霞が関は原子力に対して強気な一方、ガスと太陽光発電に対しては弱気

坂口 峻祐
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス
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霞が関は原子力に対して強気な一方、ガスと太陽光発電に対しては弱気
日本政府による 26%の温室効果ガス削減目標は現実的だが、達成への道筋は「希望的観測に基づく政治」である
東京、2015 年 6 月 2 日 – ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)のアナ
リストは、日本政府が公表した長期エネルギー需給見通し(案)に対する見解を発表し、政府
の数値は市場動向にも現在の政策にも沿っていないと結論づけた。同案では、2013 年を基準と
した 2030 年時点の二酸化炭素排出削減量を 26%としている。しかし、アナリストの分析によ
れば、そこに至るまでのアプローチと結果については、大きな矛盾があると述べている。特に
重要な点は以下の通り:
• 原子力:
日本政府は、2030 年の電力供給量のうち、原子力発電の占める割合を 20%から 22%(213234TWh)と予測している。そのためには、少なくとも 38GW の発電容量が必要になる。
弊社の分析によれば、最も楽観的なシナリオでさえ、2030 年に運転可能な発電容量は 26GW
のみである。原子炉の運転期間制限年数 40 年を延長する場合に発生するコストや、追加的に
発生する規制の重荷を考慮すると、原子力発電の占める割合は 10%にも満たないであろう。政
府の目標を達成するためには、少なくとも 13 基の原子炉が運転期間制限年数の延長、あるい
は現在の政府の政策とは逆に、新たな原子力発電所の建設を考慮する必要があるだろう。
• 火力発電:
政府は、2030 年の電力供給量のうち、火力発電が占める割合を、2013 年時点の 87%を大幅に
下回る 56%と予測している。
弊社の分析では、電力供給量に占める火力発電の割合は 65%である。政府と弊社の予測で最も
大きな異なる点は、ガス火力発電の役割に関する見解である。
• 石炭、ガス、石油:
政府の予測では、石炭火力発電とガス火力発電の割合を、それぞれ 26%、27%とし、石油火力
発電に関しては 3%としている。
弊社の予測では、石炭火力発電が占める割合を 23%、ガス火力発電を 42%、そして石油火力
発電を 0%としている。政府の説明では、発電効率の良い石炭火力発電技術、例えば、超々臨
界圧などを採用することに言及している。一方、弊社の予測では、現存する電力会社の発電資
産と計画中のプロジェクト、特に太陽光発電など出力不安定な再生可能エネルギーの増加に対
し、ガスタービンが必要となることから、今後ガス火力発電がより大きな役割を担う、と考え
ている。
• 再生可能エネルギー:
政府の再生可能エネルギーの導入量予測は、今後新規の設備認定が行われる可能性があるにも
かかわらず、主に固定価格買取制度におけるこれまでの設備認定量(風力の場合は、環境影響
評価中のプロジェクトの容量)に基づいている。結果として、2030 年に太陽光発電が電力供給
量に占める割合を 7%と予測している。
弊社は、太陽光発電の占める割合は 12%に達すると予測している。政府の予測では、固定買取
価格制度がなければ太陽光発電は導入されないという暗黙の仮定が置かれている。現在、日本
の平均的な屋根上住宅用太陽光発電システムの価格は、ドイツやオーストラリアのそれを 50%
以上上回っている。両国の市場では、固定価格買取制度のような支援が減らされたことに伴い、
すぐに太陽光発電システム価格が低下した。今では、ドイツとオーストラリアの屋根上太陽光
発電の発電コストは、電気料金に対して十分な競争力がある。日本でも、新たに屋根上太陽光
発電の増加を抑えるような規制が課せられない限り、両国が経験した道を歩むことを否定する
理由はないと考える。
全体として、政府による長期エネルギー需給見通し骨子(案)は、矛盾する政治的目標 – 政治
的に優遇されている石炭火力発電・原子力発電を守ることと同時に、より少ない二酸化炭素排
出削減量を達成すること – を調整する試みのように思われる。
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス駐日代表のアリ・イザディは、「市場動向
と現在の政府の政策を分析すると、将来の日本の電源構成は、政府の案とは大幅に違ったもの
になるだろう」と述べている。「それでも、弊社の将来の電源構成見通しに沿った 2030 年の
二酸化炭素排出量は、2013 年を基準として 28%削減されると予測している。もし現在の市場
動向が継続するならば、政府の排出量削減目標は現実的だろう。」
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