プログラム・要旨集 - Evo

第8回 Evo-devo 青年の会
進化の「実証」を試みる
日時:2015 年 6 月 27 日(土)12:00 開始 ∼ 28 日(日)12:30 終了(予定)
場所:名古屋大学理学南館セミナー室
©The Complete Work of Charles Darwin Online
開催趣旨
進化は一回性の出来事なので実証できない、というのはよく見られる議論である。進化の研究はその
困難さを乗り越えようとする努力の積み重ねであった。多くの研究者により、現生の生物のもつ形質や
遺伝情報を用いて、祖先の形質を推定する試みが続けられて来た。また、化石記録をたどることで、進
化の道筋を明らかにしようとしてきた。しかしそれで十分だっただろうか?近年、世代時間の短い生物
や、遺伝子改変技術など、様々な工夫を用いて、進化を目の前で起こす試みが始まっている。実際に生
物が進化する過程が観察できたとして、それによって新しくもたらされる知見は何か?我々の生命観が
どのように変わりうるのか?議論を深めたい。
オーガナイザー:越川 滋行(京都大学)
・別所 学 (名古屋大学)
・石川 由希(名古屋大学)
主催:Evo-devo 青年の会
幹事:石川麻乃(国立遺伝学研究所)・石川由希(名古屋大学)・越川滋行(京都大学)
・
豊倉浩一(神戸大学)・福島健児(University of Colorado Denver)・守野孔明
(筑波大学)・別所学(名古屋大学)
共催:名古屋大学博士課程教育リーディングプログラム IGER
スケジュール
6 月 27 日(土)
11:00-
受付開始
12:00-
趣旨説明
12:10-
招待講演 古澤力
(理研 QBiC)
「進化ダイナミクスの構成的理解
13:10-
招待講演 細田一史
∼大腸菌進化実験から何が見えるか?∼」
(大阪大学)
「微生物の実験室内進化をつかってコミュニティの進化を見て考える」
14:10-
休憩
14:25-
招待講演 布施直之
(京都大学)
「ゲノムの視点から迫るショウジョウバエの暗闇適応のメカニズム」
15:25-
招待講演
刈基行
(名古屋大学)
「イネの Natural variation を利用した研究と育種」
16:25-
休憩
16:40
招待講演 太田欽也
(台湾・中央研究院)
「脊椎動物ボディープラン逸脱に向けて人為淘汰が生じた金魚の胚発生」
18:00-
ポスター発表 兼 懇親会
21:00-
二次会
6 月 28 日(日)
10:00- 口頭発表1
10:20- 口頭発表2
10:40- 口頭発表3
11:00- ワールドカフェ
12:00- 流れ星表彰式
12:05- 閉会
会場へのアクセス
名古屋大学
東山キャンパス
理学南館 1F セミナー室
〒464-8601
愛知県名古屋市千種区不老町
http://www.sci.nagoya-u.ac.jp/access/access.html
地下鉄名城線「名古屋大学駅」下車すぐ
・JR 名古屋駅・名鉄新名古屋駅・近鉄名古屋駅から
地下鉄東山線 藤が丘行きに乗車し、本山駅で地下鉄名城線 右回り(八事方面)に乗り換え、名古屋
大学駅下車。所要時間約 30 分(乗換含)
または名古屋バスターミナル 2 番のりばから市バス名駅 17 名古屋大学行きに乗車、終点名古屋大学下
車。所要時間約 35 分
・JR 金山駅・名鉄金山駅から
地下鉄名城線 左回り(新瑞橋・八事方面)に乗車し、名古屋大学駅下車。所要時間約 25 分
名古屋大学構内地図
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名古屋大学全体マップ(http://www.nagoya-u.ac.jp/access-map/index.html)
費用
・参加費
無料
・懇親会費
学生
2500 円、
一般
4000 円
本会に引き続き、同会場にてポスター発表を兼ねた懇親会を開きます。
懇親会参加費は学生 2500 円、一般 4000 円です。受付時にお支払いください。
朝食・昼食
初日は昼食後の集合となります。また 2 日目は昼食前に解散となります。素泊まりで宿
泊される方は、各自で 2 日目の朝食を用意するようにしてください。会場最寄のコンビニ
は、地下鉄「名古屋大学駅」3 番出口付近の半地下にあります(地図参照)。
招待講演
進化ダイナミクスの構成的理解
∼大腸菌進化実験から何が見えるか?∼
古澤力
(理研 QBiC)
生物システムの進化過程は、変異による表現型の変化と選択といった世代時間よりも十
分に長い時間スケールから、遺伝子発現量の揺らぎといったより短い時間スケールまで、
異なる時間スケールのダイナミクスが関与する複雑な現象である。その理解のためには、
異なる階層のダイナミクスがどのように相互作用し、システムの安定性と可塑性を実現し
ているかを明らかにする必要がある。本研究では、抗生物質を添加した環境下での大腸菌
の進化実験を行い、そこでの表現型と遺伝子型の変化を解析した。様々な抗生物質を添加
した環境で進化実験を行い、得られた耐性株について、超並列シーケンサにより突然変異
を同定し、またマイクロアレイ解析によって遺伝子発現量の変化を定量した。これらのデ
ータを統合し、単純な数理モデルを用いることにより、8 遺伝子程度の発現量変化に基づ
き、様々な薬剤への耐性・感受性を高精度で予測するシステムを構築した。また、遺伝子
発現量の変化と耐性・感受性の変化は強く相関をしている一方で、突然変異は耐性能の変
化と必ずしも高い相関を示さず、変異に依らない表現型の変化が耐性能の獲得に寄与して
いることが示唆された。これらの結果は、抗生物質への耐性獲得という進化ダイナミクス
を記述し理解するためには、ゲノム配列の変化に加え、遺伝子発現制御や代謝、細胞内外
の物質輸送などの様々な相互作用を理解する必要があることを示している。
Memo
招待講演
微生物の実験室内進化をつかって
コミュニティの進化を見て考える
細田一史
(大阪大学)
進化の原動力は競争である。そう思うと世の中は利己的で殺伐とした感じがする。しか
し実際には生物といえば協力だ。色んな細胞が協力して個体ができ、色んな個体が協力し
てコミュニティがある。つまり実際にはあまり殺伐としていないので、たぶん競争に対す
るイメージが間違えている気がする。いったい何が間違えているのだろうか?
考えてもキリがないので、大腸菌を使ってコミュニティの進化を見てみることにした。
遺伝子組み換えにより、個々の大腸菌が余分に栄養を漏らして協力しないと全滅してしま
うコミュニティをつくって継代した。競争のあまり、余分な栄養を漏らさなくなる裏切り
者になって全滅してしまうだろう、とか思っていたがしなかった。真面目に調べると、裏
切り者になるよりも効率の良い変化がたくさんあるから、というのが理由の様子。要する
に、競うための軸がたくさんあったら、一つの軸にこだわって奪い合う確率は低くなる、
ということだろう。
なるほど、競争というとお金やテストの点など一つの軸で競うイメージがあるから殺伐
感があるが、実際には「軸がたくさんある=高次元である」から和気あいあいなのかも。
進化競争を高次元ダイナミクスと思うことで進化や生命の本質が見えてきて、それにより
人類の価値観がもっと和気あいあいになれば最高だ。さてコミュニティの進化と発生の進
化は本質的に同じ部分が多い。高次元ダイナミクスと思うと何が見えるだろう?
Memo
招待講演
ゲノムの視点から迫る
ショウジョウバエの暗闇適応のメカニズム
布施直之
(京都大学大学院・生命科学研究科)
生物は地球上の様々な環境に適応し進化してきた。近年のゲノム科学の進歩によって、
様々な生物のゲノム配列が決定されているが、ゲノムと環境適応を直接結びつけた例は少
なく、環境適応の分子メカニズムは未だ多くの が残されている。
私達は、60 年間 1400 世代に渡って暗闇で継代されたショウジョウバエ(暗黒バエ)を
用いて、環境適応の分子メカニズムを調べている。暗黒バエは形態的に大きな変化がない
が、暗所で野生型ハエより優位に子孫を残すことから、暗闇に適応していることが示唆さ
れた。次世代シーケンサーを用いて暗黒バエの全ゲノム配列を決定したところ、野生型ハ
エと比較して約 22 万の1塩基多型(SNP)を同定した。この中から実際に暗闇適応に関与
する SNP を同定するために、現在、暗黒バエと野生型ハエを混合した約 1000 匹の集団を
明所と暗所で継代している。49 世代目の集団ゲノムを解析したところ、暗所の集団で頻度
が上昇する約 4600 の SNP を同定し、これらの SNP が3つの選択パターン(暗所で正の選
択、明所で負の選択、その両方)に明確に分離することを見いだした。また、私達は、野
生型ハエと暗黒バエを明所と暗所で飼育し、トランスクリプトーム解析を行った。野生型
ハエでは、ほとんどの遺伝子の発現量は明所と暗所で変動せず一定に保たれていたが、暗
黒バエでは多数の遺伝子(約 1200)の発現が変動した。これらの結果から、暗黒バエでは
明暗環境における遺伝子発現の頑強性が破綻していることが示唆された。ゲノムとトラン
スクリプトーム解析から、暗黒バエの環境適応のメカニズムを議論したい。
Memo
招待講演
イネの Natural variation を
利用した研究と育種
刈基行
(名古屋大学)
イネの野生種はアフリカ、アジア、オーストラリア、南米等に 20 数種存在し、それぞれ
の地域に適応しています。これらの野生種は、種々の環境に適応するために特殊な形態や
機能を保持しており、栽培イネでは見られない大変ユニークなものが多数存在します。我々
が口にするコメは栽培イネの収穫産物ですが、この栽培イネはもともと野生種から数千年
の歳月をかけ、人類が選抜を繰り返し、栽培・利用しやすいものに改変してきたものです。
これまで、イネを用いた研究では栽培イネを野生型(Wild type)として、種々の突然変異
体(Mutant)を単離し、栽培イネと突然変異体を比較する研究が主に行われてきました。
しかし、上記のように野生種から栽培種に改変されたことを考えると、もともとのイネ野
生種が野生型(Wild type)、栽培イネが突然変異体(Mutant)ととらえることができます。
私達は、このイネの野生種と栽培種の Natural variation を利用し、植物の環境適応や生存戦
略の解明に取り組んでいます。またこの手法は野生種から栽培種へどのような遺伝子が選
抜対象になり、どのような変位が利用されてきたか知ることもでき、イネの栽培化の歴史
を紐解くことも可能です。また、今後のイネの育種においては、有用遺伝子を集積すると
いった、これまでとは異なる育種も進むと考えられます。本セミナーでは野生イネのユニ
ークな生存戦略、その分子メカニズムを紹介すると共に、遺伝子を集積する育種を紹介し
たいと思います。
Memo
招待講演
脊椎動物ボディープラン逸脱に向けて
人為淘汰が生じた金魚の胚発生
太田欽也
(台湾・中央研究院)
魚類の尾鰭骨格は背骨の延長である。正中に位置するこの骨格の基本構造は脊椎動物全
体で進化的に保存されている。しかしながら、例外的にリュウキンやランチュウなどの人
為淘汰により作出されたいくつかの金魚の品種では尾鰭骨格が二 している。このような
脊椎動物のボディープランを逸脱したかのように見える骨格形態の形成には長期に亘って
保存されてきた初期発生機構の改変が必要である。我々の研究室では 2014 年に chordin 遺
伝子に生じた突然変異とそれに伴う背腹軸形成機構の改変が二 した金魚の尾鰭骨格の発
生に必要であることを明らかにした。本発表では進化的保存性と発生学的頑強性を有する
背腹軸形成機構がどのようにして短期間の人為淘汰によって金魚の系統で改変されたのか
について考察する。
Memo