第42回青医学要旨集(講師抄録) - 一般社団法人青森県臨床検査技師会

教
育
講
演
『輸血管理業務は、毎日が医療安全推進日!』
市立函館病院 輸血細胞治療センター
佐々木 淳 先生
近年、輸血関連の重大なインシデント・アクシデント報告は減少傾向にあると感じるものの、日本
病院機能評価機構が厚生労働省から移管された「医療事故収集事業」報告をみると、依然として事故
及びヒヤリ・ハット報告が全国から挙げられているのが現状です。
米村氏の報告 1)によれば、輸血過誤の原因は「技術的誤り(判定用血清不良、検査技術の未熟、血
液型判定を誤りやすい血液)」と「事務的誤り(記載の誤り、連絡の誤り、使用の誤り)
」に大別され
ると定義しています。技術的誤りは輸血管理料施設基準にもあるように、常時輸血検査が実施できる
体制が構築され輸血検査自動分析器の普及・導入がなされたこと、事務的誤りは輸血部門システムの
普及・導入が検査技師の関わる輸血過誤の抑制に貢献しているものと考えられます。また、病院機能
評価・ISO15189・I&A 等の外部評価により輸血検査室の質の向上も要因に挙げられます。
しかしながら、検査技師が直接業務として介入することが少ない輸血実施現場においては、医師及
び看護師による患者取り違えや製剤バッグ取り違え等、事務的誤りが主体をなすインシデント・アク
シデント報告が目立ちます。医療機関の規模や検査技師の配置人数にもよりますが、私たちは臨床現
場で起こり得る輸血関連のインシデント・アクシデントの抑制を輸血管理業務として取り組む必要が
あります。
今回は当院で発生した輸血に関するインシデント事象を他の医療機関で発生した事象と交えてお
示しし、啓蒙や対応策による効果等について皆さんにご報告させて頂きます。
厚生労働省は、毎年 11 月 25 日を含む 1 週間を「医療安全推進週間」と位置づけ、医療の安全に
向けた様々な推進事業を行っていますが、安全な輸血医療の推進と実践のため、輸血部門で働く私た
ちは毎日が「医療安全推進日」として取り組む意識が必要ではないでしょうか?
参考文献:
1)米村雄士:輸血過誤の現状と対策、日本輸血・細胞治療学会雑誌、58:518、2012
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特
別
講
演
『新潟・岩手・イタリアでのエコノミークラス症候群予防検診からわかってきた
DVT と心血管リスク』
新潟大学大学院呼吸循環外科、新潟大学災害・復興科学研究所
榛沢 和彦 先生
震災後に DVT が多く発生することは 2004 年の新潟県中越地震後に明らかになった。当初 DVT は車中
泊避難によるものと考えていたが、1 年後の小千谷市・十日町市での検診では震災後に車中泊をしていな
い避難所生活のみの被災者にも多く見つかった。そこで同じ豪雪地帯で中越地震の震源地から 100km 以
上離れた新潟県阿賀町で同じように DVT 検診を行ったところ有意に頻度が低かった。したがって小千谷
市・十日町市では震災と関連する DVT が 1 年以上経過しても多いことから避難所生活の影響も示唆され
た。その後能登半島地震、新潟県中越沖地震(柏崎)の避難所で検診したところ DVT が多く見つかった
ことから避難所生活が DVT の原因であることが確実となった。また中越沖地震での DVT 検診では血圧を
測定したところ DVT 保有者で有意に高いことが判明し、以後の検診では血圧を測定することにした。東
日本大震災避難所でも DVT 検診を行ったところ DVT が高頻度で見つかり、環境の厳しい避難所で 40%
を超えていた。また避難所の高血圧頻度は DVT 頻度と比例し、新潟県などの遠隔地避難所でさえも同じ
であった。さらに 2012 年に発生したイタリア北部地震被災地で DVT 検診を新潟県中越地震復興基金な
どで行ったところ震災 1 年後でも DVT が高頻度で見つかり、車中泊頻度と比例し、1 階の玄関にマット
を敷いて寝ていた頻度と比例したが 2 階ベッドの使用頻度とは反比例していた(イタリアでは寝室は 2 階
にある)。またイタリア人でも日本人と同様にヒラメ静脈最大径が 9mm 以上で有意に DVT が多かった。
Sorensen らは 2007 年の Lancet 誌に DVT や肺塞栓症患者では 20 年経過しても心筋梗塞・脳梗塞の発症
が多いことを報告した。
そこで中越地震 5 年後と 8 年後の DVT 検診において受診者に震災後の肺塞栓症、
心筋梗塞、脳梗塞の発症について調査したところ、どちらも DVT 保有者で有意に多く発症していた。一
方、震災後の DVT 頻度の意義を確かめるため 2011 年から横浜市などで地震対照地検査を行った。その結
果、受診者の集め方によって DVT 頻度が異なっていたが低リスク群− 高リスク群として 2-4%ということ
が判明した。また年齢によって上昇するが 65− 70 才の被験者でも DVT 陽性率は平均 4%以下であった。
したがって新潟県中越・中越沖地震被災地、三陸沿岸被災地、石巻市などでは未だに平均年齢 65-70 才の
受診者における DVT 平均は 6%以上であり震災の影響が残っているものと考えられた。また対照地検診結
果分析では年齢、心臓病(虚血性心疾患・不整脈・心不全)、眠剤の使用、ヒラメ静脈径 9mm 以上などが
DVT の有意なリスク因子であったがワルファリン服用で有意な低下は認めなかった。最近新たな中枢動
脈の拡張能/硬化度の指標である arterial velocity pulse index (AVI)が日本で提唱された。これは片側上腕
で血圧を測定する手技だけで検査できる。AVI 値は 20 代の若年から年齢と有意に相関し、頸動脈エコー
による Max-IMT 経食道心エコー検査による大動脈の Max-IMT とも有意に相関することから早期の動脈
硬化指標になるものと考えられている。この AVI 値を中越沖地震の DVT 検診で測定したところ AVI 値は
血圧と関連の無い D ダイマー値と並ぶ DVT の有意なリスク因子であった。また岩手県三陸沿岸の仮設住
宅団地でも DVT の頻度と相関していた。以上のことから DVT は多元性の疾患であり発生要因を断定する
ことは難しいが心臓病、血圧及び AVI と関連しており、さらに DVT 保有者で脳・心血管イベントが多い
ことから動脈硬化と関連していることが推測される。また日本人では特に災害後で女性に DVT が多いこ
とから日本の生活習慣も影響していると考えられる。逆に DVT が慢性期に悪化して肺塞栓症を発症する
こと、卵円孔開存を通じて脳梗塞や全身の塞栓症の原因となることも否定できない。Sorensen らは DVT・
肺塞栓症患者の 30 年間の追跡結果を分析したところ死亡率が一般住民よりも有意に高いことを報告して
いる。そこで新潟県中越地震 DVT 検診で DVT が見つかったが以後検診に来ていない人にアンケート調査
を行ったところ、DVT 保有者では非保有者に比して有意に肺塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞が多く、死亡率
も高かった。以上のことから DVT は災害後などの生活環境変化で発生しやすく、心臓病(虚血性心疾患、
不整脈、心不全)、高血圧、眠剤使用などで発生率が高くなる。さらに DVT 保有者では下腿 DVT であっ
ても慢性期(5 年以上)に肺塞栓症、脳梗塞、心筋梗塞の発症リスクが高いことから(原因は未だ不明)、DVT
保有者・既往者では普段から動脈硬化危険因子の管理と定期健診受診を欠かさないなどが重要である。一
方、東日本大震災の仮設住宅団地では未だに DVT が多く見つかり血圧も高い。したがって今後は脳梗塞、
心筋梗塞、肺塞栓症などが他地域よりも増える可能性がある(実際に検診時に循環器疾患が増えている)こ
とから早急な対応が必要であり、今後も DVT 検診などを行う必要がある。
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