1984年 から1987年 の間に水痘 ワクチン接種を 受けた小児にみられた

188
1984年 か ら1987年 の間 に水痘 ワク チ ン接 種 を
受 けた小 児 にみ られ た軽 症 自然水 痘
東京都立駒込病院
高
山
直
秀
1)現
Key
words:
(平成1年6月27日
受 付)
(平成1年7月13日
受 理)
Mild
varicella,
か っ た.し
あ っ た.ワ
の うち,1名
た が っ て,ワ
夫 1)
幹
vaccine,
Vaccinee
旨
ま で に 水 痘 ワ ク チ ン接 種 を 受 け た 一 般 健
の 中 で の 自然 水 痘 発 症 例 に つ い て 調 査 し た.こ
受 け た16歳 未 満 の 者 は 延 べ463名,接
児 が35名 い た.そ
Varicella
か ら水 痘 ワ ク チ ン市 販 直 前 の62年3月
康 小 児 を 観 察 対 象 と し,そ
抗 体 獲 得 率 は83.1%で
谷
東 京 都三 鷹 保 健所
要
当 院 に て 昭 和59年10月
南
の期 間 に 水 痘 ワ ク チ ン接 種 を
種 前 抗 体 陰 性 者 の うち接 種 後 に抗 体 上 昇 を 認 め た 者 は276名 で あ り,
ク チ ン接 種 後4週
間 以 上 経 過 して 発 疹 が 出現 し,水 痘 と診 断 され た 小
は 接 種 前 の 抗 体 が 陽 性 で あ り,ま た4名
は接種 後抗 体 の上昇 が み られ な
ク チ ン に よ り抗 体 上 昇 の あ った276名 に お け る発 症 者 は30名(発
症 率 は10.9%)
で あ った.し か し再 接 種 を して 抗 体 を獲 得 した27名 を 加 え る と303例 中 発 症 者30例 で あ り,発 症 率 は9.9%
と な った.帯
状 痕 疹 を 発 症 した 例 は な か っ た.
な お ワ ク チ ン 接 種 後 の 発 症 例 で の 症 状 は ほ とん どが 軽 症 な い し ご く軽 症 で あ り,水 痘 の 発 症 を 完 全 に
は 抑 制 で き な い と は い え,水
緒
痘 ワ ク チ ン は 有 効 で あ る と 判 断 され た .
言
ワ クチ ン接 種 を 受 け た16歳 未 満 の 者 を 調 査 の対 象
水 痘 ワク チ ン接 種 後 で あ って も水 痘 一 帯 状 庖 疹
ウイ ル ス(VZV)に
暴 露 され て,軽 度 の 発 疹 発 現
と した.水 痘 ワ クチ ン は大 阪 大 学 微 生 物 病 研 究 所
高 橋 教 授 よ り分 与 され た,Lot
を み る こ と はす で に報 告 さ れ て お り1)∼3),高橋 は
8406, 8408,
ワ ク チ ン 接 種 後 の 自然 水 痘 発 症 率 は1.5∼10%で
いた.
あ る と述 べ て い る4).す で に 我 々 は 当 院 に て1984
8409,
7910, 8403, 8404,
8410, 8504,
8506, 8509を 用
血 中抗 体 価 は,接 種 前 お よ び接 種4∼8週
後に
年10月 か ら1985年11月 まで に 水 痘 ワク チ ンを 接 種
採 取 した ペ ア血 清 に つ い て,補 体 添 加 中 和 反 応 で
した 小 児 で の 接 種 後 自然 水 痘 発 症 率 を4%と
測 定 した5).ま た 一 部 の ワ ク チ ン接 種 者 に つ い て
報告
した5).今 回 は 水 痘 ワ ク チ ン市 販 直 前 の1987年3
月 まで に 水 痘 ワク チ ン接 種 を 受 け た 小 児 を観 察 対
は 水 痘 皮 内反 応6)を実 施 した.
ワ ク チ ン接 種 時 お よ び血 中 抗 体 価 の 報 告 時 に 水
象 と し て観 察 例 数 を増 や す と と もに観 察 期 間 も2
痘 ワ ク チ ン を接 種 した あ とで も周 囲 に 水 痘 の流 行
年 か ら4年 半 に 延 長 し,そ の 中 で み られ た 自然 水
が あ れ ば 軽 くか か る可 能 性 が あ る こ とを 説 明 し,
痘 発 症 例 に つ い て 報 告 す る.
発 症 率 調 査 へ の協 力 を 求 め た.発 症 率 は1989年4
方 法 と対 象
1984年10月 か ら,1987年3月
別 刷 請求 先:(〒113)文
月末 日 まで に な され た 患 者 の親 か らの報 告 に基 づ
の間 に 当 院 で 水 痘
い て集 計 した.
結
京 区本 駒込3-18-22
東 京 都 立 駒込 病 院 小 児科
高山
直秀
果
抗体獲得 率
感 染 症学 雑 誌
第64巻
第2号
水 痘 ワクチ ン接 種 後 の 自然 水 痘
当 院 に て1984年10月
∼1987年3月
うち 接 種 後 血 清 検 体 が 得 られ た の は27例 で,い ず
の2年 半 に 水
痘 ワ ク チ ン接 種 を受 け た16歳 未 満 の 者 は463名 で,
れ も抗 体 の 上 昇 が み られ た.
そ の うち再 接 種 を 受 け た30例 お よび ワ ク チ ン接 種
後3週
189
水 痘 発 症 者 お よび 発 症 率
以 内 に 水 痘 を発 症 した14例 を 除 い て,接 種
水痘 ワ ク チ ン接 種 後21日 以 内 に 発 疹 が 出 現 し,
前 後 の ペ ア血 清 が 得 られ た 者 は364例 で あ った.さ
水 痘 と診 断 され た者 が14名 い た(Table
らに 接 種 前 の血 清 抗 体 が 陰 性 で,接 種 後 血 清 抗 体
らの 小 児 は た ま た ま 自然 水 痘 の潜 伏 期 に ワ クチ ン
の上 昇 を 認 め た 者 は276名 で あ り,抗 体 獲 得 率 は
接 種 を 受 け た も の と考 え られ る が,ワ
83.1%で
の 翌 日 に 発 症 し た2例(Table2;症
例6037,
6301)と11日
除 い て,
あ った.(Table
1).再 接 種 を 受 け た 者 の
2).こ
れ
ク チ ン接 種
後 に発 症 した 例(6427)を
水 痘 の症 状 は いず れ も軽 症 な い し極 く軽 症 で あ っ
Table
1
Results
of vaccination
with
た.
varicella
vaccine
ワク チ ン接 種 後4週
現 し,水 痘 と診 断 され た 小 児 が35名 い た.そ
Vaccination period: from Oct. 1984 to Mar. 1987
Observation period: from Oct. 1984 to Apr. 1989
a) Total number of vaccinees younger than
ち,1名
16 years old: 463
は接 種 前 抗 体 が 陰 性 で,接 種 後 の 抗 体 価 も
8倍 以 下 で 陰 性 と判 定 され た.し
within 21 days after vaccination:
d) Pair serum samples except b) & c):
e) CNT antibody positive in preserum:
364 pairs
32
f)
CNT antibody
negative
332
g)
h)
CNT antibody
CNT antibody
positive in postserum:
negative in postserum:
i)
Conversion
in preserum:
あ り,そ の 発 症 率 は10.9%と
な る.し か し再 接 種
後 に抗 体 を 獲 得 した27名 の な か か らは 水 痘 発 症 者
276
56
が 出 て い な い の で,こ れ らを 集 計 に 入 れ る と,303
名 中 の発 症 者 が30名 とな り,発 症 率 は9.9%と
Table 2 Varicella cases observed in children previously receiving varicella vaccine (short-term group)
Ex.
day
Mild:
vesicles •…
temperature
平 成2年2月20日
体価 の
上 昇 が 認 め られ た276名 に お け る発 症 者 は30名 で
83.1%
d:
た が っ て,接 種
前 抗 体 陰 性 で ワク チ ン接 種 に よ りCNT抗
14
or
days,
n. t.:
Extremely
50, body
not
mild;
tested,
but
D. C. C.:
papules
temperature
> 38.0 •Ž,
のう
は 接 種 前 抗 体 が8倍 で 陽 性 で あ っ た.ま
た4名
b) Revaccination
cases: 30
c) Vacciness contracting varicella
rate:
間 以 上 を経 過 して 発 疹 が 出
&
s 38.0•Ž,
shorter
than
daycare
vesicles
Moderate;
2 days.
center,
20,
no
papules
K. G.:
fever,
Mild
& vesicles
kindergaten,
; papules
&
> 50, body
なっ
高山 直秀 他
190
た.
上 が2例
ワ クチ ン接 種 か ら発 症 ま で の 期 間
30名 の 発 症 者 に お け る ワク チ ン接 種 か ら発 症 ま
で の期 間 を み る と,最 短 が30日,最
月 で あ り,6ヵ
が5例,1年
月 未 満 が6例,6ヵ
月 以 上1年
3
Varicella
(long-term
m:
month
mild:
papules
Moderate;
1
ワク チ ン接 種 後 水 痘 の 症 状
未満
varicella
(s),
cases
発 症 者 に み られ た発 疹 は,そ
以 上2
以 上3年 未 満 が2例,3年
Table
ク チ ン接 種 後 の 抗 体 価 が 高
み られ な か った(Table3).
長 が3年2カ
以 上1.5年 未 満 が12例,1.5年
年 未 満 が3例,2年
で あ った.ワ
い 例 の ほ うが 発 症 ま で の 期 間 が長 い とい う傾 向 は
以
observed
の 数 が50個 を 超 え
る こ と は 少 な く,い ず れ も丘 疹 や 小 さ な 水 庖 で
あ った.ま
in children
た 水 庖 形 成 や 痂 皮 化 す る こ とな く消 退
previously
receiving
varicella
vaccine
group)
y:
year
& vesicles
papules
cutaneous
(s),
D. C. C.:
5_ 20, no
& vesicles
reaction
daycare
fever,
> 50,
center,
Mild
body
; papules
temperature
K .G.:
kindergarten,
& vesicles
s 50, body
> 38 .0•Ž,
but
shorter
Ex.
Mild
: Extremely
temperature
than
S 38 .0 •Ž,
2 days.
(mm)
感染 症 学 雑誌
第64巻
第2号
水 痘 ワクチ ン接 種後 の 自然 水痘
Fig.
1
Case 5926 had about
40 papules
her back one year and two months
tion. Few vesicles
contraction
mainly
after
on
vaccina-
was found
昇 が 認 め られ た.な お 帯 状 庖 疹 を発 症 した 例 は な
か った.
were seen. The CNT titer after
of disease
191
兄 弟 ワ ク チ ン同 時 接 種 例 で の 水 痘 発 症
to be 1: 8192.
水 痘 ワ ク チ ン を 兄 弟 で 同時 に 接 種 し,接 種 前 後
の ペ ア血 清 が 得 られ た 例 が67組 あ った.そ
ろ って
抗 体 を獲 得 した 組 が43あ り,そ の うち兄 弟 が ほ ぼ
同 時 に 水 痘 を 発 症 し た 例 は1組
(Table4;症
だ け で あ った
例6236, 6237).兄 弟 の一 方 が 接 種 後
5日 で 水 痘 を発 症 し,他 方 が1年5ヵ
した組 もあ った(Table4;症
月 後 に発 症
例6109,
6110).同
胞 間 で 感 染 し,発 症 した と思 わ れ る例 は1例
にす
ぎ な か った(Table4;症
弟を
例6391,
6392).兄
個 別 に み る と,抗 体 陽 転 例 は104名 で,う ち 水 痘 発
症 例 は14名,発
症 率 は13.5%で
考
あ った.
案
我 々 の 今 回 の調 査 で は 発 症 率 を 算 定 す る母 数 を
どれ に とる か で 数 字 に若 干 の 相 違 が で るが,発 症
率 は9.9∼10.9%で,62年3月
Fig. 2
ten
Case 6314 had 25 papules
months
after
after
contraction
vaccination.
of disease
The
CNT
発 症 率 は調 査 の 期 間 と方 法 に よ っ て 差 が 出 る と
titer
than
い う観
察 結 果 と比 較 して 約2.5倍 の高 率 で あ っ た.
and seven vesicles
was higher
まで の4%と
1:
1024.
考 え られ る.こ れ ま で の報 告 で は ワ クチ ン後 の 水
痘 発 症 率 を4%以
5),こ
下 と し た も の が 多 い が(Table
れ らは2年 未 満 の調 査 期 間 で発 症 率 を 算 出
して い るた め で あ ろ う.ま た 我 々 も含 め て,患 者
か らの 報 告 を持 つ 受 動 的 な調 査 方 法 を と って い る
場 合 に は,実 際 の 発 症 率 よ りも低 く算 定 す る可 能
性 が あ る.よ
り正 確 な発 症 率 を 算 定 す るた め に は
接 種 者 へ の 聞 き取 り調 査 を長 期 間 にわ た り続 け る
必 要 が あ ろ う.今 回 の 調 査 で は 帯 状 痕 疹 発 症 例 は
み られ な か った が,す で に水 痘 ワ ク チ ン接 種 を 受
けた 健 康 小 児 の な か か ら も帯 状 庖 疹 例 の発 生 が 報
告 さ れ て い る11)12)の
で,こ
の 点 に 関 して も長 期 の
追 跡 調 査 が 必 要 で あ ろ う.
水 痘 ワ クチ ン接 種 に よ り抗 体 を 獲 得 し た こ とが
明 ら か な 小 児 に お い て も接 種 後3年
以 内 に 約1割
の 被 接 種 者 が 軽 症 自然 水 痘 を 発 症 して い る こ とが
判 明 した.こ
す る 発 疹 が 多 く,療
痕 を 残 す も の は 少 数 で,通
常
の 自 然 水 痘 に 比 べ て 症 状 が 軽 微 で あ っ た(Table
3,Fig-1,2).ま
例 で は,追
た 発 症 後 に 血 清 検 体 が 得 られ た
加 免 疫 効 果 と考 え ら れ るCNT価
平 成2年2月20日
の上
の こ とか ら水 痘 ワ クチ ン に よ って 獲i
得 され る免 疫 はVZV自
然 感 染 に よ る発 症 を 完 全
に 阻 止 す る ほ ど強 力 な もの で は な い と判 断 さ れ
る.以 前 自然 水 痘 に罹 患 した 健 康 成 人 で も水 痘 の
不 顕 性 感 染 を 受 け る こ とが血 清 学 的 に 明 らか に さ
高山 直秀 他
192
Table
4
Varicella
cases
observed
in siblings
receiving
varicella
vaccine
at the same
time.
m:
month
mild;
(s),
papules
Moderate;
shorter
1
y:
year
papules
than
varicella
(s),
& vesicles
D. C. C.:
20, no
& vesices
daycare
fever,
Mild;
> 50, body
K. G.:
papules
& vesicles •…
temperature
> 38.0 •Ž
kindergarten
, Ex.
50, body
Mild
: Extremely
temperature
< 38.0 •Ž
,
, but
2 days.
cutaneous
Table
5
reaction
Attack
varicella
H. C.: healthy
(mm)
rates
of varicella
among
children
previosly
receiving
vaccine
children,
H. A.:
helthy
adults
VZVに
れ て い る13).
さ ら にVZV再
center,
感 染 が顕 性 に な った 健 康 成 人 例
も 報 告 さ れ て い る14).し た が っ て,ワ ク チ ン 接 種 後
曝 露 され な が ら 自然 水 痘 を 発 症 し な か っ
た 子 供 た ち は,ワ
い うち にVZVの
ク チ ン接 種 後 免 疫 が あ る程 度 強
不 顕 性 感 染 を 受 け,追 加 免 疫 効
感 染 症学 雑 誌
第64巻
第2号
水 痘 ワク チ ン接種 後 の 自然水 痘
果 を得 て いた とい う こ と も推 定 で き る.し か し 自
然 水 痘 罹 患 者 がVZVの
再感染 を受 けて発症 す る
機 序 は 不 明 で あ り,水 痘 ワ ク チ ン 接 種 後 血 清
CNT抗
体 の 上 昇 を み た 者 が 自然 水 痘 を 発 症 す る
機 序 も不 明 で あ る.こ れ らの解 明 が,現 在 の 水 痘
ワ ク チ ン を 評 価 す る うえで も,ワ ク チ ン接 種 方 式
の検 討 を行 う うえ で も必 要 で あ ろ う.
な お,水 痘 ワク チ ン接 種 に際 して は,接 種 希 望
者 に ワク チ ン接 種 後 に も水 痘 を発 症 す る可 能 性 の
あ る こ とを十 分 に説 明 す るべ き で あ る.
謝辞:水 痘 ワクチンおよび水痘皮内反応液 を分与下 さい
ました大 阪大学微生物病研究所高橋理明教授 に深謝いた し
ます.
文
1) Arberter,
献
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南 谷 幹 夫,高
南 谷 幹 夫,
12:
高 山 道 子 二健 康 児 に 対 す る
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高山 直秀 他
194
Mild
Varicella
observed
Vaccine
in Children
vaccinated
with
between
1984 and 1987
Varicella
Naohide TAKAYAMA & Mikio MINAMITANI
Tokyo Metropolitan Komagome Hospital
We investigated varicella cases developed in children who received varicella vaccine in the period
from October 1984 to March 1987.In this period 463 children were vaccinated and 334 of the vaccinees
were seronegative before injection. Seroconversion was observed in 276 seronegative vaccinees
producing a seroconversion rate of 83.1%.Thirty-five children developed exanthem more than 4 weeks
after the vaccination and were diagnosed as varicella.Among them one child was found to be antibodypositive in his preserum and five were seronegative in both their pre- and post-sera.Thus,among the
children who were seroconverted by the vaccination only 30 had varicella (the attack rate=10.9%).No
varicella cases were reported, however, among 27 children who first became seropoitive after
revaccination.When these children were added to the seroconverted ones, the caserate amounted to
9.9%(30/303).
The general symptoms of varicella observed in the vaccinated children were mild or extremely
mild,so varicella vaccine is reasonably indicated to be efficient and useful although it could no
completely protect the vaccinees from natural varicella.
感染症学雑誌
第64巻 第2号