pdf file - Kawamata Laboratory, Tohoku University - 東北大学

第23回 回路とシステム
軽井沢ワークショップ
The 23rd Workshop on Circuits and Systems
in Karuizawa, April 19-20, 2010
高次の可変ディジタルフィルタを用いた狭帯域雑音除去システムの
改良
Improvement of Narrow-Band Noise Suppression Systems
Using a High-Order Variable Digital Filter
熊本裕樹
越田俊介
阿部正英
東北大学大学院工学研究科電子工学専攻
川又政征
Yuki KUMAMOTO
Shunsuke KOSHITA
Masahide ABE
Masayuki KAWAMATA
Department of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University
1
はじめに
ディジタルフィルタを用いた適応信号処理システ
ムの例として,狭帯域雑音の除去システムがある.狭
帯域雑音除去とは,広帯域の信号に対して狭帯域雑
音が付加された場合に,狭帯域雑音を除去すること
である.狭帯域雑音の除去システムを実現するディジ
タルフィルタとして,適応ノッチフィルタ (Adaptive
Notch Filter: ANF)[1] がよく用いられる.
しかし,ANF を用いて狭帯域雑音の除去システム
を実現する場合に,ある問題点が生じる.それは,単
一正弦波以外の狭帯域雑音を除去する場合に、ANF
では雑音を十分には除去しきれないことである.本
稿では,単一正弦波以外の狭帯域雑音のことを帯域
幅を持った雑音と呼ぶ.帯域幅を持った雑音の除去
を,帯域阻止型適応フィルタを用いて実現できる.そ
して,帯域幅を持った雑音の除去性能を向上するた
めに,帯域阻止型適応フィルタの遷移域の形状が急
峻であることが望まれる.つまり,狭帯域雑音の除
去システムを実現する帯域阻止型適応フィルタの次
数を高くすることで帯域幅を持った雑音の除去性能
を向上することができる.なぜなら,ディジタルフィ
ルタには次数を高くすることで遷移域の形状が急峻
になる性質があるからである.しかし,文献 [1] にお
ける ANF の次数は 2 次に固定されており,次数を高
くすることができない.したがって,帯域幅を持っ
た雑音を除去する場合には,次数を高くすることが
できる帯域阻止型適応フィルタを選択することが有
効である.
そこで,著者らはこれまでの研究において高次の
可変帯域阻止フィルタ(Variable Band-Stop Filter:
VBSF)を用いた狭帯域雑音の除去システムを提案
している.文献 [2] において,6 次の VBSF を用いた
狭帯域雑音の除去システムが提案しており,ANF[1]
の次数よりも高い次数の帯域阻止型適応フィルタが
用いられている.文献 [2] における VBSF の実現法
は,周波数変換 [3] であり,プロトタイプフィルタの
遅延素子を 2 次の全域通過フィルタで置換すること
で VBSF を実現している.そして,帯域幅を持った
雑音が広帯域の信号に付加されている場合において,
提案法の雑音除去性能が ANF よりも向上している
結果が示されている.
しかし,文献 [2] の手法では,VBSF の次数が高く
なるにつれて VBSF のフィルタ係数の記述及び適応
アルゴリズムの導出が困難になる問題がある.なぜ
なら,VBSF のフィルタ係数をプロトタイプフィル
タのフィルタ係数と可変パラメータ α で記述する必
要があり,次数が高くなるとこの記述が複雑化する
からである.
本稿では,これを解決する VBSF の実現方法を提
案し,提案法に基づいた適応アルゴリズムを簡潔な
形で導出する.まず,VBSF の内部状態を差分方程
式で記述することで,高次の VBSF を容易に実現で
きる再帰的な式を導出する.次に,提案法に基づい
た適応アルゴリズムを簡潔な形で導出する.最後に,
提案法を用いた計算例を示す.
2
VBSF を用いた狭帯域雑音除去システム
本章では,まず狭帯域雑音除去システムのモデ
ルを示す.次に,VBSF について述べ,最後に狭帯
域雑音除去システムを構築する際の一般的な高次の
VBSF の実現法とその問題点について述べる.
− 143 −
[3].
z −1 ← T (z)
図 1: VBSF を用いた狭帯域雑音除去システムのモ
デル
(2)
式 (2) において,帯域阻止フィルタを実現する T (z)
は 2 次の全域通過伝達関数である.プロトタイプ低
域通過フィルタの伝達関数 H(z) に対して,式 (2) を
適用し,VBSF を実現する.したがって,プロトタ
イプ低域通過フィルタの伝達関数 H(z) と VBSF の
伝達関数 HBS (z) との関係は以下のようになる.本
稿におけるプロトタイプフィルタは,低域通過フィ
ルタである.
HBS (z) = H(z)|z −1 =T (z)
(3)
VBSF の阻止域幅は可変であるが,本稿では固定と
する.そして,本稿における VBSF の阻止域幅は,
プロトタイプフィルタの阻止域幅と等しくする.ま
た,VBSF の中心周波数は可変パラメータにより変
化させる.この要求を満たす VBSF を実現する T (z)
は,以下の式で与えられる [4].
T (z) =
VBSF を用いた狭帯域雑音除去システムのモ
デル
VBSF を用いた狭帯域雑音除去を実現するシステ
ムのモデルを図 1 に示す.図 1 において,時刻 n に
おける入力信号 x(n) を次式で与える.
x(n) = xs (n) + xv (n)
(1)
式 (1) における xs (n) と xv (n) は,それぞれ広帯域
信号と狭帯域雑音を表す.xs (n) は,平均 0,分散 σs2
の白色ガウス過程とする.xv (n) は,帯域幅 B の狭
帯域雑音である.このようにして与えた入力信号の
周波数スペクトルを図 2 に示す.
2.2
(4)
式 (4) における可変パラメータ α と VBSF の中心周
波数 ω0 との関係式は以下のように与えられる [4].
図 2: 入力信号の周波数スペクトル
2.1
−αz −1 + z −2
1 − αz −1
VBSF
α = cos ω0
(5)
本稿における VBSF は,式 (3) と式 (4) を用いてプ
ロトタイプフィルタを周波数変換することで,阻止
域幅固定,中心周波数可変の VBSF を実現できる.
2.3
高次の VBSF の一般的な実現法とその問題点
本節では,VBSF の一般的な実現法について述べ,
VBSF の次数を高くした場合の問題点を指摘する.本
節では議論を簡単にするため,プロトタイプフィル
タの次数は 2 次とする.つまり,プロトタイプフィ
ルタの伝達関数を次式で与える.
H(z) =
b0 + b1 z −1 + b2 z −2
1 + a1 z −1 + a2 z −2
(6)
式 (6) に対して式 (4) の周波数変換を適用すると,
VBSF の伝達関数 HBS (z) は次式で表される.
VBSF は,可変フィルタに分類される.可変フィ
HBS (z) =
ルタは,少ないパラメータの調節で周波数特性を変
化させることができるフィルタである.可変フィル
タの周波数特性を変化させるパラメータは,可変パ
=
ラメータと呼ばれる.
b0 + b1 T (z) + b2 T 2 (z)
1 + a1 T (z) + a2 T 2 (z)
( −2
)
( −2
)
−1
−1 2
b0 + b1 z−αz−αz
+ b2 z−αz−αz
−1 +1
−1 +1
(
)
(
)
−2
−1
−2
−1 2
1 + a1 z−αz−αz
+ a2 z−αz−αz
−1 +1
−1 +1
本稿では,周波数変換 [3] を用いて VBSF を実現
する.周波数変換は,以下の代入式に基づいている
b′0 + b′1 z −1 + b′2 z −2 + b′3 z −3 + b4 z −4
(7)
1 + a′1 z −1 + a′2 z −2 + a′3 z −3 + a′4 z −4
− 144 −
=
式 (7) における分母係数と分子係数はそれぞれ次式
のようになる.
a′1 = −α(a1 + 2)
a′2 = a1 + α2 (1 + a1 + a2 )
a′3 = −α(a1 + 2a2 )
a′4 = a2
b′0 = b0
b′1 = −α(2b0 + b1 )
b′2 = b1 + α2 (b0 + b1 + b2 )
b′3 = −α(b1 + 2b2 )
b′4 = b2
(8)
式 (7)–式 (8) からわかるように,VBSF の一般的な
実現法では周波数変換後の伝達関数 HBS (z) のフィル
タ係数を,プロトタイプフィルタ H(z) のフィルタ係
数と可変パラメータ α に基づく式で記述する必要が
ある.したがって,プロトタイプフィルタの次数が
高次になるほど HBS (z) のフィルタ係数の記述が困
難になる.これが適応アルゴリズムの導出を困難に
する原因となる.なぜなら,適応アルゴリズムを導
出する際に HBS (z) のフィルタ係数を α で微分する
必要があり [5],プロトタイプフィルタの次数が高く
なるほど,この微分の式が非常に複雑になるからで
ある.本稿では,これらの問題を解決する手法を提
案する.
3
図 3(b) のブロック図に基づいて式 (7)–式 (8) の手
順を踏まずに VBSF を実現する方法を導出する.ま
ず,VBSF を実現するための変数の定義を以下のよ
うに与える.図 3(a) に示されるように,プロトタ
イプフィルタの伝達関数の分母係数と分子係数をそ
れぞれ,[1, a1 , a2 , · · · , aN ],[b0 , b1 , b2 , · · · , bN ] とお
く.図 3(b) に示されるように,時刻 n におけるサブ
フィルタの入出力の値を uk (n) とおく.ここで,k =
0, 1, · · · , N である.そして,周波数変換する際の全
域通過フィルタの分母係数と分子係数を,式 (4) より
[1, −α(n), 0] と [0, −α(n), 1] で与える.ここで,α(n)
は時刻 n における可変パラメータの値を表す.
上記の定義に基づいて,VBSF の記述法を導出す
る.k 番目のサブフィルタの出力信号 uk (n) は,入力
信号が uk−1 (n) の 2 次の IIR フィルタの出力信号で
あることから,差分方程式で記述できる.したがっ
て,uk (n) と y(n) は次式のように記述できる.
u0 (n) = −
式 (3) で表される周波数変換は,プロトタイプフィ
ルタの伝達関数 H(z) の z −1 を全域通過フィルタの
伝達関数 T (z) で置換することを意味する.また,周
波数変換をブロック図で考えると,プロトタイプフィ
ルタの遅延素子が全域通過フィルタ T (z) で置き換え
られることを意味する.本稿では,T (z) として式 (4)
を用いるので,VBSF はプロトタイプフィルタの遅
延素子を式 (4) で表される 2 次の全域通過フィルタ
に置換することで実現される.
図 3(a) に,N 次のプロトタイプフィルタのブロッ
ク図を示す.図 3(b) に,図 3(a) の遅延素子を 2 次
am um (n) + x(n)
(9)
uk (n) = −α(n)uk−1 (n − 1)
+ uk−1 (n − 2) + α(n)uk (n − 1) (10)
y(n) =
VBSF の実現方法
N
∑
m=1
提案法
本章では,式 (7)–式 (8) のような手順を踏まずに
VBSF を実現する手法を提案する.この手法に基づ
く適応アルゴリズムを簡潔な形で導出する.本稿で
は,プロトタイプフィルタのフィルタ構造を直接型
II とする.
3.1
の全域通過フィルタ T (z) で置換したブロック図を示
す.本稿では,図 3(b) における点線部で囲まれた部
分をサブフィルタと呼び,サブフィルタの入出力の
関係式を差分方程式で記述し,VBSF を実現する.
N
∑
b0 um (n)
(11)
m=0
式 (9)–式 (11) を用いることで VBSF を実現できる.
これより,式 (7)–式 (8) の手順を踏まずに,VBSF を
実現できることが示された.式 (9)–式 (11) を用いる
ことにより,高次の VBSF を容易に実現することが
できる.すなわち,式 (9)–式 (11) における N を変
化させるだけで VBSF を実現できる.
3.2
適応アルゴリズム
式 (9)–式 (11) で記述された VBSF を用いた狭帯
域雑音除去のための適応アルゴリズムを導出する.本
稿で導出する適応アルゴリズムは勾配法に基づいて
[
]
おり,評価関数 E y 2 (n) を最小化するアルゴリズム
である.ここで,E [∗] は期待値演算を示す.
[
]
まず,E y 2 (n) における期待値演算を瞬時値 y 2 (n)
に置き換える.すると,VBSF を実現するために必
要な可変パラメータ α の更新式は次式のように記述
− 145 −
(a) プロトタイプフィルタのブロック図
(b) VBSF のブロック図
図 3: プロトタイプフィルタと VBSF のブロック図
できる.
と式 (10) をそれぞれ α(n) で微分する.
α(n + 1) = α(n) − µy(n)
∂y(n)
∂α(n)
(12)
ここで,µ はステップサイズパラメータである.
= −
∂uk (n)
∂α(n)
= −uk−1 (n − 1) − α(n)
∂y(n)
∂α(n)
=
=
=
∂
∂α(n)
N
∑
N
∑
∂b0
um (n) +
∂α(n)
m=0
N
∑
m=0
b0
∂um (n)
∂α(n)
m=0
b0
∂um (n)
(14)
∂α(n)
∂uk−1 (n − 1)
∂α(n)
(18)
式 (18) において,uk−1 (n−1),uk−1 (n−2) と uk (n−1)
を α(n) で偏微分する項があるが,この演算をするこ
とは困難なので,次の近似を適用する.
∂α(n − 1)
≈1 ∂α(n)
(15)
ここで,式 (14) から式 (15) を得るために次の性質を
利用した.
∂b0
=0
∂α(n)
(17)
(13)
m=0
N
∑
∂um (n)
∂α(n)
+
}
b0 um (n)
m=1
am
∂uk−1 (n − 2)
+ uk (n − 1)
∂α(n)
∂uk (n − 1)
+α(n)
∂α(n)
式 (12) の右辺第二項における ∂y(n)/∂α(n) は,式
(11) より以下のように表される.
{
N
∑
∂u1 (n)
∂α(n)
式 (19) を用いることで,次の近似式が成り立つ.
∂uk (n − 1)
∂α(n)
(16)
式 (16) は,周波数変換前後ではプロトタイプフィル
タのフィルタ係数は変化しないことから導かれる.式
(15) における ∂um (n)/∂α(n) を求めるために,式 (9)
(19)
=
≈
∂uk (n − 1) ∂α(n − 1)
∂α(n − 1) ∂α(n)
∂uk (n − 1)
(20)
∂α(n − 1)
式 (20) の近似式を利用することで,∂y(n)/∂α(n) を
− 146 −
求めるために必要な式は以下のように記述できる.
≈ −uk−1 (n − 1) − α(n)
∂uk−1 (n − 1)
∂α(n − 1)
∂uk−1 (n − 2)
+
+ uk (n − 1)
∂α(n − 2)
∂uk (n − 1)
+α(n)
∂α(n − 1)
∂u1 (n)
∂α(n)
∂y(n)
∂α(n)
≈ −
N
∑
m=1
≈
N
∑
m=0
am
∂um (n)
∂α(n)
∂um (n)
bm
∂α(n)
(21)
30
20
Power[dB]
∂uk (n)
∂α(n)
40
10
0
−10
(22)
−20
−30
0
1
40
Power[dB]
式 (21)–式 (23) より,プロトタイプフィルタの次
数が高次であっても,式 (21)–式 (23) における N を
変化させるだけで容易に適応アルゴリズムを構築で
きる.つまり,式 (21)–式 (23) を用いることによっ
て,高次の VBSF に基づく適応アルゴリズムを容易
に構築できる.
0.4
0.6
0.8
Normalized frequency
図 4: 入力信号の周波数スペクトル
式 (21)–式 (23) を用いることにより,∂y(n)/∂α(n)
が再帰的に求められる.このようにして得られた
∂y(n)/∂α(n) を式 (12) に代入することにより,可変
パラメータが更新される.
4
0.2
(23)
20
0
−20
計算例
0
0.5
1
Power[dB]
本章では,提案法に基づく狭帯域雑音除去システ
Normalized frequency
ムを用いた狭帯域除去の計算例を示す.比較として,
(a)VBSF の出力信号の周波数スペクトル
ANF に基づく計算例も示す.ANF の適応アルゴリズ
ムは,文献 [1] における Lattice Gradient Algorithm
40
を用いる.入力信号は,式 (1) で表される信号とす
る.xs (n) は,平均 0,分散 0.01 の白色ガウス過程
20
である.xv (n) は,平均 0,分散 1 の白色ガウス過
程を帯域通過フィルタに通すことで生成した.ただ
0
し,xv (n) を生成するために用いた白色ガウス過程と
xs (n) は互いに独立の白色ガウス過程である.xv (n)
を生成するために用いた帯域通過フィルタは,中心
−20
周波数 0.3π[rad],帯域幅 0.1π[rad] の 20 次バタワー
ス型 IIR フィルタとした.つまり,狭帯域雑音の帯域
0
0.5
1
Normalized frequency
幅は,0.1π[rad] である.このようにして与えた入力
信号 x(n) の周波数スペクトルを図 4 に示す.VBSF
(b) ANF の出力信号の周波数スペクトル
の次数は,6 次とした.ANF の次数は 2 次である [1].
図 5: 各フィルタの出力信号の周波数スペクトル
VBSF と ANF の阻止域幅は,0.15π[rad] とした.こ
こで,VBSF と ANF の阻止域幅を狭帯域雑音の帯域
幅と比べて 0.05π[rad] 広くとるのは,それぞれのフィ 狭帯域雑音除去システムにおけるステップサイズパ
ルタの遷移帯域幅が 0 ではないからである.VBSF ラメータ µ は,ともに 0.005 とした.VBSF と ANF
を用いた狭帯域雑音除去システムと ANF を用いた の初期中心周波数は,ともに 0.5π[rad] とした.
− 147 −
Normalized center frequency
心周波数の平均をとったものを示している.図 6(b)
も同様に,実験を 200 回独立に行い,ANF の中心
周波数の平均をとったものを示している.図 6 より,
VBSF と ANF ともに,中心周波数が狭帯域雑音の
中心周波数に収束していることがわかる.収束速度
は,本章で示した例では VBSF を用いた場合の方が
速い結果が得られた.しかし,ANF を用いた場合の
方が VBSF を用いた場合と比べて収束速度が速いこ
とが多い.
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
狭帯域雑音の中心周波数
0.25
0
5000
Iteration
10000
Normalized center frequecy
(a)VBSF の中心周波数の時間変化
0.5
0.45
0.4
0.35
0.3
狭帯域雑音の中心周波数
0.25
0
5000
Iteration
10000
5
まとめ
狭帯域雑音の除去性能を向上するために,VBSF
の次数を高くすることが求められる.しかし,文献
[2] では周波数変換により実現される VBSF の次数が
高くなるほど,VBSF のフィルタ係数の記述が複雑
になるという問題点があった.この問題点は適応ア
ルゴリズムの構築も困難にするという問題があった.
本稿では,VBSF の内部状態を差分方程式で記述す
ることによって,高次の VBSF を容易に実現できる
手法を提案した.そして,上記の提案法に基づく適
応アルゴリズムを簡潔な形で導出した.最後に,狭
帯域雑音除去の計算例を示し,高次の VBSF を用い
た狭帯域雑音除去システムの有効性を示した.
参考文献
(b) ANF の中心周波数の時間変化
[1] P. A. Regalia, “Adaptive IIR Filtering,” Marcel
Dekker, 1995.
図 6: 各フィルタの中心周波数の時間変化
図 5 は,それぞれ提案法に基づいた VBSF と ANF
の各出力信号の定常状態における周波数スペクトル
を表している.図 5 より,6 次の VBSF を適応フィ
ルタとした方が ANF を適応フィルタとしたよりも狭
帯域雑音が除去できていることがわかる.また,図
5(b) と図 5(a) を比べて図 5(b) の方が広帯域信号の
パワーがより減衰されていることがわかる.広帯域
信号は,保存されるべき信号なので減衰されてしま
うことは望ましくない.これは,2 次の ANF の遷移
帯域幅が 6 次の VBSF の遷移帯域幅と比べて広いこ
とが原因である.これらの結果から,帯域幅を持っ
た狭帯域雑音を除去する場合には,著者らが提案す
る高次の VBSF を用いた狭帯域雑音除去システムが
有効であることがわかる.
図 6 は,それぞれ提案法に基づいた VBSF と ANF
の各中心周波数の時間変化と狭帯域雑音の中心周波
数の関係を表している.図 6(a) における VBSF の中
心周波数は,実験を 200 回独立に行い,VBSF の中
[2] 越田俊介, 阿部正英, 川又政征, “高次の可変ディ
ジタルフィルタを用いた狭帯域信号検出システム
に関する検討,” 平成 21 年度電気関係学会東北支
部連合大会講演論文集, p. 266, Aug. 2009.
[3] A. G. Constantinides, “Spectral transformations for digital filters,” Proc. IEE, vol. 117,
no. 8, pp. 1585–1590, Aug. 1967.
[4] 樋口龍雄, 川又政征, “ディジタル信号処理,” 昭晃
堂, 2000.
[5] K. Hashimoto and M. Kawamata, “Fast adaptive detection of sinusoidal signals using variable
digital filters and all-pass filters,” Proceedings
of IEEE International Symposium on Intelligent
Signal Processing and Communication Systems,
pp. 73–77, Nov. 2001.
− 148 −