくる磁場』の『9. レポートに関して』に準拠してレポートを作
成せよ.
熱容量比 - 7
4. 生体分子科学実験Ⅰ
1.概説
「われわれにとってもっとも身近なバイオ材料はタンパク質であろう。タンパク質
は生物の体を形作ったり、生命活動を支える化学反応の触媒となったり、病原菌か
ら体を守ったり、という具合に、さまざまな働きをしている。工学的に見ればこれ
は「分子機械」である。このミクロな機械の設計図は、DNA に書き込まれている。
これを人間が書き換えることによって、
「分子機械」を大量に生産したり、改造して
性能を上げたりするための技術が、遺伝子工学である。」
岩波書店 岩波講座現代工学の基礎 バイオ材料の基礎
p7.
「 遺 伝 子 工 学 (Genetic engineering) は 組 換 え DNA 技 術 (recombinant DNA
technology)ともいわれ、バイオテクノロジーの代表的な技術である。1970 年代ま
でに DNA 解析は最も難しいものの一つであったが、この技術の開発によって、DNA
の切り出し、増幅、塩基配列の決定、塩基配列の変換、細胞への導入、単離した DNA
を利用したタンパク質の大量発現、タンパク質の構造と機能相関など多岐にわたる
研究が可能になった。」
科学同人 生化学 –基礎と工学-
p227
2.実習内容
遺伝子工学、タンパク質工学の基礎となる DNA の取り扱いを学ぶ
2-1. 大腸菌よりプラスミド DNA の調整
振とう培養した大腸菌試料(3 ml)を用いて、プラスミド DNA を精製する。
ピペットマン・微量高速遠心機の使用方法
アルカリ SDS(スピンカラを用いた市販キットを使用する。)
2-2. プラスミド DNA の分光学的定量
可視分光光度計の使用方法、吸光度の意味、
DNA の吸収、DNA の分子量及び DNA の濃度計算から得られた量を計算で求める。
生体‐1
2-3. 制限酵素処理したプラスミド DNA のアガロース電気泳動
制限酵素による DNA の切断とアガロースゲル電気泳動
適時、説明を行なうので、注意してメモすること。
レポートとして、実習開始時に配布する「実習記録」を提出してください。
生体‐2
3.実験
3-1. 大腸菌よりプラスミド DNA の調整
実験の理解すべき項目
:プラスミド DNA、遠心機の使用方法、ピペットマンの使用方法
A)
Labo PassTM Mini CMP
B)
卓上高速遠心機
C) 1)Overnight で 3 ml 振とう培養した大腸菌 1 ml を 1.5 ml tube に分注する。
その後、12 Krpm、1 分間遠心する。
2)遠心後、上清を流しに捨て、培養液 1 ml を先程の tube に分注し、12 Krpm、
1 分間遠心する。
3)再度、2)の作業を繰り返す。
4) 250 l の Buffer S1 を加え、懸濁する。
5) 250 l の Buffer S2 を加え、7 回上下に振とうする。
6) 350 l の Buffer S3 を加え、激しく 10 回振とうする。
7) 12 Krpm、5 分間遠心する。
8) Filter をサポートにのせて、この中に 7)の上清を分注し、12 Krpm、1 分間
遠心する。(使用していた 1.5 ml tube は保存)
9) 500 l の Buffer AW を加え、12 Krpm、1 分間遠心する。
10) 750 l の Buffer PW を加え、12 Krpm、1 分間遠心する。
11) Filter を 8)で保存していた tube に入れ、12 Krpm、1 分間遠心する。
12) Filter を新しい 1.5 ml tube にのせて、100 l 滅菌水を加える。
13) 約 1 分間、室温で静置した後、12 Krpm、1 分間遠心する。
14) tube に溶出されたプラスミド DNA 溶液が得られる。
生体‐3
各 Buffer(緩衝液)の組成:詳細はメーカーの企業秘密で明らかではないが、基本的
には以下の組成のバリエーションである。
Buffer S1 : 大腸菌等張液:0.05 M Glucose、0.01 M EDTA、
25 mM Tris-HCl pH 8.0、RNase
Buffer S2 : 0.2 N NaOH、1 % SDS(界面活性剤)
Buffer S3 : 0.3 M CH3COOK
Buffer AW : 0.75 M NaCl、50 mM MOPS、15 % EtOH、pH 7.0、
0.15 % Triton X100 (界面活性剤)
Buffer PW : Triton X100 を含まない Buffer AW
3-2.プラスミド DNA の分光学的定量
実験の理解すべき項目
:可視分光光度計の使用方法、吸光度の意味、DNA の吸収、
DNA の分子量、濃度計算
A) 分光光度機の名前
B) 1) UV-Mini のスイッチを入れて立ち上げておく。
2) キュベットをセットし、120 l 水を入れ baseline 補正を行なう。
3) 10 l 試料をキュベットに分注し、ピペットマンにより十分に懸濁する。
4) 測定を行なう。260 nm の吸光度を読む。
5) キュベット内の試料をピペットマンで捨てる。
6) 120 l 水を入れ、ピペットマンを用いて洗浄し、その後洗浄液を捨てる。
プラスミド DNA の濃度計算のための指標
A260(ピーク値)1.00 のとき
50 ng/l (2 本鎖 DNA)
37 ng/l (1 本鎖 DNA)
40 ng/l
生体‐4
(RNA)
3-3.制限酵素処理したプラスミド DNA のアガロース電気泳動
3-3-1 制限酵素による DNA の切断
実験の理解すべき項目:酵素の取り扱い方
制限酵素:特定の DNA の塩基配列を認識して 2 本鎖 DNA を切断するタンパク質。本
実験では EcoRI を用いる。この酵素は GAATTC と言う DNA の配列を認識・切断する。
酵素反応
1週目で調整したプラスミド DNA(100 l)を使用する。
A) 1) 反応液を調整する。(右の表を参照)
2) 37 ℃で 1.5 時間静置する。
3) 75 ℃で 10 分間静置し、酵素を変性
する。
10 x H Buffer : 500 mM Tris-HCl、100 mM MgCl2、
10 mM Ditiothreitol、
1 M NaCl pH 7.5
生体‐5
試料
7.0 l
酵素
0.5 l
10 x H buffer
1.0 l
滅菌水
1.5 l
計
10.0 l
3-3-2 アガロースゲルの作成と電気泳動
実験の理解すべき項目:
アガロース電気泳動の使用方法、アガロースゲルの作成
エチジウムブロミドの取り扱い
A) 1 x TAE (50 x TAE を dH2O で希釈する)
50 x TAE (1L)
Tris base
242 g
Acetic acid
57.1 ml
0.5 M EDTA (pH 8.0)
H2O
100 ml
up to 1 l
オートクレーブ滅菌
サンプルバッファー
60 % グリセロール
0.2 x TAE
0.02 % ブロモフェノールブルー(BPB)
0.02 % キシレンアノール(XC)
B) 電気泳動装置、電子レンジ、トランスイルミネーター
C) 1) 下記の試薬を混合した後、重さを測定する。(200 ml 三角フラスコ使用)
0.75 % ゲル:アガロース
1.5 g
1 x TAE 200 ml
2) ラップでフラスコの蓋をする際、蒸気が逃げるようにしておく。その後、
電子レンジで暖める。
(突沸しないように時々取り出して混ぜる。やけどをしないように注意する)
3) 蒸発した分の蒸留水を補う。
4) 水槽に浸けて少し冷やす。約 60 ℃位
5) ゲル作成台に流し込む。
6) ティッシュで泡を除く。
7) コームを差し込み、ラップで覆い、30 分程静置する。
8) コームを抜き取り、泳動槽に 1 x TAE を入れゲルをセットする。
(TAE はゲルが浸かる程度入れる。)
生体‐6
9) 制限酵素で切断したプラスミド DNA、切断していないプラスミド DNA に
それぞれ 2 l のサンプルバッファーを加え懸濁する。
10) これらをアガロースゲルのウエルに滴下する。
11) 100 V で泳動する。(約 30 分位、色素が先端まで移動したら終了)
12) 電気泳動終了後、ゲルをエチジウムブロミド液に 1 分浸す。
(手で直接エチジウムブロミド液を触らないように注意する)
13) トランスイルミネーター上にゲルを設置し、ゲルの写真を撮る。
14) 使用後、トランスイルミネーター表面を 70 %エタノールで拭いておく。
注:エチジウムブロミドについて
この物質は、DNA の 2 塩基間に挿入され、エチジウムブロミド本来の 300 nm の紫外
線を吸収したり、核酸に吸収された 260 nm の紫外線がエチジウムブロミドにエネル
ギー転換されると 590 nm の蛍光を放射する。この性質により核酸の検出に利用さ
れている。260 nm の紫外線を利用すると蛍光強度は高くなるが、DNA 自身が切断さ
れてしまうため、その後利用できない。また、この物質は発ガン物質であるため取
り扱いに注意する。
生体‐7
プラスミドについて(遺伝子工学の基礎技術、羊土社から)
生体‐8
生体‐9
生体‐10
マーカーについて
各々λ DNA を制限酵素 Pst I で
λ /P s t I
切断したものである。
11 49 7
50 77 ,4 74 9, 45 03
28 38
25 60 ,2 45 9, 24 33
21 40
19 86
17 00
11 59
10 93
80 5
51 4
46 8, 44 8
33 9
26 4, 24 7
2 % A g a ro s e G e l
生体‐11
5.2 次元結晶モデルによる光の回折
★★★ 注意 ★★★
この実験では He-Ne レーザーを使います.
絶対に,レーザー光を眼に入れないこと(失明の恐れがあります).
[1]はじめに
小さな隙間を通過した波は,隙間の外側にも拡がって伝わる.このような,“波の回り込み現象”
を回折という.回折は光波(電磁波),水面の波,音波など,全ての波動で生じる現象である.
この実験では,波動として光波を用い,小さな隙間(開口)を通過した光の回折パターン(スクリー
ン上の強度分布)を観測することで,回折現象について学ぶ.また,2 次元周期構造をもつ開口の
回折パターンを観測し,結晶構造と X 線回折の対応関係を理解する.
[2]回折
2.1 光の回折
平行な光束で物体を照明したときに生じる影は,物体の形と全く同じ形にはならない.これは,
波としての性質をもつ光が回折現象を起こし,影の部分(物体の裏側)に回り込むためである.照
明される物体の大きさが,光の波長程度に小さければ小さいほど,光の回り込みは大きくなる.
図 1 のように小さな隙間(開口)を通過した光は,回折によって開口の外側に拡がって伝わる.
波動が伝わる様子はホイヘンス-フレネルの原理によって説明される.図 2 のように,ある時刻に
おける波面上の全ての点が波源となって二次波をつくり,全ての二次波を重ね合わせたものが次
の波面となる.図 3 のように開口を平行光で照明した場合について,ホイヘンス-フレネルの原理
を用いて考える.開口上の各点を通過する光を波源(点光源)と考えて,開口通過直後の波面とし
て図 3 のような波面が得られる.再び,この波面を波源(点光源)の集合と考えて……,と次々と波
面を描くと,ちょうど 図 1 と同様の,回折によって拡がりながら伝わる光の様子が求められる.
開口の後方に置いたスクリーン上の光強度分布は,例えば図 3 の P 点では,開口の各点から生
じる全ての二次波の重ね合せとなる.
次の波面
波面
波面
波面
スクリーン
波面
次の波面
P
二次波
平面波
回折した波
図 1 波の回折
平面波
図 2 ホイヘンス-フレネルの原理
二次波
図 3 開口による光の回折
2.2 キルヒホッフの回折理論
図 4 のように,平面開口を平行光(平面波)で照明したとき,開口から距離 L だけ離れたスクリー
ン上の光強度分布(回折像)を求める(図では光を通す部分を白,通さない部分をグレーで表す).
光の伝搬方向に z 軸をとり,開口上に x0,y0 軸を,スクリーン上に x,y 軸をとる.スクリーン上の
Px , y  点における光電場は,開口上の Qx0 , y0  点にある点光源が P 点につくる電場を求め,開口
2 次元結晶モデル-1
全体で足し合わせる(積分する)ことで得られる.開口の透過率分布を g x0 , y0  とすると,P 点の光
電場振幅 f x , y  は,キルヒホッフ(Kirchhoff)の回折理論より
eikr
(1)
dx0 dy0
r
で与えられる.ここで,C は比例係数,k (=2,は光の波長)は波数, r x0 , y0  は Q 点から P 点ま
での距離である.( 1 )式の導出は,少し複雑であるので省略する(光学の参考書等を参照せよ).
f ( x , y )  C  g( x0 , y0 )
y0
平面波
Q(x0,y0)
x0
r
y
P(x,y)
x
L
z
開口
スクリーン
図 4 開口による回折
2.3 フレネル回折とフラウンホーファ回折
図 4 の配置において,開口とスクリーンがあまり離れていない場合には,回折像の大きさは開
口の大きさとそれほど違わない.そこで,開口とスクリーンの距離 L が,開口と回折像の大きさの
差に比べて十分大きく, L  x  x0 ,  y  y0  である場合について考える.このとき,直線 QP は z
軸とほぼ平行になり,( 1 )式中の分母の 1 / r は, 1 / r  1 / L と近似できる.ただし指数関数中の r
は,波数 k との積なので,単純に r  L とすることは危険である.そこで, L  x  x0 ,  y  y0  の条
件から
( x  x 0 )2  ( y  y0 )2
(2)
r  L2  ( x  x 0 )2  ( y  y0 )2  L 
2L
と近似すると( 1 )式は
ik
( x  x )  ( y  y ) 
eikL
2L
f ( x , y)  C
g
(
x
,
y
)e
dx0 dy0 ( 3 )
0
0
L 
とできる.( 2 )式の近似の成り立つような L の領域をフレネル(Fresnel)領域といい,( 3 )式で与えら
れる回折像をフレネル回折像(近視野回折像)と呼ぶ.
L がフレネル領域よりもさらに大きくなると,回折像は拡がると共にぼやけていく.回折像が大き
くなり, x , y  x0 , y0 となる領域では,( 1 )式の指数関数中の r は x02 , y02 を無視して,
2
2
0
0
r  L2  ( x  x 0 )2  ( y  y0 )2  L0 
xx 0  yy0
, L0  L2  x 2  y 2 ( 4 )
L0
と近似でき,( 1 )式は
ik
 ( xx  yy )
eikL
L
(5)
f ( x , y)  C
g
(
x
,
y
)e
dx0 dy0
0
0

L0
となる.( 4 )式の近似が成り立つ L の領域をフラウンホーファ(Fraunhofer)領域といい,( 5 )式で与
えられる回折像をフラウンホーファ回折像(遠視野回折像)と呼ぶ.開口全体を円形とみなし,その
等価半径を D,光の波長を とすると,
0
0
0
0
2 次元結晶モデル-2
~ D2
R
(6)

~
~
をレイリー(Rayleigh)の距離という.レイリーは,L< R の場合をフレネル領域,L> R の場合をフラウ
ンホーファ領域であるとした.ところで,( 5 )式の積分部分に注目すると g(x0,y0)の 2 次元フーリエ
変換の形をしている.すなわち,フラウンホーファ回折像は開口のフーリエ変換像に比例する.
我々が観測できる回折パターンは,光の強度(エネルギー)のパターンである.光強度 I は光電
場振幅の 2 乗に比例するので,( 5 )式 (または,( 3 )式 )の光電場の回折パターン(強度分布)は
2
I ( x , y)  f ( x , y)  f ( x , y) f * ( x , y)
で与えられる.ただし
*
(7)
は複素共役をとることを表す.
2.4 種々の開口によるフラウンホーファ回折像
2.4.1
単スリット
図 5(a)の様に,光を通す細い隙間をスリットという.スリット間隔を 2a (-a~+a)として,y0 軸方向
にはスリットは十分大きいとすると,透過率分布は x0 のみの関数として
1   a  x0  a
g x0 , y0   g 0 x0   
(8)
0  それ以外
と書ける.( 8 )式を( 5 )式に代入して積分し,( 7 )式を計算すると,スクリーン上の光強度分布は
2 a
ka
sinX
x
x (9)
I 0 x  
 sinc 2  X  ,
ただし, X 
L0
L0
X
となる.( 9 )式より計算した回折像の強度分布を図 5(b)に,回折パターンの例を図 5(c)に示す.
図 5 の様に,スリット上の異なる x0 からやってくる光が強め合う部分と弱めあう部分が生じるため,
回折パターンは明暗を繰り返し,スリット幅よりも拡がる.
I (x )
y0
-a a
x0
-3 -2  - 0 
(a) 単スリット
X
2  3
(b) 回折像の強度分布
(c) 回折パターン例
図 5 単スリットによるフラウンホーファ回折
2.4.2
矩形開口
図 6(a)のような,長方形の開口を矩形(くけい)開口という.透過率分布は
1   a  x0  a かつ  b  y0  b
( 10 )
g矩形 ( x0 , y0 )  
0  それ以外
となり,単スリットの場合と同様の積分計算により,回折像の強度分布は
2 a
2 b ( 11 )
ka
kb
x
x ,Y 
y
y
I 矩形 ( x , y)  sinc2 X sinc2 Y 
,ただし X 
L0
L0
L0
L0
となる.図 6 (b)に y 方向の強度分布,(c)に回折パターン例を示す.
2 次元結晶モデル-3
I ( 0, y )
y0
b
-a
a
x0
-3 -2  - 0 
-b
(a) 矩形開口
Y
2  3
(b) y軸方向の回折像の強度分布
(c) 回折パターン例
図 6 矩形開口によるフラウンホーファ回折
2.4.3
円形開口
図 7(a)のような,半径 a の円形開口の場合,透過率分布と,回折像は
1  x0 2  y0 2  a 2

g円形 ( x0 , y0 )  
( 12 )

0

それ以外

2
2 a
 J 1 R  
R
,
( 13 )
I円形 ( x , y )  I (  )  
  x2  y 2
 ,

L
R
0


となる.ただし,   x 2  y 2 はスクリーン上での中心からの距離,J1(R)は第1次ベッセル関数
L
L
L
である.回折パターンは図 7(b),(c)に示すように,   0.610 0 , 1.12 0 , 1.62 0 ,  のとき
a
a
a
光強度が 0 の同心円状の輪帯となる.この強度分布パターンはエアリーディスクと呼ばれる.
I()
y0
1.22  2.23
a
x0
0
(a) 円形開口
R
3.24
(b) 回折像の強度分布
(c) 回折パターン例
図 7 円形開口によるフラウンホーファ回折
2.4.4
複スリット
図 8(a)の様に幅 2a のスリットが間隔 d ( >2a)離れて,二つ平行に並んでいる場合の回折像を
考える.単スリットの透過率分布(( 8 )式の g 0 x0  )を用いると,図 8 の複スリットの透過率分布は
g( x0 , y0 )  g0 ( x0 )  g0 ( x0  d)
( 14 )
と書ける.( 5 )式に代入して計算すると,強度分布は
ik
ik
ikd 

 

x

d  a  L xx0
e ikL0  a  L0 xx0
  1  e L0  sinc ka
0
f ( x, y )  C
e
dx

e
dx


0
0
d  a
L

L   a
 0



 

2
2d
Xd 
x
I ( x )  1  e iX d sinc2 ( X )  1  cosX d I 0 ( x ) ,
L0
2 次元結晶モデル-4

x 

( 15 )
( 16 )
となる.X と I0(x)は( 9 )式で与えられる.図 8(b)に示すように,複スリットによる回折パターンは,ス
リット間隔 d で決まる周期的な強度分布( 1  cos  X d  )が,単スリットの強度分布 I0(x)で変調された
ものとなる.
1  cosX d 
y0
幅
2a

x0
I (x )
I0(x )
=
d
x
(a) 複スリット
x
x
(b) 回折像の強度分布
図 8 複スリットによるフラウンホーファ回折
多重スリット
2.4.5
図 9 のように,幅 2a のスリットが間隔 d で N 本並んでいる場合を考える.複スリットの場合と
同様に考えると,透過率分布は
( 17 )
N 1
g ( x0 , y 0 )  g 0 ( x0 )  g 0 ( x0  d )    g 0 ( x0  N  1d )   g 0 ( x0  nd )
n 0
と書ける.複スリットの場合と同様の計算から,回折像の強度分布は
1  cosNX d 
I (x ) 
I0 (x )
( 18 )
1  cosX d 
となり,複スリットと同様に,格子間隔 d で決まる周期的なパターンが I0(x)で変調されたものとなる.
図 9(b)にこの様子を示す.図 8 と比べると,光強度がピークとなる位置は図 8 と同じであるが,N
が大きくなるとピークは鋭くなる.
y0
1  cosNX d 
1  cosX d 
幅2a
・・・

x0
I (x )
I0 (x )
=
d
x
N個
(a) 多重スリット
x
x
(b) 回折像の強度分布
図 9 多重スリットによるフラウンホーファ回折
2.4.6
1 次元円形開口
図 10 のように,半径 a の円形開口が,間隔 d で無数に並んでいる場合,透過率分布は,多重
スリットの場合の g0 ( x 0 ) を g円形 ( x0 , y0 ) で置換えればよい.多重スリットの場合と同様の計算から,
円形開口の分布間隔 d で決まる周期的なパターンが,個々の円形開口の半径 a で決まるエアリ
ーディスクで変調された回折パターンが得られることが分かる.
2 次元結晶モデル-5
y0
I円形 (x )
半径a
x0
d
N個
x
(a) 1次元円形開口
(b) 回折像の強度分布
図 10 1 次元円形開口によるフラウンホーファ回折
2 次元円形開口
2.4.7
図 11 の様に円形開口が 2 次元的に周期的に並んでいる場合の回折像を考える.これまでと同
様に開口の透過率パターンをフーリエ変換( ( 5 )式の積分計算) することでも,回折像の強度分布
を計算できるが,ここでは図から定性的に回折パターンを求める.
まず図 11(a)の開口群の内,(1)群に注目すると,x0 軸方向に並んだ 1 次元円形開口であるか
ら,前節と同様に図 11(b)のような回折パターンを作る(明るい部分を黒線で示している.またエア
リーディスクパターンの変調分は無視している).次に(2)群に注目すると,x0 軸から傾いた 1 次元
円形開口であるから,図 11(c)のような回折パターンを作る.開口全体が作る回折像は,重ね合
わせの原理より,図 11(b),(c)の交点に明るい点像ができるパターンとなる( 図 11 (d) ).実際に
得られる回折像は,図 11(d)のパターンを 1 つの円形開口の大きさで決まるエアリーディスクパタ
ーンで変調したものとなる.
以上の考察は,任意の開口が 2 次元的に配置されている場合にも適用できる.つまり,輝点の
分布は開口の配置によって決まり,回折像全体に個々の開口の形による強度変調がかかること
になる.
y0
f
d2
(2)
x0
y
y
y
f
d1
d2
x
x
x
(1)
d1
半径a
(a) 2次元円形開口
(b) (1)群による回折像 (c) (2)群による回折像
(d) 全体の回折像
図 11 2 次元円形開口によるフラウンホーファ回折
2 次元結晶モデル-6
[3]実験
★★★ 注意 ★★★
絶対に,レーザー光を眼に入れないこと(失明の恐れがあります).
必要に応じて保護ゴーグルを着用すること.
3.1 実験を行う上での注意
●光学素子(レンズ,開口,結晶モデルなど)の光の当たる場所には直接手で触れないこと.
●光学素子の表面ではレーザ光の反射が生じる.反射光は思わぬところに飛んでいる場合もある
ので,レーザ光が通っている高さに目を近づけるときには,近くに光線が無いか十分に注意し,
必要に応じて保護ゴーグルを着用すること.
●実験手順の説明で光学素子の位置を表すときに,右
前 後
図に示すように,”前後”は光線の進む方向に平行な
方向を表し,光線の入射側を前,射出側を後とする.”
上下”は実験台に垂直な方向,”左右”は光線の進む
方向に向かって見たときの左,右を表すこととする.
上
光線の
進行方向
左
下
●測定データはもちろん,実際に配置した光学素子間
の距離,実験中に計算した値などは全て実験ノート
に記録しておくこと.測定作業前にテキストの最後ま
右
光学素子
(レンズ等)
実験台
で目を通し,考察に必要な情報・データを取り忘れる
ことが無いように気をつけること.
3.2 光学系の調整と回折像の倍率測定
本実験で使用するスリット,2 次元結晶モデルの開口サイズは D~101mm である.このとき,可視
~
光の波長を λ ~ 500nm 程度とすると,レイリーの距離は R >102m となり,実験室でフラウンホーフ
ァ回折像を得ることは困難である.そこで図 12 のようにレンズの前側焦点距離に開口を,後ろ側
焦点距離にスクリーンを配置すると,無限遠をレンズ焦点距離に変換して,フラウンホーファ回折
像(遠視野回折像)をスクリーン上で観測することができる.このとき( 5 )式中の L0 はレンズの焦点
距離 f に置き換わる.
y0
平面波
x0
レンズ(焦点距離 : f )
y
x
f
f
開口
図 12
z
スクリーン
レンズを用いたフラウンホーファ回折像の観測
2 次元結晶モデル-7
3.3 節 以降の実験における光学系を図 13 に示す.3.2.1 ~3.2.3 の手順で光学系を調整せよ.
なお,この光学系における各素子の働きは以下の通りである.
対物レンズとレンズ 1 を用いて,レーザ光を拡げて平行光とする.レンズ 2 を用いて,有
限距離でフラウンホーファ回折像を得る(開口をレンズ 2 の前側焦点距離に配置すると,
レンズ 2 の後側焦点距離の位置にフラウンホーファ回折像が生じる).レンズ 2 による回折
像は小さく観測し難いため,レンズ 3 で回折像をスクリーン上に拡大投影し,観測する.
He-Ne
レーザ
対物
レンズ
レンズ1
各種開口・
結晶モデル
f
レンズ2
f
レンズ3
回折像
スクリーン
拡大された
回折像
実験台
図 13 回折像観測の光学系
平行光束をつくる
3.2.1
1)レーザー装置からできるだけ遠いところで,十字線ターゲットを,十字線ターゲットの中心にレー
ザ光が当たるように固定する(図 14(a)参照).
※ 1)で設置した十字線ターゲットは 2),3)の調整が終わるまで動かさないこと!!
He-Ne
レーザ
十字線ターゲット
実験台
図 14 (a)平行光速をつくる-その1
2)レーザ装置から約 5cm の所に,光線に垂直に,対物レンズを置く(図 14(b)参照).対物レンズを
出て拡がる光が十字線ターゲットの中心に対称にあたるよう,対物レンズの位置を上下左右に
微調整し,固定する.
3)対物レンズから約 10cm のところに,光束に垂直に,レンズ 1 を置く(図 14(b)参照).
i) レンズ 1 を上下左右に調整し,光束が十字線ターゲットの中心に当たるようにする.
ii) レンズ 1 を前後に移動させて,レンズ 1 を通った光が,一定の太さで十字線ターゲットに
届くようにする(レンズ 1 と十字線ターゲットの間に白い紙をかざし,紙の位置を変えても
光束の大きさが変わらないようにする).
i),ii)の調整・確認を交互に数回繰り返し,光束が"一定の太さ"で"十字線ターゲットの中心に
当たる"ようになったらレンズ 1 を固定する.
He-Ne
レーザ
対物
レンズ
レンズ1
十字線ターゲット
実験台
図 14 (b)平行光束をつくる-その2
※これ以降は,レーザー装置,対物レンズ,レンズ 1 は動かさないこと!
2 次元結晶モデル-8
3.2.2
回折像の確認 と 拡大投影レンズ(レンズ 3)の倍率測定
1)レンズ 1 から約 30cm 後方にレンズ 2 を置く.このとき,光束がレンズ 2 の中心を通り,レンズ 2
と光束が垂直となるように調整して固定する.試料位置(レンズ 2 の前側焦点距離の位置(レン
ズ 2 の焦点距離:f =200mm))に,単スリット①を,光束に垂直になるように置く(図 15(a)参
照).
2)レンズ 2 の後側焦点距離の位置に十字線ターゲットを移動し,ピントの合った回折像が映る位
置に固定する.ただし,ここで見える回折像の大きさは数 mm 程度である.(図 15(a)参照).
He-Ne
レーザ
対物
レンズ
試料位置
レンズ1
f
レンズ2
f
回折像
スクリーン
十字線ターゲット
実験台
図 15 (a)倍率の測定-その1
3)十字線ターゲットのマグネット部を固定したまま上部だけ取り去る.回折像とスクリーンの間にレ
ンズ 3 を光束に垂直に置き,スクリーン上に拡大された回折像が,鮮明に投影されるようにレンズ
3 の位置を微調整する.これで,スクリーン上に拡大された回折像を観測できる.(図 15(b)参照)
He-Ne
レーザ
対物
レンズ
試料位置
レンズ1
f
レンズ2 回折像
f
レンズ3
スクリーン
拡大された
回折像
実験台
図 15 (b)倍率の測定-その 2
4)ここで,レンズ 3 の倍率を測定しておく.まず,単スリット①とレンズ 2 のマグネット部を固定した
まま,単スリット①・レンズ 2 を取り去る.次に十字線ターゲットのマグネット部に半透明スケールを
取り付け,スクリーン上に投影された半透明スケールの拡大像のピントが合うように,半透明スケ
ールを前後に微調整する.拡大像の大きさを観測し,レンズ 3 の倍率を求める(図 15(c)参照).測
定後は,半透明スケールを取り去り,レンズ 2 を元の位置に戻しておく.
He-Ne
レーザ
対物
レンズ
レンズ1
f
レンズ2
f
半透明
スケール
レンズ3
スクリーン
拡大された
スケール像
実験台
図 15 (c)倍率の測定-その 3
※調整後は,各光学素子を動かさない事!!
2 次元結晶モデル-9
3.2.3
3.3 節 以降の測定における注意事項
・測定中は各光学素子の位置を動かさない事.動かしてしまったときは 3.2.1,3.2.2 の手順で再
度調整すること.
・再調整したときは必ずレンズ 3 の倍率を測定・記録しておくこと(拡大前の回折像の大きさが分
からなくなります).
3.3 単スリット・複スリット・多重スリットによる回折像の観測とスリット幅・スリット間隔の測定
3.3.1
単スリットのスリット幅の測定
3.3.1.1 目的
実験室に用意した単スリットのスリット幅は,ある幅 A の整数倍となっている.各単スリットの回
折像を観測し,得られた結果から A を求める.
3.3.1.2 測定手順
1)試料位置に単スリット①を配置し,スクリーン上に図 16 の様な回折像を投影する(図では明るい
部分を黒で表している).
2)図 16 のように,回折像の中心から,最初に暗くなる部分の距離 l1,2 番目に暗くなる部分の距
離 l2,3 番目に…,を観測できる範囲で測定し,記録する.
f
f
3)単スリットのスリット幅を a とすると 2.4.1 節より, l1 
, l2  2 ,…の関係がある(レンズ 2
a
a
を用いて回折像を得ているので, L0  f となる.また,観測した回折像はレンズ 3 によって拡大
されているので計算には注意すること). 2)の結果から単スリット①のスリット幅 a①を求める.
※このとき l1,l2,…から得られる値を平均する等,精度よく求められる様に工夫すること
5)スリットを単スリット②,③,…と変えて,同様の測定を行い,スリット幅 a②,a③,…を求める.測
定結果は表にまとめてノートに整理すること.
l3
l2
l1
図 16 単スリットによる回折像(模式図)
6)単スリット①,②,③,…のスリット幅は,ある幅を A として,a① =2A, a② =3A, a③ =4A,…となっ
ている.測定値から A を求めよ.求めた A を TA または教員に確認してから次の測定に進むこ
と.
※全ての単スリットを測定しなくともよいが,A を求めるのに十分なデータを集めること.
2 次元結晶モデル-10
3.3.2
複スリットのスリット間隔とスリット幅の測定
3.3.2.1 目的
実験室に用意した複スリットと多重スリットのスリット間隔は,ある幅 B の整数倍となっている.ま
た,スリット幅はすべて等しく,3.3.1 で測定した単スリットの幅の何れかに等しい.
各複スリットの回折像を観測し,得られた結果から B とスリット幅を求める.
3.3.2.2 測定手順
1)3.3.1 と同様に,試料位置に複スリット①を配置し,スクリーン上に図 17 のような回折像を投影
する.図 17 では明示していないが,2.4.4 節でみたように,回折像にはスリット幅で決まる sinc
関数の変調がかかっている.
2)回折像の輝線間隔を測定し記録し,輝線間隔より d 複①を求める.(図 17 のように,1 つの間隔を
測るより,複数の輝線間隔を測定して輝線数で除した方が精度よく測定できる).また,回折像
の sinc 関数変調から,スリット幅を求める.
※スリット間隔によっては sinc 関数変調が見え難い.2)~4)の測定で観測しやすい回折
像から求めるので良い.
5l
l
図 17 複スリットによる回折像(模式図)
3)スリットを複スリット②,③,…と変えて,同様の測定を行い,得られた結果から各複スリットのス
リット間隔 d 複②,d 複③,…を求めよ.
4)同様に,各多重スリットの回折像を観測し,d 多重①,d 多重②,d 多重③,…を求めよ.
5) 複スリット,多重スリットのスリット間隔は,ある間隔を B として, d 複①  d多重①  mB ,
d 複②  d多重②  m  1B , d 複③  d多重③  m  2B ,…(m は整数)となっている.測定結果から B
を求めよ.また,スリット幅を求め,3.3.1 で測定した単スリットのうち,どの単スリット幅と同じで
あったか求めよ.求めた B,スリット幅を TA または教員に確認してから次の測定に進むこと.
※B とスリット幅を求めるのに十分なデータが集まれば,全てのスリットを測定しなくともよい.
※求め方は各自で考える事.また,整数 m は実験データから各自で判断すること.
3.3.3
円形開口の半径と矩形開口のサイズ測定
3.3.3.1 目的
円形開口と矩形開口の回折像を観測・記録し開口の半径および縦横の大きさを求める.
3.3.3.2 測定手順
1)これまでと同様に試料位置に円形開口を配置し,スクリーン上に回折像を投影する.回折像は
エアリーディスクパターンとなる(2.4.3 節を参照).
2)回折像の最初に暗くなる部分の半径,2 番目に暗くなる部分の半径,…を記録する.得られた結
果から,円形開口の半径を求める.※求め方は各自で考える事!実験室に用意されている全
ての円形開口について測定すること!
3)試料位置に矩形開口を配置し,スクリーン上に回折像を投影する.回折像は水平方向と垂直方
向に明暗を繰り返すパターンとなる(2.4.2 節を参照).
2)水平方向と垂直方向について,最初に暗くなる部分の距離,2 番目に暗くなる…を記録する.得
られた結果から,矩形開口の大きさ 2a,2b を求める.実験室に用意されている全ての矩形開
口について測定すること! ※結果を TA または教員に確認してから次の測定に進むこと.
2 次元結晶モデル-11
3.4 1 次元円形開口の開口半径,開口間隔の測定
3.4.1.1 目的
1 次元円形開口の回折像から開口間隔および開口半径を求める.
3.4.1.2 測定手順
1)これまでと同様に,試料位置に,1 次元円形開口①を設置し,回折像を観測する.開口間隔と開
口半径を求めるために必要なデータを測定・記録し,開口間隔と開口半径を求める.1 次元円
形開口の場合には,回折像にかかる変調はエアリーディスクとなる(2.4.6 節参照).
2)実験室に用意されている全ての 1 次元円形開口について同様の実験を行い.結果を TA または
教員に確認してから次の測定に進むこと.
3.5 2 次元結晶モデルによる回折像の観測と格子間隔の測定
3.5.1
目的
2 次元結晶モデルによる回折像を観測・記録し,回折像の輝点分布から,格子の種類を求め格
子間隔を測定する.
3.5.2
2 次元結晶モデル
実験室に用意されている 2 次元結晶モデルを図 18(a),(b),(c)に示す(図では黒い部分が光を
通す部分である).それぞれの結晶モデルから得られる回折像は,
立方格子による回折像:立方晶(100)面,正方晶(100)面による X 線回折像
直方格子による回折像:正方晶(001)面,斜方晶(100)面による X 線回折像
六方格子による回折像:六方晶(001)面,立方晶(111)面による X 線回折像
に類似する.
・・・
d
・
・
・
d
(a)立方格子
・・・
d2
・・・
・
・
・
d1
(b)直方格子
・
・
・
d2
d1
(c)六方格子
図 18 2 次元結晶モデル
3.5.3
測定手順
実験室には,図 18 の 3 種類の結晶モデルについて,格子間隔の異なる複数のモデルが用意
されている.以下の手順で測定を行うこと.
1)任意の 2 次元結晶モデルを用意し,これまでと同様の手順で,スクリーン上に回折像を投影す
る.
2)回折像をよく観察して,立方格子,直方格子,六方格子のどれか判断し,開口半径と格子間隔 d
または d1,d2 を求める(何を測定して,どうやって求めるかは各自で考えよ.レンズ3の倍率に
注意!).
3)スクリーン上にグラフ用紙を置き,各格子モデルの代表的な回折像をスケッチする(スケッチは
立方格子,直方格子,六方格子のそれぞれについて,1 つずつでよい).
4)実験室に用意されている全ての 2 次元結晶モデルについて,格子間隔の測定を行うこと.このと
き,テキスト[5],[6]をよく読んで,レポート作成に必要な情報を取り忘れる事が無いように注
意すること.
2 次元結晶モデル-12
3.6 多結晶モデル,非晶質モデルによる回折像の観測
3.6.1
目的
多結晶モデル,非晶質(アモルファス)モデルによる回折像を観測し,2 次元結晶モデルによる回
折像との違いについて考察する.
3.6.2
測定手順
図 19 (a),(b)に多結晶モデル,非晶質(アモルファス)モデルを示す.これまでと同様の手順で,
スクリーン上に回折像を投影し,グラフ用紙にスケッチせよ.このとき,回折像の特徴(特に 2 次元
結晶モデルと異なる点)が分かるようにスケッチすること.
・・・
・
・
・
(a) 多結晶
(b) 非晶質
図 19 多結晶,非晶質モデル
[4]課題
1) x , y (回折像の大きさ)>>x0 , y0(開口の大きさ) が成り立つとき,( 4 )式を導け.
2)複スリットの場合,透過率分布は( 14 )式となる.( 5 )式に( 14 )式を代入して,( 16 )式の I x  を
導け.
※( 15 )式,( 16 )式の途中の計算過程を示すこと.
ヒント:係数 C は省略しても良い.
( 7 )の計算は,例えば(i を虚数単位として)
f  f r  if i のときは, ff *   f r  if i  f r  if i   f r 2  f i 2
f  e のときは, ff *  e e   1 となる.
[5]考察
1) もしも,回折像は分かっているが 2 次元結晶モデル(立方格子,直方格子,六方格子,多結
晶,非晶質の何れか)が分からない場合,回折像からどの結晶モデルか判断するにはどうす
れば良いか,その判断手順をまとめよ.
2)多結晶モデル,非晶質モデルによる回折像について,実験で観測されたようなパターンになる
理由を述べよ.
2 次元結晶モデル-13
[6]レポート作成上の注意
レポートは以下の注意点を参考に,3.5,3.6 で行った内容について記述すること.
1)目的:テキスト 3.5,3.6 の実験目的を含めた文章にすること.
2)方法:テキストをよく読んで,結果を得るために必要な情報を要約して書くこと.
3)結果:(スケッチにはレンズ3の倍率を書き込んでおくこと)
3.5 の結果
3 種の 2 次元結晶モデルによる回折像のスケッチを載せ(立方格子,直方格子,六方格子の
代表的なもの 1 つずつでよい),格子の種類(開口の配置)と回折像の輝点分布の関係を説
明すること.
全ての 2 次元結晶モデルについて,格子の種類ごとに分けて格子間隔を記述すること(表に
まとめるなど,見やすいように工夫すること).
3.6 の結果
それぞれのモデルによる回折像のスケッチを載せること(レンズ 3 の倍率も!!).
4)課題:[4]を参照せよ.
5)考察:[5]を参照せよ.
6)まとめ(結論):目的と対応させて,結果と考察を要約せよ.
2 次元結晶モデル-14
6.
剛体の斜面上の運動
剛体の斜面上の運動
(注意:実験ごとにデータを整理し、グラフを作成する事。その後、次の実験をする事。変なデータがあれば再
実験できる!このやり方に従えば、2週目の最後には、レポートはほぼ完成しているはずである。)
目的:球を速度ゼロの静止状態から、角度 θ の斜面、またはある距離離れた 2 つの棒の上
で転がす運動実験を行う事で、質点と剛体の
質点と剛体の運動の違い
運動の違いを理解する。
この実験では、全ての運動は、質点の運動として解釈できない。小出昭一郎
物理学(三訂版)裳華房
p.74-76 を参照のこと。また、この実験テーマの最後にある付録も見ること。
1つの実験が終わるたびにデータを整理すること。
1つの実験が終わるたびにデータを整理すること。(さらに、考察するのが望ましい
(さらに、考察するのが望ましい。
考察するのが望ましい。)そ
の後、次の実験に進む事。データの解析には
が必要である
である。
の後、次の実験に進む事。
データの解析には <関 数 電 卓>が必要
である
。
スペーサー(木の薄い
実験器具の扱解の一般的な説明
板片)を挿入し、ゴムで
ゴム
中空球(ピンポン球)を転が
す台は、図 1 のように長方形の
枠の中に1本の木の棒をそえ
る。外枠と真ん中に挿入した木
固定する
図2
上から見た図
L
球
の棒との距離は、木の板片を適
図1
当な枚数重ね、枠板と真ん中の
棒とで挟みこみ、輪ゴムで動か
滑り台端の金属棒をL型の台
ないように固定する。これを 2
の金具の穴に引っ掛けて固定
箇所行う。
横から見た図
実験 1:測定練習
2 つの長さを求める
複数枚スペーサー(2 種類ある)を重ねてその厚さをはかり、枚数で割って得られた値をスペーサー1
枚の厚さとせよ。スペーサーの厚さを計算した結果と下のデータをレポートに書く。また、ピンポン球
の半径も測定する。どうすれば正確に測定できるか、各自考える事。TA に「教えてください」ではダ
メ。それぞれの測定結果(測定したスペーザーの枚数とその厚さ)と、スペーサーの平均厚さ(2 種類
とも)の厚さを、明瞭に書くこと。(研究論文では、測定結果(データ)がないと、ウソを書いている
と見なされます。)
斜面を傾けるには、図 2 にあるように、斜面の一方にある 2 つの金属棒(釘)を、L型の台にある金
具の穴に引っ掛ける。斜面の角度は、ものさし、巻尺などで適当な部分の長さを測定し、求める。角度
θは当然記入するが、sinθを与える長さの測定値も、忘れずにレポートに記入する事。
注意:実験データの整理では、 sin θ の値を頻繁に使う。すぐ sin θ が求まるようなパラメータの測定を
すると楽。
剛体-1
解説:
解説:質点の斜面上の運動
質点の斜面上の運動
水平面と角度θをなす斜面をすべる質点の運動(図 3)を考える。
運動方程式で、加速度 d x / dt = a = 一定として、加速度 a を求めると、
2
簡単な理論:
2
md 2 x / dt 2 = mg sin θ − µmg cosθ ⇒ d 2 x / dt 2 = a = g (sin θ − µ cosθ )
となる。ただし、1 ページで書いたように、また実験すれば分かるように、物体は、質点と見なすこと
は出来ない。その違いをこの実験を通じて、理解しよう。
小出昭一郎
物理学(三訂版)裳華房
mgcosθ
µmgcosθ
p.74-76 を参照。
図4
図3
mgsinθ
θ
角度θ
mg
実験2:鉄球の斜面上
実験2:鉄球の斜面上で
の斜面上での運動
の運動
実験:
図 4 のように、斜面(装置の端にプラスチックの滑り台がついているのを利用する
装置の端にプラスチックの滑り台がついているのを利用する)の角度
θ
実験
装置の端にプラスチックの滑り台がついているのを利用する
を 7 つ以上選び、大きさの異なる
2 つの鉄球を、初速度ゼロで、滑らせず回転させるようにして角度 θ
つ以上
の斜面を初速度ゼロで回転させながら下方へ移動させる(図 4 参照)。鉄球が、初速度ゼロで距離 L(お
よそ 80cm 離れた 2 箇所に印がある。各自で長さを設定せよ。)移動するのにかかる時間を、ストップ
ウォッチで測定する。
この実験では、鉄球を滑ら
鉄球を滑らさずに回転させる
鉄球を滑らさずに回転させる事が重要である。鉄球が滑っていないかその運動を良く
さずに回転させる
見る事。もし回転せずに滑っているようなら、角度θ
θが大きすぎるので、小さくして測定せよ。
斜面を
t を 5 回以上測定
その平均値を改めて t
斜面を鉄球が
鉄球が初速度ゼロで
初速度ゼロで距離L移動するのにかかる時間
距離L移動
以上測定し、
測定
とおく。(測定は、実験 1 と同じ)。結果は、下のように、sin θ 毎の時間tを表にし、その平均値を書け。
なお、計算で sin θ を頻繁に使うので、 sin θ を与えるパラメータの測定をすると楽。
鉄球(大)
sin θ
0.010 0.020
時間(秒)
x.x
0.30
x.x.x.x
7
平均時間
x
xx.x秒
・・・・・・・・
・・・・・・・・
鉄球(小)
sin θ
0.010 0.020
時間(秒)
x.x
0.30
x.x.x.x
0.80 平均時間
x
剛体-2
xx.x秒
グラフの作成 2-1:(図 7 参照) 鉄球が斜面を時間 t かかって距離L移動するので、質点としての扱い
が妥当なら、加速度一定として
g sin θ ⋅ t 2 / 2 = L ⇒ g = 2 L /(sin θ ⋅ t 2 )
が成り立つ。この考え(質点の扱い)が正しいか否かを
確認するため、図 7 のようなグラフを作成せよ。
(□:大きい鉄球)○(小さい鉄球)とせよ。グラフの
図7
?
a/sinθ
(m・s-2)
タイトルは、実験2
実験2のグラフ
実験2のグラフとせよ。
のグラフ
sinθ
加速度を a 、時間を t 、移動距離を L とすると、
0
at 2 / 2 = L が成立する。この関係式から加速度 a を求め
る。その値を sin θ で割る。
0 sinθ1
・・・
sinθn
(注意:物体は斜面を滑る事なく回転する(この条件で実験の指示をした)ので、動摩擦力によるエネ
ルギーの損失は無い。もしも仮に、鉄球の運動が質点の運動
質点の運動の取り扱いでよいなら、
(1)式で動摩擦係
質点の運動
数 µ = 0 とおけばよいので、鉄球の加速度 a = g sin θ となる。すると、a / sin θ = g = 9.8( m/s ) となる。
2
しかし、この実験で得られる加速度 a は、 a / sin θ < 9.8( m/s ) となるハズ。)
2
グラフの縦軸は、実験で得られた加速度 a を sin θ で割った値( a / sin θ )(m/s2)、横軸 sin θ である。
実験データ・グラフに関する注意:
もし鉄球を質点として扱うのが妥当なら、 a / sinθ = g となる。しかし
しかし実験データは、角
しかし実験データは、角
2 よりも小さな値になる。
度に関係なく、ほぼ一定の値を持ち、
(時
度に関係なく、ほぼ一定の値を持ち、 a / sin θ の値は、9.8m/s
の値は、
間測定の精度の問題から、1~2割程度の誤差は認めよう。)そのようにならないなら、実
験の仕方に問題がある。問題点を解決し、再実験すること。測定値のバラツキは許容だが、
a / sin θ < g でないグラフの場合は、減点する。
考察 2-1:鉄球を質点として扱ってよいなら、この実験で得られた a / sin θ は重力加速度 g に等しく
なるはずである。しかし a / sin θ の値は、我々が良く知っている重力加速度の値 g =9.80(m/s2)と一致
せず、 g よりも小さな値になる。これは、鉄球を質点として扱ってはいけないことを示す。その理由を
書く。実験結果は、それと矛盾しない結果となるはず。また、実験誤差内で、鉄球の大きさには関係の
ない結果になる。
注意 以下の 2 つ考察をした場合、考察とは認めない。
・鉄球に働く空気抵抗が原因で、 a / sin θ と g が一致しない
・鉄球が滑るので動摩擦力が働くから、実験値 a / sin θ が g と等しくならない
これらの考えは、間違いである。
空気抵抗が問題になるような速度で、鉄球は斜面を転がっていない。また、
鉄球が滑るような条件では実験しない事、と指示している。滑るような角度
は、90 度近い角度である。
剛体-3
物体を質点として扱ってよいのは、物体の重心周りの運動を無視してよい場合である。つまり、重心
周りの回転運動を無視して質点として扱ってその運動が記述できるなら、質点としての扱いでよい。
鉄球は、斜面をすべることなく回転して下るので、動摩擦力が働かない。(静止摩擦力は働くが、そ
れは仕事をしない。)よって、鉄球の位置エネルギーは摩擦によって失われる事なく(物理で言うとこ
ろの仕事の定義を考えよ。動摩擦力×滑っての移動距離=仕事量)、全て運動エネルギーに変わると考
える。付録の剛体の運動エネルギーの保存の部分を読むこと。
考察のための参考:
下の 2 つのグラフで、○が実験データ、点線が理論曲線としよう。A の場合は、実験の誤差内で理論
と実験結果は良く一致しているといえるが、B の場合は、明らかに一致が悪く、データ点が理論値より
も大きい。B での一致が良くないと思えないなら、一致が悪いと思えるようにしてください。B は、理
論が間違っているか、実験が適切に行われなかった可能性があると考えるのが、妥当である。
A
B
a
a
b
b
鉄球は、斜面をすべることなく回転して下るので、動摩擦力が働かない。静止摩擦力は働く(鉄球が
転がるのは、静止摩擦力が働くからである。そうでなければ、鉄球は斜面を滑る。)が、それは仕事を
しない。よって、鉄球の位置エネルギーは摩擦によって失われる事なく(物理で言うところの仕事の定
義を考えよ。動摩擦力×滑っての移動距離=仕事量)、全て運動エネルギーに変わると考える。
物体を質点として取り扱かってよいなら、物体の重心の運動だけを考えればよい。しかし、物体が重
心周りの回転運動を行ない、回転運動によるエネルギーがゼロでないなら、物体の運動は、重心周りの
回転運動と重心が空間を移動する運動の、2 つを考慮しなければならない。
実験3:中空ボールの斜面転がり競争(2つの棒の間隔の違い)
実験:
図 8、9 のように、棒の角度
実験
2x
θを一定の値にして、中空ボール(ピ
ンポン球)を転がして、距離L移動す
図8
図9
るのにかかる時間 t が短いほうはどち
らか、図の 2 x ~ 0.8cm, ~ 3.5cm の2つ
θ
の場合で t を比較する。時間を測定し
2R
て答えを得だせ。時間の測定は、2つ
2x
x
の距離 x について最低 5 回ずつ測定
ずつ測定し
その平均を出すこと。下のような表を
剛体-4
作成し、2 つのボールの時間の平均値を比較せよ。斜面の角度θ
斜面の角度θは 2 つ設定する事。2 つの棒の距離は
およそ 2 x ~ 0.8cm, ~ 3.5cm となるように設定し、その値をレポートに明記する事。
なお、実験器具の簡単な使用方法は、図
なお、実験器具の簡単な使用方法は、図 1,2 にある。
にある。
sin θ =xx
例
3
4
平均時間
時間(秒)
1 回目
2
5
2 x = 0.80cm
x.x
x.x.x.
xx.x秒
2 x = 3.6cm
x.x
x.x.x.
xx.x秒
考察 3-1:実験結果を、剛体の運動エネルギーの立場
剛体の運動エネルギーの立場から、説明をせよ。
実験 4:
:中空ボールでの実験 1
実験 3 と同じ装置を用いる。図 1,2 を参照せよ。2 つの棒の距離 2 x を一定にとり、棒の水平面となす
角度θ
θを変えて、ボールが静止した状態から距離L進むまでの時間tを測定する。
2 x = x1 , x2 ( cm ) の 2 つの値( x1 ~ 1.0cm, x2 ~ 3.5cm 程度で行え)それぞれで、斜面
実験:棒間の距離
実験
の角度θ
θを(7 つ以上の値
度近くから 30 度程度まで変えよ。)変えて、初速度ゼロで中空ボールを離
以上の値:0
の値
し、距離L進むまでの時間tを測定する。斜面の角度θ
θ毎に、最低
最低 5 回時間測定をする事。得られたデ
回時間測定
ータは、下の表のようにまとめる事。2 つの棒の距離は適当に設定してよいが、その値をレポートに明
記する事。
表の例
2 x = x1cm, mm ?
sin θ
0.010 0.020
時間t(秒)
x.x
グラフの作成 4-1:
1//
0.030
0.50
x.x
図 10 参照
x
グラフのタイトルは、実験
実験 4 のグラフとせよ。
のグラフ
得られたデータから、グラフを作成する。棒の距離 x1 , x 2 ( x1 < x 2 ) とし、右のような加速度 a の
sin θ 依存性のグラフを作成せよ。(□: x1 )(○: x 2 )でプロットせよ。その際、次のような規格化を
せよ。加速度が時間によらず(斜面上の位置によらず)一定と仮定し、sin θ θでの加速度を a (sin θ ) と
する。加速度は a (sin θ ) = 2 L / t である。実際に測定で用いた角度の1つを θ 0 (一番大きい角度を θ 0 と
2
せよ)とし、 θ 0 での加速度 a (sin θ 0 ) を用い、縦軸に
a (sin θ ) ×
sin θ 0
a (sin θ )
=
× sin θ 0
a (sin θ 0 ) a (sin θ 0 )
をとる。横軸は sin θ である。
図10
a(sinθ)
sinθ0
a(sinθ0)
2// 1//で作成したグラフに、原点を通る、傾き
1の直線をプロットせよ。
?
sinθ0
sinθ
この曲線は、グラ
グラ
0
フの作成「1//」
で作成したグラフに記入する事。
「
剛体-5
0
sinθ0
測定データの比較のために、直線を引く。
考察 4-1: {a (θ ) / a (θ 0 )} sin θ 0 は sin θ と良く一致するか、答えよ。もし良い一致が得られたなら、それ
は下の式が示すように、加速度 a (sin θ ) が sin θ に比例する事を示す。
a(sinθ )
a(sin θ 0 )
⋅ sin θ 0 = sin θ → a(sinθ ) =
⋅ sin θ
a(sin θ 0 )
a(sin θ )
注意:実際は、角度 θ が小さいので、この実験では、 a ∝ θ または a ∝ sin θ がいえる(ハズ)。
実験 5:中空ボールでの実験
:中空ボールでの実験 2
実験 4 と同様の実験を行う。ここでは、角度 θ は一定(2つの値 sin θ 1 , sin θ 2 (θ 1 < θ 2 ) で測定せよ)と
し、2 つの棒の距離 2 x (図 8 を見よ)を 7 つ以上選ん
つ以上選んで測定
選んで測定する。静止したボールが距離L進むのに
で測定
要する時間tを求める。なお、この実験は、実験 3 において、詳細に実験を行った事に対応する。実験
3 と矛盾する結果を得た場合は、測定方法・ないしは計算が間違っている。再実験を行う事。
実験:
距離 L 移動するのにかかる時間を複数回(最低
最低 5 回)測定し、その平均値を実験的に求まった
実験
距離L移動するのにかかる時間とする。実験データは下の表のようにまとめる事。
表の例
sin θ 1
1
2
距離 2 x (mm)
時間t(秒)
x.x
x.x.x.x
距離 2x ' (mm)
時間t(秒)
x.x
x.x.x.x
グラフの作成 5:図 11 参照
3
4
5
7
平均時間xx.x秒
x
グラフのタイトルは、実
実
験 5 のグラフとせよ。
のグラフ
gsinθ
平均時間xx.x秒
図11
a
(データプロットと、指示した直線を引く事)
□:sinθ1
剛体の理論(付録を見よ)によると
g sin θ
g sin θ
=
1 + k (R2 / r 2 ) 1 + 2 (R2 / r 2 )
3
2
⇒ g sin θ / a = 1 + ( R 2 ) r − 2
3
△:sinθ2
1
d 2 x / dt 2 = a =
r-2(mm-2)
0
0
となる。
加速度 a が一定と仮定すると、距離L進むのにかかる時間tから、加速度 a (θ ) = 2 L / t で与えられる。
2
縦軸を g sin θ / a 、横軸を r (ただし、 r =
−2
R 2 − x 2 )にとりデータをプロットせよ。データは(□:
sin θ 1 )(○: sin θ 2 )とせよ。また、縦軸の切片=1、傾き= 2 R 2 / 3 (mm2)の直線を引け。図 11 の
ように、縦軸・横軸は、0(ゼロ)から始まる。実験データは右上がり
実験データは右上がりになる。右上がりの直線にな
らないなら、測定が間違っている。実験 3 の結果を確認せよ。また、点(0,1)を通る直線は、1本書
剛体-6
くだけでよい。
確認。グラフでの測定点は、r に対する測定(値から計算で得られた)値 g sin θ / a をプロットする。
−2
すなわち、 (r , 測定と計算の結果得られる値g sin θ / a) を□、○でプロットする。
−2
−2
= 0 とおいて、
(0,1)を通る。また、r = R ととれば、点は ( R ,1 + ( 2 / 3))
−2
となる。よって、 (0,1) と ( R ,1 + (2 / 3)) の2点を通る線分(半直線)を引けばよい。
線分の引き方:理論曲線は、r
−1
注意:右下がりのデータの場合は、減点する。
考察 5-1: 2 つの角度で、 g sin θ / a の r に対する依存性に違いは見られるか?それとも同じと考えて
よいか?実験の誤差を考慮して答えよ。同じと考えられるのなら、実験4の考察「加速度 a (θ ) が sinθ
に比例する」が正しいとして、加速度は a (θ , r ) = f (θ )h( r ) の形をしている事がわかる。
考察の参考:
鉄球は、斜面をすべることなく回転して下るので、動摩擦力が働かない。静止摩擦力は働く(鉄球が
転がっているのは、静止摩擦力が働くからである。そうでなければ、鉄球は斜面を滑る。)が、それは
仕事をしない。よって、鉄球の位置エネルギーは摩擦によって失われる事なく(物理で言うところの仕
事の定義を考えよ。動摩擦力×滑っての移動距離=仕事量)、全て運動エネルギーに変わると考える。
もし空気抵抗が中空球(ピンポン玉)の運動に影響を与え、 x の大きさで加速度
が異なると考えるのなら、本実験においてその根拠となる現象がどこに見られるの
か、明確に述べよ。もし空気抵抗が問題になるなら、ピンポン玉が回転していると
き、その近くに手を持っていけば、ピンポン玉の回転に起因する風を感じられるは
ずである。実際に風が起こっているかどうか、ピンポン玉の近くに手をかざし確認
する事。なお、付録にある剛体の運動方程式では、空気抵抗は考慮されていない。
実験 6 中空球を斜面上でゆっくり転がすこと
2 つの板の幅、および角度を適当に調節して、15 秒以上かけて中空ボール(ピンポン球)が斜面下ま
秒以上
で降りるようにする。ただし、途中で中空ボールが静止してはいけない。斜面を降りるまでの時間は、
TA に確認してもらう事。これができれば、この実験に成功したとします。この実験では、工夫・考察
を行ったと見なして、その評価をします。
レポートには、測定した(成功した)時間を書くこと。
書いていない場合は、この実験の部分の点数がつきません。
課題:付録:剛体の運動方程式と慣性モーメントの箇所に
1 つずつ、合計 2 つの課題がある。それに答
課題
えよ。
感想:この実験の感想、改善点など書いてください。
感想
剛体-7
付録 剛体の運動方程式、慣性モーメント I の求め方
中空球の慣性モーメント I の求め方
質量 M 、半径 R の中空の球を考える。図 12 のような、半径の異なる薄いドーナツ形状の円盤を集める、
と考えて慣性モーメントIを求める。極座標(r,θ,φ)で右図の半径Rの中空球で、表面上の点を表
す。
θ、φが微小量 dθ、dφ変化する事でできる微小量
Rdθ
の 面 積 dM (θ , φ ) は 、 図 12 の 右 下 に 示 す よ う に 、
dM (θ , φ ) = Rdθ × R sin θdφ である。その微小量の面積
dM (θ , φ ) が、軸 x(紙面で横方向)から離れている距離
は r = R sin θ である。球の単位面積当たりの質量を ρ と
すると、 M = ρ ⋅ 4πR なので、慣性モーメントIの定義
2
R
φ
Rsinθ
dθ
0
図12
x
θ
Rdθ×Rsinθdφ
に従うと、微小量の面積 dM (θ , φ ) が持つ慣性モーメン
Rdθ
ト dI (θ , φ ) は、
Rsinθdφ
dM = ρ ⋅ Rdθ × R sin θdφ より、
dI = dM ⋅ ( R sin θ ) 2 = ρ ⋅ R 4 sin 3 θdθdφ
となる。これらを全て集めると、中空球の慣性モーメントIが、以下の計算のように求まる。なお、下
の計算で φ に関して積分した後の値が、図13 の帯状部分(灰色)の慣性モーメントに相当する。
I = ∫ dI = ∫
π
∫
2π
θ =0 φ =0
= ρR 4 ∫
π
∫
2π
θ =0 φ =0
ρ ⋅ R 4 R sin 3 θdθdφ
sin 3 θdθdφ
図13
π
N
= ∫ 2πρR 4 sin 3 θdθ = 8πρR 4 / 3 = 2mR 2 / 3
θ =0
π
課題 1:
∫θ
sin 3 θdθ
=0
F
Mgsinθ
を計算せよ。途中の計算も示せ。
y
Mg
x
剛体の運動方程式 図 13、14 参照
θ
I = kMR 2 , k = 2 / 3 とする。
剛体が滑らず斜面を下りるとすると、運動方程式は(小出:物理
学の剛体のp.74~76 参照)、次のようになる。
N/2
図14
剛体の重心の
剛体の重心の、
重心の、棒に対して平行(
棒に対して平行( x 方向)な運動
方向)な運動は、
な運動
Md 2 x / dt 2 = Mg sin θ − F
(A1)
となる。y 方向には動かないので、右辺=ゼロとなる。
剛体の重心の
剛体の重心の、
重心の、棒に対して垂直(
棒に対して垂直( y 方向)な運動
方向)な運動は、抗力のy成
な運動
分の大きさを N とすると、
Md 2 y / dt 2 = N − Mg cos θ
(A2)
剛体-8
2x
x
N/2
(図で、 N → 2 ⋅ ( N / 2) で読み替える。)
接点での摩擦力 F による剛体の回転運動(反時計周りを正)は、
Id 2ϕ / dt 2 = −rF
(A3)
また、剛体が棒の上で滑らないとすると、
− rϕ = x
(A4)
となる。
課題 2:以下の式の右辺の括弧[
]を求めよ。
(A4)を2階時間微分すると
]
− rd 2ϕ / dt 2 = [ が成り立つ。この関係式を(A3)に代入すると
kM ⋅ ( R 2 d 2ϕ / dt 2 ) = − rF
kM ( R 2 / r )d 2 x / dt 2 = rF ⇒ F = kM ( R 2 / r 2 )d 2 x / dt 2
重心運動の式(A1)に代入し、
Md 2 x / dt 2 = Mg sin θ − kM ( R 2 / r 2 )d 2 x / dt 2 ⇒ d 2 x / dt 2 =
g sin θ
g sin θ
=
2
2
1 + k(R / r ) 1 + 2 (R2 / r2 )
3
よって、 r が小さいほど、球の重心が移動する時の加速度は小さくなる。加速度が一番大きい時(r=
R)で、質点のときに得られる加速度 g sin θ に対する比は 1 /(1 + 2 / 3) = 3 / 5 = 0.6 になるので、質点と
剛体との差が大きく出る。 r = R / 2 での比は、 1 /(1 + 8 / 3) = 3 / 11 ~ 0.27 でさらに遅くなる。なお、中
が詰まった球の慣性モーメントの大きさは、 I = 2 MR / 5 なので、 k = 2 / 5 となる。
2
運動エネルギー保存の式の導出
(A1)(A3)より、
Md 2 x / dt 2 = Mg sinθ + Id 2ϕ / dt 2
両辺に dx / dt をかけて、
Md 2 x / dt 2 ⋅ dx / dt = Mg sinθ ⋅ dx / dt + Id 2ϕ / dt 2 ⋅ dx / dt
ここで、 d [(dx / dt ) ] / dt = 2d x / dt ⋅ dx / dt 、および課題 3 の結果を用いると、
2
2
2
d M
I

2
2
 (dx / dt ) + (dϕ / dt ) + Mg( − x sinθ )  = 0
dt  2
2

「 x sin θ 」は、剛体の重力方向の移動距離である。図 13 の定義では、移動距離が増える(x の値が大き
くなる)と、剛体の高さが低くなり、位置エネルギーが減少する。それが運動エネルギーに変換される。
よって、剛体の重心の(併進による)運動エネルギー、重心周りの回転運動によるエネルギー、および
位置エネルギーの和は一定である。これは、重心周りの回転運動によるエネルギーが大きいほど、重心
の併進運動エネルギーが小さくなる事(剛体の重心が空間を移動する速度が小さくなる事)を意味する。
剛体-9