1月号(第314号)2003.1 ISSN 0914-0735 第314号(平成15年1月号)平成15年1月31日発行 (財)東京都医学研究機構 東京都臨床医学総 合研究所 〒113-8613 東京都文京区本駒込3-18-22 Tel 03-3823-2105 内線 5133 FAX 03-3823-2965 バックナンバーは第257号(平成10年4月号)から臨床研ホームページ(http://www.rinshoken.or.jp/)でご覧いただけます. 目 次 年頭所感 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1 2003年新年挨拶 ポスター発表会 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9 ゲノム医療とBT,IT,NT,ETの融合による新産業の創生 都医学研究機構・臨床研・病院と産業界の 連携による都民のための先端医療の推進 びゅうぽいんと ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥10 臨床研セミナー ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11 お知らせ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11 図書館ニュース 新年・記念写真 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12 顧問 1.医科学のフロンティアから先端医療と新産業の創造まで 2003年の新年おめでとうございます。昨年 4月に宇井先生の後任として実質的な所長の 役割を引き受けた際に、私は、医科学のパラ ダイムシフトと臨床研の戦略:挑戦と課題」 という題で、1)ゲノム医科学について、2) ゲノム創薬と細胞治療、3)ゲノム医科学プ ラットフォームと産学連携、4)ボトムアッ プとトップダウンの研究戦略、5)臨床研の 挑戦課題、について述べました。また、1. 都民参加の臨床医科学とゲノム医療の創造、 2.若手研究者に魅力ある研究システムの構 築、3.研究者スピリットと個人責任、4. 所長の裁量と個人の創造研究の展開、5.研 究支援プラットフォームの整備、6.スター 研究者の育成とチーム研究の推進、7.世界 の人材を集める研究環境の整備、8.研究資 金・知的財産の確保と産学連携、9.東京都 医学機構の研究所・病院との連携、10.東京 ゲノムベイと臨床研の役割、という10の指針 について述べました(図1)。このように、21 世紀は、人類の健康と医療の向上を目指して、 −1− 新井 賢一 「ゲノム」をキーワードに「生命科学の新たな フロンティア」を拓き、バイオテクノロジー (BT) 、情報技術(IT) 、ナノテクノロジー(NT)、 環境技術(ET)を融合して新たな産業を創造 する世紀です。そのためには新たな知のフロン ティアを拓くと共に、獲得された知識を速やか に、産業と富の創造に結びつけるトランスレー ションの仕組みを整備することが必要です(図 2)。このような取り組みは欧米だけではなく、 アジアでも、急速に進んでいます。シンガポー ルのバイオポリスを先頭に、韓国、中国、マレ ーシアなど、ゲノム科学をリードするアメリカ をモデルとして、アジア地域の成長が著しく、 近い将来には、この地域にバイオテクノロジー を基盤とする新たな産業圏が出現する可能性が あります。日本は、これまでの和魂洋才や脱亜 入欧を越えて、知識と人材を広く世界に求め、 アジア太平洋圏の知的産業のハブとして成長し なければなりません。政府は1995年に科学技術 基本法の制定を機にこのような取り組みを強め ています。昨年は、国レベルの基本指針である 「BT戦略大綱」の策定作業が進み、医療行為や 医療技術と特許との関係が整理され、さらに知 的財産の保護とその活用を促進するための知的 財産基本法の整備が行われつつあります(図 3)。このように、2010年から20年にかけて、 オーダーメードのゲノム医療・創薬・健康産業 が大きく成長することが予測されます(図4)。 この東京圏では、都市再生プロジェクト第4次 決定をきっかけとして東京、神奈川、千葉、埼 玉、茨城を含むエリアをゲノム科学の国際拠点 に育てることを狙いに、昨年末、「東京圏ライ フサイエンス協議会」が、産学公の連携組織と して設立され、東京都バイオ産業振興方策への 提言もまとめられました。この提言では、東京 都が取り組むべき方策が、1)首都圏における −2− バイオ拠点形成、2)研究シーズ発掘、研究開発、ビジネス化段階と事業ステージに応じた環境を整備する、 3)パブリックアクセプタンスの形成・広報活動、4)都研究機関と産業界の橋渡しの推進、という4点に まとめられています(図5)。東京都医学研究機構傘下の研究所、老人研や、都立病院が、政策を共有する とともに、都の産業労働局と協力して、産業界と連携する体制を作り上げてゆくことが重要であると思いま す。さて、私達の臨床研ですが、昨年も、これまでの研究の蓄積を活用して、優れた成果が得られたことを 喜びたいと思います。しかし、長引く景気の低迷による都財政の逼迫に直撃され、研究所を巡る情勢は、依 然厳しいものがあります。私は、臨床研や都医学研究機構のこれまでの成果をふまえ、米川、田中両副所長 をはじめ、皆さん全員の協力を得て、臨床研が世界の研究開発マップにおいて確固とした地位を築くよう努 力する決意でおります。2003年の年頭にあたり、本日はそのためのいくつかの具体的な方策を、皆さんにお 話ししたいと思います。 2.研究職員の配置に関する新ルールについて 最初のお話は、田中副所長を中心に、この半年をかけて策定作業を進めてきた「研究職員の配置に関する 新ルール」についてです。臨床研の存在基盤を将来にわたり確固としたものとするには、臨床研の全ての研 究者が、研究者スピリットを発揮し、創造的な研究活動を推進しなくてはなりません。研究者の能力を発揮 するには、研究者本人の自由な意志が尊重されることが基本であり、その自由な意志の表明と自己決定の帰 結として、当然、結果に関する自己責任の原則が生まれてきます。私は、昨年、臨床研の研究者の方々のお 話をうかがいましたが、研究者としての意識と、都の公務員としての意識が、様々な色合いで混在しており ました。ここでの原点は、公的資金を得て公的施設で研究を行う場合には、それぞれの研究者が自分の研究 内容を明らかにし、公的な説明責任を果たすという前提です。そのためには、まず「個人データベース」を 作成し、自らの研究課題と成果を内外に公開することが重要です。このように研究者としての責任を意識し、 研究者スピリットを発揮することが、大局的には臨床研の発展にもつながることを自覚するようお願いしま す。学術・産業界への発信と共に、情報公開により都民の理解と支援を得ることなしには臨床研の未来は開 けない、と考えます。このような性格を持つデータベースを、全ての研究者が提出するようお願いします。 次に、この度取りまとめられた「研究職員の配置に関する新ルール」についてですが、新ルールのもとでは、 新規の研究プロジェクトを立ち上げる部室長、また欠員の生じた部室長に、必要に応じて「研究者受け入れ のためのプロジェクト構想」を提案していただきます。部室長によるこの「プロジェクト構想」に対し、研 究者の皆さんから、自分の自由な意志に基づいて応募してもらうわけです。この新しいルールは、現在の部 門制度の枠組みを壊すことが目的ではありません。基本的に現在の組織を継承しつつ、もう一方で、時代に 見合った若い研究者の育成、さらに国や産業界など、異なるセクターとの連携を強固にすることを目指して います。結果的に部門間の流動性を高めるかもしれませんが、こうした変化は、研究所の活性化を促す原動 力になると信じています。研究員の選択肢としては、従来どおりの「部門所属研究員」や「医薬研究開発セ ンター研究員」の他に、今後は、独創的な研究に従事する期限付きの「独立研究員」に進む道や、他の研究 者を技術面から支援し、臨床研の中央機器の管理等を行う「コアラボラトリー研究員」になる道も開かれま す。さらに、先ほど述べた「部門所属研究員」と「コアラボラトリー研究員」とを兼務する「特定任務研究 員」を目指すことも可能です。以上のような類型の選択肢の中から、どの仕事に従事したいかを研究員自ら −3− が選ぶというのが、「研究職員の配置に関する新ルール」の骨子です。研究員の皆さんには、この「新ルー ル」の施行を、ぜひ能動的かつ前向きに、受け止めていただきたい、と私は強く希望しています。なお「新 ルール」と「研究員データベース」については、近日中に改めて説明会を開催する予定ですので、詳細な議 論は、そちらに譲ることにいたします。 3.新たな時代における臨床研組織のあり方について 年頭にあたって、二つ目に、新しい時代にふさわしい臨床研の組織のあり方を検討する必要がある、こと を強調したいと思います。研究システムのあり方についての私の考えは、先日、NHK教育テレビの「視点 論点」でも述べました。その骨子を、臨床研に当てはめれば、個人の発想によるボトムアップによる研究シ ステムとトップダウンによる研究システムとを併用することが、臨床研がより大きな活力を持つために必要 である、ということになります。新しい臨床研の組織図の作成はこれからですが、現時点での私の構想のポ イントを述べれば、まず「基幹研究部門」として、現在の研究部門に加え、システム制御、ゲノム医学、腫 瘍制御などの新たな部門を設置します。併せて、若手独立型で期限付きの「新領域探索研究部門」を、いく つか設けます(図6)。また、産業界との連携の下、「重点課題展開ラボ」も、期限付きでいくつかのプロジ ェクトを設置することにします。さらに、以上の研究部門を支える基盤技術部門として「コアラボラトリー」 を位置づけ、 スタッフ、機器とも、順次整備充実していきます。ところで、「新領域探索研究部門」また 「重点課題展開ラボ」にしても、現在の予算だけでは対応することが難しいことは明らかです。財団(東京 都医学研究機構)での前例はまだないようですが、外部資金の導入により、「寄付研究部門」の設置や「産 業界との連携による新研究部門」の開設を、具体的に目指していきたいと考えています。また知的財産管理 室(TLO)を充実強化するとともに、世界の研究開発マップにおける都医学研究機構と臨床研の存在を高 め、国際的な産学連携をすすめるために、今後新たに「国際産学交流室」を設置し、ソウル、上海、シンガ ポール、シリコンバレー等に、財団(東京都医学研究機構)の現地事務所を設けることを提案するものです。 20世紀後半、日本企業・商社は世界に自己のビジネスネットワークを築きましたが、学術とは乖離していま した。アジア太平洋地域のバイオテクノロジーの拠点研究所との連携により形成される知のネットワークを 活用して新産業創成のネットワークが 発展するというのが21世紀の姿である と思います。以上は、近未来の臨床研 の更なる発展に向けての私の提言であ り、今年から早速、議論を積み重ねて いきたいと思います。皆さんも御承知 のように、国立大学の研究者は、2年 後には国家公務員としての枠組みを外 れてゆきます。この流れは、まもなく 公立の大学・研究機関にも押し寄せて くることが必至であり、臨床研も例外 ではあり得ません。皆さんも、このよ −4− うな変革の時代がくることを、今から意識しておくことが必要です。私個人は、公務員として研究者に相応 しくない制約を受けるより、この際、財団固有の研究者となるメリットの方が多いと考えていますが、種々 の選択肢を視野に入れた議論を、今後十分に尽くしていくことが大切です。事務管理部門についても、お話 ししたいことがあります。事務管理部門は、研究者のすぐ隣で日常の管理運営や経理の実務を担当する研究 チームの重要な構成員であり、研究者とともに研究所を支える大切な部門です。寡聞にして私は、事務担当 者や秘書が研究者の隣の机にいない研究チームが機能したという例を知りません。しかしながら、現実には この基準に反して、都では財政再建のため、本年4月には事務室の職員定数が大幅に削減されるとのことで す。研究所の活力向上のために事務管理部門はむしろ強化すべきであり、財団本部の不退転の努力を期待す るところです。 4.ベンチャーインキュベーション施設について 本日、三つ目の論点は、研究成果の先端医療への還元、特許取得や産業化の促進のための方策について、 であります。東京都バイオ産業振興方策への提言でも、研究シーズを発掘し、研究開発、ビジネス化段階と 事業ステージに応じた環境を整備することが強調されています。臨床研はじめ都医学研究機構傘下の研究所 の創造的な人材は、先進的な大学と同等、あるいは領域によっては、それ以上の研究シーズの豊かな源泉で す。また臨床研の頭脳集団は、自分たちの研究シーズにとどまらず、外から持ち込まれたシーズを研究開発 段階で、育てる能力も備えています。バイ オベンチャーは起業、展開、開発の発展段 階に応じた支援の仕組みが必要となります が、特に事業概念を検証する起業のステー ジでは、大学・研究所に蓄積された様々な 知識や装置を活用することが必要です(図 7)。しかし東京圏では、医科学領域の拠 点にアクセスを持つインキュベーション施 設は決定的に不足しています。こうした状 況は、臨床研に連結したインキュベーショ ン施設を整備するための強いインセンティ ブとなります。そのための第一歩として、 皆さんも既にご存じのように、この研究所 の隣接地に「ベンチャーインキュベーショ ン施設」を建設するよう、財団本部から都 に提案していただいています。これはソウ ル大学の分子生物遺伝学研究所(IMBG) に連結したGolden Helixというインキュベ ーターとも共通する性格を持ちますが、東 京圏はもとより、アジア地域の代表的なイ −5− ンキュベーション施設として成長すること を確信しています(図8)。本年度(2002 年度)は、この施設が竣工するまでのつな ぎ役として、研究所内の数か所の部屋をイ ンキュベーション施設に改修する工事を、 3月までの予定で行うことになっていま す。改修の終った部屋をステージに、2003 年当初からベンチャー等企業との共同研究 に着手することで、基礎研究の応用化の流 れを加速させることに努めたいと考えてい ます。また東京都バイオ産業振興方策への 提言でも、トランスレーショナル・リサー チ・ネットワークの形成が強調されていま す。また医科学分野の研究成果の技術移転 を促進するためには、単なるインキュベー ターだけではなく、それを支援するトラン スレーショナル・リサーチ・センターの設 置が必要です。トランスレーショナル・リ サーチの概念とそのセンターは、私達が 1996年頃から提唱していたものです。当時 は「それは一体、何の役に立つのか」といった具合でしたが、最近は官庁や医学研究者の間に広まり、予算 獲得のキーワードになってきたという変貌ぶりに感慨をおぼえるこの頃です。また私達の提起したトランス レーショナル・リサーチの意味を誤解する人々も多くなっています。トランスレーショナル・リサーチは広 い意味では、基礎研究と産業化の橋渡し研究ですが、医科学領域では、ショウジョウバエやマウスではなく、 ヒトにおける臨床研究を指しています。臨床研究には様々なタイプがあり、広義には企業主導型の臨床研究 である治験をトランスレーショナル・リサーチに含める場合もありますが、私にとってトランスレーショナ ル・リサーチは研究者主導型の探索段階にある臨床研究を意味しています(図9)。企業主導の治験は、製 薬企業などのGMPレベルの生産設備を用いて進められますが、研究者主導のトランスレーショナル・リサ ーチを進めるには、GMPレベルの生産、検証施設、人材養成機能、を備えた公的な支援センター(トラン スレーショナル・リサーチセンターTRC)が必要です(図10)。このようなTRCは、バラバラに作っても機 能しません。ベクター、蛋白質、幹細胞等の品質管理を行う全国的拠点が必要です。私は、性格の大きく異 なる研究者主導と企業主導のトランスレーショナル・リサーチは、それぞれ構造改革特区1、構造改革特区 2、のように区分して進めるべきであると考えています。今後、臨床研は、都医学研究機構、都立病院、医 科研・理研と協力して、東京圏におけるトランスレーショナル・リサーチネットワークのいかなる部分を担 当してゆくのか明確にしてゆきたいと考えています。 −6− 5.バイオ分野での人材養成と臨床研の 都民への貢献について 年頭の第四の論点は、臨床研がバイオ テクノロジー分野での人材養成に貢献 し、公的研究所としての説明責任を果た すことにより、都民に顔の見える臨床研 となることです。臨床研は、その30年に 近い存在を通して、多くの先駆的研究成 果をあげて来ました。その中には、細胞 死、サイトカイン受容体、蛋白質分解の ように現在の生命・医科学で最も活発に 研究されている領域があります。こうし た成果は、主に基礎的な生命過程に関す るものであり、現状では、都民はもとよ り、医療や産業界の人々にもその意義が 十分に理解されているとはいえません。 これは大変残念なことです。しかし、時 代は大きく変わりました。今、臨床研は 財団と共に、基礎的な発見という知の成 果をいかに、現実の医療や産業に橋渡し するかというトランスレーショナル・リ サーチの仕組みを築くよう努力していま す。臨床研と都立病院が、日常的に連 携・協力する仕組み作りも重要です(図 11)。また、ゲノム科学の進展に伴い、 個人のゲノム情報を基礎にオーダーメー ド医療の実現をめざす方向が拓けて来ま した。臨床研の研究プログラムが、都民 の疾病の診断治療や病気の予防、健康増 進にどうつながるか、都民に分かりやす く説明することは、都民に支えられる公 的研究所の責任でもあります。また臨床 研は、医科研・理研ゲノム多型情報セン ター(SRC)が中核となって進めている ゲノムデータベースの構築に協力し、駒 込病院はじめ都立病院ネットワークを通 −7− して、オーダーメード医療をめざすゲノム医療モデル事業に参画したいと思います(図12)。ところで、現 在、東京圏だけではなく日本全体でバイオ産業を担う人材が決定的に不足しています。これまで5年余にわ たり東大医科学研究所、神奈川科学技術アカデミー(KAST)、パブリックヘルスリサーチセンター財団の 協力で、白金台を拠点に、先端医療分野の人材養成コースが実施されてきました。本コースは、専門的なシ グナル伝達、ゲノム創薬、バイオインフォーマティクス等と、初心者へのバイオの入門コースからなってい ます。これらの事業を通して、私は、社会人を対象とするバイオ分野の人材養成のニーズが高いことを実感 しました。今回の都のバイオ産業振興方策への提言も、バイオ講習とバイオ専門家養成講座(VC・弁理士 等対象)などを通しての人材養成を強調しています。昨年から開始した「臨床研カレッジ」は、その意味で 大変、タイムリーな事業です。本年度は、これをさらに進め、都内外の大学、研究機関、財団等とタイアッ プして、「東京バイオ・ゲノム医療研修コース」と銘打った社会人・学生向けの常設の教育講座を開催した いと考えます。このために、臨床研の研究者のみならず、優れた研究者に協力を依頼する予定です。さらに 都立保健科学大学・都立大学と都医学研究機構・老人研の協力による連携大学院のサテライト講習施設を臨 床研に開設することも考えられます。これらを通して、臨床研が、今後必要度が急速に高まると見込まれる ゲノム科学やバイオ産業を担う人材の養成の拠点として、都の研究・教育・バイオ産業交流に貢献すること を期待しています。 本日、私が述べた幅広い取組みのためには、臨床研所員の皆様の、主体的な参画が、是非とも必要です。 私は、昨年、臨床研の所員の方々とのお話しを通して、皆さんが臨床研に高い誇りと愛情を持たれているこ とを強く感じました。これは大変喜ばしく、かつ誇るべき事実です。それでは私達は、財政的に困難な条件 の中で、臨床研を発展させ、自らの未来を開拓するために、何をなすべきでしょうか。かってアメリカ大統 領、ジョン・F・ケネディーは、大統領就任にあたって、「アメリカが諸君に何をなし得るかを問うな。諸 君がアメリカに何をなし得るかを問え」と述べました。臨床研を巡る状況は、当時のアメリカと同じです。 皆さんが「臨床研に何をなし得るか」という自らへの問いかけのもと、臨床研の全職員が一丸となって、今 年も頑張っていただきたいと考えます。 −8− ポスタ−発表会 膜リン脂質の配向性を制御する新規分子の同定と細胞極性の形成におけるその役割 炎症研究部門 加藤 詩子 リン脂質は脂質二重層の内外で非対称に分布することが知られています。このことは全ての真核細胞に共 通することから、その動態の制御が細胞の恒常性を維持するうえで重要であると考えられます。しかし、そ のメカニズムや生理的役割は未だほとんど不明です。本研究室ではこれまでに、リン脂質を特異的に認識す る分子プローブ群を用いて、個々のリン脂質分子の可視化とその機能的解析を行ってきました。そして、通 常は形質膜内層に多く分布する主要な膜リン脂質ホスファチジルエタノールアミン(PE)が、細胞分裂終期に なると局所的に細胞表面に現れること、この配向性の変化がアクチン骨格の脱重合に必須であることを示し ています。ではPEの動きはどのように制御されるのか。私は、以下のアプローチにより、形質膜PEの動態 を制御する新規分子の同定に成功しました。 まず、出芽酵母を用いて形質膜PEの分布や動きに異常をきたした変異株の樹立を行いました。本研究室 で開発したPE結合プローブは、PE結合能だけでなく膜傷害性をもつため、例えばPEが細胞表面に多く露出 した変異株では、プローブの膜傷害性に対して高感受性になると予想されます。そこで、プローブに対し高 感受性な変異株を選別し、ros3(Ro-sensitive 3)変異株を単離しました。私達がRos3pと命名したその原因分子 は、既知の機能分子との相同性が見られず、新規の機能分子であると考えられました。 Ros3pの機能を探るため、蛍光標識リン脂質を用いて膜リン脂質の動態を観察したところ、Ros3p欠損株 では蛍光標識PEの細胞内への取り込み量が野生株の約1/10に減少していました。蛍光標識リン脂質はエンド サイトーシスを介して、または形質膜外層・内層を横切るフリップ・フロップを介して細胞内に取り込まれ ることが知られています。Ros3p欠損株ではエンドサイトーシスに異常は見られず、また外向きのフリッ プ・フロップ輸送に関与するABC(ATP-binding cassette)輸送体の活性にも変化は見られませんでした。この ことから、Ros3pが形質膜において内向きのフリップ・フロップ輸送に関与することが示唆されました。 一方、Ros3p欠損株は野生株に比べて長く伸びた形状を示し、また細胞表層のパッチ状アクチン構造(アク チンパッチ)の分布に異常が見られました。さらに興味深いことに、通常1つの親細胞からは1つの娘細胞が 出芽するのに対し、Ros3pを過剰発現した株では同時に複数(2∼5)の娘細胞を持つ異常な出芽が観察されま した。Ros3p欠損株は正常に生育できることから、Ros3pが分裂の実行ではなく、アクチン骨格の制御を含 む出芽の位置決定や方向決定に関与している可能性が考えられました。 ところで、Ros3pは出芽酵母の他に高等動物においても相同な遺伝子が存在します。マウスRos3pは、脳 や腎臓、肝臓に多く分布し、腎臓切片では上皮細胞のアピカル側にのみ強く局在しました。このことから、 高等動物においてもRos3pと細胞の極性形成との関与が示唆されました。 以上の結果から、Ros3pが膜リン脂質の動態を制御するとともに、細胞の極性形成においても機能してい ることが考えられました。これは、膜リン脂質が担う新たな細胞機能を示唆していると思われます。膜での リン脂質の分布や動きがどのようにして極性制御のシグナルに変換されるのか、そのメカニズムを明らかに することが次なる課題であると考え、現在Ros3pの作用機序の解明を進めています。 −9− びゅうぽいんと コンピュータ室 大沢 繁夫 みなさん、はじめまして。去年の 7 月から非常勤流動研究員として臨床研コンピュータ室に出入りしてい る大沢繁夫と申します。早いものでもう半年が過ぎてしまいました。今回文章を書く機会をいただいたので、 これからの臨床研ネットワークに対するコンピュータ室の主な提案、方針を書かせていただこうと思います。 まず、各部門にコンピュータ係をおくことを提案します。300 人以上ものユーザを相手に 1 人で対応する のには限界があります。こちらが何かを聞きたいとき、該当部門の誰に聞くのが適当なのかよくわかりませ ん。また逆に、質問に関しても部門で集約してくれると個人個人に回答する必要がありません。部門の窓口 という以外にコンピュータ係の方にやっていただきたい仕事は各部門レベルの ・ユーザ管理 ・IPアドレスの管理 ・ホームページの作成、更新 ・ハブ周りの整理整頓 などです。コンピュータ係の人材としては、パソコンやネットワークに関する知識はなくとも、部門内の 人から信頼されていること、コミュニケーション能力に長けていることが重要だと思います。コンピュータ 係の仕事ぶりがその部門のネットワーク環境を左右すると言っても過言でないでしょう。雑務といわれるも のばかりですが、コンピュータ室と連絡を密にとっていれば、有利な情報をいち早く耳にすることができる かも知れません。部門によってはすでにコンピュータ担当が決まっているところもあります。部門を代表し てやってくれる方がいたら歓迎します。 次に LaMail の運用は来年の 9 月、メインサーバのリースが切れるのを機会に運用をやめる予定です。こ れは今現在すでに LaMail の開発元が開発をやめていて、新しく入れ替わるマシンの OS に対応したものが ないからです。実際、現時点でも、大きなサイズの添付ファイルや、ある特殊な文字の入ったファイル名だ とうまく送信できない不具合が報告されています。運用停止までに所内全員宛のメイリングリストや LaMail の名簿に準ずる何かを用意する予定です。 最後に、すでに見抜いている方も多いと思うのですが、私はネットワーク管理に関してど素人です。仕事 柄、あちこちの研究室に出入りすることが多いのですが、計算機周りのことなら何でも知っている専門家だ と思われてしまうのはつらいです。勉強中だから許されると言うわけではないのですが、すでに何回かネッ トワークを止めています。 (皮肉なことにネットワークを止めると非常によい勉強になります。)厳しい言葉 をもらうこともあるのですが基本的には寛大な方が多いので助かっております。これからもトラブルは山ほ ど起きると思いますが皆様のご協力とご理解をお願い申し上げます。 −10− 臨床研セミナー 日 時:平成14年12月10日(火) 午後3:00時∼5:00 演 題:動物細胞におけるG1-S期移行制御とDNA複製開始 演 者:アニンディア デュッタ博士 ハーバード大学医学部 教授 世話人:細胞生物学研究部門 正井 久雄 お 知 ら 図書館ニュース 2003.1 せ Functions, and Peroxynitrite Reactions, (Eds Cardenas, E. and Packer, L.) *新規購入図書* *寄贈図書* ○脳とこころ:神経心理学的視点から/岩田誠[ほ か]著 東京:共立出版, 2002.9 ブレインサイエンス・シリーズ/大村裕,中川 八郎編集;24) ○List of journals indexed in Index medicus , National Library of Medicine, 2002 ○Methods in Enzymology, Academic Press, 2002 Vol.355;Cumulative Subject Index Volumes 321354 Vol.358;Bacterial Pathogenesis Part C: Identification, regulation and Function of Virulence Factors, (Ed.s Clark, V.L. and Bavoil, P.M .) Vol.359;Nitric Oxide, Part D: Nitric Oxide Detection, Mitochondria and Cell ○国民医療年鑑 平成13年度版,日本医師会編,春 秋社,2002.11 −11−
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