講師: 若林 利男 WAKABAYASHI Toshio 題目

東北大学 工学研究科・医学系研究科 『工学と生命の倫理』・『生命倫理』
Tohoku University Ethics of Engineering and Life / Life Ethics
2015 年度 第4回(5 月 13 日)
講師: 若林 利男 WAKABAYASHI Toshio
題目: リスクマネジメントについて
Risk Management
<概要・Summary> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
安全な状態とは様々な要因が折り重なって生じる偶然の結果であり,危険要因がいつでも,
どこにでも存在することを認識し管理していくことが組織にとって重要である.その方策と
してリスクマネジメントが提唱され,分析・評価,対応,受容,コミュニケーションの 4
段階でリスクを取り扱う.エシュデ事故を例にとると,現実のリスク(事故)は複数の要素が
重なって生じることが分かる.中でも,人間がシステムの中に存在する以上,ヒューマンエ
ラーは避けられないものであり,人間が持つ特性に環境を合わせていくことで原因となる事
象を抑制することが重要である.
2.
In this lecture, risk and risk management was thoroughly explained. Starting with the
importance of risk study, going thorough how to determine risk factors and assessment, and
finally how to treat and manage the risks. Risk management was categorized into many
subcategories and all of these subcategories were explained. Finally, a video featuring an
extreme accident that happened in Germany, was shown as an example study. The video
features thorough analysis of the accident, and its causes. And possible solutions or risk
treatments, that could have prevented this accident from happening. After the video more
discussions were made about the fault of the accident. Finally the case was summarized
and closed.
3.
現在の安全であることや定常状態は習慣,制度,訓練,規範などで危険やトラブルが未然防
止されているだけのたまたまの結果であり,常に安全であることはあり得ないという認識を
持つことがリスクマネジメントの出発点になる.リスクはどこにでも存在し1つだけではな
くいろいろな要因が集まって成っている.リスクマネジメントの基本として,未然防止,早
期発見,拡大抑止,再発防止などが挙げられる.ドイツ高速鉄道事故を例に,リスクマネジ
メントやヒューマンエラーをどのように防ぐかについて考えた.
<意見・Opinion> (受講者のレポートからの抜粋・Selected from the students' assignments)
1.
ものごとを遂行するにあたりリスクを評価し管理することは予測されるトラブルを未然に
防ぐための重要なプロセスである.ICE-1 鉄道事故の原因のひとつとして,企業が利益を重
視した挙句に安全に対する考慮が不十分であったということが考えられる.乗客の快適性を
改善することは裏を返せば当時最高峰の技術を結集させて開発された高速鉄道の評判や企
業のメンツを保つためでもあり,安直に弾性車輪を採用した結果,独での戦後最悪の事故に
発展してしまったわけである.これは大規模な事象であるが我々の身の回りでもリスクマネ
ジメントは必須であり,取り巻く環境下で人為的なリスクが容易に引き起こされ得ることを
把握し人間の特性に合わせた環境づくりに留意しなければならない.
2.
自分の何気ない日常生活を振り返ってみると、その中にたくさんの高度な技術があり、それ
によって私たちの生活が支えられていることにあらためて気づいた。しかし、それらの技術
の機能不全、欠陥による事故はたびたび起きており、枚挙に暇がない。(例えば、福島第一
原発事故、韓国フェリー転覆事故、医療過誤 etc…)事故の原因としては、機械的な問題も
考えられるが、ヒューマンエラーが引き金となる場合も多い。エシェデ鉄道事故を例にとる
と、脱線事故が生じる前に、タイヤの異常を知らせる情報、在来線通過時の不具合報告があ
り、脱線直前には、乗客から列車緊急停止の要請があった。しかし、その情報が意思決定者
(=上層部、運転手など)に伝わらず事故を大きくしてしまったと考えられる。ヒューマン
エラーを防ぐには、円滑な意思疎通が行える組織作り、操作がわかりやすいインターフェー
スの導入など、人間の特性を理解し、人間が扱いやすいシステムを構築することが重要であ
る。
3.
Risk happens everyday around us, and sometimes on ourselves, anyone may have
experience of get in danger in his or her life. Even in high-developed country such as Japan,
accident happens everyday. / When I know there are some information of accidents from TV
or Internet, I never think about they could really happen to me, I spend everyday of my life
without any sense of crisis, like all the accidents happened are just stories. / But safety is the
god bless, it's not strange in anytime we would be put in risk. We saw the video of Germany
intercity express, just for a tiny crack, the whole train rolled over. Those who still alive are
lucky, and those who did not, did they do anything wrong? / For both people and government,
must have the sense of crisis. We are easy to forget the possibility of risk. We should not
only know that risk is around us, but also where risk could happen, how to deal with the risk,
and more acknowledge about risk acceptance, risk communication, risk retention, etc. to
protect us from misery.
4.
工学だけでなく様々な領域においてリスクを完全になくすことは不可能であり、どのように
管理していくか、つまりリスクマネジメントが重要であるということは認識していた。本講
義を通じてリスクアセスメントからリスク対応、リスク受容、そしてリスクコミュニケーシ
ョンに至るまでのリスクマネジメントの一連の要素を詳しく知り、体系的に理解することが
できた。また、ドイツ高速鉄道の事故に関する番組を視聴し、具体的にどのようにすれば事
故を回避できたかを自分自身で考えることでより理解が深まった。しかしながら、やはり具
体例、つまり実際に起きてしまった事故などの事象がないと自分にとっては若干考えにくく、
前例のない起こりうる大事故等のリスクマネジメントの難しさを感じた。/逆にある程度予
測可能な事故であれば、科学技術の発展もあり、ある程度安全にリスクマネジメントができ
るのではないかと思う。それでもなお飛行機や列車などの事故が繰り返されるのは自分では
組織的問題が大きいように感じる。例えば現場の人間が危険を察知しても上の人間がもみ消
してしまったり、情報を共有しなかったりすることが挙げられる。今後は技術の発展だけで
なく、組織の構造を変えることもリスクマネジメントにおいて重要であると思った。
5.
私たちの身の回りには,常にたくさんのリスクが存在する.原子力発電所のようなリスクと
効果のトレードオフが大きいものから,進路選択や生活習慣のような個人レベルのものまで
様々である.しかし,普段は物事のプラスの面にばかり注目しリスクについて深く考えるこ
とは少ないと思う.大きな交通事故や原発事故はまさにその典型で,事故が起こるまではリ
スクはないものと錯覚しがちである.事故が起きてしまった場合その責任は運用組織が負う
ものだが,それまで恩恵を受けていた利用者や消費者もリスクを考えなかった以上,運用組
織を強く咎める立場にはないと思う.最近の犯人探しのような論調ではなく,リスク管理や
事故事例分析から再発をみんなで防ぐ方向にシフトしていければいいと思う.
6.
リスクの要因は個人単位でなくあらゆる可能性から生じるということには共感した。その要
因として、設計、製造、運転および保守、ヒューマンエラー、組織、規範および倫理といろ
いろなことがあるとのことだったが、これらを日々の生活で感じたことがあった。これらを
なくしていく上で、組織全体で情報を共有し改善していくことが重要であると考える。ヒュ
ーマンエラーの考え方においても、私の体験と今回の講義内容と一致する部分があった。私
も過度なストレスがかかっている状況でさまざまな失敗を起こすということがあった。こう
いったことが起きないように、組織が個人をサポートするということも同じく重要でなはい
かと考える。
7.
ドイツ高速鉄道 ICE-1 の事故は不幸にも複数の要因が重なった事故であったと感じた。しか
し、それらの原因の一つ一つは防ぎようがあったものである。特に金属疲労により車輪のリ
ムが破損した件に関しては、金属疲労は設計する際に真っ先に考えなければならないリスク
であると思う。現に金属疲労が原因の事故は他にも数多くあり、日航ジャンボの墜落事故や
もんじゅのナトリウム漏れも金属疲労が原因の事故である。そして ICE-1 の事故より前に起
きた事故である。また、路面鉄道の会社より同型のリムで金属疲労による亀裂が確認された
との報告を受けたのであれば、会社としてはより一層注意するべきだったと考えた。
8.
リスクマネジメントという言葉は知っていたが,具体的にどのようなことをするのか,きち
んとしたプロセスや,そのプロセス毎の考え方を理解することができ,非常にためになった.
普段自分ができることとして安全マニュアルなどをきちんと読んでおきたい.また,ヒュー
マンエラーが原因ではなく結果であるという考え方に,自分の中にある認識をくつがえされ
た.人を取り巻く環境というものに気を配るのが重要だということが理解できた.今まで自
分は安全だったが,それはたまたまだと,しっかり肝に銘じて生活したい.
9.
今回の講義をうけて、リスクをどう取り扱うかを考えさせられた。動画でも紹介されたドイ
ツの ICE の事故のように、事故とは様々な要因が重なることで引き起こされる。その要因
の中でも印象に残ったのが、危険に対する組織的な取り組み方である。ICE の件に関してい
えば、車輪の金属疲労チェックや事故以前に報告された異音などへの対処である。もっと組
織が危機意識を持ってさえいれば、容易に防げた事故だったのではないかと悔やまれる。ま
た、組織としてだけではなく個人としても危機意識を持ち続けることが大切だと感じた。そ
してそれは、普段の生活の中でも言えることだろう。日常の中でひやりとさせられる経験は
多く、それは実は事故と紙一重だということを忘れないようにしたい。
10. これまで私は、リスクマネジメントについて学んだことはあるものの、それは企業や国家な
どの大きな組織での話であると思っていたので、個人レベルでそのことを考慮することがあ
りませんでした。しかし、事故事例として見たドイツ高速鉄道の事故では、車輪の設計や点
検の不備など様々な原因が重なり合って事故発生のメカニズムとなっていました。その映像
では、企業だけでなく個人単位でのリスクマネジメントが求められる場面があり、自分自身
がリスクマネジメントについて考慮する必要があると痛感しました。安全、定常状態は偶然
の結果であり、リスクはいつでもどこにでも存在する、という現実を正しく認識して、事故
を未然に防止できるように行動し、事故が発生した場合は、その原因、事故構造を正しく把
握して、再発防止に努めることの重要さをこの講義で改めて勉強することができました。