PC橋の施工品質向上に寄与する施工支援システムの現状 [PDF:1.11 MB]

エスイー の 技 術 情 報
SE通信
2015年 3月号
編集・発行
橋梁構造事業部
■ TOPICS の紹介 ■
今号の『SE通信』のキーワードは
『PC橋の施工品質向上に寄与する施工支援システムの現状』です。
PC橋を永続的に供用していくためには、①設計で与えられたPCケー
ブルの緊張力を正確に導入すること、②PCグラウトを確実に充填する
こと、が非常に重要で、この作業の品質を確保すること、向上させる
ことが構造物の健全性を長期的に維持する上で不可欠である、といっ
ても過言ではありません。
これまで、この2つの作業の品質向上に寄与できる施工支援システム
として、「緊張管理システム」や「PCグラウト注入管理システム」を
紹介してきましたが、運用開始後、さらなる品質向上への支援策とし
て、基本システム以外の計測機器との統合による機能の拡張や装置の
開発などに努めてきました。
今号では、上記支援システムにおける新たな機能や適用用途、開発
装置などの現状についてご紹介します。
■PCグラウト支援システム■
PCグラウト支援システムとしては、「PCグラウト注入管理システム」をレンタルにて提供してい
ますが、本システムでは、各計測データを集約し保存するデータロガーの拡張性を活用することで、
基本性能である、①注入速度や注入量、②注入圧力、③グラウト温度、の計測に加え、各種計測機
器の増設およびデータの統合など、さまざまな現場施工条件に合わせて使用することが可能です。
ここでは、これまでの使用実績や適用性検討などを踏まえた本システムの応用例についてご紹介
します。
● 応用例1:密度計との統合
グラウト材の密度計測を連続的かつリアルタイムに行える“配管用密度計PIRICA”(ソイルアンド
ロックエンジニアリング㈱社製)を使用する際、通常は機器単体でのデータ管理が必要となります
が、本システムでは、計測データをデータロガーを介して、パソコンに取り込むことができます。
これにより、パソコン画面上で密度計側データを統合した一元管理が可能となるため、グラウト
管理における省力化とともに、より一層の品質向上が図れます。
密度計配置のシステム概要図
Page 1
密度計使用例
密度計を統合した場合のパソコン画面
● 応用例2:温度計などの増設
平成24年12月に改訂された“PCグラウトの設計施工指針-改訂版-”(公益社団法人 プレストレス
トコンクリート工学会 発刊)において、グラウトが確実に充填されるために必要なグラウトの流動
性維持に関し、グラウトの温度管理の重要性が明記され、日常管理試験の項目にグラウト温度の変
化を継続的に捉えて管理することが追加されました。
本システムでは、基本性能として、計測ボックス内蔵の熱電対で注入作業中のグラウト温度を連
続的に計測(注入側と排出側)できますが、練り混ぜ後のグラウトが投入されるホッパーに熱電対
を増設すれば、グラウトの練り上がり温度を継続的に計測することができます。
また、グラウトの練り上がり温度に与える影響が大きい練り混ぜ時
の水温や注入時の外気温などを連続的に捉えることで、グラウトの配合
(水セメント比)をいち早く見直し、一様な性状を維持したグラウト
注入を行うことが可能となります。
PCグラウトの設計施工指針
-改訂版-
温度計増設のシステム概要図
Page 2
● 応用例3:計測ボックスの増設
単純桁でのPCグラウトでは、通常の桁端
部から注入し、反対の桁端部から排出する
注入方法以外に、ケーブル曲げ下げ部での
グラウト先流れによる有害な残留空気発生
の対処として、ケーブルの最低所から注入
し、両桁端部で排出する注入方法を採用す
る場合があります。
この場合、注入口1箇所、排出口2箇所の
計3箇所に計測ボックスを配置することに
なりますが、本システムでは計測ボックス
の増設を必要とする注入方法にも対応する
ことができます。
計測ボックス増設のシステム概要図
● 施工実績
運用開始(平成24年度)以降の施工実績を以下に示します。
実績年度
件名
グラウト施工時期
施主名
橋梁形式
ケーブルタイプ
2012
平成23年度 西原地区2号橋上部工(下り)工事
2012年12月
~2013年2月
沖縄総合事務局 開発建設部
PC3径間連続箱桁橋
2013
東九州道(鹿屋~曽於) 月野川第二橋上部工工事
2013年7月
~2014年2月
国土交通省 九州地方整備局
PC2径間連続ラーメン箱桁橋
2014
一般国道432号 八道橋(仮称)橋りょう整備工事(上部工)
2014年8月
~2014年12月
山口県 下関土木建築事務所
PC5径間連結ポストレンションT桁橋
12S12.7内ケーブル
2015
平成26年度 糸満高架橋上部工(上りP5~P8)工事
2015年3月~
(施工中)
沖縄総合事務局 南部国道事務所
5径間連続PC箱桁橋
12S15.2内ケーブル
12S15.2内ケーブル
12S12.7内ケーブル
1S28.6横締めケーブル
■ 緊張管理支援システム■
PC構造物におけるケーブル緊張では、通常、緊張ポンプ圧力とケーブル伸び量を緊張端で測定し
管理を行っていますが、緊張管理の品質を向上させる手段のひとつとして、ケーブルの導入張力を
より正確に把握することが挙げられます。
ここでは、緊張時の緊張ポンプ圧力の測定に替わり、緊張端や設計断面での導入張力をより精度
よく計測できるシステムについてご紹介します。
● ロードセル内蔵ジャッキノーズ
くさび定着式のSEEE/FUTシステムにおいて、緊張ジャッキのノーズ部にロードセルを内蔵させる
ことにより、ケーブルの導入張力をダイレクトに測定することを可能としました。これを使用する
ことで、緊張ジャッキ内部の摩擦力の影響を受けず、かつ
緊張端での導入張力を直接的にデジタル計測することがで
きるため、管理精度を向上させることができます。
定
着
具
ロードセル
緊張ジャッキ設置概要図
システム部材構成
Page 3
◆ 特
長
① ロードセルと表示計は専用のケーブルで容易に接続でき、
システムが非常にコンパクト
② ロードセル側のコネクタは防滴型で、雨天でも使用可能
③ 出荷時にロードセルが組み込まれ、標準の緊張ジャッキと
同じ取り扱いとなるため、現場での特別な操作が不要
④ 現場で計測器の準備や機器の設定作業が不要
⑤ 荷重値がデジタル表示されるため読み取り誤差が生じない
⑥ 緊張ジャッキの内部摩擦損失を排除可能
⑦「緊張管理システム」との組み合わせが可能
荷重値デジタル表示
◆ シリーズ
荷 重
適用ジャッキ
適応ケーブル
1900kN
JM1900 シリーズ
FUT12T13
2600kN
JM2600 シリーズ
FUT12T13、FUT12T15
4500kN ※開発中
JM4500 シリーズ
FUT19T15
◆ 社内実験
引張試験機にケーブルおよび定着具をセットし、緊張ポンプ
を操作して引張試験を行い、緊張ジャッキに内蔵されたロード
セルが正常に機能することを確認しました。
社内実験状況
● 磁歪センサーの適用
磁歪センサー(以下、EMセンサー)は、PC橋の設計断面位
置など、任意の位置にセンサーを取り付けることで、ケーブ
ルの導入張力を計測することができるため、新設時の緊張管
理にも適用されています。
実際の現場でケーブル張力を計測するためには、同じ仕様
のケーブルとセンサーを使用して引張試験を行い、ケーブル
応力算出式の校正値などを事前に求めておくためのキャリブ
レーション試験が必要となります。
試験で求められる校正値などについては、同種ケーブルの
過去のデータを使用する場合もありますが、弊社では、山口
工場に設置された5000kN引張試験機を使用し、当該ケーブル
と同じ製造ロットのPC鋼材を使用した同種ケーブル材でキャ
リブレーション試験を行うことができます。
これにより、過去のデータを使用する場合に比べて、より
精度の高い導入張力の計測が可能となり、緊張管理の品質を
向上させることができます。
なお、現状では、「緊張管理システム」と組み合わせて使
用することはできませんが、将来的に実現できればと考えて
います。
EMセンサーキャリブレーション状況
EMセンサー設置状況
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