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OR for ET/ST 08/22/2007 Vol.1 No. 2
EDITORIAL
モデリングをどう学ぶ
(教える)
か
オブジェクトレポート編集長
IN THIS ISSUE
モデリングを学ぶのはプログラミ
ングより早いほうがよいとも言わ
れるが、問題は学生だけではない。
産業競争力基盤を維持するため、
中高等教育、IT 技術者、そして非
IT(技術系と非技術系)スタッフに
分けて、必要と思われるモデリン
グ教育の内容を検討してみる。
(EDITORIAL, 3p)
組込みシステムにおいて、DSP、
GPP、FPGA など複数のプロセッ
サの使用とその相互運用性が要求
されている。ネットワーク化され
た組込みアプリケーションの相互
運用性と信頼性は、すでに実証さ
れた標準ミドルウェアによっての
み達成される。新たに登場した
CORBA/e ベースの ORB 製品は、
DSP アプリケーションが待望して
いたものである。(REPORT, 4p)
鎌田 博樹
「MDD イニシアティブ学習会」(1)(7 月 26/27 日、東京・品川)は、新技術紹介と教育・
啓発的な内容とがバランスして、よいセミナーだった。スティーブン・メラーとともに、
長年実行可能なモデルと取組んでいるコートランド・スターレット(2)の講演では、レ
ゴ・ロボットを使ったモデリング教育を、大学低学年から高校にまで広げて成果をあげ
ている事例が紹介された。モデリング教育は早期ほどよく、プログラミングを知らない
学生のほうがモデリングになじみやすい、という。これはプログラマーほどモデリング
になじみにくいという経験的事実とも合致するし、確かにそうだと思う。問題はそこか
らである。つまり、モデリングが避けられないテーマであるとした場合、
1) 中高等教育におけるモデリング教育はどうあるべきか
2) IT 技術者のモデリング教育はどうあるべきか
3) 非 IT スタッフのモデリング教育はどうあるべきか
ということである。やや手に余る課題だが、ここでは上記 3 点について考えてみたい。
中高等教育におけるモデリング教育
ここでは、高等と大学の教養課程レベルを想定している。早期のモデリング教育は、
とりわけ問題領域における「何」(what)を明確化、仕様化することを意味する。IT が主
SoS (System of Systems)は、ヒト、
モノ、コトと、それらの「オペレ
ーション」を含めた全体最適をめ
ざす工学方法論である。SOA や
LCM など、オペレーション指向の
IT アプローチの根源であり、また
現実的にも米軍の新しい戦争指導
理論の背骨ともなっている。ここ
では SoS の背景と展開をアウトラ
インする。(REPORT, 4p)
組込み開発で UML と CORBA を
使って分散システムのモデリング
から実装を目ざす方向が有力にな
りつつある。実際、OMG が推進
する MDA ではベストカップリン
グとも言える。実行可能なモデル
を追求してきたブルース・ダグラ
スが Rhapsody を使った MDA の実
現環境を語る。 (REPORT, 3p)
検証に関する動きがにわかに活発
となってきた。ケイデンスとメン
ターは SystemVerilog に基づく検
証方法論 OVM を共同で標準化し
ていくことを発表した。また、ザ
イリンクスは、大手 EDA ベンダ
ーと共同で大容量 FPGA 向け検証
フローを共同開発すると発表して
いる。(NEWS, 4p)
に対象とする「どう(how)」と区別したほうがよいというのは、たしかに合理性がある。
レゴ・ロボットをコースで走らせたり、簡単な作業をさせたり、相撲をとらせたりする
のは、導入も比較的容易であると思われる。しかし、モノに関するソフトウェアのモデ
リングは考えやすく、数時間で完結するが、モノとコトを含むシステムのモデリングと
なると、とたんに難しくなる。しかし、中高等教育においても、こうしたモデリングは
必要であるし、可能でもあると思われる。
モノとコトを含むシステム、つまりビジネスシステムや製造ライン、セキュリティシ
ステムといった、
「ふつうのシステム」は、実世界における問題を扱う。要求を収集、
分析して分析モデルをつくり、次いでそれをもとに IT の設計モデルをつくる。これは
プロの世界のモデリングであるが、教育においては、この前段階の分析モデルまでが大
きなテーマとなる。
では、どのように「要求」に関するモデリングを教えるのか。ここでは中高等教育に
おけるモデリング教育の要件について提起しておきたい。
(3)
• 智に至るステップ (読む−聞く−議論する−観察する−考える)の方法化
• 知識教育より思考の方法を扱える能力(つまりは哲学)の開発
• グループ学習による、体験としての「集合智」の形成を重視
要求について考えるためには、ものごとを多面的に検討する視点(viewpoint)を固めて
いく必要があるが、これはさまざまな教科の学習がひととおり終り、大学その他におい
て専門レベルの教育を受ける前の段階が一番よい。入試で忙しいというのなら、大学入
試とそれ以降の選抜のシステムを改めるべきだろう。なぜモデリングが学校教育、それ
も中高等教育で必要になるか。理由は 3 つある。
©2007 by Object Technology Institute, Inc.
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EDITORIAL
第 1 巻 第 2 号 (ET/ST)
2007 年 8 月 22 日発行
©Object Technology Institute, Inc.
EDITORIAL
モデリングをどう学ぶ(教える)
か…3p
NEWS (5p)
メンターとケイデンスが Verilog
オープン化で協業 ……………1
テクマトリックスが Lattix の国
内販売開始 ……………………1
キャッツが ZIPC 最新版………2
ウインドリバーがオンチップ・
デバッギング製品 ……………2
オムロンが FA 統合ツール……3
MDD イニシアティブ普及へ学
習会を開催 ……………………3
ザイリンクスと EDA 大手が
FPGA 検証フロー開発で提携…4
アジレントが HVMOS パッケー
ジを提供 ………………………4
バーチャルハードウェア設計技
術のセミナー …………………4
REPORT
「マルチプロセッサ DSP システ
ムになぜ CORBA が必要か?」
ジョセフ・ジェイコブ、4p
「SoS:超システム工学への現実
的アプローチ」
鎌田 博樹、4p
「モデル駆動アーキテクチャと
Rhapsody」
ブルース・ダグラス、3p
編集/発行:
オブジェクトテクノロジー研究所
〒107-0052 東京都港区赤坂
8-12-30-411
TEL:(03) 5772-3970
FAX:(03) 3479-9750
Email: [email protected]
協力:Object Management Group
(OMG)
発行人:鎌田博樹
発行日:毎月 1 回発行
価格: 有料
(オンライン最新号は公開)
OR for ET/ST 08/22/2007 Vol.1 No. 2
• システム工学的思考法、表記法に慣れておく必要がある
• 大学の専門教育で基礎を教えるのは時間の無駄である
• 同じく、雇用者が基本から教えるのではカネの無駄である
大学の専門課程での教育・研究は、
「文系」や「体育系」を含めて、IT を使う限り、
上記のモデリング能力は必須である(4)。モデリングとは何かでなく、専門に即した高度
なモデリングとその応用技術にフォーカスすべきである。現に米国の一流大学では、
UML などは教えずとも自得していることが学生に要求されている。一流は優しくない。
フランスでは、伝統的にリセ(中高校に相当)の最終学年で、哲学教育が必修化され
「哲学史」ではなく、
「哲学思想の知識」で
ている(理系でも週 5 時間)。特徴的なのは、
もなく、意識、認識、労働、国家、言語、科学などのテーマについて、先哲の論考を批
判的に摂取しつつ、自分の考えをまとめ、論理的に表現する能力を養うことを目的とし、
教科書もそれに適した構成となっていることである。学生は、真・善・美といった定性
的「価値」を、具体的な問題の中でどう考えるべきかを、ひと通り体験する。抽象的な
思考能力は、モデリングにおいて最も重要な要素であり、フランス式の哲学教育は、ぜ
ひ取り入れたいものである。(5)
教育改革により、IT で世界のトップにレベル躍進したフィンランドでは、具体的な問
題を分析し、解決を考える上での、情報収集力、思考力とグループ活動などが重視され
ている。知識はもちろん前提ではあるが、知識じたいを試験で問うようなことは、イン
ターネット時代には無意味であるとされている。
IT 技術者のモデリング教育
すでにプログラミングを中心とした IT 技術を修得し、
開発に従事している技術者に、
どのような教育が可能だろうか。これには IT 技術(の一部あるいは全部)をモデルとし
て理解し、使える能力と、実世界(たとえばビジネス)のモデルと IT のモデルとを総合
できる能力に分けて考えることができる。後者は、いわゆる IT アーキテクトとなる。
注意しなければならないのは、IT アーキテクトにはビジネスモデルを「理解」する能力
は不可欠ではあるが、ビジネスモデリングそのものまで IT アーキテクトに任せようと
いうのは無理な話で、それを目標とした教育は無駄に終わる可能性が大きい、というこ
とだ。そうした超人的能力は、英才教育で考えるべきことだろう。
周知のように、日本の技術者は「IT が好きだから」技術者になるというのが一般的で
あり、IT を手段として認識している人間はむしろ少ない。また IT といっても、構成が
複雑化する IT の全体への視点を持ったアーキテクトは少なく、ほとんどは IT の中の個
別の要素技術のどれかが「好きに」なった技術者が多い。コミュニケーション(言語)能
力が低く、個別技術に執着する技術者は、モデリング・パラダイムには対応できないし、
教育の対象とはならない。IT 技術者は少なくとも IT のモデル(アーキテクチャ)を理解
し、その中での(開発・運用の)最適化を実現する実装スキルが要求される。
IT の要素技術のすべては、プロセスやテストを含めてすでにモデル化されているか、
モデル化可能なものであり、IT 技術者に必要なのは、とりあえずそれらを読み込み、再
構成する能力となろう。それによって自分が担当する開発において何が求められている
かを理解し、チームの一員として効果的に活動できるようになる。
©2007 by Object Technology Institute, Inc.
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OR for ET/ST 08/22/2007 Vol.1 No. 2
EDITORIAL
モデリングとは、要するに複雑なシステムの全体を理解し、部分と全体を調和させる
ためのものである。ユーザーの IT システムは、それじたい人体にも比すべき「複雑な
システム」となっており、これを変更し、ビジネスの思うように動かすためには、現状
のシステムを構造的に理解し、検査し、診断する能力が必要であろう。ところが、こう
した「生体としてのシステム」をモデルとして理解したり、再設計したりする能力は、
従来の IT 技術者教育の中でも抜け落ちていたと言わざるを得ないだろう。ほとんどの
技術者は「新しいアプリケーション」をベースとして想定しているが、純粋な新規アプ
リケーションの需要はどんどん減っている。
IT 技術はしばしば建築になぞらえられるが、新築よりもリフォーム、それも使用中の
多目的建造物のリフォームが中心となると、むしろ「医療」に喩えるのがより適切かも
しれない。医療の目的は外科手術ではなく、患者なりの「ベスト」な状態を回復、維持
できるようにすることである。専門を問わず、医者が人体を「骨格」
」
「脳神経系」
「循
環系」といったシステムとして理解し、患者にとって何か問題がないかどうかを検査し、
さまざまなスタッフとともに必要な診断と治療を行うように、IT 技術者にとってはクラ
イアントの IT システムを、協調する複数の「系」として理解し、ベストな状態を提案
する能力が求められている。モデリングは IT システムを人体のように理解する能力を
養ってくれるべきものである。
IT 技術者のモデリング教育では、事例分析を中心にし、違う立場の技術者の交流と意
見交換を取り入れるようにすることで、実践に役立つものとすることができる。プロの
技術者は必要性と意味が理解できれば、自修することができるはずである。
非 IT スタッフのモデリング教育
非 IT スタッフに求められているのは、業務の改善あるいは革新である。前者は全員
に、後者はマネージャーあるいはプロダクト/プロセスエンジニアに求められる。技術
(1) NEWS p3 を参照。
(2) メンターグラフィックス社
(3) 智に至るステップは、IBM の
創業者トーマス・ワトソン。
シニアが定式化したもの。
Object-Insider ブログの「哲学
入門」の連載を参照。
http://maglog.jp/object-insiders/
(4) 文体論から考古学、スポーツ
のトレーニング理論に至る
まで、すべてモデル化とコン
ピュータによる解析は常識
化している。
(5) フランスの哲学教科書はい
くつか邦訳がある。D.ユイス
マン、A.ヴェルジェス『哲学
教程』(筑摩書房、1980 年)
ポール・フルキエ『哲学講義』
(筑摩書房)
系と非技術系の両方を含むが、全員が技術的プロセスのステークホルダーであり、本質
的な違いはない。例えば、人事担当者は、自社のビジネスが求めるスキルを分析し、実
際のスタッフのスキル構成とのギャップを埋める戦略を策定し、採用・教育の計画、実
施を担うが、こうしたプロセスの設計もモデリングである。昔と違って、人事にも経営
戦略との連動性とスピードが求められる時代になってきた。人事の業務プロセスを他と
協調させ、最適化させるためには、モデリングのほかに有効な手段はない。
もちろん非 IT 技術系スタッフ(例えば製品設計)のモデリング教育も考えられる。彼
らはそれぞれの専門領域の設計のスキルがあるので、新たに必要なのは非専門領域(と
くに IT)のモデルや生産、運用のモデルとの変換や統合に関する高度な知識である。つ
まりはシステム工学であり、業務を工学的プロジェクトとして成功させるのに必要なモ
デリング知識ということになる。まだ教育というよりは研究開発の段階であると思うが、
宇宙・航空のような分野では教育としても取組まれているはずである。
モデリングは、現実(のある側面)を抽象化して表現する。どの側面がどういう場合
に意味を持つか、そして言語化、モデル化できるものとそうでないものの境界が理解で
きるようになるのは、ドメインの知恵である。その知恵の容器である論理的思考の能力
開発は、早期に始めたほうがよい。★
©2007 by Object Technology Institute, Inc.
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