針刺し 針刺し事故を 事故を科学する 科学する 2 感染と 感染と感染性廃棄物の 感染性廃棄物のABC 第 67 回 感染性廃棄物と 感染性廃棄物と感染 その 2 前回から、感染のしくみは終えて、感染の応用ともいうべき、「感染性廃棄 物からの感染とその予防」について解説をしております。 前回は、感染性廃棄物からの感染を考えると、その中で最も関心の深い、針 刺し事故について解説を始めました。感染性廃棄物からの感染では、針刺し事 故が最も注意すべき事項であることは間違いのないところです。 針刺し事故は、感染予防策からみれば感染経路は、接触感染の一部で、経皮 血液媒介感染とでも呼ぶべきで、免疫でも出てきた、ヒトの生体防御機構でも 重要な役目を担っている丈夫な皮膚を突き破り病原体が生体内に直接侵入して くるという、特殊な状態です。 針刺し事故を科学するとして、感染性廃棄物の最大の関心事 ― 針刺し事故 を取り上げ、針刺しによる感染のしくみについて、いくつかの項目に分けて解 説をしております。 前回は① ① 感染源である 感染源である感染血液 である感染血液を 感染血液を持つ人は、どのくらいの確率 どのくらいの確率で 確率で存在するで 存在するで しょうか? しょうか? ② 感染している 感染している人 している人の血液で 血液で、針刺し 針刺し事故を 事故を起こせば必 こせば必ず感染は 感染は起きるで きるで しょうか しょうか? について触れました。今回はこの2つの事項を図示しました。 前回の解説は、以下のとおりです。 図4 針 刺 し 事 故 を 科 学 す る ; 針 刺 し と 感 染 の し く み ① 感染源である 感染源である感染血液 である感染血液を 感染血液を持つ人は、どのくらいの確率 どのくらいの確率で 確率で存在するでしょうか 存在するでしょうか? するでしょうか? 感染の 感染の可能性なし 可能性なし 100人 100人のうち、 のうち、2~3人がキャリア ・感染の 感染の可能性のある 可能性のある血液 のある血液を 血液を持った人 った人 感染の 感染の可能性あり 可能性あり 97~ 97~98人 98人 感染血液は 感染血液は、2~3人 ④ 感染の 感染の可能性のある 可能性のある疾患 のある疾患は 疾患は、 B型肝炎、C 型肝炎、C型肝炎 、C型肝炎、 型肝炎、エイズ 感染の 感染の可能性のある 可能性のある血液 のある血液は 血液は、100人 100人の内、2~3人です。 です。この感染 この感染の 感染の可能性 のある血液 のある血液を 血液を採血した 採血した際 した際に針刺しを 針刺しを起 しを起こすと感染 こすと感染の 感染の可能性が 可能性が高くなります。 くなります。 〔原田 優・TRP〕 TRP〕 図4 針刺し 針刺し事故を 事故を科学する 科学する; する;針刺しと 針刺しと感染 しと感染のしくみ 感染のしくみ -1- ① 感染源である 感染源である感染血液 である感染血液を 感染血液を持つ人は、どのくらいの確率 どのくらいの確率で 確率で存在するでしょ 存在するでしょ うか? うか? 針刺し事故があると医療関係者であっても処理業者であっても、感染しないか まず心配します。これは当然のことです。自然免疫で出てきたように、強固な 皮膚で守られて、外部からの病原体を防いでいたものが、注射針によって直接 生体内に血液が入るのですから、これは生体にとっては一大事です。しかし感 染の可能性のある血液は、たくさんは存在していません。図 図4 で示すとおり、 100 人の内、2~3人程度です。ですからもし万が一、針刺しが起きたなら、後 に解説しますが応急処置をすると同時に、どこで使われた針でどの患者のもの か、感染血液であるかどうかを調べることも重要です。 医療関係者であるなら、どの患者のものか明らかになることが多いですが、処 理業者の場合では、特定は難しい場合が多いです。 ② 医療用注射針での 医療用注射針での針刺 での針刺し 針刺し事故では 事故では必 では必ず感染するでしょうか 感染するでしょうか? するでしょうか? どのような注射針であっても、感染は起きるのでしょうか? 医療で用いる針でも孔の空いていないむく針(穿刺針のように棒状の針)より は、採血針など中空針のように針の中が空洞になっている方がここに血液が残 り感染の確率は高くなります。 図5 ② 医療用注射針での 医療用注射針での針刺 での針刺し 針刺し事故では 事故では必 では必ず感染するでしょうか 感染するでしょうか? するでしょうか? 1 針刺しを 針刺しを起 しを起こしかたらといって必 こしかたらといって必ず感染するわけではありません 感染するわけではありません。 するわけではありません。 100人 100人の内、2~3人の感染の 感染の可能性のある 可能性のある血液 のある血液を 血液を採血した 採血した際 した際に針刺しを 針刺しを起 しを起こす と感染の 感染の可能性は 可能性は高くなります。 くなります。残りの90 りの90数人 90数人の 数人の血液では 血液では感染 では感染はしません 感染はしません。 はしません。 ◎ B型肝炎; 型肝炎;6~30% 30% C型肝炎; 型肝炎;3~5% エイズ; エイズ;0.3~ 0.3~0.5% 0.5% 程度です 程度です。 です。 ◎ 同じ針刺しでも 針刺しでも、 しでも、薬液を 薬液を注射した 注射した場合 した場合と 場合と採血の 採血の場合では 場合では大 では大きく異 きく異なります。 なります。 採血の 採血の際は、注射針の 注射針の太さでも違 さでも違います。 います。 薬液注射の 薬液注射の場合 薬液を 薬液を押し出すために、 すために、血 液は針に付着する 付着する程度 する程度です 程度です。 です。 感染の 感染の可能性は 可能性は低いです。 いです。 〔原田 優・TRP〕 TRP〕 図5 ② 針刺し 針刺し事故で 事故で必ず感染するか 感染するか? するか? 1 感染の 感染の確率と 確率と薬液注射の 薬液注射の場合 -2- これらの説明として図 図5、図6を用意しました。説明文と共に、図を参照して、 理解を深めてください。 針刺し事故の感染の確率については、普通の注射のように薬液を注入してこれ を押し出す用い方の方が、血液は付着する程度であり、感染の確率は格段に低 くなります。(図5 参照) 参照) 一方、採血針のように吸い上げる用い方では血液をシリンジに呼び込み留置す るので感染の可能性は高くなります。(図 6 上の部分 参照) 参照) また注射針は、口径が大きく血液の留置が多い採血用の針などを感染した人に 用いた後、この針で針刺し事故が起きて汚染血液が体内に入れば感染の可能性 は高くなります。(図6の下の部分 参照) 参照) 図6 ② 医療用注射針での 医療用注射針での針刺 での針刺し 針刺し事故では 事故では必 では必ず感染するでしょうか 感染するでしょうか? するでしょうか? 2 ◎ 同じ針刺しでも 針刺しでも、 薬液を注射した 注射した場合 採血の場合では 場合では大 きく異なります。 なります。 しでも、薬液を した場合と 場合と採血の では大きく異 採血の 採血の際は、注射針の 注射針の太さでも違 さでも違います。 います。 外径の 外径の単位; 単位; G(ゲージ G(ゲージ) ゲージ)は、1インチ (25.4mm)の (25.4mm)の何分の 何分の1か、を表しています。 しています。 採血の 採血の場合 注射針口径 21~ 21~22G( 22G( 0.8~ 0.8~0.7mm) 0.7mm) の方向に 方向に引っ張るため、 るため、血液が 血液が注射針内に 注射針内に留置する 留置する。 する。 この状態 状態で この 状態で針刺しをすると 針刺しをすると、 しをすると、この血液 この血液が 血液が体内に 体内に入ってしまい 感染血液であれば 感染血液であれば、 であれば、感染の 感染の可能性は 可能性は高くなる。 くなる。 注射針の 注射針の太さの違 さの違い 当然、 当然、直径の 直径の大きい注射針 きい注射針は 注射針は、採血 針の場合は 場合は留置する 留置する血液量 する血液量は 血液量は多くな り感染の 感染の可能性は 可能性は高くなります。 くなります。 〔原田 優・TRP〕 TRP〕 図6 ② 針刺し 針刺し事故で 事故で必ず感染するか 感染するか? するか? 2 採血の 採血の場合、 場合、注射針の 注射針の太さの違 さの違い なお注射針の外径の単位;G(ゲージ)は、1 インチ(25.4mm)の何分の 1 かを 表しています。したがってGの数字が大きいほど、針の口径は小さくなります。 医療機関では、16Gから 27Gぐらいまでが用いられています。 ちなみに静脈採血に用いる採血針の口径の大きさは、21Gか 22Gが用いられ ています。 在宅医療廃棄物は、本来家庭から排出されるので一般廃棄物です。したがって 感染性廃棄物を扱う処理業者には直接は関係ありませんが、この在宅医療で使 -3- うペン型の注射器に付けるインシュリンの自己注射針は、34G、外径 0.18mm、 内径 0.1mm、長さ4mmという世界最小で蚊の針といわれる極細な注射針です。 図7 安 全 な し く み の ペ ン 型 自 己 注 射 針 ペン型自己注射針 ペン型自己注射針( 型自己注射針(針ケース付 ケース付き) インスリンほかペン型自己注射針 インスリンほかペン型自己注射針 使用後は 使用後は、針ケースを被 ケースを被せないと外 せないと外せない 感染の 感染の 可能性 なし 注射針は 注射針は、世界最小・ 世界最小・極細・ 極細・34G; 34G;0.18mm 0.18mm 残留血液は 残留血液は? 〔原田 優・TRP〕 TRP〕 図7 安全なしくみのペン 安全なしくみのペン型自己注射針 なしくみのペン型自己注射針 その上、薬液を押出すため、留置血液はほとんどなく、感染の可能性は考えら れません。さらに廃棄の際には、安全な針カバーを被せないと注射器から外れ ない構造になっており、より高い安全性が図られています( (図7 参照) 参照)。 ところが市町村の多くでは、在宅医療廃棄物には、このインシュリンの注射針 が含まれるので感染の可能性があると収集をしておらず、多くの在宅医療患者 が困っております。また在宅医療患者は、感染症をり患しているわけではない ので、直接その疾患から感染血液が付着するということはありません。感染血 液を持っている確率は、先の 100 人の内、2~3人という数値と同じです。 在宅医療で用いるインシュリンのペン型の注射針から感染するから、在宅医療 廃棄物は、一般廃棄物にするのは反対とする市町村の方もいますが、この安全 なしくみや注射針からの感染を考えると、薬液を押し出し採血もしないこの蚊 の針のような微小なものでの感染はあり得ないといえます。 在宅医療患者はどのような疾患を持ち、家で治療を受けているか、またこのペ ン型自己注射針のことや感染のしくみ、在宅医療廃棄物にはどのようなものが あるかなど知る機会もなかなか無いかもしれません。日本医師会在職当時も在 -4- 宅医療廃棄物の取り扱いガイドなどを作成し啓発してきましたが、なかなか針 刺し事故を起こすのは、一般の医療で用いる注射針であって、これと在宅医療 で用いるペン型自己注射針とを混同し、実際のペン型注射器も見ようとしない、 知ろうとしないで、収集をしない市町村がまだまだ多いのが現状です。 なお最近の美容外科では、食中毒で出てきたボツリヌス菌によるボツリヌスト キシンやヒアルロン酸などの皺伸ばしの注射針に 35Gのものが使われていると の記事もありました。 一般の医療施設で医師・看護師等が、時々起こす医療用注射針による針刺し事 故の感染の可能性は、血液の留置が多い採血針が最も高く、次いで翼状針、手 術場での縫合針、メスなどとなっています。 また現在は、針刺し事故自体が、リキャップの禁止、針専用容器等廃棄物容器 利用の普及、安全針の利用、注射針の進歩、手袋の使用などで著しく減少して います。しかし針刺し事故は、医療施設で注射行為を行なう限りは、100 万回に 1 回なり、あるいはさらに小さな確率であっても、針をむき出しで用いる限りは、 避けられないといえます。これらの確率については、後述します。 いずれにしても、処理業者の針刺し事故も数例、筆者の近辺でも起きており、 聞いております。しかし感染したという事例は、まだ1件もありません。 図8 処 理 業 者 に 多 く み ら れ る 針 刺 し 事 故 の 例 注射針が 注射針が突出し 突出し、 針刺し 針刺し事故が 事故が発生 薬液充填に 薬液充填に使用で 使用で 感染の 感染の可能性無し 可能性無し ★ 注射筒に 注射筒に薬液充填の 薬液充填の場合 バイアル製剤 バイアル製剤を 製剤を吸引し 吸引し、注射筒に 注射筒に充填の 充填の際に用い る注射針は 注射針は、関節内注射液の 関節内注射液の粘度が 粘度が高いために、 いために、 注射針口径 18~ 18~20G( 20G(1.2~ 1.2~0.9mm) 0.9mm)使用 mm)使用 ヒアルロン酸 ヒアルロン酸ナトリウム 関節内注射液バイアル 関節内注射液バイアル製剤 バイアル製剤 アンプル バイアル ★ 関節等に 関節等に注射の 注射の場合 実際に 実際に関節に 関節に注射の 注射の際には、 には、少し細い注射針に 注射針に換える。 える。 注射針口径 22~ 22~23G( 23G(0.7~ 0.7~0.65mm) 0.65mm)使用 mm)使用 [協力: 協力:写真提供・ 写真提供・日本シルバー 日本シルバー( シルバー(株)杉山大輔] 杉山大輔] 図 8 処理業者に 処理業者に多くみられる針刺 みられる針刺し 針刺し事故の 事故の例 -5- 〔原田 優・TRP〕 TRP〕 処理業者の針刺し事故の多くは、太い注射針が容器から貫通しており、これで 針刺しを起こしたと聞きます。これは多分、整形外科でヒアルロン酸ナトリウ ム関節内注射液を直接患者の膝などに注入する際に使う注射針ではないと思い ます。この液は粘度が高いために、これがバイアルなど入っているとこれを注 射器に吸い上げる際に、実際に患者に使うものより太い注射針 18~20G( ( 図8 参照) 参照)を用いて注射筒のなかに薬液を入れています。そして患者に注入の際に は、22~23Gのやや細い注射針に取り替えて患者に注射します。 このために医療機関でのこの注射針の扱いが、生体に直接触れることが無いと いう感覚からか、ポリ容器に乱暴に投げ入れたりするのか、針が貫通したり、 時によるとポリ容器どころか、別の密閉できない箱などに無造作に入れられた りして、これにより処理業者が針刺しを起こしていることが多いです。(図 8) 医療機関では、これらの注射針の取り扱いに十分ご留意願いたいと思います。 14.適用上及び薬剤交付時の注意(患者等に留意すべき必須事項等) (1)適用上の注意 (1)調製方法 1)本剤は粘稠なため、バイアル製剤では18~20G 程度の注射針を用いて注射 筒に吸引し、投与時は22~23G 程度の注射針を用いて投与することが望ましい。 〔ヒアルロン酸ナトリウム関節内注射液、医薬品インタビューフォーム 2011 年2 月(改訂第 9 版)〕 ④ 針刺し 針刺し事故の 事故の感染では 感染では、 どのような疾患に 感染し、どのようになるの どのようになるので では、どのような疾患 疾患に感染し しょうか? しょうか? 感染の可能性のある疾患は、先のB型肝炎、C型肝炎、エイズの3疾患が挙げ られます。( (図4の中段、 中段、また感染 また感染の 可能性は、図 5 上段 参照) 参照) 感染の可能性は これらは現在性感染症といわれる疾患で、過去には輸血でも感染が起きました。 この3つの疾患については、後に触れる予定ですが、B型肝炎については、過 去において、母子感染、あるいは垂直感染と呼ばれる母親がB型肝炎であると 出産の際に、母親の産道を通ることによってB型肝炎が母親から新生児に感染 するというものです。このためB型肝炎感染者数と保菌者、いわゆるキャリア と呼ばれる一度B型肝炎に感染し、ウイルスが体内に留まっている人などは多 数おりました。しかし、1986 年にB型肝炎ワクチンが開発され、この普及と共 に母子感染は著しく減少し、キャリアも激減し、100 万~130 万人程度となって います。 -6- C型肝炎は、性感染自体も少なく、輸血などでの確率も、平成4~6年以降は、 ほとんど無いぐらい非常に小さくなっています。稀に針刺し事故や麻薬などで の注射の使い回し、刺青(入れ墨)などで感染するといわれています。 キャリアは 150 万人ぐらいです。 B型肝炎、C型肝炎とも、感染しても無症状、もしくは、本人は風邪の症状程 度で気が付かないで終わる場合が少なくありません。 詳細は次回以降に解説予定ですが、針刺し事故がなぜ恐れられているかといえ ば、B型肝炎では、劇症肝炎が急性B型肝炎の約1%の確率で発症するといわ れており、1972(昭和 47)年で、年間約 37,000 人、2005 年では 400 人、現在 では年間で 100 人ぐらいが発症しております。 劇症肝炎の致死率は高く、かつては 80~90%などといわれていましたが、現 在では、肝移植などしない、内科的な治療のみを行った患者では、急性型の場 合には約 50%、亜急性型の場合には約 20%が救命されています。A型肝炎ウイ ルスが原因の場合には急性型がほとんどで経過は良好でした。 劇症肝炎は新生児から高齢者まであらゆる年齢層で、男女を問わず発症します。 最近では、B型肝炎型肝炎ウイルスのキャリア(持続感染者)からの発症や、 肝臓病以外の病気のために薬物治療を受けていた患者さんが劇症肝炎になる場 合が増える傾向にあります。 ところが先に触れた事例は、ワクチンは開発された直後で十分普及していなか ったこともあり、1987(昭和 62)年に三重大学医学部で研修医と看護師計3人 が針刺しを起こし、B型肝炎を発症し、その約 1%の確率で起きるという劇症肝 炎により2名が死亡するという痛ましい事故が発生しました。 B型肝炎は、この時代は、まだワクチンも無いために患者数も多く、当然針刺 し事故による感染確率も高く、急性B型肝炎を発症すると、その1%ぐらいの 確率で起きるという劇症肝炎は、当時は診断・治療方法も確立しておらず、こ れをマスコミが余りに大きく報道したため、医療即、針刺しによる感染、即、 死に至るという、注射針即、感染、死の恐怖のイメージができたものと思われ ます。 劇症肝炎は、先述のとおり、1972(昭和 47)年で約 37,000 人、2005 年では 400 人、現在では 100 人程度といわれておりますが、当時は死亡率も高かったよ うです。 現在は救命率も肝移植を行えば 80%、行わない内科処置で 50%など と、当時に比べればかなり高くなっています。 -7- ⑤ 針刺し 針刺し事故の 事故の確率は 確率は? ― 診療の 診療の場における確率 における確率 科学的にみた 科学的にみた針刺 にみた針刺し 針刺し事故は 事故は? 処理業者の方々の関心事は、針刺しの感染に集中しています。正しい理解以前 に、できれば避けたいという心情的なものが先行していることも否めません。 しかし、処理業者の方も漠然とした恐怖感などではなく、これらから逃げるこ となく、正しい理解と認識を持って、冷静で科学的な判断ができるようにし、 適切な対処ができることが望ましいことはいうまでもありません。 廃棄物処理業者の方の針刺し事故の確率が求められれば良いのですが、針刺し をしたという方は何人も聞いていますが、残念ながらキチンとまとまったデー タが取れていません。 やむなく医療における針刺し事故が確率的にどの程度で起こるかを試算し、針 刺し事故で最も恐れられている劇症肝炎の発症率をみてみました。 医療における針刺し事故もリキャップ禁止の励行と共に標準予防策の認識と 実施等が浸透し採血時の手袋着用の普及、針捨て専用容器の普及、安全装置付 き注射針の利用などとあいまって、著しく減少しました。そして医療機関での B型肝炎ワクチン接種の普及、まだすべてでないにしても、針刺し事故マニュ アルなどの普及もB型肝炎をはじめ、先の3疾患の感染防止には大きく貢献し てきております。しかし診療時に医師や看護師が、針を出して注射行為を行な う限りは皆無にはならないことも事実です。 特に採血時の注射針などが、21~22G(0.8~0.7mm)と口径も大きいことと 血液を陰圧で引上げるので注射針に血液が留置します( (図6 参照) 参照)。 通常の注射行為であれば薬液を押出すので留置血液も残りにくいので感染の 可能性は低くなりますが( (図5 参照) 参照)、この点は数字としては表せないので考 慮していませんが、感染の可能性をみる上からは特に重要な要素です。 以下の数値で試算しました。 a. 針刺しの 針刺しの確率 しの確率 さる医療関係サイトで針刺し事故が1万回に1回というデータがあります。 しかし採血で考えるならば、1 日で 50 回採血をし、年間で 250 日稼動とすると、 1年で1回針刺しをすることになります。看護師は2年に1回針刺し事故をし ているというデータもありますが、過去のリキャップしていた時代であっても これでは医療関係者の感染者が急激に増えていっているはずです。 筆者も糖尿病で大学病院において毎月採血を行ないますが、その際 10 年間以 上、毎回聞いていますが、過去においては時折針刺しした看護師がいましたが、 -8- 最近では針刺しを経験している看護師等は極端にいなくなっています。看護師 全員が針刺しをする訳では無いので、仮に 10 年で1回の針刺しをしたとすると 10 万回に1回の針刺しが起こる確率となります。 ここでは、看護師が1日 50 回の採血をし、週6日勤務、年 52 週と少し厳し い条件ですが、この稼動でみると、10 万回に1回どころか、28 万回に1回の確 率となります。 b.感染血液 b.感染血液( 感染血液(汚染血液) 汚染血液)の確率 先の 100 人で2、3人ということで3/100 とします。 c. 感染確率 B型肝炎なりの感染者の感染血液で針刺しを起こした際の感染する確率です。 多くの方が大きな勘違いをしている点で、必ず感染するわけではありません。 最も高いB型肝炎の6~30%のデータで、これも詳しくは、B型肝炎がどの ような状態にあるかで違います。 図9 ⑤ 針 刺 し 事 故 の 確 率 は ? 科 学 的 に み た ら a b 針刺し 針刺し事故の 事故の確率 感染血液の 感染血液の確率 看護師が 看護師が1日50回採血 50回採血すると 回採血すると、 すると、週6日で 52週 52週=57,200回 57,200回 5年で1回針刺し 回針刺し 感染の 感染の可能性あり 可能性あり 感染血液は 感染血液は、100人中 100人中2 人中2~3人 ⇒0.03 57,200× 57,200×5 年 約28万回 28万回に 万回に1回 ⇒ 0.000004 c 感染血液による 感染血液による感染 による感染の 感染の確率 劇症肝炎の 劇症肝炎の発症の 発症の確率;B 確率;B型肝炎 ;B型肝炎の 型肝炎の約1% ⇒ 0.01 (仮に全ての感染 ての感染が 型肝炎とし) 感染がB型肝炎とし とし) ◎ B型肝炎; 型肝炎;6~30% 30% C型肝炎; 型肝炎;3~5% エイズ; エイズ; 0.3~ 0.3~0.5% 0.5% 最も高い ⇒ 0.3 ★ 医療関係者 医療関係者の の針刺し 針刺し事故による 事故による劇症肝炎発症 による劇症肝炎発症の 劇症肝炎発症の確率は 確率は 1兆分の 兆分の1 〔原田 優・TRP〕 TRP〕 図9 針刺し 針刺し事故の 事故の確率は 確率は? ― 診療の 診療の場における確率 における確率 科学的にみた 科学的にみた針刺 にみた針刺し 針刺し事故は 事故は? -9- 過去との大きな違いは、B型肝炎のキャリア(B型肝炎ウイルスの保持者、 過去の感染者を含んだもの)は、ワクチン接種の普及で著しく減少しました。 ここでは、感染している感染血液ですので、正確にいえば、 *現在、B型肝炎の診断では血清中のHBs抗原、HBe抗原・抗体が主に感染 の指標とされています。 HBs抗原(+): 現在B型肝炎に感染している HBe抗原(+): 体内にB型肝炎ウイルスが多量に存在し、他の人に感染 させる可能性がある HBe 抗体(+): B型肝炎ウイルスが減少し、感染力が低下している となります。 HBs抗原が陽性でHBe抗原が陰性の感染源血による針刺し事故の場合は、 血清学的陽性率は23~37%、臨床的な肝炎発症率は、1~6%にとどまります。 しかし、HBs抗原とHBe抗原がともに陽性の最も活発な状態の感染源血の場 合で、血清学的陽性率は37~62% となり、肝炎発症率も、22~33%にまで達し ます。 この最も臨床上で発症の高い、B型肝炎の22~33%を用いて 3疾患のいずれ かが発症するというもので、その確率は、感染血液であれば、3/100、すなわ ち、0.3 の発症としました。他の成書では、感染血液の3疾患の確率は、図 図8 のとおりですが、ここでもB型肝炎は、30%となっております。 この他の重要な要素としては、先述の留置した血液量によって、c.の感染の 確率は、大きく異なってきますが、ここでは、3/10 のままとしました。 試算の 試算の結果 試算の結果は、1 兆回に 1 回の劇症肝炎の発症が起こるとの確率が分りました。 今回の医療関係者における針刺し事故の試算では、最も採血という感染の機 会が多い看護師を代表として、1 日 50 回の設定で、28 万回に 1 回の針刺し事故 となりました。この仮定の数字がさらに高いものであっても、実際には、感染 血液の確率と感染血液からの確率、そして最も重要なことは、劇症肝炎を発症 する確率を乗じていくなら、非常に結果は、確率の低いものになってくること は、間違いありません。しかもこれは感染であって、即、死ではありません。 劇症感染は、B型肝炎の1%ですから、全てB型肝炎として計算しても、こ のさらに 1/100 を乗じたものが劇症肝炎のり患率です。 なお医療関係者の針刺し事故により労災の認定を受けた人は、C型肝炎に関 しては統計の始まった平成5年度から毎年多くの医療従事者がC型肝炎感染労 -10- 災認定されており、平成 11 年までの7年間で 377 名(医師 39 名、看護婦 307 名、臨床検査技師 9 名、その他 22 名)が認定されています。 調査の原典によって母集団を確定しないとこの数値を扱えません。 過去に他の災害なり、事故なりの確率を調べ、比較を試みました。 航空機事故の輸送実績延べ 1 億人キロあたりの死亡乗客数「0.04 人」、これは、 東京─ニューヨーク間約 1 万キロを 12 万 5,000 回往復すると死亡事故に遭う確 率で、少なくともこれと比較する限りは、非常に小さい確率です。 またこれは医療での数値での試算です。処理業者での針刺し確率を類推する なら、医療機関によって感染性廃棄物の廃棄のしかたが大変乱暴であったり、 容器の使用も杜撰であったりすることは良く聞いていますし、また事例を多数 確認しています。しかし医療においても、針刺し事故による感染は何例か出て いますが、死亡事故は昭和 62 年とその直後にもあったようですが、この記録な ど探せませんでした。またこれ以降の報告はありません。 これ以来、起きていないということは、航空機事故とも比較できないぐらい 非常に確率の低いものであることをご理解いただけると思います。 ペン型の自己注射針の針刺し事故は、さらに比較にならないぐらい小さな確 率であるといえます。 この昭和 62 年の医療における死亡事故を発端として平成3年特別管理産業廃 棄物の概念ができて、感染性廃棄物の扱いが生まれました。 本来は、処理業者の針刺し事故についての確率を求める必要があろうかと思い ます。単に医療機関が適正な扱いをしないために処理業者が針刺しの危険にさ らされていることは事実でしょう。 筆者は以前から薦めているのですが、各地の産業廃棄物協会なり、そして全国 産業廃棄物連合会なりで、処理業者の針刺し事故の統計調査を実施すべきと考 えます。 処理業者以外の、本来の医療における針刺しによる死亡事故は、診療の場にお いて 20 数年前も過去の小児科の研修医2名と看護師1名が劇症肝炎を発症し、 内、2名の研修医が死亡するという事例と他にあったといわれる1件の計2件 のみといえます。 処理業者の方々が安心して処理に従事するためには、数値としての解析も必要 ですし、また各事例から、どのような時に針刺し事故が起きたのか要因を調べ、 医療機関と連携して、針刺し事故自体から回避を図るべきと思います。 医療機関における針刺し事故の調査では、最近のデータではないですが、1996 ~2001 年と 2002~2003 年の2期間を比較する調査があります。 -11- 図10 針 刺 し 事 故 の 発 生 状 況 ; 2 期 間 比 較 1996~ 1996~2001(n= 2001(n=22,857 (n=22,857) 22,857) 2002~ 2002~2003(n= 2003(n=6,526 (n=6,526) 6,526) 使用後廃棄容器収容まで 使用中 リキャップ時 廃棄容器関連 数段階の処置中 器材の分解時 管・ゴムへの注入/抜針 再使用のための操作中 使用前 その他 0% 廃棄物関連 21 20 20 16 10 11 9 24 23 10 3 6 3 3 2 1 3 3 4 8 5% 10% 15% 20% 25% 〔木戸内清; 木戸内清;職業感染制御研究会編、 職業感染制御研究会編、 職業感染防止のための 職業感染防止のための安全対策製品 のための安全対策製品カタログ 安全対策製品カタログ集 カタログ集 第3版 2006年 2006年 原田改変〕 原田改変〕 図 10 針刺し 針刺し事故の 事故の発生状況; 発生状況;2期間比較 期間比較 見やすいように、2002~2003 年の発生状況の比率の高いもの順に並べてみる と、興味あるいくつかの事実があります。(図 10 参照、数値の%は略) まずリキャップ時の事故は著しく減少しています。このため、使用後容器に収 容するまでが、リャップ時(2位)よりわずかな差で1位であったものが、2003 年調査では、リキャップ時は大きく減少し3位となりました。使用後容器に収 容するまでは、変わらず第1位となっています。ちなみに廃棄物容器関連は、 4位でわずかながら増えています。使用中は、3位から2位となっていますが、 数値は変わらないです。リキャップは針刺し事故の大きな要因でしたが、廃棄 物容器等の普及が進む中で、廃棄物関連の比率が高いことは大きな課題です。 これらの調査からも今後は、医療機関、処理業者と分けるのではなく、感染性 廃棄物の共通の課題として取り組んでいくことが肝要であるといえます。 先の三重医大の針刺し事故の事例については、針刺し事故が偶然とはいえ、同 じ病棟でほぼ同じ日に3件も起き、そして3人が揃って劇症肝炎に罹るものか、 この事例については、当時、劇症肝炎について恐ろしい疾患が出てきたという 記憶しありませんで、今考えてみると謎が多く、 「感染性廃棄物と感染」のどこ かで改めて触れる予定です。 次回は、針刺し事故の防止と感染予防等を中心に考えていきたいと思います。 -12- 第 67 回 セルフアセスメント 第 67 回の解説の中から設問を用意しました。もしご興味がおありでしたら、 お答えください。解答は次回といたします。 1.針刺し事故の感染の確率については、普通の注射のように薬液を注入して これを(① )用い方の方が、血液は付着する程度であり、感染の確率 は格段に低くなります。一方、採血針のように(② 液をシリンジに呼び込み留置するので(③ )用い方では血 )は高くなります。 第66回 66回 解答 1.針刺し事故などで、感染している人の血液が体内に入れば、必ず感染は起 きるかといえば、( ① 免疫、または生体防御機能 )が働き、100%感染する わけではありません。もし感染している人の血液が、採血用注射針などの針刺 し事故で確実に体内に入ったとした場合であっても、感染する率は、( ② B 型肝炎) 10~30%、C型肝炎 3~5%、( ③ エイズ )0.3~0.5% といわれ ています。 食中毒・ 食中毒・第40回 40回(第66回 66回) 解答 1.ノロウイルスは、( ① 経口感染 )です。一次感染を含め食べ物の( ② 85℃・1分間以上)の十分な( ③ 加熱)が重要です。二次感染予防のポイ ントとしては、( ④ 手洗い)がまず第一となります。 エボラ出血熱 エボラ出血熱の 出血熱の最新状況 WHOのエボラ出血熱の現状報告が、3月 18 日に発表されました。 西アフリカ三国のエボラ出血熱感染者の累計は、2万4千666人、 死者は、1万179人となりました。 リベリアでの新規感染者の0(ゼロ)は、3週連続です。 また西アフリカ三国での、エボラ出血熱感染・感染疑い患者の今週の報告は 「150 人」で、前週の「116 人」から増加しました。 エボラ患者増加の主な要因はギニアです。 [引用・ 引用・参考文献] 参考文献] 1.国立医学部付属病院感染対策協議会編:病院感染対策ガイドライン、じほ う、pp.152-164(2004) 2.ICHG 研究会編:標準予防策実践マニュアル(これからはじめる感染予防対 策)、南江堂、2005 3.細見由美子他:針刺し事故の危険性と予防対策、茨城県病院医学雑誌、第 15 巻第3号 -13- 4.環境省監修、日本医師会・日本産業廃棄物処理振興センター、平成 24 年度 医療関係機関等を対象にした特別管理産業廃棄物管理責任者に関する講習 会テキスト、第2章および資料編 原田担当部分、日本医師会・日本産業廃 棄物処理振興センター、2012.9 5.環境省監修、日本医師会・日本産業廃棄物処理振興センター、平成20年度 医療関係機関等を対象にした特別管理産業廃棄物管理責任者に関する講習 会テキスト,第1章および資料編 原田担当部分、日本医師会・日本産業廃棄 物処理振興センター、2008 6.厚生省監修・国立大阪病院感染対策委員会編:院内感染予防対策ハンドブ ック(インフェクションコントロールの実際)、南江堂、2003 7.原田 優、在宅医療廃棄物適正処理推進のポイント(阻害要因の究明と対応) 〔有害・医療廃棄物研究会助成論文〕、有害・医療廃棄物研究会誌 24(1・2), 19-20(2012) 8.Elevence Annual Scientific Meeting 2001 SHEA, Toront, Canada 9.矢野邦夫他、 :針刺し事故防止と感染対策、日本ベクトン・ディッキンソン、 2001.8 10.日本医師会:在宅医療廃棄物適正処理ガイドライン 平成20年2月,2008.2 11.日本医師会:在宅医療廃棄物取扱いガイド 平成20年2月,2008.2 12.小園治・原田優、平成 23 年度医療廃棄物処理従事者への研修会資料、東京 都・東京産業廃棄物協会・東京都医師会、2012.2 13.田中榮司監修、針刺し事故によるB型肝炎とその対処、日本血液製剤機構 14.Warner, B. 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