失 敗 知 識 活 用 −化学物質・プラント分野− - 失敗学会

失 敗 知 識 活 用
−化学物質・プラント分野−
東京大学大学院
工学系研究科
土 橋 律
消防庁事故統計より
1
検討対象
1.化学物質およびプラント
1)危険物:
a)消防法危険物
b)労働安全衛生法危険物、
c)廃棄物
2)高圧ガス:
3)火薬類:
組織
1)委員会・作業部会 (* 作業部会メンバー)
田村昌三*:東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
小川輝繁*:横浜国立大学大学院工学研究院教授
若倉正英*:神奈川県産業技術総合研究所専門研究院
新井充* :
新井充* :東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授
土橋律 :東京大学大学院工学系研究科助教授
吉永淳 :東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授
安藤隆之 :
安藤隆之 :独立行政法人産業安全研究所主任研究官
板垣晴彦 :
板垣晴彦 :独立行政法人産業安全研究所主任研究官
和田有司*:独立行政法人産業技術総合研究所
古積博 :独立行政法人消防研究所グループ長
辻明彦* :
辻明彦* :災害情報センター
小林光夫*:東京大学大学院新領域創成科学研究科
客員共同研究員
客員共同研究員
オブザーバー:日本化学工業協会,石油連盟、化学会社等
2)作業担当;災害情報センター
2
検討課題と検討スケジュール
スケジュール
検討課題
2001 年
2001年
9月
10月
10
月
11月
11
月
12月
12
月
2002 年
2002年
1月
2月
3月
事故事例情報調査と事故事例
情報DBの作成
事故事例の収集・整理と
マスターDBの作成
失敗知識DBの作成
代表的事故事例の選定・解析
と事故事例の体系化
失敗知識DBの国際化の検討
失敗知識の体系化とシナリオ
の構築
化学物質・プラントの成果概要(1)
1.事故事例情報調査と事故事例情報DBの作成
1)事故事例情報の収集・整理
2)事故事例情報データベースのフォーマットの検討
3)事故事例情報DBの作成(95件)
2.事故事例の収集・整理とマスターDBの作成
1)事故事例の分類法の検討
2)事故事例の収集・
整理
3)事故事例マスターDBのフォーマットの検討
4)事故事例マスターDBの作成(400件)
3
事故事例情報収集機関
研究所・学会・協会等
大学
安全工学協会
東京大学
核燃料サイクル開発機構
横浜国立大学
高圧ガス保安協会
京都大学
国立医薬品食品衛生研究所
東京工業大学
財団法人
早稲田大学
消防科学総合センター
神奈川県総合技術総合研究所
全国火薬類保安協会
官公庁
全国危険物保安協会
経済産業省
総合安全工学研究所
厚生労働省
損害保険料率算定会
文部科学省
中央労働災害防止協会・安全衛生情報センター
消防庁
東京消防庁消防科学研究所
東京消防庁
独立行政法人 産業技術総合研究所
科学警察研究所
日本化学工業協会
地方自治体(川崎市、大阪市)
日本火災学会
日本原子力研究所
日本損害保険協会
P12
名称
危険物に係る事故事例
著者・編者・監修者 消防庁
提供・発行機関
消防庁
発行年
毎年
体裁
冊子
公開/非公開
限定公開(消防関係者)
対象事故
危険物に係る事故爆発、火災、漏洩、破損、他
対象期間
1962∼
件数
約13,000
情報分類(A,B)
A(都道府県からの年報をまとめたもの)
発生日時
年月日・時分(発生、発見、覚知)、覚知方法( 119、無線、ホット
ライン、警察電話、駆付、事後聞知、一般加入、他)
終了日時
年月日時分(鎮圧・応急措置、鎮火 ・処理完了)
気象状況
天気、風向、風速、気温、湿度
発災場所地名
都道府県、特別防災区域名称
発災施設・土地利用 消防法の危険物施設製造所、屋内貯蔵所()、屋外タンク貯蔵所()、
屋内タンク貯蔵所、地下タンク貯蔵所()、簡易タンク貯蔵所、移動
タンク貯蔵所()、屋外貯蔵所、給油取扱所()、販売取扱所()、
移送取扱所、一般取扱所()、危険物運搬中、仮貯蔵・仮取扱、無許
可 ;事業所内、事業所外(海上、陸上);特別防災区域事業所区分
(第1種(レイアウト対象内(施設地区:製造、貯蔵、入出荷、用役、
事故事例情報データベース
記( 載例 )
INDEX
事務管理)・レイアウト対象外)、第2種)
発災事業所名
○
業種
日本標準産業分類(中、小分類)、事業の概要
発災工程
概要、フロー図、図面
4
化学物質・プラントの成果概要(2)
3.事故事例の体系化と代表的事故事例の選定・解析
1)事故事例の体系化の検討
a)事故事例の分類
b)事故事例の体系化
2)代表的事故事例の選定(300件)
3)代表的事故事例の詳細情報の収集と解析
a)詳細情報調査(
詳細情報調査(現地調査、ヒヤリング等
現地調査、ヒヤリング等))
b)事故事例の解析
c)解析結果の整理
4.代表的事故事例の失敗知識DBの作成
1)失敗知識DBのフォーマットの検討
2)失敗知識DBの作成(200件)
事故事例の分類
1.災害の形態:発火・
爆発、健康被害、環境汚染
2.危険性物質:危険物、火薬類、高圧ガス、
毒物・
毒物・
劇物、環境汚染物質
3.取扱環境
1)工程:製造、輸送、貯蔵、消費、廃棄
2)化学プラント
3)化学反応
4.原因・要因 ⇒ キーワード階層
5.規模
ヒヤリハット、インシデント、アクシデント、重大事故
6.国内、海外 ⇒ 国内事故を優先
5
キーワード階層表[原因:Causes]
第1階層
1
2
3
4
5
6
人的要因
組織要因
化学的要
因
設備・装
置要因
外部要因
刺激要因
7
原因不明
9
その他
第2階層
11
19
21
第3階層
不適切な行動・操作
その他
安全管理不備
20
設計ミス
29
その他
31
混合系反応
(例)
作業情報の未伝達、誤伝達、誤指示
など
手順の誤り、動作の欠落、動作の乱
れ(タイミングなど)、制御不良、不適
当な代替操作など
判断情報不足、設備選択・条件設定
のミスなど
席をはずす等の不在、急死、急病、
中毒、居眠りなど
111
情報伝達・受取りミス
112
操作・作業ミス
113
判断・決定のミス
114
操作能力の喪失・欠落
119
その他
211
212
訓練・教育不足
管理手法ミス
213
組織体制の欠陥
201
事前評価不足
202
設備設計ミス
203
条件設定ミス
定期点検不備など
組織間の統制や指揮命令系統の不
備など
安全評価の不足・不備など
不適切材料、設備欠陥、センサーな
どの不足・不備など
操作条件、不適切な化学品使用など
311
誤混合
条件のミスなど
312
不純物との接触による反応
32
自己反応
321
322
分解
重縮合
41
制御系不良
411
コンピュータ誤作動・不具合
42
機器不良
43
材料損傷
412
421
422
423
431
432
433
439
制御不十分・不良
電気的故障
機能不良・喪失
部品劣化・損傷
疲労
腐食
変質
その他
49
51
その他
自然災害
511
512
519
異常気象
地震
その他
52
53
交通事故
意図的原因
531
532
テロ
放火
54
55
59
61
ドミノ効果
ユーティリティ停止
その他
機械力
62
熱
63
点火源
64
69
光
その他
71
特定困難
72
不明
系にあってはならないものとの接触
錆、反応残渣、装置材料(断熱材
等)、空気、水、酸、アルカリとの接
触など
熱、光、機械的刺激によるもの
熱、光によるもの
温度制御、濃度制御、圧力制御
機器の停止または非定常的作動
固着、管閉塞、計測器不良など
振動等による疲労など
ゴムの硬化など
設備不良・不備など
寒気、猛暑、台風、落雷など
交通事故、列車事故、座礁など
振動、火災、爆発など
停電、水道など
飛散物の衝突、飛び火等
611
612
613
621
622
631
632
633
634
打撃
摩擦
衝撃
温度制御からの逸脱
(冷却器故障等)
蓄熱による温度バランスのずれ
(自然発火)
火炎
火花
高温物体
ストーブ等
静電気
危険性などの性質だけがあがってい
るもの
事例からは読み取れないもの
キーワード階層表[原因:Causes]
第1階層
1
2
人的要因
組織要因
第2階層
11
19
21
20
3
化学的要
因
不適切な行動・操作
その他
安全管理不備
設計ミス
29
その他
31
混合系反応
32
自己反応
第3階層
(例)
作業情報の未伝達、誤伝達、誤指示
など
手順の誤り、動作の欠落、動作の乱
れ(タイミングなど)、制御不良、不適
当な代替操作など
判断情報不足、設備選択・
条件設定
のミスなど
席をはずす等の不在、急死、急病、
中毒、居眠りなど
111
情報伝達・受取りミス
112
操作・
作業ミス
113
判断・
決定のミス
114
操作能力の喪失・欠落
119
その他
211
212
訓練・
教育不足
管理手法ミス
213
組織体制の欠陥
201
事前評価不足
202
設備設計ミス
203
条件設定ミス
定期点検不備など
組織間の統制や指揮命令系統の不
備など
安全評価の不足・不備など
不適切材料、設備欠陥、センサーな
どの不足・
不備など
操作条件、不適切な化学品使用など
311
誤混合
条件のミスなど
312
不純物との接触による反応
321
322
分解
重縮合
系にあってはならないものとの接触
錆、反応残渣、装置材料(断熱材
等)、空気、水、酸、アルカリとの接
触など
熱、光、機械的刺激によるもの
熱、光によるもの
6
キーワード階層表[原因:Causes]
4
第1階層
設備・装
置要因
5 外部要因
6 刺激要因
7 原因不明
第2階層
41
制御系不良
42
機器不良
43
材料損傷
第3階層
(例)
411 コンピュータ誤作動・不具合
412
421
422
423
431
432
433
439
49
51
その他
自然災害
52
53
交通事故
意図的原因
54
55
59
61
ドミノ効果
ユーティリティ停止
その他
機械力
62
熱
63
点火源
64
69
光
その他
71
特定困難
72
不明
制御不十分・不良
電気的故障
機能不良・喪失
部品劣化・損傷
疲労
腐食
変質
その他
温度制御、濃度制御、圧力制御
機器の停止または非定常的作動
固着、管閉塞、計測器不良など
振動等による疲労など
ゴムの硬化など
設備不良・不備など
寒気、猛暑、台風、落雷など
511 異常気象
512 地震
519 その他
交通事故、列車事故、座礁など
531 テロ
532 放火
振動、火災、爆発など
停電、水道など
飛散物の衝突、飛び火等
611
612
613
621
622
631
632
633
634
打撃
摩擦
衝撃
温度制御からの逸脱
(冷却器故障等)
蓄熱による温度バランスのずれ(自然発火)
火炎
火花
高温物体
ストーブ等
静電気
危険性などの性質だけがあがってい
るもの
事例からは読み取れないもの
9 その他
失敗知識データベース 分類例
No.
1-1
1-2
1-3
adic nr
現象
危険性物質
128556
発火爆発
危険物・火 製造
薬類
原因・要因
規模
312 、 122
不明( 実験 内
室)
硫硝酸のニトロ化、未反応物が触媒になり
ニトロセルロースを分解
アクシデント
内
塩素酸カリとオーラミン混合物に水分混入で自然
貯蔵、反応 213, 632, 203
重大事故
(取り置き場所
で反応と工事)
内
発火;環境設定ミス
3重のミス。 Bz スルフォン酸 Na を放置。その近く
危険物・火 製造、プラン 211 、 113, 312, (不明)
薬類
ト、蒸留
621, 622
危険物(エチ 製造、乾燥 113,213,55,321 不明
ルザンセートソー
内
真空蒸留中の停電のため、蒸留条件が変わ
り、不純物により爆発
内
乾燥時の停電により俳風機停止で高温分
解。分解熱蓄積で火災
内
異常な温度上昇、冷却水通水できず、手動
安全弁動かず。温度上昇の原因?
内
蒸発缶での過剰濃縮、混入
84952 発火・爆発 火薬類
8478 発火爆発
危険物
取扱環境
貯蔵、反応 202, 213,
1-4
109186
爆発
1-5
128546
火災
1-6
108447
爆発
1-7
5498
1-8
117967
爆発
危険物
1-9
9450
爆発
危険物(過 製造、プラント、 111 or 112, 211 重大事故
酸化ベンゾイ 希釈
or 213, 321,613
ル)
内
外
コメント
で反応させるため NaOH と接触。溶断の火
花
ダ)
危険物(p-ニ 製造、プラント、 422( メ ン テ 不 十 重大事故
トロフェネトール) 反応
分)201?
火 災 ・ 爆 危険物(火 製造、プラン 112 or 113, 203 重大事故
発、周辺 薬類)
ト、濃縮
(412?) 312
製 造 , フ ゚ ラ ン 112,
ト、反応
32
201(202), ア ク シ テ ゙ ン 内
ト?
何回かに分けて投入する原料を1回で投
入 。 緊 急 時 の 冷 却 能 力 不 足 、 emergency
blow-down?
1-10
2-1
( ガス噴出) 危険物
爆発
危険物
58693 爆発
111810
製造、プラン 112,211,42, 633
ト、反応
製造、プラン 43, 312,32
内
希釈時に秤量の衝撃などで爆発
重大事故
内
温度上昇を早めるためバルブ開度大、その後
インシデント
内
バルブ閉止不完全で温度異常上昇。
溶接部亀裂からの漏れ、付着物との接触
ト、反応
7
化学物質・プラント分野のデータ項目とJST指定のデータ項目の対応
化学物質・プラント分野のデータ項目
01)登録関係
011)登録番号:分野、事例番号
012)編集日
013)著者ID
014)事例編集履歴
015)マルチメディアファイル
016)DB登録の動機
02)事例
021)名称
022)代表図
03)事故概要
0301)事例発生日
0302)事例発生地
0303)事例発生場所
0304)プロセス
0305)単位工程
0306)単位工程フロー
0307)反応
0308)化学反応式
0309)物質
0310)事故の種類
0311)死者数
0312)負傷者数
0313)物的被害
0314)損害額
0315)全経済損失
0316)社会的影響度
04)事故発生概要 041)事象
042)経過
05)事故発生原因
06)事故基本要因(事故の背景等)
07)事故防止対策
08)総括
09)知識化
10)関連情報
11)シナリオ
101)後日談
102)よもやま話
103)その他
111)主シナリオ
112)副シナリオ
113)補足フレーズ
12)情報源
13)当事者ヒアリング
14)備考
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
JST指定のデータ項目
1.事例番号
2.データ作成日
3.著者ID
24.事例編集履歴
32.マルチメディアファイル
20.データベース登録の動機
4.事例名称
5.代表図
6.事例発生日付
7.事例発生地
8.事例発生場所
対応なし
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
26.死者数
27.負傷者数
28.物的被害
29.被害金額
30.全経済損失
31.社会への影響
10.事象
11.経過
12.原因
16.背景
13.応急措置
14.対策
9.総括
15.知識化
17.後日談
18.よもやま話
対応なし
21.主シナリオ
22.副シナリオ
23.補足フレーズ
25.情報源
19.当事者ヒアリング
33.備考
04
041
011
012
事例番号
データ作成日
CC0000001
2002-03-0 8
013
014
著者 ID
事例編集履歴
AC0008
2002-03-0 8
015
マ ル チ メ デ ィ ア フ 単位工程フロー1;01T1、単位工程フロー2;01T2、
ァイル(単位工程フ 化学反応式 1;01K1
ロー、化学反応式、 図 1.化学式;vinylidenenorbornene 、図 2 .化学式;
017
化学式等)
cyclopentadiene 、図 3.化学式;butadiene
デ ー タ ベ ー ス 登 録 無知に基づく単純な誤操作が大きな事故を起こした
の動機
事例
例として取り上げた。
02
021
022
03
事例名称
代表図
事故概要
エチリデンノルボルネン製造中の発火
ENB 装置図;D01
1973-10-1 8
神奈川県 川崎市
03022 発生場所
0303 プロセス
化学工場
製造
0304
0305
分野独自のデータ項目
〃
〃
〃
〃
〃
〃
応急措置と対策の区別が必要
分野独自のデータ項目
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
<=>
↑
“<=>”は同等と対応付けられる項目
事例情報( 記載例 )
01
登録関係
0301 事例発生日付
03021 発生地
備考
単位工程
反応
単位工程フロー(マ 単位工程フロー1 、単位工程フロー2
ルチメディアファ
イル)
0306
0307
反応
付加(Die ls-Alder reaction)
化学反応式(マルチ 化学反応式 1
メディアファイル)
0308
物 質( 化学式はマル ビ ニ リ デ ン ノ ル ボ ル ネ ン (vinylidenenorbornene)
チ メ デ ィ ア フ ァ イ 図 1.化学式
0309
ル)
事故の種類
漏洩、火災
0310
0311
0312
死者数
負傷者数
物的被害
2
2
反応器,塔槽類,熱交換器,分解炉,計器類,配管
類,モーター焼損.シクロペンタジエン及びブタジ
エンを主体とする混合液約 7.5 キロリットル焼失.
事故発生概要
事象
ブタジエンとジシクロペンタジェンを原料として
EPDM の添加剤エチリデンノルボルネンを製造する
装置で、ブタジェンとシクロペンタジェンをディー
ルス・アルダー反応 (DA 反応)させる反応器を臨時
に停止させる時に、反応器の攪拌機を早く停止させ
たため暴走反応になり、反応器フランジ部から内容
液が噴出し自然発火した。作業員2人死亡、2人が
重傷をおった。
042
経過
73年10月18日11時30分 装置内の冷凍機
が不調のため、臨時停止する事を決定した。
13時05分頃 DA 反応器を含む 部門の停止作業
が開始された。この作業は13時30分頃終了した。
DA 反応器への張込み停止後まもなく、攪拌機の停止
と反応器出口の圧力調節弁のブロック弁を閉にし
た。
反応器圧力(平常運転圧 21kg/cm2G)は張り込み停
止に伴い瞬間的に降下したが、その後徐々に圧力上
昇を示した。14時10分頃と14時15分2回に
渡り、圧力調節弁のブロック弁を開けて圧抜きを行
った。圧力が下がったので再度ブロック弁を閉めた。
14時50分頃から圧力はふたたび徐々に上昇を始
め、14時55分頃には21kg/cm2G をこえ、15時
10分頃には 22kg/cm2G を越えた。
圧力は急上昇を始め、10分間で 35kg/cm2G 以上と
な り 、 チ ャ ー ト は 振 り 切 れ た 26kg/cm2G か ら
35kg/cm2G まで上昇する時間は約1分であった。こ
のとき器内温度は150℃以上でチャートは振り切
れていた。
この頃反応器から15m離れた地上と計器室で異常
音を検知し、運転員3人が駆けつけた。
15時19分頃 異常音が検知されてから間もな
く、反応器上部で火災が発生した。最初安全弁のフ
ランジから突然炎が吹き出し、この直後さらに反応
器上部で少し大きな炎が上がり、その数秒後に反応
器全体が包まれるような炎となった。
8
05
06
事故発生原因
事故基本要因
DA 反応器の攪拌機を、まだ反応継続可能な温度にあ
るときに停止した。さらに反応器出口に設置された
圧力調節弁のブロック弁を閉にした。そのため、反
応を抑えるための冷却が不可能になり、反応(発熱
反応である)が進み、圧力と温度が上がった。圧力
当該装置は復活せず、廃棄となった。後年立地を変
え、茨城県で建設されたがその時には設備、運転マ
ニュアルを見直し次のような改善がなされていた。
1.運転マニュアルでは攪拌機を止める場合は、反
応器内組成が反応のポテンシャルが小さくなってい
ること、温度が50℃以下になっていることが必要
条件であり、攪拌が止まった場合は内容液を緊急抜
1.攪拌停止をしたことが直接原因であり、基本要
因である。なぜ、攪拌を停止したかが本当の基本要
因である。
2.DA 反応は発熱反応であり、発熱反応の危険性お
よびその対策に関しての運転員の教育が不十分だっ
た。DA 反応は無触媒の発熱である、反応で、組成と
安全弁の2重化さらに危険を察知した場合に内容液
を緊急放出する遠隔操作弁を気相からと液相からの
2カ所に設けた。
のは、当然の帰結である。この程度のことは、当然
運転スタッフは理解し、運転員に充分に理解させて
おく 必要があった。
3.停止時の反応器内の組成は、平常運転時と同じ
と推測される。反応のポテンシャルを持ったまま停
止している。
4.運転マニュアルの不備。工事のための停止作業
の指示が明確でなかった。単に平常シャットダウン
法に順ずるとだけあり、必ずしも具体的ではない。
またマニュアルの基礎とした基本設計資料には攪拌
機の停止時期について反応器内温度40℃以下とす
事故防止対策
応急措置
対策
上昇に対し圧力調節弁のブロック弁を開けて2回圧
抜きをした。その後温度、圧力が急激に上昇し、各
部フランジのテフロン製ガスケットが溶融し、そこ
から高温の内容物が噴出し、自然 j 発火・爆発を起
こした。
温度だけで反応速度が決定される。また攪拌を止め
れば反応器内の流れが止まり、冷却は自然対流伝熱
だけになり冷却量は極端に低下する。と同時に、仮
に hot spot ができても混合して冷却することがで
きなくなる。当然反応器内の温度上昇が起き、 hot
spotも起きやすい。攪拌を止めれば暴走反応になる
07
071
072
き出しを行う。
2.設備面では安全上の重要機器の電源の2重化、
反応器内温度計点数の増加、反応器冷却面積の増加、
08
総括
ブタジェンとシクロペンタジェンを原料としてビニ
ルノルボルネンを合成する攪拌機と冷却コイルを有
する液相液封形反応器で、他の設備の故障のため停
止させた。このとき平常運転の反応器内組成のまま、
すぐに攪拌機を止めたため、冷却ができずに暴走反
応に移行した。高温状態のためテフロンパッキンの
一部が溶融し、そこから噴き出た内容液、ガスが高
09
知識化
温のため自然発火した。
1.この装置は自社開発の技術の1号機であり、国
内初、世界でも3基目程度の装置であった。ある段
階までは攪拌機の停止条件が明確になっていたが、
運転の末端には徹底していなかった。研究所での研
究開発段階、プロセス設計段階、詳細設計段階、建
設段階、試運転段階および本運転段階の各段階毎に、
プロセスの安全性を確保に十分な配慮が払われると
ともに、一つの段階から次の段階に移行する際の引
渡しのルールおよび引渡後のフォローアップ体制が
確立することの重要性を示している。
2.たった一つの基本的な操作ミス判断ミスで営々
る旨記されているが、マニュアルには明確に基準化
されていなかった。
と築き上げてきた全てがご破算になることがある。
(この場合は流れがなければ、伝熱の効率が極端に
悪くなる事を見落とした。)装置を預かる管理者、ス
公設消防隊、海上保安部、警察、自衛消防隊など計
タッフは装置の特性のみならず、運転の基本操作を
十分に理解し、作業員を教育しなければならない。
マルチメディアファイルの例
9
マルチメディアファイルの例
マルチメディアファイルの例
10
化学物質・プラントの成果概要(3)
5.失敗知識DBの国際化の検討
1)失敗知識DBと活用に関する米国・カナダの調査
a)Pennsylvania University、
University、b)CSB
CSB、
、c)EPA
d)
OSHA、
OSHA
、e)
CCPS、
CCPS
、f
)Natural Resources Canada
g)Texas A&M University
2)
失敗知識DBと活用に関するヨーロッパの調査
a)EU
EU--JRC
JRC、
、b)HSE
HSE、
、c)TNO
TNO、
、d)INERIS
6.失敗知識の体系化とシナリオの構築
1)失敗知識の体系化の検討
2)シナリオの検討(12件)
3)シナリオの整理
安全のレベルアップ
・安全研究
(総合的研究)
(基礎的研究)
・高度安全技術
・安全の専門家の育成
・安全の総合評価体制
「失敗の基本要因」から「失敗」に向かって伸びる矢を
「安全の確保」がブロックしています。
「安全の確保」の後ろで「安全のレベルアップ」が応援
しています。
そして最終的に「安全の確保」のブロックを
くぐり抜けた矢が「失敗」に到達しています。
安全の確保
・安全教育
・安全管理
・安全情報の共有化
失敗の基本要因
・安全意識の欠如
・安全倫理の欠如
・安全知識の欠如
失敗
・人間特性
11
① ヒューマンエラーを前提とした措置の欠如
誤った混合
事故事例 1-1
ヒューマンエラーを起こさ
ないための措置の欠如
人的ミス
ヒューマンエラーを前提とした
措置の欠如
事故事例 1-2
ヒューマンエラーを起こさ
ないための措置の欠如
人的ミス
反応暴走
爆発
反応暴走
爆発
反応暴走
爆発
連絡忘れ
ヒューマンエラーを前提とした
措置の欠如
ヒューマンエラーが失敗に
繋がらないシステムの欠如
事故事例 1-3
ヒューマンエラーを起こさ
ないための措置の欠如
人的ミス
誤った保管
ヒューマンエラーを前提とした
措置の欠如
② 現場の危機管理意識の欠如
作業省略
(確認)
事故事例 2-1
現場の危機管理意識の欠如
爆発
慣れによる注意不足
作業省略
(装置停止)
事故事例 2-2
無謀行為
現場の危機管理意識の欠如
爆発
慣れによる注意不足
事故事例 2-3
現場の危機管理意識の欠如
反応暴走
慣れによる注意不足
爆発
警報無視
報告省略
12
③ 副反応や不純物による異常反応についての検討不足
事故事例 3-1
分解反応
副反応生成物の生成
副反応や不純物による
異常反応についての検討不足
爆発
事故事例 3-2
副反応生成物の生成
副反応や不純物による
異常反応についての検討不足
爆発
不純物起因の反応
事故事例 3-3
副反応や不純物による
異常反応についての検討不足
爆発
不純物を含む原料の使用
不純物起因の反応
④ 発熱反応時の攪拌機停止→攪拌再開による失敗
冷却能力不足
局部蓄熱
全体に
反応進行せず
未反応物蓄積
攪拌機停止
攪拌再開
急激な反応
温度・圧力の
制御不能
蒸気噴出
爆発
急激な反応
温度・圧力の
制御不能
蒸気噴出
爆発
引火性蒸気
に引火
爆発
急激な混合
⑤ 危険性に関する理解不足による設計ミス
冷却能力不足
設計ミス
不適切な
材質の使用
蓄熱
静電気火花
発生
金属接触し
火花発生
爆発
⑥ 危機管理意識の欠如による定期点検不備
定期点検不備
装置腐食
不純物混入
装置亀裂
漏洩
取付部離脱
漏洩
急激な反応
温度・圧力の
制御不能
蒸気噴出
爆発
13
⑦ 慣れによる作業標準の不遵守
慣れ
作業標準の
不遵守
中毒
温度・圧力
上昇
蒸気噴出
予想外
装置動作
火薬誤装填
火薬着火
爆発
予想外反応
温度・圧力
上昇
蒸気噴出
爆発
温度・圧力
上昇
蒸気噴出
中毒
予想外反応
環境汚染
⑧ 取り扱い物質の危険性に関する認識不足
危険性
認識不足
水混入
予想外反応
雑な作業
予想外反応
自己反応性
物質放置
予想外反応
注意不足
爆発
温度・圧力
上昇
蒸気噴出
火災
⑨ 危険物質の存在についての説明不足
中毒
無謀行為
説明不足
危険物質
存在知らず
爆発
混触
火災
⑩ 危険性評価の不足
反応暴走
危険性評価
の不足
温度・圧力
上昇
無謀な操作
爆発
爆発
反応暴走
温度・圧力
上昇
爆発
⑪ 全く別の失敗により誘発される「ドミノ効果」
誘爆
爆発
タンク破片
飛散
別の失敗
火災
放水
爆発
破片が別の
タンク直撃
異物混入
重油漏洩
予想外反応
火災
予想外反応
爆発
⑫ 設備・装置の不良に起因する失敗
冷却水停止
パイプ亀裂
冷却水漏洩
異物混入
設備・装置
の不良
腐食
パイプ亀裂
異物混入
硝酸塩漏洩
発熱
予想外の反応
異物混入
予想外反応
温度・圧力
上昇
爆発
爆発
14
平成14年度の検討課題(1)
1.失敗知識DBの拡充(100例追加)
1)事故事例情報調査(追加)
a)事故事例情報の収集・整理
b)事故事例情報DBの拡充
2)事故事例の収集・
整理とマスターDBの作成(追加)
a)事故事例の収集・整理
b)事故事例マスターDBの拡充
3)代表的事故事例の詳細情報の収集・解析と
失敗知識DBの拡充(100例追加)
a)詳細情報調査(現地調査、ヒヤリング等)
b)事故事例の解析
c)解析結果の整理
d)失敗知識DBの作成
平成14年度の検討課題(2)
2.失敗知識の体系化とシナリオの整備
1)失敗知識の体系化の検討
2)シナリオの整備
3.失敗知識DBの国際化版の作成
1)失敗知識DB国際化版のフォーマットの検討
2)失敗知識DB国際化版の作成
4.ヒヤリハット事例の解析と知識DB化の検討
1)ヒヤリハット事例の解析と知識化の検討
2)ヒヤリハット事例の失敗知識DB化の検討
3)ヒヤリハット事例の収集方法の検討
15
化学物質・プラント分野失敗シナリオの体系化
−製造プロセスにおける失敗の顕在化と要因−
製造プロセスフローと失敗の顕在化
企 画
研究開発
設 計
運 転
建 設
プロセス
機 械
補 修
定 常
非定常
条件変更
失敗の顕在化
直接原因
・操作の失敗:ヒューマンファクター
予見困難、無知、不注意、誤判断、ルール不遵守等
・フェールセーフを考慮した対策の欠如
・設備・機器・システムの故障等
間接要因
体質、運営方針、組織、管理、教育等
環境の変化
社会、経済、文化、風土
等
1. 反応プロセスにおける失敗の顕在化と要因
反応プロセスにおける失敗の顕在化
制御失敗
爆 風
二次災害
輻射熱
制御失敗 制御失敗 制御失敗
反 応プロセス
危険要因:
温度、圧力、雰囲気等
発 熱
異常反応
分 解
暴走反応
制御失敗
飛散物
爆 発
火 災
生成物
ヒト健康影響
発火
制御失敗
物質:
漏洩
特性、量
環境影響
漏洩物
取扱条件:
直接原因
危険要因把握・物質潜在危険性評価・危険度評価不十分
操作失敗:ヒューマンファクター
予見困難、無知、不注意、誤判断、ルール不遵 守
フェールセーフ機構失敗
(落雷、冷却不足、空気流入、設計強度、施
設不良、雨漏り)
設備・機器・システム故障
※気温上昇、地震
(溶接火花、バルブ操作ミス、冷却
不足、配合ミス、放置、清掃不十分
反応抑制剤、空気流入、異物混入、
雨漏り)
16
2. 輸送プロセスにおける失敗の顕在化と要因
輸送プロセスにおける失敗の顕在化
制御失敗
自然漏洩
輸 送プロセス
制御失敗
制御失敗
危険要因:
衝撃等
漏 洩
混触反応
漏洩物
生成物
温度、圧力、雰囲気等
制御失敗
制御失敗
異常反応
物質:
特性、量
爆発
火災
発熱
暴走反応
分解
制御失敗
取扱条件:
加 熱
発火
生成物
爆風、輻射熱、飛散物
二次災害
火災遭遇
ヒト健康影響
環境影響
直接原因
危険要因把握・物質潜在危険性評価・危険度評価不十分
操作失敗:ヒューマンファクター
予見困難、無知、不注意、誤判断、ルール不遵守
フェールセーフ機構失敗
設備・機器・システム故障
3. 貯蔵プロセスにおける失敗の顕在化と要因
貯蔵プロセスにおける失敗の顕在化
制御失敗
自然漏洩
貯 蔵プロセス
制御失敗
制御失敗
危険要因:
衝撃等
漏 洩
漏洩物
混触反応
生成物
温度、圧力、雰囲気等
制御失敗
異常反応
物質:
特性、量
取扱条件:
暴走反応
発熱
分解
制御失敗
加 熱
制御失敗
爆発
火災
生成物
発火
爆風、輻射熱、飛散物
二次災害
火災遭遇
ヒト健康影響
環境影響
直接原因
危険要因把握・物質潜在危険性評価・危険度評価不十分
操作失敗:ヒューマンファクター
予見困難、無知、不注意、誤判断、ルール不遵守
フェールセーフ機構失敗
設備・機器・システム故障
17
4. 使用プロセスにおける失敗の顕在化と要因
使用プロセスにおける失敗の顕在化
爆 風
制御失敗
使 用プロセス
輻射熱
衝撃等
制御失敗
制御失敗
危険要因:
発熱
分解
発火
加
熱
温度、圧力、雰囲気等
物質:
制御失敗
二次災害
飛散物
爆発
火災
生成物
生成物
混触反応
生成物
特性、量
取扱条件:
制御失敗
暴 露
ヒト健康影響
環境影響
直接原因
危険要因把握・物質潜在危険性評価・危険度評価不十分
操作失敗:ヒューマンファクター
予見困難、無知、不注意、誤判断、ルール不遵守
フェールセーフ機構失敗
設備・機器・システム故障
5. 廃棄プロセスにおける失敗の顕在化と要因
廃棄プロセスにおける失敗の顕在化
爆 風
制御失敗
廃 棄プロセス
制御失敗
危険要因:
温度、圧力、雰囲気等
加
熱
制御失敗
異常反応
物質:
発熱
制御失敗
爆発
火災
分解
二次災害
飛散物
生成物
発火
制御失敗
混触反応
特性、量
取扱条件:
輻射熱
衝撃等
生成物
制御失敗
漏えい
漏えい物
ヒト健康影響
環境影響
直接原因
危険要因把握・物質潜在危険性評価・危険度評価不十分
操作失敗:ヒューマンファクター
予見困難、無知、不注意、誤判断、ルール不遵守
フェールセーフ機構失敗
設備・機器・システム故障
18
まとめ
n
化学物質・プラント分野での失敗(事故)は、
化学反応、設備・装置、人的、組織など多
くの要因を含み複雑である
n
化学産業は失敗によりノウハウを培ってき
た ⇒ 失敗の知識化による系統的な対策
は大変有効と期待される
n
海外においても事故事例のデータベース
化等、失敗の活用は盛んに進められてい
る
19