【通貨ニュース】 ブラジルレアルを取り巻く状況について ー 為替相場の動向と注目材料 ー 2011年12月16日 みずほコーポレート銀行 国際為替部 ブラジル経済は減速が鮮明・・・でも後退はしない y y y y ブラジル政府は、あらゆる手段を用いて、強い経済への下押し圧力に抗戦する姿勢を示している。 積極的な金融緩和、財政刺激策の導入及び資本規制の緩和によって景気を支援するだろう。 それゆえ、世界経済の減速や欧州金融機関を中心とした信用収縮により、ブラジル経済のダウンサイド リスクは高まっているが、3%台の成長は維持する見込み。 足許の景気減速や商品価格の安定を受けて、インフレ圧力は弱まることが予想される。だが、積極的な 金融緩和政策や拡張的財政政策等の景気刺激策を推し進める結果、2012年も5%程度のインフレが続 く可能性が高そうである。 (%) ブラジル実質GDP成長率 ブラジル消費者物価指数 (%) 7 8 7 6 6 5 5 4 4 3 3 2 1 2 0 1 -1 0 -2 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2007 2013 (資料)IMF (資料)IMF 1 2008 2009 2010 2011 2012 2013 急減速したブラジル経済 y 7∼9月期の実質GDP成長率は、前期比年率▲0.2%と4∼6月期の同2.9%増から急減速。 ‒ 個人消費が同▲0.3%と2008年10∼12月期以来のマイナスとなったほか、総固定資本形成も同 ▲0.7%と2009年1∼3月期以来のマイナス成長。 ‒ 政府消費も同▲2.6%と大きく減少する一方で、輸出は同7.4%増と鈍化したが成長が続いた。 ‒ インフレ抑制に向けた金融引締めや緊縮財政の効果が色濃く出た結果と言えよう。 (前期比年率、%) ブラジル実質GDPの推移 3.0 2.0 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 Q1 2007 Q1 2008 Q1 2009 (資料)Datastream 2 Q1 2010 Q1 2011 減速は続きそうだが、景気後退は回避する公算 y y y y 10月鉱工業生産は前月比▲0.62%と3か月連続で前月比マイナスを記録。 9月小売売上高は前年比5.3%増と6か月連続の低下となるも、プラスは維持。 8月以降の金融緩和や財政支出拡大の効果で、今後は持ち直す動きが期待される。 11月製造業PMIは48.7と景気の拡大・縮小の別れ目とされる50は下回ったものの、6か月ぶ りに上昇に転じている。 (pt) (前年比、%) (前月比、%) 製造業PMIと鉱工業生産の推移 60 4.0 55 2.0 50 0.0 45 -2.0 ブラジル小売売上高の推移 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 6.0 -4.0 40 製造業PMI 50 鉱工業生産(右軸、3か月移動平均) 35 30 07/04 8.0 4.0 -6.0 2.0 -8.0 08/04 09/04 10/04 0.0 07/01 11/04 (資料)Bloomberg 08/01 (資料)Datastream 3 09/01 10/01 11/01 金融緩和サイクル継続 y 11月30日、ブラジル中央銀行(BCB)は市場予想通り政策金利を11.50%から11.0%へ50bp引き下げるこ とを決定した。決定は全会一致で、8月、10月に続いて3回連続の50bp利下げ。 欧州債務危機の長期化・深刻化に伴い、世界の経済情勢が厳しさを増しており、ブラジルのインフレも 抑制されていくとしている。 「理事会は、より制約的な国際情勢からもたらされる影響を緩和するために政策金利を緩やかに調整す ることは、2012年にインフレ率が目標に収斂するとのというシナリオと合致すると理解している」と示して おり、今後も同様のペースで金融緩和が続けられる公算が大きい。 y y (%) 消費者物価指数と政策金利 スワップ市場が織り込む金利見通し (%) 30 11.00 Selic誘導目標 IPCA(拡大消費者物価指数) インフレターゲット(上限) インフレターゲット(下限) 25 20 10.75 10.50 15 10 10.25 5 10.00 (資料)Bloomberg 11/01 10/01 09/01 08/01 07/01 06/01 05/01 04/01 03/01 02/01 01/01 00/01 0 9.75 1M Selic金利:連邦債公開市場の翌日物平均金利 の指標として中銀が採用する政策誘導目標金利 (資料)Bloomberg 4 2M 3M 4M 6M 12M 18M ブラジルレアルは下値不安が強い y y y y 8月31日の予想外の利下げを決定すると、レアルは軟調な地合いに。 世界経済の減速、欧州債務危機の緊張の高まりから金融不安へと波及し、市場センチメントが急激に 悪化すると、レアルは9月に急落する展開となった。 その後、一旦は欧州債務問題への包括的戦略への期待感から切り返したものの、債務危機がイタリア やフランス等の中核国へ飛び火する中で軟調な値動きとなっている。 今後も欧州の混乱が警戒されるほか、利下げ期待からレアルは圧迫され易いだろう。 (USD/BRL) (BRL/JPY) ブラジルレアル相場の推移 55 1.5 1.6 50 1.7 1.8 USD/BRL 45 BRL/JPY 1.9 2 11/01 40 11/04 11/07 (資料)Bloomberg 5 11/10 拡大する経常赤字と資本収支黒字 y 2007年10∼12月期以降、経常赤字が続く。 ‒ ‒ ‒ y 内需拡大に伴い、輸入が増加傾向→貿易収支は黒字縮小へ。 レアル高を背景に旅行収支等、サービス収支赤字が拡大。 所得収支は利益送金の増加を背景に赤字が拡大。 資本収支は大幅な資金流入超。 ‒ ‒ 世界的な金融危機を受けて、2008年10∼12月期は資金が流出したが、直ぐに増加基調に。 2010年以降は直接投資が活発化。資金流入の形態としては好ましい。 (億ドル) (億ドル) ブラジル経常収支の推移 ブラジル資本収支の推移 200 500 150 400 100 300 50 200 0 100 -50 0 -100 -100 -150 -200 -200 -300 -250 Q1 2005 Q1 2006 Q1 2007 Q1 2008 Q1 2009 Q1 2010 Q1 2011 -400 Q1 2005 Q1 2006 Q1 2007 Q1 2008 Q1 2009 Q1 2010 Q1 2011 (資料)Datastream 貿易収支 所得収支 経常収支 サービス収支 経常移転収支 (資料)Datastream 6 直接投資 デリバティブ収支 その他資本収支 証券投資 その他投資 資本収支 基礎的需給バランス y y y 経常赤字が慢性化してきており、金融市場が不安定になると通貨売り圧力に。 世界経済の減速感が強まり、新興国経済も変調。欧州債務危機や米国債格下げ等、投資家のリスクセ ンチメントが悪化しており証券投資は低調に。 長期的なブラジル経済への期待から流入が続く直接投資はレアルにとってポジティブ。 (億ドル) 国際収支統計にみられる基礎的需給バランスとドル/レアル相場 (USD/BRL) 500 1.5 400 1.7 300 1.9 200 2.1 100 2.3 0 2.5 -100 -200 2.7 -300 Q1 2005 2.9 Q1 2006 (資料)Datastream Q1 2007 Q1 2008 Q1 2009 経常収支 対外証券投資 USD/BRL(右軸、逆目盛) 7 Q1 2010 Q1 2011 直接投資 対内証券投資 基礎的需給 証券投資は低迷 y y y 2009年3月から景気回復期待から株式を中心に対内証券投資が活発に。 だが、インフレ抑制に向けた利上げを受けて2010年後半から大きく減少。 高金利を背景に短期債への投資は続いていたが、夏場以降の利下げや欧州債務危機が周縁国から中 核国へと拡がりを見せる中で、投資家のリスク許容度低下により証券投資は縮小。 (億ドル) 200 150 ブラジル対内証券投資 (USD/BRL) 1 短期債 長期債 株式 ネット(6か月平均) USD/BRL(右軸、逆目盛) 1.2 1.4 100 1.6 50 1.8 2 0 2.2 -50 -100 07/01 2.4 2.6 08/01 09/01 10/01 (資料)Datastream 8 11/01 停滞する外国人投資家による対内株式投資 y y y y y 2009年2月に買い越しに転じて、株価の上昇と共に外国人投資家による買いが膨らんだ。 だが、その後は利上げや欧州ソブリン問題に圧迫された。 2011年に入っても中東・北アフリカ情勢の緊迫化や、欧州ソブリン問題、米国債格下げ等相次ぐ投資家 心理を冷え込ませるイベントに、積極的な投資は控えられた。 10、11月と買い越す動きが見られたものの、その規模は極僅か。 当局は資本規制緩和に動いたが、欧州債務危機への懸念から資金流入が盛り上がる地合いにはない。 外国人投資家の株式投資額とレアル相場 (億ドル) (ポイント) 80 75000 60 70000 40 65000 20 60000 0 55000 -20 50000 -40 外国勢の株式買い越し額 -60 40000 -80 -100 07/01 45000 ボベスパ指数(右軸) 35000 07/07 08/01 08/07 09/01 09/07 (資料)Bloomberg 9 10/01 10/07 11/01 11/07 日本からの対内証券投資の巻き戻し y y y 日本からのブラジル向けの対外証券投資は、特に2009年半ば以降急速に盛り上がった。 通貨選択型投資信託においてレアル建てが人気を集めたことが影響。 欧州債務危機の深刻化・長期化やブラジル経済の減速を背景に、ブラジル関連の投資信託の販売は 急ブレーキ。金融庁が「通貨選択型」投資信託の販売規制を強化する模様で、ブラジル向けの投資は 低迷を続ける可能性が高まっている。 (億円) 日本の地域別対外証券投資累積額(2005年以降) 35000 30000 25000 中国 シンガポール インド 韓国 インドネシア ブラジル 20000 15000 10000 5000 0 -5000 05/01 06/01 07/01 08/01 (資料)財務省 10 09/01 10/01 11/01 外貨流動性危機は左程懸念されない y y y y 対GDP比で見た対外債務残高は2002年以降急速に低下している。 対外短期債務比率(外貨準備高/対外短期債務)は6倍程度⇒目安1倍。 輸入比率(外貨準備高/輸入額)は20か月分程度⇒目安3か月分。 これらの指標はあくまで目安であるが、急激な資本流出に伴う外貨流動性危機への耐性はある程度備 わっている模様。 (%) 対外債務残高の推移(対名目GDP比) (倍) 50.0 7.0 45.0 6.0 対外短期債務に対する外貨準備高の比率の推移 25.0 外貨準備高/短期対外債務 外貨準備高/輸入(右軸) 5.0 35.0 4.0 30.0 3.0 25.0 2.0 20.0 1.0 15.0 0.0 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 19 95 19 96 19 97 19 98 19 99 20 00 20 01 20 02 20 03 20 04 20 05 20 06 20 07 20 08 20 09 40.0 (資料)世界銀行, IMF, Datastream (資料)世界銀行, Datastream 11 (か月) 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 購買力平価で見る水準感 購買力平価で見ると、レアルは通貨安方向の圧力が強い。 世界経済の減速や欧州金融システム不安を背景に、レアルは一旦調整を迫られた。 投資家の心理が改善に向かえば成長期待、高金利を背景としてレアルは買われる公算が大きいが、景 気後退期や金融危機等の混乱を機に通貨安方向への揺り戻しが警戒される。 (USD/BRL) ブラジル購買力平価(2000年基準)の推移 1.5 2 2.5 3 3.5 (資料)Datastream 12 11 /0 1 10 /0 1 09 /0 1 08 /0 1 07 /0 1 06 /0 1 05 /0 1 04 /0 1 03 /0 1 02 /0 1 01 /0 1 4 00 /0 1 y y y USD/BRL 消費者物価 生産者物価 輸出物価 ビッグマック平価(1人当たりGDPベース)で最も割高 y y ビッグマック平価から割高/割安を見ると、レアルは26%程度割高。 また、ビッグマック平価を公表するThe Economist誌が着目するように、各国1人当たりGDP とビッグマック価格には正相関がある。それを基に割高/割安をみると、レアルは74%程度 と最も高い。 (%) 110 各国ビッグマック価格と1人当たりGDP 各国通貨(対ドル相場)のビッグマック平価からの乖離率(+は割高) 8.00 90 7.00 (ドル、ビッグマック 価格) ビッグマックベース 1人当りGDPベース 70 50 30 10 -10 -30 スイス 6.00 5.00 ブラジル 4.00 ユーロ 圏 日本 米国 3.00 2.00 中国 -50 1.00 イ ン ド 香 港 マ レ ー シ ア タ イ 中 国 メ キ シ コ 南 ア フ リ カ パ キ ス タ ン ロ シ ア エ ジ プ ト イ ン ド ネ シ ア ポ ー ラ ン ド 台 湾 サ ウ ジ ア ラ ビ ア フ ィ リ ピ ン f ハ ン ガ リ ー 韓 国 ト ル コ シ ン ガ ポ ー ル 英 国 チ ェ コ チ リ N Z ラ ン ド ペ ル ー 日 本 イ ス ラ エ ル コ ロ ン ビ ア ユ ー ロ 圏 (資料)Bloomberg、IMF オ ー ス ト ラ リ ア カ ナ ダ ア ル ゼ ン チ ン ブ ラ ジ ル デ ン マ ー ク ス イ ス ス ウ ェ ー デ ン ノ ル ウ ェ ー -70 スウェーデン 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 90,000 (ドル、1人当たりGDP) (資料)Bloomberg, IMF, The Economist ※同誌とは使用するレート等が異なり、結果も若干異なる。 またBloombergで欠損しているデータはThe economist誌の以下URLから取得。 http://www.economist.com/blogs/dailychart/2011/07/big-mac-index ユーロ圏の1人当たりGDPはIMFから筆者が試算。 13 ブラジルレアル相場の今後の見通し y 来年前半は軟調な展開となるが、年後半にかけて再びレアル買いが優勢に。 ‒ ‒ ‒ ‒ ‒ 世界経済の減速や欧州債務危機の深刻化を背景に、リスク回避ムードが強まり易い。 ブラジル経済の減速は鮮明で、これまでの「インフレ抑制」から「成長支援」にシフト。 今後も金融緩和(利下げ)を続ける公算が大きく、レアルにとって重石となる。 日本の個人投資家による投資等、これまで積み上がってきた証券投資残高の巻き戻しが警戒さ れる一方、成長期待を背景とした直接投資での安定的な資本流入はレアルを支えそう。 世界経済が踊り場を抜け出し回復が強まれば、再び新興国への資金流入が活発に。 2 011年 1 ∼11 月( 実績) 12月 201 2年 1 ∼3 月期 4∼6月期 7∼9月期 10 ∼1 2月期 US D/BRL 1.5391 ∼ 1.9055 (1.8085) 1.70 ∼ 1.90 (1.80) 1.75 ∼ 2.05 (1.95) 1.70 ∼ 2.00 (1.90) 1.65 ∼ 2.00 (1.85) 1.60 ∼ 1.95 (1.80) US D/JPY 75.32 ∼ 85.53 (76.67) 76 ∼ 80 (78) 74 ∼ 80 (79) 75 ∼ 82 (80) 76 ∼ 83 (81) 77 ∼ 84 (82) BRL/JPY 40.017 ∼ 54.018 (42.920) 40.0 ∼ 45.0 (43.3) 38.0 ∼ 45.0 (40.5) 38.0 ∼ 47.0 (42.1) 39.0 ∼ 48.0 (43.8) 40.0 ∼ 52.0 (45.6) (注) 1. 実績の欄は11月30日までで、カッコ内は11月30日のクローズ。 2. 実績値はブルームバーグの値などを参照。 3. 予想の欄のカッコ内は四半期末の予想レベル。 (国際為替部 多田出 健太) 14 当資料は信頼できると判断した情報に基づいて作成されていますが、その正確性、完全性を保証すも のではありません。ここに記載された内容は事前連絡なしに変更されることもあります。 当資料は投資判断の参考となる情報の提供を目的として作成したものであり、特定の投資戦略を勧誘 するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上 げます。また、当資料の著作権はみずほコーポレート銀行に属し、その目的を問わず無断で引用または 複製することを禁じます。 15
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