第 13 回超音波骨折治療研究会参加記 辻 英樹 平成 22 年 1 月 23 日

第 13 回超音波骨折治療研究会参加記
辻 英樹
平成 22 年 1 月 23 日、JR 東京駅八重洲口横の東京ステーションコンファレンスで第 13 回超
音波骨折治療研究会が開催された。私はこの回があることは知ってはいたが、一度も参加したこ
とはなかった。外傷・骨折治療に深く関わる施設の一員として、もっと LIPUS についての知識
を得よう、と思い今回帝人ファーマからの参加のお誘いに乗り、日帰りで東京へ向かった。(来
週の北整災の準備さえなければ・・・のんびり宿泊できたのだが)
「骨はどのように癒合し、また LIPUS がどのような機序で骨癒合促進に働くのか?」という
ことは大いなるテーマである。しかし現段階ではテーマを山に例えればまだまだ我々は裾野から
よく見えぬ頂上を見上げているような状態である。今回も数台の基礎演題、と臨床演題を拝見し
たのであるが、
「まだまだ手探り」という印象はぬぐえなかった。気づいた点を列挙する。
①「骨」という組織が非常に特殊な組織であるため、基礎研究のモデル設定が難しいのではない
か、という印象を受けた。これは教育研修講演、長崎大小守教授の講演「荷重、非荷重時におけ
る骨細胞の機能」を拝聴しても同様であった。
②LIPUS の治療効果は「経験」優先で、明らかに骨癒合にプラスに働くという事実を基礎研究
によって証明している、というのが現実である。よってどのような機序で云々、、
、というのがま
だよくわからないので、まだまだ「裾野」なのである。
③2008 年 4 月より LIPUS の適応が新鮮骨折に広げられたことで、今回は 5 題の新鮮骨折例が示
された。どれも N が少なく、比較対照群の設定も一定でなく、評価基準もバラバラである。岡山、
熊本のグループが前向き研究を計画、もしくは施行中とのことであるが、この研究会が牽引して
いくような臨床研究が行われるのが理想的ではないか、と思った。
④LIPUS 不良因子として、骨折部の gap の残存、感染、不安定性の存在は骨癒合一般として当
然とはしても、受傷から施行までの期間が重要であることは一考に価する、と思われた。つまり
患者さんが承諾すればほぼ全症例に使用してよい、ということであろう。また当てる部位が非常
に重要で、超音波は決して放射状に体内に入るワケではなく、骨に直線状に入るとのことである。
Discussion で「粉砕骨折のどの骨折線にあてるのがよいか?」という問いかけがあり、
「Gap の
一番大きいところがよいのではないか」という意見もあったが、マメに透視下で当てる位置がず
れないようにする配慮が実は一番重要なのである。
⑤悪性腫瘍の病的骨折部、化膿性脊椎炎の(陳旧)病巣部、肘 OCD への応用使用の演題もあっ
たが、これらに関しては臨床経験も皆乏しく、また基礎研究に至っては全く未知の世界のようで
ある。
以上、LIPUS に関しては「わからないことだらけ」というのが現状のようである。一つ言え
ることは臨床医がもっと積極的に使うことは決して悪いことではない、ということである。今ま
で私自身、外傷骨折治療医でありながら、LIPUS の使用については非常に不勉強であった。3 ヵ
月以上の難治例について適応、という時代の意識がまだこびりついており、その使用は悪く言え
ば「初期治療の不成功」ということをしぶしぶ自分自身認めているような気が無意識にしていた
ようである。今後は新鮮例において積極的に使用しようと思った次第である。