肝移植症例調査検討委員会報告書 - 神戸国際フロンティアメディカル

神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)
肝移植症例調査検討委員会報告書
目次
I. 緒言
II. 調査検討の目的
III. 対象の事例
IV. 調査・検討の方法、概要
V. 調査検討結果
1. 院内体制
2. 適応評価委員会
3. 再移植への対応について
4. 事例の個別調査・検討結果 …本内容については別紙にまとめ
VI. 提言
--------[文中に頻用される略号]
*ALT (Alanine transaminase ): 肝機能検査法の一つ。
*AST (Aspartate transaminase ): 肝機能検査法の一つ。
*CD ト キ シ ン : Clostridium difficile (CD) ト キ シ ン の 略 で 、 偽 膜 性 大 腸 炎 を 起 こ す
clostridium difficile が産生する毒素であり、文中では検査をさし、結果が陽性、陰性で
示される。
*CHDF (continuous hemodialysis and filtration) 持続血液透析濾過
*CIT (cold ischemia time):ドナーで血流遮断してから、レシピエントで術野に移植臓
器が置かれるまでの時間 *GRWR (graft /recipient weight ratio):移植するグラフト重量をレシピエント体重で
割ったもの。
*HA (hepatic artery): 肝動脈のことだが、文中では、肝動脈の再建に要した時間に用い
られている。
*L/S (liver/spleen)比:造影剤を用いない CT で測定した肝臓と牌臓の CT インデックス
の比をいう。L/S 比が 1.1 以上あれば脂肪肝の可能性は少なくなる。
*MRCP (magnetic resonance cholangiopancreatography):造影剤を用いず胆管・膵管の
情報が得られる MRI による画像検査法。
*TACE (transarterial chemoembolization) : 肝がんに対して支配動脈にカテーテルを
進めて、塞栓物質による腫瘍塞栓と化学療法を同時に行う治療法。
*WIT (warm ischemia time) : レシピエントの術野に移植臓器が置かれてから、再灌
流されるまでの時間
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I.
緒言
日本肝移植研究会の上本伸二会長は、神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)
における肝移植症例の調査検討を行う目的で当委員会を設置した。当委員会の具体的使命を
以下に述べる。
KIFMEC では、2014 年 12 月より肝移植プログラムを開始し、これまで 7 例の肝移植を実施し
ているが、2015 年 4 月 5 日現在、うち 4 例(57%)が死亡している。これは現在の日本の生体肝
移植の 1 年生存率 83%より遙かに劣る成績で、しかも術後短期間に死亡している事例が続いて
いる。この事態を重く受け止め、客観的・専門的立場からその原因を究明し、医療安全の観点から
KIFMEC に於ける肝移植の実態を検証し改善に向けて提言を行うこととなった。その第 1 歩とし
て、肝移植研究会の常任世話人並びに世話人の 4 名の委員が委嘱され「KIFMEC 肝移植症例
調査検討委員会」が設置された。
本委員会では、これまで KIFMEC で行われた肝移植 7 事例について、調査・検討を行い、今
後の当該施設の医療の安全性の担保、患者の安心の確保などの観点から検証し以下の報告書
を作成した。
II. 調査検討の目的
本報告書の目的は、KIFMEC における生体肝移植手術の事実経過を詳細に把握した上で、
肝移植のドナー・レシピエント手術症例における問題点を抽出し、その原因を究明し、医
学的評価を行い、改善策を提言することであり、関係した医療従事者個人の責任追及や法
的評価を行うものではない。
III. 対象の事例
2014 年 12 月から 2015 年 3 月までに KIFMEC で肝移植を受けた 7 事例について、
ドナーならびにレシピエントの診療実態について調査・検討した。
IV. 調査・検討の方法、概要
2015 年 4 月 5 日( 日 ) KIFMEC において、以下の日程で、調査検討委員会のメンバ
ー(別表(別表については添付無し))と KIFMEC において肝移植に関わった職員とともに
「KIFMEC 肝移植症例調査検討委員会」を開催した。この中では、日程に示すように、最初、施
設の見学を行い、手術室、ICU、一般病棟を見学した。その後 3 階の会議室にて、KIFMEC 側
より、院内体制、肝移植の手順、倫理委員会・肝移植検討会の開催状況、院内支援システムなど
について説明があった。これらに対して質疑応答が行われた。次に 7 事例について、1 事例ず
つドナー・レシピエントの順番にプレゼンテーションが行われ、それぞれの症例に対して質疑応
答が行われた。19 時すぎに最終の症例検討が終了し、閉会となった。その後、4 人の委員によ
って、総意のもと、この報告書を作成するに至った。
場所 : KIFMEC
3 階 3-2
日程 :13:00~13:20
施設見学
13:20~13:30
院内倫理委員会と手順の説明
13:30~19:00 頃 各症例の呈示と検討 (途中休憩含む)
1 例 40 分 (質疑応答含む)
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V. 調査検討結果
1.院内体制
1)診療科について
120 床の病院であり、診療科としては消化器内科、消化器外科、肝胆膵・移植外科、内科、 放射線科、病
理診断科、臨床検査科、麻酔科が標榜されているが、現在、常勤医師は、肝胆膵・移植外科医 3 名、消化
器外科医 2 名、消化器内科医 2 名、麻酔科医 1 名である。循環器や放射線科などの常駐医はおらず、緊
急時は神戸市立医療センター中央市民病院からの応援や個別的な依頼によって対応するとの説明であっ
た。
その評価
移植医療は施設の総合力が問われる医療であるが、この点で KIFMEC の院内体制はきわめて不十分と
言わざるを得ない。とくに循環器科や放射線科など移植に際してキーとなる診療科あるいは常勤医師が存
在せず、種々の重大な合併症が起こり得る移植医療を担うには不十分な体制である。これらの診療科につ
いては緊急時に中央市民病院での対応、あるいは個人との契約があるとのことであるが、異なる医療機関で
働く職員が緊急時に常に KIFMEC の要請に応じ得るとの保証はない。また 3 名の移植外科医(うち 1 名の
移植経験は浅い)で当直を含めた十分な管理体制が構築できていたとは言い難い。
2 )病理診断について
病理医は肝移植においては肝生検による拒絶反応の診断や病理解剖など重要な役割を担うが、KIFMEC
においては不在である。KIFMEC で迅速な肝生検の病理診断が必要な場合は、近くの施設で標本を作成
してもらい、それをバーチャルスライドにして京都大学に送り、即日で診断してもらうとのことであった。肝移植
後の患者で原因不明の死亡例や、医療事故の疑い事例などで病理解剖の必要性が想定されるが、この規
模の病院で病理解剖は難しいとの説明であった。
その評価
肝生検における拒絶反応などの診断は、診療方針を立てるにあたりきわめて重要であり、移植医と病理
医が標本を見ながら臨床経過と病理学的所見をつきあわせて、ディスカッションできる環境で行われることが
望ましい。また、肝移植は周術期死亡の頻度が他の手術に比べて高い手術であることから、院内に病理診
断ならびに病理解剖の体制を整備することが望まれる。
2 .肝移植検討会(適応評価委員会)
委員は内科医を含む医師、看護師、薬剤師よりなり、外部委員 2 名を含む構成であり、1 例 1 例の適応を
決定し、その結果を倫理委員会に諮問するとのことであった。
その評価
適応評価委員会でどのような論議が行われ、手術の適応が決定されたかについては議事録がなく明らか
でないが、各事例に対してコメントしているように、複数のドナー評価の問題点およびレシピエントの移植適
応評価に関して問題点があったことを鑑みると、適応評価委員会が十分に機能していたとは言い難い。特に
適応評価委員の委員長を移植医の一人が務めることは移植適応の客観的評価のためには好ましくない体
制である。移植適応が標準を逸脱したり、術前評価が不十分なまま移植になっているのは、適応評価委員
会が十分機能していないことが要因と考える。また、適応評価委員会の報告書は倫理委員会へ提出される
べきであり、倫理委員会では医学的検討も踏まえて最終決定を行うのが通常のステップである。
3.再移植への対応について
(報告書内に該当する記載無し)
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4.事例の個別調査・検討結果
(患者の個人情報に関わる部分であり、記載省略)
VI. 提言
KIFMEC では、アジアの人々の命を救い、また、他施設で手術の適応がないとされるような難症例に救い
の手をさしのべるという目的のもとに、2014 年 12 月より生体肝移植が開始された。その理念を頼りにインドネ
シアから、あるいは日本から救いを求めてこれまで 7 人の患者が生体肝移植をうけた。しかしながら、その 1
ヶ月生存率は 43%であり、日本の標準を大きく下回っている結果となっている。
当該施設の大きな問題点は、難度の高い手術ができる移植医は少数存在するものの、適応評価や周術
期管理の能力が標準を大きく下回っている点である。また、チームの構成が肝移植を行うには不十分で、重
層性を欠き、当直体制を組める移植外科医の数、合併症の対応に必要な診療科など生体肝移植を担当す
るのにふさわしい病院としての総合力が、標準からするとかなり不足している点である。
これらの問題に対処するには、経験豊富な移植医の確保はもとより、麻酔医、病理医をはじめ、循環器内
科、放射線科など、移植において重要な診療科の医師の充足、また、手術においては、顕微鏡による肝動
脈吻合ができる体制の整備など、組織の抜本的な改変が必要と考える。
肝移植検討会(適応評価委員会)については、公正・公平かつ正確な判断ができるよう、肝臓内科医、小
児科医、経験豊富な移植医などからなる外部委員の参加を必須とし、内科医を委員長とした形で、移植例 1
例 1 例について十分な検討を行うようにすべきである。
さらに、定期的な生体肝移植プログラム成績の検証が必要である。第 3 者が主導する独立した検証委員
会を設立し、定期的に検証を積み重ね、安全性を確認しながらプログラムを遂行するべきと考える。
上記に示す組織の抜本的な改変が整うまで、移植医療は中断すべきである。
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