ヤングキャリアの可能性をいかに拓くか ~学生支援の現場から 須田

キャリア・コンサルティング好事例 [キャリア教育・若年者 26-1]
キャリア・コンサルネット
ヤングキャリアの可能性をいかに拓くか
~学生支援の現場から
須田万里子
合同会社人材ドック
代表
取り組みに至った背景
第 1 号キャリアコンサルタントとして採用されたものの、芸術系の大学特
有の学生の特徴を知らずにキャリアコンサルティングすることは、効果が
出にくいとの大学側の考え方があり、就職課の中にキャリアコンサルタン
トの席をおかず、資料室に席をおき、本の貸し出しなどをしながら、学生
たちと向き合っていくことになった。相談という大上段でなく、日ごろ接
していくことで、小さな不安などを聴くことができ、芸術系の学生の支援
に必要なものが見えてきた。
取り組みと工夫のポイント
従来、芸術系大学では、就職支援部門に専門のキャリアコンサルタントは
おらず、アーティストを輩出することに主眼がおかれていたが、その他の
多様なキャリアに対応するために、外部人材として初めての登用が行わ
れ、勤務を開始した。配属後は、キャリアコンサルティングを学生に行う
前に、まずは大学、および学生を知ることが重要だった。
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低学年のキャリア支援の必要性
資料室で知り合った、卒業をまじかにし、将来の選択がうまくいかなかっ
た 4 年生の話を聞いていくと、「早期に、学ぶということと、働くという
事が紐づくような話が聞ければ、就職活動への取り組み方も変わっていた
と思う。」という後悔の念や、「作家で食べていくにしても、社交性は重
要で、ビジネスマナーやコミュニケーションスキルを学ぶ機会があれば、
なおよかった」という声が多く聞かれた。
そこで、上司に相談し、1,2 年生に向けての低学年のキャリア支援を企
画した。「作家になるか、教師になるか、企業に入るか?」と悩む彼ら
に、自分の未来を考えるのに必要な情報提供と、考える場を作ることを提
案した。
数回のグループワークを実施してみると、以下のような声が聞かれた。
「今までずっと就職のことになると、卒業したら絶対企業に入らなければ
ならないというイメージがあったが、あえて回り道をしてたくさんの経験
を積んでゆくのもよいなと思いました。」
「自分のことを話そうとすると、思っていた以上に言葉にするのが難し
く、上手に伝えられなかった。そのことに気づけてよかった。」
「意識を高くもつことが大事。まだ大まかにしか決まっていないけど、今
一度自分に何をしたいかを聞いてみるべきだと思えた。ジブンというもの
をつきつけることで、何がやりたいか、自然にわかってくる。」
「今日はきてよかったです。ほんわりと頭の中で思っていたことや、考え
ていたことがだいぶ明確になったような気がします。ちょっとずつ、自分
のやりたいことを見つけられるよう行動していきたいと改めて思いまし
た。来月も来ます。」
株式会社マイナビ 意識調査から見える学生の意識
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キャリア・コンサルネット
若手世代の特徴
多くの情報・知識を
もっている
万能感をもっている
(コンプレックスが裏返し)
根底には、自信のなさ。やりたいことが
みつかるまではやらない世代
・やりたいことをやりたい
⇒
やりたいことしたことしかやらない
・成長意欲が高い
⇒
自信をもちたい
・頭で理解したらできる
⇒
できると思っている
・本気でやったらできる
⇒
本気でやらない
・なんとかなる
⇒
他責意識
・自分のポジションを気にする
⇒
居場所がほしい
取り組みの成果
「作家か、教師か、一般企業か」と悩む学生たちと向き合い、才能と自分
の将来の間で悩む学生の枠を広げることを可能にした。
特に低学年でのキャリア支援に効果を出すことができた。
自立的なキャリア形成支援の第一歩をサポートする
芸術系の学生をみていると、自分に軸があり、考える力も、表現する力
も高いことに気づかされる。
しかし、学ぶことと、活用して仕事にしてゆくことの間には大きな溝が
あり、働くことをイメージできていない。
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キャリア・コンサルネット
そのような中、一般的な就職の情報に振り回され、自分は世の中の役に
立たないと感じ、就職をあきらめるケースが多かったように思える。
外部のキャリアコンサルタントとして私が重視したのは、一般論を押し
付けることでなく、彼らの持ち味やバックグラウンドを学び、そのうえ
で枠にはめずに、彼らの枠を広げることが重要だと感じた。
絵を描くことが、作家や教師以外にも、色々な場面で強みになりうる。
営業でも、企画でも、販売でも、その強みが活きるということを伝え、
一緒に将来を考えていった。
結果として、留学や院に進むにしても、自分の将来を考えたり、強みを
自覚することは、必ずや将来に役に立つだろう。
取り組みを通じて見えてきたことや今後の展開・課題
効果の出るキャリアカウンセリング
「成功の循環」MIT(マサチューセッツ工科大学)ダニエル・キム教授
関係の質
思考の質
結果の質
行動の質
ESを添削したり、答えを教えるのではなく、成功体験やリソースに自ら気づ
き、変えられない他人と過去から、変化可能な自分と未来への転換を促すカウ
ンセリング。何より大事なのは、学生との関係作り。
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キャリア・コンサルティング好事例 [キャリア教育・若年者 26-1]
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音楽大学でのキャリア支援に活かしていく
2 年間の芸術系大学でのキャリア支援で学んだことを活かしていくために
2015 年 4 月より、音楽大学においてキャリア支援を担当させていただくこ
とになった。
音楽大学の支援はさらに難しく、演奏家か、教師か、企業か、留学か、研究生
かという選択の中で揺れている。
芸術系大学と共通する部分は多いと思われるが、音楽業界ならではの特徴も有
するので、また 1 からキャリアコンサルタントとして学び直すことになる。
まずは大学の行事に、できるだけ多く参加させていただき、大学を知り、学生
を知り、学生の働き方を一緒に考えていこうと思います。
導入先のコメント
音楽大学では、多様な進路選択・キャリア形成への対応が
必須となっています。音楽家としての未来だけでなく、進学
や就職など様々な進路がある中で、学生は日々音楽と向き
合いながら自身の将来を模索しています。
不安定な要素の多い中でのキャリア支援は、一人ひとりと
丁寧に対話し、共に模索していくことでしか進んでいくことは
できません。
また、こういった一般的な就職支援とは異なる難しさがある
一方で、社会に出るという現実と向き合うための情報や知
識が不足しがちなのも事実です。
それらのバランスを常に感じ取りながら相談にあたる上で、
講師の須田先生のリベラルかつ広い視野と、豊富なご経験
に基づいた支援を受けられることは、学生だけでなく私たち
キャリア支援従事者にとっても非常に嬉しいことです。
今後さらに多様なキャリア支援が求められていく中、須田先
生との連携により、常に変容するニーズへの理解を、共に
深めていきたいと思います。
桐朋学園大学 キャリア支援センター
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キャリア・コンサルネット
須田
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万里子(すだ
まりこ)
2 級キャリア・コンサルティング技能士
HR 総研キャリアカウンセラー
合同会社人材ドック代表
短大卒業後、メーカーや外資系を経て、大手派遣会社に
勤務。
派遣法前の急成長の中、人材会社で第 1 号コーディネ
ーターとして、女性と若者のキャリア支援にかかわる。
その後独立。大学や公的支援機関で、解決志向を取り入れたキャリアカウンセ
リングとセミナーを実践。
社会人 5000 人、学生 900 人のキャリア支援と 25 年間の採用経験を活かし
て、人と企業のベストマッチングを目指す。同時にキャリア・コンサルティン
グ技能士会関東甲信越支部副幹事として活動中。
リンク先:
http://www.jinzai-dock.com/
http://www.c-consulnet.jp/html/result.php?id=000821&page=1
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