間違いだらけの補聴器事情 / 思い込みがジャマをする、聞こえを取り

間違いだらけの補聴器事情 /
思い込みがジャマをする、聞こえを取りもどすことができる場合と難しい場合
補聴器を活用するには、高額な補聴器の購入を考えるよりもずっと大切な事があり
ます。それを知らないために、「補聴器はうるさい」と思い込んであきらめてしまった人
は少なくありません。補聴器に関わる世間での評判が結構間違っているため、その誤
解が解けることを常々願ってきましたので、今回の講演では少しでもお役に立てれば
と思っています。
普段、脳はとても賢い働きをしています。騒々しい喫茶店で会話をしている時、いつ
の間にか会話の相手以外の周囲の音は意識に上がらなくなっています。これは、脳が
不必要な音を意識に上げないようにコントロールしているからです。この脳の優れた機
能は、聞こえの環境が大きく変わると即座に機能できないことが推測されます。したが
って、難聴がある場合には、補聴器をつけるまで周囲の雑音が聞こえていませんでし
たから、補聴器を初めて使用する時に周囲の騒音が気になるのは当然というわけで
す。
脳は、補聴器による「新たな聞こえ具合」に対して、神経回路を組み替えて周囲の
騒音を意識にあげないように設定していきます。一般に、高齢者ほどこの神経回路の
組み替えに時間がかかると考えられ、ここでトレーニングが必要というわけです。トレー
ニングと言っても、少々騒々しい状況から逃げないようにするだけです。
高齢者が初めて補聴器を使用する場合には、音が入りすぎないように抑え気味の
調整で始めることは多く、結果的に3ヶ月程度の時間をかけて補聴器の調整が進むこ
と(トレーニング期間)になります。この際には、補聴器業者さんによる親身な説明と適
切な調整、そして患者さんやご家族の十分なご理解が不可欠です。また、我々耳鼻咽
喉科医師もこれを上手くサポートできればと考えています。
「こんなやかましい補聴器は使えない」という言葉の裏に、このような事情が隠れて
いたわけです。一方、「補聴器をしない方が良く聞こえる」という言葉も聞かれることが
あります。この場合には、別の問題が隠れていますので講演の中でお話しします。
補聴器が上手く使えていない方の場合、まずはその理由や原因を探す必要がある
わけです。
名古屋第一赤十字病院 耳鼻咽喉科
柘植 勇人