信用リスクに係る標準的手法の見直し

バーゼル銀行監督委員会による市中協議文書
「信用リスクに係る標準的手法の見直し」に対する意見
2015年3月27日
日本商工会議所
日本商工会議所では、今回のバーゼル委員会の「信用リスクに係る標準的手
法の見直し」の提案の内容に、強い懸念を持っている。
我々の以下のコメントがバーゼル委のルールの最終化に向けた議論の一助
となり、最終的に、より良いルールが形成されることを心から期待するもので
ある。
1.中小企業への影響
 今回の検討を進めるに当たっては、産業界、とりわけ中小企業の声を、
各国において十分に聴取すべきである。今回の標準的手法の見直しは、
金融機関の経営や行動に影響を与えるだけではなく、各国の産業(とり
わけ中小企業)に大きな影響を与えることとなるためである。我々は、
今後、世界経済が持続的かつ安定的な成長を遂げていくためには、中小
企業への円滑な資金供給の確保が極めて重要であると考えている。
2.事業法人向けエクスポジャー
 日本の中小企業は、今回の案の中の「リテール」の定義(100 万ユーロ未
満、等)に入らない企業も多い。そうした中小企業は「事業法人向けエ
クスポジャー」の対象となることから、「事業法人向けエクスポジャー」
の基準の見直しは中小企業にも影響が及ぶものと考えている。
 今回の提案では、売上規模をリスクドライバーとして採用し、売上が小
さいほど、リスクウェイトが高くなる構成となっている。しかし、売上
規模とリスクに明確な相関関係があると言えるものではなく、実際に、
日本では、従業員 20 名以下の小規模企業の倒産割合(0. 28%)と、そ
れ以上の大きめの中小企業の倒産割合を比較したところ、ほぼ同じであ
った(一般に従業員数と売上規模は比例するもの)。このため、売上規模
をリスクドライバーとして採用することは適切ではない。
 また、今後、利益をリスクドライバーとする案が議論されることも予想
されるが、短期的な利益の状況で必ずしも事業法人(特に中小企業)の
経営の健全性を判断できるものではなく、利益をリスクドライバーとし
て採用することは適切ではない。
 事業法人の評価は特定のリスクドライバーのみで機械的に評価するので
はなく、本来、多様な側面から評価することが適切である。
(そうした意
味では、一定の基準を満たした格付機関は、適切な評価に基づき一定の
信頼性を有する格付を行っていると考えられる)
 日本には、中小企業に関する、適切かつ簡便な評価・格付の手法があり、
多くの金融機関で活用されている。今回の見直しにおいては、このよう
な洗練された手法を採用することが出来るようにすべきである。少なく
とも、各国の実情に応じた手法を柔軟に活用できるルールとすべきであ
る。
3.各国の実情に応じた対応
 事業法人のリスクの水準は、各国の経済状況等により大きく異なってお
り、この差は今回の案に反映されるべきである。日本の中小企業のデフ
ォルトリスクは非常に低い 0. 28%である。中小企業は主として国内で活
動するものであるため、各国内の経済状況や慣習等の影響を大きく受け
るため、各国が独自に基準を定めることも可能とする制度とすることが
合理的である。
 このため、例えば、リテールの定義(100 万ユーロ、等)は、各国の実情
に応じて定めることが合理的である。
以上