産業ニュース 動き出す再生医療ビジネス

マーケットウィークリー・823号
産業ニュース
2015.4.10
動き出す再生医療ビジネス
作成者:兵藤三郎
多くの障害者の生
活環境は厳しいの
が現状
2020年のパラリンピックが東京で開催される。オリンピックの開催に合わせて
ではあるが、国内には有力選手も多いこともあり、今開催決定で改めて障害者ス
ポーツが注目を集めた。誘致のプレゼンテーションで佐藤真海選手が語ったよう
に、スポーツは様々な理由で障害を持ったアスリートに勇気や希望を与えてきた。
しかし、腕・足等の欠損や視力喪失など従来の手法では完治が難しく多くの障害
者は厳しい生活環境を受け入れざるを得ないのが現状であろう。
新法の施行で、再
生医療の実用化へ
の道が開ける
昨年秋、「医薬品医療機器法」と「再生医療新法」が施行され、胎児期にしか
形成されない人体組織機能を回復させる再生医療の実用化への道が開けた。まだ
まだ、克服すべき課題は多いが難病治療への前進として期待したい。4月8日に東
証マザーズに新規上場するサンバイオ(4592:マ)は再生細胞医薬品の開発を進
めている企業。成長戦略の一環として経済産業省も再生医療の産業化を後押しし
ていく方針の中、注目銘柄の上場で市場の関心度はさらに高まろう。今回の産業
ニュースでは、再生医療の動向、関連銘柄等を検証した。ただし、筆者は医療関
係者ではない、分かりやすい解説を目指すがゆえ、厳密には正確さを欠く表現と
なることはご了承願いたい。
再生医療の目的は
万能細胞による生
体機能の再生
再生医療とは損傷を受けた生体機能を、幹細胞などを用いて復元させる医療。
通常、細胞は分裂により自己複製能力を持つが、幹細胞は別の種類の細胞に分化
する能力も持つ。人間の体は1個の受精卵から作られていく。つまり、受精卵から
細胞分裂を繰り返し行い脳、心臓、肺、目、手足等様々なものが形成され胎児と
なっていく。しかし、ある程度成長した後は自己複製しか行わなくなる。どんな
細胞にも分化できる万能細胞を作りだせれば、生体機能を再生させることが可能
となる。移植に頼らざるをえなかった損傷では、提供者不足や移植時の免疫拒絶
反応等のリスクがあったが、再生医療により問題もクリアできよう。
iPS細胞の作製
で、山中教授ノー
ベル賞受賞
現在、幹細胞として期待されているのが、ES細胞とiPS細胞。ES細胞は
人工的に作られた幹細胞で、ほぼ無限に増殖が可能。ただし、胚(受精卵から胎
児になるまでの段階)を滅失して作成されるため、受精卵の消失等倫理的な問題
が生じる。また本人の受精卵を用いる訳ではないため拒絶反応もある。受精卵を
使わずにとの研究から生まれたのがiPS細胞(induced pluripotent stem cell:
人工多能性幹細胞)。同研究により、京大の山中伸弥教授は2012年にノーベル生
理学・医学賞を受賞した。
がん化リスクや均
一性確保がiPS
細胞の課題
iPS細胞にも課題はある。受精卵に近い機能を回復させるため4つの遺伝子を
細胞核内に注入(山中4因子)する。そのため、細胞ががん化するリスクが生じる。
均一性の確保も求められる。患者自身の細胞を活用すれば免疫拒絶等の問題はな
いが、コストと時間がかかるため、他人の細胞から作ったiPS細胞をストック
しておく方法が検討されている。ただしそのためには拒絶反応が起きにくい特殊
な体質の人からの細胞提供が必要となろう。同様のiPS細胞を用いた動物実験
では良好な結果を得ている模様。拒絶反応を抑える薬の使用も限定され、移植費
用も従来の5~10分の1程度に軽減される可能性も指摘されている。
マーケットウィークリー・823号
2015.4.10
創薬や細胞医薬品
としての活用も期
待されるiPS細
胞
iPS細胞等では、分化させた細胞でがんなどの病気を再現させ、原因解明や
薬効・副作用の評価への活用も可能。また「iPS再生医薬品」と呼ばれる、人
体組織と同様の機能を持つ細胞医薬品を製造し、人体内で機能不全を起こした組
織や細胞と置き換える治療方法なども研究されている。同領域ではいずれも費用
先行だが、J・TEC(7774:JQ)、セルシード(7776:JQ)などが注目し
ていきたい銘柄。臨床試験支援を手掛けるアイロムHD(2372)はiPS細胞の
量産工場を計画。手術する医療機関に義務付けられていたiPS細胞の培養が、
前述の法改正により緩和、外部委託が認められたため、同ビジネスに参入する。
慢性期脳梗塞の臨
床試験中のサンバ
イオが上場
4月8日上場予定のサンバイオは再生細胞薬の分野で先行する企業。再生細胞薬
は健康なドナーの骨髄液から創られ、幹細胞の働きを促し細胞を再生させるもの。
現在、慢性期脳梗塞向けの治療薬(SB623)の臨床試験を展開中。16.1期は赤字
予想だが、契約一時金等のマイルストーン収入の可能性もあり臨床試験の動向を
注視したい。同社は米国において大日住薬(4506)と共同開発契約を、日本では
帝人(3401)とライセンスアウト契約を締結している。その他多発性硬化症や筋
ジストロフィーなどの再生細胞薬の開発を進めている。iPS細胞と違い量産化
技術が確立している強みもある。
M&Aで世界一の
再生医療企業を目
指す富士フイルム
J・TECを連結子会社としている富士フイルム(4901)は3月30日、米国の再
生医療ベンチャー企業CDIを3億700万ドル(日本円で約370億円)で買収すると
発表した。CDIはiPS細胞を作る技術を持ち、富士フイルムの持つ培養用素
材、J・TECの培養技術とのシナジーが期待できよう。3社の技術を組み合わせ
細胞治療などにも取り組み「世界一の再生医療企業を目指す」(古森CEO談)。
2050年、再生医療
の市場規模は38兆
円に拡大
昨年秋の法改正で、日本での再生医療製品の早期承認と保険適用が可能となっ
た。従来から医療分野での薬事承認等が欧米などと比較し遅れが指摘されている
日本は、今回の改正で再生医療の世界最先端国となる可能性が出てきた。海外か
らの参入も今後加速しよう。経済産業省の推計では2050年の再生医療の世界市場
規模は38兆円、周辺産業は15兆円に拡大する見通し。医薬品業界だけでなく、培
養装置等の機械業界、試薬等の化学業界などにも恩恵が期待できよう。カメラ大
手のニコン(7731)も英国の眼底カメラメーカーを買収するなどメディカル事業
の強化を図っている。同社は13年に再生医療製品の開発を手掛けるベンチャー企
業にも出資した。
◇株価とコメント
(単位:円、倍)
コード
PER
銘柄
株価
コメント
アイロムHD 2372
1,655
- iPS細胞の量産工場を建設、医療機関向け提供を計画
大日住薬
4506
1,403
44.6 米国でサンバイオと共同研究、慢性期脳梗塞の細胞医薬開発
中外薬
4519
3,805 102.7 米国企業と提携、日本で脳梗塞治療を進める計画
テルモ
4543
3,140
35.5 心不全治療向け細胞シートの開発
サンバイオ
4592 マ
- 再生細胞薬の開発を進める、大日住友薬、帝人と提携
富士フイルム 4901
4,399.5
19.3 iPS細胞の培養用素材を製造、米再生医療ベンチャー買収
ニコン
7731
1,632
32.4 再生医療製品開発ベンチャーに出資、メディカル事業強化
オリンパス
7733
4,240
32.3 骨、皮膚の再生を助ける素材を販売
セルシード
7776JQ
726
- iPS細胞を活用し角膜などの細胞シートの製造
MS&AD
8725
3,405.5
17.4 病院向け再生医療用損害保険の販売
日立物
9086
1,920
21.4 培養した細胞を定温で安全に輸送するサービスを展開
(注)マはマザーズ、JQはジャスダックの略。株価は4月6日終値。PERは今期予想、3月決算銘柄は15.3期推定。サンバイオは4月8日上場予定