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[ Abstracts ]
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13:20 - 13:35
Lecture 01
デジタル病理学、自動補助診断システムはどこまで可能か?
○ 齋藤
彰
WSI (Whole Slide Imaging) スキャナーが多くの会社から発売され市場に出回
るようになり、病理分野でもデジタル病理画像が急速に普及してきている。こ
れらのデジタル化された画像がコンピュータ処理可能になってきた現在、画像
処理技術者や機械学習(人工知能の1分野)の技術者の恰好の素材にもなって
おり、米国・欧州でも専門の学会や分科会が次々と設立されると共に、これら
の画像を解析した論文も数多く見受けられるようになっている。放射線分野で
は画像のデジタル化が普及しており、フィルムレスで画像処理の分野も発展し
てきており、病理はそれから20年の遅れで始まったと言われている。しかし
各社の製品はその優位性を強調するため、統一の標準化がなされてはいない。
さらに病理診断は最終確定診断を行うこともあり、いかに補助といっても診断
と言う限りは医療機器としての認可の問題もあり、社会的制約も考慮しなけれ
ばならない。コンピュータに格納された病理画像の応用としてはすぐに教育用
あるいは遠隔地から画像を見るテレパソロジーといった利用はデータ回線ある
いは記憶容量の問題はあるが、比較的容易に実現できる。 しかし診断補助に
相当するシステムには多くの困難がまだ存在している。我々は14年に渡り、
病理画像解析システムを構築してきたが、その経験を踏まえてコンピュータの
病理画像認識と病理医の診断のプロセスの違いを論じていく。
コンピュータはデジタルの世界でYES/NOの結果であるが、病理・生物
の世界は多くのグレーゾンを持っていて曖昧性を含む世界である。さらにコン
ピュータは膨大な特徴量とデータを計測するが、そのデータの持つ意味を解釈
できるほど病理学あるいは生物学的見地がそろっているわけではない。しかし
定性的かつ人依存性が高い分野に定量性と再現性を与える病理画像の計測情報
は将来にわたり大きな貢献をすると考えられる。そのためにはどのような分野
でどのような応用から病理分野に貢献し、またそのユーザである病理医はこれ
らのシステムをどのように利用していくべきかを考える時期に来ている。シス
テムを構築する技術者の努力とそれを使用する病理医の受け入れなくして発展
はないので、デジタル病理画像解析の長短所を検討しながら議論していく。
7 / 24
13:35 - 13:50
Lecture 02
計測画像情報の病理学への応用
○ 黒田雅彦
東京医科大学 分子病理学分野
[email protected]
コンピュータ計測による細胞や組織の形態情報は膨大であり、病理診断の補
助情報やコンパニオン診断への応用のみならず、生命科学の解明にとっても貴
重な情報を含むと考える。病理医として日常の診断で定性的な情報をより定量
的にする情報から、今日の病理学あるいは生命科学として直接的に意味を把握
できていないような情報までも含まれている。
我々は軟部腫瘍の染色体転座のメカニズムの解明を目的として、染色体の核
内の 3 次元的位置情報を取得する画像処理技術を開発してきた。その結果、核
内構造情報を取得する基盤技術を得た。具体的には、画像の各ピクセル上に特
性が異なる複数の発光源の存在を仮定し、各ピクセルが各発光源に属する確率、
および発光源の混成比を推定する。推定は Expectation-Maximization (EM) アルゴ
リズムを用い、領域抽出をこれらの推定値に基づいて行う方法である。確率を
基準としているので、染色条件あるいはサンプル状態などへの依存度が小さい
ため、領域の自動抽出が容易となる。現在のところ、胃がん、大腸がん、乳が
んサンプルを対象に細胞核の形状や密集度、腺腔の形状などを画像から抽出し、
数値化を行っている。これらの数値をもとに診断に有効な特徴量の選定やアル
ゴリズムを決定して診断補助システムの開発を行っている。特に胃がんに関し
ては、90%以上の精度で、良悪性を判定できるシステムを構築した。また、こ
れらの技術を用いることで、乳腺の異型病変における、悪性度と核内のクロマ
チンパターン、核形に関して、興味深いデータを得ている。本会では、この手
法開発の現況、自動画像診断システムの正診率や信頼性について議論したい。
7 / 24
13:50 - 14:10
Lecture 03
形態情報マイクロアレイ:
病理形態情報のビッグデータ化とその使用例
山本陽一朗 1,2
信州大学医学部病理組織学講座 1
BioQuant, Heidelberg University 2
[email protected]
近年、画像解析や機械学習のめざましい発達に伴い、Digital Pathology の適用
範囲が飛躍的に広がっている。我々は病理画像を通し、細胞レベルの分子生物
学的知見からは得ることが難しい、組織レベルでの構造情報を認識することが
できる。これらの高次元情報を定量化する Digital Pathology は病理診断における
Grading や病変の自動探索といった補助的使用にとどまらず、システムとしての
生命科学の解明を目指す上で、今後不可欠な手法になると考えられる。
この度、ヨーロッパのデジタルパソロジーの拠点である独ハイデルベルク大
学で研究開発に携わる機会に恵まれた。そして、病理標本上の数万の細胞につ
いて網羅的に核形態特徴量を測定することにより、乳管内増殖性病変における
筋上皮細胞の(1)「形態情報マイクロアレイ」の作成、(2)機械学習を用いた「細
胞形態タイピング」、(3)それらの細胞の「不均一性分布の可視化」に成功した。
その結果、腫瘍細胞自体の情報を全く利用せずとも、筋上皮細胞の解析のみに
よって 90%以上の判別率で乳管内病変の組織型を同定できることがわかった。
また超微視的観察を行ったところ、機械学習により DCIS タイプに分類される筋
上皮細胞では Basal Lamina 合成能が低下していることがわかった。さらに腫瘍
細胞と筋上皮細胞の密接な関係性についてメタアナリシスデータを用いてデー
タマイニングを行った結果、生命予後と有意に相関する興味深い知見を得た。
Digital Pathology の発達により、病理学が長年蓄積してきた先人の叡智を他分野
の研究者と定量的に共有できるため、診断面のみならず研究面においても病理
医の存在価値がより高まることが期待される。本会では、形態情報マイクロア
レイの作成および解析の元となる基本知識から、その具体的な使用例について
紹介したい。
7 / 24
14:10 - 14:50
Lecture 04
Cancer diagnostic by deep sequencing: From sequencing of bulk
tumors in patient cohorts to single tumor cell imaging and sequencing
in individual patients
Roland Eils,
German Cancer Research Center (DKFZ) and University of Heidelberg, Germany
[email protected]
Deep sequencing has revolutionized research in cancer genetics and genomics
and enhanced our understanding of natural human genetic variation. It has also
dramatically changed the way we conduct cancer genome studies in particular in
the context of the International Cancer Genome Consortium (ICGC). The
German cancer genomics community has conducted massive efforts to dissect
the mutational and regulatory landscape of early childhood brain tumors, of
malignant lymphoma and of early onset prostate carcinoma. More recently, we
have ventured into using next generation sequencing as routine diagnostics for
cancer patients treated at the National Center for Tumor Diseases in Heidelberg. I
will report on early results from a 2 years pilot study indicating that in 60% of all
patients actionable mutations were identified by whole exome sequencing.
Despite all excitement generated by these early translational efforts in
diagnostics, the impact of cancer genome sequencing for the advancement of
individualized therapy design still needs to be shown. Since tumors typically
consist of many cellular subtypes within the tumor microenvironment,
pathological evaluation of tumors and the design of individualized strategies for
cancer treatment based on bulk tumor samples is limited. Here, new and efficient
technologies for single cell analysis have been developed recently which open up
a new way for the analysis of tumor cell composition and heterogeneity. By
combining advanced time-lapse fluorescence microscopy with single cell
RNA-sequencing in one workflow, we aim at correlating phenotypic
characteristics of cells with gene expression profiles and thereby directly linking
cell function with gene expression. In detail, we use in vitro 3D cellular and ex
vivo tissue cultures as an experimental setup with higher physiological relevance.
Time-lapse microscopy using established confocal laser scanning systems are
combined with laser micro-dissection and/or microfluidic cell capture systems
and with ultra-low amount/single cell RNA sequencing to monitor gene
expression of phenotypically characterized cells. In principle, this strategy should
not only be able to identify subcellular biomarkers, but also to elucidate the
functional basis of tumor cell heterogeneity with far reaching implications for
therapy design.
7 / 24
15:20 - 16:00
Lecture 05
発ガン過程を進化として捉える:数理的アプローチ
巌佐 庸
九州大学大学院理学研究院生物科学部門
[email protected]
発ガンは、癌遺伝子や癌抑制遺伝子などに突然変異が蓄積することで生じる。
それらは細胞の分裂・増殖の速度を上げるものである。発ガンプロセスの多様
な側面が、細胞を単位にする進化過程として捉えることによって、数理的に取
り扱うことができる。本講演では、慢性骨髄性白血病 (CML) とその薬剤耐性を
例にとって説明したい。
[1] イマティニブ(グリーベック)は慢性骨髄性白血病の特効薬として分子標的
治療の成功例である。我々は、CML 患者の薬剤投与後の白血病細胞数の経時的
変動を、造血組織の4コンパートメントモデルにもとづいて説明した。イマテ
ィニブは白血病細胞の増殖を抑制するが、除去はできないと結論できた。
[2] 薬剤耐性の獲得は、癌の療法にとって最大の脅威である。イマティニブは、
1点突然変異が薬剤耐性をもたらす。患者がCMLと診断された時点で、薬剤耐
性をもつ白血病幹細胞が有る確率やその細胞数を求める数学公式を導いた。仮
定は:最初の白血病幹細胞は薬剤感受性で、分裂と死亡により増大してM個に到
達したときに患者が症状を示しCMLと診断される。薬剤耐性細胞は分裂当たり
確率uで作られる。アポトーシス率が高くゆっくりと増大する癌の方が、速く増
大する癌よりも、診断時点で薬剤耐性を持つ危険が高いと結論できた。
[3] CMLは9番と22番の染色体の相互転座によりつくられるBCR-ABL融合遺伝子
により引き起こされる。ところがCMLの積算発生率は、年齢の3乗で増大する
(ステップ数が3)。1回の突然変異によって引き起こされる発ガンでも、ス
テップ数が3になりうることを理論的に示した。
[4] 人の癌細胞は同一クローン内で大きな多様性を示す。突然変異のごく一部が
増殖率を挙げる遺伝子 (driver) で、大多数多数は中立変異 (passenger) であると
する状況で、細胞間の遺伝的多様性の変化のダイナミックスの理論を構築した。
参考文献
1. Haeno, H. et al. 2012. Computational modeling of pancreatic cancer reveals kinetics of
metastasis suggesting optimum treatment strategies. Cell 01/2012; 148(1-2): 362-75.
2. Iwasa, Y. and F. Michor. 2011. Evolutionary dynamics of intratumor heterogeneity.
PLoS ONE 6: e17866.
3. Michor, F., Y. Iwasa and M.A. Nowak. 2006. The age incidence of chronic myeloid
leukemia can be explained by a one-mutation model. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:
14931-14934.
4. Iwasa, Y. et al. 2006. Evolution of resistance in clonal expansion. Genetics 172:
2557-2566.
5. Michor, F., T.P. Hughes, Y. Iwasa, et al. 2005. Dynamics of chronic myeloid
leukemia. Nature 435: 1267-1270.
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16:00 - 16:40
Lecture 06
網羅的解析に基づいた造血幹細胞とニッチの運命制御研究
国立国際医療研究センター研究所
○ 田久保 圭誉1
生体恒常性プロジェクト
[email protected]
骨髄の造血システムは、様々な造血ストレスに適切に応答しながら造血恒常
性を生涯にわたって維持する。造血システムの研究では、フローサイトメータ
ーを用いることで、表面抗原の発現プロファイルに基づいた細胞社会の分類学
が発展してきた。その結果、最も未分化な造血幹細胞から、中間状態の各種の
造血前駆細胞、そして分化血球に至る分化ヒエラルキーが存在することが知ら
れている。骨髄で造血幹細胞の近傍にはニッチ細胞と呼ばれる支持細胞が存在
していることが知られている。ニッチ細胞はサイトカインやケモカイン、接着
分子や細胞外基質を供給することで、幹細胞の未分化性や骨髄への保持のため
に機能している。また、骨髄のニッチの構成要素である低酸素環境も造血幹細
胞に作用することで特有のエネルギー代謝状態を維持することも知られている。
しかし、表面抗原をベースにしてフローサイトメーターで解析する手法では、
造血幹細胞が骨髄ニッチでいかなる局在や代謝状態を取っているか明らかとは
ならない。私たちはこうした問題にアプローチするためにイメージングサイト
メーターや質量顕微鏡といった、ニッチと造血幹細胞それぞれが空間情報を保
持したまま解析できる手法を組み合わせて造血恒常性の維持機構の解明を図っ
ている。本会では我々の進めてきた研究について最新の試みも交えてご紹介し
たい。
参考文献
1. Bacterial c-di-GMP Affects Hematopoietic Stem/Progenitors and Their Niches
through STING. Kobayashi H, Kobayashi CI, Nakamura-Ishizu A, Karigane D, Haeno
H, Yamamoto KN, Sato T, Ohteki T, Hayakawa Y, Barber GN, Kurokawa M, Suda T,
Takubo K.
Cell Reports. Published online: April 2, 2015
2. Regulation of glycolysis by Pdk functions as a metabolic checkpoint for cell cycle
quiescence in hematopoietic stem cells.
Takubo K, Nagamatsu G, Kobayashi CI, Nakamura-Ishizu A, Kobayashi H, Ikeda E,
Goda N, Rahimi Y, Johnson RS, Soga T, Hirao A, Suematsu M, Suda T.
Cell Stem Cell. 2013 Jan 3;12(1):49-61.
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16:40 - 17:20
Lecture 07
―
定量的病理診断と病理形態学ルネサンス
NEDO プロジェクトの 5 年間を振り返って
-
○ 橋口明典,坂元亨宇
慶應義塾大学医学部 病理学教室
[email protected]
分子生物学の技術的進歩は著しく,病理診断もこれを応用することにより,
飛躍的な進歩を遂げたといえるが,病理学の根幹は常に形態学であることを確
信する。
われわれは,2010-2014 年度,東京工業大学,埼玉医科大学,日本電気株式
会社とともに,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プ
ロジェクト「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/病理画像等認識技術
の研究開発」に参加し,
「定量的病理診断」という言葉を旗印に,肝細胞がん特
徴量計測ソフトの開発に取り組んできた。
プロジェクトの具体的対象は肝細胞がんに限定されたが,これを実現するた
めには,
「デジタル画像解析技術を,いかに病理診断に応用するか」という根本
的な命題に取り組む必要があった。前提として,病理組織形態を客観的に数量
化する技術的な諸問題を解決する必要があり,以下のテーマについて検討を行
った。1. 免疫染色による組織切片上の分子定量。2. 組織線維化定量アルゴリズ
ムの作成。3. 画像解析による組織特徴量の医学的・病理学的な理論の裏付け。
特に,3 は,「画像解析技術の診断応用」を考察する上で重要である。
病理形態情報は,多様な細胞とそれらが作る構造物が,如何様であるかを解
析する学問であり,表現型解析の究極といえる。現在の情報技術をもってすれ
ば,新たな知見が得られる余地は十分ある。組織標本の標準化など様々な課題
があるが,これらが克服されれば,
「病理形態学ルネサンス」と呼べる時代が来
る日も左程遠い未来ではない。
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08:45 - 09:25
Lecture 08
デジタル病理学に向けた画像の色情報処理
○山口 雅浩
東京工業大学大学院総合理工学研究科 物理情報システム専攻
[email protected]
従来の病理診断は主に細胞の形態・配列・色などの視覚的判断によって行わ
れているが、デジタル画像解析技術を応用することで組織の形態的特徴を定量
的に表現できるようになり、疾患のより詳細な分類や、悪性度の判定精度の向
上、そしてより臨床に役立つ診断報告の作成などに寄与すると予想される。
病理組織標本では染色により構造が可視化されるため、病理画像解析におい
て色情報は重要な役割を果たす。HE 染色標本の場合には、主にヘマトキシリ
ン・エオジンの色及びテクスチャに基づいて核・細胞質・間質・血管などの領
域分割を行い、形態的特徴を数値として算出する。領域の判定には、対象とす
る画像領域だけでなく、その周囲の色やテクスチャを用いることも有効である。
なお組織の構造には様々なパターンがあるため、高精度な判定には大量の教師
データを用意することが鍵になると考えられる。
ところが病理画像では、染色の状態やカメラ・スキャナの特性によって色が
変化するため、色のばらつきの補正は不可欠である。我々は「定量的病理診断
を可能とする病理画像解析技術」の研究開発 1)において、HE 染色の病理画像に
おける自動的な色補正技術を開発した。これにより染色にばらつきが存在する
場合でも同一のアルゴリズムで領域抽出・特徴量算出が可能になり、肝組織の
デジタルスライド画像の自動解析を実現した。また同様の色補正アルゴリズム
を EVG (Elastica van Gieson) 染色標本に対しても適用し、肝線維化定量システム
に実装した。色補正を行う際には一枚の小領域の画像だけで基準を得ることは
困難なため、ここでは全スライド画像を用いることで安定な処理を可能にして
いる。
染色病理標本の画像において、画像中の各点で染色色素の量を求める(アン
ミキシング処理と呼ばれる)ことにより画像解析や色再現が容易となる。例え
ばヘマトキシリン・エオジンの色素量画像を算出し、その重みを調整してカラ
ー画像を再合成すれば、染色濃度やバランスの調整をデジタル的に行うことが
できる。このような処理は通常の三原色カラー画像でも行えるが、より多くの
波長帯域で画像を取得するマルチスペクトル画像を応用することで高精度な処
理が可能になる。またマルチスペクトルによるアンミキシング処理は蛍光染色
でも有用である。さらに、ある染色のマルチスペクトル画像を撮影し、デジタ
ル処理によって異なる染色の画像に変換する技術「デジタル染色」の開発も行
っている。
色情報はデジタル病理の普及に向けて重要な技術的課題であることから国際
機関において検討が進められている。講演では国際カラーコンソーシアム(ICC)
や米国食品医薬局(FDA)などを中心とした検討状況についても紹介する。
1)
謝辞:本研究の一部は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委
託研究として、慶應義塾大学、日本電気株式会社、埼玉医科大学と東京工業大
学により実施されたものである。NEDO 及びプロジェクト関係者に謝意を表す
る。
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09:25 - 10:05
Lecture 09
位相幾何学的指標による癌病変部抽出技術
○ 中根 和昭1
大阪大学大学院医学系研究科
[email protected]
Ⅰ. 背景
病理診断はがんの治療方針を定めるうえで重要な情報を提供する。ところが、
日本において病理医数は十分とは言えず、その偏在も顕著である。病理医育成
には長時間の訓練を必要とされるため、早急に病理医の数を増やすことは困難
である。今後、人口の高齢化とともに、日本のがんの罹患者数は今後とも増加
していくことが見込まれるが、このままでは病理診断の質を維持できるか危惧
されている。以上のことから、病理診断を支援するコンピュータ・システムの
開発は緊急の課題である。
これまでは、パターン認識技術を応用・進化させたアルゴリズムを基礎に開
発が行われてきた。しかし、癌の形態があまりにも多様なため、有効なものは
未だ開発されていない。そこで新たに、位相幾何学的手法を用いた新たな画像
解析法を用いることで、癌病変部を抽出するシステムを開発した。今回、この
システムの現況を紹介し、今後の課題について議論したい。
Ⅱ.「組み合わせ不変量アルゴリズム」の原理について
がんが生体組織内で成長する過程では、まず正常な組織内で癌細胞の分裂が
促進され、組織が増殖する(過形成)。次に、正常な組織では見られない異常な
形態になる(異形成)。異形成がさらに進行して最終的に癌組織になる。
通常の細胞は他者と接触すると成長・分裂を止めるが、細胞が癌化するとこ
の性質が失われる(接触阻害の喪失)。これが癌組織の多様性を生む原因の一つ
となっているが、この変化を組織の位相幾何学的な性質の変化として演繹的に
捉え、病変部か否かの判断を行う。具体的には、生体組織標本画像を適切なパ
ラメーターで二値化し、単位面積毎にベッチ数を計算して、その関数を接触の
程度の指標として定義する。この指標の値が正常な場合の値と大きく異なる部
分を病変部として判定を行う。
Ⅲ . 本手法の特徴と今後の課題
本手法は、ライブラリー参照を行わないため極めて短時間での判定が可能で
あるうえ、システムが軽いため一般の計算機で十分に機能する。高分化型の病
変部に対して見逃しがほとんど無い。しかし、未分化型の病変部を見逃す可能
性があることと、疑陽性が多いため、別のシステムを併用する必要がある。今
後、遠隔診断などに応用したいと考えているが、現場の意見を反映した GUI を
開発するなど、各種工夫を加える必要がある。
参考文献
[1]K. Nakane, A. Takiyama, S. Mori and N. Matsuura; Homology-based
method for detecting regions of interest in colonic digital images; Diagnostic
Pathology, to appear.
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10:05 - 10:45
Lecture 10
病理形態学における位相幾何学的方法
瀧山 晃弘
北海道大学大学院 医学研究科 病理学講座 腫瘍病理学分野
[email protected]
形態学 Morphologie は Goethe(1749-1832)の創始によるが, 芸術と密接に関係付
けられていただけでなく, 時間の次元を持ついわば 4 次元多様体を意味してい
た[1]. 病理組織標本は, 4 次元時空多様体の中に生きる生命有機体の, ある時刻,
及びある 2 次元平面による断面に過ぎない. この断面から 3 次元的な情報を推測
する手法として, 積分幾何学の応用としての stereology が定量形態学として発展
してきた[2]. また, 計算機や画像処理技術の発達に伴い, 拡散方程式によるフ
ィルタリング等のノイズ除去技術が進歩する一方, ホモロジー群を高速計算す
るソフトウェアが開発され[3], 形態の位相不変量を病理組織等の特徴量として
抽出する試みが近年行われている[4-7].
X×Y 画素, 階調数 2n の濃淡画像は, 区間[0, 2n-1]の整数値をとる 2 変数関数
f(x, y) (x, y は各々[1, X], [1, Y]の整数値)と捉えられる. 関数 f の下位集合 f-1([0, i])
を Ki と表すと, Ki に対する p 次ホモロジー群 Hp(Ki), 及び p 次ベッチ数が計算さ
れる. 文献[5][6]ではこのようなパラメータ固定型ホモロジー法が用いられてい
る. 各 i, j (0≦i≦j≦2n-1)に対する下位集合について, 系列 K: K0⊂K1⊂K2⊂…⊂
Ki⊂…⊂Kj ⊂…⊂K_{2n-1}という増大列(filtration)が得られるが, この系列に対
応する p 次ホモロジー群の列, すなわち系列 K に対する p 次ホモロジー群 Hp(K)
を階層ホモロジー群と呼ぶ(文献[7]では層別ホモロジー群と呼んでいる). 更に,
Ki⊂Kj に対して, 準同型写像 fi,jp : Hp(Ki) → Hp(Kj)を考え, この準同型写像の像
をパーシステントホモロジー群と呼び, そのランクβi,jp = rank{im(fi,jp)}を f のパ
ーシステントベッチ数という. この手法では, 位相的ノイズや生成元のロバス
ト性を調べることが出来る[4]. 本会では, パラメータ固定型ホモロジー, 階層
ホモロジー, 及びパーシステントホモロジーの各手法により, 病理組織画像に
おける疾患の特徴を表現できる可能性について紹介したい.
参考文献
[1] 諏訪紀夫,『病理形態学原論』, 岩波書店, 1981.
[2] 諏訪紀夫,『定量形態学』, 岩波書店, 1977.
[3] T. Kaczynski, K. Mischaikow, and M. Mrozek, Computational Homology, Springer,
2004.
[4] 平岡裕章, 『タンパク質構造とトポロジー』, 共立出版, 2013.
[5] K. Nakane, A. Takiyama, S. Mori, and N. Matsuura, Homology-based method for
detecting regions of interest in colonic digital images, Diagnostic Pathology, to appear.
[6] A. Takiyama, K. Nakane, and K. Kida, An image analyzing method by a homology
concept for fracture surfaces, Advanced Materials Research Vol. 1102, 135-138 (2015).
[7] 瀧山晃弘,『計算ホモロジーの病理形態学への応用』, 北海道大学数学連携研
究センター 第 30 回数学連携サロン, 2014.
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11:00 - 11:40
Lecture 11
デジタル病理を駆使した病理育成センター構想
○ 福岡順也1、田畑和宏1
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 病理学分野
[email protected]
デジタル技術およびバーチャルスライドの普及に伴って病理診断学に変化が
もたらされている。バーチャルスライドにはラインスキャナーとイメージタイ
リングの 2 つの方法が採用されているが、フォーカス技術の向上や Z 軸画像の
取得が加わったことに加え、スライドをスキャンするスピードも大きく改善し、
現在では対物 40 倍の画像でも1分以内のスキャンが複数社にて可能となってき
ている。
我々は通常の顕微鏡デジタルキャプチャー画像に加え、4 社のバーチャルスラ
イドスキャナーとデジタルネットワーキング技術を利用し、遠隔にて病理医を
育成する病理育成センターのモデル形成を目指している。診断精度管理と教育
の目的を兼ね備えたカンファレンス形式による病理診断(サインアウトセッシ
ョンと呼ぶ)を基本とし、このサインアウトセッションに、遠隔病院の症例と
大学病院症例、コンサルタント症例を加えて5ヶ所の異なる端末からカンファ
レンスに参加する形をとる。関連病院には若手病理医を派遣し、遠隔サインア
ウトセッションを通じて診断指導を行い、主に臨床医とのコミュニケーション
および症例カンファレンスに注力させる。また、大学内では、バーチャルスラ
イドによるスキャン画像にて学生や若手医師による診断スクリーニングおよび
プライマリ診断を行い、その診断を実際の顕微鏡スライドで確認してファイナ
ライズすることで、顕微鏡を使わない病理診断医の育成を開始している。デジ
タル病理技術は、今後来るべき深刻な病理医不足を乗り切るのに必須の技術で
あり、本会では我々のデジタル病理技術を用いた病理育成センター構想につい
て紹介を行い、バーチャルスライドによるプライマリ診断の精度についても言
及したい。
参考文献
1. Bauer TW, Slaw RJ. Validating whole-slide imaging for consultation diagnoses in
surgical pathology. Arch Pathol Lab Med. 2014 Nov;138(11):1459-65.
2. Pantanowitz L, Sinard JH, Henricks WH, Fatheree LA, Carter AB, Contis L,
Beckwith BA, Evans AJ, Lal A, Parwani AV; College of American Pathologists
Pathology and Laboratory Quality Center. Validating whole slide imaging for
diagnostic purposes in pathology: guideline from the College of American
Pathologists Pathology and Laboratory Quality Center. Arch Pathol Lab Med. 2013
Dec;137(12):1710-22.
3. Buck TP, Dilorio R, Havrilla L, O'Neill DG. Validation of a whole slide imaging
system for primary diagnosis in surgical pathology: A community hospital
experience. J Pathol Inform. 2014 Nov 28;5:43.
7 / 25
11:40 - 12:20
Lecture 12
デジタル化がもたらす病理診断学の近未来像
原田 大1,2
昭和大学医学部ブレストセンター1
Philips Electronics Japan 社外顧問 2
[email protected]
デジタル化組織画像は、各種研究や教育の場においては既に広く用いられて
きているが、病理のもうひとつの柱である診断学にも、ここ数年間でデジタル
化の波が一気に押し寄せてきた。
我が国では以前より病理組織画像デジタル化への取り組みがなされてきてお
り、既にコンサルテーションや遠隔地の術中迅速診断の補助として広く用いら
れている(テレパソロジー)。地形的に山岳地帯が多い我が国では、病理医を派
遣することが大学病院等の基幹病院にとって大きな負担となることも多く、そ
れゆえにこのようなデジタル画像を用いた遠隔補助診断は非常に有用である。
しかしながらそのことが逆に、デジタル診断=テレパソロジー=遠隔術中診断、
という固定観念を生んだ側面があることは否めないかもしれない。
一方目を海外に転じると、デジタル画像による診断の動きは近年急ピッチに
なってきている。2014 年には、欧米各社のデジタル画像システムが、欧州にお
いて CE Mark を取得した。これは、欧州各国においては顕微鏡の代わりにデジ
タル画像を用いて診断することに規制がなくなったことを意味する。米国では
臨床使用に関する FDA の承認は未だ得られていないが、国境を越えたコンサル
テーション・ネットワークは拡大する一方で、カナダや欧州のみならず、アジ
アや中東、アフリカにも広く及んでいる。さらにアジアにおいても、2013 年に
は欧州製の高速スキャナ数台と 1 ペタバイトを大きく超える巨大サーバを設置
した病院がシンガポールに登場し、年間数万件の病理検体をデジタル画像によ
って診断し始めている。このような海外の動きを紹介しつつ、近未来的に病理
診断の現場がどのように変遷していくかを考察してみたい。