1 以下について、解答を、問題番号順に解答用紙(A)に記せ。解答用紙の

以下について、解答を、問題番号順に解答用紙(A)に記せ。解答用紙の枚数は複数に及んでも構わな
い。
試験時間は、医真菌、寄生虫を含め
16:30-19:30
細菌学試験問題
2014.2.17
(菌名は、ラテン名の表記を期待するが、1-2 文字のスペルミスは容認。漢字やカタカナ表記の場合は、
半分加点)
1. 下記の空欄を埋めよ。
・腸管出血性大腸菌(EHEC)の主要な病原因子は(
a )であり、(
b )を阻害することにより細
胞致死作用を示し、( c )菌の病原因子と類似した物質である。
・EHEC の主な血清型としては O-157、O-(
・EHEC による感染症の重篤な合併症として(
d )
、O-26 などがある。
e )や( f )がある。
・EHEC による感染症は「感染症法」で( g )類感染症に指定されており、診断した医師には届け出
の義務がある。
a. ベロ毒素
b. タンパク合成/28S リボソーム RNA
c. 赤痢
d. 91
e. HUS(溶血性尿毒症症候群)
f.
脳症
g. 3
2. 以下の空欄 A-O を埋めよ。同じ語句が繰り返されている箇所があるので注意すること。
・内毒素とは(
体は(
A )とも呼ばれ、グラム( B )性細菌の表層にある(
C )である。毒性の本
D )と呼ばれ、これに対しては抗体ができにくい。菌が血流中に侵入し(
れることになり(
A
C )が放出さ
)ショックが引き起こされる。内毒素による点滴の汚染が死亡事故の原因とな
った菌種として( E )が知られている。
(
C )の細胞の外側に向かって伸びる(
F )部分は
構造的に多様でありかつ抗原性を示し、それに対する抗原抗体反応(凝集反応など)が菌の血清型判定
などに利用される。血清中の(
G )価を測ることによってかつてどの抗原をもつ細菌に感染したか
推測することができるが、感染初期では(
G
)価が上がっていないことが多く、病因となっている
微生物を探索する検査としては意義が低い。
・
( H
)はグラム( I
)性連鎖球菌で、咽頭炎から猩紅熱、劇症型( H )感染症まで多彩な
病態の起因菌となる。治療には(
J
)系抗生物質が第一選択薬であるが、アレルギー反応などを引
き起こす場合にはマクロライドなどを用いることもある。いずれの薬剤も非化膿性の合併症、例えば
(
K )予防のために、一定期間以上は確実に投与することが必要である。
1
・慢性胃炎、胃潰瘍、胃がん等にはグラム(
L
)性らせん菌である(
M
)の感染が主要な原因
の一つとして知られている。酸性環境に抵抗性を示し胃の粘膜層等で生育するには細菌が産生する
(
N )は重要であり、潰瘍などに至るにはさらに VacA や CagA などの病原因子が関与するとされて
いるが、
( M )が感染している人がすべて慢性胃炎や胃潰瘍、胃がんを発症するとは限らず、病態発
現のメカニズムには未だ不明な点が多く残されている。この菌の保菌を疑うときに行う内視鏡による生
検組織を必要とする検査法として、迅速( N )試験、鏡検法、培養法があり、非侵襲性検査には便中
(
M )抗原測定法、尿素呼気テスト、血液中/ 尿中/ 唾液中の抗体検査などがある。一次除菌療法
ではプロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+( O )を 7 日間投与する三剤併用療法が一般的であ
る。除菌率は 70-90%程度であり、
( O )耐性菌感染例では除菌率が低下することが示されている。
A. エンドトキシン
F. 多糖
B. 陰
G. 抗体
C. リポ多糖/LPS
D. リピド A
E. Serratia marcescens
H. A 群β型レンサ球菌/化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)
J. ペニシリン K. リウマチ熱/溶連菌感染後急性糸球体腎炎〈PSAGN〉
pylori ヘリコバクター・ピロリ
I. 陽
L. 陰 M. Helicobacter
N. ウレアーゼ
O. クラリスロマイシン
3. 化学的消毒法に用いる消毒薬は、高水準消毒薬、中水準消毒薬、低水準消毒薬に分類されることがあ
る。それぞれの違いを説明するとともに、高水準消毒薬、中水準消毒薬、低水準消毒薬の具体例を一
つずつ挙げよ。
<高水準>
・グルタラール(グルタルアルデヒド)……細菌、ウイルス、芽胞など全ての微生物に対して有効な消
毒薬である。内視鏡消毒の第一選択薬となる。毒性が強いため、人体に対しては使用できない。
・過酢酸……医療器具の滅菌、殺菌、消毒に使われ、ほとんど全ての細菌・真菌・芽胞・ウイルスに有
効である。人体に対するアレルギー性、変異原性が低い。
<中水準>
・次亜塩素酸ナトリウム……ウイルスを含むほとんどの微生物に対して有効である。また、タンパク質
との接触によって NaCl となるため、低残留性の消毒薬といえる。金属腐食性があるため、金属類に対し
ては使用することができない。塩素ガスが発生するため、酸性の洗剤と一緒に使用することは禁忌であ
る。主に器具類やリネン類の消毒に用いられる。
・ポビドンヨード……粘膜に対して使用することができる。生体への刺激性が低いため副作用は少ない
が、金属器具に対しては使用することができない。褐色に着色し、一旦衣服に付いてしまうと色が落ち
にくい。
・消毒用エタノール……広範囲の微生物に対して有効であるが、芽胞に対しては無効である。短時間で
効力を発揮し、蒸発するために残留性が少ない。一般的には濃度 70%のアルコールとして使用され、濃
度が 50%以下になると殺菌作用が消失してしまう。また、刺激性があるために粘膜や創傷皮膚に対して
は使用できない。
2
<低水準>
・第4級アンモニウム塩……逆性せっけん(陽イオン界面活性剤)であり、毒性や刺激性、金属腐食性
がないため手指・食品の消毒、医療器具や床などの消毒に広く用いられる。陽イオンの性質のため、陰
イオン界面活性剤である石鹸と併用することで作用が減弱する。
・クロルヘキシジン……手指消毒など、主に人体に使用される。ただし粘膜に対しては、アナフィラキ
シーを引き起こした事例があるため禁忌である。
4. 最新の感染症法に規定されている細菌感染症を一つ上げ、感染症名、起因菌名、第何類感染症にあた
るかを記載せよ。
1 類感染症
ペスト……Yersinia pestis ペスト菌
2 類感染症
ジフテリア……Corynebacterium diphtheriae ジフテリア菌
結核……Mycobacterium tuberculosis 結核菌
3 類感染症
コレラ……Vibrio cholerae コレラ菌
赤痢……Shigella dysenteriae, Shigella flexneri, Shigella boydii, Shigella sonnei 赤痢菌
腸管出血性大腸菌感染症……enterohemorrhagic Escherichia coli;EHEC 腸管出血性大腸菌
腸チフス……Salmonella enterica serovar Typhi チフス菌
パラチフス……Salmonella enterica serovar Paratyphi A パラチフス A 菌
4 類感染症
レジオネラ……Legionella pneumophila レジオネラ菌
ブルセラ症……Brucella melitensis, Brucella suis ブルセラ菌
野兎病……Francisella tularensis 野兎病菌
鼻疽……Burkholderia mallei 鼻疽菌、類鼻疽……Burkholderia pseudomallei 類鼻疽菌
5 類感染症
全数把握
破傷風……Clostridium tetani 破傷風菌
急性扁桃炎、猩紅熱、急性糸球体腎炎など……Streptococcus pyogenes 化膿レンサ球菌
髄膜炎……Neisseria meningitidis 髄膜炎菌
肺炎、敗血症、髄膜炎など……vancomycin-resistant Staphylococcus aureus;VRSA バンコマイシン耐
性黄色ブドウ球菌
3
定点把握
百日咳……Bordetella pertussis 百日咳菌
淋病……Neisseria gonorrhoeae 淋菌
5. 幼児(新生児を含む)の髄膜炎の起因菌として、国内での分離頻度が高い菌種を 3 菌種挙げ、簡潔に
説明せよ。
・Haemophilus influenzae インフ
ルエンザ菌……グラム陰性桿菌。
主に呼吸器や中耳に感染する。
Hib 莢膜多糖体蛋白結合ワクチン
が導入されている。
・Streptococcus pneumoniae 肺炎
球菌……グラム陽性球菌。市中肺
炎で最も頻度が高い起炎菌。中耳炎も引き起こす。
・Streptococcus agalactiae B 群 β 溶血性レンサ球菌……グラム陽性球菌。消化管内の常在菌。出産時に
新生児に感染すると、髄膜炎、肺炎、敗血症を起こすことがある。
・Neisseria meningitidis 髄膜炎菌……細菌性髄膜炎の起炎菌としては、肺炎球菌がより頻度が高い。
ワクチンが存在する。5類感染症全数把握疾患。
・Escherichia coli 大腸菌……グラム陰性桿菌。腸内細菌。通常無害だが、血液や尿路系に侵入すれば病
原体となる。
※
4か月未満は S. agalactiae (50%) > E. coli (25%) > H. influenzae (20%)
4か月〜6歳は H. influenzae (70%) > S. pneumoniae (25%)
の順で多い。
※
起炎菌未定の第一選択薬は、
4か月未満:アンピシリン+第三世代セフェム
4か月〜6歳:カルバペネム系+第三世代セフェム
6. 細胞壁構造を持たない細菌の名称と特徴、さらにそれによる感染症の留意点について記せ。
・Mycoplasma pneumoniae 肺炎マイコプラズマ
無細胞培地で増殖可能な生物では最も小さい。増殖にコレステロール、長鎖脂肪酸を要求する。
マイコプラズマ肺炎の起因菌。飛沫感染。マイコプラズマ肺炎は 5~15 歳が最も多く、高齢者では少
ない。β-ラクタム系など細胞壁合成阻害をもつ抗菌薬は無効。他のタンパク質合成阻害薬や核酸合成阻害
薬には基本的に感受性。
4
7. ワクチンについて知るところを記せ。(混合型、結合型、生、不活化、アジュバントなどの用語を用
いること)
・生ワクチン……BCG ワクチンのみ。結核に対するワクチンである。生きた細菌の毒性を弱めたものを
接種するため、接種回数が少なくて済むが感染のリスクがある。
・不活化ワクチン……百日咳ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、Hib ワクチン
・結合(型)ワクチン……肺炎球菌に対する結合型ワクチンがある。ある抗原をキャリア蛋白と結合させる
ことで免疫原性を持たせたワクチンである。
・混合ワクチン……ジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチンである DPT ワクチンがある。数種類のワ
クチンを混合して一本のワクチンにしたもので、接種回数の低減や接種率の上昇などの利点がある。
・トキソイドワクチン……ジフテリアワクチン、破傷風ワクチン
・アジュバント……抗原ではないが免疫応答を増強させる物質であり、抗原とアジュバントを一緒に接
種することで、接種抗原量や接種回数を減らすことができる。
8. 生の鶏肉などに付着しており、急性腸炎の原因となる細菌 2 菌種について説明せよ。
・Campylobacter jejuni
ニワトリ、ウシ、ブタなどの腸管に生息し、生肉や加熱が不十分な食品などを介してヒトに急性胃腸
炎を引き起こす。潜伏期間は 1~7 日。腹痛、下痢、発熱、全身倦怠感など。細菌性食中毒原因菌の件数
としては最も多い。
・サルモネラ属菌(Salmonella spp.)
動物の腸管に生息。特に鶏肉と卵を汚染することが多い。潜伏期間は 6~72 時間。激しい腹痛、下痢、
発熱、嘔吐。細菌性食中毒原因菌の件数としてはカンピロバクターの次に多く、患者数としては最も多
い。
9. 煮沸滅菌やアルコール消毒に耐える病原菌を 2 菌種あげ、それぞれの特徴を説明せよ。
・Bacillus 属菌
芽胞を形成するグラム陽性桿菌。主な病原性菌種には炭疽菌 Bacillus anthracis、セレウス菌 Bacillus
cereus がある。
・Clostridium 属菌
芽胞を形成するグラム陽性桿菌。主な病原性菌種には破傷風菌 Clostridium tetani、ボツリヌス菌
Clostridium botulinum、ウェルシュ菌 Clostridium perfringens、ディフィシル菌 Clostridium difficile
がある。
5
10. 以下の機構により抗菌活性が減弱する抗菌薬を 1 つ挙げ、その作用機序を記せ。
a. 薬剤のアセチル化やリン酸化
アミノグリコシド系薬:30S リボソームサブユニットに結合してタンパク質合成を阻害する。
b. 標的分子の構造変化
キノロン系薬:DNA ジャイレース、トポイソメラーゼⅣを阻害することで DNA 合成を阻害する。
c. 薬剤の加水分解
β-ラクタム系薬:PBP と結合することでムレインモノマーの架橋反応を阻害し、細胞壁合成を阻害す
る。
d. 薬剤の細菌細胞外への排出
テトラサイクリン系薬:30S リボソームサブユニットに結合してタンパク質合成を阻害する。
11. 神経系に作用する毒素を産生する病原体を 2 菌種あげ、知るところを記せ。
・Clostridium botulinum:ボツリヌス毒素を産生。神経末梢からのアセチルコリン放出を阻害して、弛
緩性麻痺、散瞳、排尿障害などを引き起こす。
・Clostridium tetani:テタノスパスミン Tetanospasmin を産生。破傷風の毒素で、抑制性シナプスに
きょうちょくせいけいれん
おける抑制伝達物質遊離を抑制する。 強 直 性 痙攣、持続的筋緊張などを引き起こす。
12. 手術部位感染症の原因となることが多い病原体について知るところを記せ。
・黄色ブドウ球菌 Staphylococcus aureus:グラム陽性球菌。ヒトの粘膜や皮膚に定着する常在菌。医療
従事者や患者が保菌する黄色ブドウ球菌が、手術部位などから患者体内に入り感染症を起こす。
・大腸菌 Escherichia coli:グラム陰性桿菌。大腸菌は正常細菌叢の一つであるが、尿路や呼吸器など腸
管以外に入り込むと異所性感染を起こす。
・緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa:グラム陰性桿菌。病院内環境の水回りに定着する能力が高く、人
工呼吸器やシャワーヘッドなどに定着する。果物や野菜にも分布しており、免疫力の低下した患者では
呼吸器感染症、尿路感染症、皮膚感染症などの原因となる。
13. 抗酸菌が原因となる感染症について知るところを記せ。
結核
空気感染により結核菌が肺に入ると、肺胞マクロファージにより貪食されるが、マクロファージ内で
生き続ける。感染者の大半は発症せず、無症候性、潜伏感染が一般的である。免疫応答が不十分な宿主
6
においては結核を発症する。加齢などにより宿主の免疫機能が低下すると、結核菌は再活性化する。
結核菌の細胞壁はミコール酸に富み、グラム染色では難染色性となるため、塗抹検査を行う場合には
Ziehl-Neelsen 染色が用いられる。結核の診断には他に培養検査や PCR などがある。
7
医真菌
再々試
解答用紙Bに記入すること
試験時間 16:30-19:30
平成 26 年 2 月 17 日(月)
1. 真菌に関する以下の用語を簡単に説明しなさい。
(1) 発芽管
糸状菌の発芽でみられる構造。発芽管は伸長して菌糸となる。
(2) 細胞壁
真菌の細胞壁は β-1,3-グルカンやキチンを含む。これら繊維状の高分子構造の間に糖タンパク質が存
在する。
(3) 墨汁染色
莢膜を持つ真菌では莢膜が染まりにくいため、菌体周囲が黒く、菌体は透明に観察される。
Cryptococcus neoformans は墨汁染色陽性。
(4) 二形性真菌
発育条件に依存して、菌糸形と酵母形のどちらかの発育形態をとる性質を持つ真菌のこと。
(5) スライド培養
真菌をスライドグラス上で培養し、直接、顕微鏡で観察する方法で、菌糸の成長や胞子の形成など. の
形態観察ができる。
(6) Malassezia
Malassezia 属は酵母様真菌であり、日和見感染症を引き起こす。
Malassezia furfur は癜風の起因菌であり、発育に高級脂肪酸などの脂質を必要とするため、本菌を
分離培養するためにはオリーブ油などの脂質を添加した培地を使用する。
(7) Trichophyton
白癬の起因菌。Trichophyton rubrum がもっとも頻度が高く、次に Trichophyton mentagrophytes。
8
最近、身体を強く接触する格闘技などのスポーツにおいて Trichophyton tonsurans による集団感染
が報告されている。
(8) 深部皮膚真菌症
土壌中や植物表面に生息する特定の腐生性真菌が、皮膚の創傷などを介して組織内へ侵入することに
より感染を引き起こす。
(9) アムフォテリシンB
ポリエン系抗真菌薬で、広い抗菌スペクトルを持つ。細胞膜のエルゴステロールに結合して膜透過性
を変化させ、殺菌的に作用する。
(10) アゾール系抗真菌剤
エルゴステロール合成経路のうち 14α-デメチラーゼを阻害することによりエルゴステロール合成を
抑制する。静菌的に働く。
(11) マイコトキシン
カビ毒。カビが産生する二次代謝産物の中で,人や動物に有害な作用を示す有毒物質のことをいう。
Aspergillus flavus が産生するアフラトキシンなど。
(12) 無性世代
有性生殖能をもつ完全菌が無性生殖を行う状態のこと。
2. 深在性真菌症について、発症基盤、代表的起因菌 3 属、使用される抗真菌剤などを解説しなさい。
特定の深部臓器または全身性に播種し、さまざまな臓器、組織に感染病巣を作る。地域流行型真菌症
と日和見真菌症の 2 つに分けられる。
<起因菌>
・Candida albicans……カンジダ血症、播種性カンジダ症。悪性腫瘍、血管内留置カテーテル、大手術
後などの患者に好発。常在菌として消化管などに存在していたものが起因菌となる。
・Aspergillus fumigatus……アスペルギルス症。環境中広く存在する糸状菌であるアスペルギルス属の
吸入による経気道的感染によって引き起こされる。肺アスペルギローマなどを発症する。
9
・Cryptococcus neoformans……クリプトコックス症。鳩の糞便などで汚染された土壌中に存在する菌が、
空中を漂って経気道的感染し、肺クリプトコックス症を起こす。その後、血行性に散布され脳髄膜炎を
きたす。特に HIV 感染者においては肺病変を形成せずに高頻度でクリプトコックス髄膜炎が直接に発生
する。
・Mucorales……接合菌症(ムーコル症)
。土壌、腐敗植物に広く分布している菌が、免疫能低下時の日
和見感染症として、主に経気道的に感染、発症する。肺をおかす肺ムーコル症と、全身性に播種するも
の、特に鼻、眼、脳をおかす鼻脳型ムーコル症がある。
<使用される抗真菌剤>
・アムホテリシン B……ポリエン系。広い抗菌スペクトルを持ち、殺菌作用も強いが、腎毒性がある。
毒性を緩和するためリポソーム製剤が開発された。
・フルコナゾール……トリアゾール系。カンジダ症やクリプトコッカス症に使用される。アスペルギル
ス症に対しては効果は弱い。
・ボリコナゾール……トリアゾール系。最も新しく開発されたトリアゾール系薬剤で、アスペルギルス
症にも有効。
・ミカファンギン……キャンディン系。毒性が少なく、アスペルギルス症にも有効。担子菌系真菌の感
染症に無効。
10
寄生虫
再々試
解答用紙Cに記入すること
試験時間 16:30-19:30
平成 26 年 2 月 17 日(月)
問1
(1) 帰国後に発熱しマラリアを疑って来院した患者への問診において、最低限確認すべき事項を3つ挙げ
よ。
渡航歴(場所、時期)
、渡航先での蚊の吸血の有無、発熱形態
(2) 脳マラリアについて説明せよ。
熱帯熱マラリア原虫の感染によって起きる致命的な合併症であり、マラリアによる主要な死亡原因で
ある。感染赤血球が変質して脳の毛細血管に詰まることにより、頭痛や意識低下などが起こる。その
ため、熱帯熱マラリアでは最初の発熱から 1 週間以内に適切な治療をしないと死亡する可能性がある。
(3) 三日熱マラリアの治療が熱帯熱マラリアとは大きく異なる点について、治療薬名を挙げて説明せよ。
熱帯熱マラリアとは違い、三日熱マラリアは赤血球内にいる赤内型マラリアの他に、肝臓内に休眠型
マラリアがいるため、赤内型のマラリアを排除するだけでは体内からの完全な駆虫はできずに再発の可
能性がある。
三日熱マラリアでは最初に薬剤耐性株の広がっていない薬(アルテメーターやマラロン)で赤内型マ
ラリアを駆虫し、肝臓にいる休眠型マラリアはプリマキンを処方して治療する。
問2
ヒト回虫の生活環を説明した上で、ヒト回虫症の診断法と治療法について説明せよ。
固有宿主はヒトであり、感染は幼虫包蔵卵の経口摂取による。幼虫包蔵卵は小腸で孵化して幼虫とな
り、腸壁に侵入する。その後門脈を介して肝臓に入り、肝静脈、心臓を経て肺に至る。肺で第 4 期幼虫
に発育した後、気管を上行し、咽頭で嚥下されて再び小腸に達し、成虫となる。
メス成虫は 1 日に約 20 万個の虫卵を産み、その虫卵は糞便中に排出される。幼虫の肺移行によりレフ
レル症候群を起こす。
診断法:直接塗抹法により検便を行い、虫卵を発見する。オスのみの寄生では虫卵は陰性。
治療法:パモ酸ピランテルの投与
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問3
クリプトスポリジウムは生物テロに使用される危険から特定病原体(四種病原体)に指定されている。
その理由となるクリプトスポリジウムの特性を述べよ。
感染者が糞便中にオーシストを大量に排出する。少量のオーシストを経口摂取するだけで激しい下痢
を発症する。治療薬がない。オーシストが塩素消毒に無効である。
(水道水の塩素消毒でも生き残る。駆
虫には煮沸が必要。)中間宿主がないため感染が広がりやすい。
ゆえに、水源にオーシストが混入すると、水道を介して大量の感染者を引き起こす可能性がある。
問4
ウェステルマン肺吸虫の生活史(環)を丁寧に説明した上で、待機宿主について説明せよ。
虫卵が水中でミラシジウムへと発育し、第 1
中間宿主である貝(カワニナ)に感染する。こ
の中でミラシジウム→セルカリアと発育する。
そしてセルカリアが第 2 宿主であるカニに感
染し、その中でメタセルカリアへと発育する。
次に直接終宿主であるヒト等に経口感染する
か、待機宿主であるイノシシを介してメタセル
カリアがヒトに感染する。そしてヒト等の糞便
(や喀痰)から虫卵が排出される。
・待機宿主……生活環で必ずしも寄生しなくて
もよいが、中間宿主から終宿主へ移行する期間
に寄生する動物。
問5
人体有鉤嚢虫症について述べよ。
有鉤条虫の虫卵を生の豚肉などから経口摂取すること、有鉤条虫感染時のプラジカンテル投与での
虫体破壊による虫卵の体内散乱などにより起こる。ヒト体内に幼虫である有鉤嚢虫が体内の各所で増加
する。中枢神経系などに寄生し、神経症状が出ることもある。
問6
以下の設問に適合する寄生虫種を下記の選択肢からすべて選択しアルファベット順に記せ。
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なお、VはUと区別しにくいため欠番としてある。
A.マンソン裂頭条虫、B.肝蛭、C.日本住血吸虫、D.膣トリコモナス、E.アニサキス、F.バン
クロフト糸状虫、G.アカントアメーバ、H.日本海裂頭条虫、I.赤痢アメーバ、J.蟯虫、K.ガンビア
トリパノソーマ、L.多包条虫、M.横川吸虫、N.回旋糸状虫、O.糞線虫、P.トキソプラズマ、Q.リ
ーシュマニア、R.宮崎肺吸虫、S.有棘顎口虫、T.ランブル鞭毛虫、U.ズビニ鉤虫、W.アカントアメ
ーバ、X.広東住血線虫
(1) 生活史(環)において2種以上の中間宿主を必要とする寄生虫
A.マンソン裂頭条虫、E.アニサキス、H.日本海裂頭条虫、M.横川吸虫、R.宮崎肺吸虫、S.有
棘顎口虫
(2) 診断した医師に保健所への届出義務のある寄生虫症の原因寄生虫
I.赤痢アメーバ、L.多包条虫、T.ランブル鞭毛虫
(3) ヒトの幼虫移行症の原因となる寄生虫
A.マンソン裂頭条虫、E.アニサキス、L.多包条虫、R.宮崎肺吸虫、S.有棘顎口虫、X.広東住
血線虫
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