JSAA-ICJLE(2009年7月15日、ニューサウスウェールズ大学)

マクロに見た常用漢字語の日中対照
―頻度・形態・意味の一致とずれの分布― A Japanese­Chinese Macro Contrastive Study of Common Kanji Vocabulary ― The Distribution of Similarities and Differences in Frequency, Form and Meaning 松下 達彦 MATSUSHITA, Tatsuhiko (Victoria University of Wellington) [email protected] JSAA­ICJLE 15 July 2009, University of New South Wales
研究の目的・意義(1) Goals of the Study 有用な語彙テスト項目選定の基礎研究 1) L2学習者のための語彙量の測定 2) 中国語系学習者のための漢字語習得の
診断テスト
基礎資料としての
日中対照漢字語データベースの開発
研究の目的・意義(2) Goals of the Study 日中同形語の研究 • 意味・用法の異同の記述的研究は多い
(文化庁1978、荒川1979など) • 中国語語彙における位置づけを量的に論じた
もの(荒屋1983、曾根1988、高野・王2002) • 日本語語彙における位置づけは不明
⇒マクロに捉えた先行研究の不足を補う
主な内容 Main Content 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. v
基礎資料の選定:語彙頻度表の比較 高頻度語に占める漢語の割合 高頻度語に占める表記上の同形漢語の割合 同形漢語の日中両語での使用頻度の相関 同形漢語の音韻の類似度 同形漢語の字体の一致とずれの分布 まとめ
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1.基礎資料の選定 Selection of Basic Source • 日本語の語彙頻度表として
国立国語研究所(2006) を採用 • 1994年に出版された雑誌70種類に基づく • 延べ語数約106万語、うち自立語73万語 • 十分に大きなコーパスではないが、現時点で
はやむを得ない選択
日本語の語彙頻度表の比較(1) • 代表的な語彙頻度資料
国立国語研究所(2006) vs. 天野・近藤(2000) Ø上位1000語の一致は369語、41.6%
Ø一致語の両語彙表の頻度の相関(スピアマン) .259 (p < .01) • 国研(2006) 分野の偏りが少ない、webで入手可、
著作権上の制限が少ない • 低頻度語彙の使用率に信頼度が不足
日本語の語彙頻度表の比較(2) • 新聞の語種構成は専門雑誌に近い
(茂木ほか2005)
Ø延べ語数に占める漢語:
雑誌全体37.5%、専門雑誌:53.1%
Ø新聞は54.1%
日本語の語彙頻度表の選定 • 各分野に均衡していることが必要な条件
⇒国研(2006)を語彙頻度の基礎データとする • 将来、より妥当かつ信頼度の高い語彙頻度
表が出てきたら、その頻度によってデータ
ベースを更新することが可能
2.高頻度語に占める漢語の割合 Ratio of Sino­Japanese Words among High Frequency Words 高頻度自立語5000語に占める
語種別の語数・割合(固有名詞を含む)
表2 高頻度自立語5000語に占める語種別の語数・割合(固有名詞を含む)
レベル
語数
割合(%)
レベル 頻度順位* 全体 漢語 外来語 和語 混種語 その他** 全体 漢語 外来語 和語 混種語 その他**
-1000 0001-992
1002
461
110
389
16
26 100.0% 46.0% 11.0% 38.8% 1.6% 2.6%
-2000 1003-1964
-3000 2002-2955
-4000 3029-3903
-5000 4063-4794
999
1027
1034
960
454
451
417
397
150
204
245
216
338
280
270
235
13
26
24
20
44
66
78
92
100.0%
100.0%
100.0%
100.0%
45.4%
43.9%
40.3%
41.4%
15.0%
19.9%
23.7%
22.5%
33.8%
27.3%
26.1%
24.5%
1.3%
2.5%
2.3%
2.1%
4.4%
6.4%
7.5%
9.6%
全体 0001-4794
5022 2180
925 1512
99
306 100.0% 43.4% 18.4% 30.1%
*同一順位に同頻度の複数の語があるため順位と累計語数は必ずしも一致しない。
**高頻度自立語5000語に含まれる「その他」はすべて固有名詞(地名・人名)である。
2.0%
6.1%
高頻度自立語5000語に占める
語種別の語数・割合(固有名詞を除く)
表3 高頻度自立語5000語に占める語種別の語数・割合(固有名詞を除く)
レベル
語数
レベル 頻度順位*
全体
漢語
外来語 和語
混種語 全体
割合(%)
漢語
外来語 和語
混種語
-1000 0001-992
-2000 1003-1964
976
955
461
454
110
150
389
338
16
13
100.0%
100.0%
47.2%
47.5%
11.3%
15.7%
39.9%
35.4%
1.6%
1.4%
-3000 2002-2955
961
451
204
280
26
100.0%
46.9%
21.2%
29.1%
2.7%
-4000 3029-3903
-5000 4063-4794
956
868
417
397
245
216
270
235
24
20
100.0%
100.0%
43.6%
45.7%
25.6%
24.9%
28.2%
27.1%
2.5%
2.3%
19.6% 32.1%
2.1%
全体 0001-4794
4716 2180
925 1512
99 100.0%
46.2%
*同一順位に同頻度の複数の語があるため順位と累計語数は必ずしも一致しない。
**高頻度自立語5000語に含まれる「その他」はすべて固有名詞(地名・人名)である。
高頻度自立語5000語において
漢語はどのぐらい存在するか • 漢語はどの集計でも40%台 • 上位3000語レベルまでのほうが4000語レベル、 5000語レベルよりも割合が高い • 漢語はフォーマルで低頻度語彙に多いように思われ
やすいが、(現代雑誌の書き言葉においては)頻度
が下がると漢語は減る傾向 • 全体的には漢語は安定。頻度が下がると外来語が
増えて和語が著しく減るのと対照的。 • 異なり語数における漢語と和語の比率は国研 (1962)から大きな変化なし(山崎・小沼2004)
高頻度自立語5000語に占める
語種別の語数・割合(固有名詞を除く)
表3 高頻度自立語5000語に占める語種別の語数・割合(固有名詞を除く)
レベル
語数
レベル 頻度順位*
全体
漢語
外来語 和語
混種語 全体
割合(%)
漢語
外来語 和語
混種語
-1000 0001-992
-2000 1003-1964
976
955
461
454
110
150
389
338
16
13
100.0%
100.0%
47.2%
47.5%
11.3%
15.7%
39.9%
35.4%
1.6%
1.4%
-3000 2002-2955
961
451
204
280
26
100.0%
46.9%
21.2%
29.1%
2.7%
-4000 3029-3903
-5000 4063-4794
956
868
417
397
245
216
270
235
24
20
100.0%
100.0%
43.6%
45.7%
25.6%
24.9%
28.2%
27.1%
2.5%
2.3%
19.6% 32.1%
2.1%
全体 0001-4794
4716 2180
925 1512
99 100.0%
46.2%
*同一順位に同頻度の複数の語があるため順位と累計語数は必ずしも一致しない。
**高頻度自立語5000語に含まれる「その他」はすべて固有名詞(地名・人名)である。
3.高頻度語に占める
表記上の同形漢語の割合 Ratio of Homographic Sino­Japanese Words among High Frequency Words • 使用頻度上位5000語において、表記上の同形
漢語はどのぐらいの割合を占めているか
「同形漢語」の定義 • 対応する字体の漢字表記が同じになる語は
「同形語」
=旧漢字(康煕字典体=繁体字)の表記が共通
(康煕字典体)
《經濟》
「経済」(日本漢字)
〈经济〉(中国漢字=簡体字) • 語種は漢語(中国語からの借用語) cf.「場合」
高頻度自立語5000語における
表記上の同形漢語の集計方法
同形漢語かどうかは、二つの方法で判定・集計
1) 《现代汉语频率词典》(北京语言学院语
言教学研究所1986)に頻度が掲載されて
いる語のみを数える 2) 上記1)に加えて、《现代汉语频率词典》
にない語については日本語教育を専攻する
中国語母語の大学院生2名による主観的判
定を加える
高頻度自立語5000語に占める
日中同形漢語の語数・割合
表4 高頻度自立語5000語に占める日中同形語の語数・割合
レベル
レベル
頻度順位*
日中同形語の語数/割合
《现代汉语频率词典》に主観的判断を
《现代汉语频率词典》のみで認定
加えて認定
語数
全体
漢語
同形語(n)
n /漢語
n /全体
同形語
n /漢語
n /全体
-1000 0001-992
1002
461
372
80.7%
37.1%
423
91.8%
42.2%
-2000 1003-1964
999
454
344
75.8%
34.4%
413
91.0%
41.3%
-3000 2002-2955
-4000 3029-3903
1027
1034
451
417
292
234
64.7%
56.1%
28.4%
22.6%
386
342
85.6%
82.0%
37.6%
33.1%
-5000 4063-4794
960
397
224
56.4%
23.3%
323
81.4%
33.6%
29.2%
1887
86.6%
37.6%
全体 0001-4794
5022
2180
1466
67.2%
*同一順位に同頻度の複数の語があるため順位と累計語数は必ずしも一致しない。
高頻度自立語5000語において
同形漢語はどのぐらい存在するか • 5000語までの全体の37.6%、漢語の86.6%が
同形漢語 • 上位1002語のうち漢語の9割以上、語全体の4 割以上が同形漢語 • 同形漢語の割合は頻度レベルが下がるにつれて
若干減少するが、4000­5000語のレベルでも漢
語の8割以上、語全体の約3分の1が同形漢語
高頻度自立語5000語における
同形漢語の割合についての考察 • 中国語母語の学習者対象の日本語教育を考
える上で、無視できない数字 • 意外な結果:同形漢語は頻度が下がるほど
多くなると考えていた。少なくとも5000語まで
は減少。
4.同形漢語の日中両語での
使用頻度の相関 Correlation of Frequencies of Homographic Sino­Japanese Words in Japanese and Chinese • 日中同形語には文体差もある(宮島1994)
例)中国語では日常語、日本語ではフォーマル • 文体差・・・頻度が一つの参考
高頻度語彙は一般に日常語彙 • 日中同形漢語の頻度の相関、各語の頻度のz得点、
頻度レベルごとの平均等を算出し比較 • 一字漢語の同形漢語と二字漢語の同形漢語につい
ても同様の比較
同形漢語の中国語使用頻度の参照資料 • Ø Ø
Ø
Ø
中国語の頻度は《现代汉语频率词典》(北京
语言学院语言教学研究所1986)を参照
1979年~1985年の調査の結果
政治等(24.39%)、科学(15.73%)、生活口語 (11.17%)、文学(48.71%)の四つの分野の179 種の文章+小中学校の教科書
延べ約181万字、131万語
やや古い資料だが、これ以外に現時点では適当
な資料が見当たらず
同形漢語の頻度の平均・標準偏差と
日中両語における頻度の相関(レベル別)
表5 日中同形語の頻度の平均・標準偏差と日中両語における頻度の相関(レベル別)
レベル
レベル
頻度順位*
語数
全体
漢語
同形語
**
頻度(日本語) (‰)
頻度計算
の対象(N)
***
平均
標準偏差
-1000 0001-992
1002
461
423
327
0.3297
0.4623
-2000 1003-1964
999
454
413
344
0.0909
0.0172
-3000 2002-2955
1027
451
386
291
0.0515
0.0069
-4000 3029-3903
1034
417
342
234
0.0344
0.0034
-5000 4063-4794
960
397
323
224
0.0254
0.0018
全体 0001-4794
5022 2180
1887
1420
0.1182
0.2512
*同一順位に同頻度の複数の語があるため順位と累計語数は必ずしも一致しない。
**主観的判断を加えて認定したもの
***《现代汉语频率词典》にデータのある同形語1466語から数詞46語を除いたもの
頻度(中国語) (‰)
平均
0.0054
0.0015
0.0014
0.0010
0.0006
0.0021
標準偏差
0.0330
0.0031
0.0047
0.0026
0.0012
0.0162
日中両語の使用頻度の相関
スピアマン
順位相関
0.297
-0.069
0.081
0.081
-0.014
0.337
有意確率
p<.01
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
p<.01
同形漢語の頻度の平均・標準偏差と
日中両語における頻度の相関(字数別)
表6 日中同形語の使用頻度の平均・標準偏差と日中両語における頻度の相関(字数別)
頻度(日本語) (‰)
頻度(中国語) (‰) 日中両語の使用頻度の相関
漢語のタイプ
頻度計算
の対象(N)
*
平均
標準偏差
平均
標準偏差
一字漢語
366
0.2095
0.4579
0.0057
0.0315
二字漢語
1054
0.0865
0.0919
0.0009
0.0018
全体
1420
0.1182
0.2512
0.0021
0.0162
*《现代汉语频率词典》にデータのある同形語1466語から数詞46語を除いたもの
スピアマン
順位相関
0.248
0.327
0.337
有意確率
p<.01
p<.01
p<.01
使用頻度の相対的な偏り • 同形漢語1420語の各語の日中両語の頻度につき、 z得点を算出し、日中両語間の差を求めた • 最も正の値の大きかった5語(相対的に日本語にお
いて使用頻度の高い同形漢語):「円〔通貨単位〕」
「年」「様」「月」「市」 • 最も負の値の大きかった5語(相対的に中国語にお
いて使用頻度の高い同形漢語):「的」「不」「他」
「説」「個」
同形漢語の使用頻度の
相関についての考察 • 全体の相関(.334)は高くないが、著しく低いわけで
もなく、ある程度の相関がある • 高頻度1000語のレベルで相関があるが、そのほか
はレベル別には相関はない • 一字漢語と二字漢語を比べると、頻度順5000語ま
でにおいては、同形語のうち二字漢語が4分の3 • 相関はいずれも高くはないが、一字漢語における相
関は.248と全体の相関よりも低い • 一字漢語には極端に頻度の大きい語が日中の双
方にいくつかあるためであろう
中国語の相対使用頻度の高い語の特徴 a.政治性の強い語・・・その言語社会の特徴を表す語
例)「主義」「革命」「発展」「国家」 b.中国語においては機能語や代名詞の用法を持つもの
例)「的」「不」「他」「個」「上」 c.中国語で日本語よりも高頻度の意味・用法をもつもの
例)「好」(「よい」の意あり)、「説」(「言う」などの意あり) d.日本語ではややフォーマルだが、中国語では日常的な語
例)「継続」「出現」「増加」
*d:日本語の和漢対応が中国語で一語のケースが多い
Ø 頻度の相違には文体差以外の原因(a,b,c)もある
5.同形漢語の音韻的類似度 Degree of Phonological Similarity with Homographic Sino­Japanese Words 対象 • 国立国語研究所(2006)における頻度上位5000位以内
の日中同形漢語 • 茅本(1995)に音韻的類似度のデータのある漢字の語
二字同形語のうち、一字にしか音韻類似度のデータが
ない場合は対象外 • 茅本(1995):教育漢字996字につき、11人の被験者に
よる7点法で評定値を算出 • 北京语言学院语言教学研究所(1986) の採録語のみ
=客観的認定による同形漢語のみ
音韻的類似度が高いことの意味 • 上級までは音韻的類似度の高い語は発音課題にお
いて反応時間が短い。母語(中国語)の音韻情報が
活性化している。(茅本1996、2000) • 中級学習者において発音の類似度が高い語のほう
が聞き取りの成績がよい(呉1999) • 字体が異なっていても音韻的類似度の影響がある。
日本語漢字と中国語漢字は脳内でリンクしている。
(茅本2000) • 超上級になると母語の音韻の影響は少ない(玉岡・
松下1999、茅本2000)
日中両語の同形漢語の音韻的類似度
(茅本(1995)の7点法評定値に基づく)
平均
932
2.63
対象語数 (n) 二字同形語
一字同形語
計
370
1302
2.54
2.60
標準偏差
1.46
1.35
1.14
音韻的類似度の高い
高頻度の二字同形漢語
(評定平均値5点以上) 31語
夫婦、意思、心理、医療、修理、安心、
有利、代理、理由、料理、負担、豆腐、
部門、内部、恋愛、優秀、以来、困難、
開始、医師、理論、態度、印象、材料、
利用、移動、年代、意図、自由、用意、
皮膚
音韻的類似度の高い
高頻度の一字同形漢語・接辞
(評定平均値5点以上) 25語
医、他、部、愛、新、心、林、案、付、
芯、三、流、府、代、帯、台、料、要、
小、面、板、欄、版、弾、単
音韻的類似度の低い
高頻度の二字同形漢語
(評定平均値2点以下)305語の一部例
適応、行政、平行、競争、正確、政界、
直径、職業、継続、通常、作者、想像、
学者、言語、人形、制作、学校、傾向、
誤解、形成、英語、交通、積極、景色、
平日、政策、頭痛、生活、光景、結局
音韻的類似度の低い
高頻度の一字同形漢語・接辞
(評定平均値2点以下)175語の一部例
五、最、百、月(ガツ)、月(ゲツ)、者、種、
楽、校、語、逆、二、家、句、街、界、業、
局、直、製、制、庁、祭、鏡、精、着、章、
職、際、径、行
6.同形漢語の字体の一致とずれの分布 Distribution of Orthographical Similarities and Differences with Homographic Sino­Japanese Words 対象 • 国立国語研究所(2006)頻度上位5000位以内の漢語 • 複数の表記がある場合、最も頻度の高い表記を代表形
として確定して中国語と比較 • 旧漢字(康煕字典体、繁体字)が一致 • 北京语言学院语言教学研究所(1986) の採録語のみ
=客観的認定による同形漢語のみ
⇒ 二字同形漢語 1027語、一字同形漢語 384語、
計1411語
同形漢語の字体(確認) • 「同形語」=漢字表記が同じになる語 • ただし字体の相違は定義上は考慮しない
=旧漢字(康煕字典体=繁体字)の表記が同じ
(康煕字典体)
《經濟》
「経済」(日本漢字)
〈经济〉(中国漢字=簡体字)
「同形語」の字体は実際には
どのぐらい一致しているのか?
(単漢字レベル) • 常用漢字1945字のうち、1100字前後が日中
で同じ字体(天沼1981、兒島2003) • 字体の異なるものも同じパタンが多くの字に
現れる場合も多い • 語レベルでは?
字体の異同の認定基準 • 同形
筆画がほぼ同じとみなせるもの
一部画数や微妙な筆画が異なるものも含む
(例:〈差〉 〈印〉 〈以〉 ) • 類似形
二つ以上の構成要素
・・・構成要素の一部が同じ位置で一致(例:〈动〉 )
一つの構成要素
・・・筆画の半分以上が同じ位置で一致(例:〈册〉 ) • 異形
上記以外
日本語漢字の一部構成要素が中国語で一字となっ
ている場合は位置が異なると考えて異形
(例: 〈离〉 〈类〉 〈复〉 )
字体の一致度が高いことの意味
(一部、予測も含む)
v一部を除けば字体の相違は上級者には認知
処理に影響ない(玉岡・松下1999) • 同形:
同形 (成人の教養ある中国語系学習者に
とって)学習負担が軽い • 類似形:
形 認知(受容)は比較的しやすいが、
産出にはやや学習負担がある、誤表記自体
は異形よりも多くなる • 異形:
異形 認知(受容)、産出ともにある程度の
学習負担がある
高頻度の二字同形漢語の字体の異同
高頻度の二字同形漢語の字体の異同
*「語例」は中国語表記を示す n=1027
第二字
同形
語例
語数
類似形
(%)
語例
語数
異形
(%)
語例
語数
計
(%)
語数
(%)
同形 〈意思〉
479 46.6% 〈夫妇〉
160 15.6% 〈理论〉
63 6.1%
702 68.4%
第 類似形 〈负担〉
一
字 異形 〈异常〉
155 15.1% 〈遗传〉
53 5.2% 〈视线〉
26 2.5%
234 22.8%
50 4.9% 〈开设〉
20 1.9% 〈准备〉
21 2.0%
91 8.9%
計
684
66.6%
233
22.7%
110
10.7%
1027
100.0%
高頻度の一字同形漢語の字体の異同
高頻度の一字同形漢語の字体の異同
*「語例」は中国語表記を示す
n=1027
語例
同形
語数
(%)
〈医〉
256 67.2%
類似形 〈爱〉
91 23.9%
異形
計
〈头〉
34
8.9%
381 100.0%
** ここでは語として扱っているが、実際は
ほとんどが接辞的な用法を主とする造語成分
同形漢語の音韻と字体の異同のまとめ • 音韻は全体的にはあまり似ていない(茅本 1995)が、一部によく似ている語がある(が、
必ずしも学習に有利とは限らない) • 高頻度漢語同形語の字体は約3分の2が一
致する。語レベルでもほぼ半数が一致する。 • 表記は音韻に比べれば全体に類似性が高い
⇒今後はこれらのデータを習得や認知の研究
に応用
漢語データベースの一部公開 • 同形語データの一部(音韻・表記
の類似度)をエクセル形式で公開 http://www.wa.commufa.jp/~tatsum/ • 「松下言語学習ラボ」
とGoogleに入れて検索してください
高頻度で音韻も類似し、字体も同じで、
基本義・用法も類似度の高い二字漢語
10語
心理
有利
豆腐
印象
年代
修理
理由
以来
利用
自由
高頻度で音韻の類似度が低く、
字体も異なりの大きい二字漢語
10語(意味・用法が大きく異なるものはなし)
車両〈车辆〉
予備〈预备〉
関係〈关系〉
認識〈认识〉
経営〈经营〉
農業〈农业〉
業務〈业务〉
興奮〈兴奋〉
営業〈营业〉
経験〈经验〉
まとめ(1) • 国研(2006)と天野・近藤(2000)の上位約 1000語での一致語数は41.6%しかなく、相
関も.256しかない • 漢語は5000語までの頻度レベルで40%以上
を占め、安定。和語や外来語の割合が頻度
レベルによって大きく異なるのと対照的。
まとめ(2) • 5000語までの頻度レベルで、表記上の日中同形漢
語は全体の3分の1以上を占め、上位2000語では 40%を超える。 • 表記上の日中同形漢語は、漢語においては85%以
上を占め、上位2000語では90%を超える • 5000語までの頻度レベルで、日中同形漢語の約4 分の3が二字漢語、約4分の1が一字漢語 • 日中同形語の日中両語における頻度の相関は全体
として.334。相関を下げる要因としては、中国語の
ほうに特徴的な意味・用法・使用域をもつ語があるこ
と。
まとめ(3) • 漢語同形語の音韻は全体的にはあまり似て
いないが、一部によく似ている語がある • 高頻度漢語同形語の字体は約3分の2が、
語レベルでもほぼ半数の語は一致する • 表記は音韻に比べれば全体に類似性が高い
Ø 同形漢語の特質を理解した上で、学習上、楽
できるところは楽をして、注意すべき点に集
中するのがよいと思われる
引用文献(1)
• 天沼 寧(1981)「中日漢字字体対照表」『大妻女子大学文学
部紀要』13, 59-82
• 天野成昭、近藤公久編著(1999) NTTデータベースシリーズ
『日本語の語彙特性』第1期(第1巻~第6巻)、書籍+CDROM版、三省堂(CD-ROM版2003)
• 天野成昭、近藤公久編著(2000) NTTデータベースシリーズ
『日本語の語彙特性』第2期(第7巻)、書籍+CD-ROM版、三
省堂(CD-ROM版2003)
• 荒川清秀(1979)「中国語と漢語 -文化庁『中国語と対応する
漢語』の評を兼ねて」『愛知大学文学会文学論叢』62、1-28
• 荒屋 勤(1983)「日中同形語」『大東文化大学紀要 人文科
学』21, 17-29
• 加藤稔人(2005)「中国語母語話者による日本語の漢語習得
-中国語との対応のしかたによる漢語習得過程の違い-」
『日本語教育』125, 96-105
引用文献(2) • 茅本百合子(1995)「同一漢字における中国語音と日本語の
音読みの類似度に関する調査」『広島大学日本語教育学科
紀要』5, 67­75 • 茅本百合子(1996)「日本語漢字と中国語漢字の形態的・音
韻的差異が中国語母語話者による日本語漢字の読みに及
ぼす影響」『広島大学教育学部紀要』第二部、45,345­352 • 茅本百合子(2000)「日本語を学習する中国語母語話者の漢
字の認知 -上級者・超上級者の心内辞書における音韻情
報処理-」 • 呉 佳頴(1999)「台湾人日本語学習者の聴解力に関する研
究 -漢語と和語の聞き取りを中心に-」広島大学教育学研
究科修士論文 • 国立国語研究所(1962) 国立国語研究所報告21『現代雑誌
九十種の用語用字 第一分冊 総記および語彙表』秀英出版 • 国立国語研究所(2006)『現代雑誌200万字言語調査語彙
表』公開版(ver.1.0) 以下よりダウンロード可(2009年1月26 日確認) http://www2.kokken.go.jp/goityosa/index.html
引用文献(3)
• 曾根博隆(1988)「日中同形語に関する基礎的考察」『明治学院
論叢』424, 61-96
• 高野繁男・王 宝平(2002)「日中現代漢語の層別 ―日中同形
語に見る―」神奈川大学人文学研究所編『日中文化論集』
118-139、勁草書房
• 玉岡賀津雄・松下達彦(1999)「中国語系日本語学習者による
日本語漢字二字熟語の認知処理における母語の影響」第4回
国際日本語教育・日本研究シンポジウム「アジア太平洋地域
における日本語教育と日本研究:現状と展望」(香港理工大
学)、配布資料
• 陳 毓敏(2003)「中国語を母語とする日本語学習者の漢語習
得について ―同義語・類義語・異義語・脱落語の4タイプから
の検討―」『2003年度 日本語教育学会秋季大会 予稿集』
174-179、日本語教育学会 • 兒島慶治(2003)「日本・中国・台湾・香港における漢字字体の
共通性と相違性」『比較文化研究』62, 63­74
引用文献(4) • 徳弘康代編著(2008)『日本語学習のためのよく使う順漢字 2100』三省堂 • 文化庁(早稲田大学語学教育研究所日本語科)(1978)『中
国語と対応する漢語』大蔵省印刷局 • 北京语言学院语言教学研究所(1986)《现代汉语频率词典》
北京语言学院出版社 • 宮島達夫(1994)「日中同形語の文体差」『語彙論研究』283­ 299、むぎ書房(初出は『阪大日本語研究』4) • 茂木俊伸・山口昌也・丸山岳彦・田中牧郎(2005)「語種辞書
『かたりぐさ』の開発と月刊雑誌の語種構成分析」『言語処理
学会第11回年次大会発表論文集』341­344 • 山崎 誠・小沼 悦(2004)「現代雑誌における語種構成」『言
語処理学会第10回年次大会発表論文集』670­673