技術紹介 cosa 法を用いた X 線残留応力測定の有効性確認 郡 亜美 *1 Kohri Ami 高久 泰弘 *2 鈴木 健次 *3 Takaku Yasuhiro 中代 雅士 Suzuki Kenji *4 Nakashiro Masashi 近年、cosa 法を用いた携帯型 X 線残留応力測定装置が開発され、可搬性の高さや短時間での測定が可能 といった特徴から、現地計測への適用が期待されている。本稿では、標準試験体や 4 点曲げ試験について、 従来法である sin2y 法の計測値と比較し、cosa 法による応力計測値の妥当性を検証した。 キーワード:残留応力、外部応力、内部応力、ひずみ、X 線応力計測 多くあった。一方、cosa 法を用いた装置は、回転 1. はじめに 機構が必要なく、小型であることから、計測対象 機械部品の品質管理や、構造部材の健全性、安 の形状の制約が少なくなり、従来法よりも計測可 全性評価に残留応力計測が用いられてきている。 能な対象物は増えると考えられる。しかし、構造 残留応力計測には、切断法や穿孔法、X 線回折法、 物の残留応力を正しく評価するためには、計測方 中性子線法などさまざまな手法が採用されている 法の異なるこれら手法によるデータの比較が望ま が、そのなかでも、非破壊で計測が可能であり、 れる。 かつ容易に計測できることから X 線残留応力計測 (1) 法が広く採用されている 。 本稿では、標準試験体の計測や、4 点曲げ試験 で応力を負荷した状態の試験片について cosa 法 X 線残留応力計測法としては、sin2y 法が一般的 であり、当社でも、sin2y 法を採用した可搬型 X および sin2y 法の計測を行い、それぞれ計測値を 比較し値の妥当性について検討した。 線応力計測装置(Stresstech 社製 X3000)により、 (2) (5) - 2. cosa 法 実験室内でできる試験片サイズの計測だけでな 結晶を持った金属に X 線を照射すると、Bragg く、現地での応力計測サービスも提供してきた。 一方、佐々木らによって、cosa 法と呼ばれる手法 の条件を満たした結晶粒から回折 X 線がリング状 を用いた携帯型計測装置が開発され、現地計測へ に発生する。これをデバイリングと言う。X 線応 (2) (4) - 。従来の sin y 法は 力計測の従来法である sin2y 法はデバイリングの 計測実績が十分にあるが、計測対象に対して異な 一部の範囲しか利用しておらず、角度を変え複数 る角度から X 線を照射する精密回転機構が必要 回 X 線を照射する必要があった。しかし、cosa で、その構造上の制約から計測できないケースが 法はデバイリング全体を利用するため、X 線の単 の適用が期待されている 2 *1:研究開発センター 研究開発グループ *2:計測事業部 材料試験部 福浦グループ *3:計測事業部 材料試験部 福浦グループ 次長 博士(工学) *4:フェロー 博士(工学) 技術士(金属部門・機械部門・総合技術監理部門) 環境計量士(騒音・振動関係) 一般計量士 — 48 — したがって、応力 sx は次式より求められる。 一入射のみで応力を計測することができる。その ため、従来の精密回転機構が不要であり、装置の sx = − 小型化と測定時間の短縮が可能になった。 E 1 ∂a1 1 + n sin 2h sin 2Y0 ∂ cos a X 線照射点に図 1 のような試料座標軸 XYZ を 3. 実験内容 設定する。デバイリングの中心角 a に対するひず 3.1 供試体と計測方法 み ea は次式で表される。 ea = s x 1 2 1 n1 − n ( n22 + n32 ) + s y n22 − n ( n32 + n12 ) E E + t xyy (4) 2 (1 + n ) n1n2 E (1) 供試体は、標準試験体として販売されている応 力 0 のパウダーサンプル、ショットピーニングに より高圧縮応力を負荷した標準試験体(高応力標 準試験体)を使用した。また、負荷応力値と X 線 ここで、E は X 線的ヤング率、v は X 線的ポア 計測結果の関係を比較するために、4 点曲げ試験 ソン比である。n1 ~ n3 は実験座標系から試料座標 を行った。負荷応力は X 線計測部近傍に単軸ひず 系への方向余弦である。式(1)が cosa 法におけ みゲージを貼り付け、ひずみ値から求めた。試験 る応力成分表示における基礎式になる。ここで、 体 は、 一 般 構 造 物 に 使 用 さ れ て い る SM490 と 基礎式(1)より応力成分を得るために、図 1 に SUS316 を用いた。 示されるように回折環の中心角がそれぞれ -a、 p + a、p - a、であるような回折ビームから得られ 3.2 X 線応力計測装置 る X 線的ひずみを考え、それぞれ e-a、ep + a、ep - a と表し、次のようなパラメータ a1 を求める。 a1 ≡ 1 ( ea − ep + a ) ( e-a − ep - a ) 2 社製 X3000 を使用し、cosa 法では、パルステッ (2) a1 を応力成分表示すると次式で表せる。 a1 = − 1+n sin 2Y0 sin 2h cos a ⋅ s x E X 線応力計測装置には、sin2y 法では Stresstech ク工業株式会社製 m-X360n を用いた。それぞれの 装置を図 2 に示す。m-X360n は Cr 管球のみで計 測を行った。また、応力算出に用いた物性値は、 (3) それぞれメーカー推奨値を採用した。 (5) 図 1 cosa 法の概略図 — 49 — IIC REVIEW/2015/04. No.53 (a)X3000:Stresstech 社製 (b)m-X360n:パルステック工業株式会社製 図 2 X 線残留応力測定装置 結果とほぼ同等であることを確認した。 4. 計測結果および考察 4.1 パウダーサンプルによる 0 応力計測 応 力 0 の 標 準 試 験 体 と し て aFe、g Fe、Ni、Al のパウダーサンプルについて計測した。cosa 法の 計測条件を表 1 に、cosa 法および sin2y 法の計測 (6) 結果を図 3 に示す 。材料学会の X 線応力計測法 標準では、鉄粉末試験体の応力推奨値は ±10MPa (7) 以内となっている 。図 3 に示すように、cosa 法 の aFe 計測結果は 0±1.7MPa となり、十分な計測 精度が確認できた。その他の材料の計測結果にお いては、aFe より多少バラつきは大きくなったが、 いずれも ±20MPa 以内であり、sin2y 法による計測 表 1 パウダーサンプルの X 線応力測定条件 — 50 — (6) 図 3 各パウダーサンプル計測結果 4.2 高応力標準試験体の計測結果 4.3 4 点曲げ試験 ショットピーニング加工により、表面に高圧縮 m-X360n による 4 点曲げ試験計測風景を図 5 に 応力を残留させた校正用標準試験体について計測 示す。試験片は、SM490 と SUS316 でそれぞれ板 した。材質は Fe(炭素鋼)、SUS316、IN718 の 3 厚 2mm、3mm の 短 冊 試 験 片(W22mm × L110mm) 種類であり、それぞれの試験体の計測条件を表 2 を用いた。試験片の X 線計測点の周囲 4 方向に 1 (6) に、計測結果を図 4 に示す 。図中の着色領域は 枚ずつ、計測点の裏側に 1 枚のひずみゲージを貼り 標準試験体メーカーの公称値である。各試験体の 付け、5 点のひずみから応力を算出した。X 線応力 計測値は、cosa 法、sin y 法ともに公称値の範囲 計測条件は高応力標準試験体と同じである。SM490 内に収まった。表 2 に示すように、SUS316L と の計測結果を図 6、 図 7 に、SUS316 の計測結果を IN718 の 計 測 で は、cosa 法 で は Cr-Kb 線、sin2y 図 8、図 9 に示す 。SM490、SUS316 ともに全て 法 で は Mn-Ka 線 で 計 測 し て い る。Cr-Kb は の試験片で、cosa 法と sin2y 法は、初期値の圧縮応 l=2.08487Å、Mn-Ka は l=2.10314Å と波長が異な 力から負荷荷重による応力変化において傾き 1 の直 るが、今回の計測では、この違いによる計測結果 線関係が得られた。 2 (6) SM490 の計測では、cosa 法と sin2y 法の計測値 への影響は認められなかった。 は同等であった。一方、SUS316 では、cosa 法と sin2y 法において、板厚 2.0mm で約 40MPa、板厚 3.0mm で約 80MPa の差が生じた。cosa 法と sin2y 法の計測値の差は、sin2y 法は Mn-Ka 線、cosa 法 では Cr-Kb 線を用いたことによるものと考えられ るが、詳細は今後の検討課題である。 (6) 図 4 高応力標準試験体の計測結果 表 2 高応力標準試験片の応力測定条件 — 51 — IIC REVIEW/2015/04. No.53 図 5 m-X360n による 4 点曲げ試験計測風景 図 6 4 点曲げ試験応力計測結果 (6) (SM490 板厚 2mm) 図 8 4 点曲げ試験応力計測結果 (6) (SUS316 板厚 2mm) 図 7 4 点曲げ試験応力計測結果 (6) (SM490 板厚 3mm) 図 9 4 点曲げ試験応力計測結果 (6) (SUS316 板厚 3mm) — 52 — 5. まとめ 参考文献 本稿では、cosa 法による応力計測値の妥当性を (1) 中代雅士、三上隆男、松田昌悟、三谷幸寛、 検証するため、種々の応力条件下における計測値 高久泰弘:構造部材内部に閉じ込められた残 を、従来法である sin y 法による計測値と比較し、 留応力の計測技術、IHI 技報、Vol.53、No.3、 値の妥当性を検証した。 2013、pp.54-58 2 ① 種々のパウダーサンプルと、高応力標準試験 (2) 佐々木敏彦、広瀬幸雄:2 次元的 X 線検出器 体の計測では、cosa 法による計測値は、sin y イメージングプレートを用いた全平面応力成 法の計測幅内におさまっており、応力値はほ 分 の単 一 入 射 X 線 応 力測 定、材料、Vol.44、 ぼ同じであった。 1995、pp.1138-1143 2 ② SM490 の 4 点曲げ試験により、負荷した応力 (3) 佐々木敏彦、宮崎利行、内山宗久、三原毅: に対する残留応力の変化量、計測値は sin y 第 12 回 保 守 検 査 シ ン ポ ジ ウ ム 講 演 論 文、 法と cosa 法は同等であった。SUS316 の 4 点 2013、pp.39-42 2 曲げ試験においても、負荷応力の変化量は (4) 山田順也、深井康宏、中谷光良、丸山洋一、佐々 sin2y 法と cosa 法は同等であったが、計測値 木敏彦:溶接学会平成 24 年度秋季全国大会 については、若干差異が認められた。しかし、 講演概要、2012、pp.352-353 これは手法によるものではなく、検出した特 (5) 藤本洋平、佐藤光、宮崎利行、佐々木敏彦: 第 48 回 X 線材料強度に関するシンポジウム 性 X 線の違いによるものであると考えられる。 今回の計測結果では、sin2y 法と cosa 法の計測 講演論文集、2014、pp.77-80 値は同等であり、両手法の互換性があることが確 (6) 郡亜美、中代雅士、高久泰弘、鈴木健次:第 認できた。今後、cosa 法を用いた X 線残留応力 48 回 X 線材料強度に関するシンポジウム講 測定装置の性能を活かし、現地計測へ適用させて 演論文集、2014、pp.22-25 (7) 日本材料学会:X 線応力測定法標準 ― 鉄鋼 いく予定である。 編 ―、2002、pp.73 研究開発センター 研究開発グループ 計測事業部 材料試験部 福浦グループ 郡 亜美 高久 泰弘 TEL. 045-791-3522 FAX.045-791-3547 TEL. 045-791-3519 FAX.045-791-3542 計測事業部 材料試験部 福浦グループ 次長 博士(工学) フェロー 博士(工学) 技術士 (金属部門・機械部門・総合技術 監理部門) 環境計量士(騒音・ 振動関係) 一般計量士 鈴木 健次 中代 雅士 TEL. 045-791-3519 FAX.045-791-3542 TEL. 03-6404-6534 FAX.03-6404-6044 — 53 — IIC REVIEW/2015/04. No.53
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