卒表論文 歯科材料における金属・陶材接合の 電子顕微鏡観察 高知工科大学 物質・環境システム工学科 物質工学講座 山中 由紀 2001 年 3 月 ∼第一章∼ 序論 近年歯科材料における金属焼付陶材の普及は目覚しく、金属と陶材の溶着機 構や焼付強さについての数多くの研究が行われていている。歯科材料として最 初 に 注 目 さ れ た の は 、 1887 年 の こ と で 、 Land が ポ ー セ レ ン ト ジ ャ ケ ッ ト ク ラ ウンの試作中、白金に陶材が焼付いてしまい、金属と陶材の間に親和性の結合 が 出 来 て い る 事 を 見 つ け た と 言 わ れ てい る 。 当 時 は 結 合 に 関 し て の 理 論 も 確 立 さ れ て い な か っ た が 、1950 年 以 降 に こ の 技 術 の 長 所 が 認 識 さ れ 、 以 後 急 速 に 研 究 が 進 展 し 、 現 在 で は 技 術 的 な 面 で は ほ ぼ 完 成 さ れ て い る 。 1,2,3) また一般工業界においても、金属と陶材の結合あるいは接着に関しての技術 は様々なものがあり、セラミックスとメタルの複合合金サーメットや耐熱材料 としてロケットエンジン等のノルズ、その他美術工芸品等に応用されているこ と か ら 、 そ の 結 合 の 理 論 は か な り 明 解 な も の に な っ て い る 。 1) 一般的に市販されている焼付用金属は金合金が主で、パラジウム基合金、ニ ッケル−コバルト−クロム合金などがある。この合金に微量に含まれる鉄、イ ン ジ ウ ム 、ス ズ 、銀 な ど の 元 素 が 陶 材 と の 結 合 の 因 子 の 一 つ と 考 え ら れ て い る 。 陶 材 の 主 成 分 は 、SiO 2 、A l 2 O 3 な ど の 金 属 酸 化 物 で あ る 。 陶 材 に 含 ま れ る 微 量 の ZrO 2 、 TiO 2 、 SnO 2 な ど の 添 加 は 金 属 と の 結 合 強 度 を 高 く す る と 考 え ら れ て い る 。2,3)こ の よ う な 金 属 ・ 陶 材 の 界 面 の 結 合 機 構 と し て 、 金 属 と 陶 材 の 結 合 機構は機械的な絡み合い、分子間力による二次結合、イオン結合、共有結合、 溶解拡散、金属結合、酸化還元反応による結合などが考えられており、これら -1- の 組 み 合 わ せ に よ る も の だ と さ れ て い る 。 2 )し か し 、 材 料 の 改 良 に も っ と も つ ながる結合機構のメカニズムについてはまだ明らかにされていないのが実状で ある。 本 研 究 は 、 山 本 貴 金 属 地 金 (株 )社 製 と 、 松 風 社 製 の 2 種 類 の 陶 材 と 金 属 の 接 合 部 を 比 較 す る 。一 般 的 な 歯 科 材 料 と し て 知 ら れ て い る 松 風 社 製 の 陶 材 に は Sn が 含 ま れ て お り 、 山 本 貴 金 社 で 新 し く 開 発 さ れ た 陶 材 に は Sn が 全 く 含 ま れ て い な い 。 ま た 、Z r、Z n 、Ti に 関 し て は 、 山 本 貴 金 属 社 製 の 陶 材 に 比 べ て 松 風 社 製の陶材にはほとんど含まれていない。上でも述べたように、金属や陶材に含 ま れ る Sn は 両 者 の 結 合 強 度 を 高 め る 働 き が あ る と さ れ て い る 。 し か し 、 山 本 貴 金 属 社 製 の 陶 材 に は Sn が 含 ま れ て い な い の に も 関 わ ら ず 、 強 い 接 着 強 度 が 得 ら れ て い る 。 こ の 点 に 着 目 し 、 SEM 観 察 し 評 価 す る 。 -2- ∼第二章∼ 歯科材料(試料)の説明 2− 1 試料 試料は金属 2 種類、陶材 2 種類の計 4 検体である。この A から D の試料の 標記を表 1 に示し、それぞれの試料内容を図 1 に示す。 表 1 試料標記 セラミックス 金属 ゼオセライト 他社品 スーパーエクセレント A B ステイタス C D セルフグレーズ セルフグレーズ デンチン デンチン オペーク オペーク スーパーオペーク 金 属 (Au ・ Pt) 金 属 (Au ・ Pt) A の試料 B の試料 セルフグレーズ セルフグレーズ デンチン デンチン オペーク オペーク スーパーオペーク 金 属 (Pd・ Ag) 金 属 (Pd・ Ag) C の試料 D の試料 図 1 サンプルの模式図 -3- 2− 2 試料の組成と溶着強度 <使用材料> 使 用 さ れ て い る 組 成 を 、 金 属 は 表 2、 陶 材 は 表 3 に 示 す 。 表 2 金 属 の 組 成 と 熱 膨 張 率 係 数 (×10 - 6 ℃ -1 : 50∼ 500℃ ) 金属材料名 成分(%) 熱膨張係数 Au Pt Pd Ag その他 スーパーエクセレント 86.0 11.2 − − 2.8(Ir,In,Zn,Fe) 14.6 ステイタス − − 60.5 27.0 12.5(In,Zn,Sn,Ru,Ga) 14.5 表 3 陶材の組成 ゼ オ セ ラ イ ト (山 本 貴 金 属 ) 他 社 品 (日 本 製 ) スーパーオペーク オペーク デンチン オペーク デンチン SiO 2 42.7 43.4 62.5 41.5 63.1 Al 2 O 3 11.2 8.78 16.0 14.9 15.6 K2 O 9.68 13.0 11.0 7.87 11.1 Na 2 O 2.18 1.69 7.72 5.21 8.13 SnO ― ― ― 22.3 ― ZrO 2 0.01 24.8 ― 0.66 ― ZnO 10.1 ― ― 0.03 ― TiO 2 19.9 ― ― 2.13 ― C.T.E 14.2 13.8 2.13 1.32 表 4 溶着の強度 A 46.2 B 41.4 C 19.7 D 27.2 -4- 2− 3 作製方法 <金属試料の作製と調整> ① ロストワックス法にて金属試料を作製 ② アナミナ系切削ポイントで陶材焼付面を一層研削 ③ 金 属 表 面 に つ い て 、 約 50μ の ア ル ミ ナ 粒 子 を 使 用 し て 0 . 3 気 圧 で ブ ラ ス テ ィング後アルコールで超音波洗浄 ④ 金 属 酸 化 膜 の 生 成 :1000℃ ( 大 気 ) で 5 分 間 行 っ て い る 。( ス ー パ ー エ ク セ レントは酸化膜生成後、希硫酸処理) <陶材の焼成> ① オペーク陶材を一層塗布し乾燥・焼成 ② ①の上に、オペーク陶材でメタル色を遮断できるように塗布し乾燥・焼成 ③ ②の上に、デンチン陶材を築盛し乾燥・焼成 ④ ③を艶だし焼成 <陶材の種類> ス ー パ ー オ ペ ー ク ・ ・ ・ 山 本 貴 金 属 地 金(株 )の オ リ ジ ナ ル ; 金 属 と の 溶 着 強 さ を 向 上させる陶材 オ ペ ー ク ・ ・ ・ フ レ ー ム 材 と し て 金 属 を 使 用 す る た め 、そ の 金 属 色 を 遮 断 す る デ ン チン陶材と同系色の陶材 デンチン・・・歯における象牙質の色調を表現する陶材 -5- <焼成時間> 表 5 山本貴金属の陶材の焼成条件 ゼオセライト 乾燥時間 焼成開始 昇温速度 焼成温度 係留時間 減 (分 ) 温度 (℃ /分 ) (℃ ) (分 ) (cmHg) スーパーオペーク 5 500 60 920 1 73 オペーク 8 500 60 920 1 73 デンチン 6~9 600 60 900 1 73 セルフグレース 4 600 60 880 1 大気 乾燥時間 焼成開始 昇温速度 焼成温度 係留時間 減 (分 ) 温度 (℃ /分 ) (℃ ) (分 ) (cmHg) オペーク 3 600 50 940 1 73 デンチン 5~7 600 50 920 1 73 セルフグレーズ 5~7 600 50 920 1 大気 表 6 圧 松風の焼成条件 他社品 -6- 圧 ∼第三章∼ SEM 観 察 3− 1 SEM 観 察 お よ び 点 分 析 SEM 写 真 か ら 分 か る よ う に 、金 属 と 陶 材 と の 界 面 に 黒 く 見 え る 部 分 が あ る 。 このことから、金属部分、黒く見える界面部分、陶材部分の3つの点分析を行 った。 サ ン プ ル A の 金 属 部 分 に は 、 表 2 の 試 料 の 組 成 に あ る よ う に 、Au と P t の ピ ー ク が あ る 。表 7 に 示 す 質 量 分 析 の 結 果 か ら も Au と Pt が 金 属 部 分 の ほ と ん ど を 占 め て い る こ と が 分 か る 。 黒 く 見 え る 界 面 部 分 は 、 C 、 O、 Na 、 K、 T i、 Al の ピ ー ク が 見 ら れ る 。 質 量 分 析 結 果 を み る と O が 68% と 一 番 多 く 、 つ づ い て Si、が 11% で 、 そ の 他 の 値 は 小 さ く 、 ほ ぼ 同 じ で あ る 。 金 属 の 成 分 は 全 く 含 ま れ て お ら ず 、 陶 材 の 成 分 の O や S i が 見 ら れ る 。 陶 材 部 分 に は C、O、Na 、Al、 Si、 K、 Z r の ピ ー ク が 見 ら れ る 。 黒 く 見 え る 部 分 の 質 量 分 析 結 果 と 同 じ よ う に O が 51% 、 Si が 25% と ほ と ん ど を 占 め て お り 、 そ の 他 の 値 は ほ ぼ 同 じ で あ る が 、 Ti、 Z r が ご く 少 量 に 見 ら れ る 。 サ ン プ ル B も 金 属 部 分 は サ ン プ ル A と 同 じ も の な の で 、 Au 、 P t の ピ ー ク が 見 ら れ 、 質 量 分 析 結 果 も Au は 82% 、 P t は 17% と 試 料 成 分 と ほ ぼ 同 じ 結 果 で あ る 。黒 く 見 え る 界 面 部 分 は C、O、Na 、A l、Si、Sn の ピ ー ク が 見 え る 。Atomic% か ら O が 52% と も っ と も 多 く 、 C が 33% で あ る 。 T i、 Z n 、 Z r、 Sn の 値 は ほ と ん ど ゼ ロ に 近 い 。 陶 材 部 分 に は C、O 、Na 、A l、S i の ピ ー ク が 見 ら れ 、O が 49% 、 C が 37% と ほ と ん ど を 占 め て い る 。 サ ン プ ル C は 、 金 属 部 分 に は Pd、 Ag の ピ ー ク が あ り 、 質 量 分 析 結 果 か ら Pt は 58% 、Ag は 23% と ほ と ん ど を 占 め て い る 。黒 く 見 え る 界 面 部 分 は C、O、 -7- Na 、 Al、 S i、 Z r、 Kno ピ ー ク が 見 ら れ る 。 質 量 分 析 結 果 を 見 る と O が 77% と も っ と も 多 く 、 S i が 8% と つ づ い て い る 。 そ の 他 は ほ ぼ 同 じ 値 で あ る 。 陶 材 部 分 は C、 O、 Na 、 A l、 Si、 K の ピ ー ク が 見 ら れ 、 質 量 分 析 結 果 で は 界 面 部 分 と 同じ値である。 サ ン プ ル C と 同 じ 金 属 の サ ン プ ル D は 、 Pt 、 Ag の ピ ー ク が 見 ら れ る 。 質 量 分 析 結 果 で も Pt は 52% 、Ag は 24% と サ ン プ ル C と ほ ぼ 同 じ 結 果 が 得 ら れ た 。 黒 く 見 え る 界 面 部 分 は C 、O、 Na 、 Al 、K、Sn の ピ ー ク が 見 ら れ る 。 質 量 分 析 結 果 は O が 51% と も っ と も 多 く 、C が 33% 含 ま れ て い る 。B と 同 じ く Ti 、Z n 、 Z r、 Sn の 値 は ほ と ん ど ゼ ロ で あ る 。 陶 材 部 分 は C、 O、 Na 、 Al 、 Si の ピ ー ク が 見 ら れ 、 質 量 分 析 結 果 は O が 55% 、C が 35% で あ る 。ここでの T i、Z n 、Z r、 Sn の 値 は ゼ ロ で あ る 。 -8- 100μm 25μm 図 2 サ ン プ ル A の SEM 写 真 -9- Aubiyary Unit Au Pt 0 5 10 15 20 15 20 15 20 金属部分 Si Aubitary Unit Al O Na K 0 5 10 黒く見える部分 Aubitary Unit Si Al O Na 0 Zr K 5 10 陶材部分 図 3 サンプル A の点分析結果 - 10 - 成分 Au Pt Zn Atomic% 87.14 12.58 2.59 In Fe 0.25 0.15 金属部分 成分 O Si Ti Atomic% 68.64 11.23 8.85 Al 4.06 K 3.03 Na 2・81 Zn 0.95 黒く見える部分 成分 O Si Al K Na Ti 表7 Atomic% 51.49 25.33 7.43 6.85 3.98 0.11 陶材部分 サ ン プ ル A の 質 量 分 析 結 果 ( Atomic% ) - 11 - 100μm 25μm 図 4 サ ン プ ル B の SEM 写 真 - 12 - Aubitary Unit Au Pt 0 5 10 15 20 15 20 15 20 金属部分 Aubitary Unit Si O Al Na Sn 0 5 10 黒く見える部分 Aubitary Unit Si O Al Na K 0 5 10 陶材部分 図 5 サンプル B の点分析結果 - 13 - 成分 Au Pt Zn Atomic% 82.97 17.33 2.39 Fe 0.66 金属部分 成分 O C Si Al Atomic% 52.27 33.53 6.79 2.59 Na 2.18 K 1.53 Sn Ti Zn Zr 0.89 0.04 0.03 0.03 黒く見える部分 成分 O C Si Na Al Atomic% 49.85 37.48 6.79 2.71 1.19 K 0.86 Ti 0.00 Zn Zr 0.00 0.09 陶材部分 表 8 サ ン プ ル B の 質 量 分 析 結 果 ( Atomic% ) - 14 - 100μm 25μm 図 5 サ ン プ ル C の SEM 写 真 - 15 - Aubitary Unit Pd Ag 0 5 10 15 20 15 20 15 20 Aubitary Unit 金属部分 Si Zr O Al Na K 0 5 10 Aubitary Unit 黒く見える部分 Si O Al Na 0 K 5 10 陶材部分 図 6 サンプル C の点分析結果 - 16 - 成分 Pd Ag Ga Atomic% 58.75 23.97 5.82 In 4.21 Sn Zn Ru 4.16 2.62 1.02 金属部分 成分 O Si Zr Na Atomic% 77.13 8.78 5.65 3.79 Al 2.42 Zn 0.52 Ti 0.03 黒く見える部分 Atomic% 80.76 10.00 4.66 3.70 0.94 0.01 0.00 0.00 成分 O Si Na Al K Ti Zn Zr 陶材部分 表 9 サ ン プ ル C の 質 量 分 析 結 果 ( Atomic% ) - 17 - 100μm 25μm 図 7 サ ン プ ル D の SEM 写 真 - 18 - Aubitary Unit Pd Ag 0 5 10 15 20 Aubitary Unit 金属部分 Si O Al K Na Sn 0 5 10 15 20 黒く見える部分 Aubitary Unit O Si Al C Na K 0 Sn 5 10 陶材部分 図 8 サンプル D の点分析結果 - 19 - 15 20 Atomic% 52.35 24.46 19.46 2.69 0.89 0.11 成分 Pd Ag C Sn Zn Ga 金属部分 成分 O C Si Al K Na Sn Zn Zr Ti Atomic% 51.87 33.51 7.56 3.18 2.38 1.06 0.24 0.10 0.07 0.05 黒く見える部分 成分 O C Si Na Al K Ti Zn Zr Sn Atomic% 55.29 35.77 5.14 1.99 1.35 0.55 0.00 0.00 0.00 0.00 陶材部分 表 10 サ ン プ ル D の 質 量 分 析 結 果 ( Atomic% ) - 20 - 3−2 線分析 サンプル A は金属側から陶材側に向けて線分析を行った。 ( 図 9) 金 属 の 成 分 の Au と Pt は 金 属 側 に 見 ら れ る 。 ま た 、O、 Na 、A l、Si、K は 陶 材 側 に 見 ら れ る 。し か し 、Z r 、Z n 、Ti は 陶 材 に 含 ま れ て い る 成 分 だ が 金 属 側 に 拡 散 し て い る 。 サ ン プ ル B は 陶 材 側 か ら 金 属 側 に 向 け て 線 分 析 を 行 っ た 。( 図 10) サ ン プ ル A と 同 じ く Au と Pt は 金 属 側 に 見 ら れ 、O、 Na 、A l、Si、K は 陶 材 側 に多 く 見 ら れ る 。 Z r、 Z n 、 Ti は 陶 材 側 か ら 金 属 側 に 拡 散 し て い る が 、Sn は 金 属 と 陶 材 の界面付近に存在している。 サ ン プ ル C は 金 属 側 か ら 陶 材 側 に 向 け て 線 分 析 を 行 っ た 。( 図 11) 金 属 の 成 分 は Pd と Ag で 、 金 属 側 に 存 在 し て い る 。 サ ン プ ル A ・ B と 同 じ く O 、 Na 、 Al、 Si、 K は 陶 材 側 に 見 ら れ る 。 ま た Z r、 Z n も 同 じ く 陶 材 側 か ら 金 属 側 に 拡 散 し て い る 。 し か し 、T i は サ ン プ ル A ・B と は 異 な り 金 属 と 陶 材 の 界 面 に 多 く 存在している。 サンプル D も金属から陶材に向けて線分析を行った。 ( 図 12) サ ン プ ル C と 同 じ 金 属 の Pt と Ag は 金 属 側 で 見 ら れ る 。 O 、 Na 、 A l、 S i、 K も サ ン プ ル A・ B・ C と 同 じ よ う に 陶 材 側 に 見 ら れ る 。 Z r、 Z n 、 Ti は 陶 材 側 か ら 金 属 側 に 拡 散 し て い る が 、Sn は 金 属 と 陶 材 の 界 面 に 多 く 存 在 し て い る こ と が 分 か る 。この結 果はサンプル B とほぼ同じ結果である。 - 21 - 25μm 金属 セラミックス 図 9 サンプル A の線分析部分の写真と線分析結果 - 22 - 25μm セラミックス 図 10 金属 サンプル B の線分析の場所と線分析結果 - 23 - 25μm 金属 図 11 セラミックス サンプル C の線分析の場所と線分析結果 - 24 - 25μm 金属 図 12 セラミックス サンプル D の線分析の場所と線分析結果 - 25 - ∼第四章∼ 考察 サ ン プ ル A・ B・ C・ D の 拡 大 し た S E M の 写 真 か ら 断 面 構 造 を 観 察 す る と 、 4 つの試料の金属と陶材の界面には黒く見える部分がある。サンプル A と C は 黒く見える部分が薄く、サンプル B と D は黒く見える部分が厚くなっている。 つ ま り 金 属 の 種 類 に 関 係 な く 、 山 本 貴 金 属 社 製 の 陶 材 ( ゼ オ セ ラ イ ト )と 金 属 の界面は黒く見える部分が薄く、松風社製の陶材(ヴィンテージハロー)と金 属の界面は黒く見える部分が厚くなっている。また、サンプル A と C の黒く見 え る 部 分 の 幅 は 約 20nm と 薄 い が 、 サ ン プ ル B の 幅 は 約 75nm と 点 分 析 結 果 を 見ると黒い部分の成分組成は、もとの陶材の組成とほぼ同じなので、金属との 接合により陶材が変質したのではないかと考えられる。あるいは界面にすき間 が で き て 、 SEM 写 真 で み る と 黒 く 見 え て い る 可 能 性 も 考 え ら れ る 。 線 分 析 結 果 か ら 、 す べ て の サ ン プ ル の Z r、 Z n は 陶 材 側 か ら 金 属 側 に 拡 散 し て い る こ と が わ か る。 Au 主 成 分 の 金 属 と 山 本 貴 金 属 社 製 の 陶 材 ( ゼ オ セ ラ イ ト ) を 接 合 し た サ ン プ ル A で は 、 Z r、 Z n 、 Ti が 陶 材 側 か ら 金 属 側 に 拡 散 し て い る 。同 じ く 陶 材 は ゼ オ セ ラ イ ト で 、金 属 は P d 主 成 分 の サ ン プ ル C で は 、Z r、 Z n は 金 属 側 に 拡 散 し て い た が 、 Ti は 界 面 に 存 在 し て い る 。 こ の よ う に 、 サ ン プ ル A と サ ン プ ル C は 2 つ と も 陶 材 は ゼ オ セ ラ イ ト だ が Z r 、Z n は 金 属 側 に 拡 散 し 、Ti は 相 手 の 金 属 の 種 類 に よ っ て 拡 散 す る 場 合 と 界 面 付 近 に 集 ま る 場 合 が ある。図 13 の 金 属 お よ び 合 金 の 状 態 図 か ら 500℃ の 場 合 、T i は Au 合 金 に 固 溶 す る が 、 Pd 合 金 は T iPd 3 の 金 属 間 化 合 物 が 存 在 す る た め T i は 固 溶 し な い 。 こ の こ と か ら 、Au 主 成 分 の サ ン プ ル A は T i が 金 属 側 か ら 陶 材 側 に 拡 散 し て い る が 、 Pd 主 成 分 の サ ン プ ル C の Ti は 界 面 に 存 在 し て い る と 考 え ら れ る 。 松 風 社 製 の 陶 材 ( ヴ ィ ン テ ー ジ ハ ロ ー ) に 含 ま れ て い る Sn は 、 金 属 の 種 類 に 関 係 な く サ ン プ ル B、 D と も に 界 面 で 高 濃 度 で あ る 。 ま た Z r、 Z n 、 Ti は 陶 - 26 - 材側から金属側に拡散しているが、濃度の絶対値は小さい。 こ れ ら の 結 果 を 図 14 に ま と め た 。 松 風 社 製 の 陶 材 の サ ン プ ル B、 C は 、 Sn が 金 属 側 に 拡 散 し て い る 。 ま た 山 本 貴 金 属 社 製 の陶 材 の サ ン プ ル A、 C は Z n 、 Z r が 金 属 側 に 拡 散 し 、T i は P d 主 成 分 の 金 属 で は 界 面 に 存 在 て い た 。 こ の こ と か ら 、Z r 、Z n 、Ti が 一 般 的 な 歯 科 材 料 に 含 ま れ る Sn の 役 割 を 果 た し 、 金 属 と 陶材の接合に深く関与していると考えられる。 ゼオセライト ビンテージハロー Zn Zr Sn Au Ti Au A B Zn Zr Sn Pd Ti Pd C 図 14 D SEM 観 察 結 果 の 模 式 図 - 27 - ∼第五章∼ 結論 本研究では、 2 種 類 の 歯 科 用 陶 材 と 金 属 と の 接 合 を SEM 観 察 に よ っ て 評 価 し た 。Sn は 一 般 的 な 歯 科 用 陶 材 に 含 ま れ て お り 、 金 属 と 陶 材に 接 合 強 度 を 高 め る 働 き を し て い る の で は な い か と い わ れ て お り 、 今 ま で に も Sn に 関 す る 研 究 が 多 く 進 め ら れ て い る 。 し か し 、 今 回 比 較 す る ゼ オ セ ラ イ ト に は Sn は 含 ま れ ておらず、特にこのことにポイントをあて実験を行った。 Sn を 含 む 金 属 と 陶 材 接 合 ( サ ン プ ル B ・ D) は 、 界 面 で Sn の 濃 度 が 高 い こ と が わ か っ た 。 Sn を 含 ま な い 金 属 と 陶 材 接 合 は 、 サ ン プ ル A で は Z r、 Z n 、 Ti は 金 属 側 か ら 陶 材 側 に 拡 散 し て い た 。 サ ン プ ル C は Z r、Z n は A と 同 じ よ う に 金 属 側 か ら 陶 材 側 に 拡 散 し て い た が 、 T i は Sn と 同 じ よ う に 界 面 付 近 で 存 在 し ていることがわかった。序論で述べたように、ゼオセライトは今までの研究と は 異 な り 、Sn が 含 ま れ て い な い の に も 関 わ ら ず 、高 い 接 合 強 度 が 得 ら れ て い る 。 こ の こ と か ら 、Sn に か わ っ て ゼ オ セ ラ イ ト の Z r、Z n 、T i が 接 合 強 度 に 寄 与 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。SEM 写 真 か ら わ か る 界 面 の 黒 く 見 え る 部 分 の 物 質 の 解明、金属と陶材の強化機構の解明については今後の課題である。 - 28 - ∼参考文献∼ 1) 筒 井 英 明 : 金 属 焼 付 陶 材 の 結 合 に 関 す る 基 礎 的 研 究 , 口 病 誌 : 452− 466, 1971 2) 三 浦 維 四 , 吉 田 惇 三 , 筒 井 英 明 : 陶 材 と 金 属 の 結 合 理 論 、DE,30:36− 40, 1974 3) 宮 川 行 男 : 金 属 ・ 陶 材 焼 付 界 面 に お け る X 線 回 折 、 歯 科 理 工 学 雑 誌 , 44: 296− 306, 1977 4) 塩 沢 育 己 , 佐 藤 尚 弘 , 栗 山 実 , 大 竹 貫 洋 , 浜 野 英 也 , 小 椋 直 樹 , 長 谷 川 成 男,高橋英和,西村文夫:各種歯科用合金と新低溶陶材の焼付に関する研究, 補 綴 誌 , 42: 867− 874, 1998 5) 井 上 邦 子 , 寺 田 善 博 : 陶 材 焼 付 用 合 金 と 陶 材 と の 接 合 に 関 す る 研 究 , 補 綴 誌 , 35: 457− 468, 1991 6) 渡 辺 嘉 一 : 貴 金 属 焼 付 け 陶 材 の 溶 着 に 関 す る 研 究 , 歯 学 ,58: 1− 32,1970 7) 野 口 正 興 : 陶 材 焼 付 用 金 属 合 金 と 陶 材 の 溶 着 に 関 す る 研 究 , 歯 学 ,63 :590 − 612, 1975− 32, 1970 - 29 - ∼謝辞∼ 本研究を行うにあたり、試料を提供してくださった山本貴金属地金(株)様 に、心より御礼申し上げます。また谷脇教授をはじめ、新田さんには実験方法 や TEM お よ び SEM の 扱 い 方 な ど い ろ い ろ と ご 指 導 し て い た だ き 、厚 く 御 礼 申 し上げます。 特に新田さんは、何の知識もない私にわかりやすく丁寧に教えてくださいま した。実験や分析方法などでわからないことがあり相談した時も、自分の事の ように夜遅くまで一緒に考えてくださいました。自分の実験は後回しで私の研 究につきっきりでご指導していただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。 本研究をつうじて、尊敬できる方にめぐり会うことができ、また私自身も少 し成長できたように思います。 最後に、温かく見守っていてくださった研究室の皆さんに心より感謝申し上 げます。 - 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