研究課題詳細 - 滋賀医科大学

「難治性 Clostridium difficile 関連下痢症・
腸炎に対する糞便細菌叢移植」につきまして
1. はじめに
本研究は、臨床試験のなかでも「医師主導臨床試験」に該当する試験にな
ります。医師主導臨床試験とは医療現場でのニーズが高い医薬品や医療機器、
治療法を医師が自ら医療機関の倫理委員会などに申請し、承認を受けること
により実施が可能となった試験です。
本試験は滋賀医科大学消化器内科が主体となり臨床試験の計画・実施を
行っております。難治性 Clostridium difficile 関連下痢症・腸炎に対する糞
便細菌叢移植の有用性は既に海外からの報告で明らかとなっておりますが、
国内では保険適応の治療ではありません。本試験を進めることで、難治性
Clostridium difficile 関連下痢症・腸炎の患者さんへの救済治療としての選
択肢を提供できればと考えております。また、本試験は滋賀医科大学の倫理
委員会にて承認を受けて実施されています。
2. 目的
近年、抗菌剤の使用などから、腸管内の細菌叢が異常を来し、Clostridium
difficile などの菌が増加することにより下痢や腸炎などを引き起こす場合が
あります。一般的には Clostridium difficile 腸炎に対してバンコマイシンやメ
トロニダゾールなどの抗菌剤の投与を行うことにより治療を行いますが、しば
しば再発を来します。
そのような難治性の患者さんを対象に、2013 年に糞便細菌叢移植が有用
であると報告され、当院においてもおすすめしております。まだ、保険で認可
された治療法ではありませんが、患者さんに利益のある治療法として先進医療
への申請を視野に糞便細菌叢移植を行っております。
この説明文章を読まれて、この研究に協力いただける場合は、同意書に署名
をお願いいたします。研究に参加されるかどうかはあなたの自由意志でお決め
下さい。この研究に参加されない場合でもあなたが不利益を被ることは一切あ
りません。
3. 概要
糞便細菌叢移植を行うに辺りドナー(糞便の提供者)が必要となります。通
常、家族内(2親等)からドナー(糞便の提供者)を選定することをおすすめ
しております。60 歳以下でお薬などを飲んでおられない方、便通異常の無い
方から選定ください。ドナー(糞便の提供者)の方は、当院で種々の感染症に
対するスクリーニング検査や質問票の記入をお願いしております。
ドナー(糞便の提供者)のスクリーニングで異常が無ければ、糞便を提供し
ていただき細菌成分を分離した液体をレシピエント(患者さん)に投与します。
レシピエント(患者さん)は必要に応じて腸管洗浄剤の内服を行い、腸管内を
洗浄後、大腸内視鏡検査施行時に細菌成分を分離した液体を散布し糞便細菌叢
移植を行います。
4. 研究の方法
ドナー(糞便の提供者)の準備
1) 当院を受診していただく必要があります。受診時に、採血、採便、質問
票などのアンケートを実施します。後日、スクリーニングの結果からド
ナーとして適切であるか判定いたします。
2) 結果、適切と判定された場合、糞便細菌叢移植を実施する際に、糞便の
提供をお願いいたします。
レシピエント(患者さん)の準備
1) Clostridium difficile などの菌交代現象が認められ、従来の治療法に抵
抗性であると判定された方が対象となります。
2) ドナーとの適合性を判断する目的でスクリーニング検査として採血を受
けて頂きます。
3) 適合ありと判断された場合、糞便細菌叢移植前の糞便サンプルの採取を
お願いします。
4) 大腸内視鏡検査の施行時に糞便細菌叢移植を行います。前処置は通常の
大腸内視鏡検査と同様です。
5) 当日に経口腸管洗浄剤を用いて腸管内の洗浄を行います。
6) 便の提供者は糞便細菌叢移植当日の糞便を採取します。
糞便は採取後 6 時間以内に移植する必要があります。
7) 糞便の処理は生理食塩水と混ぜることにより細菌成分を抽出します。
8) レシピエントは大腸内視鏡検査を受け、その際に大腸内視鏡を通して細
菌成分を抽出した液体を移植します。
9) 糞便細菌叢移植施行後、1 ヶ月ごとに 2 ヶ月後まで経過観察を行います。
経過観察期間中は 1 ヶ月ごとに症状や診察を行い、糞便サンプルの採取
をお願いします。
5. 予定参加期間
本試験は倫理委員会承認後より 2017 年 3 月 31 日までと致します。
(登
録締切は 2017 年 1 月 15 日)
6. 予定参加人数
目標症例数は 10 症例です。
7. 効果
2013 年の New England Journal of Medicine 誌に掲載された論文に
よると、Clostridium difficile 感染患者に対する従来の治療法による有効率
が 30%であったものが単回の糞便細菌叢移植で 81%、繰り返し行った症
例も含めると 93%程度の有効性が得られたと報告されています。
8. 副作用・危険性・不利益など
2013 年の New England Journal of Medicine 誌に掲載された論文に
よると、移植後すぐの下痢、腹痛、ゲップなどの症状を認め、症状は全員数
時間で軽快したと報告があります。この報告は経鼻的に挿入したチューブか
らの投与である点に注意が必要です。今回、我々は大腸内視鏡検査時に移植
を行う方法を選択しています。大腸内視鏡を通しての糞便細菌叢移植の合併
症として報告されているものは同じく下痢、気分不良、軽度の発熱、腹部膨
満感などが報告されています。糞便細菌叢移植の方法には経鼻的に挿入した
チューブで移植を行う方法と大腸内視鏡を用いて行う移植との大きく分け
て二通りありますが、どちらが優れているのかについては今後の検討と考え
られます。現時点での報告ではほぼ同等の成績が得られています。
最近発表された報告によると 3.4%(1029 人中 35 人)が死亡したと報
告されています。死亡の原因として鎮静下大腸内視鏡検査時の誤嚥(1 名)、
Clostridium difficile 腸炎の増悪にて死亡(1 名、後に小腸へ Clostridium
difficile 感染が波及していたことが判明)、中毒性巨大結腸症にて糞便細菌
叢移植後 1 ヶ月後に死亡(1 名)、残りの 29 名は Clostridium difficile 腸
炎とは無関係もしくは原因不明でした。Clostridium difficile 腸炎の病気の
状態により全身状態が急変する可能性も念頭に置く必要があると考えられ
ます。また、未知の感染症や副作用が起こる可能性は否定できません。
これ以外にも大腸内視鏡検査に伴う偶発症があります。主な偶発症として
粘膜損傷、出血や穿孔があげられます。2010 年に発表された全国調査報
告では大腸内視鏡検査・治療全体での偶発症発生率は 0.078%、また生検
を含めた観察のみの大腸内視鏡検査にて発生率は 0.012%と報告されてお
り、それに関連した死亡が 0.00082%と報告されています。出血や穿孔な
どの偶発症に対して、まず内視鏡的に対処を行いますが、内視鏡的な対処が
不可能であれば外科的手術を含めた治療を行います。不測の事態に対して最
善の処置を行います(保険診療)。
9. 本試験に参加しない場合の他の治療法
本試験に参加されない場合はバンコマイシンなどの抗菌剤内服による従
来の治療法を選択することになります。
10. 本試験中に健康に被害が生じた場合
項目8に記載いたしました、副作用や偶発症を生じた場合は外科的手術を
含めた最善の処置を行いますが、その費用は保険診療にて負担されます。ま
た、本試験は健康被害の補償責任に備え、臨床研究保険に加入して実施して
おります。
11. 同意および撤回について
この説明書をお読みになり担当医の説明を聞いて、この治療を受けることに
同意される場合は、別紙の同意書に署名または記名・押印をして下さい。あな
たが、他の治療法を選択されても、一切不利益は生じません。また、あなたが
この試験に同意した後でも、その同意をいつでも撤回できます。
12. 本試験に関する情報提供について
本試験に参加頂きました患者さんのご希望がございましたら、他にご参加
いただいておられる患者さんの個人情報や本研究の独創性の確保に支障が
ない範囲で本研究の研究計画書および方法に関する資料を提供させていた
だくことが可能です。
13. 個人情報の保護
この試験で得られた結果は、これらの治療方法と安全性を確認する資料とし
て使用します。専門の学会や学術雑誌に発表されることもありますが、患者
さんのプライバシーは十分に尊重されます。結果発表の際には慎重に配慮し、
患者さん個人に関する情報(氏名など)が外部に公表されることは一切ありま
せん。
14. 資料などの保存および使用方法並びに保存期間
試験などに係わる文書は研究後少なくとも 5 年間、研究結果公表後 3 年
間は保存されます。結果の公表に関しては学会発表もしくは論文にて報告を
行います。
15. 費用負担につきまして
1) レシピエントのスクリーニング検査は保険診療にて賄われます。
2) ドナーの血清・糞便スクリーニング検査費用は消化器内科講座研究費に
て負担されます。
3) スクリーニング後に FMT 実施可の判断が得られた場合、FMT 前の CD
toxin 検査は保険診療、糞便中細菌叢解析費用は消化器内科講座研究費にて負
担されます。
4) レシピエントの FMT に係わる糞便処理費用、大腸内視鏡検査について
は病院校費にて負担します。また、糞便細菌叢移植にて入院が必要となった際
には全ての費用を病院校費にて負担します。
5) FMT 時のドナー糞便サンプルから糞便中細菌叢解析を実施するが、
その費用は消化器内科講座研究費にて負担されます。
6) レシピエントの FMT 施行後 1 ヶ月、2 ヶ月の CD toxin 検査は保険診
療にて行われる。また、FMT 施行後 1 ヶ月、2 ヶ月の糞便中細菌叢解析は消
化器内科講座研究費にて負担されます。
この治療に関する個人負担は発生しません。また、ドナー(糞便の提供者)の
スクリーニング費用、レシピエント(患者さん)の大腸内視鏡検査、糞便サン
プルの処理に関しては病院校費で賄われます。
この治療について何か分からないことや心配なことがありましたら、いつでも
担当医師にご相談下さい。
連絡先・問い合わせ先
滋賀医科大学 消化器内科
安藤 朗
〒520-2192 滋賀県大津市瀬田月輪町
電話:077-548-2217